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変な星でツッコミ生活!?  作者: 神離人
本編:新しき地球への帰還
65/84

九話 電子界の支配者 ~封じられし世界の信仰竜

@悟視点@


希求の特殊能力によって広場へと戻ってきた俺と黒天利と希求。世界樹の前では、雨双が氷の椅子に腰を下ろして俺たちを出迎えた。


「悟、無事だったか!」


「おう雨双。黒天利のやつはばっちり倒してやったぜ」


「希求から聞いてると思うが、雑魚ベーの救出も無事に終わっているらしい。校長も正者を逃がしはしたが無事だとさ」


あ、雑魚ベーの救出作戦は上手くいったんだな。校長は正者に逃げられたのか。校長だと正者の性格悪い戦い方とは相性悪そうだし仕方ないか。大方、卑怯な罠にでも引っかかったんだろうな。


「やはりテーナも勝てなかったか……。ちっ、まさか希求を地球へ送り込んでくるとは思わなかった。私の想定では、正安が悟を誘っての2人独断専行で来るとばかり思っていたんだが」


「いや、校長は俺が行くの止めようとしてたけど」


「何だと?」


「指名手配されてるからやめとけって話だったぜ。今日地球に来る前に言ってたよ」


特星本部の談合室で話し合ったのが今日のことだからな。よーく覚えてるぜ。校長は反対してたし俺も正直諦めかけていた。……結局俺が特星まで来ることになったのは希求がテーナに対抗心を燃やしたからだ。テーナ登場時に結婚式っぽい雰囲気がなかったおかげか有耶無耶になったけどな。


「……あの男にそんな節度ある対応ができるとは思えないが。記憶の中の奴は、特殊能力を人前で見せびらかし、日本政府に隠れて特星作りを遂行し、近隣の学生を親の許可なく特星に連れて行く。……そんな内面アウトローな男だったはずだ」


「そうだな。まあ天利や皇神は特星側だけど」


「ええっ、私たち以外にもそんな対応してたのか?よく問題にならないな……」


「奴であれば特星本部の連中とも絶対上手くやれてはいない。その確信があったからこそ独断専行する際は悟……お前くらいにしか頼ることができないと踏んでいたのだ!なのに、一体どういう経緯で希求までやってくることになってしまったんだ……」


「私は特星本部で御衣ちゃんを探してたら、兄と妹が結婚するって聞いたんだ。だから先に便乗結婚してやろうと思ってね!」


「その結婚を持ち出したテーナは、雑魚ベーがケガしたときに現れたな。ケガで雑魚ベーに気づいたのか、地球渡航した時点で雑魚ベーに気づいたのは知らないけど。ケガの原因は正者の拳銃発砲によるものだっけか」


「雑魚ベーは地球渡航前、神社で私に渡航について話してたぞ。悟が地球に行くから着いていくと言ってた。前に故郷に悟がやってきたから今度は自分が行く番だと息巻いてたよ」


「俺が地球に行くことになったのは校長からの依頼だな。で、そもそもの依頼元は県長。……希求を誘導できそうなのは特星本部長の御衣だけど、特殊能力使えない場所に希求を向かわせるとは思えないぜ。……あ、でも途中で特殊能力が使えてた気がするな」


「そういえば、私や希求も途中から特殊能力が使えるようになってたな。アレがなければ希求の特殊能力が発動できずにテーナの無敵状態を突破できなかった。……もしかしてあれは特星本部からの援護なんじゃないか?」


「あー……。いやー……。そ、それが敗因か」


特殊能力封じが消えたこと話が移ると、黒天利がバツの悪そうな顔をして顔を逸らす。え、まさか黒天利が特殊能力封じを消したっていうのか?


「まさか黒天利、お前が?」


「ふん。そもそもあの特殊能力封印の舞台。あれは私の特殊能力で発生させていたものなのだ。いわば悪の総帥王専用のラストステージといったところか。特星ランキング上位者である希求の特殊能力さえも受け付けない最強の舞台だった。……だが最終決戦で私は、自身への信仰をシャットアウトしてしまった。黒魔法少女・天利んがーるアマリとなったことで、私は一時的に総帥王ではなくなったため、特殊能力封印の舞台が消失してしまったのだ」


「なんだその珍妙な……女児ウケ悪そうな名前は」


「言ってやるな雨双。でもよ、そんなに強い舞台なら総帥王のまま戦った方がよかったんじゃないか?」


「……私は魔法少女として、悟。お前と決着をつけることが長年の夢だったのだ。この夢さえ叶えば私は天利の呪縛から逃れ、真の私として生きていけると信じている。今でもな」


そういえば、天利と戦ったときも第二形態が魔法少女の姿だったな。……思えば主人公との対決に魔法少女を持ち出すということは、天利にとってよほどやりたかった対決ということだろう。ネーミングセンスはどうかと思うけどな。


「おい黒天利とやら。信仰生物の出現を止めるにはどうすればいいんだ?私たちは友人を誘拐までされているんだ。こちらとしてはとても迷惑している」


ああ、雨双はさっきの黒天利の説明を知らないんだったか。今から俺は敵の本拠地に乗り込むし、もう一度念のために黒天利の説明を聞いておくか。


「信仰生物は自然発生するものなんだ。完全にその出現を止めることなどできはしない。だが、意図的に信仰生物の誕生を早めることで、私たちを地球に送り出した存在ならばいる!」


