十七話 非現実世界の隣人たち
@黒悟視点@
「非現実の世界だって?」
ツッコミ役お前なー、先週ちょっと異世界旅行したからって、そう簡単に正安みたいにファンタジーに毒されるか普通?現実見よーぜ。
〔常日頃から夢見てそうなお前が言うな!校長の兄である正者ってやつと同じ世界に居たとかいう影野郎が言ってたんだよ!〕
はっはっは!先週にツッコミ役の前にバスで来たやつらだろ!大丈夫大丈夫、なんか悪さを企んでるようだけど大した力も持ってなさそうだしな。素性も調べたが、大メインショット郷国ではない異世界に住んでいたことも確かだ。まだどの異世界かはわかってなねーけどな。
〔影野郎の話が正しければ、非現実の世界に異世界ごと飛ばされたらしいが〕
どうだろうな。ほらツッコミ役あれじゃん、前にも天利の呪いで全財産奪われたとか言ってたじゃん?相手が子供のようなおちゃめな嘘をついた可能性をいつも考えてねーんだもん。ちったぁ疑った方がいいぜ。嘘や思い込みによる誤情報の可能性を。じゃ、俺は魅異に愛の祈祷をささげる時間がきたから。また会おう。
〔あ、おいこら〕
……ふー。非現実の世界ときますか。ツッコミ役……悟の話だからな、にわかに信じがたいというかあてになるとは思えないが。ただ、思い当たる節がいくつかあるんだよな。
「結局、あのエビシディってやつと影モンスターの居た異世界もわかんないし。どうしたものかねー。この夢を操る力さえあれば、大概のことはなんでもできるつもりだったんだが。まさか探し物一つ見つけられないとは」
こりゃあれだな。マジで奴らの故郷が非現実の世界とやらに移っちまったかな。ま、この星に住んでる一部の連中のことを思えば、非現実の世界くらいあったっておかしくはなかろう。
「どーれ、こうなったら表のステージにでもちょっくら顔出してみるか。裏ステージにばかり篭ってたんじゃ夢のない保身キャラになっちまう」
もっとも俺の夢を操る力があれば、どこにいようが調査結果は同じだろうけど。直接出向くことによってほしい情報が変わったりするかもしれないのである。ふふん、自らを知り尽くしていなければ思いつかない高度な芸当だ。
夢の力をもってすれば瞬間移動なんてお手のものさ。いとも容易く狙った相手を探し出すことができる。ここはどうやら特星エリアの草原地帯のようだ。太陽の位置からして昼頃だな。あいつはこの辺にいるはずだが……お、いた!
「あれ、天利じゃーん!」
「ん?悟……じゃないな。なんだ、悟の偽物じゃないか」
「ちっす。こんなところで会うなんて奇遇だな」
「こんな草原にわざわざやってきて奇遇もなにもあるか。……私は見ての通り忙しいのだ。次の悟との対決用に演出を決めなければならないからな。出直してもらおうか」
「おいおい。ぼーっと突っ立ってるだけなのにあしらうとか冷たいんじゃねーの?……そうだ!どうだい、お前が人並みに優しくなれるように、またお母さんとでも呼んで」
「そこまで掻き消されたいのなら相手になるぞ。私の役目も放棄して能力全開で消すがな」
「よ、よせって!冗談だよ冗談!」
ひ、ひえぇ、危なっかしい奴だ!特星への流入周りは大体こいつの特殊能力で制御してるからな。天利が特殊能力をフル活用して俺と戦えば、特星に凡人の権化みたいなやつらが大量入星して、この星は一気に維持できなくなってしまう。ああもう、感情に流されすぎだぜ天利は。
「言っておくが、お前と皇神が私を騙したことは未だにいつまでも許す気はないからなっ。お前が悟の物真似一つでもするようなら容赦はしない」
「いや物真似って……別に悟はお母さんだなんて呼ばねーじゃん?いやでもあの件は確かに悪かったと思ってるよ。地球にいたころ、俺が悟と入れ替わってたことだろう?……お前に入れ替わりを隠してたことは申し訳ないと思ってる。だからこそ、お前たちの対決に関してはなるべく協力してやってるじゃないか」
