表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
変な星でツッコミ生活!?  作者: 神離人
本編:新しき地球への帰還
59/85

三話 不可侵の隠し通路 ~風土フィーリング

@悟視点@


遥か頭上を囲むモニターが濃いオレンジ色の光を発する中、ついに俺たちは瞑宰県テレビ局へと到着した!テレビ局は俺のバイト時代とは違い、横にガラスが並ぶ形状の建物となっていた。恐らく、地下都市に新築で建てたんだろうな。


「こ、これがテレビ局ですか。……なんか思っていたよりも普通の建物ですねぇ。ドラマなどでは、怪しい研究所でもありそうなビルみたいな形だった気がしますよぉっ!」


「そんな形状のテレビ局は稀だろ。昔の瞑宰県テレビ局もビル型ではあったが並大抵の建物だったし。それより、入口にいる警備員をどう突破するかが問題だな」


テレビ局の入り口には、出入りする人間をチェックしてる警備員がいる。ぱっと見、出入りする奴らが記入シートに名前や役職を書き込むだけのザル警備に見えるが……。入口付近だけでも監視カメラっぽいのが3台はあるな。多分、元の瞑宰県テレビ局と同じように、別室に監視モニタールームが置かれているんだろう。


「確か、誉さんの要望では、県長さんに秘密でテレビ局長を探るんでしたよねぇ」


「ああ。だから県長の名前を出して入るってことができないんだ。でも多分、正面入り口は無理だな。監視カメラは入口付近とフロントが特に多いからまずバレる。つーか、野外カメラも多いから、気づかれずに正面入り口に近づくのがまず無理だ」


「どうします?あまりこの敷地前にずっといるのも危険な気がしますよぉ。車の出入りも多いから目立ちますし。……それになんか、私のほうを見てくる通行人が多いような」


「お前の青髪長髪が目立つんだよ。瞑宰県じゃファッションでもまず見かけないぜ。まあ、そういうキャラの芸人だと思われるだろうから多分大丈夫」


「そのまま芸人っぽい雰囲気で突入できませんか?」


「そりゃ無理だ。テレビ局の人間が歩き回るエリアにまで入り込めれば、紛れることもできなくはないが。……そうだなぁ。おい雑魚ベー。俺を担いだまま、テレビ局の屋上まで跳べないか?」


「ええっ!?人間一人を担いでってのはちょっと……いやでもあの高さなら……えぇー」


この瞑宰県テレビ局の高さは、わずか3階建ての家ほどしかない。それに比べ、近年の雑魚ベーの跳躍力は、20階あるビルの屋上を超える勢いを持っている。俺の体重を加えても、ビルの10階くらいの高さならきっと余裕で跳べるだろう。


「お前の跳躍力をもってすればいける!俺を担いだままでも、あのテレビ局の遥か上を行くことができるはずだ!手加減して跳んでうまく飛び乗るんだっ!」


「で、ですがっ!知っての通り、私のジャンピングキックは自滅率の高い危険技。回転しながらの跳躍だけでも……いえ、むしろキックなしで着地するほうが危険です。どのように落ちるかわかったものではありませんから。……そんな危険行為を悟さんを抱えたまま行うなんて、失敗したら大変なことになりますよぉっ!」


「残念だが、今回はテレビ局を壊すわけにはいかないんだ。雑魚ベーだけ先に屋上に跳んで、ロープを垂らすとかできればよかったんだが……。昼間のランチ代で交通費を使っちまって、道具を用意できそうにねーからな」


あの店売りのランチが1480円もしなければ、こんな危険な侵入方法を取らずに済んだんだが。……いや、あれに関してはやはり、手持ちを気にせずに食べて金が足りたことを喜ぶべきだな。運よく持ってた交通費3000円入りのカード、ランチ代2人前2960円、地下都市による消費税受け持ち、……これらの奇跡的巡りあわせよって、俺の持つ支払い用カードには、まだ40円もの余力が生き残っている!


