二十一話 争奪するカード返礼 ~譲渡か喪失か
@悟視点@
今日は天気も悪くないし涼しげな風も吹いている。それでも暑いような気もするのは、視界に入る観客席の半数以上が赤い衣装なせいか。それとも、今の試合に出場してるレッド野郎をようやく倒せるからなのか。つーか、なんでカードバトルをするのに野外競技場なんだろう。
……2階の観客席にいるからレッド野郎の手札がよく見える。間違いなく、先週金庫内で見たデッキレシピと同じデッキを使用しているな。ふふふ!今日までの数日間、ひたすらレッド野郎のデッキ対策に打ち込んできた俺にはわかる、奴のあのデッキはマジで強い!練習用のシミュレーション装置で一度たりとも勝てないほどだ!だが、練習と本番は全く違う。この本番の試合で、レッド野郎を踏み台に俺は裏ドリでの初勝利を飾ってやるぜ!
[わああああああぁ!]
お、どうやら試合の決着がついたようだな!やっぱりレッド野郎が勝ち残ったか。一試合目はこれで終了だからこれから会場は昼休み。つまり、仕掛けるには絶好のタイミングってわけだ!
「それでは両選手退場を」
「その選手退場ちょっと待ったぁーっ!!とぉ!」
審判の退場を制止して、2階の観客席から決戦の場へと飛び降りる!そしてスタッフが片付けようとしていた激長はしごを引きずりながら、試合場の中央へと堂々と入場する。
「よいしょっと。ふぅ」
「お前はっ。……誰かと思えば、この間俺に敗北して逃げ帰った男じゃないか。随分派手な登場をしたようだけど、また観客の前で恥をかかされたいのかい?というか、すでに場違いで恥ずかしい行動をしているという自覚はあるの?」
「場違いだとはひどい言いがかりだな。昼休みに試合場借りて遊ぼうってだけの話だ。許可ならちゃんと今からとれる。……あ、レッド野郎の対戦相手は帰っていいぜ」
水鉄砲を向けると、レッド野郎に負けた選手は帰っていく。お、入れ替わりに大会管理委員の衣装を着た学生数人に取り囲まれたぞ。全員高校生っぽい。
「困りますよお客様ー。勝手に会場内に入られては」
「勘違いするなって!俺はちゃんと特星本部に話を通す感じでここにきてるんだ。特星本部に確認してみな。黒悟って名前とコート神だということを伝えればすぐに返答が来るはずだ」
「ええーっ。仕方ありませんね。じゃあ確認するので待っていてください」
俺を取り囲んでいた何人かが確認に向かう。……もちろん俺は事前に話なんか通しちゃいない。確認に向かった奴らがボケ役の名前を出せば、特星本部側であとは何とかするだろうって寸法さ。奴が普段からまともな手続きを踏んでいるとは思えないし、多分通るだろ。
「……俺と勝負したいのであれば、選手として登録すればよかったはずさ。だけど君はこんな手間のかかる方法で勝負を挑んできた。非公式の試合でなら、俺に負けても言い訳できると思っているんだろう?」
「はっ!先に教えてやるが、俺のデッキはお前のレッドキャッスルなんとかってデッキを倒すためだけに組んだメタデッキ!試合に出たところでレッド野郎、俺がお前にたどり着ける可能性はない!だから直接お前に勝負を挑むことにしたのさ!」
「奇赤レッドキャッスルだ!パンフレットを読めパンフレットを!……いくら俺のデッキに対策したところで無駄なことさ。大会優勝のために作った俺の最強最高のデッキはっ!心で負けてるお前なんかに敗れやしないよ!」
「受けるんだな?これは公式大会とは違ってカードを賭ける真剣勝負だ。負けたらカードを失う本当の勝負。……それでも本当に受けるんだな?」
「掛かってきなよ、緑男。俺の裏ドリカード財産は約1億5000万枚。総額1億8000万セルを超える!勝機があるのなら賭けれるだけ賭けるといい!この勝負で、俺が全て奪い尽くしてあげようっ!」
[さすがだぜ城赤様ー!余裕っすねー!]