「電子界のドラゴンってやつだな!」


「ドラゴンだと?地球にモンスターがいるのか?」


「電子界は地球から行くことのできる場所らしい。非現実と現実の間にあるんだとか。それと……異世界とも繋がりがあるとか何とか。私は興味もないし詳細は知らないが」


「ちなみに場所は瞑宰県のタイル下だよ!」


「瞑宰県か。校長が見つかったのが瞑宰県だと報告があったらしいからな。もしかすると正者というやつは電子界に逃げ込んだのかもしれないな」


「え、校長が瞑宰県に!?」


無事見つかったって瞑宰県でのことなのか!?地理はさっぱりだがここからは多分遠いよな。やっぱり正者の卑劣な罠に引っかかったのか校長。


「正者だと?あの男生きていたのか……。奴も信仰生物だからな。信仰のほとんどを遮断してしまえば、電子界に入ることは容易いだろう。入りにくいが故に追っ手を撒くのには最適ということか」


「信仰を捨てる必要があるから、神や信仰生物しか入れないってことか。つまりコート神である俺がドラゴンを倒すしかない」


「ふっ、電子界に入るのであれば覚悟することだ。完全消滅に近い状態……そんな体であのドラゴンに挑まなければならないのだからな」


「……上等だ!希求、送ってくれ!」


「オッケー!ついでに雨双ちゃんと偽お母さんは特星に帰しておくね!」


次はついに電子界のドラゴンか。へっ、ハンデをくれてやるには丁度いい相手だぜ!主人公は力だけじゃないってことを思い知らせてやる!




瞑宰県の永遠に続くタイル床の地上に俺とテーナは現れる。夜中のタイル床には新しめの靴の足跡がはっきりと残っていて、校長と正者が少し前までいたことがわかる。どうやら校長とは入れ違いになってしまったようだ。


「んーっと。そこだな」


辺りを見渡して、指紋のついているタイルを発見する。早速タイルを引っぺがしてみると、そこにはタイル一つ分の小さな穴があった。……いや穴か?光をまったく反射していない穴っぽい何かだ。だが光を吸収しているようにも見えない。視力には自信ある方だが、何が起こっているのか全く見当がつきそうにないぜ。なんていうか不気味さが漂っていやがる。


「やるねー、お兄ちゃん!私が探そうとするより先に見つけちゃうなんてね」


「ああ。でも見てみろよ希求。この穴、水鉄砲でも精々2,3個同時が限界って大きさだ。タイル一つ分だから当然と言えば当然か。人が入れるような穴じゃねーな」


「信仰を捨てるしか入る方法はないね。今のお兄ちゃんは、コート神という器にお兄ちゃん・コート神・悟ンジャーブラックへの信仰を詰め込んでいる状態だよ。信仰は物質や遺伝子や記憶、コートは位置、お兄ちゃんは操作主みたいな感じかな」


「こうして見ると、コート神も結構人間みたいだな」


「信仰の位置がコート依存だけどね。コートを外していると本体がどこにも存在しなくなって、信仰が霧散しちゃうんだ。……あと人間の場合、操作主が完全に身体依存って話もたまに聞くね」


「ふーん。今回の場合は信仰を捨てればいいわけだから、コートを脱げばいいってことか?」


「それが手っ取り早いかな。信仰をシャットアウトする方法もあるけど、お兄ちゃんの場合は自分から自分への信仰が一番強いからねー。道具頼りの方がまだ楽だと思うよ」


コートを脱ぐだけで済むのならそっちの方が楽か。えー、でも嫌だな。どうにも昔からコートを脱ぐことには凄い抵抗感があるんだよ。……や、やるしかないのか?俺自身がとんでもない状態になっちまう予感がするんだが。


「くっ、俺はコート魔術で何度もコートを脱いできた!こんな不安、主人公の前では無力だぜ!」


「おおーっ。威勢よく脱ぎ捨てたね!」


「希求、お前はそのコート持って先に帰っててくれ。あと俺が気絶したら電子界に叩きこんでほしい」


「任せて。そこの出入り口はずっと見てるよ!出てきたらすぐに救出するから、必ず帰ってきてねー!」


希求はコートを持ったまま瞑宰県から姿を消す。……早くも眩暈がしてきやがった。体が透けてやがる。く、意識が…………!ううう、覚悟しろよ……ドラゴンめ…………!




「ん……。俺はいつの間に……?って電子界は!?」


目を覚まして辺りを見回すと、そこは暗い星空が広がる空間だった。いや正しくはだだっ広いプラネタリウムの空に囲まれた空間が近いか。遠くに見えてる星は本物じゃなくて光を発する点粒だ。それに手元や足元を見た感じ暗そうでもない。床や背景が暗い色なだけだ。


「って、俺コート着てるじゃん。水鉄砲もあるし」


手元を見てるときに自分のコートに気づく。さっき脱ぎ捨てたはずのいつものコートだ。ズボンのポケットにはいつもの水鉄砲もある。……だが2つのエクサスターガンはなく、代わりに似たデザインの光線銃らしきものが2つ入っている。偽物にすり替えられた?水鉄砲はデザインは全く同じなだけの新品だ。


「ハエ叩きもあるな」


[ぱきん]


「折れた……」


コートの背中側に隠してあるハエ叩きは、いつものとは別物の新品になっていた。だが試しに丸めてみるとあっさりと折れてしまう。壊れないハエ叩きとは別物のようだ。


「あとは隠してあるコートだが……」


コート自体はいつものと同じデザインであり、隠しポケットがいくつも付いている中に予備コートも入っている。しかしさっきハエ叩きの惨状を見たから耐久性が不安だ。引きちぎろうとしてもビクともしないし素材も多分いつも通りみたいだが。……いや俺の目に狂いはない。このコートは少なくとも素材や造りみたいな中身はいつもと違和感がない。見ればわかる。俺のじゃないだけでただの新品だ。


