五話 百年を渡る禁婚祭 ~さらわれた雑魚ベー
@悟視点@
特星本部の談合室の中、俺と校長と特星本部長である御衣の特星重要人物3人組で、昨日までの地球旅行の反省会が始まった。
だが、昨日の地球からの帰還で疲れが残っている中、いきなりこんな話が出てくるとは思わなかった。まさか……雑魚ベーが誘拐されていたなんてっ!
「私が悟君にあんなお願いをしたばかりに、友人である雑魚ベーさんが。……悟君、本当に申し訳ないです。特星外では軽率な真似を控えるべきでした」
「雑魚ベーか。雑魚ベーかぁ~っ。……あんなの誘拐して、犯人に何のメリットがあるって言うんだ?」
「挙式を行うみたいですよ。あと、校長さんは早く気持ちを切り替えてくださいね」
「はい」
「挙式……?ああ、そうだっ。結婚式のことだな!」
「まあ、そういうことですね。……実は悟さんたちがロケットで帰還したあと、日本全国のテレビ局がジャックされて、その際に犯人からの犯行自白が行われたみたいです」
てか、雑魚ベーと結婚式するために誘拐だって?なんか変だな……。確か雑魚ベーの奴は大メインショット郷国の出身で、そのまま特星に移住して、その後はほとんど特星内で生活をしていた筈だろ。そして俺との旅行では、地球に行くのは初めての様子だった。……奴に、地球に住んでいる人間との接点があるなんて、思えないんだけどな。
「……日本全国のテレビ局乗っ取りのおかげで、日本では兄……第二の正者が現れたのではないかと噂になっていました。黒悟さんの報告通りなら、実際現れたことには間違いはないのですが」
「あれ、校長にも正者の話届いてたんだ。皆、校長には秘密で調べてるみたいだったけど」
「事態が大きくなったので私が話しましたよー。瞑宰県テレビ局襲撃の件も、日本中に知れ渡るほどには話が広まっていましたから」
瞑宰県テレビ局襲撃か……。あれはロケットでの帰還中に起こったことだから、日本中のテレビ局ジャックよりも前の事件だってことだよな。やっぱり二つの事件はなにか関係があるのか?
「とりあえず、日本全国テレビジャックで流れた映像を録画したものがあります。私の特殊能力で画面を映すので、見てみましょう」
御衣が手を動かすと電気が消え、画面も放送器具もないのに鮮明な映像が表示される。……空中に画面を表示させてるな。本部長だけあって何でもできる万能特殊能力とか、なんかずるい。
[のニュースは……やっほー、これで映ってるかな?]
ニュース放送を行っていた画面が突如切り替わり、女子小学生くらいの女の子の顔のアップ画面が映し出された。……え、まさかこの子供が雑魚ベーを誘拐した犯人だってのか?それと……こいつの白髪、色落ちしてる感じじゃなさそうなのが気になるな。
[あ、オッケー?ではあらためて、地球のみんなこんにちは!私の名前はテーナ。眠れる王子様との禁断の恋を求めて、今日は地球にやってきたんだよっ。そして、その王子様がこちら!]
テーナが横に移動して、部屋の様子が映し出される。あ、あれは確かに雑魚ベー!木造っぽい部屋に置かれたベッドで、意識を失ってるみたいだ。息はしてるっぽいから多分寝てるな。
[うふふふふ。素敵な寝顔で寝ちゃってるねー。あ、それで、私たちの結婚式はこの……えーっと、…………国の名前は聞いてないって……この、日本?日本、全体に放映するからよろしくねーっ。生の配信らしいって。放映時刻は……読めない…………3日後のお昼に結婚するよ!じゃあね!……放映がジャックされて、あ、今現在、番組ジャックが終わったようです!ニュースを]
「……雑い!」
「「ですよね」」
な、なんだ今の事前準備の全くなさそうな配信は!後半、雑魚ベーの寝てる姿を映したまま話を進めてるから、音声だけの配信みたいになってたぞ!こんな手抜き放送のために、日本全部のテレビ放送を乗っ取ったってのか?
