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変な星でツッコミ生活!?  作者: 神離人
本編:変な人たちの出会い その二
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十四話 解き放たれた悪の科学者 ~秘術に隠されし能力

@悟視点@


さて。次の聞き取り対象はここにいるはずだ。いやー、偉くない兵士とはいえ道を教えてもらえるってのはいいもんだな。いつもなら侵入者扱いされるから、戦って聞き出してるところだぜ。


この部屋には昨日バスで会ったバカどもが宿泊中らしい。が、朝に雑魚ベーから聞いた話ではあいつらが継承者じゃないって話だったからな。だから発見された三人には用はない。だが、発見されてないもう一人……多分新入りだった奴だろうが、そいつが継承者になってるかもしれない!何発撃ってでも聞き出さなくては!


「この部屋にバスジャック犯がっ!悟さん、私たちだけで本当に大丈夫ですかねぇ?」


「秘術の話は極秘なんだろう?なら兵士たちを入れるわけにはいかないな」


「この中の人たちに話すのもまずいんじゃ……悪党なんでしょう?」


「安心しろって。ちゃんと黙らせておくよ。最悪でも俺のアイテムに閉じ込めて、帰りに異次元空間に捨て去れば二度と大メインショット郷国に戻れないだろうし」


「いやいや、悪党といえどそれはちょっとやりすぎですよぉっ!」


「あいつら曰く、異次元空間をいくつも旅して死ななかったから大丈夫なんだとさ。それじゃあ……俺が来たぜー!」


[がちゃ、ばたーん!]


「「うわぁっ!?」」


「ようやくきやがったか。待っていたぜぇ、おめえに潰された顔を磨いてなぁーっ!」


部屋には高級そうなベッドに座るボス役、そしてその左右にはソファーがあって、枕を抱きしめている手下共が一人ずついるな。……やはりいないのは新入りのようだ。


昨日と違うのは、ボスの顔が治ってることと手下二人が服を着てることだな。服は多分この城のものかな?あのボスの顔は自力で治ったのか、それとも不老不死オーラで治ったのかどっちだろう。


「ひえ、ちょっと悟さん!めっちゃ怖そうな人じゃないですか!」


「なんだそっちの長髪長身の兄ちゃんは?まあいい!てめーたち、特にコート小僧にはちょっとばかし痛い目に遭ってもらおうか!やっちまいな、おめーら!」


「え?い、いやぁ、それはボスの頼みでもちょっと……なあ?」


「あ、ああ。だってボス、あいつは漂流怪物を倒した化け物ですよ?無理ですって」


「ふ、よく考えな!あのコケ色は確かに強い!だが漂流怪物も俺たちも殺されちゃいねーんだろう!?きっと殺しはしない主義だ!なら、死んだふりして後頭部をガンッで一撃よ!……それに俺だって、本来治療に何ヶ月も掛かる傷が一晩で治った!俺はとてつもない進化を遂げたのさ!」


「おおお……!さすがボス!顔まで潰されたのになんてポジティブなんだ!」


「なんなら一度、息まで止まってたのになんてポジティブなんだ!」


「へっへっへ、今度こそ覚悟しなっ!不死の回復力を手に入れた俺たちの恐ろしさ!戦闘経験者の俺が、先陣を切って思い知らせてやるぜええぇーっ!」


「「後に続きますぜ!ボスーっ!」」


「水圧分裂砲!」


[どかかかかかかかぁ!]


「「「ぎゃああああぁっ!」」」


走って寄ってきた三人に水の魔法弾を叩き込む。って……おいおい、ちょっと喰らっただけでもう倒れて戦闘できなさそうな感じだぞ。こいつら、実力以前に健康状態は大丈夫か?


「ああ!なああ!顔がっ!顔がぁ……!あああ!」


「げほぐほっ!ふぁ、みぞおちと腹にぃ!」


「うぐぐ、おめーらぁーっ!こ、この鬼野郎めぇ!非戦闘員にまで何て酷ぇ攻撃をしやがる!」


「お前らこそいい加減にしろー!そっちから戦闘仕掛けた挙句、威力分散の範囲攻撃一つでオーバーリアクションしやがって!もはや当たり屋だろ!」


「あぁ、ああっ。故郷の精度最悪投球マシーン並みに痛えよぉ……っ!すみませんボスぅ!あぐっ」


「ぐうぅ、故郷の姉貴の腹パンを思い出しちまった!俺の精神はもうだめだボスー!ごふぁっ」


「そして俺は故郷の………………いや、俺がお前たちの故郷だ!俺はおめーらとはいつも共にいる。俺もすぐに後を追うから待ってやがれ……!っつーわけで、俺は降参するぜ」


「こ、降参だと!?」


このカッコつけ野郎、あんな部下思いな感じのセリフを吐いておいて即降参するとか、節操ってものを知らないのか?降参したから追撃はしないが、やっぱりこいつバスジャックだし相当のワルみたいだ!


