表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
変な星でツッコミ生活!?  作者: 神離人
本編:変な人たちの出会い その二
48/85

十五話 無敵の液体怪人 ~完全なる単独物質

@悟視点@


夕暮れ前のような空色の中、悪の科学者のエビシディとそのペットを連れて門前の広い居場所までやってきた。って、城に入るときに倒したはずの門番がいなくなってるな。……代わりの門番も用意しないなんて、やっぱり王は秘術後継者をあまり探す気がないようだ。こんなの逃げ放題だろうに。


まあこれから勝負に使うつもりだし丁度いい。始めるか!


「って、おい。そっちの悪の科学者は戦わないのか!城壁にもたれやがって!」


「私が出る必要などない。お前ごときその試作品で十分相手が務まるわ。そうでしょう?」


「は、はい。悟とか言ったな。貴様など我が爪で、エビシディ様の材料にしてくれる……いてて」


ペットの方はさっき喰らった水圧圧縮砲のダメージを気にしてるようだ。本来、水圧圧縮砲は岩をも砕く魔法弾。調子が落ちているとはいえ何発も喰らっていられる技じゃないぜ。


とはいえあの影のペット……俺くらいの身長があるし幅は人間二人分くらいはある。それなりにタフな敵だとみていいだろう。まあ、バスジャックのボスみたいに見掛け倒しの可能性もあるが。


「はん、相当甘く見られたもんだな。まあいいさ。人は一切死ぬことなく、人以外は死んでいくこの世界……どっちがレア素材なのか思い知るがいい!水圧圧縮砲!」


「残念だな。ふんっ!」


[ずどばあぁっ!]


「な、なんだと!」


あの影生物、水圧圧縮砲を爪で突き砕きやがった!水の魔法弾を防ぐこと自体は多くの人間に可能だろうが、まさか科学者が量産してそうなモブペットに砕かれるなんて!


「言っただろう、我が爪で貴様を材料にしてくれると。この爪は鉄すらも貫き、木をも切り裂く一撃を繰り出すことができる!喜べ小僧。いまなら頭か心臓……どちらを貫くか選ばせてやるぞ?」


「ふふふっ。できるものならやってみろよ。この俺にケガの一つでも負わせられたら研究材料だろうと何だろうと好きにするがいいさ。空気圧分裂砲!」


「空気だと!く……だがこんな軽い攻撃など!効かぬ!死ねぇい!」


「おっと!」


[ずばぁっ!]


「ちっ!」


飛びかかってきたから避けたが、思ったより早くて避けきれなかった。だが腕辺りに一発喰らっただけでダメージはほとんどない。コートもなんとか奴のひっかき攻撃には耐えられるようだ。だが鉄を貫く突き攻撃を喰らえば多分穴が開くだろうな。


「ば、バカな!確実に当たったのに腕が落ちていない!いや、衣服すら無事だと!今の妙な手ごたえは一体!?」


「残念だったな!俺のコートは防刃コートだ!空気圧縮砲!」


「なっ、ぐううぅ!」


「もう一発!空気圧縮砲!」


「ぬぅ、くどいぞ!」


[どばぁんっ!]


空気の魔法弾の一発は腹部に決まったようだが、顔狙いのもう一発は爪で弾かれちまった。少しよろめいていたからもう少しだと思うが、なかなかタフじゃないか。


「ただのペットかと思いきや普通に戦えるじゃないか。お前なら、特星の戦闘できるやつらともいい勝負ができると思うぜ。非戦闘員相手なら普通に勝てるな」


「黙れ小僧!我はエビシディ様をサポートする護り手!貴様や正者のような薄汚い人間共など、目でもないわあぁっ!」


[ずどおぉっ!]


「うぐはぁっ!げほごほっ!」


「な……バカなっ!爪がっ、首の皮膚に刺さらぬだとぉ!?」


「ぐぅ!ヒントぁ出してた!公平になっ!水圧圧縮砲!」


[どかああぁん!]


「ぐわあああぁっ!んぐあっ!」


影野郎の顔っぽい部分に、至近距離から水の魔法弾を撃ち込む。おお、踏ん張り切れなくなったのか思いっきり後ろに倒れたぞ!こいつの首と後頭部はまずおしまいだな!


「んげほっ!だが最後のでこっちにもダメージが。くそぉ」


く、こんなことなら最後の一撃もちゃんと避けておくんだった。最後、あえてカウンターで決めてやろうとまったく避けなかったからな。……だがまあ、下手すればこいつは死ぬだろうから、カッコいい幕引きで倒してやらねーとな。悪の科学者の一員だからドラマチックに決めたかったし。


「さて。次は本命のお前の番だぜ」


「あら。あなた主人公なんでしょう?いいのかしら、無抵抗の相手を一方的にいたぶるような真似をして。それに私……まだ何も悪いことなんてしていないよ」


「なんだと?」


「私に戦う意思はない。そう言っているのよ。戦いなんてものは作った試作品がやればいいもの。……まあ?お前が無実の人間を撃ちぬくような外道だというならそれは仕方のないこと。その手に持った光線銃で、さあ、この私を撃ち抜くがいいわ」


「なるほど?……ふん、お前の言う通り俺は主人公だ。倒れた相手には追い打ちはしないし、無抵抗の相手を攻撃したりはしない。そうさ、相手が悪いことするまでは先に手出しできないヒーロー気質さ。でも、だからと言って……この引き金を引かないとは限らないぜ」


[びちゃっ]


「冷たっ。これは、水?……何のつもり?」


「はっ、勝負のお預けついでに教えてやるぜ!これはな、光線銃じゃなくて水鉄砲だ!お前はカッコつけておきながら、水鉄砲相手に、撃ち抜いてみるがいいとか言っていたのさ!」