「てか、誘拐しなくても別にいいじゃないか。あんな子供に告白されたら、雑魚ベーなら即OKして当日中に結婚くらいするんじゃないか?呪いがあるから破綻しそうだけど」
「今の放送の重要ポイントをまとめますとねー。まず、主犯格のテーナさんの素性はわかっていること。画面外に仲間がいること。タイムリミットがあと2日なこと。この放送は日本語で放送されなかったこと。私の特殊能力を妨げる手段が向こうにあること。……こんなところですね」
「ん、日本語放送だっただろ?翻訳済みなのか?」
「悟君。私たちは高性能翻訳アメを食べて、外国語や異世界語を日本語として認知しているのです。大事なことなので頭の片隅に入れておくといいですよ」
「ああ、そっちか。じゃあテーナってやつの素性を教えてくれ」
「特殊能力妨害で直接干渉はできなかったのですけど。ざっというと、雑魚ベーさんの妹さんのようですね。テーナ サイドショットさんと言います」
「雑魚ベーの妹だと?……そういえば、大メインショット郷国で聞いたことある気がするな。あんな顔だったのか」
雑魚ベーの妹にしては、雑魚ベーやセーナとは違って白髪なんだな。レーガのじじいも白髪ではあるけど、あっちは色落ちした白髪だからまた違う気がするし。あのテーナってやつは、いわゆる銀髪っていうのに近い気がする。
「テーナという人を知っているというのは、本当ですか?実は、異世界を行き来しているらしくて、私たちの特殊能力でも足取りがつかめていないんですよ。大メインショット郷国に聞き込みできそうな人も本部に居ませんし。今すぐ情報提供お願いします!」
「本部長って希求と同じ特殊能力なんだろ。説明面倒だから、能力で勝手に読み取ってくれよ……」
「あ、そういうの気にしないんですね。では、終わりました」
「「早い」」
でも、超強い特殊能力持ちの御衣よりも情報を持っているってのは気分がいいな。主人公の面目躍如って感じだ。
「放映云々より、雑魚ベーさんの救出班を早く決めてはどうでしょう。御衣君は今回も、出向くことはできないのですよね?」
「そうなんですよねー。特星からの地球渡航禁止を命じている真っ最中なので、その対応で。特殊能力で送り込むにしても、地球出身者でないのなら私の判断で却下させていただきます」
「特星本部からは厳しそうですね……。私の同世代の地球出身者たちも、兄や異世界が絡むと消極的になりますし。天利さんや皇神も今回は腰が重そうです」
「大メインショット郷国への聞き込みも、その辺が課題ですからね。道中で死ぬ可能性がある以上、無理に送り込むわけにもいきませんから」
なんか、特星の事件の指揮現場って初めて見たけど、大変そうなことやってるんだな。それに、無理やり送り込めないなんて決まりがあるのか。……いつも特星本部の対応が遅いわけだ。
「ま、他にいないなら仕方ないな。俺がもう一回地球に乗り込んでやるか」
「「あなたはダメです」」
「え、えぇっ!?な、なんで?」
「そういえば、まだバッドニュースの1つ目でしたね。2つ目のバッドニュースは悟君たちがやっちゃった方を伝えましょうか」
「先ほどお話しした、瞑宰県テレビ局襲撃の件。事実は恐らく、テーナさんが雑魚ベーさんを誘拐する際に襲撃したものと思われますが。……残念ながら、悟さんが容疑者として指名手配されています。あと雑魚ベーさんも」
「な、なにぃ!?」
お、俺が地球での容疑者だって!?ば、バカなっ!俺はテレビ局敷地内の監視カメラには常に注意を向けていたはずだ!勿論、ロケット打ち上げ場でもだ!侵入がバレるはずないのに、どうしてだ!?雑魚ベーも容疑者ってことは、……いや、地球にいたときはずっと一緒だったから、わからねー!
「く。一体何が原因で、そんなことに!」
「県長さんからの報告によりますと、総括局長室のカメラに姿が映っていたとか」
「いや、俺は常にカメラに注意を……総括、局長室だって?」
局長室といえば、確か秘密の隠し通路がある部屋で……。ああああっ!そ、そうだ。確か雑魚ベーから秘密の隠し通路があると聞いて、探索した部屋じゃないか!確かあの時、俺は地下への出入り口を探すために、最初から床ばっかり調べてたはずだっ!監視カメラがあったのか、あの部屋にっ!