「お前……決め台詞には責任持てよ」


「あん?……意味が分からねえ!大体てめーら何の用だ!」


「とりあえず自己紹介しましょうよ。そちらの二人が起きるのは、待ちます?」


「なにぃ!?この二人は死んだはずじゃあねーのか!?」


「ん?ああ、そうか。こいつらこの世界のことを知らないのか。ふっ、この主人公である悟様が殺しをするような心無い男に見えるか?二人の息の根を確かめてみな!」


「むむ、おおっ!息してるじぇねーか!しかも傷一つついてねえだなんて!まさか、俺たちは新たなる境地に達したってのかぁ!?」


「はっはっは!驚け驚け!これが主人公の慈悲深さというものだ!」


「度重なる異世界巡りの末、ついに俺は人としての限界を超えちまったみてーだなぁ!ふははは!」


「うわぁ、似た者同士じゃないですかぁぁ。互いに話の都合のいい部分しか聞く耳持ってませんよぉっ」


「「俺はこんな奴と似てねえ!」」


ちっ、このバカ大男はどうやら俺の話を勝手に自己解釈しているらしい。なーにが人としての限界を超えたんだって話だぜ。決め台詞のセンスがいいだけの雑魚ベー以下の雑魚じゃないか。……でも今さっきの会話からは知的なセンスも感じられたな。どちらかといえば、雑魚ベーに風情がないだけなんじゃないか?


「ううぅん……なんですボスぅ、大きな声出して」


「ふああぁ、ボスぅ、起こすの早くないですかぁ?ボスー」


おや、気絶してた部下二人が目を覚ましたようだ。起きるの早い気もするがダメージそんなにないから、まあ、こんなものなのかもしれない。


「お前ら本当、よく生きていていやがった!俺ぁてっきり死んだと思って、命乞いして一人寂しく生きていくつもりだったんだぜオイ!」


「自己紹介してやるからさっさと起きな。眠いなら水鉄砲で顔洗ってやろうか?」


「うわぁ!?そうだコートの怪物がいたんだ!」


「同じ言語で聞き覚えのない声だからビビった!」


「そういうわけだからシャキッと自己紹介してやんぜお前ら!遅れるんじゃねえぞ!」


「「へい!」」


「まずはこの俺様からいかせてもらおーか!俺はボスのツァン!ツァン ミッツ!バスジャック四人衆の右腕を束ねるボスってわけよぉ!」


「俺はボスの右腕、ツリー!冤罪で罪を被せられたところをボスに救われた!」


「俺はボスの右腕、ツリプル!ボスは、姉と妹の腹パン趣味から俺を救ってくれた!」


「……あ、私が先ですか?私は雑魚ベーと申しますよぉっ!この世界では本名のベータと呼ばれたりもしますので、よろしくお願いしますねぇ。ところでツリプルさんの妹さんの年齢は」


「そしてお前ら知っての通り!主人公でありコート神でもあるこの俺こそが、らい さとるだ!今回はそうだな……コート世界の銃士、とでも名乗っておこうかっ!」


「ボス!そういえばこの長髪も俺たちと同じ言語を!」


「こいつぁ驚きだ!俺なんて妹の年齢を聞かれましたぜ、ボス!答えますか?」


「部外者にその必要はねえっ!それより兄ちゃんどうだい?俺たちと一緒にハイジャックの旅でもよぉ、一緒にする気はねーか?あんたみたいな品のありそうなやつは歓迎するぜ?……ついでにそこの悟とかいうガキの倒し方も教えてほしいんだが」


大男……ツァンが雑魚ベーの肩に手をまわして、最後なんてコソコソと耳打ちしてるが全部丸聞こえだ。ていうか、同じく言葉が通じて品もある俺をスカウトしないのはどういうことだ!水鉄砲を突きつけてカッコよく断ってやりたいのに!


