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変な星でツッコミ生活!?  作者: 神離人
本編:新しき地球への帰還
66/85

十話 長年の故郷星 ~信仰の一族

@悟視点@


冬の寒さに雪が上乗せされる今日この頃。雑魚ベー救出作戦からもう2日経ったことを思うと時間の進みの早さを実感するぜ。なんせ昨日は特星本部への報告で1日潰れちまったからなー。聞かれることが多すぎて聞いた話はほとんど覚えてねーや。


「ま、ようやく解放されたんだ。今日は色々聞く側に回るとするか」


とはいえ、一番事態を把握してそうな特星本部が臨時休業で来週まで閉まってるからな。昨日みたいに関係者なら入れるかもしれないし、大事なことを言い忘れてたって感じで話聞きに行くか?ってか、ボケ役俺の話聞こえてるー?


〔おーう……。聞きたくなくても聞こえてるよ。ツッコミ役の見張りを任されちゃったから、昨日の朝からずっとお前の心の声を聞き続けてるんだ……〕


へー、そりゃよかったな。じゃあ特星本部内でわかってることを全部話してもらおうか!


〔話せることならな。何について聞きたいんだ?〕


聞きたいことか……。一応、偽正者に逃げられて黒天利とテーナを捕まえたことは知ってるんだよ。雑魚ベーを救出できたことも既に聞いてるし。あまり知らないのはドラゴンのことくらいか?


〔電子界とやらにいたドラゴンのことか?そこには特殊能力通じないから具体的なことまではわからないが、信仰生物連中を地球に送り出したのはそのドラゴンで間違いないそうだ。だが、基本的に地球で起きた事件には関わっちゃいないな〕


俺の知ってることと大差ない訳か。ならあいつは客にいきなり襲い掛かって手下にしようとしてたヤベー生き物ってことじゃん。……そもそも事件の首謀者は誰なんだ?


〔えっとなー。まず今回の地球旅行で起こった事件は1つじゃねーのよ。本件の事件らしい事件といえば、【ドラゴンによる信仰生物発生】【正者の勢力圏拡大】【正者による特星へのロケット射出】【テーナのテレビ局襲撃】【テーナによる雑魚ベー誘拐】【黒天利の特殊能力妨害】【黒天利による地球人の行動制御】【テーナと黒天利の放映番組乗っ取り】【正者の警察騒ぎ】【正者の逃亡】【テーナによる地球エネルギー吸収未遂】【黒天利による水害】【電子界の詳細発覚】……ざっと時系列順に並べてみただけでもこんな感じで複雑なんだ〕


こうして聞くと、いかに信仰生物たちが地球で大暴れしてたかがよくわかるな。これなら俺らが仮に問題を起こしても全部信仰生物のせいにできるんじゃないか?


〔バーカ。とっくにしてるからそのラインナップなんだよ!ま、ツッコミ役が睨まれると俺も好き勝手動きにくくなっちまうからな!感謝してくれちゃっていいんだぜー?〕


その言い方だと、まるで俺が問題を起こしたみたいに聞こえるぜ。信仰生物の親玉を倒した俺になんの問題があったっていうんだ。


〔児童誘拐容疑で大々的にテレビ放映されただろーがっ!あの長髪と一緒によ!何ならお前らの放映が一番もみ消すのが大変だったんだからな!特星本部長が地球上の記憶も記録も書き換えて、俺が全ての辻褄合わせをする羽目になったし……〕


特星本部長といえば御衣か。別に俺はそれほど御衣と仲いい訳でもないと思うんだが、そんな俺に不正してまで協力しているってことはだ。やっぱり俺の主人公としての力に期待してるってわけだな!ふふふ、上に立つ人間は人を見る目ができてやがるな!


〔親友の為だとか言ってた気が……。まあ、事件の流れや犯人はこれで分かっただろ。他に聞きたいことは?〕


ちょっと待てよ、落ち着いて考えてみることにする。




……俺って当事者だし事件の大方の流れは既に分かっているんだよな。どちらかといえば各犯人の動機とか手を組んでた理由がよくわからん。なぜか正者辺りは仲間割れしてたようだし。黒天利だけは俺と戦うのが目的ってことはわかってるが他二人はどうにも。


〔いーや。実はその黒天利もツッコミ役との戦いだけが目的ってわけじゃなさそうだぜ。ていうか黒天利の記憶を覗いたらツッコミ役にも説明してたけど……〕


え、そうだっけか。黒天利の話長かったから大事なこと以外ちっとも記憶に残ってないんだよな。で、主人公との勝負よりも大切な目的ってのは?