「も、盲点だった。隠し要素の近くにカメラ置くなんて……」
「あと、副局長室でも目撃証言がありますね」
「演技までしたのにバレてるし」
「悟君。私の口から言うのもなんですが、指名手配されているからには大人しくしていましょう?友達が誘拐されて助けに行きたいのはわかりますけど。ね?」
「こ、校長ーっ」
「あとお二人には、瞑宰県テレビ総括局長の誘拐容疑も掛かっています。校長さん風にいうと、バッドニュースその3ですね」
「これは悟君たちには……、まあ、非はないので気にしないでください。局長さんと偽正者さんの仲間割れの結果ですから」
結果的に局長が特星まで来たのは、正者の策略にまんまと嵌められたからだったな。そうか。局長は現代地球では地下都市開発で有名だから、地球から居なくなると問題になっちまうんだ。まあ素晴らしいマシーンの考案者だし、このまま特星に置いておけばいいんじゃないかな。
「局長は元気なのか?地球では味わえないダメージに腰が引けてなきゃいいけど」
「特星内なので体調は当然大丈夫です。偽正者さんに関するお話も聞けましたよ」
「私も彼の噂は聞いてましたけど、あんなにロマンあるマシーンを語る方だとは思いませんでしたよ。主に隠し要素が」
「お、話が分かるな校長。俺も局長のマシンの話を聞いたときには感服したんだよ!主に隠し要素に感服したぜ」
「私も過激な恋愛モノとかはどこまでも追及してほしいので、ホログラムマシンの機能を聞いたときは心が躍るようでしたねー。主に隠し要素のおかげで」
おお、さすがは特星の重要人物たちだ。技術への可能性みたいなものをよくわかってるじゃないか。こりゃ特星の未来も安泰だな。ま、地球にいたときほどの気分の高まりは感じないけど。
「バッドニュースの4つ目ですが、番組ジャックの容疑が、悟さんと雑魚ベーさんに掛けられています。……加えて、局長誘拐の有力容疑者である雑魚ベーさんがテレビに映っていたので、一緒に出演していたテーナさんも誘拐されたのではという疑惑が出たらしく、児童誘拐の線でもお二人は追われているそうです。これが5つ目」
ノリノリで番組ジャックをしていたテーナが、誘拐されたと思われてるのか。ま、地球人の常識で言えば、あの年齢の子供が電波ジャックするなんて発想は出てこないだろうからな。……そういえば、エイプリル事件って子供正者が起こして、映像も残ってるはずなのに、信仰集合体の正者は大人の姿だったな。その辺も地球人の感性が影響してそうだ。
「悟君。これだけ騒がれている君が地球に行けばパニックは避けられません。辛いとは思いますが、今回の救出作戦は我々にお任せください」
「うむむ。今回ばかりは仕方ないな。特殊能力が使えない以上、地球で警察を撃破する手段がないわけだし」
「悟が行けないというのなら……雑魚ベー救出は、私たちに一任してもらおうかっ!」
[ばぁん!]
「なにっ!雨双!?」
「雨双君!?」
突如、会議室のドアを開け放って現れたのは雨双だ!雨双のやつ、俺たち重役の会議を部屋の外でこっそり聞いてやがったのか!
