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変な星でツッコミ生活!?  作者: 神離人
本編:新しき地球への帰還
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四話 不可逆の写し身 ~テレデスビジョン

VRとホログラムを混合していました。→こちらは恥ずかしい。

偶然にも、記憶違いに気がついたので文章訂正。→こちらはラッキー。


前書きで報告する名案は、今さっき思い付いたものですよ。

@悟視点@


到着地点にまで上りついたエレベーターを降り、短い階段を上ると、そこには今にも暗くなりそうな夕空が広がる野外だった。よくある地下通路の入り口につながっていたようだ。……って、あそこに見えるのはロケット!?いや、どちらかといえばあの翼のある形状は、スペースシャトルか?


「どうやら、秘密の地下通路はロケット発射場につながっていたみたいですねぇ。ですがあの形はスペースシャトルじゃありませんか?SFモノで見たことありますよぉっ!」


「ああ。だが、あんなもの瞑宰県のロケット打ち上げ場にはなかった筈だが。って、どこだここ!?」


スペースシャトルに気を取られて今更気づいたが、この打ち上げ場の周り、ある程度の整備はされているが森に囲まれている!瞑宰県は全域が整備されていて、地面もメタリックな床になってるから、木なんか生えてなかったはずだ!……それによーく見ないとわかりにくいが、空がいつもよりも微妙に近くにある。多分、どこかの山の上だぞここ!


「雑魚ベー、ここは瞑宰県じゃない!どこかの県の山の上だ!」


「え、山の上なんですかここ!?」


「ああ。瞑宰県は山も丸々金属床だったはずだからな。それにこの発射場、他の発射場と違って高いフェンスに囲まれていやがる。いかにも怪しい感じがするぜ」


見渡しやすい場所まで移動してみるが、ぱっと見、この発射場には出入り口らしきものが見当たらない。周りの森も、人や自動車が通るための道のようなものはなさそうだ。つまりここは、一般人が立ち入ることの許されない、地下都市テレビ局からのみ侵入可能な発射場!最重要会議とやらをするのにはうってつけの秘境ってわけだ!


「このあたりの施設は、スペースシャトルの真横にある屋根付きの発射場だけだ!あそこがテレビ局長の隠れ家だろう」


「しかし、これだけ厳重な場所に建てられた打ち上げ場です。警備が厳しい予感がしますよぉ」


「いや、この野外を監視してる警備がいねーし、唯一の出入り口にも警備がいない時点でノーガードだろうぜ。隠しカメラや遠距離からの見張りも見当たらなかった」


「でも、悟さんって昔の地球のカメラしか知らないんでしょう?現代の隠しカメラが変な形してたら、見えても気づけないんじゃ」


「あ……。ま、まあ大丈夫さ。特殊能力だとばれないように撃てば、並大抵の地球人相手であれば負けることはないはず。……それに俺たちはちょっと話を聞きにきただけなんだ!それを力づくで追い出すような輩は、倒して情報を聞くのがセオリーってもんだ!」


「そうなんですか?地下都市はそういう雰囲気でもありませんでしたが。……まあ、特星のモチーフになったのがこの日本という国らしいですから、戦闘で話を聞くというのも不思議ではありませんけど」


「特星がモチーフにしてるのは今の日本じゃなくて、エイプリル事件以前の日本文化な。それに敵を倒して情報収集する手法は、天利からの教訓だから、日本文化というより雷之家の文化に近いと思う」


「それだと、仕掛けた私たちが悪者側になるような」


「はん、見逃したはずの局長を実はしっかり捉えていたんだ!地下から局長を探り当てるという俺の方向性は間違っていなかった!今日の俺にミスも恥もないっ!ここまで来たら押すのみだ!」


「……ま、テレビ局も不法侵入みたいな感じでしたし、今更でしたねぇ。では私も、特星に無事帰還するまでしっかりお供しますよぉっ!」




建物の中は広く、そして電灯の光が弱いからか、やたらと暗い。体育館のような室内の中心には、1人の老人風のじじいの後ろ姿がはっきり見えていて、じじいが邪魔だが向かいにいる男の姿もわずかに見えている。


「室内の中心に人影が見えますねぇ。距離がありますけど、こっそり近づきます?」


「へっ、こっちに後ろめたいことはないんだ。正面から堂々と……あれ?」


さっきまでいたはずのじじいの向かいの男がいない!?雑魚ベーへの返答に気を取られた一瞬のうちに、室内の中心にはじじい一人だけが取り残されている……。


「ざ、雑魚ベー。もう一人の男はどこに消えたか見てたか?」


「え?さ、さあ?そもそも私の目には人影が見えていただけで、1人なのか2人なのかもわかりませんでしたけど。2人いたんですか?」


「ついさっきまでいた!だが、今さっき目を離した隙にあのじじいだけになっちまったんだ!」


「誰だ!?そこにいるのはっ!」


「「ぎくーっ!」」


し、しまった!俺としたことが、つい堂々と声を上げちまった。い、いや、どうせカッコいいセリフと決めポーズを見せつけて登場する予定だったんだ。先に見つかろうが大差ないっ!


「ど、どうしましょう悟さん。見つかりましたけど」


「堂々と行くぞ。俺たちは見つかるためにここまで来てるんだ。場違いな態度はむしろあっちだぜ」


「き、貴様らぁ~!ここを誰の土地だと思っている!不法侵入だぞこれはっ!」


「はっ!日も落ちてきたこんな時間帯に騒ぐなって!放送局の人間なら、他人への配慮もちょっとは考えるんだな、局長じじい!」


「なにっ!わしをテレビ局の総局長と知っていて、ここまでやってきたというのか!?な、なにが目的だ貴様ら!?…………金かっ!それともまさか……わしの命か!?ええい、寄るんじゃない!」


おっと。あと数メートルというところで銃を向けられちまった。俺はコートで防げば致命傷は免れるが、心配なのは雑魚ベーだな。局長の銃が小型っぽいとはいえ、防弾装備のない雑魚ベーが銃弾を受ければ、穴だらけの人間噴水になっちまうだろう。俺はそんなもの見たくはないっ。


「やめときな局長。お前が引き金を引くよりも、俺が銃を取り出して撃つ方が早い。……そもそも、俺たちは別に怪しいものじゃない。局長……お前に話を聞くため、地下都市に潜り込み、局長室の謎を解き、隠し通路を見つけ、ここまでやってきた主人公グループっ!それが俺たちってわけさ!」


「しゅ、主人公グループ?…………あ、アイドルユニットにでもなりにきおったのか?いや、それにしても、まさかわしの秘密の通路を見破りおるとはっ!?」


「ふん、あんな子供騙しで、俺たちの目を欺けるとでも思ったか!今思えば、広めの局長室とはいえ、仕事部屋に試着室があるのは少し不自然だった。……お前にもっと部屋のセンスがあって、床下あたりに隠し通路への扉を設置しておけば、こんな事態は避けられただろうに!」