〔どうやら黒天利は、正者が地球で築き上げた地位を全て奪う予定だったらしい。舞台の特殊能力で居なくなった正者を演出し、利権を乗っ取ろうとしていたんだ〕


あー、そういえば黒天利が小悪党化した後にそんなこと言ってたかも。ラスボスらしくない内容だから印象薄かったんだな。……ま、確かにその内容ならテーナに協力する理由はない訳だ。ましてや主人公を敵に回したところで悪党らしく敗北するだけだろうぜ。


〔ああいや、黒天利の目的にテーナの協力は必要不可欠なんだ。……黒天利は舞台構築のために地球のエネルギーを利用しようとしていた。でもあいつは地球からエネルギーを吸収する方法を持ち合わせていないから、その辺を正者の開発力かテーナの魔法に任せようとしていたのさ〕


ふーん。テーナとは協力してる感があったからまあわかるが。地下都市を奪う予定の正者にも、そのためのエネルギー集めをやらせるつもりだったんだな。


〔そうそう。で、どちらかが方法を確立したらテーナを仕向けて正者を始末。後は地球のエネルギーを使うことで地下都市の建設範囲を舞台の力で覆い尽くす。最後に地下都市計画を推進することで、全人類を地下舞台にさえ送り込めばあとは特殊能力の射程内だ。人々を思うがままに舞台で舞わせ、奴の人生は安泰……ハッピーエンドって寸法さ〕


お、おお~。そういう風に言われてみるとちょっと凄そうに聞こえてくるな。目的の割にやり口が複雑っていうか回りくどいから全然ラスボスらしくはないけど。


〔ただ、この計画は黒天利が特殊能力を手に入れてから思いついたものなんだ。あいつが特星にやってきたのはわずか数年前。正者・テーナのふたりと組んでやるはずだった計画を捨てて、黒天利はその甘く見積もった計画を本目標としてしまったのさ〕


確か、正者やテーナと組んだのは特星が完成した頃だと黒天利が言ってたな。数年前まで本来の目的のために動いてたとすると、数十年近く掛かった大計画を手放したってことになる。それほどの価値が正者の地下都市にあるっていうのか?


〔地下都市は舞台作りの手段だってば。目的は人類掌握からの安泰生活だよ〕


その安泰生活ってのがどうにも天利らしくなくてさ。地下都市奪取の話が出るまではホントに違和感なかったんだけどな。なんであんなに小物っぽくなっちまったんだろ。


〔当然ながら信仰生物は本物とは別個体だからな。信仰生物としての自我から別の道を辿ったり、今の地球生活が考え方に影響を及ぼすこともある。……黒天利の生まれた時期が特星完成頃と考えれば、かなりの年月を地球で過ごしてる訳だしな〕


信仰の影響は大きいが人間らしい部分もあるってわけか。まあそれなら天利と別人みたいになるのも仕方ないのかもしれないな。


〔話を戻すぜ。黒天利にはテーナや正者と組んで行うはずだった本来の目的があった!それは天利の記憶から引き継いだ、天利が叶えようとしていた目的!魔法少女として主人公であるツッコミ役と決着をつけることだったんだ!〕


あ、ああ。それは大方予想付いてたけど、魔法少女としてって部分は何なんだよ……。そこは普通悟ンジャーの総帥王としての決着を望むべきじゃ?


〔知ってるかツッコミ役。天利自身はそこまで悟ンジャーに固執してるわけじゃないんだぜ〕


え、ええええっ!?あんなに完璧に悪の総帥王としての立ち振る舞いができてるってのに!?心の底まで総帥王に染まり切ってないってのか!?


〔あ、ああうん。結構前の天利戦のときにも話したと思うが、悟ンジャーの活動ってのはコート神である俺の信仰を得るために始めたものなんだ。企画者は俺と皇神。……天利は主人公のお前と対決するために総帥王として参加していたが、本来あいつは魔法少女のラスボスになることを夢見ていたのさ。正直、総帥王のがはまり役だと思うけどな〕


俺も天利は総帥王として悪行を尽くしてる方がカッコいいと思う。でも、よくあの天利が自分の意見を譲歩して総帥王をやる気になってくれたな。こう言っちゃなんだが、天利は自分のやりたいことに協力させることはあっても、他人には絶対協力しないタイプだと思ってたよ。


〔そういうタイプだよ。ま、そういう訳で黒天利は最初はツッコミ役と戦う気だったそうだ。それが地球で過ごす内……というより特星で特殊能力を得てからだな。黒天利は地下都市奪取という新たな目標を手に入れたという訳だ〕


確かにさっき地下都市を奪う目標を聞いたときには割と行けそうな感じはあったけど。でも、だとしても特殊能力を手に入れたくらいで主人公との対決を諦めきれるものなのか?


〔力を得たことで生き方が変わるってのはあるんじゃないか?あと、特星に来ていた黒天利は不慮の形でツッコミ役と戦うことになったからな。そこで主人公とラスボス対決の熱が冷めたのかも〕


黒天利と初めて戦ったのは帝国でのことだったな。そういやボケ役もあのとき居たけど、……信仰とは別の人気とかの力が云々って言ってなかったっけ?


〔う……。あ、あれはオーラで感じた印象を言っただけだしー。それにあの時点で夢の特殊能力使って調べてたら今回の勝負を潰すことになってたからなー!夢の使い手としては意識せずにその辺配慮しちゃうのさ、うん〕


別に間違えたからって気にしてないぜ。ふと思い出したけど矛盾点あったからとりあえず言っとくかーくらいのノリだし。正しかったところで大した話でもないからな。


〔お前たまに酷いこと言うよな。ふーんだ〕




〔……まあ、黒天利の目的はそんなところだ。顛末としては、昨日特星本部で天利と戦ってボロ負けしていたな。今は特星内の居住区に住居申請中だ。場所は非公開扱い〕


黒天利の目的はわかったよ。……さて、じゃあここからが問題だ。残りふたり……偽正者とテーナは直接倒してないから謎が多い。次は偽正者だ!偽正者の目的とかその辺を聞かせてもらおうか!