「はいはい悪の相談はそこまでだ。それよりお前らと一緒にいた新入りはどうした?お前らの中に犯人がいるとすれば捕まってないそいつのはずだが?」


「犯人?あんたは何の話をしているんだ?バスジャックか?」


「俺たちを仲間外れにすんなよ!俺ら四人衆は一蓮托生!」


「仲間一人だけを犯人扱いさせやしない!俺の命が危なくなければ」


「俺らはいつでも共犯関係さ!俺が無事で済む場合なら」


「……っつーわけだ。新入りの場所を知りたけりゃあ用を言いな。事と場合によっちゃあ協力してやらねーこともねえ」


「おー、やっぱり悪のチームってのは微妙に仲間思いなんだな。よし雑魚ベー、俺が部屋のベッドを堪能してる間に説明して……びしょびしょに濡れてる」


「室内で水の魔法弾を使うからですよぉっ!もう……こほん。えー、まずはこの世界には秘術というものが」


ちくしょー、こうなったら防水ズボンの特性を生かしてせめてベッドに座るか!……ああ、でもカジュアルなベッドだからか……あんまり弾まないな、うん。…………はああ、闇の世界のふっかふかベッドが恋しいぜ。寮には要らないけど。




室内のシャワー風呂を借りた後、雑魚ベーたちの話し合いに再び加わり、合計30分くらいは過ぎたか。ようやくこの世界と秘術についての説明が大方終わったみたいだ。部屋に干してある風呂用半そで防水コートがそろそろ乾いたから、今着てるコートの内ポケットに戻しておこう。


「ふへははは!そいつぁ朗報じゃねーか!いいぜ、新入りの場所を教えてやらぁ」


おや、意外とすんなり情報を教えてくれるみたいだな。雑魚ベーの説明が終わって即決するとは。……ていうか雑魚ベーは俺に話したのときと同じくらい秘術の内容を話してるけど、こいつら悪党にそこまで教えて大丈夫か?説明しろとは言ったけどもっと控えめに話すものかと。


「ボス、いいんですかい?」


「もしも新入りがここの王になったら、もう俺たちとは……」


「うるせぇ!奴とはそれほど長え付き合いでもねーけどよぉ、お前らよく考えてみやがれ。異次元で偶然出会ったあいつが、果たしてバスジャックをやりたかったと思うか?」


「思わねぇ!俺ですら何度死にかけたことか!」


「俺でももっと楽して生きてぇくらいだ!」


「そういうこった。あいつが望むのなら新しい道を邪魔するこたぁねえ!俺たちバスジャック集団の一員だと民衆にバレちまう前に、俺たち悪人はここを去ろうじゃねえか!」


「「おーっ!」」


「「おおー」」


いやぁ、思わず感心してしまった。まさか仲間のために王の知人というポジションを捨てようとするとは。俺には真似できないことだ。……ふふ、どうやら俺は悪の集団の団結力を甘く見ていたらしい。まあこいつらはただの流れ者って感じだが。


しかしそうなると惜しいのはメインショットの後継者だという点だなー。こいつらは知らないことだが、秘術に選ばれるほどの人間だと仕事量がやばいらしい。……いつもの俺なら親切に教えてやるところだが、新入りをかばって居場所を聞き出せないと困るからな。黙っておこう。


「それで新入りとやらはどこにいるんだ?一応調べたが、まさかバスの中とかじゃないよな?」


「へ、今すぐにでも説明してやらぁ!俺は当時ぐっすりでよー。わかんねえんだな、これが」


「俺らが説明しやすぜ、ボス。まずは……ボスが目を覚ますまで俺たちゃバス待機してる予定だったんだ」


「だがボスより先に新入りが目を覚ましちまった」


「そこで新入りが言ったのさ。城にベッドがあるから忍び込んでボスを休ませようと」


「兵士に見つからないように行こうとも言っていたような」


「その新入りはどうして城にベッドがあると知ってたんだ?バスの中からじゃそもそも城が見えるかも怪しいよな。一般人に囲まれてたし」


「「さあ?」」


「大メインショット郷国出身の人だったんですかねぇ?だとしても、来客用スペースを借りればいいのになぜわざわざ城に侵入を?」


「「さああ?」でも故郷はそんな感じの名前だったような、微妙に違ったような」


とりあえず新入りバスジャッカーはこの世界の出身者っぽそうな感じだな。バスの中で聞いた話だと特星の存在も知ってるみたいな話だったし。となると、やはり秘術の存在を知ったうえで城にこっそり侵入しようとしてたのかな?あるいは元々この世界でも悪行を働いていたか。


