〇話 星舞台の上に居座りしもの
@悟視点@
あと何日かで雪が舞い散る冬の季節。数日後に訪れるであろう雪景色並みに俺の脳内は真っ白だ。いやだってさ、あの校長がさ。まじめな話があるから俺の部屋に来るって言うんだぜ。
「まじめな話。まじめな……?あの校長がまじめな話?あれがまじめになれるってのか……?怪しすぎて何を企んでいるんだか」
更に怪しさを増してるのが、これがボケ役からの伝言だってところだ。詳しい事情を聞いてもボケ役は答えなかったし。しばらく問い詰めてたら音信不通になりやがった。ボケ役ですら、明らかに関わりたくない用事である可能性が高い。
これでボケ役がノリノリだったら、ゲージが奪ったカードを返しにくるって考えもできるんだが。あのボケ役が関わりたくなさそうにしてたからな。校長がまじめでボケ役が控え気味……まるでどういう話をするのかがわからない。校長基準のまじめだからどうでもいい話なのかな?
[ぶぉん]
「こんにちはー。悟君いますか?」
「うおっ!?校長!波動で入ってくるなよ!」
「あ、すみません。外は寒いのでつい。それと新しく買った冬用室内スリッパも自慢したくてつい」
校長の足には猫っぽい形状の派手なスリッパが装着されている。それに靴下の足首当たりにはウサギのキャラが……似合わないから見なかったことにしよう。
「って、スリッパ買う金があったのか。噂では学校で生活してるって聞きましたけど」
「1日分の食費と引き換えに買いました!というわけで何か奢ってくださいよー。このままでは空腹で倒れてしまうかもしれません」
「特星で空腹って……。いやまあ飯の香りに釣られることは俺もあるけど。……で、俺にまじめな話って何の用なんです?」
「そうでした。えー、どこまで話したものでしょうね。本来生徒には頼むべきではない用事を頼みたい、という用件なのですけど。悟君さえよければ、君に行ってもらうのが一番穏便に話が進みそうなので」
「そりゃまた物騒な用件ですね。主に最後の部分が」
確かに俺は異世界へのスパイ経験もあるし、穏便に物事を済ませる実力もあるだろう。だが、適性があるとはいえ俺は基本的に敵を倒す戦闘スタイル。穏便慣れしてるやつら以上に穏便に話を進められるとは思えないんだが。
「ま、俺と校長の仲だし全部話していいんじゃないですかね。俺はこれでも特星の大体のことは知ってるつもりだからな」
「それもそうですね。といっても特星ではなく地球の話ですけど、悟君は地球出身ですから大丈夫でしょう多分」
「お、地球か懐かしい!いいぜ、聞いてやりますよ」
地球かー。俺にとっての故郷だが、もし帰るとなると何十年ぶりになるだろう。特星移住後の何年かは地球まで帰ることもあったが、ここ数十年は地球に帰っていないはずだ。確か、地球帰還には面倒な約束事がいくつもあった気がする。
「まずは確認ですが。悟君は故郷の瞑宰県のことはどのくらい知っていますか」
「ふわっとした質問だなぁ。昔の知識だけど、日本本州にある唯一の特殊区域だとかは言ってた気がする。ロケットから見てた感じだと、多分海岸に面してる県だよな?」
「合ってますよ。ただ私は君の地理の覚え方が少し不安になってきました……」
日本地図ってテレビ局でしか見たことないからな。的当てゲームとたまに天気予報で。ロケットから実物を見た回数のほうが多いかもしれない。
「瞑宰県には、ある未解決事件の調査のために特殊区域に指定された、という経緯がありまして。そこにロケット産業の成功などが重なり、他県とは違った運営をしているんですよ」
「事件調査のために特殊区域になったのか?県一つを特別扱いするほどの事件ってことは、……校長のところのあれか」
「はい。ご存じ、兄が引き起こした大恐慌エイプリル事件です。特殊区域化されたきっかけがあの事件でしてね。……しかしその後は特殊区域であることを活用して他県より優位に立ちました。今や独立気味だと称されるくらいの権限を持っていますよ」
「校長、そういう話をされると巨大な陰謀に巻き込もうとしてるように聞こえるぜ」
「あ、すみませんね。身近な話なのでつい。実はその瞑宰県の友人から、開発用の土地を売ってもらえるように説得を手伝ってほしいと」
「土地を売ってもらう?ははーん、つまり土地を撃ちまくって持ち主が使えなくしてしまえと」
「違いますよ!普通に穏便に地上げの交渉をしてほしいのです!」
「でも俺が行かなきゃ穏便にならないって、つまりはそういうことだろ?他の奴だと相手にケガさせるかもしれないからなー」
「ちーがーいーまーすぅーっ!土地の持ち主が雷之家なんですー!だから悟君にお願いしたいんですよ、もうっ!」
「え、雷之家だって?」
雷之家、といっても天利や皇神の住んでた家のことじゃないよな。あの家なら俺よりも本人を説得した方が早いし。なにより今更存在してたらすでに潰れてると思う。築年数的に。ってことは天利の実家か?