〔正者か。信仰生物の正者のことは夢の力で判明してるぜ。奴の目的は全てを超越すること……力を欲していたみたいだな〕


力か。いやまああの性格ならわからなくもないんだが、その割にはなんていうか……あいつ特星に興味なさそうだったぜ。特星に来れば簡単に特殊能力って力を得られるのに、なぜか地球にこだわってたみたいだし。


〔やり方へのこだわりは単純に信仰の問題だな。正者へのイメージが戦闘に強い男というより、戦闘を介さず裏でこそこそと日本征服してそうってイメージだったんだろう〕


……言われてみれば、元となった正者は地球でそういう感じに報道されてた気がするな。実際に会った正者なんかは噂で聞いてたよりも余程正者っぽさが滲み出てたし。信仰生物たち全員、偽物と言われなけりゃ本物と見分けがつかないほど本人の特徴掴んでるよな。黒天利の目標変更みたいな例外もあるにはあるけど。


〔ま、そういう信仰の影響もあって瞑宰県を中心に経済面で力をつけていたようだ。瞑宰県のテレビ局長を裏で操り、そいつを地下都市計画の第一人者にまで仕立て上げた。他にも政財界にも手回ししていて、空中の地価制度制定を後押ししてたみたいだな〕


空中の地価ってのは地球でも聞いた話だな。でも建物なんて地面の上に建てるわけだし、わざわざ空中なんかの土地売ったって誰も買わねーだろ。


〔安値で空中の土地を買い叩いて、高層ビルを建てたい奴らとか制空権がほしい奴らに高値で売りつけるつもりだったみたいだ。過去には地下都市開発前に地下の土地制度を改定させて、同じような方法で売りつけて大儲けしているぜ〕


ふーん。まあ実際に戦った感じでもそういう小賢しい戦法が得意そうだったからな。地球での金に頼った戦いは偽正者の得意分野だった訳か。


〔やってることも戦闘能力も全然大したことのない奴なんだが、特星への影響力が一番大きいってのが正者の特徴ともいえる。本物の正者が引き起こしたエイプリル大恐慌は、特星に住む地球出身の大人たちの生活をぶち壊してるわけだからな。……事件の主犯格3人の中で、唯一正者だけは身内以外からも注目されていたんだ。無断渡航で正者討伐しようとする輩も何人かいたらしいぜ〕


すげー恨まれてるってことか。そういう話を聞いてると校長とかは大丈夫か心配になってくるな。唯一信仰生物に逃げられて、その相手が偽正者なわけだし。……でもよく考えたら、あの校長に失うものがある訳ないか。




〔正者についてはこんなところだ。異世界やマジックアイテム周りについては本体なしじゃ追うのは無理だったよ。電子界に入って以降のこともわからん〕


特殊能力では追えないのが電子界だからな。……あ、でも俺が電子界に入ったときは普通に特殊能力を使うことができてたぜ。特殊能力の持ち込みはできるんじゃないのか?


〔ええっ?どれどれ?…………いや、今試してみたが夢一つ入り込む余地はないぜ。信仰をほとんど失った神でようやく入り込めるほど電子界は1個体に対するエネルギーの許容量が少ない。もしも本物の特殊能力を持ち込めていたなら、電子界に留まっているドラゴンくらいは多分一撃で倒せるはずさ〕


そういえば、電子界ではエクサスターガンが光線銃のおもちゃになってたな。水鉄砲もコートも俺が持っていたものとは別物だった。……まさか特殊能力も本物だと思い込まされていただけで偽物だったってわけか?


〔そういうことになる。本物を持ち込めない代わりに、本物そっくりの電子界用アイテムや能力で代用する感じの世界なんだろう。唯一こっち側の素材でできてるのは信仰の体くらいじゃねーかな〕


わざわざ信仰捨てなきゃ入れないし、入ったところで普段使うものは持ち込めずに弱体化される。……何て不便な世界なんだ。


〔ところで次はテーナのことを話す流れだったけどさ。実は、信仰体のテーナについては俺もよくわかってないんだよ〕


よくわかってない?でもテーナは特星本部で引き取ったって話じゃなかったっけ?


〔そこまでの話は俺も聞いてるよ。でもなんか特星本部長の御衣が直々に話を聞いてるみたいでさ。特殊能力で色々調べようとしてもかき消されるから、情報が入ってこないんだよな。……それに昨日、話を聞くために雑魚ベーが特星本部に呼ばれたんだが。その際、雑魚ベーがテーナとの面会を希望したんだが本部長権限で拒否されたらしい〕


本部長権限ってことは御衣が止めたってこと?俺は特星本部の事情には詳しくねーんだけど、面会のこととかも本部長権限で決めるものなのか?


〔特星本部に入ってくる問題は一応全部権限で介入できる筈だ。もっともあの本部長の特殊能力なら権限を使わなくても個人で密かに介入できるだろうな。……わざわざ権限を使って介入したってことは、特星本部長としてテーナと面会していると暗に伝えているのさ〕


御衣は希求と同じくらいの実力者のはずだし、面会について伝えることも本当なら特殊能力で済ますことができるだろうからな。あえて特殊能力に頼らないやり方を選択してるのか。


〔表立って動くなんて一体何をするつもりなんだろうな。……ま、そういうわけでテーナに関することは俺でもわからず仕舞いってわけだ。気になるなら追い返された雑魚ベーにでも話聞くのが手っ取り早いんじゃねーかな〕


まあ偽物の手がかりを探せないなら本物のテーナについて調べることになるよな。ボケ役は本物については調べたのか?