「今まさに対決に関することを邪魔されているが?」
「おっと。そりゃ失礼。まー過去のことは水に流そうじゃないの。な?」
そもそもあの件は、俺の信仰力増加のために開始した悟ンジャー活動の経緯からして、避けては通れない問題だった。最初は悟に悟ンジャーの作り話を聞かせるところから始まった活動だが……まさかそれだけで実体化できるほどの信仰力を手に入れることになるとは思わなかったのさ。……悟の強すぎる信仰力の影響で、コート神の姿形は雷之 悟で固定化されてしまった。その結果、当時の時代背景もあって悟と入れ替わるしかなかったんだ。
……と説明して、こいつが聞いてくれりゃあどんなにいいことか!天利のやろー、信仰やコート神の話となるとまったく聞く耳を持たねーんだもんよー!ちょっとは悟や皇神を見習えってんだ!……天利はそもそも、戦隊家のコート信仰にすら若干距離をとってる節がある。信仰とは縁のない……むしろ信仰を苦手とする家系なんだろう。
あ、いやでも待てよ。悟が前に面白いことを言ってたな?
「ところで前に悟から聞いたんだけどさー。悟の貰える数百兆セルを激減させたってホント?」
「ふん。それがどうした?ラスボスたるもの、主人公の生き方を揺るがすものだろう?……私はラスボスとして我が子だろうと容赦はしないのさ」
「お前は確かにそうでしょう。でもそこじゃなくて。お前らしくないことに呪いによってやられたって聞いたんだけど……そこんとこどうなの?」
「なんだって?ああいや…………そうだな。だが、だからどうしたというんだ?私が呪いを使うからってなにか変かな?」
「似合わないじゃん?それにコート神には呪いは通じないんだぜ」
「悟も同じことを言っていたな……。だが、そんなものパワーのある呪いなら何とでもなるんじゃないのか?私はラスボスだぞ。私は強いんだぞ。ラスボスが魔法少女をやってるんだからついでに祟りくらい使えるさ」
「え?そんな雑い設定なのに、悟のやつ騙されたのか……?」
確かにコート神……神の構造を書き換えるくらいの呪いなら通じるけどさ。天利みたいな初心者からそんなヤバい呪いを喰らったら、十中八九は別の存在になっちまうよ?
「ん、いや、違った気がする。なんだっけなー。なんか私の物語を操る力を使えば、コート神の呪い耐性を無視して呪えるんだよ。耐性貫通はラスボスっぽいからありだろう?悪役特権というやつだな」
「ゲームとごっちゃにしてんじゃねーか!もう隠す気もねーだろ」
「ふ、事実だから隠すことなど何もないな。言っておくが、お前がどんな知識をひけらかそうが無駄だぞ!あらゆる理論や理屈に当てはまらなくても、ラスボスであれば例外だ!万事問題ない」
「また無茶言ってやがる」
大体、天利はいつも自動で特星の入星管理に特殊能力を使い続けている。その反動で、ただ戦闘するだけでもMPという大きな機能制限を受けているはずだ。だから日本の財産の七割近くにあたる日本中の資源……正者の財宝の価値を、物語を操る力で変化させるなんてできるわけがない。
つまり、悟の手に入れた財宝には元々大した価値はなかった!最初から時間経過で価値は下がっていたんだ!あたかもそれを自らの手柄のようにふるまい、悟へのラスボスとしての印象を強めることに利用していたってわけさ!
うん、我ながら見事な推理だな。この推理をラスボスだから例外、の一言で否定されるなんて……興ざめもいいところだ。もうこのまま気分よく満足感に浸って次に向かおう。
さっきは相手が悪かった。信仰の話すらできない天利に、非現実の世界について尋ねる隙なんてあるわけがなかったんだ。というわけで今回の相手は正安だ!こいつならどんなぶっ飛んだ内容の話でも興味を持ってくれるだろう!むしろ現実離れした話でないと興味ないくらい!
