二十話 無名の悪だくみコンビ ~カードの決戦地を求めて
@悟視点@
梅雨も明けていよいよ夏らしくなってきたこの季節っと。さてじゃあ今日もレッドカード団について調べるとするか。
「でもなー、ここ数日で何件かカード屋を回ったものの、レッドカード団の本拠地を知るやつがいないんだよな。どうやら各地で賭けカードバトルを行ったりするらしいけど。肝心の本拠地は誰も知らない」
レッドカード団による賭けバトルは強引なことが多いからか評判が悪かったな。強引すぎるから普通の戦闘で追い払う人も多いみたいだ。逆に城赤……レッド野郎は大体のカード関係者からはいい印象を持たれてるらしい。有名なのか名前を知ってるやつも多かった。まあなんにしても奴が迷惑な悪の組織のリーダーであることには変わりないけどな。
でも同じ賭けバトルでも、レッド野郎が直接参加するイベントだとかは割とウケがいいっぽいんだよな。どうやら奴は客に、奪われてもいいやと思わせるのが得意らしい。
「どんな手を使うのかはわからないが、次のリベンジ戦でそういう手を使ってこないとも限らない。気をつけないとな」
「我はついに……出会うべき……」
「ん?今の声は」
この寮には似つかわしくない口調と声、聞こえてきたのはこの部屋からだな。ここは……クレーの部屋だと?だが今の声はクレーのものじゃない。これは不法侵入されてるな。一応、クレーが女友達を連れ込んでいるという可能性もなくはないが。
[こんこん]
「………………水圧圧縮砲!」
[どかあああぁん!]
ノックすると中からの声が消えたので、水の魔法弾で部屋のドアを吹き飛ばす!部屋の中にいるのは多分……あれ、いない。
「もう逃げられたか?」
「我は逃げてなどおらぬぞ」
「うおっ!」
部屋の中に入ると突如真後ろから声がかかる。思わず振り返りながら水鉄砲を構えるが、そこにいるはずの敵の姿が見当たらない。
「なら上か!って、ゲージの他にもう一人いる?」
上に銃口を向けると、空中にある異空間から顔を出しているゲージと、それを支えているもう一人の人影があった。誰だ?ウィルにしては体が小さいし、皿々にしては仲間を助けてる。ゲージと組んでそうな奴なんて他にいたか?
「ほら見ろ、顔を出したら危なかっただろう?だからやり過ごせと言ったのだ私は」
「おぉ……さすがは占い師様!やはり我が従うべき主はあなた様しかおらぬようだ!やはり我らはベストコンビだな!」
「そうだろうそうだろう。まあ私はお前さんの他の師匠たちとは違って優しいからな。互いに雑な関係で行こうじゃないか」
「おい!そこの空間内にいるやつは何者だ!ってか、ここはクレーの部屋だぞ!お前ら二人して人様の部屋に何の用だ!」
「ふんだ。お主の質問などに誰が答えるものか。それよりも!今までよくも我に盾突いてくれたものだなぁ~!今日をもって、お主を見るたびに毛が逆立つ日々とはおさらばだ!我ら翻弄コンビで悟、お主をぼっこぼっこにいたぶってやろう!許しを請うくらいでは許さぬからな!」
「いや私はやらんぞ。よいしょ」
空中にある異空間から、謎の人物だけが部屋に降り立つ。あれ、この狐の擬人化女子、どっかで見た記憶があるな。確か、去年の変な事件のときに。
「師匠!?この男はすぐに暴力を振るう危険な男であるぞ!今倒さねば、いずれ我らの占いを邪魔しにくるはず!」
「あ、そうだ!季節がおかしくなったときに邪魔しやがった狐だなっ!瞬間移動しまくるやつ!」
「また会ったな。なに、私は弟子入りを頼まれてこの部屋に来たにすぎぬ。今日の私は極めて冷静でな。お前さんたちの争いに加担する気はないさ」
「師匠、この男と知り合いだったのか?……うむむ、仕方ない。おいコート男。今日のところは我も休戦してやろうではないか。師匠の気まぐれに感謝するのだなっ」
「相変わらず上から目線のネコ野郎だな、お前」
「ふむ、どうにも風向きがよくないな。私の名前は、ぱっ狐。二人とも覚えておくがよい。マイテレポート!」