「ほう。それで?」


「それだけだ。悪の科学者を名乗る割には、水鉄砲と光線銃の見分けがつかないというだけの話。科学者なら失敗は成功の元で済む話だが……。カッコつけるのも仕事の悪の科学者が、なんともまあ、カッコつかない間違いをしていたからつい口が出ちまったのさ!ふふふ、悪かったな。このカッコ悪い間違いをしてしまったという事実、忘れてくれても構わないぜ。……まあ、世界を掌握する悪の科学者なら、自らの手で口封じくらいのことはやってほしいものだがな」


「お前……その癪に障るにやけ面、次会ったときには顔ごと消えていると思え。今の私がなんの準備もしていないのは本当運がいいわ。命拾いしたわね、あなた」


エビシディは城壁から離れて広場のほうに歩いていく。挑発してみたが、直接戦う宣言をさせることはできなかったか。悪の科学兵器とか武器とかを相手にしてみたいんだけどな。悟ンジャーの悪役武器代表、エクサスターガンとどっちが強いか……一度でいいから勝負させてみたいもんだ。


「え、エビシディ様!私はまだ動けません……どうかお待ちを!」


「ふん。お前のような雑魚にもう用はない。その辺で好き勝手やってなさい」


「え、エビシディ様ぁ……ぐうぅっ」


「おい、こんなデカいペット捨てていくのかよ。迷惑な奴だな。悪の科学者らしい悪行はともかく、こういう地味な迷惑行為はよくないんじゃないか」


「……」


ったく、人がせっかく忠告してやったのに無視して去っていった。城の中に。……って、封印が解かれていきなり城に行くのもどうなんだ。兵士に捕まるんじゃ。


「エビシディ……あいつは異世界旅行で早死にするタイプだな」


「なんだと!?」


「あ、いや。この世界なら大丈夫だけどさ。それでペットのお前はどうするんだ?捨てられたみたいだけど」


「野生に返るっ!エビシディ様の部下となった以上、捨てられれば野良として生きるのが定めよ。元居た世界の我が同胞たちはそのようにして生息圏を広げたのだ。……その同胞たちも、正者にやられて消えていったがな」


「へえ。ちなみにその正者ってやつはまだ生きてるのか?正者の住んでた異世界が消滅したって聞いたんだけど」


「なぬ?そうか……なるほど。くくくっ、ふふふふふ、喜ぶがいい!我々のいた世界が消滅したのであれば、あの男はもうこの世にはいまい」


「ってことは、やっぱり死んだのか」


「いや。死んだかどうかは知らぬが。しかし、ただの死者以上に我々の前に姿を現す可能性はないだろうな」


「ど、どういうことだ!?」


死ぬよりも復帰が難しい状態異常があるっていうのか!?い、いやまあ、生き返らせること自体は特星の能力者によってはできなくもないことだが。死ぬ以上の状態異常なんて……雑魚ベーの呪いみたいに消滅するとか?


「くくくく、気づいておらぬのかぁ?やはり地球の民というのは無知なものだなぁ~っ!よかろうよかろう、教えてやる。正者のやつは個体としての意思を持つ錬金術を復活させた!そして、その代償として三つの願いを叶えているはずなのだ!」


「な、なに?三つだと?それってあの錬金術の怪物のことだろ?錬金術の破片を集めると願いを叶えるっていう。正者のやつが三つも願いを叶えていたのか!?」


前に皿々と共闘した時、正者の願いは錬金術師たちに偽の記憶を植え付けることだったと判明したはずだ。つまり、残り二つある願いを使って、星の関係を滅茶苦茶にした可能性が高い。


「知っているのか。奴はエビシディ様を封印した憎き輩でもあるのだが……。正者が奴にどんな願いを叶えてもらったのか見当はついている」


「え、お前正者とは敵対関係なんだろ。そんなにおしゃべりな奴なのか、正者は」


「ふっ、エビシディ様に命じられ、我は正者の動向を探っていたのだ。……正者は破片集めの途中、願いが叶うと知ったときに叶えたい内容をボヤいていたことがあった。一つ、地球で好き勝手できる力が欲しい。二つ、現実を受け付けないやつを非現実の地球に送れ。三つ、願いを増やす。……だそうだ」


「あれ。俺の予想が願いにない」


「我らは事の結末を見届けていない。その前に封印されたからな。だから実際の願いまではわからぬ。だが、正者の性格からして一つ目の願いはまず叶えているだろう」


偽の記憶の願いは……いやまあ、皿々は地球に昔から住んでるドラゴンらしいからな。一つ目の願いで力を手に入れていたら錬金術師の記憶改ざんくらいは可能か。ってか、願いが曖昧過ぎて予測しようがねえんだけど!


ただまあ、正者の大事件を起こしたりだとか異次元の保管庫を持ってたりだとか、願い一つでどうにかなる感じではなかったもんな。もしかして本当に三つ目の願いで、願いを叶える回数増やしてるんじゃねえだろうな。錬金術の怪物、強大な力の割には正者をやたら嫌っている感じだったし……こう、傲慢さに嫌気がさしたとか。


「で、我らの世界が消えた理由だが。我々の世界が非現実の世界に移されてしまったからだ」


「非現実の世界って、もしかして推定二番目の願いに出てくる地球の?」


「そうだ。非現実とはその名の通り、現実とは表裏一体。よほどのことがない限りは同時に存在できぬ。かつて、我らの世界が地球と繋がったのは、どちらの世界も実在するもの同士だったからだ。しかし非現実化した世界は現実世界から存在しなくなり、非現実側へと移される。だから、我々の世界が消滅したように見えてしまったのだ」


「だけどよ。そんな願いは正者の願いの中にはないぜ。三つ目の願いとか、三つ目以降の願いで叶えたのか?」


「さあな。だが恐らく意図してやったわけでは……いやしかしあの男なら…………まあ、意図せずとも起こり得ることだと覚えよ」


「正者関係は話がデカくてどうにも信じがたいな……。数多くの異世界がある中、偶然にも地球と繋がってる異世界がピンポイントでそんな風に消えちまうなんて」


「ふん。まだ事の大きさがわかっていないようだな。いいか、正者が叶えているであろう一つ目の願いはな……全異世界を地球に合わせなければ、とてもじゃないが実現できぬのだぞ」