「地球出身の私は地球の常識に心得がある。どこぞのコート男とは違って、問題を起こすことなく無事に雑魚ベーを連れ帰ってやるさ」
「なんだとっ。ふん、確かに指名手配されてないお前なら、警察を相手にする必要はないだろう。だけどな雨双、地球では人前で特殊能力を使えないのさ!特殊能力の使えないお前に、あのテーナってやつを倒す手段があるとは思えないけどな!」
「お前に言われるまでもないな、悟。……確かに特殊能力が取り柄の私にとって、地球で特殊能力が使えないのは致命的だ。私では並の地球人にすら勝てないかもしれない。だから非常に不愉快なことだが、助っ人を頼ることにした」
「そこで僕の出番というわけです」
「げっ、羽双!?」
い、いつの間にかトビラとは反対側の壁に羽双が立っていやがる!多分、雨双がドアを開け放った後に時間を止めて入ってきたんだろう。止まった時間を移動されては俺でも捉えることは不可能だ。
「ぱ、羽双君も行ってくれるのですか?戦力的には申し分ないというかオーバーパワー過ぎる気がして、少々不安なのですが」
「今回僕はサポートに徹するつもりなので安心してください。それと……、雨双さんはともかく僕は学生という立場ではありませんので。校長さんの指示に従う理由はまったくありません。僕の師は魅異さんだけですので」
「あ、はい」
「ちなみに魅異お姉ちゃんの妹で、特星本部長でもある私もいますよー」
「そうですか」
「正直、バカ兄よりも地球での活動に適したやつはあまりいないと思うぞ。日本好きでよく地球旅行してるし。時間を操る特殊能力を使っても時止めなら知覚はされない。それになによりも……特殊能力が必要ないくらい強いことは、私も認めざるを得ない」
「今回僕は戦いませんよ。僕は雨双さんに頼まれて仕方なく、救出のサポートだけならという条件で手伝うことを引き受けました。人質を救出するのも敵を倒すのも雨双さんの役目です」
羽双に雨双のコンビか……。正直、羽双一人で救出に向かったほうが安心感があるというか、あいつ一人いれば黒幕連中を殲滅できると思うんだけどな。まあ、あのふたりは癖があるというか素直に協力する性格でもないだろうし、雨双が嫌々頼んで羽双が仕方なく引き受けたから、雨双メインの羽双サポートっていう組み合わせになったんだろう。多分。
「ふふふふふっ。兄妹の結婚に、兄妹の共闘だって?その話……私も乗せてもらうよっ!」
「うお、希求っ!?」
「希求ちゃん!」
何の前触れもなく、希求が談合室の机の上に出現した!……羽双もそうだけど、よくもまあ特星本部の一室にいる俺たちを探し当てられるもんだ。俺と雨双以外の全員が万能特殊能力持ちだから当然のようにいきなり出現するし、すげーメンツだな。
「やっほー御衣ちゃん。それに久しぶりだねお兄ちゃん!ふっふっふ、どこぞの兄妹が禁断の結婚式を挙げるって聞いて、対抗しにきたよ!」
「本当ですか?希求ちゃんが協力してくれるのなら心強い……え、対抗?」
「そうそう。私とお兄ちゃんよりも先に禁断の恋を成し遂げようだなんて、そうはいかせるかって話さ!だから私たち雷之兄妹が、その結婚式を乗っ取っちゃおうと思ってね!」
「き、希求……。禁断のなんとやらにもツッコミどころは多いが、それは置いておくとしてもだ。悪いが、俺は地球で指名手配中の身。それに今さっき、地球への渡航禁止を言い渡されたところなんだぜ」
「というか、日本では兄妹の結婚は認められてなかった気がするんだが。テーナとやらといい、悟の妹といい、家族との関わり方がおかしくないか。普通は私たちのようにぎくしゃくした関係になるはずだ」
「私たちを普通と一緒にしないでよー!私はヒロインで、お兄ちゃんは主人公!つまり、私とお兄ちゃんが禁断の恋に落ちることは運命!指名手配だの渡航禁止令だの……そんなものは、恋の重さとパワーでぶっ潰しちゃうよっ!兄妹の結婚禁止なんてのはむしろ望むところだね!だからこそやっちゃおうって話だもんっ」
……前から薄々と感じ始めていたことだが、やべーなこいつ!いつも協力的だし好意的だし強すぎるから、味方としては物凄く心強いことは間違いない。だけどなんか……具体的なことはわからないんだが、いつかは道を踏み外してしまいそうな、そんな気配がする!それを感じ取ったのか、場も一気に静まり返っちまったよ。
「……それでどうします?僕は構いませんよ。悟さんたちと4人体制で救出に向かっても。僕は雨双さんのサポートを重点的にするので、それでもよければ」
「仕方ないですねー。希求ちゃんが行きたいというなら、私には認めることしかできませんよ。止めたって勝手に行っちゃいますもん。……でも希求ちゃん、地球での痕跡はちゃんと自分の特殊能力で後始末してくださいね。私、絶対に手伝いませんからねっ」
「オーケー御衣ちゃん!一蓮托生で頑張ろうね!」
「もー、せめて頼らない素振りくらいは見せてくださいよーっ」
「私は、やはり偽の兄を追いかけます。こちらの班は私だけで結構ですよ。波動を操る能力は、私一人の方が幅広い使い方ができますからね」
「私は当然、雑魚ベーの救出班だ」
「俺は雑魚ベーの救出にも向かいたいが、黒天利との決着をつけたくもあるんだよな。……ってか、黒天利の情報が出てない気がするが、どういう感じなんだ?」
「え、これはまた随分と懐かしい名前を持ち出しましたね。もしかして今回の件と関係あるんですか、悟君?」
「校長さんご存じなのですか?私は初耳で……どうやら私の特殊能力調査が効かないので、偽正者さんと同じく敵で間違いなさそうですね」
「お、本当だ!私の特殊能力が通じないなんて初めてだよっ、御衣ちゃん!」
あ、あれれ?もしかしてこいつら、黒天利の情報を掴んでいないのか?とはいえ、俺も正者からの伝聞で聞いただけだからなー。あいつには一度騙されてるし……つーか、特殊能力が通じないって何の話だろう?特星上位者である希求や本部長の特殊能力が効かないなんて、あり得るのか?