あ、擬人化狐が自己紹介だけして逃げた!い、いや別にいいけど。瞬間移動相手じゃ、ゲージがいても追いつけるかわからねーし。
「…………さて、じゃあ我もそろそろ」
「お前は待てっ!」
「うわっ!ちょっ!何をする離さぬかっ!ひ、卑怯だぞー!二人だけになった瞬間に襲い掛かってくるなんて!離せーっ!貴様それでも主人公を自称するものとして恥ずかしくないのか!」
「黙って聞けって」
「むぐっ!?むぐぐー!」
空中の異空間から顔を引っ込めようとしたゲージを引きずり下ろし、騒ぐようなので口も押える。ゲージと会えたのはある意味運がよかった。こいつの空間移動能力さえあれば、より簡単にレッドカード団を探すことができる!ゲージ自身がなぜか俺に敵対的で非協力的なことが難点ではあるが。
「そう警戒するなって。別にクレーの部屋に入ったことをどうこういうつもりはないぜ。それにさっき休戦って言っただろ?俺も休戦には賛成だ。だがどうせなら、手を組むのもありだと俺は思うんだ」
「むぐ?」
「お前は悪事のプロ!そして俺は主人公のプロ!俺たちが手を組めば、どんなに守りを固めた悪の組織にだって潜入調査できるはずだ!」
ゲージの口から手を放し、熱く手を握るような雰囲気で手首を掴んでおく。こいつは空間移動でどこからでも逃げちまうからな。せめて話が終わるまではどこか掴んでおかないとダメだ。
「っふぅ。……ふん、我とお前が手を組むだと?我に何をさせる気かはわからぬが、お主のようなやつと手を組んだところで得られるものがあるとは思えんな。それと勘違いしているようだが、我はあくまでスターであるぞ。潜入調査など……カッコよくない悪事に手を出すつもりはない」
「潜入調査カッコいいだろ!主人公である俺が異世界に潜入調査したくらいなんだから!」
「はん。キラキラしてない悪事がカッコいいものか。……あと、いつまで手を握っているつもりだ貴様」
「ゲージ。お前は潜入調査を勘違いしてるぜ。実体験から言わせてもらうが、本当の潜入調査っていうのは事件に首を突っ込んで大活躍をするものなんだ。つまりはスター!」
「な、なに?」
「嘘だと思うなら後で雑魚ベーに聞いてみな。俺はサイドショット領に潜入調査に行ったんだが、事件は解決したし怪人も倒した。ゲージ!これでも潜入調査がキラキラしてないって言えるか!?」
「怪人!?うむむ……」
俺の説得が通じたのか、ゲージは少しばかり悩んでいるようだ。まあ無理もない。俺も実際に潜入調査するまでは、潜入調査があんなにも活躍できるものだとは知らなかったからな。
「怪人……怪人か!た、確かに悪くないかもしれぬ。だが」
「それだけじゃない。報酬は合計8000万セルもの価値になるお宝だ」
「8000万セルだと?それは嘘臭いな。お主がそんなに気前がいいはずがないだろう」
「本当だって!確実に手に入るわけじゃないが、貰えないときは俺が自腹で8000万セル払ってやる。多分誤差だろうし」
「誤差?……まあそれだけの条件であれば、我もお主の案に乗ることはやぶさかではない。話が本当ならな。前金で500万セルを出すのであれば、お主の話を信じて協力してやってもよいぞ」
「まったく信じる気がねえなこいつ。わかったよ!前金500万セル、報酬8000万セル分のアイテムでいいよ!潜入調査にしては高い買い物だ、ちゃんと協力してくれよ」
「ああ。……計算もできぬのか?」
ゲージが不思議そうにしてるが計算はしてるぜ。8000万セル分の価値のアイテムって、結局はレッド野郎の持つカード財産のことだ。そこから前金分の500万枚のカードを俺が受け取ってもしょうがないからな。売りに行くのも面倒だし。だから前金をゲージの報酬に上乗せしたのさ。
「そうと決まればさっそく……げっ!」
「よ、よお!!悟じゃねーか!!いやぁ偶然だなーっ!!!」
烈!?い、いつの間にクレーの部屋の前にっ!そしてこいつの反応、間違いなく偶然来た感じではないし、やべーものを見ちまったかのような余所余所しい態度だ!