「そうですか。悟さんにそこまでの覚悟があるのでしたら……跳んでみせますよぉっ!悟さん、おぶさる形で私の体にしっかり捕まってください」


「ああ。……く、お前におんぶされるのはすげー嫌な気分だぜ。よっと」


「うおっとと。ですが悟さん、着地だけは何としても成功させてくださいね。死んでも復活できる私とは違って、今の悟さんは不死ではないんですから」


「着地するのは俺じゃなくてお前だろっ。……し、失敗するなよ?」


「ふぅー……高過ぎずに行き過ぎずに完璧な着地を!ジャンピィーングっ!」


「うおおおおおおぉーっ!?」


早い!け、景色が高速回転してやがるっ!もうすでに高さのてっぺんにたどり着いたのか、回転が落ち着いてきた!この位置は……やや高めだっ!屋上よりも一階くらい高いっ!


「おい通り過ぎてんぞ!とまれっ!」


「ぐ、空中じゃ無理です……よぉっ!」


「ぐあっ!?」


[がしゃああぁん!]


ぐおううっ!いってえぇーっ!……あ、あのバカやろー。俺の腕を空中でほどいて、一度通り過ぎた屋上に俺を殴り飛ばしやがった。どうやら屋上のフェンスにぶつかって落下は免れたようだが、雑魚ベーの奴はテレビ局屋上を通り越し、下へと落ちていった。


「いってて……。くっ、よく考えたら、あいつはいつも上方向に特化した跳び方をしてるんだ。敷地外からテレビ局の屋上みたいな横方向のジャンプは、下手すりゃ初体験の可能性だってある。……相当うまくやってくれたってことか」


逆側のフェンス……。あそこなら雑魚ベーの落下先が見えるはず。…………うおおぅ、予想はしてたけど……なんて酷い有様だ!骨までばっちり見えててエグイことになってる。そうか、雑魚ベーの身を呈した犠牲がなければ、あの隣にコート神の残骸が並ぶことになっていたのか。……ありがとう雑魚ベー。安心して休んでいてくれっ。お前の無念は全て、テレビ局長にぶつけてやるっ!


ん……?あ、雑魚ベーの残骸がどんどん消えていく。どうやら不老不死の呪いによる復活が始まったらしい。十秒と掛かることなく、地上に落下した雑魚ベーは、衣服も含めて綺麗さっぱり消え去ってしまった。……まあ、死体がテレビ局局員に見つかって騒がれるわけにもいかないし。雑魚ベーが消失したのは残念だが、証拠や痕跡が残らないのは正直助かるぜ。


〔悟さーん!着地ミスしただけで死んでしまいましたよぉっ!あー、痛かった!〕


「うおっ!?ざ、雑魚ベーか!お前、消滅した状態で話せたっけ?」


〔聞いての通り、消滅した状態での会話もできますよぉっ!ですが知らないのも無理はありません。いつもは消滅技を受けて即復活するのが恒例ですからねぇ。特星以外で呪いの効果が発動すると、復活するのに最低数十秒は掛かるんですよねぇ。……それにしても、体があんな状態になる経験は初めてですよぉ。いつもは五体満足の状態で消滅したり蒸発したりが多いので。結構、気分が落ち込みそうです〕


「……すまん雑魚ベー、あれは俺が悪かったよ。まさかジャンプがそんなに難しいもんだとは思わなかったんだ。空中で全然止まらねーし、あれだと仮に回ってなくても着地は難しいだろうな」


〔事前にあれほど危険だって言いましたよぉっ。……ま、私はこの通り復活待ちなので平気です。悟さんは大丈夫ですか?私、勢いよく吹っ飛ばしましたけど〕


「ふん、俺を誰だと思ってやがる!お前の攻撃を受けてヤバいと思ったことは一度たりともないぜ。ただまあ、……今までの攻撃の中では一番効いたかもな。地球のおかげで」


〔マジっすか!?……もしかすると私、キックよりパンチの方が才能あるのかもしれませんねぇ〕


パンチというか精神ダメージが効いたというか。ホラー映画以上のグロ映像がばっちり見えちまったからな。落下死なんてするもんじゃねえって感じ。


「あ、そうだ雑魚ベー。折角の消滅状態なんだから、しばらくはその姿のままでいられないか?お前は目立つから、ずっと消えててくれる方が侵入しやすいんだが」


〔言い方はともかく、確かに地下都市内の移動中もじろじろ見られてましたからねぇ。ですが、この霧散した状態をいつまで保てるかはわかりませんよぉっ。不死の呪いと言われるだけあって、さっきから気を抜けば復活してしまいそうなんです!あまり長時間復活を押さえつけるのは無理でしょう〕