「特殊能力が効かないって話は初耳なんだが」
「そういえば話していませんでしたね。実は、今回の敵には特殊能力を妨害する術があるようなのです。校長さんの特殊能力は勿論のこと、私や御衣ちゃんの特殊能力も通じません。……ですが逆に、通じない範囲が限られているので、おおまかな敵の位置はわかります」
「ま、マジか……!いやでも、どうせ地球人の前で特殊能力を使えば、記憶を消されちまうんだ。俺の場合はほとんど関係ないな」
「私も同じく。特殊能力を使えないからバカ兄を呼んだんだからな」
「特殊能力の露見というのは、使用者が露見するとダメって感じですか?例えば、使用者はわからないけど、特殊能力無効化範囲内の人が時間停止に気づくのは?」
「それは大丈夫です羽双君。そもそも判定する側が時間停止してしまうでしょうから、地球人に現場を見られても大丈夫かと。ただ、絶対あってはならないことですけどね」
「では僕も問題ありませんね」
時間停止してしまうってことは、少なくとも変人みたいな実力者が担当ではなさそうな感じか。希求の特殊能力で判定してる人かシステムかを無力化すれば、記憶消失を気にせずに特殊能力を使うことができるかもしれないな。
「……へー。地球での特殊能力の使用判定と記憶消しって、こんな風な構造になってるんだねーっ」
「希求ちゃんー?それは一応、一般公開禁止の情報ですから。覗くのはいいですけど絶対に他言しないでくださいよ」
「へへへ、私がそんな掟破りをするわけないじゃん。御衣ちゃんは心配性だなぁ」
「それで結局、黒天利さんとはどういう人なんでしょうか?校長さんから情報共有してください」
「黒天利というのは、一番最初の悟ンジャーにおける天利さんの役名です。特撮である初代第一期の前身ともいえる、舞台版だけに登場した名前ですね」
「そ、そうだったのか?悟ンジャーはローカル放送限定の初代第一期、全国放送の初代第二期、俺らが変身したりする現実版ともいえる二代目悟ンジャーがあるが……。正直俺は、初代第一期関係にはあまり詳しくないから、わからなかったぜ」
舞台版悟ンジャーか……ローカル放送の前身ということは、テレビ局長が言ってた権利元の作品みたいな話は舞台版のことだったんだな。
そういえば随分と昔、俺が寮に引っ越すよりも前……、覚えがないのに舞台での活躍とやらを褒められていたような気がするな。色々と買ってもらえるから俺の手柄ということにしていたが、あれはボケ役が舞台版悟ンジャーで活躍していたから、そういう話になってたのか!