「烈……なんでクレーの部屋の前に?」
「そりゃ女の子の悲鳴が、あ、いや、偶然!!偶然居合わせたんだっ!!!」
「どの辺から見てやがった?」
「悟がその子供の口を無理やり押さえてるところからだな!!だが安心しろ悟!!!お前に女児を襲う趣味があっても俺はお前を忘れ」
「水圧圧縮砲っ!勘違いだから忘れろっ!水圧圧縮砲!」
[どががががあぁん!!]
水の魔法弾を叩き込み、烈を寮前にある庭までぶっ飛ばす。ま、まずいな。こんなに騒ぎまくったんじゃ他にも目撃される可能性が。クレーの部屋には本来あるはずのドアがないし。
「来いゲージ!あと烈を異空間に閉じ込めておくんだ!」
「あ、ああ分かった!」
ゲージと共に自分の部屋へと非難する。ふー、危なかった。現在のゲージは勇者らしい服装で、下に履いてる衣服がスカートっぽいものだ。多分、ウィルの古着でも貰ったんだろう。そんな相手の叫び声を聞かれ、口を塞ぐシーンまで見られたら……有らぬ誤解を受けるってもんだ。
自分の部屋に避難したはいいが。ゲージはネコの擬人化だからかそこらの小学生よりも小さいからな。見た目や服装が女子っぽいこともあって、ヘタな女子小学生といるよりも勘違いされやすい。念には念を入れておくか。
「いいかゲージ。烈を閉じ込めてることは他言無用だ。あいつはバカだから絶対に言いふらす。……このことがバレたら俺は雑魚ベーみたいにロリコン扱いされるし、お前だって俺と怪しい仲だと思われれば寮に居づらくなる。それは困るだろ?」
「それは絶対ヤダな。よかろう。このことは我々二人だけの秘密としよう」
「それがいいぜ。ま、烈は根っからのバカだからな。携帯ゲーム機とソフトを何本か送り込めば3日で今回のことは忘れるさ。お、あったあった」
俺が着てるコートと同性能の子供用コート。ギフト用だから在庫が心配だったが、ちゃんと置いてあってよかった!冬用だから裾が長く、前ボタンを閉じてしまえばスカートが目立たなくなる代物だ!レインコートみたいになっちまうけどな。
「ほらゲージ、これを着ておきな!」
「む、コートか?」
「防弾、防刃、耐熱、耐冷、耐電、その他色々防げるコートだよ。子供用のズボンはないから、ロリコン疑惑を防ぐためにはそのコートを着てもらうしかない」
「正直、子供用コートを常備してるのもどうかと思うが……。お主、なんか怖いぞ。実はやましい趣味でも持っているんじゃ」
「あ、最近は動物用コートもオーダーメイドしてるんだぜ。ほらネコ用。心配なら動物状態でこっちを着てくれてもいいけど」
「や、やだ。我はスターだし子供用のコートで構わぬぞ、うん」
そりゃ残念だ。サイドショット領でのカルチャーショックから思いついた上質なコートなのに。この調子だと着てくれそうな動物は見つかりそうにないな。
「あとこっちが前金の500万セルな」
「あ、ああ。よくクローゼットに入っていたな。500万セルも」
「緊急用だから滅多と使わねえけどな。今は急いでるんだ。ゲージお前、城赤とかレッドカード団って知ってるか?」