「よし、局長を見つけるまで気を抜くなよ。それとお前の声は他の人間にも聞こえるから、人前で声を漏らさないようにな。もしも復活するときはトイレの個室にでも逃げ込むことだ」


〔不死の呪いにあえて耐えるなんて、人生初経験ですよぉっ。まあ、いいでしょう!この呪いには私も振り回されてきましたからねっ!たまには呪いの思惑を断ち切り、消滅したままで居て見せましょう!〕




テレビ局内の案内板に従い、局長室の前までは簡単にやってこれた。だが、局長室前のホワイトボードによると、テレビ局長はしばらく最重要会議とやらでテレビ局に戻らないらしい。まずいな……あんまり長居すると、テレビ局関係者でないとバレちまうかもしれないってのに。


〔悟さん、復活を耐えるのは結構きついですよぉ……。一つの体に戻って楽になりたいという気持ちが刻々と強くなってきています〕


「く、ここで足止めとは。とりあえず雑魚ベーはその状態で局長室に入って、雷之家を狙う証拠になりそうなものを探してくれ。さすがにカギを壊して入るわけにもいかねーからな」


消滅した雑魚ベーが壁とかをすり抜けられることは、さっき局内を探索するときに判明している。今の雑魚ベーなら、幽霊みたいに局長室を見渡すことが可能だ!ていうか幽霊じゃないのかあれは。


〔わかりましたよぉっ。でも復活しそうになったら早めに切り上げますからね〕


「ああ、局長室を出るときに鍵を閉めれないのはヤバいからな。……さてと俺は局長の居場所を知ってそうな奴に話を聞くか。……ふーっ、じゃあ人がいるし副局長室で」


あくまで室内には入り込まず、急いで話を聞く感じでいくべきか。俺は役者みたいな真似はあんまり向いてないんだけど仕方ねえっ。


[どんどんっ!がちゃ]


「すみませーん!局長へのメモ書きを渡してほしいと言われてきたんですけど、いつ頃帰るかわかりますかねーっ」


「うおっ。なんだね騒々しい。誰からのメモを預かったのかね?」


ここは……、県長の名前を出して大丈夫だよな?県長とテレビ局長がグルかもしれないから、県長に確認とかされるのは避けたいんだが。ま、局長は国の偉い奴らと手を組んでるそうだし、格下野郎がわざわざ確認はしないか多分。


「県長の使いっすよ。俺の知ってるやつなんで間違いない。なんか他の人間には見せんなってことらしーですよっ」


「ああ、総括局長宛てかぁ。私が預かって総局長に目をつけられても困る。君の責任で、必ず総局長に渡してくれたまえ。君の責任は重大だぞ!」


「へいへい。でもどこで会議してるんすか?ホワイトボード見たけど、夜まで外から帰らないみたいだし」


「それがわかれば私たちの苦労も減るんだがねっ。だが、総局長が例の会議に行くときは決まって忽然と姿を消すのも確か。この局の七不思議のひとつだよ全く。……あ、おいっ!私の愚痴は総局長には黙っておくのだぞ!」


「大丈夫だって。じゃあ昼休み中なんでこれで失礼!」


[ばたんっ!]


……ふーっ。礼儀正しい対応ってのもここまでくると疲れるな。普段から頭を下げてるような連中はどういう精神構造してるんだか。きっと、心のどこかしらが壊れてるんだろうな。


〔悟さーん。大変なことがわかりましたよぉ〕


「おー雑魚ベー。お前も趣味は最悪だが、本能で動く分まだ理解のできる人間だよ」


〔いきなりなんですか。って、それどころじゃありません。局長室の周りを調べていたら、隠された地下通路があったんですよぉ〕


「な、なにおっと……っ」


あ、危ない。いつもの癖で大声で叫びそうになった。し、しかし、局長室に秘密の隠し通路だとっ!さっきの副局長の話から、誰にも知られずに重要会議に行っている感じだったが!隠し通路とはなっ。だが、これで他の連中の人目を気にせず、局長を追い詰めることができる!