「……本題に戻しますけど、私たちは雷之家のことでお話を聞きにきたんですよぉっ。局長さん、あなたはこれまでに雷之家に対して、なんらかの妨害や嫌がらせ行為をしたことはありませんか?」


「雷之家だと!そうか、貴様たちは奴らの雇った探偵だな!?い、いやだが、さっき銃を持っている的なことを言っていたな……。一介の探偵が法を犯し、銃を持つとは思えない。やっぱり殺し屋か何かじゃないのか!?」


「主人公だって言ってるだろーが!その警戒っぷり、やましい心当たりがあるようだな!」


「今の発言からして、銃の持ち込みがダメなのに、この局長さんは銃を持っているみたいですよぉ。後ろ暗い部分はあるでしょうねぇ。問題は雷之家との関係ですけど」


そういえば、日本は銃の所持が禁止されてるのか。じゃあ確かに、拳銃を持ってるこの局長は完全に犯罪者じゃないか!このまま局長を捕獲して、拳銃ごと役所にでも送り付ければ解決するんじゃないか?……いや、永久に世の中に出てこられないようにしないと、雷之家連中に報復するかもしれないからなぁ。こいつにはそれだけの力がある。……どうしたものか。


「ふんっ。貴様らの調べた通り、わしは雷之家連中を逆恨みしておる。何の非もない今の雷之家に、個人的な理由で鉄槌を下しておることは事実だ。だが今更!ここまできて、わしの復讐を止めるつもりなど毛頭ありゃせんぞよっ!」


「さ、逆恨みですか。しかもその自覚があって、雷之家に酷い仕打ちをしていたんですか!」


「敵対心満々の悪人だな。嫌いじゃないぜ。ちょっとくらいなら事情を聞いてやるよ」


「なんてことのない話だ……。昔、日本中でブームとなった番組があってな。その番組の第1期を、わしのじいさんが若い頃に手掛けておったのだ。瞑宰県のローカル番組としては、悪くはない評判だったらしい」


「局長みたいなじじいの更にじいさんか。相当、昔の番組だな」


「ああ。だが、当時はエイプリル事件の影響で、権利関連が曖昧だったそうな。わしのじいさんが担当した番組には、元となる話や権利元が存在しておったのだ。……その権利元が昔の雷之家連中だ!」


「それって、今の雷之家は全く関係ないのでは……」


「へっ、なるほど。逆恨みを自称するだけあって、事実は八つ当たりレベルの話ってわけか。人間らしく、自分を正当化してやがる」


「なんとでも言うがよいわっ!権利元の雷之家は、わしのじいさんに一任していた筈の番組第2期の予定をキャンセルして、全国放映のテレビ局に話を持ち掛けたっ!当然キャンセル料は貰えたが、不運にも全国放映された第2期の番組が大ヒットしてしまったのだ!」


「え、キャンセル料を貰えたんだろ?しかも第2期が全国的に大ヒットすれば、第1期も知名度が上がるだろうし。良いことばかりじゃないか」


「あー、違うんですよ悟さん。この場合、大きく儲けられるはずの話を逃したということで、局長さんのおじいさんの職業的な実力が疑われるんです。環境次第では冷遇もあり得るでしょうねぇ」


「へー」


「激レアアイテムを取り逃して、安物のアイテムを拾った感じですよぉ。それを他のみんなにも目撃されて、主人公としての実力を疑われる的な?」


「なんでゲームで例えているのだ!?そういう例えなら……、持ち主を選ぶ伝説の剣から資格なしと言い渡され、こっちの方が相応しいからと安物剣相当の金を渡された!とでも言うべきだろう!」


そ、そんなにヤバいことやらかしてるのか?そりゃまあ、恥ずかしくて八つ当たりもしたくなるってもんだな。急に予定変更されたんじゃ、精神ダメージも大きいだろうし。


「わしのじいさんはその出来事を死ぬまで気にしていたさ!それこそ、わしら家族に雷之家一族を滅ぼす使命を残すほどにな!そんなバカげた話は、じいさんの死と共に忘れるつもりだったが……だが、冥土のじいさんがわしを逃すことはないとさ!じいさんの死と共にわしの天命は決定した!」


「……な、何を言っているんだ?」


「瞑宰テレビ局に立場のなくなったじいさんの孫である、このわしがっ。本当にテレビ局トップの座に辿り着けると思ったか?……わしのじいさんさんが死んだとき、貴様らには想像もできぬ人知を超えた知恵が、この世界に降臨したのだ!そして、今、撃てとっ!」


「な!どけ!」


[ぱぁん!ぱぁん!ぱぁん!ぱぁん!ぱぁん!ぱぁん!]


「ぐあっ!いってぇっ!」


「うぐっ!?さ、悟さんっ!」


局長が引き金を引くと同時に、顔を腕でカバーしながら右側面で雑魚ベーの前に飛び出したがっ!くそ、一発当たったか!当たった肘には予備コートが仕込んでないから、かなり痛い!コートには防弾効果があるが、衝撃耐性はあんまりないからな。いてて、あ、当たった右肘が震えてやがる。


[どさっ]


「あ、雑魚ベー!?」


後ろを見ると、雑魚ベーが地面に膝をつけて足を押さえている。うわ、足に一発、銃弾がヒットしたのか!出血してるしあんまり無事って感じじゃないようだ。……俺の顔付近に一発、雑魚ベーの足付近に一発、他は全外しとか。ちっ、へたくそ射撃で当てやがって!


「撃っても無事だと!?く、もう一度」


「主人公キック!」


[がんっ!]


「なっ!?」


「ハエ叩きアターック!」


[ばっちいいいぃん!]


「うぐあっ!?ぐあああーーーっ!うおおおぉっ、顔があああぁっ!」


局長が銃弾の入れ替えをする前に、接近して銃を蹴り飛ばす。そしてハエ叩きによる一撃で、局長は左頬を赤くしながら、この広間の床を転げまわる。


「ふん、覚えておくんだな!ヘッドショットってのは今みたいにやるんだ!あーでも、無理に右で振ったから肘がじんじんしてるーっ」


「はああああぁーっ!うおおおおぅ~……!おっ、おのれぇ~っ!こうなったら……かなり危険だが、あの最終兵器を使うしかあるまいっ!」


「おや、そんなものを残してたのか。演出部分にこだわる姿勢は褒めてやるぜ。とはいえ局長、お前の身体能力だと俺のコートに傷をつけることすら難しいと思うぜ」


「あの兵器は……。わしのじいさんが件の番組を作る際、参考としていくつか持ち込まれたもの。わしが試し撃ちしてから数十年も経つ。今では動くかどうかもわからん。……だがっ!わしがテレビ局長に就任した日、確かにみた!宇宙消滅の力を圧縮したという謳い文句にふさわしい、最強兵器の力をな!」


「…………そ、その謳い文句は!局長のじいさんが手掛けた作品ってのはまさか!?」


[っがあぁーん!]


な、なにかが落ちてきたがそれよりも!今の話が、局長の昔話だから数十年前に伝え聞いたとしてだ!局長のじいさんが番組を作ったのは若いころだから、番組制作は更に数十年前。局長のじいさんの年齢次第では、100年以上前に作られてる可能性がある!