「城赤は知っているぞ。小悪党の分際でスターを気取っている赤い奴だな。お主のバージョン違いみたいな感じの」
「そう、レッド野郎だ。やつが最近金をつぎ込んでる裏ステドリーマーってカードゲームがあるんだが。その裏ドリの公式大会が特星中で開催されることになったのさ」
この公式大会については、ボケ役に聞いても詳細を教えてくれなかった!情報集めも含めての公式大会だから自分で調べろだとさ。参加登録自体は勇者社で行えるが、参加場所を一つだけ自分で指定しなきゃならない。
「じゃあお主はその城赤を追っているのか。ファンか?」
「向こうが敵だ!奴ら、カードによる世界統一とやらを企んでいるんだよ!だから主人公の俺がカードバトルでボコボコにしてやろうというわけさ!」
「ふーん?解せぬな。いつものお主なら問答無用で実力行使に出るはず。なぜ律義に相手の土俵で戦おうとしているのだ?」
「カードで喧嘩を売られたからだ!乗った俺も俺だが、やる気もルールもまだまだな時に狙われたからな。裏ドリに眠る秘密の戦い方を見せつけてやるのさ!」
「ふ、その話だとお主は初心者だろう?ルールもわからぬのに隠し要素に気づいたとでもいうのか?」
「気づいてはいないな。だが隠し要素はあるだろうぜ」
このゲームの製作者はボケ役なんだ。裏ドリで唯一、俺はあいつの手口に関してだけは他の連中より詳しい。だからわかることだが、……奴はワンキルやジャッジキルよりも別の、とんでもない勝ち筋のカードを作っている!
理由は単純で、ボケ役が考えたという初期デッキにすでにワンキル要素があったからだ。あとは主流デッキになるほどジャッジキル系のカードが多いことも理由。
裏ドリのほとんどのカードは、夢を操る能力によって自動生成されたものだ。初期デッキを基準にな。初期デッキにワンキルカードを入れればこうなるとわかっていたはずだ!
だがそれでも、ボケ役は攻撃回数無限のカードを初期デッキに入れた。なら、手動で考えたという1000種類の中には、もっと酷いカードがあってもおかしくはない。ていうかあいつなら作る!審判を操作する特殊ギミックとかな!
「一体何を根拠に」
「そんな話はもういいだろ。それよりここからはお前の出番だぜ。空間移動能力でレッドカード団に乗り込む!」
「だが場所がわからぬのだろう?どうするつもりだ?我の能力を使えばどこにでも出入りできるが、場所がわからなければ行きようがないぞ」
「ふっふっふ。そうでもないぜ。実は、お前の能力を使えば簡単に敵の本拠地がわかっちまうのさ。ゲージ、空間のつなぎ先は空だっ!特星が丸く見えるくらいすげー空高くにつないでくれ!」
「それはいいが……なぜ手を握る」
「逃がさないためってのと、落とされたときに道連れにするためだ!」
「まったく我のことを信用しておらんな?ふぅ~、……ここだな!招き穴っ!」
[ごおおおおおおぉっ!]
うおおっ!思ったよりも天気が悪いな!雨は降ってないが風が強い!空間の外に吸い込まれそうだ!だが、雲が少ないから平原の草木までよーく見えるぜ!これならいける!