「まあそういうわけで俺たちゃボスを担いで城に向かったわけだ!」


「新入りも近くにいたぜ!受けたダメージが大きいとかでボスを担いではいなかったがな!」


「容赦遠慮のない攻撃で俺達やボスは……うあぁぁ!」


「無慈悲な追撃で心身ともに大きな傷を……うー、ボスぅ!」


「おめえらぁ!辛かっただろーにすまねえなぁ!すまねえなぁっ!」


「悟さん……」


「へっ!こいつらの情報戦術に惑わされるなよ雑魚ベー!さあ、城までそこのボスをお前ら二人で担いでいったとき、お前らは城の兵士に見つかったはずだ!新入りとやらはどこに隠した!?」


「そう!あの時俺らは見つかった!草木に隠された塀の穴から侵入したはいいものの、最後、ボスのたくましい肩幅の侵入を塀が拒否しやがった!」


「ボスの凛々しい潰れた寝顔までは通ったんだ!だがそれまで!古のギロチンを落とすプレイスタイルを彷彿とさせる光景を前に、俺たちぁ急いで壁を壊すことにしたのさ!」


「そしたら見つかった」


「なにしてる!って怒られた」


「10人位に囲まれた」


「武器を突きつけられた」


「お前らバスジャックだろ。そのくらいで涙目になるなよ……」


「「ぐすん」」


よくこんな様で死なずに異世界を放浪できたなこいつら。メインショットの下っ端兵たちは秘術の存在を知らないはずだから、要人が逃げ出したとかそういう感じで秘術後継者を探してるだろうし、基本は甘い対応をされそうなもんだが。まあ、半裸男二人が壁を壊してたらまず不審者だと思うか。俺なら例え要人だとしても一発撃っちゃうな。


「しかし私たちの利いた話では捕まったのは三人組だったはずですよぉっ!ということはその前の時点で新入りさんは……」


「城の敷地内で一緒に壁を壊そうとはしてたんだよ!」


「でも兵士に見つかる少し前に、やや離れた草むらに隠れやがった!」


「俺たちは兵士にチクったんだぜぃ!俺らとついでにボスが逃げる隙を作るために!茂みにもう一人隠れているぞってな!」


「だけど新入りの見事なネコの声真似に敗れ去った!兵士は草むらを調べることなく、俺ら二人をこの部屋に連行したんだ!少し遅れてボスも連れてこられた」


「その後、俺様も目を覚ましたってわけよぉ!緑小僧!てめぇも俺たちのように兵士に連行されると踏んでな!この部屋で出迎えてやるために待っていたのさ!」


「やいやい緑小僧!ボスのお心に感謝しやがれ!」


「夜なんか三人交代で見張りながら待ってたんだぞ!ボスに感謝しやがれ!」


「うるせー。待ってる暇があるなら罠の一つでも仕掛けておけってんだ」


しかし、そうなると新入りはどこに消えたのかって話だよな。その後、秘術を盗みに城内に入るにしても誰からも目撃されてないのはおかしい。兵士の数は少ないから各個撃破は余裕だろうが、廊下とかには無駄なものがあまりないから隠れにくい気がする。調査中、空き部屋を覗いたりもしたがたまにサボり兵士がいたし、そもそも俺でさえ王様の部屋に入った時点ですぐに兵士に見つかった。……秘術の部屋に王様の部屋から入るのなら絶対見つかるし。


「……そういえば、お前ら秘術検査みたいなのはいつ行ったんだ?秘術継承者じゃないって判断されたらしいけど」


「秘術検査?そういえば部屋に運ばれてから一人ずつベッドに座らされたけど、それかなぁ?」


「一人ずつ呪文みたいなのを聞かされたなぁ」


「なんだとぉ!?俺はちっとも知らねえぞ!」


「「ボスはおねむのまま聞かされていやしたぜ」」


「……あれ?そうなると新入りさん犯人説は消えるんじゃないですかねぇ?だって、この人たちが侵入した時にはすでに秘術は消えていたことになりますよぉっ!」


そうだよな。一応、この三バカを運んでいる間に新入りが盗んだとか、新入りが分裂できる可能性もなくはないけど……。そんな変人超人が相手なら俺は調査放棄するぜ。そもそも変人クラスの実力者なら動機が消失するだろうけど。