「勇者社製のものは大体そのまんまって感じか?」


水鉄砲やコートみたいな店売りのものが新品になっただけで、それ以外のものは偽物にすり替わっている感じか?よく見ると靴や靴下もいつも履いているやつだ。新品だけど。……単純にレアアイテムを没収したってことか?コートとズボンは一応オーダーメイドなんだがな。


「どこに行けば……」


この場所は宙に浮いている床の上だ。横に飛び降りようと思えば降りられる。奥まで続く道もあるが、魔法陣みたいなものが描かれた場所で行き止まりみたいだ。まあ、ゲーム的に言えばあの魔法陣に乗る感じだな。……後ろには何もないけどどうやって帰るんだ?


「ま、戦闘準備する為の部屋を用意してあるんだ。負けて送迎する準備もできてるか」


へっ、気絶してる間に攻撃してりゃ勝てただろうにな。わざわざ目を覚まして状況確認できる部屋があるなんてサービスいいじゃねーか。要望通りぶっ倒してやる!




魔法陣に乗ると光に包まれ、光の外側にある周囲の景色が変わっていく。案の定ボス部屋に移動できたって!?


[どかあぁっ!]


「ぐああぁっ!?」


光が収まったと同時に、目の前の景色が迫っていることに気づく。だが遅かったようだ。迫っていた巨大な何かに叩きつけられて、俺は地面に押さえつけられてしまう。く……お、重いっ!


「勝負はつきましたよ。降参してはどうです?」


多分上のあたりから声が聞こえてくる。地面に押し付ける圧が微妙に強くなった。くっ、何が起こっているんだ!?


「いてて……っ!か、壁が俺になんの用だ!俺はドラゴンを倒しに来たんだよ!」


「知っています。ですから決着と言ったのですよ」


「なに!まさかお前が!」


「……今の私はとても機嫌が悪いのです。加えて、運動不足なのに絶妙な足の力加減……筋肉痛になるくらいなら踏み潰します」


この壁がドラゴンの足だってのか!?つーかちゃんと足浮かせろって!たまに骨がきしむくらい押さえつけてて痛いんだよ!うっかり潰れたらどうする!


「負けを認めて私に協力しなさい。信仰生物の代わりに役立ってもらいます」


[メキメキ……]


「ぎゃーっ!待て待て!い、息が……!」


「おっと。これだから加減が」


ドラゴンの足が触れない程度にまで宙に浮く。よし今がチャンス!だが、立ち上がるだけの隙間はない!足の射程範囲から立ち上がることなく逃れねーと!……転がるしかない!


「さあ、負けを認めて服従するのです。何も酷い扱いをするつもりはありません。定期的に魔法でここに呼び戻すだけですので。…………あれ、まさか力尽きた?」


転がりながらだが、ドラゴンの足が地面から遠ざかっていくのがわかる。そしてかなり高い位置にあるドラゴンの尻尾がようやく目に映る。俺を踏んでいたのは後ろ足のようだな!……だが、股の下からこちらを覗いてきた奴の顔も同時に目に映った!すでに奴の目は転がり続ける俺のことををしっかりと追っている!


「あっ!お前……!私を騙しましたね!」


「くっ、今更気づいても遅いぜ!水圧圧縮砲!」


[どかぁっ!]


足の範囲外に逃れた俺は、即座に体勢を立て直しつつ水の魔法弾で攻撃する。水圧圧縮砲は相手の足の側面に直撃したがビクともしていない。


「か、硬い!」


相手の防御力は相当高そうだ。それに今の弾速……特星外だからか威力が低い!地球や異世界特有の控えめな威力の魔法弾だ。少なくともあのドラゴンの皮膚の硬そうな部分にはダメージを与えられないだろう。


「無駄なことをっ!」


「うおおぉっ!?」


[どがあああぁん!]


奴の尻尾が大きく振り上げられ、先ほどまで俺のいた位置に振り下ろされる。全力で奴の横方向に走っていた俺だが、尻尾を叩きつけた際の風圧で壁まで吹っ飛んでしまう。


[どかっ]


「ぐっ、いてて」


た、助かった。さっきみたいに壁のない部屋なら落下してただろうな。……このドラゴンのいる部屋は六角形の形をしていて全方向が壁に囲まれているみたいだ。落下する心配はなさそうだが、逃げ場もなさそうに思える。


「場所が悪いな」


この六角形の部屋自体は相当広い。魔法陣での移動先は部屋の端の方だったらしい。体育館なら縦横3つずつくらい収まりそうだ。……ついでに奴の体も同じように例えるなら、縦横高さが体育館の半分くらいの大きさってところか。


「逃がしはしませんよ」


「ちっ」


尻尾は遠ざかっていき、代わりにドラゴンが俺の真正面に立ちはだかる。ようやくまともに姿を現しやがったか!


「お前、一体何の目的で」


[ごおおおおぉ]


「げっ!?うおおおおぉっ!」


[ずがああああぁん!]


俺が問いかけるよりも先に、奴は前足を斜め上から突き出してくる!爪と爪の隙間でジャンプして衝撃の余波を回避した俺は、爪を足場にして奴の前足の裏側へと潜り込んだ。そして死角になりそうな位置を通りながら、足音を闇に溶け込ませるつもりで巨体の下を走り抜けていく。サイズ差を利用した高度な闇雲ステップだっ!