俺が特星に移住したのが、100年は超えないと思える程度の数十年前。その時に放映していた悟ンジャーの番組は、確か全国放映版だったはず!俺が悟ンジャーにハマる前に放映されたという、幻のローカル放送版が第1期という扱いでもおかしくはない!


局長のじいさんが幻のローカル版悟ンジャーの番組を作ったのなら、当然、元となる話は悟ンジャー!権利者ってのは天利か皇神かボケ役!現代の雷之家どころか雷之家本家は全く関係のないことになる。そしてなによりもあの謳い文句!参考に持ち込まれた兵器は当然、エクサスターガンっ!


じゃあ、まさか今落ちてきたのはモノはっ!?や、やっぱりそうだっ!エクサスターガンじゃねーかっ!


「エクサスターガンだと!待て局長、その銃は」


[ずがああああぁん!]


倒れたままノータイムで撃ちやがった!この距離だと相殺するしかないが、こ、この威力はどこか、なにかが違うっ!多分これは、俺の勘が正しければこの位置だっ!


「多分8割っ!撃ち消せ、エクサバーストぉっ!」


[ずががああああぁん!]


俺と局長のエクサバーストがぶつかり合い、押しも引きもせずに俺たちの間で打ち消し合っている。どちらのエクサバーストの規模も同じくらいで、威力は拮抗してるようだ。……や、やっぱり!あの局長のエクサバーストは最大出力じゃなかった!もしも俺が最大出力のままエクサバーストを撃っていたら、施設の床ごと局長も消し飛んでいたことだろう!


数秒も経たずにエクサバーストの衝突は終了する。局長はついに万策尽きたからか、エクサスターガンを手放して地面に倒れ伏す。……局長のエクサスターガンの目盛りは8割近くを指している。充電不足でも故障でもなく正常な状態で8割だったか。予め8割で使っていたり、落ちた衝撃で8割になった可能性もあるだろうが。……天井の吊るし照明の上にいるあの男が、あえて8割にセットして渡した可能性がある!


「バカなっ。な、なぜ一介の探偵ごときがわしと同じ最終兵器を……。未知の仕様で、今でさえ量産できる代物ではないはずなのに」


「これは悪の秘密結社、天利ンガルの特殊技術で作られた悪の兵器だっ!お前のような一介の権力者ごときが解明できる代物じゃねえんだよ!そしてその銃を持つべき人物は、主人公かその敵対者である悪の一員だけなのさ!お前のようなモブ野郎は黙って消えな!」


「く、くそぉ!」


「さ、悟さん。私たちが用があるのはその人ですよぉっ。目的を忘れないでっ、あいたた!」


「あ……。そ、そうか。だけど雑魚ベー。目的達成のためには邪魔者を片付けた方がいいと思うぜ」


「うぅっ?どういうことです?」


「天井にエクサスターガンを落とした野郎がいるのさ。……おい!降りて来いよ、高いところが好きなネズミ野郎!」


「ふっ、ふふふふっ!くくくくく……っ!あーーっはっはっはははっははぁ!ここまでバレちまっちゃ、しょうがねえなぁっ!じゃあお言葉に甘えて、顔見せしてやろうじゃねーかっ!」


[ひゅ~ぅ、だんっ!]


天井から一人の男が飛び降りてきた。深緑色のウェットスーツみたいな全身服で、黒髪の坊主刈り男。このタイミングで出てくるような敵キャラの姿形ではないな。つーか、ただの中年のおっさんじゃないか?……ただ、3階くらいはありそうな高さから飛んで、平然と片足で着地するあたり、並の身体能力じゃないことは確かだ。


「生死の自由を手に入れた星の住民が、よくぞ地球までやってきたもんだ!だが別に、生きるのに飽きて死にに来たわけでもねえだろう?生き残れると思ってたからここに来ちまった。だが……、そんなお前たちは誠に残念ながら、とりかえしのつかない男に接触しちまったぜ!」


「星?悟さん、この男私たちのことを」


「ああ。バレてるみたいだな」


「……おい総局長。ここは俺様が引き受けてやるよ。俺が2人まとめて相手してやるから、お前はさっさとスペースシャトルの隅にでも隠れてな!」


「ぐっ、ではここは任せたぞ!いざというときはわしを逃がせ!」


局長はエクサスターガンを持ったままこの場を去っていく。……まあ、どうせエネルギー残量は多くても2割、エクサバーストを撃てはしないし局長自身の腕もヘボい。この目の前の男に使われるよりは局長が持ってた方が安全だ。


「ちっ。……さてと!目的の獲物は逃げちまったぜ!お前らは総局長から雷之家を守るためにここに来たはずだろう!追わなくていいのかい」


「う……。いや、あれだけ素性が知れ渡ってる局長が逃げたところで、捕まえるのは容易い!だが、お前のように一瞬で天井に逃げ隠れする奴を野放しにはできないなっ!さっきの局長の反応からして、局長を逃がす手段を持っているんだろ?……今すぐこっちに渡しな!」


「へっ」


「……どうやらやる気のようだな」


さっきこいつは俺たちの素性を知っているような素振りを見せていた。もしもこの男が局長と協力関係にある悪党だったら、……いやエクサスターガンを局長に渡すあたり平気で人を消す悪党だろうが、そんな危険な人物が俺たちのことを知っているんだ。いずれ特星を狙ってくるかもしれない!


「雑魚ベー!俺がこいつを倒すから、お前はすぐに足を治して局長を追うんだ!」


「いや無理ですよ!?な、なんなら一回殺してくれた方が早く治りますからっ。うぅ……さあ!」


「やだよ後味悪いじゃん!お前、また俺の見えてるところで死んだら息の根止めるからなっ!ハエ叩きアタック!」


「はっ!」


と、跳んで避けられた!なんだこの敵、その場ジャンプで2階相当の高さを飛びやがったぞ!地球人の身体能力でできることなのか!?


[すたっ]


「ふふふっ!そうだ、たとえ不老不死でも怖いものはあるだろう!死んでも復活するのに、痛いのは怖いだの、殺すのが怖いだの!過去の経験やトラウマってやつは時に不死者をも脅かすものさ!」


「ふん、じゃあ今日はお前の初トラウマ記念日になるだろうぜ。局長の脱出方法とやらを渡せば、まだ回避できるかもしれねーけどな」


「そうかそうか。その程度の恐怖を記念日扱いしちまうとは、笑っちまうぜっ!はーっはっはっは!」


「な、なんだと?」


「まだ自己紹介も済んでいなかったな。俺様の名は、すぎ 正者まさじゃ!人々が持つ恐怖の最強格、不可逆の体現者っ!この世で最も恐ろしく、誰よりも取り返しのつかない男だ!」


「正者だとっ!?」


ほ、本当にこいつがあの正者だっていうのか!?校長の兄にして、エイプリル事件を巻き起こし、異世界にも名を轟かせて、特星の有力者達からは確実に死んだと言われていた人物!そんな男が、何十年も息を潜めたまま生き残っていやがったとは!