「ちなみに俺たちがボスを運んだのは新入りが目覚めたとき!あんたがバスを出ていってから一時間くらい後のことさ」


「俺がサイドショット領に向かうために山登りしてた頃か。ナレ君……あの秘書官と別れてから大体30分か40分後くらいには既に秘術は盗まれていたってことか。俺がバスで到着してから一時間後に事件が発覚したともいえるぜ」


「秘術がないのを発見したのがそのナレ君こと、書記官のタナレーラさんという話でしたねぇ。常に人目のあるところにいたらしいので……秘術部屋に入った時にも人がいたということです。そして秘術部屋に入るからには同行者は王様だと思いますよぉっ!」


「おいおいおいおい!それだとてめぇ、新入りのあいつが秘術を盗めねえってことじゃねえか!?んな残酷な話があるのかよぉ!奴がせっかく、まともな道を歩めるかもしれなかったのによぉ!」


「ボス……やはり領主なんて都合のいい話だったんですよ」


「そうですぜ、ボス。今だけでもここに居座れるだけありがたい話だ。俺達も……新入りだってそうだ」


「ちくしょう……!ちくしょうがぁっ!」


うむむむ、なんかこいつらが内輪で盛り上がってるせいで部屋に居づらいな。つーか姿を見せない新入りが現状一番怪しかったのに、こいつらが一緒にいたせいでほぼ確実に犯行不能になっちまったし。秘術鑑定も受けてないだろうから間違いなさそうだったのに。


「あーもう。聞ける話は聞いたから行くぞ、雑魚ベー」


「え、どこにですか?」


「寄り道にちょっと猫探しでもしようと思ってな」


「へー、悟さん猫派なんですかねぇ?あっ、私は父が到着してるかもしれないので王様の部屋に向かいますね」


「ああ、そろそろ来てそうだよな。俺も後で行くからそっちは任せた」


さてと。犯人じゃない可能性は高いだろうが、気になった容疑者がずっと姿を見せないのはモヤモヤするし。ネコ真似野郎を探すとするかぁ。




穴……、塀の壁穴はー?お、わずかに見えたぞあれか。近くに兵士が一人椅子に座っているな。まあさすがにあんな抜け道があるなら見張りは当然つけるよな。位置的に、壁沿いに歩かないと草で気づきにくそうな感じの穴が壁の下側に空いてる。人間一人なら入れそうだが、ボス野郎はそれなりに筋肉質っぽいから無理だろうな。


「おーい、ちょっといいか?」


「はい?あなたは……ああ、あなたが王様から協力を頼まれた方ですね。緑の方」


「ああ。ちなみに俺のイメージカラーは黒だがな。ちょっと聞きたいんだがここはずっと見張ってたのか?」


「ええ。昨日の夜に交代してからは私がずっと。脱走者も侵入者も今のところ居ませんがね。まあ、こんな位置にある穴ですから気づくのも難しいでしょうが。外側も細い雑木林だらけで足の踏み場もないですし」


「昨日交代した兵士はお前の見知った奴だったのか?」


「ええ。交代の時はとりあえず顔の確認をする決まりなので。ましてや今は、要人の方が兵士に成りすまして脱走するかもしれませんからね。今は敷地内の者は帰れない指令が出ているので、その人も城内にいると思います」


ということは新入りが外に出ることもままならない状態ってわけか。俺が今日ぶっ倒した門から出ていく可能性はあるが……。い、いや、犯人が堂々と門に近づくわけないし!そもそもl忍び込もうとしたからにはすぐに帰らず何らかの幼児を果たすはず!多分!


「ちなみにここで三人の男を捕まったときから見張りがいるのか?」


「らしいですよ。なんでも10人位で取り囲んで、念のためにその時から見張っていたとか。その後、私のほうにも夜から見張るようにと王様から話が。……そういえば交代した彼ですが、交代してすぐにそっちの茂みを探してましたね。要人かネコがいるかもしれないとかで。結局、なにもいなかったみたいですけど」


兵士の指さした茂みは奥まで続いてて、あー、木のところで途切れてるな。こりゃあ木に登って塀を飛び越えれば簡単に逃げられちまうから……ん?