「よし雑魚ベー。局長室で復活して鍵を開けてくれ。部屋を軽く物色してからその地下通路に突入するぜ」


〔わかりましたよぉ〕




局長室内には大したものはなさそうだな。ざっと机とかを探してみたが、テレビ局に関する物しか置いてない。やはり雷之家との対立情報は、秘密の地下通路の先に建てられているであろう秘密基地的なところに厳重保管されているようだな。あまり物音を立てられないのが辛いところだ。


[がたたっ、がたっ]


「お、見つけましたよ悟さん。地下通路への入り口です」


「あああっ。く、試着室の鏡の裏かよーっ。地下への隠し通路なんだから、床に出入り口を設置するだろーが普通はよーっ」


絶対俺の方が早く見つけられると思ったのに!ふんだっ、そもそも復活前に通路の位置がわかってる雑魚ベーが有利すぎるっての。


「鏡の裏には取っ手がありますけど、地下通路側から鏡を元の位置に引っかけるのが結構難しいですねぇ。でも戻しておかないと、局長室に入った人たちに侵入がバレますし。えいっ」


「ここに折り返す階段があって、そこから局長室の地下通路に続いている感じか。通路の先はどっち側に続いてたんだ?」


「お、ハマりましたねぇ。鏡の取り付け完了ですよぉっ。通路は局長室から横のそっち側に続いてましたねぇ」


「あれ?そっちはテレビ局の駐車場側だろ?テレビ局の地下に秘密の会議室があるんじゃないのか?」


「少し奥まで続いていて、途中で横開きの丈夫そうなドアがありました。私はそこでひとまず引き返しましたが、中まで見ておくべきでしたかね」


「ここなら地下だし、魔法弾でドアを吹っ飛ばしても誰も入ってこれないな。行くぜ」


「多分鍵とかなさそうでしたけどね」




地下通路の扉の先には……こ、これはゴンドラかっ!角度がそれなりの広く長い下り通路を、無人のゴンドラが行き来している。通路は途中から緩やかにカーブしていて全容まではわからないが、見えているだけでも数キロ先まで通路は続いている。


し、しかしあれだな。扉を開けるまでは全く気づかなかったが、通路内に駆動音みたいなのが結構響いてやがる。この通路自体が防音ルームで、外への音を遮断してるのかもしれない。


「うわぉ。こ、これも自動車の一種ですかねぇ?」


「これはゴンドラだ。どっちかというと横移動のエレベーターみたいなもんかな。特定の範囲内しか移動できないが、山道とかを登り降りするには役立つぜ。あとは橋みたいに高いところを渡るのにも使える」


「へえー。自動ですから、橋の上位互換みたいなもんですかねぇ」


「ワープ装置の下位互換でもあるけどな。整備も必要だろうし。お、次のが来た!乗ろう乗ろう」


「…………おぉ~っ。こりゃ思ったよりも揺れないというか、ゆったりしてますねぇ。通路は先が見えないほど長いですし、到着に何時間か掛かるんじゃありませんか?」


「この長さだと下手すりゃ県外まで出ちまうかもしれないな。……暇なら揺らそうか?」


「やめてくださいよぉっ!こんな坂道で転がり続けたらぐちゃぐちゃになって、角のとれた石みたいな原型になっちゃいますよぉっ!」


「こ、怖いこと言うなよ。ははは、俺がそんな迷惑行為をするわけないだろ。悪ガキじゃあるまいし」


だが確かに、さっきの雑魚ベーの惨状を考えたらあり得ない話じゃない。そういえば地球に住んでた頃も登山事故の番組がテレビでやってたな。じゃあ坂道は危険ってことか。ちっ、衝撃耐性付きのコートさえあれば、ゴンドラを落として目的地まで滑っていけるのに。


「しかし待ってる間が暇ですねぇ。地下都市と違って景色も単調ですし。なんかお話でもします?」


「何時間も待てるほど俺は気長じゃないんでね。昼寝してるから着いたら起こしてくれ」


「……いいですもん、いいですもん。私一人でしりとりでもしてますからぁ」




「あはははっ。悟さんって結構いろんな人のことを知っているんですねぇっ」


ん、んんぅ。雑魚ベーの奴うるさいなーっ。人が寝てるのに一人笑いしやがって……。しかも仮想の俺と話してるのか?