「ま、また見失った!どこですか!隠れてないで出てきなさい!」


[どがあああああぁん!ずがああああああぁん!]


ひええっ、両前足を上げたり地面に叩きつけたりして暴れてやがる!だ、だけど発生した追い風で飛ぶように早く走ることができるな!


とはいえ逃げるだけじゃダメだ。懐に入り込んだんだから弱点の一つでも見つけねーとな。ぱっと見た感じだとドラゴンの皮膚で特に分厚そうなのが外側の部分みたいだ。さっき魔法弾を当てたのも硬そうな部分だった。……だが地面側はそこまで堅そうって感じでもない。皮膚は厚そうだが硬質ってほどでもない。これなら攻撃も通りそうだ!


「今度こそ!水圧圧縮砲!」


[どかあぁん!]


再び水の魔法弾を撃ち込むと、さっきとは違い手ごたえがあった。水圧圧縮砲が少しだけ奴の肌にめり込んでいやがるぜ。……惜しい!特星での水圧圧縮砲なら多分ダメージはあっただろうが。


「痛っ!か、噛まれた!?」


「誰が噛むかよ!虫じゃねーんだぞ!」


[どかあぁん!]


ドラゴンの下側を通り抜けた際にもう一発水圧圧縮砲を撃ち込んでおく。ドラゴンから距離が離れていき、そろそろ角度的に奴の地面側を狙うことが難しくなってきた。次はどうするか……。


[ずぅん!ずぅん!]


「そっちでしたか。小賢しいマネを!すううぅ……」


「ん?」


後ろを振り返ると、空気の流れが明らかに変わっている。そしてその原因であるドラゴンはいつの間にかこっちを向いて息を吸っている。この巨体で深呼吸だと?……い、いや、この攻撃は!


「くっ!予備コートガード!」


「がああああああーっ!」


[ごおおおおおおおおぉーっ!]


俺が予備コートを複数同時に取り出して展開すると同時に、辺りが猛烈な光に包まれていく。とんでもない熱気が俺を囲むコート越しに伝わるが、完全密封されているから焼かれる心配はない!熱気の勢いは暴風並みで、その勢いで俺の体は吹き飛ばされていく。……これはやっぱりブレス攻撃!あのドラゴンめ、この俺を丸焼きにしようとしてやがって!


「だが、所詮は燃えてるだけの風だ!水圧分裂砲!」


[どかかかかかかっ!]


ドラゴンの居た方向に分裂する水の魔法弾を撃ち込む。分裂砲の広がるように飛ぶ弾と敵のブレスは予備コートを間に挟んでぶつかり合う。最初は分裂砲がコートを相手側に押していたが、俺から距離が離れるにつれて外側の弾がコートに当たらなくなっていく。やがてコートを押す勢いが同じくらいになったのか、予備コートは空中で制止した!俺の魔法弾と奴のブレスの間でせめぎ合っている!


これで炎自体は完全に防いだ!横から流れ込んでくる熱気も、空中の予備コートと俺の耐熱装備のおかげでおおよそ防げている。頭へのダメージは空いている左手で予備コートを押さえつけることで見事に防いでいる状態だ。


「ぐ、がああああぁっ!」


「へっ、息苦しそうだな!そんな出力じゃ火傷ひとつ負わせることはできねーぜ!ブレスは諦めて踏み潰しに来た方が強いんじゃねーの!」


当然、そんなことされたらこっちは大ピンチだけどな!挑発気味に先に言ってやれば、諦めの悪そうな奴は不利な戦い方を続行するって寸法だ。体感9割くらいの相手には通用するぜ。


「…………きたっ!水圧圧縮砲!」


空中で制止中のコートの横からあふれ出ている炎が、一瞬止まる。その瞬間に俺は左手で光線銃のおもちゃを引き抜き、なるべく手を横に伸ばして強力な水の魔法弾を発射する。当然、銃口はドラゴンの方を向いている。目標は口内……それも気管支だっ!炎を履く瞬間に位置はなんとなく捉えてある!


[ひゅーーーっ、どかあぁん!]


「うぐっ!?うえっ、げほごほっ!」


炎が止まり、宙に浮いていた予備コートが地面に落ちる。予備コートの奥には自分の喉を締め付けながら盛大にむせているドラゴンの姿があった。よし、怯んだ今がチャンスだ!


「外が固いなら内からだ!電圧圧縮砲!」


[ひゅーーーっ]


左右の銃からそれぞれ1つずつ電気の魔法弾を飛ばして攻撃する。二発同時撃ちだと命中精度が落ちるものの相手は全てがデカい!狙いを外すことはない!


[ばちちちぃん!]


「うぐああっ!の、喉がぁ!」


電圧圧縮砲の片方は相手の口内に、もう片方は相手の鼻の奥へと命中する!炎を吐くから効きにくいかとも思ったが電気は結構通るみたいだ!なら、もっと効きそうな箇所があるな。喉の痛みのせいか涙目になって濡れてる目が二つもなっ!


「電圧圧縮砲!」


うろたえているドラゴンに走り寄りながら、動きまくっている奴の顔の軌道上に電気の魔法弾を二発撃ち込む。魔法弾にまだ気づいていないドラゴンは、それぞれの弾の射線上に自分の両眼を自然と合わせてしまう。電圧圧縮砲が目前まで迫るとドラゴンは即座に目を閉じるが、速度重視の電圧圧縮砲がそれよりも早く奴の目に到達した!


[ばちちちぃん!]