「どうしました?木になにかいるんですか?」


「…………空気圧圧縮砲」


[っどかあぁーん!どさぁ!]


「うぐあぁ!」


空気の魔法弾で木の真ん中あたりを撃ってやると、木は大きく揺れ、上にいた人影……というか普通に寝てた男が落ちてきた。ああ、あの顔は間違いなくバスの中であった一人だ。


「ひ、人が!」


「あー、悪いけど王にこのことを報告してきてくれ。俺が話を聞いておくから」


「は、はいっ!」


さてと。邪魔な兵士もいなくなったことだし話を聞くとするか。こいつが犯人の可能性はほぼないだろうが、ハイジャック三人組がこいつを陥れて狂言を……いや、なら昼寝なんかしてねーか。


「ああああ!腰を打ったぁ~!それほど私の寝相が悪いってのかよー!」


「おいお前。なにやってるんだ木の上なんかで」


「ん?おわぁ!あ、あんたはボスをやった危険人物じゃないか!私に何の用だ!?どうしてお前がこのメインショット城にいるんだ!」


「そりゃこっちのセリフだぜ。俺はお前がなんでこの城に来たのか聞きにきたんだよ。あ、ちなみに秘術の継承者ではないんだよな?」


「んな……!?ば、バカな……!そんなはずは!なぜだ、なぜ……だって、お前の言語はっ」


ん?なんか思ってた反応と違う。もしかしてこいつ一般人じゃなくて城の関係者なのか?言語ってのは言葉のことだろうけど。……あ。


「ははぁ~ん、わかったぜ。お前、さては特星に行ったことないんだろ。だけどバスジャック達と話すことはできていて、しかも奴らの言葉が通じなかったこの世界の住民でもある。さてはお前、多言語を話すことができるな?」


「特星だって?いやなんにしても、あの世界の住民がなぜ秘術について知っている!お前はやはりっ」


「ああ、お察しの通り。秘術継承者を見つけて捕らえるように頼まれたのさ。メインショット王から直々にな」


「お、王直々だって!?そんなはずはない!そんなはずはないんだ……!王は私が秘術後継者だと知っていて逃がしてくれたんだぞ!王が、私を捕えようとするはずが……!」


「……ん?えっ。ええぇーっ!?」


ど、どういうことだ!?王が秘術後継者を知っていて、逃がしたと!?それ以前に、こいつが秘術後継者だって!?い、一体どういうことだ!?この新入りには、バスで到着してからの間、ずっと盗む暇なんかなかったはずじゃあ!?


「どういうことだ!?王が秘術喪失にグルだったっていうのか!」


「ああ、そうだとも!建前上、兵士に私を探させてはいたが私をこっそり逃がしてくれたんだ!私は特星行きの乗り物の下に隠れてしがみつき、この世界を後にした!その王が、どうして今になってお前のようなやつを派遣してまで私を捕えようと!」


「は?ちょっと待て。この世界を後にしたって……一体いつの話をしている!?」


「もう五年も前の話さ。今日、目が覚めたときには驚いたよ。二度と帰れないと思ってたこの世界に再び帰ってきたんだからな。私はボスの大怪我のこともあり、顔を知ってる兵士に見つからないように王に相談しようと、メインショット城に侵入することを先輩二人に提言したのさ」


ほおあああぁ、なっるほどなるほど、そういうことだったのかっ!秘術が盗まれたのは俺がこの世界に来るよりも以前で、しかも五年も前に盗まれていたと!五年前、秘術後継者だったこいつは、王にそのことを相談してこっそりと異世界へ逃亡。五年前の段階では秘術が継承されたことは王と新入りだけが知っていたっ。

そして昨日、バスジャックとしてバカ三人と組んでた新入りは俺を襲撃。だが俺が返り討ちにしたことで、そのままバスの行先であるメインショットに流れ着いてしまった。しかも運悪く、同日に城に戻っていたナレ君……記述師タナレーが王様と一緒に秘術部屋に入り秘術がないことが発覚。王様は、まさか新入りが帰ってるなんて思いもしないから普通に犯人捜しを開始。で、俺が見事に新入りが真犯人であることを突き止めてここまでやってきてしまった。……こんな流れだろう。