「はぁ……長くて濃い話になりそうだな。私は廊下で待ってるから、後で要点だけ伝えてくれ」
「わかりました。僕は興味あるので後で伝えますね」
雨双が呆れたように部屋を出ていく。まあ、悟ンジャーは人を選ぶ内容だからな。全国放送版なんか要点だけまとめても語り尽くせやしないぜ。
「思えばあれが全ての始まりでしたね。舞台に全てを懸ける天利さんと、信仰集めに全力を注ぐ皇神の板挟みにされて、私は」
「あ、概要はわかりましたから校長さんはもう結構ですー。次は悟さんが知っていることを話してくれますか」
「おう。つっても、正者のやつが言ってたことだから嘘かもしれないんだけどな。俺が正者にロケット内まで追い込まれた後、奴は画面越しに言ってやがったんだ。自分は局長の他に、黒天利と、それともう一人とも手を組んでいるって」
「おお、なんという新情報!つまりはお兄ちゃん、私たちはラスボスであるお母さんを倒して、結婚を認めさせなくちゃならないってことだね!」
「い、いや違うんだ希求。黒天利ってのは、昔の天利の信仰に巣くう信仰生命体!俺たちの知ってるラスボス天利とは別のやつなんだっ」
「信仰生命体……僕の父や母みたいな力を持っているということですか」
「無双や流双とは違って、存在全部が信仰みたいだけどな。どっちかというとコート神の俺に近い感じだと思う」
「信仰生命体ですか。今、特殊能力で調べてみましたが、確かに特星内にもわずかながら存在しているようですねー。特星本部のデータには詳しいことは乗っておらず、人型で細かいデータがあるのは悟さんくらいのものです」
「発生原因は地球の莫大なエネルギーみたいだよ!宇宙の中心なだけあって、とんでもないエネルギーが地球の範囲内に眠っているねー。地球のー……うーん、エネルギー量が強すぎて私の特殊能力でも追いきれないねこりゃ。特殊能力妨害とはまた違う感じ」
「悟君のデータの更新は頻繁にされるので、似たような存在である信仰生命体への特星内での対策は容易でしょう。ですが地球にいる相手となると……、基本的には管轄外。個人で倒しに行くしかありません」
……なんか話が大きくなっている気がするな。発生源なんか調べなくても、とりあえず黒天利たちを倒せばいいんじゃないか?
「僕らの相手のテーナというのは、その黒天利さんと偽正者さんの仲間なんですかね」
「どうだろうなーっ。テーナは正者のやつを爆破してたからな。……あ、でも正者はテーナのことを知ってるような口ぶりだったな。多分仲間なんじゃないか?」
「ですが地球で仲間を爆破なんてするのでしょうか。いやまあ、偽物とはいえあの兄ですから、私なら加減して爆破しますけれども」
「甘いね校長!私に先駆けて禁断の恋を成し遂げようとしてる子が、正者を爆破したんだよ?動機は当然、テーナって子のお兄ちゃんにまつわる何かに違いないね!禁断の恋スペシャリストである私の勘がそういっている!」
「局長さんの話では、雑魚ベーさんの足が撃たれたそうですよ。重い恋の話なら、その傷をつけた相手に復讐するという展開があってもおかしくありませんね!」
「わかりました。複数人相手を想定して動きますね。では僕は色恋沙汰には興味ないので、これで失礼します」
おや、羽双も部屋から出ていったな。さっきは興味があるから残るって言ってたのに。もしかしてあいつ、悟ンジャーの話に興味があったのか?
「ではそろそろお開きにしましょう。私も特星本部長としての仕事があるので、あまり長くは話していられませんから」
「それより御衣ちゃん。私たちはいつ出発すればいいの?」
「地球に渡れる校長さんや希求ちゃんの自由でいいと思いますよー。私に言ってくれれば、好きなときに送ることができますけどね」
「だってさ。どうするお兄ちゃん?さっそく行っちゃう?」
「ちょっと休憩してから羽双たちと一緒に行こうぜ。話が長くて混乱しそうだ。……テーナの居場所は世界樹付近だよな?」
「そうですねー。世界樹を中心とした付近には、私たちの特殊能力が通じませんから。テーナさんは間違いなくそこにいると思いますよ」
「偽物の兄の反応もないんですよね。多分、特殊能力封じの範囲内に兄もいるみたいです。地球までは全員一緒に移動して、私はそこから別行動しますよ」
「お、校長も一緒か。じゃあ休憩後に全員で地球に移動ってことで」
予想よりも多い人数で、再び地球に再突入か。
雑魚ベー!怪我をしているとはいえ、あんな子供に誘拐されて強制結婚までさせられるとはふがいない奴だ!だが、俺はそんなお前でも見捨てやしないぜ!黒天利たちの思い通りにさせないためにも、必ずお前を救出してみせる!