「うあああっ!」


目に電気を喰らったドラゴンは、両眼を押さえながら前かがみに倒れ込む。ちょうど俺の目の前に両目を押さえたドラゴンが倒れ込んできた感じだ。結構なダメージがあったのか、奴は歯ぎしりをしながら手で目を押さえつけている。これ……今でしか狙えない弱点を狙えるんじゃないか?炎と噛みつきのリスクでいつもなら攻め辛い部位、歯茎を!


「おしっ、その牙むしり取ってやる!」


「図に……乗るなよぉ!」


「うお!?」


歯茎を潰してやろうと近づくと、奴の周囲に魔法陣が浮かび上がる。そして俺が一瞬身を引いた瞬間にドラゴンは光に包まれ、縮小する光に吸い込まれるように姿を消してしまった!


「どこだ!?はっ!」


床の暗さが増したことに気づいて上を見ると、そこには先ほどまで目の前に居た巨体……上から降ってくるドラゴンの姿があった!巨体を活かした落下速度は凄まじく、もはや射程外に逃げることは不可能だ!


「踏み潰れてしまいなさい!布切れの神めっ!」


「うおおおおおぉっ!」


[ずがああああああぁん!]


「うおああぁっ!」


ドラゴンの前足にある爪と爪の間には潜り込めたが、奴の落下の勢いで発生した風圧によって空中に吹き飛ばされてしまう。こ、この高さだと約3階!下手に落下したらそのまま落下ダメージで死んでしまう可能性もあるぞ!魔法弾で落下の衝撃を……。


[どかあああぁん!]


「うっ、ぐああああっ!」


ぜ、全身に激痛がっ!部屋の壁の一つにまで吹き飛ばされちまったのか……!壁に掴むところはないがせめて落下の速度を落とせれば……!


[どすぅん!どすぅん!どすぅん!]


この音は!壁際をずるずると落ちながらも後ろを振り返ると、ドラゴンが口を開けながらこちらに突っ込んできやがる!俺が負けたと思って救出……なわけないか。


「私に逆らった弱者は、食べる!」


「く、身動きが取れねえ!」


壁に張り付いている状況。逃げるには手を離して床に落ちるしかない。だがまだ高さは2階よりも全然高いわけだし、何よりも壁に叩きつけられたダメージが酷い。このまま下に落下したとしても着地できるかは怪しく、さらに言えばその後の追撃から逃れるのはまず不可能だ!次で致命的なダメージを与えなければ負ける!


ドラゴンの口が目の前に迫る。これまでの攻撃はあくまで怯ませる程度で致命的とは言えない。ならやっぱり一番痛そうな箇所に一番響く魔法弾をくれてやる!


「威力を貯める!」


ドラゴンの口が閉じる直前、俺は自ら奴の歯茎に飛びついて歯と歯茎の間に銃口を押し当てる。だがなるべく威力を高めるためまだチャージし続ける。そして、頭に奴の歯が当たった瞬間、最大威力の魔法弾を撃ち込んだ!


「指圧圧縮砲!」


この魔法弾に弾はない!空砲ですらない……衝撃だけで通過箇所を圧縮していく圧力の魔法弾!最大圧力で全て押し潰せ!


[っどがあぁっ!]


「ぎゃああああっ!」


ドラゴンの悲鳴が上から聞こえる。順調にドラゴンの歯茎を陥没させていた魔法弾だが、ある程度突き進んだところで消えるように直進が終了する。射程距離数十センチくらいか……?おかげで俺の体が歯茎のあった位置に沈んで噛まれることは避けれたけど。


上を見ると、俺の頭に触れていたはずの奴の歯が高い位置にある。噛む最中に大口開けてしまうくらいにはダメージがあるみたいだな。足元を見ると膝辺りまで奴の血が溜まっている。歯茎の歯に面していた部分から出血しているようだ。


「熱っ。温泉みたいな温度の血だな!水圧圧縮砲!」


[どかあぁん!]


「いーっ!」


出血している傷口に水の魔法弾を撃ち込むと、周囲が大きく揺れる。さすがに傷口への攻撃はサイズ差があっても効くらしく、頭上から結構な量の涎が降ってくる。うわ汚ねーなっ!しかもヒリヒリするし毒みたいなもんだろこれ!


「おい、いい加減に諦めやがれ!これ以上やる気なら虫歯みたいに……うおっ!」


頭上から熱を感じたのでとっさにコートを頭にかぶる。するとコート越しに眩い光が伝わってくる。やろー、この状況下でまだ火を吹く余裕があるか。てかヤバい!血液とだ液の温度がどんどん上がってる!このままじゃドラゴンの歯茎内で茹でられちまうぞ!


「く、もう一発弱った場所にくれてやる!」


再び歯茎に攻撃する為、指圧圧縮砲のチャージを始める。……この技、射程が超短いしチャージもいるから使い勝手がいいとは言えないな。同じ時間で水圧圧縮砲2発撃つ方が普通の相手には効きそうだ。


「いくぞ!」


足元にできた赤い水中にもぐり、歯茎に狙いを定める。さっきとは違って今回はフルチャージで撃たせてもらう!歯の付け根までぶち抜いてやるぜ!指圧圧縮砲!


[っずざばあぁん!]


「うおっと!うっぷ」


圧力の魔法弾を再び撃つと、先ほどまで歯茎があった場所に空間ができて、そこに俺や足元にあった血液の水たまりが流れ込んでいく。もはや液体は俺の身長よりも高い位置……唇の辺りまで溜まっている。ま、まずい!このまま歯茎のテリトリーに飲み込まれたら出られなくなるんじゃないか!?