[レッド団長がんばーっ!]
レッド野郎が勝負を受ける気になったことで、レッドカード団の連中が盛り上がり始める。……よかった。これで奴は賭け勝負から逃げにくくなった!正直、勝負前の段階で逃げられる可能性があったからな。だが部下の手前、もうレッド野郎は逃げられない!
「賭けれるだけ賭けろってか。じゃあ遠慮なくそうさせてもらうぜ。全賭け勝負だ!」
「ふん、威勢がいいようだね。まあいいさ。俺としても1試合で全カードを奪えるほうが都合がいい。なんせ昼休みは限られているからね」
「……なんか勘違いしてるみてーだけど。カードを全部賭けるのはお前のほうだぜ、レッド野郎っ!」
「な、なんだと?」
「俺の賭ける枚数はレッド野郎、お前の持つ裏ドリカード全部と同じ枚数だっ!デッキ、補充デッキ、その他の裏ドリカードまで全て!この勝負に賭けてもらおうか!」
「ぜ、全部だとぉーっ!?お前わかっているのか!?俺の持つ裏ドリカードは1億5000万枚を超えるんだぞ!お前っ、君にそんな枚数の裏ドリカードを用意できるわけないだろ!」
「ところが用意できちまうのさ。ぽちっとな」
俺はポケットからリモコンを取り出してボタンを押す。これは勇者社の配達サービスの一つで、あらかじめ預けておいたものをボタン一つで呼び出せるという便利なものだ。利用者枠が少ないのが欠点だけどな。……そして、当然預けておいたのは俺のカードだっ!
[ずどおおおおおおぁん!]
「そ、その箱の山はっ!」
「手前の箱は補充デッキ。で、奥のカードの山こそが俺の賭ける用カードっ!総数31億枚にもなる賭け用カードの一部だよぉっ!ここにあるのはほんの2億枚にすぎない」
「さ、31億ぅ!?バッカじゃないのか君は!裏ドリカードに31億だとっ!?それだけのカードを、価値を下げずに捌ききれると思っているのか!?」
「それはお前の心配することじゃねーな」
本当は310億枚がよかったんだ。俺の名前は悟だから語呂合わせ的にな。でもまあ金がないから31億枚で妥協したってわけだ。31なら特星ナンバーワンの魅異との語呂でやべー縁起がありそうだしアリだろう。
「さあ勝負してもらおうかっ!もっとも……ここでお前が恐れをなして逃げてしまえば、俺が掛けた費用は無駄になり、一方的に俺だけにダメージを与えることもできるぜ。会場内で勝負を期待している手下やファンを裏切るだけで俺に一発喰らわせられる。……レッド野郎、勝ち目の薄いお前に残してやった逃げ道だ!俺の慈悲に感謝しながら勝負放棄してもいいんだぞっ!」
「……ふん、甘く見られたものだね。確かに俺は1試合敗北で即死、そちらはコンテニューできるなど一見俺が不利な条件に見えるよ。だが忘れちゃいないだろうね!俺と君との実力差のことをっ!それに俺が勝つ度に賭けれる枚数が増えるのだから、君を昼休み中に倒すなんて訳ないねっ!」
「つまり受けるんだな?」
「受けるさ!その代わり勝負はどちらかのカードが尽きるまで続けてもらうよ!それが条件だ!」
「元からそのつもりだっ!1試合で決着してやるよ!審判、試合準備をしてくれ!」
「……わ、私ぃ!?私とっくにもうお昼休憩の時間なの!控えの審判呼んでおくから勘弁して―!」
あっ、審判が逃げた!他の審判が来るのなら構いやしないんだけど。どうせならついでにもう1試合くらい審判してくれてもいいのにな。審判を待ってる間に熱が冷めそうだ。
「というわけで。今試合の審判は、少女の神様であるこの姫卸が務めさせていただくよ。ほほほ。この老いぼれがお茶を飲み干すまでに終わらせておくれ」
「こりゃまた懐かしい顔だな」
姫卸といえば随分昔に夏の海岸で覗きをしていた婆さんじゃないか。そういえば特星の四神の一人だったな。コート神以外は職業上の神だから、特星本部所属で審判の仕事をしてるってところだろう。そういえば前に審判をしてたマメも特星本部の人間だと言ってたな。