「一応聞くけど、天利の実家のほうでいいんだよな?」
「そうなんですよー。一応、先方の要望通り天利さんには伝えたものの、今の雷之家とは面識がないからと断られてしまいまして。私が出向いても、門前払いされて面会すら適いませんでした」
「校長行ったのか?俺は行ったことないんだけどどんな家なんだ?」
「結構大きなお屋敷ですよ。昔は古風な感じでしたが、今では改築したのか防衛装置などが多い要塞みたいになってました。地下に核シェルターとかもありましたね。波動でちょこっと調べた感じなので内部構造まではわかりませんが」
ふーん。天利からは雷之家についてほとんど聞かされたことがないから意外だ。てっきり天利のセンスに合わない家だから俺に隠してたのかと思ってたが。普通に天利の好きそうな悪の組織っぽい建物に住んでるじゃん。
「まあ、説得するだけなら行ってもいいぜ。特星移住前の地球と見比べてみたいし」
「悟君は最近地球に帰っていないんでしたっけ。すっごいですよ。日本全体がロケット産業に魅入られてからの数十年……。空と星に向けられた力は惜しくも届かず、人々のブームは空からの勢いを上乗せして、地球へと再び向かい始めました」
そいつは面白そうだけど少し残念だな。同じ地球人なら特星みたいな星を作れると思ってたんだが。特殊能力なしだと、数十年って期間があっても厳しいのか。
「回りくどいぜ校長。星を作り、ワープ装置のある特星に住んでるってのに……地球の技術にそこまで感動する余地があるというのか?一体、何を見たんだ?」
「私が地球を訪れるたびに感動したもの。それは住まいです!いまや日本の地上には時代の流れはありません!大樹の根のごとき地中世界にこそ、今の日本が結集しているのです!」
冬の寒さなど忘れてしまいそうな宇宙の……朝くらいか?今起きたから朝だな。地球行きのロケットに乗り込んでから3日が過ぎ、遠くに見えていた地球にもかなり近づいている。今日か明日くらいには着くだろう。
うーん……、今日も全部の窓を見るがやっぱり特星は見えそうにない。初日の序盤は見えてたんだがな。恐らく地球周辺から探知されないように隠してるのだろうが、俺の視力でも見えないって相当高度な隠し方だよな。
「悟さん悟さん!正面に見えているあの島ですよね、悟さんの故郷って!近くの変なのが島に被さってますけど大丈夫なんですかねぇ?」
「ふあぁ~っ、貸し切りとはいえうるせえ雑魚ベー」
特星から地球に帰るロケットは利用者がほぼいないため、俺の貸し切り同然になる……はずだったんだが、どこで聞きつけたのか雑魚ベーが半ば無理やり付いてきやがった。前に俺がサイドショット領に行ったから、今度は自分が地球に遊びに行くということらしい。ロケット発射前に気づけば叩き出したんだが……。
「でも気になりますよぉっ!明らかに他の地形とは常軌を逸していますからねぇ」
「地形っていうか、あれは木だよ」
「木……木ぃっ!?ちょっと待ってください!日本ってメインショット領よりも大きいんですよねぇ!?木、滅茶苦茶でかくありません!?」
「多分あれは世界樹だな。俺が地球にいた数十年前にはすでに育てていて、その時でさえ街一つ位のサイズはあったんだよ。だけど、まさかあの北の大地を丸ごと覆い尽くすほど成長してたとはな」
今の地球には、日本以外にも似たような木が所々に存在しているっぽいな。日本より大きそうな世界樹もいくつか見えるぜ。……世界樹の計画自体は日本から始まったらしいが、後発の方が品種改良されてるからサイズを追い抜かされたんだな。特星に移住する頃はまだ日本の世界樹が一番大きかったはずだが。
「あの木が生えてる場所は日本の本州の次にデカい島なんだぜ。県……領みたいな区分けのことだが、県としても最大の大きさだ。そんなところが巨大な木に完全に覆われやがる。いやぁ、こんなにでかく育つなんて、地球の技術を甘く見てたぜ」