「は、はあ!?」


「具体的な願いではないからな。そしてなによりも問題なのが……あの錬金術には曖昧な願いすらも叶えられる程のエネルギーがあったことだ。少なくとも我らが封印されたときには間違いなくあった。……まあ、すでに正者の願いでとんでもない量のエネルギーを消費させられたことだろう。今や心配は要らぬことさ。錬金術本人の話では、願いが復活の代償となっているので、実現可能な願いは叶えなければならないという制約らしい」


確かにアルテ相手に善戦はしてたけど……あの錬金術の怪物にそんな力があったのか!錬金術の化け物がいなくなった今、正者がこの現実世界に戻るのは難しい……のかな?むむ、こういうときにボケ役が盗聴していれば答えがあってるかわかるんだが、今回は留守かあいつめ。


「世界一つどっかにいくなんて、ホラーもいいところだな。しかも正者関係なく元々あったんだろ、その非現実世界っていうのは」


「元々あった世界というよりは……。世界の理から外れたときに押し出される場所、というのが正しいかな。正者が理を変えた結果、この世界の法則……全異世界の中心である地球の理のことだが、そこから外れたものが行きつく先だ」


「ん?ここ、地球じゃないぜ」


「ほう、ってなにぃ!?ど、どこなのだここは!?ごほごほっ、……い、いやまあいい。ここも地球の理に矛盾しなかった世界なのだろう。正者のセンスに救われたようだな」


「聞いた感じ、お前やエビシディが住んでた世界以外もかなり犠牲になってそうだな。でもそんな簡単に移動するんじゃ戻るのも簡単じゃないか?」


「バカ言え。世界の理に反するなど、それこそ世界の理を変えるくらいしか方法はあるまい。理から外れたものは既に現実世界にはおらぬのだからな。……表裏一体故に、距離こそはどこにいようがあってないようなものである。しかし、非現実世界を行き来することは、どんなに遠い異世界に行くよりも難しいだろう。通常のエネルギー量で干渉できる場所ではないからな。そして我は……あの錬金術以上にエネルギーを蓄えたものは見たことすらない」


こいつの言うことがデマでないなら、そんなことを実現したあの錬金術野郎はまさに化け物って感じか。……そもそもこいつらの世界では、非現実の世界も当たり前のように認知されてるのかもしれないな。地球生まれの正者が、二つ目の願い候補で非現実の世界を知っているような願いをボヤくほどだし。


「だけどよ、正者は現実の……俺らの住んでた地球に戻ってきてたぜ。お前らの異世界と一緒に消えるのは無理があるんじゃ」


「ちっ。後出しで情報を出しおって。ならこの現実の世界にいるかもしれぬな。正者は地球で好き勝手やっていたのか?」


「日本の資産から約七割くらい持っていったらしいぜ。日本っていうのは地球の国な」


「ふん。その程度のことでは我らの世界は非現実に送られぬな。恐らくその後に、もっとこう……世界の法則を揺るがすような真似をしているはずだ。なにか知らぬのか?そもそも我らの世界の消滅について誰から聞いた?」


「法則……法則?幽霊が出るようになったことか?」


確か大恐慌エイプリルフール後、地球が変わったってのは記紀弥から聞いたな。ただ世界の法則というのはよくわからん。


「いや、我らの世界でも普通に出る。それは原因ではない。……多分その現象は、我らの世界と貴様たちの世界が繋がった際、こちらのエネルギーが地球に流れ込んだのが原因だろう」


「じゃあさっぱり。昔のことだしな。異世界消滅のことは誰から聞いたんだったかな?」


異世界の消滅は……情報元は誰だっけ。正者の盗んだ財宝を探してるときに聞いたと思うんだが。異世界関係者の、えー、……そうだ、寺で会った擬人化っぽい少年だ!望遠鏡に変身した奴!校長の親友とやらの宝物の!


「そうそう、正者が盗んだ望遠鏡から聞いたんだった」


「は?ふざけているのか貴様?」


[ひゅううぅ……どさあぁっ!]


「「うおっ!?」」


な、なんだなんだ!?城の兵士が突然背後から飛び込んできたぞ!驚かせやがって!兵士はうつ伏せのまま動かないようだが。……あれ、もしかしてこれは殺人事件では!?そうか、ついに不老不死の効果すらも主人公補正が超えてしまったか。


「何事だ?この男、どうやら気絶しているようだが」


「え、あ、ほんとだ。なんだー、殺人事件じゃねーのか。ふんふん、見たところ皮の鎧の上からの打撃で吹っ飛ばされたみたいだな。ここがほんのちょっと内側にめり込んでるな」


「……確かによーく見ればへこんでるような。貴様、よくこんなわずかな打撃跡が見えるな」


「ふははは!主人公の観察眼を甘く見るなよ!そして打撃技で城内から人間を吹っ飛ばせるやつは雑魚ベーだ!奴が犯人に違いない!」


「ふむ城内からか。む……?な、なんだこのエネルギーは!?」


「うわっ、なんだ?急に大声出すなよ」


「城内に異質な構成のエネルギーがいるっ!一見、エネルギー量が小さくて気づかなかったが……あれはヤバい!くっ!しかも城内にはエビシディ様が向かわれたではないか!」


「お、おい。俺にもわかりやすく説明しろ!」


「ええい、どけ!エビシディ様ぁーっ!お戻りをー!」


「おい待てこら!待てー!主人公無視して自己完結してんじゃねー!」




メインショット城の中だが、な、なんだこりゃ!城内ホールのあらゆるところに城の兵士が倒れていやがる!そして雑魚ベーと……な、なんだ?人型のなんか、液体みたいなのが……なんかすごい違和感のある液体人間が雑魚ベーと対峙してるな。あれ、影野郎はどこだ?