「ふふふ。この俺に知らないことなどないと言えるっ。特星から地球から人々の秘めたる思いまでなんでも、うおぉ!?」


〔あ、やべっ!〕


な、なんだぁ!?俺は確かに寝ていたはずなのに、目を開けて口も動かしていたぞ!?そ、それに最後に聞こえた脳に響くような声は……ボケ役の仕業だな!?


「ど、どうしたんですか悟さん。急に水鉄砲を取り出して」


「雑魚ベー!お前は今、俺と話していたのか!?」


「は?ええ、そりゃまあ」


「お前が話していたのはボケ役だ!野郎、俺が寝ている間に体を乗っ取っていやがった!」


「ええっ!黒悟さんだったんですか!?どおりで様子がいつもと違うと思いましたよ」


そうか、車に乗っていた時に県長が睡眠学習がどうとかと言っていたなっ。あれもお前の仕業だろ、ボケ役!お前、俺の体を勝手に使ってどういうつもりだ!


〔…………〕


…………だんまりか?だが焦ったなボケ役、息を潜めていると逆に気配は強くなるんだぜ。ふん、俺の体を私物化しようってんなら、こっちにも考えがある!今すぐ地球の中心をエクサバーストでぶち抜いて、お前の責任問題に発展させてやろうっ!


〔わあっ待て!よせバカっ!〕


「悟さん!?その危険銃をどうするつもりですか!?」


「単なる撃ち真似……ジョークだよ。ボケ役をおびき寄せるためのな。話を聞くから、雑魚ベーはちょっと待っててくれ」


〔ジョークなわけねーだろっ!数時間前だって本気でゴンドラ落とそうとしてたじゃん!〕


そんなに前から黙って俺の思考を読んでやがったのか……。で?なんで俺の体を勝手に使って雑魚ベーと話してやがった?


〔いやだって……ツッコミ役の視点を覗いてたら、哀愁漂う一人しりとりが始まったからつい。一時間も続くと、さすがに聞いてるこっちが辛くてな〕


じゃあなんで俺が起きた時に黙ってたんだよ。つーか、俺が寝てて聞こえないことをどうしてお前が聞くことができるんだ?


〔寝てても音は聞こえてるのさ。脳が認識できないだけで。黙ってたのはまあ……、説明できない深い深い事情があるんだよ。特星本部からの大事なお仕事ってところさ〕


おや、面白そうな話に関わってるんだな。よしボケ役、人の体を勝手に操った罪滅ぼしだっ!その大事な仕事とやらについて話してもらおうか!機密情報までぺらぺらとな!


〔ほらーっ、そういうこと言いやがるー!子供のころから居眠り中の手助けをしてるだけなのに、恩をあだで返しやがって!お前のテストの7割強は俺の点数だぞ!〕


それは、ありがとうボケ役。そして、今度は起きている俺を手助けする番だ!つべこべ言わずにさっさと話すんだなっ!


〔……じ、実はある調査のためにツッコミ役、つまりはお前に動いてもらっていて。……ツッコミ役を地球に送り込むよう校長に勧めたのが俺なんだよね。今の地球の発展ぶりを見れば、悟は喜ぶぞーって〕


「なにぃ!?」


ど、どおりでっ。校長が土地交渉なんて面倒ごとを頼むから変だと思ったんだ。……あの頭がお花畑の校長のことだから、ボケ役の口車に容易く乗せられちまうのは目に見えてる。校長は元々、天利に頼むつもりだったみたいだし、交渉決裂して頭を抱えてるところに付け込まれたんだろう。


〔今日は勘が鋭いな。その調査対象が、もしかすると記憶を覗く術を持っているかもしれないのさ。だから、ツッコミ役が何も考えずに先へ進み、俺がこっそりと事実確認をするのがベストだったんだが……〕


ちょ、ちょっと待った!それって俺に話したら、完全に計画がパーになるんじゃないのか?この先もしも記憶を読まれたらバレるぞ!