「さしずめ世界樹県とでも言ったところですかねぇ」
「何県だったかな……。昔はわかりやすい名前だったって校長が言ってたんだが。んー、見に行きたいところだが瞑宰県の外に出ないよう校長に言われてんだよな。身バレしやすいからって」
「身バレっていうと、搭乗前に係員さんが言っていたやつですよねぇ。特星や特殊能力のことを他人に話すと、記憶を消されて特星に戻れなくなるっていう。私マジで怖かったですよぉ、特星映画に出てくる宇宙人みたいなこと言うんですもん」
「記憶だけじゃなくて特殊能力も失うんだぜ。随分昔に、俺の知り合いで戻れなくなったやつが居たからな。不老の効果まで消えるのかはわからんけど」
「そうか、本来特星外だと不老の効果だけは継続するんでしたっけ。不老の効果が消えると年が離れちゃいますよね」
もしそいつが不老効果も失っているならばすでに死んでるだろう。うーん、そう考えると特星が作られてからかなりの年月が経ってるんだなー。今思うと、追放されたやつが親しい奴じゃなくて本当に良かった。仲のいい奴の死亡通知なんて聞きたくもないからな……。ましてや、年重ねて変わり果てた姿なんて目も当てられないぜ。
「でもどうして地球だけはそれらを話すのが禁止なんでしょうねぇ。大メインショット郷国ではむしろ特星や特殊能力のことを広告してたのに」
「さあな。特星ができる前の校長は生徒たちに波動を見せたりしてたけど。……多分、大半の地球人には、特星のことを知られたくないんじゃないかな」
「ええー?こんなロケットで行き来しているんですよ?さすがに周知の事実でしょう」
「特星の事情を知ってたらもっと多くの地球人が乗り込んできてるはずだ。地球には不老不死を欲しがるやつも多いからな。……それと特星と地球は近くにあるはずなのに特星が見当たらないのを見ると。多分、特星って地球から見えないように隠してあるんだと思う」
地球ってのは、特星の一部地域から凡人が裸眼で見えるくらいの位置にある。その程度の距離なら、俺がこのロケット内から特星を見失うということは普通あり得ない。特星のサイズは地球の約10倍……仮に特星の位置が地球の後ろだったとしても、今の位置から見えなくなるということはないはずだ。俺ですら見えないってことは、何らかの普通じゃない方法で隠しているんだろう。
「故郷の星が近くにあるのに、不老不死の石は大メインショット郷国ような遠い異世界に分け与えているんですねぇ。故郷の地球人の姿が移り変わっていっても、寂しくはないのでしょうか」
「どうだかな。特星製作陣ともなれば特星の方が故郷みたいなもんだろうし。先陣切ってる校長あたりは地球に苦い思い出があるみたいだからな」
「苦い思い出?」
前に校長から聞かされた、平成31年の正者関連で色々苦労したって話。校長はまだ気にかけてるんだよな、多分。……未だ事件を理由に門前払いされてんだから、気にしないわけねーか。
「詳しくは知らないが、昔に色々あったんだとさ。兄弟間のトラブルってやつがな。さっ、いつまでも地球談義してないで早くゲームしようぜ」
「特星外ですからちゃんと食事をとってくださいよぉっ!」
細かい奴だな。それじゃあ近づく地球でも眺めながら朝食でも食うとするか。数十年ぶりの地球と瞑宰県の街並みだ。果たして特星や異世界よりも見ごたえがあるかな?
あー、体がだるいー。特星製のロケットとはいえ、4日も宇宙にいると肩こりが酷い。ま、ロケット内が無重力じゃないだけまだありがたいな。数十年前のロケットは無重力なうえ、椅子でシートベルトしてる時間が長すぎて体がマヒしそうになった覚えがある。それに比べたら、今回のロケットは座敷に布団もあって相当体への負担が少ないと言える。肩はこるけど。
さて、打ち上げステーションでの手続きも済んだ。今年初めての地球だ!昔あった住宅街のような街並みは影も形もなくなっているが、俺はこの星に舞い戻ってきたっ!