「く、空中に座っている」
「ほほほ。私は波動を操る特殊能力を扱えるのさ。立ち仕事は性に合わないからここから見させてもらうよ。……ああ、カードに触れなきゃいけないんだったね。そーらっ」
「「なにぃ!?」」
姫卸から出現した波動が俺とレッド野郎のデッキを飲み込んだ!補充デッキも!だ、大丈夫なんだろうな!?レッド野郎の頭上に映像が出現したから、波動を通じてデッキに触っただけだとは思うが。不安だ……。
「試合開始だよ。ずずぅ……」
「俺の先行のようだね、10枚ドローさせてもらうよ」
「俺も10枚ドロー!」
「ドリームカード【天災スターダンシング】を発動!俺は手札を好きな枚数捨て、相手はその100倍の枚数を補充デッキから捨てる!俺は5枚捨てるよ」
「ご、500枚?って、俺の消滅エリアに勝手にカードが」
この公式ルール、手動に比べて自動化されている部分があるのが厄介だな。前回負けた時も急にカードが送られてきてパニックになったし。手動なのはドロー、カードの使用、特殊なカード効果などがある。……そしてすでに俺の手札には地獄の手動処理を強要するカードが来ているっ!
「初手で手札5枚捨てか。いいのかよ、カードゲームは手札が命綱なんじゃないのか」
「心配ご無用。裏ドリで手札を使い切ることは滅多にないからね。……君の消滅エリアが崩れそうになるほど積みあがっていく。有利不利よりもこのインパクトこそが一番の勝ち筋さ」
「ふん、そこはまったく同意見だ!ドリームカード【ハッピーナンバーショット】!」
「おや。初めて見るカードだね」
「効果自体は大したことのないカードさ。……俺は手札を2枚捨て、50までの好きな数字を宣言する。相手はデッキトップのカードを底に戻していき、宣言された枚数目のカードを破棄するかサレンダーするかを選ぶ。って効果なんだが」
「破棄……破棄だってぇ!?」
「説明書読んでそうなお前は知ってるよな。そうだ破棄だ!」
破棄の処理……。説明書によれば、カードの横にして真ん中を引き裂くというものだ。当然破棄されたカードは公式試合では使用不可能になる。強烈すぎる効果だが、勝負を左右するような有利を得られない、デメリットが大きい、降参で逃げられる、相手の要らないカードに対して効果が薄い、という欠点がある。……基本的に使えば不利になるカードでしかない。
だが、カード全賭けのこの勝負でサレンダーすれば全カードを失う!つまりレッド野郎は、カードを自らの手で破り捨てるか、あるいは全てのカードを差し出すかを選ばなければならない!奴には破棄されるカードを救う手段はない!悪役には奪還戦も降参も選ぶ権利はないのさーっ!
「まさか最初から妨害目的!?だ、だが甘いよ。俺のデッキの大半のカードを2枚以上持っている。そんなランダム効果を撃ったところでダメージはないさ!」
「果たしてそうかな?……10、20、30、……俺は35を宣言するぜ」
「ふん、デッキを数える真似をしたって無駄さ。その位置からカード枚数を数えられるわけがない!そもそも横からデッキを見て何がわかる?」
「早く35枚目のカードを破棄しな。持ち時間なくなって反則負けになるぞー」
「わかってるよ。……10、……20、……30、……これが35枚目。なっ!?」
手際よくデッキトップのカードを底に戻していくレッド野郎だが、やはり35枚目を見て動揺しやがったな!これで確定だっ!俺は奴のレアカードを判別することができる!
「どうしたレッド野郎。大半のカードを2枚以上持っているんだろう?それとも……、2枚も持ってないようなレアカードでも引いたか?」
「い……いや」
「あと、破棄するカードは互いに確認するのがルールだ。こっちに見せな!」
「く、くそっ」
あれは、レッドカード団の金庫にあったカードの1枚!つまりはレアカードだ!残念ながら2500万セルのカードではないが、10万セル以上の価値があるカードだ!