「いた!エビシディ様!お戻りください!」


「黙れ。だが、丁度いいところに来たわね」


あ、上から声が。いたいた。入口の上にある休憩用のソファーにエビシディが座ってやがるな。影野郎は背中だけ見える。


「必殺、ジャンピングキックですよおぉーっ!」


[ぺちっ]


「ん?うお、雑魚ベーのジャンピングキックが止められてる!」


雑魚ベーが液体人間みたいなやつにジャンピングキックをしているが、相手はちっともびくともせず、雑魚ベーは相手の頭の上を回り続けている。……雑魚ベーのキック、液体人間の皮膚というか表面に全く何の影響も与えてないっぽいな。足先がほんのちっともめり込んでない。今さっき、ぺちって音はしたが、見た目だけでいえば、かきぃーんて感じの音がしそうなほど固そうに見える。あの液体人間、本当に見かけ通りの液体なのか?


[ばしぃ!]


「うああああぁっ!」


「おっと!」


[どがあぁん!]


危ないな!液体人間の攻撃で吹っ飛ばされた雑魚ベーがこっちに飛んできた!まあ、間一髪で避けたからダメージは免れたが。雑魚ベーが横後ろの柱に叩きつけられて、結構痛そうだ。だが気絶するほどではなかったみたいだな。


はっ!まさか新入りの言ってた無敵の液体生物ってあいつのことか!?確かに、影野郎に比べればよほど液体生物って感じだぜ!人型だから怪人だし!


「ううぅ」


「おい雑魚ベー!あれが怪人か!?」


「あ、悟さん……。か、怪人かどうかはわかりませんけど、あいつ強すぎますよぉっ!兵もメインショット王も父もやられて、残るは私だけに!」


「じゃあやっぱり怪人か。どういう攻撃が強いんだ?」


「攻撃は殴るだけで悟さんの魔法弾より痛いだけなんですが。でもそれよりも、こっちの攻撃が全然効かないんですよぉっ!十回はジャンピングキックが直撃したのに全然効いてません!」


[ぺちっ、ぺちっ]


おっと、こっちに来てやがるな。ふっふっふ、雑魚ベーでもこの様なら俺がやるしかないようだな。まあ、いざというときにはちょっとした切り札もある。今日の俺に負けはないぜ!


「貴方にもう一度チャンスをやろう。あれを倒しなさい」


「エビシディ様!?わ、わかりました!覚悟せよ化け物が!我が爪を喰らうがいいっ!」


「なに!?」


[ぺちっ]


俺が行こうと思っていたのに先を越された!液体人間の目の前に、影野郎が降ってきてそのまま爪で突き刺した!い、いや、突き刺さってはいない!液体人間の首にあたる部分で爪は止まっている!


「ぐうぅ!こ、これは!」


[ばしぃ!どがあぁん!]


雑魚ベーとは反対の柱に影野郎が叩きつけられる。……こいつは不老不死の効果対象外だからな。まだ生きてるようだが、これ以上喰らい続ければ多分死ぬぞ。


「モンスター?あ、あなたたちは何者なんですかねぇ?」


「悪の科学者とそのペットだってよ」


「ぐうぅ!わ、わかりました、エビシディ様!こいつは、この物質は完全に単独でできています!水のようにいくつもの原子や分子が集まっているわけではありません!巨大な一物質が、何らかの技術……恐らく魔法で形の違う物質に変化させていっているのです!」


「なに、単独物質だと?」


「そう。それで?」


「粒の集まりである水とは違い、単独の物質は水のように形が変わることはありません!ですが奴は拳を構えて殴っている!奴に使われている魔法には、拳を構える形状の物質から、拳を突き出す形状の物質へと徐々に物質を超高速変化させる魔法が使われています!」


難しい話でよく分からないな。要するに魔法で動いてる怪人ってことか?バスジャック新入りの話では、あれは魔法ではよくわからないから魔人ではないとか言ってたな。つまり、今いる世界とは別世界の魔法で作られた怪人ということだ。そして……新入りも影野郎も戦闘で倒してるから信用できる情報だぜ!


「それで……いつあの個体を倒すのかしら?」


「エビシディ様!奴は単独物質ゆえに切り裂くことも破壊することもできません!いわば無敵!物質的単細胞!そしてあのサイズでは、他の小さすぎる物質とは連結することもありません!奴は物理的には不変です!たとえ宇宙を消し去る爆発が起きても奴は消えぬのです!逃げるべきですエビシディ様!」


「ふん、そんなことは既に知っている。だが、お前の役目は私のブレインでしょう?私より優れた答えを……正解を超えた解決策を考えつかないお前には、やはり失望したよ。逃げるのは正解だけれど、正解を当てただけのお前など必要ないわ。その程度ならば、私の判断を乱すことはあれども私が頼るパートナーには値しない。……よっと」


[すたん]


エビシディが俺の目の前に降り立つ。どうやら二階から飛び降りて着地したようだ。ってか、なぜかこっちを睨んできているんだが。まさか八つ当たりか?


「癪に障るわ。消えなさい」


「なんだと?はん!お前が消えな、悪の科学者エビシディ!俺は今からあの怪人とボス戦なんでな!」


「……あの程度がボスだって?あなた、たかが知れているわね」


「いや、今から逃げるお前に言われてもな」


「あんな相手など大したことはない。寝起きで丸腰でなければね。……準備も整っていないのに関わるのはバカバカしいというだけの話。ふふふふ、せいぜい倒せぬ相手に四苦八苦して倒れ伏すがいい」


ぐ、さすがは悪の科学者だ。勝手に言いたいことだけ言って城の外へと出ていきやがった。……い、いや、あいつ門の柱にもたれかかってこっちを見ているぞ!いつまで敷地内にいるつもりだよあの不法侵入者!封印解放されて真っ先に城に入りやがったし、やっぱり液体怪人狙いなのか!?


[ばしぃっ!どごぁっ!]