お、いたいた。そうだ、せっかくだから悟のフリして話を聞いてみるか!天利のときは一発で見破られてしまったからな。正安ならこの裏ステージからの来客に気づくことはないだろう!
「おーっす、元気かい校長!面白いオカルト話を持ってきたぜー」
「おや。黒悟さん……ですよね?わあお、一体どんなオカルト話を持ってきたんです!?」
「いきなり気づかれた!?や、やるじゃないか校長。よく俺がツッコミ役じゃないとわかったな」
「あ、悟君に化けていたんですか?そうですね。悟君はいつも水鉄砲を持ち歩いていますから……話をするときに素手だと違和感が凄いですよ。そのテンションのときは特に」
あいつそんな頻繁に水鉄砲を持ち歩いているのか?うむむ、残念ながら今の俺には水鉄砲の手持ちはない。そもそもツッコミ役と違って弾を撃つような戦い方はあんまりしないし。
「それで、オカルト話の方も変装の一環だったり?」
「そっちが実は本題だったりするんだな。校長、あんた非現実の世界って聞いてどう思う?」
「非現実の世界!うーむ、そうですねー。具体的にどういう世界なのかはわかりませんが、言葉の響きから私が思うに……。そう、ユートピア、といったところでしょうか」
「な、なるほど?」
「この世では起こりえない出来事が舞い込む不思議な世界。一昔前では考えられないような、いずれ叶う夢ともいうべき……でも、非現実の世界はすでに存在しないともいえるでしょう」
「そりゃまたどうして?」
「私が思い描いていた世界が現実のものだったからですよ。今の現実世界こそが、私にとっての元非現実の世界なのです。もし理想的な現実を迎えた今も、非現実の世界が存在するなら……この素晴らしい現実世界から省かれた世界こそが非現実世界なのかもしれませんね」
はー、言いたいことはわかるがやっぱり曖昧というか、あてになるかどうかで言えばならなさそうだな。ただ……悟から聞いた非現実の世界と似たような考え方ではあるか。俺としちゃあ、その根拠の部分に興味があったんだけれども。きっと根拠はないかなこりゃ。
「一応、確認だけで聞くんだけどさ。根拠とかってある?」
「根拠ですか?いやぁ、私の考えを言っただけなのでそういうのは特に」
「だよなー。いや悪いね、時間を取らせちまってよ。非現実の世界があるって聞いたもんだから是非を聞こうと思ってな。それが面白い話」
「マジですか!?へええ、それはそれは……興味深いなぁ!で、どのような世界なんですか?実際の非現実の世界というのは?」
「いやそれが特には。だけど俺には一つだけ心当たりがある。ずっと昔の話だが……俺は夢を操る特殊能力によって、正夢だと自覚のできる夢を見た。そこにはなんと、地球が太陽の周りを回っている世界があったのさ!その世界こそが、非現実の世界であると俺は確信しているっ!」
「え?それって普通のことなんじゃ?」
「なに言ってるんだ校長?だから、地球の周りを太陽が周ってるのが当たり前だって……あれ、ずっと昔にも似たようなことを言った気がするなあ」
どういうことだ?この俺がはっきり覚えてないってことは相当昔の話だと思うんだが。……そ、そうだっ、思い出した!確か特星が完成するよりもずっと前、俺は正夢で見た内容を正安に話していたんだ!その時も正安は、太陽の周りを地球が回っていると言っていたはずだ!
