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変な星でツッコミ生活!?  作者: 神離人
本編:変な人たちの出会い その二
46/85

十三話 メインショット城の盗難騒動 ~行方知れずの秘術継承者

@悟視点@


「ぐううぅ~。うんうぅ……。はっ!うぐおおおおおぉっ!雑魚ベー雑魚ベー雑魚ベええええぇーっ!雑魚ベーはどこだああぁっ!?」


[ばたぁん!どかあぁん!]


「うわぁ!?な、なんですか一体!?って、悟さんじゃ」


「ざっ、あれはどこだ!?あれっあれ!あの、これこれ!」


「腰……お尻?……あ、トイレですか?」


「うん!」


「階段を下りて、近くの通路の奥です。ほら、昨日の襲撃者戦で私が向かってたところ」


「そうだった!下だあぁーっ!」




旅行に来て一日過ぎた冬。異世界とはいえ今日も寒さが身に染みる一日になりそうだ。今日の肌寒さと獣臭のなさは天井に穴があるからなのか、それともトイレに3回も出入りしたからなのか。


「にしてもあれだ。まさか異世界とはいえここまでの体調不良を起こすとはな……。ま、俺の完璧なトイレコントロールにより腹を潰されようが何一つ出るものはなくなったわけだが」


しっかしトイレなんて久々に使ったな。俺が地球にいたころのものより多機能みたいだったし、それでも未だに水洗便所が健在なのはよく考えると感動的なことなのかもしれない。


「あ、おはようございます悟さん。お腹大丈夫ですか?」


「ああ雑魚ベー。って、お前なんだ、その変な格好は?」


「へへへ。貴族服ってやつですよぉっ!ちょっとメインショット城に出向くことになりましてねぇ。父のを借りたんですよ。どうです、袖とかやや短めですけど……似合いますか?」


「いや普通。普段のアロハっぽいのとかYシャツっぽいのと大差ないぜ」


「ええー。うーん、普段の身なりでお城に行くのはちょっとなぁ。こうなったら後ろ髪とか束ねてみましょうかねぇ」


へー、こいつでも服装に気を使うことがあるんだな。それにしてもメインショット城か。もしかして昨日の襲撃者に関することでなにかわかったのか?確かあの敵、メインショット城がどうとか名乗ってたよな。