「死……、死ねば消えてしまうかもしれない恐怖。老化……、年を取って生き方を維持できない恐怖。不老不死……、生き過ぎてしまい環境が狂う恐怖。……くくくっ!よくぞ、これらの事象を上手いこと凌いだもんだ!特星とやらでは生きたいだけ生きて、死にたくなれば星の外で好きに死ねる。星の内外問わずに年を取ることはなくなり、おまけに死後には幽霊としての生活に実体化まであるそうじゃねーか。いや、幽霊化はむしろ地球か」


「他人事みたいな言い方の割に詳しいな?誰から聞いた!」


「そんな些事はいい!だが、無敵気分が過ぎるんじゃねーか?お前たちは所詮、自由に生き死に停滞できるだけ。不可逆を克服しちゃいない。……極端な話、生も死も老化も、時間を巻き戻してやり直せるなら恐れられることのない、それこそ些事なのさ!人間共がそんな些事に怯えて頭を悩ませるのは、結局、やり直しもできず代用もできない不可逆要素をとんでもなく恐れているからだ!……そして、それはお前たち特星人も同じ。生死や老化を克服したところで、不可逆の前では心を病み、逃げ道のなさに絶望するしかないっ!」


「ちっ、長々と偉そうなことを口走りやがって。噂の正者がどんなヤバい奴かと一瞬ビビったが、恐怖の根源を気取ってるだけの奴みたいだな。2、3発引っ叩けば気絶するだろ」


「そんな悠長にしてる暇があるかな?ほらよ、こいつを受け取りな!」


正者が投げてきたのは……あれはただのボールペン?ぱっと見、爆弾とかが仕掛けてある様子はなさそうだが。一応、コートで包むように受け取っておくか。


「なんだ?……やっぱりこれはただのボールペン。ど、どういうつもりだ!」


「お前が欲しがっていた、総局長を逃がす手段さ!そのペンのキャップを左に3回転させれば、局長の乗ったスペースシャトルは無事に発射される!そして右に3回転させた場合……、シャトル内の起動した爆弾を停止させることができる!」


「「爆弾!?」」


「ふ……総局長の光線銃を相殺したってことはだ、お前、あの光線銃が8割のエネルギーで撃たれたことはもうわかっているんだろう?」


「あ、ああ。充電満タンの8割くらいの威力だったが」


「残り2割のエネルギーを残した光線銃……、なぜ総局長が持っていったと思う?」


護身用に持っていった訳じゃないのか!?2割ならエクサスターショットくらいは何発か撃てるわけだし。……いや、局長は最終兵器とか言ってたから、そこまでの機能については知らない気も。


「じ、自爆するため?」


「はははっ!誰が自爆するシャトルなんかに乗るかよ!あの緊急避難用シャトルは総局長からの要望で、俺様が作らせたものだ。普通の燃料は劣化するからと言いくるめて、あの光線銃のエネルギーを燃料代わりに使える仕様にしたのさ!仕組みはわからなくても撃つことはできるからな!」


「こ、こいつ!悪の秘密結社のロマン兵器をろくでもないことに使いやがって!」


「だが、そいつは嘘ではないが建前!あのシャトルには、光線銃のエネルギーを燃料に空を飛ぶ効果も確かにある!だが同時に、大爆発を起こす爆弾の燃料にもなってしまうのさ!当然、総局長は知らないだろうがな」


「と、止めるしかない!右に3回転だ!」


「はははははっ!無駄だぜっ!右回転は俺が避難するときにだけ使うはずだった機能!近距離でしか使えねえ!近距離で使う右回転は特殊磁気で停止命令を送り、遠距離で使う左回転は電波で発射命令を送る仕組みなってんのさ!停止のためには、装置の真横で回転させなきゃ止まらねーんだ!今みたいにリモコンを奪われて止められたら、不可逆の体現者としては笑いもんだからなぁ!」


「正者お前!爆発範囲はっ!」


「残量2割だろ。この山は軽く吹き飛ぶとして、近隣の県はまず消えるだろうな!だがそれは俺の目測だ。もしも、本当に宇宙を消し飛ばす威力が圧縮されているなら、特星とやらも含めて、この辺の星はすべて消し飛ぶはずだぜ!俺も消えるが、とりかえしのつかない事態としてはこの上ないっ!」


ぐ、この男、思ったよりも狂ってやがる!エクサスターガンの性能は悟ンジャー設定では確かに、宇宙を消滅させるほどの爆発を圧縮させたものだったはず!つまり宇宙がヤバい!


「死にたくなければ、さあ!ペンのキャップを左に回しな!そうすればシャトルは発射され、総局長は死ぬが多くの人間は助かるはずだ!爆弾の爆発は時限式……総局長は逃亡のためにすでに光線銃をセットしたことだろう。今からシャトルに向かってもきっと手遅れだろうぜ!」


「ぐ、……してやったりってつもりだろうが、甘いんだよ!俺が止める気になってシャトルに向かえば止まるのさ!主人公補正ってやつを、そこで指をくわえてみてやがれっ!」


「あっそ。悪いが地下で低みの見物とさせてもらうぜ。そこの足を撃たれた男も、一旦は命拾いしやがったな!あはははははっ!」


あのクソ野郎!自分だけ暢気に俺たちの入ってきた出入り口に向かってやがる!万が一爆発しても、地下なら耐えられると考えていやがるな!


「ぐっ。悟さん!あなたならできるはずです!主人公なんですからっ!爆弾なんか止めてやってくださいよぉっ!」


「当たり前だ!悪役にとっての最大の恐怖は主人公だってことを、あの恐怖屋気取りに思い知らせてやるっ!主人公補正の強大すぎる爆発力に絶望するがいい!」




「ぜぇーっ、はぁはぁ。つ、着いた、着いたけどっ」


な、なんとかスペースシャトル内に乗り込むことはできたが、ど、どこでキャップを右回転させれば……。つ、疲れたっ。


「ん?げぇっ!お前はハエ叩き男!こんなところまでわしを追ってきたのか!?」


お、よしっ、局長を見つけた!あ、あとは……こいつに道案内をさせればっ。……およ、こいつまだエクサスターガンを持ったままじゃないか。


「はぁ、はぁ。……ふぅーっ、手間掛けさせやがって。こっちにこい局長!今すぐシャトルを降りて」


「ひえぇっ!た、助けてくれぇ~っ!」


「お、おいー。き、聞いてくれよっ」


く、局長の奴は階段を上って逃げちまった!だが、シャトルの出入り口は俺の傍にある。……じゃあ上階にエクサスターガンをセットする場所があるってことか。く、無駄手間を。


[がしゃん。ごごごごごごごごぉ!]


「え、なんの音だ?この揺れは一体!?」


ま、まさか正者の言っていた、エクサスターガンの充電を利用した爆弾が起動したのか!?最初の音は後ろの扉が閉まった音だったようだが。……い、いや、この揺れは昔どこかで経験がある気が。ま、まさかっ!?