んー。でも、昨日の部分に関してはかなり運要素がいる気がするな。まー俺が主人公だから類稀なる偶然が重なることくらいはよくあるだろうが。なにか、忘れてるような。


…………そ、そうだ!ナレ君ことタナレーラのやつは心が読めるはず!五年前に王が秘術継承者逃亡を手助けしたことくらい知ってるはずだ!まあ、仕事疲れで記憶が消滅してるかもしれないが。それでも今日、これだけ秘術継承者騒ぎが起きてるなら思い出しそうな気がする。どうして事件解決のために事実を発表しないんだ?捜索隊の兵士が戻れば仕事量は減るはず……。…………いつの間にか仕事をしてしまう精神状態だとか言ってたな。そうか……、すでに奴は中毒症状の域にまで達している!王様との利害が一致するから奴は、五年前の事実を黙っているんだ!


「なにを黙っている?王の事実を知ってしまい後悔しているのか?だが、それは私も同じさ!私は王が理解者だと信じて生きてきたのだ!それを……、お前のような魔法使いを送り込んできやがった!」


「ふん、俺は確かに秘術継承者を捕まえるように王から頼まれた。お前をぶっ倒すし、お前を捕まえるし、お前を王に引き渡しもするさ。……だが、やられる前に一度、よーく考えてみな。自分の推理の命中率が、てんで的外れなんじゃねーのかってな!水圧分裂砲!」


「うあぁ、ぐああああぁっ!」


相変わらずオーバーアクションでダメージを受ける悪役グループだ。新入りは水の魔法弾を受けて倒れ伏している。加減して撃ったから当然意識はあるぜ。


「うげぇ、いった~~い!うううぅぅ!」


「それと俺は魔法弾使いだっ!推理も一発無中になるくらいなら、三十発七中くらいの分裂砲推理で犯人を仕留めるのさ!さっきの魔法弾をその身に刻んで覚えておくんだな!この必中の魔法弾使いのことを!」


「くそぉ……ボスみたいに意味不明なことを」


「あれと一緒にするなよ。……さっき言ってた、お前が王に相談したかったことってやつ、汲んで王に伝えてやってもいいぜ。お前の就任祝いに」


「ふふはは……。必要ないさ。大したことじゃあない。……私が秘術を後継したまま逃げたことで、もしも領が危機に陥っていたらと不安だったんだ。もしもそんな事態だった場合は……頭を下げてでも領主に任命してもらうつもりだった。……これだけのメインショット兵やお前のようなやつを動かせるのだから、要らない心配だったが」


「ふ、諦めて継承する気になったようだな」


「今や、継承のことなどどうでもよかったのさ。ちょっと嫌な仕事が増えるくらい、異世界の旅に比べたらどうってことはない。……だが、メインショット王が私を裏切ったことだけは、どうしても認めたくはないし心残りだっ!あの人は私の憧れだったんだ!過労を超えた仕事量をこなし、そしてぐーたらに過ごす自由を手に入れたあの人がっ!だからさぁっ、逃げて悪の道に踏み込んだ私は……悪らしく、裏切りには裏切りで応えたいのさ!」


「うんうん。…………ん、なんだと?」


「うぉあああああぁっ!サンの秘術の隠された力を開放する!」


「な!?水圧、ぐっ!」


[どかあああああぁぁぁ!]




新入りの体から光線みたいなのが天に昇って、数十秒くらいか。さっきの光は一体何だったんだ?ちらっと見た感じ、俺らの真上で弾けて、城の逆側に落ちていったみたいだが。


「お、おい!今何をやった!?」


「はあ、はぁ……。秘術には隠された能力のようなものがある。伝承では、各領の秘術を別々のものにしているのはその隠された力によるものらしい。そして……ツインショット領の秘術、サンの隠し効果の一つは、この世界に施された封印を解く効果っ!」


「なに!?つ、ツインショット領だと!?そ、そういえばメインショット領の秘術は確か……ワワの秘術!」


「……?確かにそのような話は聞いたことあるが、それがどうした」


「どうしたって。……お前えええぇぇっ!!」


[ひゅううぅぅ、どさぁ!]


「うお!?」


な、なんだ!?新入り野郎に掴みかかろうとしたら空から……白衣を着た女だ!多分、年上っぽい感じの女が落ちてきやがったぞ!ああもう!新入りがメインショット継承者のフリしてたことは後回しだ!封印を解いて出てきたってことは、この女は多分やばい奴だろう!