〔うん。でもなんか機密情報を漏らす背徳感が気分いいから、もう全部話しちゃったよ。どうせ居るはずもない調査対象だし。特星本部長もミスに寛容だから、テキトーでいいって〕


ふーん。で、その調査対象って誰なんだよ。居るはずもないってことは、素性はすでに分かっているんだろ。


〔正者だよ。校長である正安の兄にして、エイプリル事件の犯人と言われてる男さ。ツッコミ役も前に正者の財宝を追ってただろ〕


ああー、あの残念賞みたいな宝の持ち主か。それとエビシディとかの異世界連中とも面識があるようだったな。……正者が生きてるかもしれないと散々振り回された印象が強いんだが、結局のところ生きてたのか?


〔死んでるから居るはずもないんだよ。幽霊の可能性すらないね。俺や天利や特星本部長の力によって、奴の死は完全に露見しているのさ。……なのに正安の知り合いの県長野郎が、日本で正者らしき人物の噂を耳にしたとか騒ぐから、こうやって調査する羽目になっちゃったわけだよ。何度調べても、正者は死んでるんだけどなぁ〕


そりゃまあ信憑性薄いわな。日本はエイプリル事件の直接被害を受けてるわけだし、俺が地球に住んでた頃でも、正者がどこにいるなんて説はいくらでもあった。何十年も経った今なら、正者の霊が化けて出たなんて話もありそうだし。


にしても、あの県長が正者の噂を気にしてるとはな。まあ、県長と校長は友人同士らしいから、正者のことを知っていても別に不思議じゃない。つーか、エイプリル事件の被害を直接受けているだろうから過剰に気にしているんだろうな。でも、どうせなら俺らにも話してくれりゃよかったのに。


〔あー、この調査は正安に秘密で進めているんだ。事実が判明してから伝えることになってるから、ツッコミ役もうっかり正安に話さないようにな〕


ああ、そういうことね。俺たちは校長から呼ばれて地球に来てるから、校長に隠したい話題は俺たちには話さないのか。……それは別にいいんだけど。校長に秘密で話を進めてるなら、県長は誰に情報をリークしたんだ?特星のこととかあんまり知らなさそうだったぜ、あのじじい。


〔リーク先は正安の厄介なお友達だよ。身も心も死んでる幽霊技術屋さ。つっても、地球で天利を幼女化したりと、訳わからんことには化物みたいに頭が回るやつだけど〕


天利の若返りって。あ、あれって地球の技術だったのか……?俺はてっきり特殊能力や魔法の類で若返ったんだと思ってたが。


〔やり口はまっとうな地球の技術とかなんとか。ま、その幽霊が特星本部に乗り込んできたんで、問い詰めたら県長の伝言が発覚したってわけだ。しかしホント、ロケットも乗れないのにどうやって特星と地球を行き来しているんだか……〕


つまりボケ役は、調査のために俺を地球に向かわせる裏工作をして、しかも調査中に雑魚ベーの独りしりとりに耐えられず、睡眠中の俺を使って話し相手をしたわけだ。さらには情報漏洩……いや、俺が事情を知れたから、そこは正しい行動だったな。


〔ぜ、善意でやったことだから悪気はなかったし。無罪放免だろっ〕


無罪放免でもいいけど。でも調査員としては……ポンコツとしかいいようがない。俺に情報を渡した以外にいいところがないじゃん。


〔うぐぐ。ツッコミ役を地球に送り込むのはうまくいったのに……〕


調査ってのは黒幕に近づき、倒して真相を知るもんさ。黒幕の正者が実在するにせよ、黒幕の県長が誤情報を流したにせよ、地球に倒すべき敵がいることはわかっているんだ。……直接地球に乗り込まなかった時点で、ボケ役の調査員としての能力はたかが知れているぜ。


〔お前、犯人がいないパターンとかは考えないの?〕


主人公が地球にいるんだから、犯人も地球にいるに決まってるだろ!俺は探偵じゃなくて主人公!不運な偶然による事故なんてありはしない!俺のいるところに必ず敵もいるのさっ!