「げぇ!やっぱり!このシャトル、飛んでいやがるっ!」


ば、バカなっ!?シャトルを飛ばすためのボールペンは、この俺の手中にある!そして俺はボールペンのキャップを一度も左回転させてはいないっ!だからロケットが飛ぶなんてことはあり得ないはずなのに!……まさか、正者が左右を勘違いしていて、俺が基地で右回転させたときに発射命令が送られていたのか?で、局長が今さっきエクサスターガンをセットしたことで、燃料が補給されて発射命令が通ったと!?……そもそも右に回すって時計の動きで合ってる、よな?


「うおおぉ……!?なぜこのタイミングでシャトルが……!?」


上階から局長の叫ぶような独り言が聞こえてくる。く、話を聞きに行くしかないか。だがこの揺れ……這って階段を上るしかなさそうだ。




上階への入り口は重そうな扉に阻まれていて、扉を開けると中は、固定されているマッサージ機やソファーなどが置かれた休憩室のような広い部屋だった。あ、こんな出入り口近くにテレビまであるじゃないか。肝心の局長はソファーにしがみついてるな。


「お、おい局長」


「ひえ、また貴様か!わしの命を狙うにしてもしつこすぎるぞ!状況を考えろ!」


「考えてるよっ!なんならお前を助けるためにシャトルに乗り込んだんだぞ!ちょっとは協力しやがれ!」


「なにを!シャトルを飛ばしたのも、わしを道ずれにするつもりだったんだろっ!」


「い、いや、基地でのキャップの回転方向は間違えてないはずだし、多分……。それより!エクサスターガンのエネルギーを燃料にする装置あるだろ!どこだ!?あれには正者が罠を仕掛けていやがったんだ!このままだと、近隣の星もろとも地球は木っ端微塵になっちまうぞ!」


「は?……な、何を言っとるんだお前は?」


「あんたは正者に騙されたんだよっ!」


「いやまあ。正者はわしの協力者だが……、お前、確かあの最終兵器をエクサスターガンって呼んでいたよな?」


「そ、そうだっ。悪の秘密結社が作った、一撃必殺兵器のエクサスターガンだ!」


「このシャトルと最終兵器は何の関係もないぞ。貴様の言っている装置とやらは、このシャトルには存在しないものだ。最終兵器はさっき落として……ああほら、あそこの下に転がってるやつのことだろう?」


「えっ?ええーっ?」


た、確かに、局長の指す方向を見てみると、ソファーの下に間違いなくエクサスターガンが落ちている。…………だ、騙されたってことか!正者に!?や、野郎ぉ~っ!!


「じゃあ局長っ、このボールペンがシャトルの発射スイッチっていうのも……」


「お、お前……。本当にそんなアホなハッタリに騙されたのか?少しガキっぽいとは思っていたが、よくもまあ、そのレベルの嘘を信じることができたな……。哀れすぎてちょっと……頭でも撫でてやろうか?」


「うるせーっじじい!ぐおぅ~っ!あんの青カビ野郎ぉっ!次会ったら記憶を犠牲にしてでも1000発はヘッドショットしてやるっ!」


[はーっははははははっ!面白いジョークを言ってくれるじゃねえか、ポンコツ男がよっ!]


「な、なんだと!?局長てめぇ!」


「ま、待て!今のはわしじゃない!あ、あのテレビからだっ!」


「なにっ?」


後ろを振り返ると、テレビの電源がいつの間にかついている。そして画面には……局長だと!?本物の局長はここにいるから、あれは別の日に収録したもののようだが。それにしては、まるで俺に言ったかのような物言いだったような……。


「わしの映像だと!いやだが……。ま、まさか!正者っ、貴様の仕業だなっ!」


「え、あれが正者だって?」


声も姿も局長そのものなのに、あれが正者なのかっ!?く、実物を見れば変装くらいは見破れるのに、テレビ上だとどうにも判断がつかないっ!


[ふっふっふ。総局長、お前とはもう少し組んでやってもよかったんだけどな。だが、秘密の談合場所を探り当てられた挙句、俺の姿まで見つかっちまったんだ!もう、お前と組む理由はなくなった!これからは俺が瞑宰県テレビ総局長、及び地下都市の支配者として、日本や世界を牛耳ってやろう!安心して広い宇宙で眠りやがれ!]


「ぐぅ、貴様、わしの姿でっ!」


[そして……いい時期に来たもんだな、雷之 悟!俺はお前のことも知っているぜ。俺個人が雷之家を狙う理由はお前のおまけでしかないが、きっちり雷之の家系は根絶やしにしてやるから寂しくないわな!一族と一緒にあの世で仲良く暮らしな!]


「ふん、お前みたいなやつに恨まれる理由はないけどな。ま、主人公の芽を早めに摘んどこうって考えは、悪役としては賢いと思うぜ。死ぬ気はないけどな」


[己惚れてるとこ悪いが、俺はお前なんかに微塵も興味ないのさ!よし……いいだろう!あの世への土産だ、お前がどのように利用されて死んでいくのかを教えてやるよ!]


ふん、冥土の土産みたいなことを言うやつは大体敵を取り逃がすって相場が決まっているんだ!そして無駄に情報漏洩だけして、後で痛い目みるのさ!


[まず最初に言っておくが……、俺は、お前らが知っている正者とは別人だ。ほぼほぼ同一人物だが別の生き物なのさ]


「「……ええぇーっ!?」」


「はぁーっ、そもそもエイプリル事件が100年近く前。本人が生きてりゃヨボヨボのじいさんだぜ。もしも不老不死だったとしても事件当時7歳。この姿には疑問を持ってもらいたかったなぁ」


画面上の局長の姿が、さっきまでの正者の姿に切り替わる。ど、どういう仕組みだ?テレビ画面上の姿だから、本物の比較対象のいる局長ですら見分けがつかないってのに。


「貴様、正者の霊ではないのか!?死んだじいさんからの使いではなかったのか!?」


「違うね!あれは幽霊なら信じるから、幽霊と名乗らざるを得なかったのさ!俺の正体は、今は亡き正者の信仰に巣くう者!現代人のイメージする正者の写し身が俺ってわけだ!本物の正者なんて、幽霊にもなれない非現実世界の地球でとっくの昔に死んでるぜ!」


「し、信仰?非現実世界?貴様、一体何を……」


「なるほど。そういうことだったのか」


「なにっ!?……な、なるほど。そういうことだったのだな……っ!」


つまりこいつは、信仰を力にしている神とか英雄とかその系統に近い存在ってことだな。……俺は前に一度、昔の天利の姿をしている黒天利ってやつに出会ったことがある。奴は、本物の天利が子供姿になったときに持ち越し損ねた、姿や声に対する信仰を横取りだか拾ったんだかで、昔の天利の姿を手に入れたんだ。……こいつも、すでに死んだ正者の信仰をどこかで手に入れたんだろう。


「だけど、正者の犯行当時の年齢は7歳。犯行現場の映像もちゃんとあったはず。お前の姿は世間の正者像とはかけ離れてるぜ。どうしてそんな微妙な姿をしているんだ?」


「正者の犯行映像だと?貴様、あんなフェイク映像を信じているのか?7歳の子供がエイプリル事件を引き起こせるわけなかろうがっ」


[……とまあ、世間の評判はこういう感じさ。だが、正者の記憶と能力をいくつか引き継いでいる俺にとって、総局長を騙すくらい容易いことだ!俺をじいさんの使いだと信じ込んだ総局長に、お告げと称した助言を出し、当時テレビ局員ですらなかった総局長を今の立場にまで伸し上げた!]