……だが、なぜ正安はそんな常識問題レベルのことを勘違いしているんだ?いくら理学に疎そうな正安とはいえ、このくらいのことは小学生でも知っている。正安の勘違い、俺の正夢、現実と非現実の世界、これらになにか関連があるとでもいうのか?偶然か仕組まれたものか……判断はつかないが、全てが裏でつながっているなら、ちと話の規模が大きい問題になりそうだ。
「ああ!そうでしたそうでした!確かこれは間違っていたんでしたね。いやぁ、すみません黒悟さん。どうにも古い知識が頭に残っちゃってるみたいで」
「古い知識?え?え?何の話をしてんだ校長?」
「ですから地球が中心か、太陽が中心かの話ですよ。天動説か地動説か。私、子供の頃にベリーに何度もこの話を聞かされていたので、ついつい間違えちゃうんですよねー」
「天動説に地動説?そりゃあオカルトの話か何かなのか?地球を中心に太陽が回ってるに決まってるじゃないか。星を作る過程だとかロケットに乗ってるときに気づくもんだと思うが」
「え?ああ、もしかして黒悟さんって私たちよりお若かったのですか?私たちが子供の頃は太陽が中心だという説が一般的だったんですよ」
「生まれだけならあんたたちの親世代の頃だが。まあ、ツッコミ役と同年代と考えてくれて問題ないよ。……その反応からして、本当に昔は太陽の周りを地球が回っていると思われていたみたいだな。あるいは本当に太陽が中心だった可能性すらある」
まさか、こんなところで学業経験のなさが仇になるとは。いや一応、悟の信仰によって知識を得たり、子供の夢を覗いて世間勉強をしてはいたんだが。……昔のことまではカバーしきれなかったのだな。こりゃまいったぜ。
「……説が変わった経緯とかは知ってるかい?よければ、学歴が園児にも満たない俺にもわかるように教えてくれよ、校長先生」
「そうですか、そもそも義務教育を……。太陽が地球の周りを回っていることが発覚したのは、おおよそ大恐慌エイプリルフールの前日くらいじゃないですかね。ベリーもその頃、星の動きがどうとか言っていたような気がしますし」
ベリーっていうのは……確か特殊能力の元となる石を地球に持ち込んだ奴だったかな。俺はあんまり関わりなかったが。……あと個人的に奴について気になるのは、あのエセ科学者が、かなり早い段階から魅異と遭遇していることだ。特星本部長あたりを除けば、地球でファーストコンタクトした可能性まであるぞ!
「その頃だと……大恐慌エイプリル以外になんかあるか?電波事件とかは……結構昔からだったとテレビ関係者が話してたような」
「電波事件は巨大隕石到来直後くらいにテレビで話題になってましたね。一般的に知られたのはその頃でしょう。オカルト界隈ではもっと前から噂になってましたけど」
当時、地球からの宇宙との通信は機能していなかったらしいが。その電波事件と呼ばれる現象、ひょっとすると非現実世界に関連して引き起こされたんじゃないか?太陽と地球の関係がおかしくなるほどの世界改変があったなら、電波にも影響は出そうなものだ。
悟から聞いた話によると、正者の大恐慌エイプリルとやらは怪物への願いで実現できたらしい。そして願いの内容や大恐慌エイプリルの実現手順によっては、幾多もの異世界やらなんやらが非現実の世界に送られる……らしい。
太陽が中心ではなくなった影響で電波が……。でもそれだと電波事件が発覚する20年前近く前に、宇宙との通信機能がおかしくなっていたことになってしまう。地球における宇宙との通信技術がそれなりに発達していた場合、発覚するのが遅すぎるような。……でもオカルト界隈で噂になる程度には、認知されていたんだよな。一般的なニュースになるほど大事ではなかったのか?