「なあ雑魚ベー」


「来るのはダメですっ!と、本来なら言いたいところですけど。今回は悟さんも来たほうがいいかもしれませんね」


「まだ何も言ってないのに決めつけるなっ!昨日の襲撃者のことについて聞きたかったんだよ!」


「まあまあ食事の後にしましょう。悟さんがトイレを占領している間に届きましたから」


「こんな早朝に配達とはサービスいいじゃん」


「前領主時代に早起きして少女の顔を拝むという法律がありましたから。多分、大人は日が昇る前にはみんな起きてるんじゃないですかねぇ。私には無縁の世界ですけど」


「そんなことで起きなきゃならなかったのか。この時間なら俺より早起きだろうによくやってられるなぁ。ま、いいや。さっさと飯食おうぜー」




ふー、朝食の団子は程よく甘くてうまかった。ただ朝飯にしてはやや重いかな。一串に六個団子が刺さってたし。


「それで昨日の襲撃者、センバンさんについてですが。今朝早朝に話を聞いて大体のことがわかりました」


「あいつ確か、メインショット城から来たんだったよな。途中から館を乗っ取ろうとしてたし、城からの刺客みたいな感じか?」


「ああいえ。彼の話を信じるなら……刺客ではなく使者みたいです」


「ええ!?でもあいつ天井壊して侵入してきたんだろ!あれが使者だって!?」


「まあ、どこの世界にもいるんですよ。悟さんみたいな、わ、ちょっと撃たないで!服、服借りてますからー!濡れちゃいますって!」


「コートなら貸してやるよ。城の人間にもコートの良さが広まるだろう?」


「やめてくださいって!やーめーてー!そう、セーナさん!悟さん昨日会いましたよねぇ?あの人みたいな人が世の中にはいるんですよぉっ!本当そっくり!」


ああー、あいつか。奴は俺に八つ当たり気味に因縁つけてきたことあるし、確かに天井壊しても気に留めなさそうな性格してるな。なんていうか自分のことしか考えてない感じ。


「で!その自称使者は何の用があってこの館に?」


「それがですねぇ。昨日の夕暮れごろにメインショット城の秘術、ワワの秘術が何者かによって持ち出されたみたいなんです」


「ワワの秘術を……持ち出した?えっと、マジックアイテム的な何かか、それ?」


「えーっとですねぇ。なんていえばいいんでしょう。んー……まず、この世界には特星のような多くの種類の魔法とか能力はないんですよ」


「あー、昨日聞いた気がするな。魔法の論文とかは多いんだっけ?」


「そうです。だから格式高い王室やその側近の家では魔法が神聖視されていたんです。貴重だから。それで、各家にはそれぞれ独自の秘術が伝わっていて、その秘術を継承した人がその家の後を継ぐという風習が今でもあるんですよ」


「へええ。いや?なに、じゃあメインショット城の秘術をゲットすればメインショット城がもらえるの?」


「まあ、そういうことですねぇ。後継者に引継がれるのは現役である王が退いた後でしょうけど」


「じゃあ俺も欲しい!絶対継承できるから試させろよ!」


「だからー!持ち出されたんですって!どっかの誰かが継承して姿を眩ませたんですよぉっ!跡継ぎ争いが起こらないように継承者の体内に秘術が移動するんです」


「じゃあ一人しか継承できないってことか。ちっ!俺が後継者になればいい国を作ってやれたっていうのに」


「秘術はそれぞれの領をよりよく導けるかの適性を判断するので、適性のある人間が継承範囲に触れれば強制的に継承されるんです。悟さんでも秘術が大丈夫と判断したなら大丈夫ってことですね」


「くーーーっ。あ、でもさ。それなら使者が来たのは俺が後継者と踏んでたからってことじゃん?どうせ本物が行方不明なんだから俺がもらうのはありなんじゃ?」


「やめたほうがいいですよぉ。関係者からすれば自分の将来の安泰が掛かってますからねぇ。秘術が選んでない人間に後を継がせることはまず嫌がると思います。本物の後継者かどうかのチェックは入念でしょうし、もし本物なら逃がさないようにしようって人も少なからずいるでしょうから。特にメインショットは……まあ、優秀な人にはちょっと軟禁気質で……秘術に選ばれるような人は仕事量が凄いらしいんで」


「それはちょっと嫌だな」


俺なら秘術に選ばれたことを理由に面倒ごとは全部放置するところだが……。そういうことができない生贄が秘術によって選ばれてるらしいな。どうやら無難な選択をする秘術のようだ。ふん、軟禁気質を強行突破する人間のよさが秘術にはわからないらしい。


「実は継承者が逃げ出す事例もこれが初めてではないんですよ。でも、メインショット城は今回のように対応が早いですからねぇ。犯人がよほど入念に準備していない限り、アリバイや目撃証言によってすぐに継承者は見つかると思いますよ」


「ふーん。ちなみにどうして俺があの自称使者に怪しまれてたんだ?夕方にはサイドショット領にいたはずだが」


「なんか昨日のお昼ごろの話らしいんですけど。メインショットの広場に特星からの乗り物が到着したと聞いて、乗客が犯人だと推定して、足取りを追ってここまできたそうです」


「それだけの理由でか!?ちょっとよそ者に対しての風当たり強すぎないか?そんな視野の狭さで本当に犯人見つけられるのかな」


「あはは。なんか同時刻に城に忍び込んだ三人組が全員継承者じゃなかったらしくて。悟さんもその一味だと思われてたみたいなんです。この世界にはない謎の言語を話していたらしいんですけど……、どこの人なんでしょうね?」


「謎の言語の三人組?……あっ」


そういえば昨日異次元で出会った男共って結局どうしたんだっけ?この世界に連れてきて、あとは恐らく自分たちで何とかして泊まれる場所を探して……あいつら、まさか城のほうに行ったんじゃ?い、いや、ボス役一人、子分役二人、新入りとやらも含めて合計四人組だったしきっと別人だろう!多分!