〔はぁ……やっぱ雷之家の思考は、今なお共感には程遠すぎるぜ〕


「悟さん、もうゴンドラ登り始めましたよ。早く降りないと」


「うお、もう到着していたのか!ああ、話はついたぜ。降りよう」


まあ見てなボケ役。お前の調査とやらは俺が引き継いでやるよ。お前は本来の計画通り、事態が動くまで息を潜めていれば十分だ。


〔おっけー。じゃあ通信切っておくから用があったら呼んでくれ。天気がいいから空でも飛んでくるよ〕


お前はもうちょっと調査に興味持てっ!……まったく。今まさに局長の隠された領域へ乗り込もうってのに。正者に関係なさそうだからって見物をすっぽかしやがって。


「悟さん、見えてきましたよぉっ!」


「お、秘密基地かっ!?……って、え」


「エレベーターですねぇ。しかも上行き専用」


え……エレベーターで地下都市に降りて、テレビ局の地下に入り、ゴンドラで更に下まで下り、これだけ地中深くまで続く道を用意しておきながら、ここで上かぁ!?嘘だろ……。まさか、まさかとは思うが。この先がただ単に、地上のエレベーター乗り場につながってるだけなんてこと、ないよな……?


「雑魚ベー!下行きのボタンはないのか!?」


「え?そうですねぇ。外側には、見たところ上行きのボタンしかなさそうです。これは無駄足でしたかね」


「き、きっとどこかの隠れ場所につながるボタンがあるはず!見つけるしかない!」


「……どうしたんですか悟さん。いつにも増して挙動不審ですよぉ」


「だってだってぇー!さっき俺、ボケ役にあれだけボロカス言っちまったんだぜーっ!それで、今すぐにでも局長の秘密を解き明かして、決戦間違いなしだなんて思ってたもんだからさ!もしも、ただの通り道を勘違いしただけなんて判明したら……、俺、もう主人公として終わっちまうよぉーっ!恥ずかしくて死ぬ!」


「あー……。私は悟さんと黒悟さんの会話は聞こえないので、何を言ったかまではわからないんですけど。でも別にいいんじゃないですかねぇ。悟さんの普段の決めつけに比べれば、この地下に局長さんがいるなんて考えは妥当もいいところですし。今更気にすることでもないような」


そりゃ普段の俺は上からものを言わないからいいけどさ!今回は心の中での会話だから本音が出ちまったんだよ!それにいつもは1度は間違えても、真実が判明する前に正しい答えを導き出すけど、今回はそんな暇もなく、上行きエレベーターが出ちゃったもん!


こ、このことを思考で会話してたボケ役に知られては、一生の恥だっ!完全な推理ミス自体が生まれて初めてのことではあるが。幸い、ボケ役は空中散歩中で俺の勘違いには気づいていない!まだミスはバレてないから大丈夫だ!ボケ役が調査に戻る前に、局長との決着を全て終わらせなければ!


〔………………〕


あ、焦りすぎだなっ。焦りすぎて今、ボケ役が無言で心の声を全部聞いていたんじゃないかと思っちまったぜ。なんせ、ほんの何十秒前まで話していた相手だからな。俺自身、自分の心の中で言ったことを鮮明に覚えてるのが何より辛いっ。


「いいか、ボケ役に気づかれる前に局長との決着をつけるぞ雑魚ベー!もしもボケ役に気づかれて、俺の言葉をそのまま言い返されでもしたらお前っ!2週間くらい悶絶し続ける、情けない主人公の姿を拝むことになるんだぞぉっ!」


「わっかりましたっ、わかりましたからぁ!到着したエレベーターに早く乗ってくださいよぉっ!急に考え込んだり、恥ずかしがったり、人の胸倉掴んだり、忙しい人ですねぇ!……もしかして特星の不老不死オーラがなくて精神が不安定なんじゃ。日本にいた頃もそういう照れ屋な性格だったんですか?」


「いざというときにはボケ役を口封じに倒して……ん?な、なんだよっ?」


「ああいえ、要らない心配だったようです。いつもの悟さんですね。故郷の風に当てられて、テンションが上がってるだけ……ですかねぇ」


まだ、エレベーターの先に局長がいる可能性がある!いなくても、ボケ役が気づく前に追いかけて倒せる可能性もあるっ!気づかれても、ボケ役を気絶させれば恥ずかしいことなどない!調査自慢した挙句に調査ミスなんて、俺がそんな赤っ恥をかくと思うなよっ!

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