「ぐおっ!?」


いってえ!?何かが背中に、って、城の兵士じゃないか!位置的に液体怪人が殴り飛ばしたみたいだ!く、あの外道怪人め!人間を銃弾とか矢みたいに消耗武器扱いした上、気絶者に追い打ちまでかけやがって!そういうことするなら……いいぜ、ここで水たまりみたいに這いつくばらせてやる!


「電圧圧縮砲!おい、お前らも手伝え!」


[ばちばちっばちちち、ぺちっ]


うーん、雷の魔法弾は液体怪人に直撃するが、そのまま弾けて空中に消えていった。液体に一番聞きそうな技が通じないみたいなんだが……さてどうしたものか。


「我は……我には奴の倒し方は思いつかぬ。エビシディ様……あのお方の期待する力量には深く及ばなかった。故郷から遠く離れているであろうこの地で、あの怪物に討たれて死ぬ定めなのかもしれぬ」


「じゃあせめて前に出ろ!シールドとして俺を庇えばカッコよく死ねるから!」


「ところであの敵には物理は効かないんですよね?ふふふふ。なら、やることは一つですよぉっ!どんな相手でもすり抜けてダメージを与える気体、そんな私の技なら、いくら無敵のあなたでもどうしようもありませんよぉっ!液体人間さん、覚悟してもらいましょうか!」


「もしかして、カムか!」


「行きますよぉっ!そぉれ、カム!」


雑魚ベーが液体怪人に走り寄り、至近距離でオレンジっぽい色の半透明球体を放つ。……あ、ダメだ、カムは散った。なんてことだ!不老不死オーラの影響を受けた人間でさえすり抜ける技のはずだが、完全にただの気体のように霧散してしまった!あれじゃあ温度の高い空気でしかない!


「う、嘘でしょう!?」


[ばしぃどかああぁん!]


「うぐぅあ!」


雑魚ベーが液体怪人にぶん殴られて、ここまで2~3回ほど跳ねながらぶっ飛ばされてくる。命に別状はないけど虫の息って感じだな。今にも意識を失いそうだ。


「おい起きろ雑魚ベー!寝たらモブ同然だぞ!」


「愚かな。奴は完全なる単独物質なのだぞ。例え幽霊であっても、奴を通り抜けることなど不可能!エネルギーを物理的観点で考えると、まったく同じ座標にエネルギーが重なることはあり得ないからだ!」


「結構何回も殴られててダメージが……む、難しい話も多いですし眠くなってきましたよぉ」


「あの怪人って魔法も通らないのか?俺の魔法弾でも?」


「そんなもので倒せるなら我は困らぬ。外部からの突破は一切……いや、理論的には物理学上での最大上限のエネルギーを超える力ならば可能性がある、という程度だろう。できるか?」


「どのくらいの力なのか、さっぱりわからん」


「あるいは奴の内部に、魔法を打ち消す効果をテレポートなり召喚で直接打ち込むか。我の推測では、奴を動かす魔法は内部で守られている。位置を探し出し、エネルギーの遮断を超えて魔法を消すという方法だ。……もっとも並大抵の転送術では、エネルギーを遮断されるとテレポートできないだろうが」


「お、そういう弱点部位を探し出すのは主人公らしくていいな!テレポートなんて便利な特技があれば余裕で成功していたことだろうぜ。俺は一つもないけどな!だから殴るしかない!水圧圧縮砲!」


[ぺちっどがばしゃーん!]


水の魔法弾が液体怪人に直撃したが、やっぱりびくともしてないか。敵に直撃した水圧圧縮砲が弾けてしまった。く、ビクともしないってことはこっちの威力が無効化されてるか?まともに攻撃が通ってるなら、あの液体怪人が例え無敵だったとしても、衝撃で相手の足元の床にひびくらい入っててもおかしくないはずだ。岩をも砕く魔法弾だ、本来こんな安物の城のタイルくらい敵の体越しでもぶっ壊せる。……でもこの世界に来てからは、水圧圧縮砲の威力低下中っぽいからなぁ……どうだろ?


「く。全然通じてる気がしないな。もういっそ燃やしてみるか?周りの王や兵士が居なけりゃすでにやってるところなんだが」


「つ、通じる可能性が低いなら……やめてくださいよぉ」


「通じぬ。熱も酸化も物理現象。奴は物理的には不変だから燃やしたところで無駄だ。……だが、奴自身は魔法での変化を受け付けている。奴に使われている魔法と同じか、類似する力であれば奴を制御することができるだろう。単独物質故に、内外どこから使われても効果は変わらぬ。……で、使えぬのか?」


「使えるかっ!どこの魔法かもわからないのによー!もっと役に立つ攻略法はないのか!?」


「あとは攻撃対象だが……倒れた人間は攻撃しておらぬな。内から外へのエネルギーも奴の性質上遮断されるはずだ。つまり可能性があるとすれば、奴の体表面に物質変化とは別の魔法が使われていて、それがブレインとして識別しているか……そもそもが元気な生物を襲うような物質に変化させられているか。前者であれば、表面の魔法を何とかすれば攻撃対象を失い停止するだろうな。どうだ?」


だ、ダメだー。なんか弱点っぽいのはそれなりにありそうなのに、相性が悪すぎる!物質を変化とか、魔法を無効化とか、そんな現代では使わない知識や技術なんか持ち合わせてねーよ!……どうすればいいんだ?向こうは慈悲も感情持ち合わせていない攻撃するだけの物質!物理攻撃も精神攻撃も通じない!通じそうな状態異常はまったく俺が使えないものばかり!ど、どうしよ。


「そ、そうだ!奴は液体なんだろ?昔、液体は気体になるって聞いた気がする!そういう感じでどうにかならないか!?」


「いや、そもそも奴は液体ではないぞ?」


「なにぃ!?」


「奴は個体でもなく液体でもなく気体でもない。それらを構成する物質というのがあって、その物質の元となっている細かい粒の集まりがあって……まあ要するに素材元のようなものが奴だ。単独の素材元が、そのまま単独物質としても機能している。……他の物質とは違いバカでかくて、他に類がなくて、魔法で変化し続けているため、まるで液体が動いているように見えるというだけなのだ。液体怪人というのは的外れだぞ。奴は単独故にあらゆる物質に勝るほど強固だからな」


「つまり液体じゃないってことだな!難しい言語で話しやがってこいつ!」


高性能翻訳アメの効果を持ってしても理解できない暗号文を長々話しやがる!あ、でもこいつら正者と話通じてたってことはそもそも日本語で話してるのかな?……いや、意味わからんこと話してるし、翻訳しきれないほど複雑な異世界語を話しているんだろう。きっと正者が複雑語を話せる人間だったんだ。


[ばしぃどかああぁん!]