「ははは。侵入者なんて、物騒だな」


「ですよねぇ。なんでも半裸男二人組が大男を担ぎながら城内をうろついてたらしいですよ」


「って、やっぱりあのバカどもじゃねえか!」


「え?え?悟さん、まさか該当する知り合いがいるんですか?私には尋常な侵入方法には思えないんですけど」


「いねーよ!いないけど説明はできるからしてやるよ!城向かいながら!」


「はい?はい。えっと、レッツゴー?」




ふぅ、時間掛かった。だがようやくメインショットの広場まで戻ってきたぞ!見た感じ、昨日に比べて兵士がうようよしてるみたいだな。革製の鎧みたいなのがよく目に映る。


「雑魚ベー、あれってメインショットの兵士ってことでいいんだよな?」


「ええ。今は逃げ出した後継者探しのために駆り出されているんでしょう」


「一番力がある国だか領だかの兵があんな装備でいいのか?皮だろ?なんかすげー弱そう」


「私が子供の頃は金属装備でしたよ。でも私が特星に向かうときにはほとんど皮装備でしたねぇ。不老不死オーラを導入したくらいから金属装備は減っていった気がします」


不老不死でも気絶しないためには防御力は大事なんだけどな。とはいえ日常生活で鎧なんか着てられないか。この世界では腹痛や排便が当然のように蔓延してるし。


「さてと。バスには……兵士がやたらいるようだがバスジャック共の姿はないな」


「悟さんが昨日会ったという4人組。彼らの中に大メインショット郷国の跡継ぎがいるのでしょうか?」


「はん。そんな器には見えなかったぜ。そもそも言葉も通じないんだろ?」


「だとしても。その人間が領にとって都合よく動くのであれば、秘術は継承されるんですよ。そういう魔法なんです」


「都合よく……」


「言葉の綾です!言葉の綾ですよぉっ!」


迷信かと思ってたが、秘術に選ばれた人間が領よくするってのは本当にある効果っぽいな。雑魚ベーの反応からして。でも……そんな複雑な判別機能がついてる魔法があるのに、なんで普通の攻撃技みたいな魔法があんまりないんだろう。


「バスにあいつら居ないしさっさと城行くかぁ。ところで城の奴らは昨日の闇ローブみたいに魔法は扱うのか?あの真っ暗にする魔法、ちょっと苦手なんだけど」


「そういえばあの魔法について聞いてませんねぇ。太陽光を石化する魔法でしたっけ。んー、この世界の魔法ではないっぽいのでなんとも。センバンさんが地位やステータスを気にする人であれば、一般兵に使用法が出回ることはないと思いますが」


「じゃあ大丈夫だな。あいつには安易に権力に飛びつく気配があった」


「そうですか」




これがメインショット城!サイドショットの館とは違ってマジで貴族って感じだ!庭もさっきの噴水広場くらいの面積はありそう。ただ、敷地への入り口が広いし、門が高校にあるような門だからこれじゃあ誰でも侵入できるわな。ジャンプして乗り越えれそう。ってか、門番一人!


「貴方たちは?」


「どうも。私はサイドショット領からやってきました。次期領主のベータと申しますよぉっ」


「俺は次期当主の主人公、雷之 悟だ。こんな門で防衛できるのか?」


「ええ。今は非常事態なので門番も最低人数の一人ですが、普段は三人体制ですから。えっと、サイドショット領からのお越しですね。こちらへどうぞ……などと通すとでもお思いで?」


「なにっ?」


「ええっ!?」


この男、剣に手をかけた……けど剣を抜いたわけじゃない!く、動作遅そうだから不意打ちしたいなーっ!今日帰るつもりだからもうやっちゃうか?


「下手な嘘はやめることです。私がこの門に勤めて以来50年、一度たりともサイドショット領のご子息が訪れたことはありません。それにサイドショット領には、動物を愛するというレーガ氏と、ご息女の人間サイエンティスター・セーナ氏以外の人類は住んでいないはず」


「微妙に詳しい!そのセーナさんから私の話を聞いたことは!?」


「ありませんね。そもそもセーナ様は自分が次期当主だとおっしゃっていましたよ」


「まーたあの人はもう……。ほら、ずっと前に特星開通させた人いるじゃないですか。あれ私なんですよぉっ!」


「特星開通って……どれだけ昔の話だと思っているんですか。仮にその人がベータという名だとして、一介の門番である私に判断するのは無理ですね。さあ、早く帰ってください」


「そういえばサイドショット家に秘術とやらはないのか?あるならそれを見せれば」


「秘術?あんなものはただの噂にすぎませんよ。格式高い家で魔法が使われるのは確かですが、魔法が後継者を決めるなんてばかばかしい」


「え?」


「悟さん、ちょっとこっち向いてください」


おや、なんだなんだ門番に背を向けて。こっそりと話すようなことでもあるのか?