「おや、普通のカードだったか。カード資産8000万枚を名乗るからには凄いカードが出てくると思ったんだけどな。これじゃあサレンダーはしてくれそうにないか」
「さ、サレンダーだと?まさか俺の状況を分かっていないのか?」
「ん?サレンダーしてくれるのか?」
「……いや、しないさ。くっ、破棄するよぉっ!」
[びりぃっ!]
レッド野郎はレアカードを破り、それを地面に捨てる。……破棄したカードって手札扱いになるのかな?もしも手札扱いになるなら、もう一枚カードを落とせば奴の反則負けだ!手札は2枚以上地面に落とせば反則負けだからな。
「まさか……破棄系のカードを使うなんて」
「コストが重いから採用はしづらいけどな。今のはデッキから破棄だからコストが軽かったが、消滅エリアのカード破棄なんかはコストが酷いんだ」
「消滅エリアから破棄……。【真なる消滅】とかだよね。くっ。俺はドリームカード【異次元の雷光剣】を発動!俺の補充デッキを1000枚まで消滅させることで、相手の補充デッキを同じ枚数消滅させる!俺は補充デッキから1000枚消滅させる!」
「く、俺の消滅エリアのデッキが!」
すでに俺の消滅エリアには1500枚のカードが積み上がり、デッキよりも高くなっている。だがまだまだ苦労するような高さじゃないな。はしごを使えばどうとでもなる高さだ。
奴の消滅エリアにレアカードは……ない。どうやらレアカードは全て補充前のデッキに忍ばせているようだ。補充デッキは不確定要素が多いうえ、デッキよりも相手の効果を受けやすいからな。公式試合でなければシャッフルしないことが多いから、補充デッキにレアカード積み込みという手も使えただろうが。
「補充デッキ破棄のカードが死に札になっちまったかな?ドリームカード【宇宙的な人質交換会】!互いに相手の手札を確認し、1枚選択する!互いに選ばれたカードを破棄するかサレンダーするかを選ぶ!ほらよ」
「また破棄のカード!?こ、これが俺の手札、だけど。……そ、そのカードは【奇跡の園芸用品】!?そ、それだっ!俺はその【奇跡の園芸用品】を選ぶよ!」
「よしっ。俺はお前の【超災害の秘訣】を選ぶぜ」
「なにっ!?ま、またしてもレアカードを!いやだがそれよりも!よく聞くんだ緑男!君は知らないだろうが、その【奇跡の園芸用品】は途方もない価値があるカードなんだよ!破棄するなんてとんでもないことだ!」
ふっふっふ、やはりこのカードに目をつけてきたか。ああ、そうさ。このカードはレッド野郎のカードなんて目じゃない、時価2億セルの激レアカード!別に俺のデッキには必要のない、単に高価で強いだけのカードさ。
「いいかい、そのカードの価格はなんと約2億セルだっ!公式大会側があまりに強いから賞金をつけて回収している激レアカードなんだよ!悪いことは言わない、今回だけはサレンダーした方がいい!君は一度負けても次の試合で取り戻せるだろう!?それは破棄するようなカードじゃないんだ!」
「へええ、つまりはお前のカード総資産よりも価値があるのか」
「ああ、その通り!例え君が俺から1億5000万枚のカードを奪っても、【奇跡の園芸用品】のカードを失えば損をすることになる!」
「ふん、じゃあ答えは決まりだな!」
[びりぃっ!]
「あ、あああああぁーっ!」
「カードの価値がなんだっていうんだ。レッド野郎、俺たちは負ければ終わりの勝負の最中だぞ!自分の報酬が貯まれば終わる勝負じゃない、相手の所持カードをゼロにする勝負だ!金や価値の話は心の中にとどめておく、それがマナーってもんじゃねーのか!」
そもそも、この【奇跡の園芸用品】は3億セルを払って買い取ったカードだ。あえてレッド野郎の前で破棄して動揺させるためにな。だから、すでに俺が損することは確定してるのさ。あとカード自体は31億枚だが、レアカード費用、カード分別費用、敵デッキ分析費用、デッキ構築費用、大量カード保管費用、大量カード移動費用、講習コーチ代、短期間特別料金など、費用の総額が40億セルは多分超えてるはず。つまりこれは儲け度外視の勝負なんだよっ!