「おい!お主はこんな高度と風の中、一体どうやって敵基地を探すつもりだ!」
「見るに決まってんだろ!」
「正気か貴様!?見るにしてもせめて望遠鏡くらいは持たぬか!」
「赤いからわかる!俺がレッド野郎を探しておくから、しばらくゲームしてていいぜ!」
「できるかーっ!」
大丈夫だ。特星ってのは半分海で半分陸地。陸地も半分現代エリアで半分特星エリア。探す範囲はそこまで広くはない。それにレッド野郎は全身赤い衣装を着ているから目立ちやすいし。
……あ、俺の住んでる寮。ならあそこが瞑宰京だな。毬の島や帝国もよく見える。うわ、帝国の人数ヤバいな。こうして見ると女子小学生の数が異常に多いのがよくわかる。
「あれ。このゲームの充電器はどこにあるのだ?悟!」
「見つけたっ!」
「おお、よくやった!さあ早く我に充電器を!」
「なに言ってやがる!レッドカード団の基地を見つけたんだよ!隣町のさらに隣町にある研究所みたいなデカい施設!あそこにレッドカード団の衣服を着たやつらが大量にいやがる!」
「城赤はいたのか!?」
「俺の視力だとそこまで細かくはわからねえ!だが場所はわかったぜ!」
「なら招き穴を閉じておくぞ!……ふう」
空間をつなぐ穴が塞がれ、室内に吹き荒れていた風が止む。う~、ちょっと集中しすぎたから目が疲れた。強風が思いのほか効いたみたいだな。地上から空を見るときはそこまで疲れないし。
「目は疲れるしちょっと冷えるな。秋の風に当たりすぎちまったか」
「あの高度だと冷えるからな。しかしあれだ。このコートはなかなかいいものだな。我は全然寒くないぞ!」
「くそー、なんで俺だけ」
「前を開けてるからだバカ。ボタンもろくに掛けれぬのか貴様は」
「ふん。コートは風になびくからカッコいいのさ」
だが、これでようやくレッドカード団の基地に潜入できるってわけだ!基地が一つとは限らないが、あれだけの人数がいるならレッド野郎のスケジュール位はわかるだろう。
ついにやってきたぞ、レッドカード団の基地内部!普通の研究所みたいな外見とは違い、内部の壁や床はすべて赤色になっている。インテリアは普通のようだ。
「ここがレッドカード団内部か。ここのどこかにレッド野郎のスケジュール表があればいいんだがな」
「カレンダーに『裏ドリ公式大会:リーダー参加』と書いてあるぞ。部下に応援や裏工作をさせるなら場所を知ってるやつはいるであろうな」
「じゃあ手分けして探すか。俺はこの部屋を探すから、お前は人のいない別部屋でも漁っててくれ」
「おや、ここにきて別行動をするというのか。ふふふふ。その態度の変化……少しは我のことを信用する気になったようだな!では好き勝手させてもらうぞ!」
「ああ。そっちは任せるから好きにしててくれ」
信用するとかしない以前に、敵基地を発見することが一番の難所だったからな。報酬分は働いたと思うからこのまま逃げてくれても文句はないさ。
「招き穴!ふん、油断して足元救われぬように精々気を付けることだな」
空間を通り、他の赤部屋へと移動するゲージ。どうやらまだ協力してくれるようだ。……すぐに立場を変えるネコ野郎かとも思ってたが、意外と律儀なやつなのかもしれねーな。弟子入り先はぽんぽん増えていってるけど。
「んー。机や引き出しはあらかた調べたが見当たらないな。……お、自作パンフレット。前貰ったのとは違うから最新版か?なになに『本日より開催の公式大会に赤城氏参戦、場所は』って、これだぁ!」
箱に詰められていたパンフレットに参加場所が書いてある!なるほど、事前に参加場所を悟られないために開催当日に発表するつもりだったのか。レッド野郎は知名度もありそうだし、対戦目的のファンが同じ会場に参加すると対戦回数が増えちまうもんな。ある意味、ボケ役の言ってた情報戦も大会に含むってやつを体現してるな、あいつ。
「よかった!場所さえわかればこっちのもんだ。……へー、公式大会の優勝賞金2億セルなのか」
公式大会は複数個所で開催するから、総額数十億セル位は賞金だけで使ってそうだ。いつもなら狙うところなんだが……あくまでレッド野郎撃破がメインだからな。優勝まで手は回らないか。
「おい、ちょっとよいか?」
「うお。ゲージ!丁度いいところに来たな。もう必要なものを見つけたぜ」
「くくく。実はもっと面白いものを我は見つけたのだ!お主にも見せてやろう。来るがよい」
「面白いもの?あ、おい引っ張んなって!」
ゲージに引っ張られて、どこかにつながる空間に入る。行き先はどうやら赤い内装じゃなさそうだが、どこへ連れていこうっていうんだ?