「はっ!いつの間にか脳内の議題が電波事件に!」
「まあ、星のことは外から見ないとわかりにくいですからね。どうしましょう?二つの事件の関連性を説いた噂話でも聞きますか?」
「え、そんなのあるんだ」
「当時は世界規模で騒がれていましたからねー。その手の噂話はいくらでもありますよ。……というか海外巡りの旅をしていた黒悟さんの方が詳しいはずでは?」
「広告出演とかで忙しくてさー。あとヒーローの出ない番組は見ないんで。……んー、どちらの事件でもいいから発生時期の詳細とかわかんない?」
「ちょっとわからないですね。ただ、電波事件は日本が大惨事になった頃から兆候があったそうです。最初はちょっとしたデータのずれだったのが、隕石到来で悪化してどうしようもなくなったとか。観測データなどがあてにならないと言われ始めたのも隕石到来後からですね」
なーるほど。最初は被害がそれほどでもなかったということか。マニアックな奴らだけが電波事件の初期段階で事態に気づいていたんだな。
「サンキュー校長。あんたのオカルトマニアっぷりのおかげで事態がちょっとはわかったぜ」
「いえいえ。お役に立てたのなら何よりです。あ、でも私はファンタジー派ですからね?教師としてニュースとかには目を通していただけで」
「次の目的地はエセ科学じゃー」
夢を操る特殊能力はかなりの応用が利く。だが残念なことに万能というわけではない。俺自身が夢のような力を振舞うことは大得意だが……ワープや情報収集や他者の補助などは、あくまでも基礎的なことができるに過ぎないのだ。
「そういうわけで、ベリーよ。お前の不安定な性格を根本的に治すことはできないのさ。ごめんな」
「ふー」
「だけどその夢で作ったボディにお前を憑依させるくらいは簡単だったぜ。ついでにお前に眠る小さな夢も活性化させた。まともに話を聞く気にはなったんじゃないか?」
「久々に地に足を付けるってのは気分がいいぜぇ。てめえはいつぞやの天利んとこのガキだな」
「いや。そっくりさんだが別人だ」
「まあ、んなことはどうでもいい。今日は気分がいいからなぁ。聞きてえことがあるなら親切にもこのベリー様が教えてやらぁ!」
どうやらかなり精神が安定したようだな。夢を活性化させたからなのか、それとも人型の体に憑依して、不老不死ベールの精神安定効果を得たからなのか。なんにしても、余計な手間をかけずに話を聞くことができるな、やったー。
「地球から宇宙への通信がおかしくなったりとか、地球の周りを太陽が回るようになった時期。それが大恐慌エイプリルよりも前って本当か?」
「あん?若いのによくそんなこと知ってやがるな。ああそうだよ。一般的に周知されたのは星関連がエイプリルフール直後、通信関連は俺が死んだちょっと後くらいだったかな」
「聞いた話と同じか」
「つっても、日本のエイプリルフールはあの大惨事だったからよー。星関連の話が日本に伝わったのは少し後のことだな。世界的にはエイプリルフール直後に知れ渡ったって話だぜぇ。望遠鏡からの観測の結果、間違いなしだとよ。ただ……この件は相当荒れたらしいな」
「ん?間違いなしなのに荒れたっていうのか?」
「ったりめーだろ。当時は地球がおかしくなった最初期段階だ。星の関係が変化するだけでも大荒れだろうぜ。だが、それだけじゃねえ。天体関係の計測機器との結果が全く違っていたらしい」
「ど、どういうことだ?」
「望遠鏡からの観測結果では地球を中心に星が動いてやがるんだ。だがなぁ、宇宙にある衛星からの画像や映像やデータによると、地球は今まで通り、太陽を中心に星が動いていやがった。当時子供だった俺は宇宙が変化したんだなーくらいの認識だったが、世界中は観測データ偽装だとかで大荒れしたんだとさ。結局、宇宙にある天文関係の観測機器があてにならねえって結論で片付いたらしいぜぇ」
ああー、なるほど。電波事件の影響がすでに出てはいたが、天文関係だけがおかしいって結論で片付いたのか。えーっと、校長から聞いた噂によれば、データが徐々に何年もかけてちょっとずつずれていったんだよな。……現実に起こったことを考えると、まったくあり得ない偽のデータが返されていたということかな。あるいは、非現実世界のデータが入り混じっていたとか?……ダメだ、電子通信機器なんてさっぱりわからねーよ!巨大ロボとか未来ロボなら夢の力で簡単に作れるのに!