「そうだ正者!わしとお前は長い年月をかけてここまでやってきた!なぜ、今ここで、わしを裏切る必要などある!?」


[くくくく!そんなの答えは決まっているじゃないか!この俺様は不可逆の体現者だぜ!?……俺に関わった全ての人間をとりかえしのつかない状態に追い込み、不可逆こそが俺であるという信仰を作り上げるっ!そしてこの世で初めて、不可逆な事態をものともしない唯一の存在が誕生するのさっ!不可逆そのものとなった俺がなっ!ふははははははっ!あーっはっはっは!」


ちっ、こいつは人間とは違って信仰に依存する存在。もしも人々がこいつを不可逆という存在として認知すれば、多分、どの程度かはわからないが不可逆の力を手に入れるだろう。半分信仰の力に頼っている無双が『無双』という単語の力を利用して強くなったんだ、完全に信仰の力に依存してるこいつならあり得る話だ!


「くぅ、正者……わしの目の届かぬところで、おかしな思想にハマってしまっていたのか」


「違う違う、ありゃ素だよ。本能だって」


[俺が組んでいるのは総局長だけじゃねえ。あと2人、俺の正体を知っているやつと組んでいてな。総局長を目的を果たすための食糧だとすれば、その2人は見聞を広めるための本ってところだ]


「わし、エサなの?」


「そいつらの内、どっちかが俺の関係者ってことか?」


[そうだっ!どっちも気に入らねえ奴らだが、特にお前に関係ある方は鼻につくやつでよ!何かと上から物を言いやがるのさ!お前、天利ってババア知ってんだろ?]


「なるほど。天利か……。今、俺の頭には候補が2つあるんだが、どっちであっても俺を狙う理由はわかる気がするぜ」


天利と言われれば、よく思いつくのは俺の親であるラスボス天利の方だが。さっき信仰の話で思い出した、黒天利とかいう昔の天利の姿をしているやつも実はいる。いわゆる悪の秘密結社、天利ンガルの総帥王の姿をしている方のババア天利だ。正者は、ババア呼びしているから多分……。


「それは、もしかして黒天利の方か?」


[およ?なんだ知ってんじゃねーか。あのババア、最初で最後のラストバトルとか言ってたから、てっきり正体をばらしてないものかと思ってたんだが]


「ふん、俺と黒天利のラストバトルを邪魔することが、黒天利にとってのとりかえしのつかない事態ってわけか」


[へっ、その程度じゃねえさ!お前が死んだとて、他の雷之家連中を代用して、雷之家の血筋で決着とかやりかねないからな、あのババアは!言っただろう!不可逆ってのはやり直しもできず、代用も利かねえもんだって!俺が雷之家を皆殺しにしたい理由はそこだよぉっ!]


「ちっ。お前みたいなやつに殺されたんじゃ、雷之家連中も浮かばれないだろうな。だが、そう簡単に思い通りにさせてたまるか!」


[はっ!吠えてな!高速スペースシャトルは間もなく電波妨害の発生する領域に突入する!シャトルが地球と交信できる電波情報も間もなく途絶えるのさ!俺の名残惜しい顔をよーく頭に刻み付けておくことだっ!不可逆の恐怖と共に!]


く、くそぉ!残念だが、今すぐに現状を打破することはできない!スペースシャトルなんか触ったこともないしデカすぎて俺に扱える代物じゃない!それ以前に、シェルター化してる地下都市に上空から手出しできるとは思えないっ!


……もう一つのエクサスターガンの充電を移し替えて、試しに4割で撃ってみるか?い、いや、正者の場所がわからないし、そもそもこの揺れの中で狙った位置を撃ち抜くのは至難の業だ!やはり手はない!


[はははははっ!いくらでも悩みな!悩めば悩むほど、とりかえしのつかない事態だって理解できるぜ!はははははは[ばたぁん!]……あん?げ、てめえは!?]


ん?なんだ?正者がこちら側……、カメラとは違う方向を見て焦ってやがる。……あー、こういうシーン漫画とかでよく見るけど、もしかして正者、殺されるんじゃないだろうな。


[ま、待ちやがれ!奴を[ざざっ]……のは総局[ざざざざっ]……[どがああああぁん!]ぐおあああああぁっ![ざざざぁーっ]……おうああぁ……っ]


「ああ、本当に死んだ」


「ま、正者ぁーーーーーーーーーっ!」


爆音と共に画面の視点が低くなり、そこに焦げて倒れ伏す正者の姿が映し出されている。カメラが倒れ、偶然にも襲撃された正者の姿が映ったようだ。


いや、確かに冥土の土産に情報漏らす奴って死ぬ節というか、これから死ぬみたいな流れはあるけど。映像通信での会話中に画面外の出来事に驚くと、死ぬ展開とかもあるけれども。じ、実際起こるかぁーっ?特星だと、まあ、まず起こりはしないぜ。……地球の恐ろしい一面を垣間見た気分だ。


「正者ーーーっ、わしは……わしはお前のことを最後までパートナーだと思っているぞ!例えお前が死のうとも、その心は変わらんぞーっ!ううう、さっそくシャトルに彼奴の墓を立てねば……」


「いや待てよ局長。テレビ越しだから確証はないが、あいつまだ息してるっぽいぞ」


「なんだと?おーい、正者聞こえるか!お前に裏切られたけどわしは元気だぞ!お前も返事して生きていることを示してくれい!」


さすがに返事はできなさそうだが、正者の指先はかすかに動いている。し、しかし一体、誰がこんなことを?地球でここまでやるなら、まず殺意があるとみていいと思うが。


[お兄ちゃ[ざざざざざっ]……会え[ざざざざざざぁーっ]……一緒に[ざーっざざざざーっざざざざーっ、ぶつん!]]