「バカか君はっ!カードは購入からコレクションまで全てにおいて価値や金が絡んでいる!なぜ同じカードの絵柄違いが出ると思っているんだ!?それを……、2億セルという価値のカードを、勝負へのこだわりだけで破り捨てるなんて愚かだっ!」
「2億にこだわって全ロストしたら笑えないからな」
「だとしてもだよ!いやもう時間がないっ。くっ、……ちくしょう!」
[びりりっ!]
少し遅れてレッド野郎は【超災害の秘訣】を破り捨てる。ふむ、どうやら破棄したカードは何枚捨てても反則負けにはならないようだな。ってか、あのカードって250万セルのカードか。その程度のカードにあの動揺、2500万セルのカードを破棄できれば一気に攻め落とせそうだな。
「…………」
「…………長考か?」
「あ、ああ。俺の番、だね。じゃあ…………ドリームカードを発動するよ」
なんか覇気がないっていうか、焦点が合ってないみたいだけど大丈夫かあいつ。まあいい、レアカードを狙い撃ちでどんどん葬ってやるっ!
「勝負あり!この勝負、雷之 悟の勝ち。ほほほ。では私はこれで失礼するよ」
勝ったー!レッド野郎は2億のカードを破いたあたりから調子が落ち始めてたが、まさか最後が手札を落としての反則負けだとはな。驚いたよ。試合慣れしてるプレーヤーでもそんな凡ミスするんだな。
「……一つだけ教えてよ。君はどうやって俺のレアカードを狙い撃ちしたんだ?手札は観客席から覗けるが、デッキはそうはいかないはずだ。……俺には、どうしても審判とグルにしか思えなかった」
「審判は知り合いだが不正はしてないぞ。単純な話で、カードの側面を見て判断したんだ。よく見てみな、お前のレアカードは側面がやたら綺麗だが、レアカード以外はもれなく埃やら汚れがついてるぜ」
「な、なんだって?……言われてみればその通りのような、そうでもないような」
「偶然にも破棄デッキで勝負を挑んだら、綺麗なカードと汚いカードが入り混じっているのに気づいてな。綺麗なカードは大事に保管してあるカードだと思って狙ったのさ」
なーんて。最後の言葉は嘘で、組まれたデッキを選ぶ段階で破棄デッキしかないと思ってたんだ。金庫内にデッキ本体がなかったからな。金庫内のレアカードと金庫外のデッキを組み合わせるなら、俺なら絶対見分けることができると思っていた!金庫外にカード袋があって、それに金庫内のカードを入れる可能性もあったが、それならカード袋も金庫内に保管しておくだろうしな。
「そうか。そんな方法でカードを見分けていたなんて、まったく俺には思いつかなかったよ。……俺のカードはレッドカード団の秘密基地にある。このパンフレットの場所の地下だから、君が持っていってくれ」
「ああ。あー、こんな場所に秘密基地があるのかぁ。意外と近いなー、うん」
「俺の裏ドリカードはすべてなくなるが、カードゲームがなくなるわけじゃないからね。また、他のカードゲームでやり直すとするよ」
「え?城赤お前、裏ドリ辞めるのか?強いのに」
「ふん、こんなクソゲー2度とやるもんか!俺はもっとまともなカードゲームで世界を統一する!悟、今日俺を倒した奇跡を忘れないことだねっ!」
余った手札を投げ捨てて、レッド野郎もとい城赤は試合会場を去っていく。いや、人のカードを投げ捨てるなよ。ま、これでめでたく俺の完全勝利ってわけだ!はははは!
[ごひゅううぅん!]