ゲージに連れられた先には小部屋くらいの部屋があった。いや、小部屋に感じるがこれはガラスケースが多いからそう感じるだけか。壁際と中央のガラスケースが結構なスペースをとっていて、中にはカードと、名前や価格が書かれたプレートがある。
「カード部屋かここ?裏ドリのカードもいくつかあるな。こんなカード一枚に……250万セルもの価格がついてるのか」
「ここはさっきの基地の地下倉庫内にある、カードの祭壇に置かれた巨大金庫の中だ。我の特殊能力にかかれば侵入は容易いことだが。並の手段では持ち出しは無理であろうな」
[こつこつ]
確かにかなり壁が分厚そうだ。明かりや空調は作動してるから居心地は悪くないが。閉じ込められたら普通の手段じゃ出られそうにないな。やっぱりゲージは捕獲しておこう。
「あ!おい、我を肩に担ぐな!」
「うおっ、暴れるなって!さすがにこんな開かずの金庫に閉じ込められたら面倒なんだよ!」
「どこまでも疑り深い奴だっ。じゃあせめて足を持て足を!」
「足って……これ肩車じゃん」
「へい、乗り物!我の指示通りに進むのだ!前進せよ前進!」
「いてて。お前のコートで前が見えねーんだよっ。前ボタン外してなびかせろっ」
軽いからいいものの、こんな視界で頭バンバン叩くからバランス崩しそうだ!おっと、やっと視界が開けた。……このガラスケース内のカードはまるで宝石を扱うがごとく展示されてるな。とても実用で使ってるようには見えない。
「で、前進だったか。やっぱりこの中央ガラスケースのカードが高いのか?おお、2500万セル!効果は相手のデッキを全て消滅させる?……強いのかこれ?」
敵が補充デッキなしであれば一撃必殺でデッキ切れにできるだろうが。補充デッキなんか幾らでも用意できる裏ドリでこの効果はいまいちな気がする。
「展示品など後にしろ。それよりガラスケースの引き出しの中を見てみるのだ。そのちょっと開きかけの引き出しだ」
「ああ、これか?お、なんか紙が入ってるな。これは……なに!?」
引き出しの中の紙には、裏ドリのカードが規則的にびっしりと載っている。そして余白のタイトルっぽい部分には、赤文字で『公式大会用デッキ:奇赤レッドキャッスル』という表記がある!これは間違いない、城赤の公式大会用のデッキレシピだっ!
「よ、よくやったゲージ!これさえあればレッド野郎への対策が簡単にできる!やつを確実に倒せるデッキを作れるぜ!」
「それだけではないぞ。そこに書かれているカードの中には、この金庫内のガラスケースに保管されているカードも含まれておるのだ。どうだ?お主が我に懇願するのであれば、ガラスケース内のカードを奪ってやってもよいぞ」
「ん?いや…………その必要はないぜ」
「ほう。やはり全力の城赤を倒さねば気が済まぬか?お主なりにきっちり勝ちたいと」
ゲージの言う通り、きっちりと勝ってやるつもりではある。盤外戦を含めてな。でもレッド野郎のキーカードを奪ったところで違うデッキが出てくるだけだろう。それじゃあ意味がないんだ。
「きっちり勝ちたいってのもある。だがそれ以上に、カードを盗んでデッキを変えられたら本末転倒なんだよ。対策デッキが組めなくなるからな。……ってか主人公は泥棒なんてしねー!」
「ああ、敵は色んなデッキを使えるのか。じゃあ、カードを盗んでも無駄になってしまうな」
「ま、心配するなよ。もはや勝負はこっちのもんだ!ここのカードは全部俺の物も同然!盗むだなんてせこいこと言わず、レッド野郎に大会当日まで貸してやってると胸を張って言えばいいっ!」
「そこまでいくと戯言になってしまうぞ。ま、お主には相当勝つ自信があるということはわかった。我も報酬をもらう予定であるからな。試合当日に口だけかどうか確かめてやろう」
「ゲージ来るのか?ならいっそ、当日に部屋から試合会場まで送ってくれよ」
「やだ」
「くそー、次にコンビ探すときはもっといいやつ見つけてやる」
金庫内には他にも、役に立ちそうな書類がある。こっちはレアカードリスト。こっちは強カードリスト。持ち帰ることはできないが、これだけあればデッキ対策の方向性はなんとかなるだろう。あとは当日までに対策デッキを用意し、使いこなせばいいだけだ!公式試合日を城赤……レッド野郎の敗北デーにしてやるぜっ!