「な、なんだ最期の音声は!?正者の物ではないぞ!まさか娘か、正者に娘が!」


「子供の声みたいだ。一瞬、希求かとも思ったが。てか、ノイズ交じりだったが女子の声だったのか?」


「ふん、わしを誰だと思っている?キャリアアップのために数々の番組に立ち会ってきた総局長だぞ!子供だからこそ男女の声はしっかり聴き分けできるのだ!今のは間違いなく女子の声だな。……だが、声の幼さの割にはやたら流暢な話し方だった。年不相応に聞こえおったわ。わしも年なのかもしれん」


「多分、年不相応って予想はあってるんじゃないか?なんせ、正者を爆破して黒焦げにした奴だぜ。まともな子供とは思わないほうが」


「なにを言う!あの声の年頃の子供が他人を爆破などできるものか!常識で考えんか!」


ああ、思考が柔軟じゃないのかこのじいさん。声の聴き分けができるくらいの才能はあるようだが、やっぱり結構年なのかもしれないな。




テレビの通信が途絶えてから約10分。俺らの体は浮き始め、久々の宇宙での無重力空間を堪能しながら帰る方法を考えている。


「なあ局長。このシャトルはそもそも、本来はどうやって帰る予定だったんだ?」


「あ~~~。そんな方法なくてなぁ~~。地球から打ち上げたロケットは~~電波が遮られて帰れんぞ~~~」


「じゃあ宇宙からロケットは下りないってことか?」


「宇宙からは無理だな~~。だが瞑宰県はロケット実験が多いから~~~電波妨害エリアぎりぎりまで打ち上げて着陸はよく聞くが~~~」


ってことは、俺たちの乗ってきたロケットも宇宙から来た扱いじゃなく、有人ロケットの実験に参加してたとかそういう扱いになってるのか。あの県長、よく誤魔化せてるな。


そして正者だが、あいつはやはり自分でこのシャトルに乗る気はなかったってことだ。このシャトルは乗ったら最後、地球には2度と帰れない片道切符ってわけだ。


「どうにか方向転換はできねーのかよ。操縦席くらいあるだろ?」


「無理だと言うとるだろ~~~。電波妨害エリアを通ったときに機器は全部バグってしまったからな~~。でもマッサージ機はいい具合にぶっ壊れて気持ちいいぞぉ~~~」


「降りろ!」


「なんだ、快適なのにまったく。ま、わしはシャトルに乗り込んだ時点で最悪こうなる覚悟をしていたんだ。貴様もさっさとシャトル生活に慣れることだなっ」


ちっ、このじじいはすっかり宇宙で余生を過ごす気でいやがる!だが、こっちはそう暢気にしてられない。正者と黒天利と謎の誰かの3人連合……少なくとも正者の奴はよからぬことを企んでいるんだ。野放しにすればとんでもないことになる!


「正者のプランは多分、局長になり替わって権力を手に入れ、その後に地球を滅茶苦茶にして不可逆そのものだと認めさせる……ってことだよな。だが、正者が局長に姿を変えたのは……、すでに局長の信仰を正者が手に入れつつあるから、姿を変えることができた?」


「まーだ信仰とか言っとるのかお前は。正者がわしの姿で話していたのは、わしの作ったホログラム技術によるものだというのに」


「な、なに?ホログラムっていうと確か……、アニメや漫画みたいな姿で話せるあれか?だが、あの局長の姿はあんたそのものだった」


「そう、実写だよ。わしが極秘に開発していた最新実写ホログラムシステム『テレビジョン』。いくつかのサンプルがあれば声の変声もできるという、国に見つかれば開発差し止め間違いなしの一品さ。……正者は利用する相手を消してなり替われるからと、『テレデスビジョン』という皮肉めいた呼び方をしておったがな」


た、確かにあれほどの性能で実在する人間に化けられるなら、なり替わりもできるだろうな。画面上での変装とはいえ、この俺ですら正者が化けているとは気づけなかった……。姿も声もあそこまで精度が高いと作り物と本物の見分けがつかなくなるのか。


「テレビジョンはわしの総局長室にある専用通信機器でなければ使えない。先ほど正者が通信していたのも総局長室だろう。専用機器が無事だといいが……」


「やっぱり地球に未練あるじゃねーか。へっ、そんな悪用するためだけの機械、ぶっ壊されても仕方ないってもんだぜ」


「なにを言う!いいか聞け、よーく聞け。あのテレビジョンはどうせ極秘開発ということもあって、貴様のような青少年には喜ばしい隠し機能がな、山のようにだな」


「ほうほう。それはどの程度?」


「そりゃもう、考えうる全てを詰め込んで。ごにょごにょ。服の透視や、なり替わりなど序の口で、ごにょごにょ」


「ほーほーほーほー。それは裸とかも」


「全裸すら標準機能にごにょごにょごにょごにょ。それどころか、ごにょごにょごにょな付属品を映像上の人体部分に……」


「そ、そこまでやってるのかっ。す、すげえ……!局長っ!どうやら俺はあんたのことを誤解していたようだ!悪党だけど思っていたよりアレな方向性で頑張ってるじゃん!」


「ふふふふ。人として、大人として当たり前だっ!9割以上は健全に性癖を歪めるための機能だと思ってくれていい!……正者のやつは優秀なパートナーではあったが、どうにもわしと趣味が合わなくてな。それらの素晴らしい機能の数々には目もくれず、権力掌握への利用法しか頭になかったようなのだ」


「へっ、正者ってのは情けない奴だ!夢のホログラムを巻き添えに爆破されやがって!」


「まったくだ!生きていてほしいが、これを機会に性根を入れ替えてもらいたいものだわい!」


ふうぅ、局長の話を聞いていたら、俺も何十年かぶりに気分が高まってきちまったぜ。これは俗にいう性欲ってやつが再発したんだろう。だが、あんな夢のマシンの話を聞かされたんじゃ、使い方を考えずにはいられないな。仕方ないさ、この俺だって健全な高校生主人公なんだから。


「しかしまあ、聞けば聞くほど夢の広がる話って感じで……はっ!」


「む?どうした急に?」


そ、そうだ!あるじゃないか、帰る方法がっ!電波妨害だろうと関係なしに地球まで連絡をくれる夢のようなパートナーが、俺には居たじゃないか!ボケ役、おい応答しろボケ役!


〔おわ、なんだよこんな時に。今はちょっと手が離せないんだけど〕


こっちも急ぎの用事なんだよ。お前の空中散歩なんか遊びに思えるような危機的状況。ちょっと大掛かりな手伝いをしてほしいんだ。


〔いや、こっちだって正者が生きてるなんて思わなかったから報告書がよー。…………はっ、むぐぐ〕


ボケ役お前ぇっ……!空中散歩するとか言ってずっと聞いていやがったなっ!?


〔まあ待て、まあ待て!それはツッコミ役の身を案じてのことなんだよ!ほら、正者が生きている可能性もあったし実際生きてただろ!〕


お前、話を最後まで聞いていないな?あれは本物の正者じゃなくて、正者の信仰に寄生しているなんか別の生物だったんだよ!


〔え、そんな話になってたのか?ちょっとその辺も書くから詳しく教えてくれよ〕


まずは俺たちの乗ってるスペースシャトルを特星に移動させろ!話が聞きたいなら俺が無事に特星に帰った後だ!