[ごごごごごごご!]


「うおっぷ!」


突如水流が変化したかと思うと、周囲の壁や床がひっくり返る。とっさに足元にあった太めのコートに捕まって流されないようにするが、動きはより一層と激しくなるばかりだ!……ぜ、絶叫マシーンかよここはよー!あのバカドラゴン!滅茶苦茶に暴れまわってやがって!


「うぐっ!」


ま、まずい!出口が閉じている!あのドラゴン、口を閉じたまま暴れまわっているらしい。更に口の奥に続く道は舌の壁によって封じられてしまっている。俺の居る口内のエリアはすでに液体で満たされて呼吸のできる場所がない!いつの間にか閉じ込められてしまった!


ど、どうする?今の俺は、奴の歯の下側から出ているこのコードに捕まることで精いっぱいだ。放せば口内の濁流に飲まれて、打ち所が悪ければ死ぬかもしれない!だがこのままだと窒息死だ!攻撃したいところだが……両手に持っていた銃は流されてしまったんだー!絶体絶命だ!


「ぐ……っ」


こ、こうなったら仕方ない。自滅覚悟で、あのドラゴンの口を開けさせて脱出するしかない!大丈夫、俺のコートは万能耐性だ。電気耐性も付いている!この液体で満たされた口内に電気を流しても、俺は全然平気ってわけだっ!……俺はこのコートの耐性を信じる!電圧圧縮砲!


[ばちばちばちいぃっ!]


「ぐううっ!」


発射のできない電気の魔法弾をこの場に作り出す。すると電圧圧縮砲はこの液体空間へと広がっていき、コートの耐性があるにもかかわらず俺自身にも襲い掛かった!バカな……ドラゴンの血が俺自身にも電撃を差し向けたってのか!?


[ごごごごごぉーっ!]


体が痺れてコードを手放し、俺は口内の濁流に飲み込まれてしまう。しかし運は俺に味方したようだ!ドラゴンの口は開き、液体の流れはドラゴンの体外へと向いた!流れに飲まれた俺は、ちとだ液の水流と共にドラゴンの体外へと放り出される。


「で、出れたーっ!」


ドラゴンの口は高い位置ではなく、かなり地面に近い位置にあった。流されながら顔を上げると、ドラゴンは地面に這いつくばるようにうつ伏せになっている。心なしか口だけじゃなくて目からも液体が溢れているな。こいつめ……泣きたいのはこっちだ。


「げほっ、ごほ!あー、久々に死ぬかと思った」


「お、お前えぇーっ!よ、よくも私の口の中で好き勝手……っ痛あっ!くうぅ~っ!」


膝をつきながら足をじたばたさせるドラゴン。このくらいでギャーギャー騒ぐなんて大げさな奴だな。こっちは何回も何回も死にかけたってのに。


「そのくらい水に流せよ。死にかけた俺よりはマシだろ?」


「お前と私では存在価値が違います。それに私の舌にある感触……お前武器を落としましたね?それも2つも!この痛みは何倍にもして今から返してやりますよ!覚悟なさーい!っつうぅ……!」


「ま、まだやる気かよ!?」


タフすぎるだろこいつ!しかも俺の武器は二つともあいつの口の中……いや待てよ2つ?確か水鉄砲は1つだが、エクサスターガンは2つ持ってたはずだ。もう一本は内側の隠しポケットの中のはず。


「あ、やっぱりまだあったか」


「なっ!?」


「疲労が大きいが仕方ねえ。覚悟しやがれ……っておい」


おもちゃの光線銃を見た途端、物凄い速さで背を向けるドラゴン。片手をこっちに突き出して制止のポーズを取っている。加えて尻尾を振り回しているが……多分威嚇しているようだ。


「おい」


「……わかりましたよ。もういいです。結構です。水に流しましょう」


「いや、水に流すならこっち向けよ。聞くことあるんだけど」


「ならお前、勝手に口の中に入ったりしませんね?」


「誰が入るか!」


背を向けてまで口への侵入を防ぎたかったのか……。どうやら俺が口内に入ったことが相当堪えたようだな。こっちを向いてもなお目から出る涙が止まる様子はない。そ、そこまで痛みが長引くものか?やりすぎだとは思わないけど、泣かれるとちょっぴり悪いことした気になってくるな。




部屋の中央に俺とドラゴンが座り、ようやく話し合いができる状況になった。まあドラゴンは座るというか伏せてる感じだが。……いや伏せてるっていうかうなだれてるな。顔も尻尾も地面にべったりだ。しかも結局こっち向かずに横向いてるし!目だけこっち向けやがって!


「まず確認だが、信仰生物を増やしてるドラゴンはお前か?」


「お前にお前呼ばわりされる筋合いはありませんね。私は由緒正しきジパンレイドラゴン。ドラゴン様と覚えておくことです」


「そこ名前じゃねーだろ」


「図々しいですね。質問の答えですが、信仰生物の誕生を早めているという意味では私で間違いありませんよ。とある崇高な目的にために信仰生物を外に送り出しているのです」


「その信仰生物が増えると困るから止めに来たんだよ。直ぐにやめないようなら日を改めて再戦に来ることになるが……」


「まあ待ちなさい。実は、私には探すべきドラゴンがいましてね。私はこの電子界から出ることができないので、代わりに信仰生物に探させていたのですよ」


「なんだって?いやでも、あいつら地球で悪さしてたぜ。皆手伝う気ないんじゃねのーか?」


俺の知ってる限りだと、信仰生物の3人は自分の目的のために動いてる感じだった。少なくともドラゴンの心当たりを聞かれたことはないはずだ。信仰生物の連中がこのドラゴンの人探しを手伝っていたとは思えないな。