「俺はマシーンの中身とかはさっぱりなんだけどさ。地球の観測データはちょっとずつずれていったって聞いたんだけど。そのデータは結局どこのものだったんだ?」
「そんなものはさっぱりさぁ!だが少しずつずれていったってのは違う。データ上は少しずつずれているように感じられただけで、現実は全く違っているっていう話なんだよ。……なんっつーんだ、予想データみたいなものを観測したかのような微妙に気づきにくい感じの」
「偶然そういうデータを観測したりはしねーの?」
「まずあり得ねえな。地球上のあらゆる電子機器が誤情報を取得していたんだ。人為的な現象であることに間違いないだろうさ。……むしろ、てめーらこの星の住民が一番怪しいくらいだがな」
「ははは、まさか。大恐慌エイプリル前……というか平成31年がそもそも特殊能力もない時代だぜ。天利や校長だって子供の頃だ。その頃にそんな馬鹿な真似できるやつなんて……精々正者くらいのものだろう」
「正者だとっ!あぁんのクソ野郎かぁぁ……!正安の野郎は……少し前に返しにきたからまだマシだけどよーっ!」
「そういえばお宝の望遠鏡、戻ってきたんだってな。おめでとう!じゃあ地雷ワードに触れたようだから俺は行くぜ」
「おのれぇ正安めー!やっぱここにいない正者よりも〔」あいつをぶっ倒してやりてーっ!つーかてめえ、なんでそんなことを知って〕
「じゃあねー」
夢で作ったボディの時間が切れたようだ。ベリーの体が夢となって消え、ベリーはいつもの悪霊に戻ってしまった。……わりーな、ベリー。永続的な夢ボディはこの俺が使っている体だけで手一杯なのさ。
なかなか聞き込みというのも上手くいかないもんだな。非現実の世界についてベリーに聞く前に退却する羽目になった。うーん、そもそもの話になるんだが……地球のやつらに非現実世界について尋ねたのが間違いだったのかもしれない。わからない度で言えば俺と同じようなレベルだろう。
「そういうわけで話の分かりそうな当事者に話を聞こうと思ったのさ。どうだい、名もなき動物さん。非現実の世界について何か知ってる?」
そもそも非現実の世界を語ったのは、エビシディの手下だというこいつのはずだ。こいつからなら間違いなく有意義な情報が得られることだろう。全てを話しつくしていなければな。
「どういうわけなのかはわからぬが。我はエビシディ様以外に力を貸すつもりはない。ましてやよくわからん素材で作られている貴様などに話すことなどない」
「なにっ?この夢の素材で作られた体を見破っただと?」
「くくくく。我はエビシディ様に仕えし最高の頭脳派。どんな夢の素材かはわからぬが、ただの物質でないことくらいはお見通しよっ!」
な、なんだこいつ!俺の夢で作った体を見破れるやつが居るなんて!細胞から何まで完全再現しているはずなのにどうしてバレたんだ!?