〔異世界を渡り歩いてるから流石に追いきれないな。雑魚ベーの夢データまでは一応調べてみたんだが、会ってた時期が昔過ぎるのかほとんど情報は得られなかった〕


へっ、万能そうなボケ役の特殊能力にも思わぬ弱点があったようだな。なら俺が巧みな会話術で無理にでもテーナのことを聞き出してやるよ。雑魚ベーには誘拐されたときのことも聞きたいし。


〔ま、期待しないで聞いておくよ。俺の特殊能力よりも優れた会話術だといいけどな〕


よーし次は神社だ。雑魚ベーには気の毒だが、昨日特星本部で話したことをもう一回話してもらおう!




毬の島にある勇者社のワープ装置の近くにて。雑魚ベーに会いに行くところだったが見覚えのある顔に遭遇してしまった。盗賊、錬金術師、ゲージの師匠と何が本業かわからないドラゴン……皿々だ!


「いつだったかの水鉄砲男じゃないの。やだ、不吉な奴に会っちゃったわ」


「……そういえば、こいつにも野暮用があったな」


「こっちにはないよ。痛い目見たくなければ今すぐ失せることね!」


昨日が多忙過ぎてすっかり忘れてたが、電子界のドラゴンからこいつを連れてくるように頼まれてたんだった。丁度いいや、遭遇ついでにさっさと用件を伝えておくか。


「おいお前、電子界って知ってるよな?」


「む?そりゃまあ知ってるけど。あんたこそ何でその名を?」


「そこに居たドラゴンからお前を呼んでくれって頼まれてんだ」


「どのドラゴンよ……。あ、いや待てよ。今電子界に居るドラゴンってことは、まさかアキア?」


「名前までは知らねーな。でも俺が電子界で見たのはあのドラゴンだけだ。信仰生物の誕生を早めてお前を探していたみたいだぜ」


「ああ、やっぱりあいつかぁ~。アキアのやつ、まーだ電子界に閉じ込められていたんだねぇ」


「まだ閉じ込められてる?あのドラゴン出られないのか?」


「ジパンレイドラゴンのアキナキア……通称アキア。電子界に居たドラゴン達の中でも最弱といえるエネルギー量しか持ち合わせていないドラゴンよ。弱さ故にあの事件が起きたときも唯一電子界に踏み留まることができた。……でも電子界に通じる出入り口のエネルギー許容量は更に小さく、アキアは電子界に閉じ込められたってわけ」


おいおい、ようやく特星まで帰ってこれたってのにまた外の厄介事に巻き込まれるのかよ。エネルギーの許容量とやらが小さいと……信仰のほとんどない体でしか入れないんだっけ。おい、ボケ役は電子界のことについて何か知らないのか?


〔聞いたこともないな。そもそも俺は地球生まれで地球育ちの元コート神だぜ。電子界には行ったこともねーし特殊能力も通らないから調べようがないのさ〕


「んー。……とりあえず、お前の方から電子界に行ってやってくれねーか。お前を探すために信仰生物を作り出してるとかで色々問題が起きてんだよ」


「ヤダよ。確かにあいつとは再会の約束はしてたけどさー。もう100年近くも昔のことだし、今更あんな弱い奴の相手してる暇ないんだよね」


「ええー。お前あいつと友達……ではないにしても顔見知りなんだろ。ちょっとくらい会ってやってもいいじゃないか」


「友達だけどアキアは弱いからねぇ。……あたいが今注目してるのはアルテだけさ。ドラゴンたるもの強い友達が何かしようってときには優先的に手助けしてやらないとね」


「へっ、ドラゴンは弱者に厳しいんだな。だが、雑魚でもいつかは強くなるかもしれないぜ?」


「なら強くなってから呼ぶことだね。……てか、どの道あたいじゃ電子界には入れないよ?今の電子界は余程エネルギーの少ない奴じゃないと入れないはずだし。むしろ人間とはいえ、あたいと戦えるあんたがよくもまあ電子界の入り口を通り抜けることができたわね。……それとも何か別の方法でアキアと話したとか?」


ああ、そうか!よく考えたら電子界って信仰生物しか入れないから、皿々連れて行くなんて初めから無理じゃねーか!く、連れてきてくれとか言うから何か方法を用意してるのかと思ったが。


「い、いやそうだ!そいつから電子界に繋がる魔鏡を貰ったんだった!今、俺の部屋に置いてあるからそれを使って向かうことはできないのか?」


「おや、あたいが飛び込んで壊しちゃっていいの?残念ながら、そんなので通れるなら多分アキアは自力で外に出てるよ。まあ、そんなにあいつのことが心配なら神でも見つけて半殺しにして送りつけとけばいいんじゃない?見たことないけど特星にも神がいるらしいわよ」


「そりゃ俺だよ」


「ふーん。もしそれが本当ならあんたが通って機嫌取ってれば解決じゃないの」


「ま、マジかよ。なんで俺がそんな面倒ごとを……」


「くくく、あたいの手を煩わせるという無謀を犯さずに済んでよかったねぇ。じゃ、あたいは子供たちの勧誘で忙しいからもう行くよ。……あーあ、絶対攫う方が手っ取り早いのになぁ」


皿々は去り際に愚痴を言いながらワープ装置で姿を消す。……皿々の奴、アルテの手伝いをしてるのか?確かに帝国でよく見かけたしアルテとも会ってたが、とてもじゃないが他人の手伝いをするような奴には思えないんだけどな。何か手伝う理由でもあるのかな?