「そう、ホントそう。役目のために送り出した信仰生物は帰ってきていません。唯一、お前が来る前に正者という信仰生物は戻りやがりましたが。奴は私の友を狩ったなどと戯言を並べた挙句、即座に異世界の出入り口に飛び込んで逃げていきましたよ」


「ああ、やっぱり正者はここに来てたか」


「私が、お前を襲ったのもそういう経緯があったからです。お前も正者も目障りな緑色ですし、ましてやお前は信仰生物そっくりです。……同じ過ちを繰り返さないために仕方なく、魔法でお前を従属にして自由に呼び戻せるようにしたかっただけです」


「え、勝手にそんなことする気だったのか?」


こいつもしかして相当クズみたいな性格してるんじゃないか。そりゃ信仰生物たちも戻らないわけだ。ただでさえ癖が強いっていうか扱い辛そうな連中だしな。


「悪気のない私にお前は危害を加えました。……でもお前が望むなら、贖罪のチャンスをくれてやってもいいですよ?」


「それより信仰生物を増やすのやめろよ。ドラゴン探しなら少しは手伝ってやるからさ。俺の知り合いかもしれないぜ」


「電子界のドラゴンがお前のような男を構うわけがないでしょう?いや……いい余興です。お前の知り合いのドラゴンの名を挙げてみなさい」


「えーっと。まずゲニウスだろ」


「ゲニウス?ああ、魔学科法とかいう大したことなさそうな分野を研究している奴ですね。あのドラゴンは電子界でも特に地味な奴でした。お前の知り合いだとしてもとても納得できます。でも私が探す相手にはなり得ませんよ!」


「あとは皿々だな」


「……え!?さ、皿々ちゃんのこと知っているんですか!?ど、どこですか!彼女は一体どこに居るんです!」


「え?お前が探してる奴って皿々なのか!?」


「そうです!早く教えなさい!」


名前を挙げておいてなんだが、あいつだけは絶対ないと思ってたんだが。だって話聞いてた感じだと電子界のドラゴンは凄いみたいな言い方だったし……。盗賊とか錬金術とか怪しさしかない奴のイメージではないよな。


「あいつなら特星にいたよ。色々な場所で見かけるけど基本的に帝国のイメージだな」


「特星だって!?わ、私の魔法では感知できない範囲です。……どうやらお前、私に利用されるだけの価値を有しているみたいですね。名乗ってもいいですよ」


「いや……。なんかお前に迂闊なこと言うのは怖いからいいや」


このドラゴンは魔法で俺を従属にするとか言ってたが、最初にやたら降参を勧めてきていたはずだ。負けを認めて服従しろ的なことを言ってな。セリフが発動条件の魔法を使えるっぽいし、こいつに自分の個人情報を話す気にはなれないぜ。


「ふふふ、黙秘しようが無駄なことです。私はお前が生まれる前から地球を見守っています。お前のことはすでに察知しているのですよ、雷之 悟」


「じゃあわざわざ名乗らせたってことは、やっぱり魔法で悪さする気だったな?」


「え?いえ社交辞令として名乗る機会を与えただけですよ。……何失礼な勘繰りをしているのですかお前は。私がお前のような奴に策を弄するはずがないでしょう?身の程を弁えなさい」


「ああそう。俺はとりあえず皿々にお前のこと伝えてくるから、今日からは信仰生物を増やすのはやめておけよ」


「……もう帰るのですか?私は忙しい身ですが、お前と話すくらいの時間なら用意してやってもいいですよ。本来はお前のような奴の話し相手などしないのですが、久しく外の話を聞いていないですから。特別に耳を傾けることもやぶさかではありません」


「いや、悪いけど今は忙しいんだよ。信仰生物が出なくなったって校長や特星本部長に伝えねーとだし。ま、皿々にはちゃんと伝えとくからそっちから聞いてくれ」


事件の真相とか聞きたいところではあるが、俺を特星に送れる校長や希求を待たせてるからな。もしも帰還するタイミングを逃してしまえば、指名手配中の地球で逃亡生活をする羽目になっちまう。


「そ、そうですか。んー……ではお前にこれを預けておきます」


ドラゴンが座ったまま両前足を合わせて離していくと、両手の中間に丸くて薄い物体が出現する。あれは洗面台とかに置くタイプの鏡じゃないか?


「これは現実と非現実を渡ることのできる魔鏡。エネルギーの少ない状態でこの鏡に飛び込めば、電子界のどこかへ出られますよ。お前が皿々ちゃんを連れてくるときに使うといいです」


「おお、そいつはありがたいな。皿々に瞑宰県のどのタイルの下かを教える必要がなくなるから助かるぜ」


電子界の入り口は瞑宰県のタイルの下にあるからな。俺が案内するにも、地球だと指名手配に近い状態だから多分無理だし。でもこれで特星から電子界に入れるってわけだ。


「あくまで預けるだけです。例え皿々ちゃんが来れなかったとしても、お前は責任を持ってこれを返しに来るのですよ?私の私物なのですから必ず返すように」


「え、ええ……。いやでもこれは必須アイテムだしな。別にいいけど、俺は地球で指名手配中だから少し時間掛かるぜ?」


「なら年に1日でもいいので報告に来ることです。お前が約束を反故にしないとも限りませんからね。きちんと報告を続けるのであれば、私はお前を信じて信仰生物の出現をむしろ抑えてあげましょう」


「そのくらいなら別にいいんだけどさ。……ただなんかお前、皿々を呼べないこと前提でその辺りの話を進めてないか?」


皿々を電子界に呼ぶことができれば、1回この鏡を電子界に届けるだけで俺の用事は済むだろう。だが皿々を呼ぶことができなければ、俺は毎年1回は電子界に報告に向かうことを義務付けられてしまう。……こいつ、俺を電子界に縛り付けるつもりか?