「あ、危ねー!だが今度は避けた!く、また一人、罪のない兵士が飛び道具にされてしまった!」


「さ、悟さん見てくださいよぉっ!今の兵士弾によって破壊された入口に人が!」


「悪の科学者だろ?さっきまで門のあたりに」


「いえ!あの影のラインにこの気配……間違いありません!あれはタンシュクさんです!」


「なんだって!?」


俺と影野郎が入口の方を見ると、確かにはタンシュクが壊れた壁からこっちを覗いている!あ、入ってきた。って、まずいんじゃないか?タンシュクはこの世界の不老不死ベールの効果を受けていない。液体怪人の攻撃を受けたら分解するぞ!


「え、エビシディ様が門から見ておられるっ」


「やあやあ不要な人間諸君。ご主人様からのお届け物だぞー」


「い、いけませんよぉっ!タンシュクさん!ここは危険ですから……に、逃げてください!」


「あ、雑魚ベーだ雑魚ベー。まるでボロキレのように地面で寝ている!まじめに山を越えてきた私をこんなふざけたポーズで迎えるその根性、まるでご主人様のようだ」


「あの人と一緒にしないでくださいよぉっ!」


「立ったね?つまりは仮病だなー?私がまじめにご主人様のお届け物を持ってきたというのに仮病とは!」


「もういっそのこと盾にでも、水圧圧縮砲!」


[ばしぃどかああぁん!]


液体怪物が飛ばしてきた兵士を、水の魔法弾で撃墜する。近づかなければそこまで積極的に攻撃してくるわけじゃないようだな。だが、奴が殴り飛ばした兵士の速度はかなり速い。早打ち気味に撃たないと撃墜するのは難しいだろうし、俺の狙いがずれると迎撃もできないだろうな。なにより、こっちからダメージを与える攻撃手段がなくてキツイわけだが!


「あらら、どうやら戦闘中みたいだ。でも特星人の戦闘力をもってすれば大抵の相手は倒せるはずだろー?どうして押されている?無能かお前たちはぁ」


「ふん、力量もわからぬ愚か者が。気配から察するに……生き物に扮した人工物のようだが。奴は貴様とは違い完全なる単独物質。物理的には不変の存在。魔法とは縁のなさそうな貴様では攻略などまず不可能であろうな」


「お、なんだなんだこの影みたいなのは?自分でも倒せないっぽいくせにうんちくが長いぞー!お前あれだなー?出来損ないの未完成生物だろう?作り手だかご主人だかが、お前の容姿なんかちっとも気に掛けないからそんな姿なんでしょ?知識だけの結晶みたいな」


「なんだと!?貴様エビシディ様を侮辱するか!」


「そんなつもりはないんだ。ただ私のご主人様は外見ばかり気にする人でね。感情面にはほとんど力を入れないんだよあの根暗は!だから事実を言っただけでも頭悪い連中には悪口だと思わて、これでも大変なんだぞー!」


「俺は頭悪くないぞポンコツ野郎!主人公に倒せない敵はいない!あともうちょっとすればあの怪人を華麗に倒してみせるからずっと待ってろ!」


「ふっふっふ。その必要はないぞー。液体怪人ってあれのことだろう?私には既にあの単独物質に勝つ準備がある」


「「「ええっ!?」」」


ば、バカな!相性が悪いとはいえ、この俺がまだダメージを与えていなさそうな状態だぞ!主人公対怪人のこの熱い戦いを!ちょっとの見せ場もなく、このまま突然やってきたタンシュクに全部持っていかれるっていうのか!そ、そんなことが許されていいのか!?


い、いや待て待て。落ち着こう!これじゃああまりにも主人公として大人げない。時には、活躍の少ない奴にも活躍の場を与えるのもまた主人公ってもんだぜ。相性故に俺に倒す手段はない……これは事実だろう。もうちょっと頑張れば倒せそうな気もするが、仕方がないか。怪人相手に戦い、活躍したいという子供心!それを無下にするわけにはいかない!とはいえ……今回俺はまだ何もしてないような。


…………はっ!い、いや、一つ俺は重大なことを見落としている!あの怪人、もしかして瀕死なんじゃないか?よく考えればそうだ。液体怪人はすでに魔法弾を何発も喰らっている。……影野郎の話によれば、液体怪人は不変の物質がどうこうらしいが、今や物ですら擬人化している時代だ。この前、望遠鏡も擬人化してたし。……つまり不変の物質だって撃たれりゃ痛いに決まっている!表情に出すことなく隠してはいるようだが、もう限界の限界というところだろう。だが、相性の悪い俺では奴にとどめを刺すことは不可能だ。最後は……タンシュクに委ねるしかないっ!