「ここが日本……。なんか思ったよりもな-んもない気がしますけど、本当に雨双さんの話していた日本なんですか、ここ」
一面平らに整備されたタイル床。建造物は所々にあるロケット打ち上げ場と、ドーム状の建物がそこら中にあるだけ。他の建造物といえばロケット打ち上げ場ほどの数もない。こりゃあ確かにかつての日本とはまるで別国といえるだろう。瞑宰県は他県に比べても特にこの街並みが際立っている。
「宇宙から見た感じ、他の県にはまだ日本の面影が残ってはいるようだ。だが、瞑宰県同様にこのドームみたいな建物は日本の各地にあるのが見えたぜ。これは一体、どういう建造物なんだ?」
「人が住んでる家なんじゃないですかねぇ」
「いや、各ドームは家ほどの大きさだけどよ。瞑宰県中の街を消してあのドームに移り住んだんじゃあ居住スペースがどうやっても足りない気がするんだよ。特に瞑宰県なんて、昔あったはずの一軒家やアパートやマンションが全く存在しないからな」
瞑宰県にいた頃に見覚えのあるものなんて、ロケット打ち上げ場か遠くにある山くらいのもんだ。……県内の山もかなり整備されてるな。もはやタイル製の山じゃん。同じ模様があそこまで多いと不気味な気もする。
「どうしましょう?ロケット打ち上げ場には何人かの人がいましたし、戻って場所を聞いてみますか?目的地がわからないとどうしようもありませんよぉっ!」
「瞑宰県内にも一応、家らしき建物はあったけどな。あっちのロケット打ち上げ場の奥に見える基地みたいな建物が、校長から聞いた雷之家のイメージそっくりだ。そこに行くって手もあるぜ」
「遠くて見えません。あのロケット打ち上げ場がまずかなり遠いですし」
「じゃあ、さっきの打ち上げステーションで聞くか」
しかし一体、俺がいない間に日本で何があったんだ?校長がほめるような要素も今のところ見つからないし。ドーム内は植木鉢と手すりのようなものが見えるだけ。くっ、この街の人間は一体どこに行っちまったんだ!?
「「ち、地下都市ぃ!?」」
「はい。瞑宰県の人たちのみならず、今や日本中の人々が地下生活に移行しているのです。この打ち上げステーションからも行けますよ」
打ち上げステーションの受付から聞いた驚くべき事実。それは日本中が地下暮らしに移行しており、地下には地上の都市に匹敵する人数が住んでいるというのだ。地下都市って……なるほど校長が喜びそうなシチュエーションではある。だから感動したとか言ってたのか。
「だけどよ。日本って言えば地震とか多いんだろ。地下に住んでたらそのうち潰れ死ぬんじゃないのか?地盤がおかしくなったりしてさ」
「大丈夫らしいですよ。国中がロケット事業に躍起になっていたころの名残で、熱や圧力に関する研究が進んだことが功を奏したそうです。今では地下都市がプレートに押し潰されても、プレート側の面した部分が砕けるほど、都市を囲むシェルターの壁が発達していますからね。当然マグマや核ではビクともしません」
「プレートといえば、地面の中にある巨大な岩盤ですよねぇ。そんなものに潰されても耐えられるなんて、……エクサバーストにも耐えるんじゃ」
「なんだと?試してやってもいいんだぜ、雑魚ベー!お前ごとな!」
「各国もあらゆる戦争兵器対策として注目していますからねー。個人で地下都市の外壁を壊すのは間違いなく不可能だと思いますよ」
ふん、たった数十年の間に、地球産の最強兵器の力は忘れ去られてしまったらしい!例えプレートに耐える強度があろうが、エクサバーストにまで耐えれるわけがないってのに!
「悟さんー?守秘義務ですよ、守秘義務。どっちも撃たないでくださいよぉっ」
「わかってるよ!……エレベーターで地下に行けるんだったか。よし行くぜ雑魚ベー!日光届かぬ暗黒の都市へ乗り込むんだっ!」
「ええ!私も初めて見る地下の世界!楽しみですよぉっ!」
「あ、瞑宰県のほとんどの人は確かに地下都市に移住しましたけど。でも、その前に尋ねられた雷之家というのは地上にあるんですよ。ここからそこそこ離れたロケット打ち上げ場の奥にある、古い基地みたいな建物です」
「えっ…………雑魚ベー!地上に取り残された秘密要塞に乗り込む!こい!」
「お、おーぅ」
店員チラチラ見ながら恥ずかしがってるんじゃねー!勘違いをリカバリーしたこっちまで恥ずかしくなってくるだろ!