〔……あれ?防がれただと?〕


ん、どうしたボケ役?


〔いや。気になったから皿々の夢データを読もうとしたんだけどよ。見覚えのあるやり口で防がれちまった。……し、しかも帝国と関係の深い奴らのほとんどからデータが取れない!?どういうつもりだ、一体いつの間に?〕


急な話でよくわからないけど、見覚えあるってことは犯人も大方見当がつくんじゃないか?お前の特殊能力を妨害できる奴なんてそう多くはないだろうし。


〔この夢の止め方は間違いない。テーナを調べようとしたときと同じ御衣の特殊能力による妨害だ!だが特星本部長がどうして俺の邪魔をするような真似を?〕


まあ、お前いつも他人の個人情報ばっか盗み見てるからな。口も軽いし。夢を規制してくれって帝国関係者から要請が来て、一部規制したんじゃないのか?


〔んなバカなこと……。こうなったら仕方ねーな。ツッコミ役の見張りはできなくなるが、特星本部に直接潜入して御衣の目的を探るしかなさそうだな!〕


それはいいアイディアだな。俺もボケ役にずっと聞き耳立てられてると思うと集中できないし。相手が相手だから、能力勝負になったら多分勝てなさそうだなーって不安点はあるけど。


〔へっ、使わせなきゃいいだけのことさ。まあ見てな、夢は俺の領分だってはっきりさせてやるからよ。俺が見てない間に悪いことするなよー〕


…………ま、どう考えてもボケ役のが分が悪いけどな。御衣は希求くらい強いだろうし。でもこれでボケ役を気にすることなく色々聞いて回ることができそうだ。別にこっそり聞かれてる分にはいいんだけどなー。ずっと聞かれてるとか言われるとつい気になっちまうんだよな。


「さてじゃあ神社に行くか」


勇者社内っていう思わぬところで話を聞くことになったが、本来の目的地はアミュリー神社だからな。雑魚ベーの奴いるかな。話聞けるといいんだけど。




「え、皿々もここに来てたのか」


アミュリー神社に到着した俺は無事雑魚ベーと遭遇することができた。で、どうやら皿々がさっきまで来ていたらしく二連続での客対応だそうだ。だからあいつ毬の島の勇者社に居たんだな。


「ちなみに雨双さんは買い物中ですよぉっ!事情聴取とかもあったから休んでろって言われたんですけど、これなら買い物に行ってた方が楽だったかもしれませんねぇ」


「皿々はともかく俺の相手なら気楽なもんだろ。休憩のつもりで知ってることを話せばいいだけだよ。まあ、折角お前が無事に帰ったんだ。飲み物とかお菓子は準備してやるから休んでな」


「お、気が利きますねぇ。……って、そのお菓子は雨双さんのやつじゃ」


「いいじゃんいいじゃん。雨双もお前に気を使って買い物に行くくらい心配してんだ。その大量のお菓子もきっと生還祝いのために用意していたんだよ。ちょっと先に味見しようぜ」


「そ、そうですかねぇ?じゃあ少しだけ……」


「おう。……ボケ役から来た話なんだが、テーナに会えなかったんだって?」


「む……んぐ。実はそうなんですよねぇ。昨日特星本部に呼ばれたときに御衣さんにお願いしたんですけど断られちゃって。テーナさんが会うのを拒んでいるからって」


「え、テーナが拒んでるのか?」


「そうらしいですよぉっ。だから御衣さんの本部長権限によって拒否すると」


テーナが面会断ってるってのはボケ役の話にはなかった情報だな。夢データとやらには載ってなかったのか、それともボケ役が隠していたのか。……いやでも、そもそもの話どうしてテーナは雑魚ベーと会うことを拒んでいるんだ?攫うほど雑魚ベーのことが好きなはずじゃなかったのか?


「理由は聞いたのか?」


「それがさっぱりでしてねぇ。犯人が信仰生物のテーナさんだとは聞いているんですけど。信仰生物なんて私の世界じゃ見たことありませんし。記憶を引き継いだ偽物が本物とどう違うのか……」


「要するに偽テーナだろ。確か本物が天才魔法使いなんだっけか。お前たちの異世界だと単独物質の怪人がやたら強かったし、テーナの信仰生物ならやっぱり強いんだろうな」


「雨双さんの話では羽双さんの攻撃が一切通じなかったらしいですよぉ~?悟さんが戦ってたら負けてたんじゃないですかねぇ!」


げっ、羽双の攻撃が通じなかったのか!?あいつの攻撃は特星の不老不死オーラをも貫通する常人最強クラスの一撃のはずだろ。エクサバーストも弾くよな……。ひえー、テーナと対峙したときにあの場に残らなくてよかった~。