な……なにっ!?俺のものになった城赤のデッキと補充デッキが巨大な穴の中に落ちていった!い、いや、城赤のデッキだけじゃない。俺のデッキもいつの間にかなくなっているぞ!
「これはゲージの仕業か!」
「ふふふふ、その通り!約束の品……城赤の8000万枚のカードを受け取りにきたぞ!我の手によって、すでにレッドカード団秘密基地にあるカードは回収した!ここにある分で全てというわけだ!」
会場の上を見ると、空中に浮かんだ空間から顔を出すゲージの姿があった。どうやら報酬の8000万枚のカードを受け取りに来たようだ。試合終了後すぐに来るとは、もうちょっと時間を空けてきてほしいもんだ。
「ちっ、報酬として支払うとは言ったものの、勝利の余韻に水を差しやがってっ。ゲージてめー、もう少し元パートナーに気を遣おうとか思わねーのか!」
「ほほぅ、いいのか我にそんな口を利いて。貴様が異次元の倉庫に運ばせた31億枚ものカード、あれはすでに我が手中にあるというのに!」
「な、なんだってぇ!?」
確かに、俺は賭ける用のカード31億枚を勇者社の連中に運ばせていた。そう、カセットで呼び出した異次元倉庫に!だが、どうしてゲージの野郎がカードを運び込んだことを知ってやがる!?
「ゲージお前どういうつもりだっ!お前なら異次元倉庫に侵入するのは容易いだろうが、そもそもどうしてカードを運んだことを知ってやがる!」
「くくく、そんなの後をつけていたに決まっているではないか。……我は悩んでいた。貴様から過去に受けた仕打ちを許せぬという悩みだ。先の潜入調査でお主と協力し合えると思ったが、同時に、どうしても今までに攻撃されたことが許せぬという思いもあった」
「……俺、そこまで恨まれるほど攻撃したことあったっけか?」
「あーほらそれだっ!我を攻撃しておいて記憶にもないというその態度も気に喰わん!滅茶苦茶痛い魔法弾で撃ったり、勇者社のガラスに叩きつけたりしたではないか!」
「そ、それだけ?お、大げさすぎるんだよお前ーっ!特星で戦う連中にとってはそんなの挨拶みたいなもんだぞ!」
「うるさいうるさい!我はスターだぞ!我のような相手に対しては相応の接し方というものがあろうが!それを貴様……謝るどころか反省の色も見せぬとは!」
「ふん!誰がお前みてーなクソ猫に頭を下げるかってんだ!31億枚のカードを人質にしたことは褒めてやるが、甘いぜ!人質がいるなら人質もろともぶっ飛ばすまでだっ!水圧圧縮砲!」
「なっ!?うおぅ!」
水の魔法弾が当たる前に、ゲージは顔を引っ込めて空間を閉じてしまう。ぐ、ゲージのいた空中の位置まで少し距離があるからな。避けられちまったか!
「……出てこないし逃げたか。ふ、だが所詮はネコ知恵。勇者社が盗品を扱わないってところまでは知恵が回らなかったようだな」
「なんだ、お主のこの頭はネコほども知恵が回っておらぬのか」
「うおおぉあ!?水圧っ……あ、あれ?」
突如頭を触られ、とっさに背後に魔法弾を撃とうとするが……バカな!今さっきポケットにしまったはずの水鉄砲がなくなっているだと!?エクサスターガンもないっ!あとゲージが後ろじゃなくて上に居やがる!
「まさかゲージお前!」
「くくく、探し物はこれか?」
「やっぱりお前が盗んでやがったか!おい今すぐ返せ!あぐ、むぐぐ!?ごほげほっ!」
なっ、口に何かを突っ込まれた!?こ、この形状は……まさかエクサスターガンの銃身かっ!?だが歯に銃身が当たってないから、銃口を出すための空間を口の中に出現させてやがるなっ!
「ふ、口の中に何を入れられているかわからぬか?そうだ、お主のエクサスターガンとやらを突っ込んでいる。下手に動かぬことだな。その気になれば胃の中とかに銃口を突きつけることもできるぞ」
「うぐぐ……」
くっ、なんてことだ!まさかゲージなんかに不覚を取っちまうなんて!くそ、まともな戦闘なら雑魚同然だから勝てるのにっ!