「もうダメだ……さ、寒さが」
「悟さん!しっかりしてくださいよぉっ!特星じゃないんだからこんなところで寝たら死にますって!悟さーん!」
こ、こいつはヤバい。いくら地球とはいえ、ほんの半日歩いただけで足が痛むだなんて完全に予定外だ。しかも防寒効果の高いコートを着てるはずなのに寒気がする!
「だから途中、地下から行こうと言ったんですよぉっ!人が住んでいるなら温度管理が行き届いている可能性がありますし。ワープ装置だってあるかもしれないのに!」
「う、うるせー。たとえワープ装置があっても日本円ないだろ。……地球では移動には金がかかるんだ。く、足の皮膚と内部が」
「うわぁ。靴の中がボロボロじゃないですか。こんなの履いてたら足が擦れて怪我しますよそりゃ」
「これだから状態異常は厄介なんだ!特星や大メインショット郷国ならなんともないのに、くそぅ」
「というか私はそろそろお腹がすきましたよぉ。地球に着いたときの昼食と半日経った分の夕食で、2食分は食べていない気がしますもん!」
「やむを得ないな。本当は用事を済ませてから行きたかったが、今すぐドーム状の建物から地下に行くしかないようだ。……って、一番近いドームでも数キロくらいの距離があるじゃねーか!これはもう……寝よ」
「せめて予備のコートを出して寒さを凌いでください!こんな日の沈んだ寒空の下で寝たら本当に死にますよぉっ!」
ああ、こんな街中の道端で遭難するなんて予想だにしなかった。街中っていうか、もはや床が整備されてるだけで平原や砂漠みたいな広さだし。時間帯はすでに深夜、誰かの助けを期待するのは無理なことだろう。
[ぷあぁーーーっ!!ききぃーっ!]
「うお!?っと」
「うわ、な、なんですか!?」
急に背後から光と騒音がっ!って、危ない危ない!地球で特殊能力を使うのはダメだった。あれは……車だ。こんな道路があるかも怪しい路上に車が止まりやがった!
「じ、自動車のようですねぇ。地球産の自動車はテレビでしか見たことないですけど」
「危ねえぇ!本能が後ちょっと足りなければ撃ってたところだ!」
「おおぉ、ようやく見つけた!君たちが正安の言っていた助っ人だね?」
車から降りてきたのは、結構年喰ってそうな雰囲気のおっさんだ。正安ってことは校長の知り合いか?確かに校長と同じくらいの年齢に見える。
「校長の友人ってのはあんたか?年も近そうだし」
「ははは。友人ではあるが、体は私のほうが20くらい老けているよ。正安の奴は老け顔だからな。いや驚いたよ。ロケットの着陸場所に迎えに行ったら、地下ではなく外に出て行ったというんだからね」
「到着前に待っててくれよ。随分歩かされたぞ」
「到着時間がわからないんだよ。特星……こほん。あの星から来るロケットはステルス化してるからね。ロケットとの通信ができれば便利なんだが……。予め正安から聞かされていたのは、助っ人を早いうちに呼んでくるということだけだよ」
校長の波動なら直接地球に乗り込めそうだし、到着予定時刻くらい伝えてくれりゃいいのに。ってか、波動で地球まで送ってもらえば楽だったな。く、特星を出る前に気づくべきだった!
……にしても、事前に到着時刻がわからないのは地味に面倒そうだな。ロケット着陸所は毎日特星のロケットに備えなきゃならないのか。
「特星より不便そうな星ですねぇ。あ、私は雑魚ベーと言いますよぉっ!」
「俺は雷之 悟。特星を代表する主人公だ」
「ああ、自己紹介がまだだったか。私は瞑宰県の県長を務めていて……今は尾流県長と名乗っている。尻尾の尾に、流れるの流だよ」
「へー。……今は?」
「ああ。地球で不老がバレると色々厄介なことになるからね。私は戸籍上2回死んでいるんだよ。……まあ、ここで話すのもなんだ。車で話そうじゃないか。このままじゃ風邪をひいてしまう」
「おお、温かいな!よし寝るか」
「ふうあぁ~。私も遭難したから眠いですよぉ」
「寝ながらでもいいから、雷之家に着くまでに私の話を頭に入れてくれないかな」
「構わないぜ」
難しい話は眠るのにちょうどいいからな。睡眠学習すれば体調は良くなるし話は聞けるってわけか。よし、県長の話がどれほど安眠するのに適しているか試してやろうじゃないか。