「俺はテーナとは戦わなかったから具体的な話を聞きに来たんだよ。でもよく考えたら雨双の方が偽に直接会ってるから詳しそうだな。まあ居ないけど」


「私が知ってるのは本物だけですからねぇ。あ、でも雨双さんの話を聞いてた感じだと、とても本物のテーナさんと同一人物じゃなさそうな印象でしたよ。性格とか」


「え!?そうなのか?犯行予告の映像を見た感じテーナっぽいと思ったんだけどな。強そうな妹感あったし」


「犯行予告の映像……ってなんですか?ま、まさかテーナさんが映っているんですか!?」


「……雑魚ベー見てないのか?テーナがお前を攫った後にテレビ局の電波をジャックして流したビデオ映像だよ。日本のテレビで流れてたらしいぜ」


「は、初耳ですよぉっ!あの人やっぱり子供のままでしたか!?それとも年寄り!?」


「子供だったよ。だが信仰生物が本物と同じ姿とは限らないぜ。黒天利のように過去のものとなった姿で出てくる場合もある」


確か黒天利の場合は、姿を変えたときに過去の天利への信仰が行き場を失い、その行き場のない信仰が信仰生物になったんだか使われたんだかで黒天利化したって話だったはずだ。本物のテーナが生きているならむしろ映像のテーナの姿は失われているんじゃねーかな。黒天利と同じ過程で生まれたならの話だが。……で、その生まれる速度を上げていたのが電子界のドラゴンだ。


それよりもどうして特星本部側はテーナの犯行予告の映像を雑魚ベーに見せてないんだ?テーナの本人確認は特殊能力でするにしても、なんかこう、違和感に感じる部分を聞いて証拠集めをして真相を暴いたりとかそういう展開になるもんじゃないのか?……いやでも特殊能力で全部解決できそうだな。


「まあ御衣の特殊能力ならお前に話を聞くまでもないってことさ」


「むむむむ……。私の方にだって聞きたいことは沢山あるんですけどねぇ。これがお役所仕事ってやつですかねぇ」


「映像も実物も同じ姿だったけどな。あ、でもどっちもメインショット領の記述師と同じ素材のローブをつけてたな!お前の故郷の服を着てるってことは……まさか本物か?」


「記述師……タナレーラさんと同じ素材のローブを?」


「サイズは子供用だったけどな。ただ実際会ったときの素材は同じもので間違いないぜ。だが本物が持ち出したものなのか偽物が記憶頼りに手に入れたものなのか。……どっちのが可能性高いんだ?」


く、これじゃあ前に正者を探してたときと同じじゃねえか。行方不明のテーナの存在がどうしても頭に浮かんでくるが、考えても確定しようがないのも前と同じ。……前は特星側で正者の安否がわかってたが、今回は安否不明のままだから前回以上に厳しいが。


「いえ、無難に考えましょう悟さん。……私は話を聞いた感じ、性格的に本物のテーナさんということは絶対ないと思います。加えて、偽テーナさんは大メインショット郷国の特製ローブを着ていました」


「特製ローブだと……?あっ!」


「そう、悟さんもタナレーラさんから聞いていた筈です!彼女のローブは昔に王から送られた特製品……同じものは世界に二つとないということを!悟さんがローブ姿を見たのは私が故郷帰りした去年の新年……そしてタナレーラさんは逃げるときにローブを身に付けてはいなかった!」


「ああ。もしもタナレーラが逃げるときにローブを装備してたら主人公の俺が気づくが、実際は気づかなかったからな。じゃあ身に付けてないってことだ」


「ローブの行方はメインショット城の記述師ルームの中でしょう。しかし本物のテーナさんはずっと昔に行方不明状態です。ローブの行方を知っているということはありませんよぉっ!」


「だ、だけどそれだとおかしいぜ。偽物のテーナは本物のテーナの記憶を引き継いでいるからローブを手に入れられる可能性があったんだ。本物がローブの行方を知らないとなると……偽物も特製ローブを手に入れる手段がなくなっちまう!まさか記述師のローブの話に食いついておいて、今更関係なかったって展開じゃないだろうな?」


「いいえ。偽テーナさんのローブ素材は間違いなく特製ローブのものですよぉっ!タナレーラさんのローブが世界に唯一といわれるのは布繊維が特別だからです。素材があるのならそれこそ特星にでも持っていけば2つ目の本物が作れてしまいますからねぇ。特星暮らしの経験があるタナレーラさんがそれでもなお世界に唯一と言ったのはそこが理由です。……あのローブの素材はあれで全てだからですよぉっ!」


「そ、そんなにレアだったのか!記述師のローブ素材!」


く、こんなことなら大メインショット郷国を出るときにローブだけでも貰っておけばよかった!そうすれば俺のコートが世界に唯一のスペシャルコートになったかもしれないってのに!もはやテーナのローブじゃサイズが……。


「って待て。じゃあテーナのローブが子供用サイズだったのは」


「本物のローブを加工したんでしょうねぇ。それより問題はローブの入手経路です。本物のテーナさんも偽物のテーナさんも入手できないのなら無難な答えがありますよねぇ。……果たして悟さんたちが見たのは本当にテーナさん、或いは信仰生物のテーナさんだったのでしょうか?」