「バカな!我ですら具体的な解決策を思いつかぬのだぞ!奴に現状通じるような弱点があるというのか?うぬぬ……わからぬ」


「そんな!危険すぎますよぉっ!タンシュクさんは不老不死の効果を一切得ていません!あんな奴の攻撃を喰らえば怪我どころか……下手すれば粉々になるかもしれません!私たちに任せて下がっていてくださいよぉっ!」


「奴を倒すまでもう少し……あとちょっとだタンシュク!主人公である俺や城の皆、そしてお前の力を合わせれば、あんな怪人くらい楽々ぶっ倒せるはずだ!って、これは主人公が言うようなセリフじゃないな。むしろ俺が言われる感じのセリフだ。やっぱり今のセリフは俺自身に言ったことにしよう」


「ちょっと!何言ってるんですか悟さんー!危険だって言っているでしょう!」


「いいや、悟の言う通り。私たちの力を合わせれば簡単に済む話なのさー。でもね雑魚ベー。今回に限って言えば、力を合わせる私たちの中にお前はいなければならないんだ。お前が協力しなければこれは必ず失敗してしまう」


「な、なんですって?」


「お前は持っているはずだ。少女を愛する人間の証、サイドショットの力をなー。その隠された効果の一つを使えば勝てるのさ。だから……私を信じて任せてもらいたい。でなければお前はただの変態でしかない」


「カムの隠された効果?い、いえ、わかりました。でも無茶はダメですよタンシュクさん!怪我しそうになったら逃げてくださいねぇ!」


「それはこいつの仕事だー。私に言われても困る」


「おーっ?この俺を盾にしようってのか?今回は別にいいけどなー……ちゃんと覚えておけよ!俺は液体怪人に勝てるけどあえてお前に活躍の場を譲ったんだ!子供に配慮するのが主人公だから、あえて譲ったのさ!そして、俺が味方にいるからにはどんな攻撃も撃たれ落とされるっ!」


「ふっふっふ、ご主人様お手製の自慢のボディーだからなー。もしお前の腕がへなちょこで、傷一つでもついたら……一生付け回してストーカーしてやるっ!」


ふん、タンシュクがいきなり飛び出したがなんてことはない。たとえセリフ途中で不意打ちダッシュしたとしても俺が後れを取ることはないだろう!この世界の奴らとは不意打ち力が違うからな!いかなる状況だって俺が先手を取られることはないぜっ!……雑魚ベーは出遅れてるけどな。


「っと、水圧圧縮砲!」


[ばしぃどかああぁん!]


液体怪人が兵士を殴り飛ばした直後、俺の水の魔法弾が兵士を別方向に弾き飛ばす。そこそこ人間離れした攻撃と動作をするようだが、羽双や無双の動きを見ていた俺には遅すぎるくらいだ!無敵といったところでこの程度の実力……主人公の俺なら瀕死に追い込めて当然だったようだなっ!


「さあ見ていろ、血一つ流せない怪物に人間よ。お前たちに対抗心を燃やし、ご主人様は出血しない血液を作り上げた!最も美しき金属血流、マシンブラッド!」


「なに!?指から触手!?」


タンシュクの両手の全指先から、赤黒い触手のようなものが飛び出して液体怪人に絡みつく。いや、指先というよりは爪と指の間。テープみたいな状態で指先に溢れ、蠢くコードみたいに発射されているな。出血とはいってもバスジャックボスの顔から流れていた血とはかなり違う!ていうか液体かどうかも怪しいぞ!液体怪人と同等以上の液体詐欺力だ!


マシンブラッドはいつの間にか液体怪人の体に纏わりつき、液体人間の表面を這うように流れてる。き、気色悪いな。ぼかしてみれば、血管が浮き出ているようにも見えなくはない。だが、俺の完璧すぎる視力にとっては、あのマシンブラッドの蛇みたいな動きがよく見える!……あ、敵側のマシンブラッド、いつの間にかタンシュクの指先との連結が切れてるな。


「どうだ?私の金属血流は」


「気色悪い。やっぱり出血なんてするもんじゃないぜ。その技、今回だけにしておくんだな」


「センスのない野蛮人にはわからんかー。あとは任せた雑魚ベー!」


「あとはお任せくださいよぉっ!……って、結局どうすりゃいいんですかねぇ?」


「液体怪人に纏わりついてる血液を弄るんだよ!昔、浮遊要塞とかやってただろーが!」


[ばしぃどかああぁん!]


「はん、会話中に攻撃しようがもう悪あがきでしかない!空気圧圧縮砲で迎撃した!」


「そして……私は今タンシュクさんの放ったマシンブラッドに触っています。本当に液体なんですねぇ。多少ねちょねちょしていますが、ほら、触れたはずなのにこっちには血一滴もついていませんよぉ」


「嫌われてるんじゃねーのか?マシンブラッドに」


「血液に!?」


なんて言ってる間にも液体怪人はどんどん宙を浮いていく。雑魚ベーは結構前から施設にある機械をいじって浮遊要塞化していたからな。あれがカムの隠し効果の一つだったというわけか。……自爆スイッチとかもつけてたような気がするが、大丈夫だよな?あの金属液体にそんな効果はついてないよな?


「マシンブラッドは私のためにご主人様が作った、私のための金属血液。出血するようなケガをしても空気中に零れ落ちることはないんだぞー。基本的に物質の表面である体内外のどちらかを流れ続けるからなー。毒対策として、私なら意図して放出できるようにはなっているが、基本的には体から離れない血液なんだ」


「完全にタンシュク専用装備って感じか。……ロボットに毒対策とかいるのか?」


「じゃあ触った私に一滴もつかなかったのは?」


「すでに無敵物質の体を流れていたからだなー。私以外があの血液を剥がすためには……そう、ペットボトルに入れて蓋をするみたいに完全隔離するしかない。本体との距離が開けば、流れてない状態のマシンブラッドに戻るんだ。……ちなみにマシンブラッドが流れるのは、自律して動ける物質全般だなー。生き物の血液としても使えるらしいけど、一度注入したマシンブラッドを抜くのは困難らしい」


「な、なんか私たちのイメージする血液とは乖離が」


「まあ特星の不老不死効果に近いと言えば近いな。特星でも確か、体の一部が切断されたりしたときは血は流れなかったはずだ。エクサバーストで半身消し飛ばしても出血はしない。……って、なに引いてるんだ雑魚ベー!これはジョーク込みのたとえ話だぜ!」


「ジョークも何も、私は全身消し飛ばされた記憶が結構あるんですけどねぇ」


「でもそれはレアケースだろ?運が悪かったんじゃないのか?」


「悟さんに消し飛ばされた気がするんですけど!悟さんに!」


「運も実力もないんだな。さて、そろそろ液体怪人が城の天井に到達するぜ。じゃあ、最後は主人公である俺が派手に決めてやろう!」


「って!?タンシュクさん!私の傍を離れないでっ!」


「うん」


「水圧圧縮砲!そぉれ、連打だ喰らいやがれっ!」


[どがどがどがどがあぁん!]