「我が前に会った……悟だったか。貴様が奴とは別人であることもすでにわかっている。我と会うのは初めてだろう?自己紹介の一つでもしたらどうだ?」
「むむ……。俺は戦隊 黒悟だ。だが、お前が会った悟の体もコート神だから人間離れしてるぜ。気づいてなかったなら残念だったな!」
「そんなことは気づいておるわ。なんなら体の構成の違いで、同じ異世界出身の人型生物かどうかくらいの区別はつくのでな」
「ど、どうやら優れたサーチ能力みたいなのを素で使えるようだな。素直に驚いたぜ。非現実の世界とかもその力で見つけたのか?」
「昨今の流れを読み解いたという意味ではそうだが……元から我らの世界では非現実世界の存在は認知されていた。概念的な存在になると、現実になったり非現実になったりで両方の世界を知る場合があるそうだ。エネルギーとしてみれば、突如喪失するようにして非現実世界に移ってしまう」
ちょっと褒めたらすらすら話し始めたな。ま、こっちとしてはこのくらいチョロいほうが助かるから、ありがたい話だ。
「概念的な存在……幽霊とか妖怪とか?」
「そのあたりも例は少ないが含まれるな。非現実の存在とは本来、森羅万象を司るシステム上、存在すると都合が悪いものを指す。正者は……あー、貴様は正者を知ってるか?」
「杉野 正者のことだろう?おおよその概要と噂くらいは」
「そうか。正者はそのシステムの一部を手に入れたのだ。強大な錬金術の力を借りてな。結果、正者の改変した世界にとって都合の悪いものが非現実の存在となってしまった。……端的に言うならば、この世の法則を変えた結果、現実は今いるような世界になったということだ」
ということは……正者が介入する前の世界は、今とは違う法則で動いていたってことか。この影野郎の話を信じるならばな。でもまあ、話を聞いた感じでは、星の動き方に影響を与えるには十分な力だともいえる。この世の法則を動かして何ができるのかなんてさっぱりだが、人間がそれほどの力でなにかやるのなら、星を弄るくらいが妥当なところだろう。……いやまあ、正安とかなら異世界介入しかねないけど。
「あの時期に星の動きを変えたとなると……あり得る話だ。だけどその話だけで片付けるのはちょっとな」
「非現実世界についての確証が欲しいか?なら、この現実世界に存在することが不自然な生物を探すがいい!ギリギリ現実世界に居座っている存在からであれば、非現実世界の話も聞けるだろう!」
「こ、この世に存在することが不自然な生物……心当たりが多すぎる!」
「ちょっとしたことで何者なのか存在が疑わしくなるような、そんな生き物がこの星にもいるはずだ。ふ、要らぬ道草を食ってしまったな。我はエビシディ様のために尽くす身……長話などしておれぬわっ!」
「あ、待てこらー!」
地面に渦巻く影のようになって、影の生物はどこかへ行ってしまった。とりあえず非現実世界の情報源から、非現実世界についての概要は聞くことができたが。……どうしよ。俺の夢を操る能力を使うにしても
、もう少し具体的な相手の条件がないときついぜ。当たりの正夢を見るまで睡眠任せにするか?
〔ぴぴぴ〕
ん?この脳への音は……裏ステージの寮にある電話が鳴ってるな!夢通信……夢通信は……。はいはーい、こちら黒悟さんだけどどちら様かな?
〔あ、勇者社の配送部ですけど。ご注文の品をお届けに参りました。枚数が多すぎて寮には入りきらないと思いますが、どうしましょう?〕
お、ついにあれが完成したのか!俺と勇者社で共同開発した夢の商品が!えーっと……家くらいの巨大金庫に入れて持ってきたのか。じゃあ悪いんだけど金庫は後で返すから寮前に置いといてくれ。ちょっと外出中ってか……まあ部屋から出られないんでね。
〔あ、はい。では金庫のカギはどこに置きましょう?〕
もう預かったから帰っていいぜー。金庫と一緒に勇者社に返しておくから。
〔え?……な、ないっ!?あ……、ではえっと、これで失礼しますね?]
はいはいお疲れさーん。通信切って……と。ふう、どうやらインターホンの呼び出しだったみたいだな。くくくく、今の反応は面白かったなー。俺のところってか、裏ステージ連中への配送が初めてのやつかな?
俺の夢を操る能力であれば、確率マイナスのドロップ品だろうがタイミングの違うイベントアイテムだろうが確実に手に入る!ただの金庫の鍵なんていつの間にか俺の手の内さ。
「それはともかくあれが届いたなら調査は終わりだ!あとは遊びながらこの問題は考えよう!」
みーんな難しい話とか戦闘ばかりで遊び心が足りてないようだからなーっ!この遊び心を背負った黒悟様が、一時だけでも戦闘を忘れざるを得ない遊戯を提供してやる!