「断っておくが、我は31億枚のカードが欲しくて盗んだわけじゃないぞ。……お主が城赤に負けてカードが必要になったときに、我が31億枚盗んだことを明かすつもりだったのだ。お主がカードを支払えないから返してくれと我に泣きつき、我の力を正しく認識し、これまでの我に働いた無礼を詫びる。そこまですれば過去のことを水に流そうと我は考えていた」
ってことは、俺がカード勝負に負けると考えてたな、こいつめぇ~っ。そもそも力を正しく認識っていうが、自分の立場をよくしたいだけじゃねーか!
「しかし運がいいのか悪いのか、悟……貴様はカードバトルに勝ってしまった。お主は我への認識を改める機会を失ってしまったのさ。だが覚えておくのだな!我が今までその気にならなかっただけで、手段を問わねばお主など相手にならぬのだ!ふっふっふ、この状況こそ我らの力関係を証明しておると思わぬか?」
「んーん」
「さあ、お主の口から銃を取り出してやろう!我の力を思い知ったからには、聴衆の面前で我に謝罪するのだなーっ!うわ、よだれ汚っ」
「んおっと。ふへぇ、久々に死ぬんじゃないかと思った。だけど……俺は謝りもしなけりゃ反省する気はまったくないぜ。やっぱり主人公と猫畜生のコンビなんて無理があったのさ!ハッキリ言うが、猫に気を使ってられるほど俺は暇じゃねーんだ!」
「ふ。よいのだな?コンビを組んだからこそ我は優しく接している。コンビ故に謝れば許してやると言っているのだ。我を今まで痛めつけた、大スター反逆罪の罪状を背負う覚悟はあるのだろうな?」
「はっ、なにが大スター反逆罪だ!そんな安っぽい価値観は捨ててかかってきやがれ!」
正直、エクサバーストを撃たれるのは遠慮したいところではある。消滅しても魅異あたりが復活させてはくれるだろうが、何故だか復活させられるのはいい気がしないし。……でも、だからって猫のために謝罪してやるつもりは毛頭ない。いや唯のネコならいいが相手はあのゲージ!主人公反逆度数のかなり高いこいつに誰が頭を下げてやるもんかっ!
「本当にそこまで頭が回らぬとは。もういい。我はやることがあるから帰る!この涎まみれの銃は返すが、大量のカードは人質として預かっておくとしよう!」
「おっと。うげ、手に涎がっ」
「お主の罪の清算には相応の舞台を用意しようではないか!準備ができ次第、無理やり連れ去るから覚悟しておくのだな!」
「あ、待て!……ちっ、今度こそ逃げたか?」
異次元倉庫の31億枚のカードはすべて持ち去られちまったっぽいな。ていうか無理やり連れ去るのなら人質要らないんじゃ。……ま、どうせ盗品は勇者社では換金できやしないんだ。保管先が異次元倉庫から猫に変わっただけだし深く気にすることでもないか。
「あのぉ、もうすぐ休憩時間が終わりますのでそろそろ退場してくれませんか?」
「ああ、昼休みだけ借りてたんだったな」
係員の言う通り、闘技場の昼休みは終わりのようだ。急な乱入で実感が薄れたが、レッド野郎に無事打ち勝つことができたんだった!俺はレッド野郎を相手に初勝利を手にしたんだ!裏ドリカードバトルか……ひとまず目標は達成したからな。しばらく遊ぶことはないだろう。俺はカードゲームにさほど馴染みがあるわけじゃないが、勝つためには思った以上に金がかかるゲームだったな。実質40億セルくらい使っちまったよ。そして、勝負後にはカード一つ残っちゃいない。
……帰ろう。カードのついでに水鉄砲が盗まれたから、勇者社で買わないとな。エクサスターガンが返ってきたのは不幸中の幸いってところか。へっ、やっぱり俺はカードよりも敵を撃つ方が存分に力を発揮できるぜ。