「ふふふ、来たぞ!この世界に封印されし魔人……いや、魔法では説明のつかない怪人とでも呼ぶべき、無敵の液体生物が!」


「無敵の液体生物!?み、見た感じ、白衣着てる人間のように見えるけど。肌の表面細胞とかどう見ても人間そのもののような。……でも怪人ってのはいいな!魔人なんかとは言葉の響きが違うぜ!」


「な、なんだあんた急に。なんか怖いぞ」


「怪人ならさっさと起きて悪さしな!空気圧分裂砲!」


[ばししししぃ!]


「「ええ!?」ぐはぁ!」


な、なんだってんだ一体?女の体の下から、黒い影のようなものが出てきて空気の魔法弾を弾きやがった!?この影みたいな生物、錬金術の化け物の手下どもと色合いがほぼ一緒だ!


ついでに流れ弾に被弾した新入りが気絶したみたいだ。呼び出すだけ呼び出しておいてこいつ!


「いたたた。く、体中がとても痛いわね」


「あ、起きた」


「ん?あー、あぁー。……こほん。どうやら、あのクズ生物の封印から解放されたようね。ここは城のようだけど……。あら?」


「おい、お前が怪人か?」


「怪人?ふん、それよりあなたのその薄汚れた緑の衣装、いつぞやの二人組の片割れみたいで……ものすごく気に障るわ」


「そのセンスの悪さは間違いなく敵だ!水圧圧縮砲!」


[どかああぁっ!]


「ちっ、またかよ!」


今度は白衣女の背後から影が飛び出し、水の魔法弾を受け止めた!あの影の形、二足歩行みたいだが人型ではないな。アルマジロとかモグラとかそんな感じか?


「ああ、これは試作品の」


「ぐあぁ……エビシディ様、だ、大丈夫ですか?」


「あ、やっぱりしゃべるのか。しかも普通にダメージ入ってるっぽいな」


「あの錬金生物にやられたときに一緒に封印されてたのか。丁度いいわ。そこの不愉快な緑を始末するのよ」


「しかしエビシディ様!あの衣服にあの道具。間違いありません。奴はあの正者と同じ地球人だと思われます!」


「正者だと!?じゃあやっぱりお前ら、あの錬金術の怪物と同じ世界の!」


こいつらは正者が行っていたという異世界の住民なのか!いやでもなんで、そんな奴らがこの大メインショット郷国の世界に封印されているんだ!?ていうか怪人ってこの影みたいな生物のことかよ!あまりにも期待外れすぎるぜ!


「ほう、どうやら正者を知っているみたいね。そして錬金術のクズ生物のことも。いいわ、名乗ってやろう。私の名は、エビシディ イエフジ。いずれは全てを掌握する悪の科学者よ」


「悪の科学者!ほぉ。ふっふっふ、そうか!そんな感じはしていたところだ!」


悪の科学者との闘い!これはまさに俺の望んでいた戦いの状況にふさわしいじゃないか!怪人がこの影生物なのは残念だが、悪の組織のたくらみは主人公の俺がぜひとも阻止しなくてはならない!


「青二才め、今の攻撃は効いたぞ。我は」


「これは試作品の一つ。さあ、あなたの名前とついでに知っていることをすべて教えてもらおうかしら」


「ふふん、俺は主人公の雷之 悟さ!だけどお前のような悪党にタダで情報をやるわけにはいかないなぁ!人にものを聞きたければ悪役のとる手段は一つ!この俺を倒して、無理やり聞き出してみるんだなっ!」


「面白い。しかしここは戦いを見るにはごちゃごちゃしすぎている。もっと見通しのいい場所を用意してもらおうかしら」


「危険ですエビシディ様!奴の攻撃は恐らく遠距離主体!距離を取りにくいここで戦うべきです!」


「その必要はないわ。だって見えにくいもの」


「門の前あたりが広くて見通しが良かったはずだぜ。広いほうがいいならついてきな」


[っどぉん]


ん?なんか城の中が騒がしいようだが。まあそんなことはどうでもいい!こいつらはきっと長期にわたり主人公の前に立ちふさがる敵となることだろう!主人公は格が違うところを見せつけてやるぜ!

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