「信仰生物の出現を止める約束をしたなら、お前にも立場というものがあるでしょう?皿々ちゃんは約束を破っても失うものはないけど、お前にはあります。……悪く思わないことですね。お前のような久々にやってきた友達の代用品を私は逃すつもりはありません。ずっと私の手中に収まっていなさい、雷之 悟」


「1年に1日使わせるだけだけで手中扱いって、安っぽい友達観だな。……まあよかったよ。義務やら立場やらで動かそうって程度なら何とでもなるってもんだ。魔法だったら冷や汗ものだぜ」


「早く鏡を受け取りなさい」


「ああ。しばらく貰っておくぜ」


ドラゴンから大きめの鏡を受け取る。俺の身長の半分くらいのサイズはあり、移動することを考えるともう少し小さめのものにしてほしかった気がする。……この鏡の材質、凄く丈夫そうだ。


「で、帰り道はどっちのだ?見たところ魔法陣っぽいのが二つあるけど」


俺が遠くに目をやると、部屋の隅の方に魔法陣らしきものが描かれている。更にその反対側の部屋の角にももう1つ魔法陣が描かれている。片方が赤い魔法陣、もう片方が青い魔法陣だ。


「瞑宰県には私の力でしか帰れませんよ。お前の都合を優先する義理はないですが、皿々ちゃんのこともあります。今日は帰してあげましょう」


「ん?うおっ」


ドラゴンの目が光ったかと思うと、俺の足元から緑の光が放たれる。いつの間にか足元に緑の魔法陣が描かれており、そこから溢れる光のようだ。


「信仰転送の魔法です。お前くらいのエネルギー量なら地上まで一瞬で送れますよ。魔境も時間差転送してあげます」


「ああ」


「次からのお前は一応客ですからね。聞きたいことを精一杯考えておきなさい。客人としての最低限のマナーです」


「帰り際だから言うけど、面倒くさい奴だなお前」


別れの言葉を言い終えると同時に、俺の体が浮かんでいく。辺りの景色が完全な闇に包まれていき、瞑宰県の夜中の景色が周囲に浮かび上がってくる。


「……帰ってきたか。寒っ!?はっ!?よく見たら俺全裸じゃねーかよ!?完全消滅した体は元に戻ってるようだが、ひええ、このままじゃ凍死するーっ!」


瞑宰県に戻って来れたようだが、電子界で着ていた筈の装備一式が完全に無くなっている!瞑宰県に出たおかげで人目につくことはまずないだろうが……。いやマジで凍え死ぬ!しかもコートがないからまたすぐ消滅するだろこれ!


「お兄ちゃん!はい服」


「うお希求!」


いきなり希求が現れたかと思うと、俺の装備が復活する。ナイスだ希求!何だかんだで本当頼りになる妹だぜ。危うく凍死とコート死で無様な姿を晒すところだった。


「ふーっ、おかげで助かったぜ希求」


「私の特殊能力は電子界まで届かないから出遅れちゃった。お帰りお兄ちゃん。特殊能力で記憶を読んだけど信仰生物増加を止められたみたいだね!」


「ああ。おかげで面倒ごとを押し付けられたけどな」


「この鏡が噂の魔境だね」


希求に言われて、背後に置いてある魔境の存在に気づく。あのドラゴンめ、どうせなら着替えも全部送りやがれっての!真冬に全裸でこんなデカい鏡持ってるとか変質者じゃねーか!


「希求、悪いけど魔鏡ごと俺を寮の部屋まで送ってくれないか?電子界でのダメージが大きいのか調子がよくないんだ」


「大丈夫?着いたけど」


「は、早いな」


相変わらず希求の特殊能力は桁違いの性能だな。周囲はすでに俺の部屋の中だし、何ならすでに魔鏡の取り付けも終わっている。手際がいいな……。


「じゃああとは報告に行くだけか」


「あ、それも大丈夫だよー。さっき記憶を読んだ時に御衣ちゃんに必要分は報告しといたから。校長先生にも後で連絡がいくよ」


「お、おう。じゃあもう用事は終わりか」


「お兄ちゃん泳いだときに血だらけだったみたいだけど、エネルギーの少ない電子界での出来事だから今は汚れてないし。ほぼ消滅状態から実体化したからお風呂も必要なさそうかな。あ、でも一応沸かそうか?」


「体は新品ってことか。じゃあいいかな。疲れたから寝るよ」


「うんわかった。私は御衣ちゃん達に用事があるからもう行くねー。お兄ちゃん、次に私と会うときを楽しみにしておいて!」


「んー?よくわからんが覚えとくよ」


何か意味深なことを言い残して希求は部屋から姿を消す。何のことかはよくわからんが、とりあえず今日の本来の目的である雑魚ベーの救出は成功したんだ。信仰生物の出現もひとまず収まることに決まった。指名手配されてしばらくは地球に戻れないだろうし、いつも通りの特星生活が始まるだろう。


明日辺り雑魚ベーに顔合わせて、皿々もできれば探すかな。ふああぁ……。

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