「さ、さすがにテーナの信仰生物だろ。いかにもテーナらしい喋り方してたし、テーナとしか思えない性格してたし」


「だーかーらー。悟さんの言うテーナさん像こそ全然本物っぽくないんですってば!大体あなたは本物のテーナさんを見たことないのに何知ったかぶりしてるんですか!」


「む……。言われてみれば確かに。うーん、イメージ通りだったんだけどなぁ」


過去の天利そっくりな黒天利、未来の正者そっくりな偽正者。そいつらが本物同然だったからつい姿を知らないテーナのことまで本当の姿だと思い込んでしまったってのか!……ていうか、よく考えてみれば本物の正者も子どもの姿しか知らねーような。


「じゃあ、今回の事件で保護された信仰生物の女の子……あれはいったい誰だっていうんだ?いったい何者がどういう目的で俺の戦利品ローブを!」


「話は単純ですよぉっ悟さん!他に用意しようのない素材のローブがメインショット城の記述師ルームに置いてあったんです。去年の新年から事件までの間に、城の記述師ルームに侵入してまで誰がそのローブを盗むのか……たったそれだけの話なんです」


「ローブの存在を知ってるのは城に居た人間と……あとは大メインショット郷国の住民たちが目撃してるくらいか?まあ、少なくとも地球に居たテーナにはローブの存在を知る術はねーな」


「その通りです。後はローブを一番持ち出しそうな人を考えてみましょう。といっても信仰生物になることが大前提なので犯人候補は限られますけどねぇ。……大メインショット郷国世界の魔法数はとても少なく秘術として貴族間ではその内容が共有されています。メインショット城内に信仰生物になれる者はいません」


「だけど共有されていない隠し効果ってものがあったはずだよな?」


「その可能性も低いでしょうねぇ。メインショット領の秘術はタナレーラさんが継承済みで逃走済み。現メインショット王はツインショット領出身のツライさんですが、そちらの秘術は封印解除が隠し効果であると判明済みです。事件を起こした信仰生物の女の子がメインショット城内の誰かであるならば、信仰生物になるための手段が必要です!しかし私の知る限り……大メインショット郷国内にそんな方法はありませんよぉっ!」


「じゃあ大メインショット郷国の外、別世界のなんらかの方法ってわけか!」


「ええ。まず現メインショット王のツライさんは別世界を行き来していました。信仰生物になる手段や女の子化する手段を持っていてもおかしくはありませんが、恐らく彼は犯人ではありませんねぇ。なぜならメインショット王として仕事を押し付けられ軟禁に近い状態で働いているはずだからです。彼には事件を起こす余裕はありませんよぉっ!」


「だけどよ。いくら城内の人間とはいえ記述師ルームは無断立ち入り禁止エリアだぜ。王以外の奴が立ち入るとは思えないし、王以外はそもそもローブの置き忘れにすら気づかないんじゃねーかな。俺もこんな事態になったからってようやく思い出したわけだし」


「だからほとんどの人は容疑者から外れますねぇ。ですがたった一人条件を満たす方がいるんですよ。大メインショット郷国の内外を頻繁に出入りし、信仰生物化や女児化の手段を手に入れていた可能性のある人物がねぇ!」


「ま、まさか……!」


「そう、タナレーラ ボンボンドさん本人ですよぉっ!彼女は当然ローブの価値は理解していますし、100年近く前から特星と大メインショット郷国を行き来していました。ローブを部屋に置いた彼女自身ならば、ローブのある場所にも心当たりがあるというものです」


「マジか。あの記述師タナレーが結婚するために女児化してお前を拉致。妹に化けてお前をお兄ちゃんと呼び慕い、偽りの兄妹結婚を強行するつもりだったなんて」


「……これ間違っていたら物凄い失礼な物言いをしていることになりますね。あの悟さん。やっぱりこの私の推理は聞かなかったことに」


「いや雑魚ベー、これで行こうぜ!」


「ええっ!?行こうぜって、ど、どうするつもりなんですか!?」


「特星本部には他人に懸賞金を付けることのできるお尋ね者システムがあるんだ。そこに記術師タナレーを登録して向こうの動きを待つってわけさ。面白そうだろ」


正直、記述師タナレーとは決着が曖昧なまま別れることになっちまったからな。もう一度決着をつけたいと思っていたところだ。顔も美人だしな。まあ、これほど不名誉なキャラ付けでその名が噂されるようになれば、キレ者で警戒深い記述師も姿を現すしかなくなるだろう。


「でもまだ私の推測の域を出ませんよ。正直、タナレーラさんが偽テーナさん説に自信が無くなってきましたし」


「それでも問題ないのさ雑魚ベー。そもそも俺たちは記述師タナレーを大メインショット郷国に連れ戻す約束を受けていた立場だろ。例え記述師が信仰生物のテーナだろうと違おうとどっちでもいいじゃねーか。記述師との決着は奴が逃亡したことで引き分けってことになってるんだからな」


「でもタナレーラさんが偽テーナさんとして特星本部に捕らえられていたら対処のために動けませんよぉっ!悟さんのやり方は2人が別人のときにだけ動きがあるやり方でしょう?むしろ私の説が違っている前提で動くつもりですよねぇ」


「あー、気を悪くしたか?お前のその説をあてにするほど主人公の状況把握能力は甘くないんでね。情報が増えるまで……というか敵側が動くまでは、他の未解決の話を進めた方がいいと思っただけだよ。で、今さっきテーナの事件をきっかけに、記述師を追い詰める方法を思い付いたのさ」


まあ恐らくは記述師タナレーと信仰生物テーナを両方見た俺の所見だと、2人が同一人物だってことはまずないだろうけどな。雑魚ベーは知らないだろうが、テーナは100年近く前には既に電子界に居て黒天利たちと手を組む約束をしてたわけだし。メインショットで大忙しだった記述師には犯行の余地はないだろう。……つまりこれは、もはやテーナの話じゃないんだ。犯人逃亡という形で完全勝利を逃した大メインショット郷国戦のリベンジマッチってわけだ!