〔す、スペースシャトル?なんでそんな所に……。用件はわかったが、俺の特殊能力は何でもかんでも好きにできるわけじゃないんだ。ちょっといい案を考えるから待っててくれ〕


「……おい、急に考え込んでどうした?マッサージ機を使わないなら、3歩分くらい横で浮いて考えてくれんか」


「ふっふっふ、よろこべ局長!俺たち無事に帰れるかもしれないぜ」


「なにっ?地球に帰るいい方法が浮かんだのか?」


「あ、地球なぁー。ま、まあ地球よりもいいところさ。今から方法を思いつくから待ってな」


「そんな期待できん場所よりもマッサージチェアーに座りたいのだが……」


〔ん?なあツッコミ役。もしかしてお前と局長とやらは宇宙空間にいるのか?〕


ああ。正者の巧妙な情報戦略によってスペースシャトルに閉じ込められちまってな。シャトルの機器も地球の電波妨害エリアで全部やられちまってお手上げなんだ。


〔それだ!シャトルが宇宙にあるのなら、こういう夢技なら通るだろうぜ!名付けて、怪空間ワープカット航行!〕


[ぎゅおおおおおおぁっ!]


「な、なんだ!?このシャトル内を包み込むような甲高い音は!?」


「これが秘策だ局長!技名的に多分、このスペースシャトルはワープする!」


「わ、ワープだと!?ま、まさか!そんなことが実現可能だとして、このシャトルはワープに耐えられるのだろうな!?」


……このシャトルはワープに耐えられるのか、ボケ役!?


〔安心しな。俺のワープ技で機体が壊れることはない。ワープ空間に変なものとか落ちてなければ、大丈夫だ〕


[おおおおおおおおぉ…]


周りの音が収まっていく。どうやらワープは完了したみたいだな。もしかして既に特星に到着したんじゃないのか?いや、まだ無重力だから宇宙空間か。


〔名前通りショートカット技なんでね。一応、そのシャトルが特星に向かってることは特星本部に伝えておくから、心の準備をしておくことだ。じゃあ切るぜ〕


心の準備……そういうことか。どうやらボケ役の技では、特星への着陸まではカバーできなかったようだ。つまり操縦のできないこの機は、特星に真正面着陸……もしくは墜落する!


「ふぅ、酷い揺れだったな。だがシャトルは無事なようだから一安心という訳か。いやー、機体がぶっ壊れるかと思ったわい!ははは」


「へい局長。このシャトルって熱には強いのか?」


「ん?ああそうだな。雑に大気圏突入しても耐えられるだけの耐熱耐圧性能があるぞ。昔は大気圏突入の角度をしっかり計算しておったようだが、電波事件後はしばらく計算不能に陥った上、あらゆるデータの信憑性が疑われたからな。……はっきり言って、宇宙は性能でごり押しするのが最適解なのだよ」


「そいつはよかった。俺の予備コートを貸す必要はなさそうだな。ついでに墜落に耐えられるくらいの機体性能がありゃなお良いんだが、どうよ?」


「多少の上空であれば落ちても耐えるだろうが……。普通に考えて、大気圏から墜落したらバラバラになるんじゃないか?……ふっ、貴様、まさか落とす気じゃないだろうな?」


「……もう、宇宙だからネタばらしするけどよ。…………ようこそ特星へ!初めてのダメージが大気圏からの墜落なんて、ある意味運がいいぜ!そのダメージに慣れれば、特星内での生活も十分楽しめるはずだ!だから気をしっかり持てよ、局長!」


「また、つまらんジョークを。このスペースシャトルが高性能だからといって、さっき地球を出たばかりなのだから、まだ月にすら到達できぬに決まっているだろう。さっきのワープ演出のようなトリックを仕掛けているな?」


「ま、すぐにわかるさ」


[ごごごごごごごごごっ!]


「「うおっ!」」


凄まじい揺れと共に、体が壁に叩きつけられる!ど、どうやら特星の範囲内に入ったようだ!発射時よりも強い力が発生しているのか、身動き取れそうにないっ!


「こ、これはまさか重力圏に入ったんじゃないのか!?や、ヤバいぞ!貴様の言ったように、これでは本当に墜落してしまうっ!」


「ここはすでに特星の領域だ!大丈夫、死にはしないさ!滅茶苦茶痛いだろうけどな!」


「木っ端微塵になるわあぁああぁぁぁっ!?」




「ん。っふぁああぁ~っ。……あれ、ここは?」


「ぐうぅ~~~っ。ぐ~~っ」


「俺の部屋じゃないか。……なんで校長がテーブルの上で寝てるんだ?校長ーっ、起きてくれ!起きないと窓から捨てちまいますよ!」


「ぐぅうっ。んあ?あ、悟君。……悟君!?目を覚ましたんですね!」


あん?……あ、そうか。そういえば俺、地球からスペースシャトルで特星に帰ったんだっけ。……そうだよ!シャトルの墜落で意識を失ったんだった確かっ!


「校長!俺が特星に帰ってから何日くらい経った!?」


「君たちが特星エリアで発見された次の日……いえ、もう朝なので発見されて2日後ですよ。しかし無事でよかった!シャトルが墜落すると連絡があったときは何事かと思いましたよ!」


「校長!あんたが探してた正者の偽物が現れたんだ!」


「ええ、黒悟さんとテレビ局長から聞きました。……その件でとても危険な状況に追い込まれたそうですね。すみません、悟君。私の依頼がなければこんな事態には」


「いや気にしないでくれ。多分、俺が行かなきゃ雷之家が危機に陥っていたからな。とはいえ、今も危険な状態ではあるけど」


なんせ、正者が黒天利を妨害するために雷之家を狙っているんだ。正者は地球で黒焦げになる怪我を負ったはずだから、しばらく動けはしないだろうが。……奴が復活すれば、いずれ雷之家は狙われるだろう。


「実は、今回君が関わった件で、いくつか伝えなければならない話があるのです。ですが今日はしっかり体を休めた方がいい。だからいいニュースだけ話しておきます」


「悪いニュースもあるのか」


「こほん!まず本来の目的である土地の交渉ですが、上手くいきました。地下都市にある瞑宰テレビ局の爆破事件とテレビ局長の失踪が露見したとかで、雷之家の2人はすんなり土地交渉に応じてくれました」


「あー、正者が襲撃されたあれね。結局、何者の仕業だったんだろうな」


「そしてもう1つ。テレビ局長の話では、偽正者さんが瞑宰テレビ局の総局長になり替わろうとしていたそうですが、ホログラムマシンが壊れたからか失敗しています。テレビ局長の失踪は日本中に公になり、偽正者さんは行方をくらませたそうです。……この件はすでに瞑宰県長に伝えて、地下都市のテレビ局の動きには注意を払ってもらっています」


正者はまあ、元からテレビ局長しか居場所を知らなかったからな。でも局長の失踪が公になっているなら、奴は地下都市を支配することが難しくなったと考えてよさそうだ。


「今日伝えることはこれくらいですね。では今日はゆっくり休んでください」


「ああ、サンキュー」


校長は波動の渦の中へと消えていった。


俺が帰還したばかりとはいえ、やたらと気を使ってくれるじゃないか。ま、土地交渉は上手く進んだわけだし、好待遇もやむ無しってわけだな。……さて、せっかく休めって言われているんだ。ゲームでもして、明日に明かされるであろう小難しいバッドニュースにでも備えるとするかっ。

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