水の魔法弾で、城の天井ににちょっとずつ穴が開いていく。俺たちの居る場所は城のホールにあたる部分!天井は高いし、外へ通じる穴なんか簡単に空くぜ!


「悟さん!タンシュクさんが居るんですから安全に考慮してくださいよぉっ!」


「あ、やべっ!そうだった忘れてた!じゃあこれでラスト!水圧圧縮砲ーっ!」


最後の魔法弾による一撃で、液体怪人の真上のあたりに大きな穴が開く。そしてそのまま液体怪人は野外の空を昇っていった。ふっふっふ、手強い怪人だったが俺の完全勝利だっ!気長に宇宙旅行でもしてやがれ!


[どかどかどしゃぁん!]


「いててて、瓦礫が!おい雑魚ベー!タンシュクばっかり庇ってないで俺も庇え!」


「悟さん別にケガしないでしょう!?タンシュクさん、大丈夫ですか!」


「うん、怪我は特にない。でも、いきなり天井を撃つなんて」


「いや、それは悪かったよ。お前が不老不死じゃないことをすっかり忘れててさ。……なるほど?ああ、だからセーナはマシンブラッドを作ったのか!この世界だとタンシュク、お前がケガするから!」


「「今更?」」


え、こいつら理由知ってたのか?ああ、まあ身内だから理由を知っててもおかしくはないな。いやー、特星にいればどの道不老不死効果が得られるのに、なんでわざわざ金属血液なんて作ったのかさっぱりわかってなかったよ。気にもしてなかった。タンシュクがこの世界だとケガするから作ったんだな、マシンブラッドを。


「さて、これからどうしましょうかねぇ。みんな気絶していますし、一部の兵士なんかは落ちてきた天井の瓦礫に埋まっていますけど」


「雑魚ベー雑魚ベー。私はご主人様からのお使いできているから、早く帰らないと怒られてしまう。あそこにある本がお届け物だから。あとは任せたぞー」


「え?あ、はい。帰り道に気を付けてくださいよー。……仕方ありませんねぇ。悟さん、私たち二人で城の皆さんを」


「あああーっ!雑魚ベー雑魚ベー!俺はついに犯人がわかったぞ!メインショット城の秘術を盗んだ犯人に見当がついたっ!」


「え、ええっ!?このタイミングで!ということは犯人を見つける手がかりはこの中に!?」


「それはまだ言えないな!犯人がこっそり聞いているかもしれない!しかも犯人を追い詰めるためには今から準備が必要だ!準備をしなければ犯人はうまく言い逃れをしてしまう!だから雑魚ベー、ここは任せた!」


「わ、わかりましたよぉっ!ここは私に任せて……あのっ!」


「え?ど、どうした雑魚ベー?」


「あのー、本当に犯人が分かったんですよねぇ?手伝うのが面倒だから口から出まかせ言ってるとか、そういうのじゃ」


「主人公がそんなせこい真似するかー!もう本当に話してる時間もないんだぞこっちは!」


「あ、すみません!どうぞ準備に向かってくださいよぉっ!」


よし!とりあえず城内の奴らが全員起きるのに一時間くらいはかかるだろう。それまで外を散歩でもしながら犯人っぽい奴を探そう!それっぽい推理ができる怪しい奴がいいな!……まあ、今回は救助活動をサボるためにでっち上げの推理をするだけだ。本物の犯人が分かればそれに越したことはないが、最悪間違えてても問題ない。本物の犯人の手がかりは救助が終わった後、この世界の奴らがゆっくり探せばいいしな。


あ、その前にタンシュクが持ってきたお届け物の中身を確認しよう。もしかしたらレアアイテムとか推理のヒントを持ってきたのかもしれない。本を持ってきたとか言ってたな。


「どれどれ。タイトルが婚約者候補?縁談話でも持ってきたのか?……って、これ動物図鑑じゃねえか!」


レーガのじじいの持ち物だな、間違いなく!あのじじい、メインショット城の住民にこんなもの渡す気だったのか!?いや、交流あるような素振りだったから今までも渡してたのか。……なんでサイドショット領の奴らは出禁になってないんだろう。


「悟さん?話す暇もないほど急いでいるんじゃ?」


「あー、急いでる急いでる!城内の準備はこれでオッケー!あとは外から複雑怪奇な準備をするからあとは任せた雑魚ベー!」


「……はいはい」


ふう、危なく雑魚ベーにサボってることがばれるところだった!人が落としたアイテムとかに気を取られるのは悪い癖だな。主人公故に洞察力が高すぎてつい見てしまう。倒してドロップしたアイテムとかだと、案外すぐに確認せずに後で確認したりするんだが。


さて、門にはエビシディと影野郎がいる……影のやつはいつの間に外に出てたんだろう?うーん、あの二人に話を聞くか?でもあいつらが二人でいると雰囲気悪いからな。それに封印されてたから情報もないし、あいつらを犯人ということにして推理するのも難しい。ここはツインショット野郎に話を聞こう!


時間はすでに夕暮れ。日が沈む頃には城内も落ち着いているだろう。そして次の推理を当てても外しても、俺は今日この世界を出るつもりだ。つまり次の推理がラストチャンス!外してもいいが、でも多分、適当にでっち上げても犯人は見つかるはずだぜ!下手な鉄砲は数撃てば当たる、同じように下手な推理だって数撃てば当たる。つまり素人でさえ犯人は探せるということ。なら……主人公の俺が撃てば百発百中間違いない!

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