「私は信仰生物のテーナさんの事情を知りたかったんですけどねぇ」


「御衣が情報流す気がなさそうだし時期が悪いからやめときな。特星本部長の気持ちを汲んで後回しにするってことでさ。……御衣の意向ってことは校長やボケ役辺りの特星本部メンバーから話が流れてくるかもしれないしな。それに御衣と仲良さそうな希求辺りもいることだし」


「意外と御衣さんの動向は耳に入りやすいってことですか。ならそちらは特星本部の人たちにお任せしましょうかねぇ」


「ああ。それにテーナのローブの件に関してはやっぱり記述師タナレーが一番情報を持っているだろうからな。奴にアプローチを仕掛けるのは割と理にかなってるんじゃないか?元メインショット王のじじいとの約束もあるし。……あとは大メインショット郷国の記述師ルームを直接調べるとかな」


「なるほど。じゃあ私が故郷帰りして調べておきますよぉっ!正直、特星本部にいる信仰生物の子はテーナさんとは別人っぽいですからねぇ。いつまでも少女に辛い取り調べをさせておくにはいきませんよぉっ!」


「テーナっぽいと思うが別人の可能性もあるもんな。少なくとも本物のテーナはローブのことを知らないし持ってる理由がないから」


「他にもう気づいたことはありませんか?まあ、悟さんはすぐに居なくなったと聞いているのでわかることは少ないでしょうけど。視力だけは頼りになりますからねぇ」


「んだとー。……そういえば髪が白髪ってか銀髪だったな」


「ああ、髪の色については私も雨双さんから聞きましたよぉっ!本物のテーナさんは異世界から不老不死を持ち込んだ張本人ですからねぇ。信仰生物の彼女がもしテーナさんなら、本物が不老不死を探す過程で色落ちしたってことですかね」


「いや、あれは地毛だったよ。……本物は違うのか?」


「サイドショット家の家系の多くは青毛ですよぉっ!本物のテーナさんも同じです」


「いやぁ、レーガのじいさんが白髪だったから見た目の違和感がそこまでなくて……」


一応、レーガのじいさんが色の落ちた白髪だってことはわかってた。テーナの地毛は銀髪だから白髪じゃないって違和感も感じてはいたさ。だが、どうにもテーナが青髪ってイメージがあまりないから実際にテーナと会ったときも気にならなかったな。


「じゃあやっぱり別人では?信仰って要するにイメージでしょう?大メインショット郷国の人たちでテーナさんを知る人はそんなイメージ持ってないと思いますよぉっ」


「……ま、その辺のことは専門家のドラゴンに今度聞いてみるよ」


「そうですか。私としてはなるべく早く聞いてほしいですよぉっ!」


「あんまり会いたくねーんだよなー。初対面の相手をいきなり魔法で手下にしようとする奴だぜ。図体と態度もデカいし。信仰生物を止めるために毎月来いって脅してきやがったんだ」


「それは何というか、ドラゴンらしい悪役っぷりですねぇ。にしても悟さんもよく承諾したものです。いつもなら敵はボコボコにしてるところでしょうに」


「地味に強いんだよあのドラゴン。でもまあ、奴が電子界を出たがっているってのが一番の理由さ。あいつが出て行ったあとの電子界は管理者不在!つまり俺のものってわけだ!」


「サイドショット領でも悟さん同じようなこと言ってませんでしたか?土地ブームでも来てるんでしょうか?」


「それならコートみたいに買うって。なんていうか秘密基地みたいな感じだよ。土地を買ったり借りたりするんじゃなくて勝手に私物化する感じがいいのさ。戦利品集めみたいな金の掛からない趣味だな」


「悟さんはそういうの得意ですからねぇ。盗賊とかの方が向いてるんじゃないですか?」


「人聞きの悪いこと言うなよ。無理やり奪ったことは一度だってないぞ。脅しも強奪も強引な交渉もしないし衣服を漁るような盗人みたいな真似もしてないからな?」


「手持ちのアイテムは、気絶してる間に勝手に持っていく癖に……」


「一応、特星なら落ちてる扱いだ」


こうして、地球で起こった事件の聞き込みは終了した。結局謎はいくつか残ったままであるが、それはいつの日か何らかの形で明かされていくことだろう。一気に解決する事件もあれば長い期間が過ぎてから解決に向かう事件もあるってことだろう。今日は茶菓子を楽しむとしよう。


……その後、神社に帰ってきた雨双に室内ごと凍らされた。これはさすがに落ちてた扱いにはならなかったようだな、うん。

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