「あのですねぇ、一応隠してるから秘術なんです。秘術の魔法は論文が一般公開されてないんですよぉ。秘術のことは噂されることはあっても一般常識ではないんです」


「お前俺に話しまくってたじゃん」


「内輪だと普通に話すのでつい……。とにかく領主かその側近にしか秘術のことは通じないと思ってください。メインショットの事件も、兵士たちは重要人物が逃げたくらいのことしか知りません」


「わかったよ。じゃあ……水圧圧縮砲!」


[どかあああぁん!]


「ぐぅはああぁ!」


「な、なにやってんですか悟さん!?」


「安心しろ!顔面じゃなく腹部狙いだ!メインショット領主に秘術を見せればいいんだろう?……あれ。あの、雑魚ベー秘術使える?」


「つ、使えますけど」


なんだよ驚かせやがって!不安そうな顔で見るもんだからてっきり使えないものかと!それにサイドショット家はあの動物じじいが現領主だからな。秘術は一人に宿るって話だから、じじいにしか扱えない可能性もよく考えたらあったわけだ。


「ふぅ~、安心したぜ。二重の理由で安心した!お前が秘術をメインショット領主に見せればこの攻撃は許される!」


「もう一つの安心した理由は?」


「いやなに、お前がサイドショット領の次期領主だから安心したのさ。あの領はお前のようなやつにふさわしいと思うぜ」


「え?さ……悟さん!」


「館の次期当主は俺な」


「さ、悟さん……ちょっと嬉しかったのに。ほんの一瞬期待しました。心からの言葉じゃないかなぁ、と」


「さっき自己紹介で言ったろ」


「知りませんよ、緊張していたんですから。はあぁ、行きましょう」


なんか目に見えてがっかりされてしまった。いや別に嘘だなんて言ってないだろうに。本当に雑魚ベーがサイドショット領の領主でも別にいいし、本当に俺はあの館くらいはせめて欲しかっただけのこと。俺には領の人間なんか要らないから、サイドショット領主は俺より雑魚ベーのほうがふさわしいというわけだ。でもわざわざ慰めるのはやめておこう。




本当、城内の警備は手薄なんだな。兵士はまばらだし挨拶して道を聞いたら普通に教えてくれたぞ。領主、というか王様の居場所。……表の門番が倒れてるとも知らずに。


「さて、この寝室に王がいるわけだな」


「悟さん、くれぐれも失礼のないようにしてくださいよ。撃ったらダメですからね?」


「人を発砲魔みたいに言うなよ……。こほん!王様居るかー?主人公の雷之 悟ですけどー」


[がちゃ]


「「何者だ!?」」


部屋の中には、うわ、シンプルな部屋だ。ベッドと机と本棚しかない!中には寝転ぶじじいとお茶飲んでる兵士が二人いるだけだ。多分このじじいが王様か?普通のシャツ着てるけど。


「悟さーん!すごく頑張ってますけど水鉄砲構えて入らないで!」


「甘いな雑魚ベー。ここの使者は屋根ぶち破って入ってきたんだぞ。不意打ちへの備えは必要だ。ていうかあの寝転んで本読んでるじじいが王なのか?」


「騒がしいのお。いかにもわしが王じゃが、……お前さん等は何者だ?」


寝ころんだまま返事をするメインショット王。雑魚ベーのじいさんと比べると気品みたいなのはあんまりないな。別にいいけど。


「あ、お久しぶりですメインショット王。サイドショット領のベータ、ご挨拶に参りましたよぉっ!」


「ああ、サイドショットの……。なにっベータと!?おおっ、確かに!随分と久しぶりじゃないか、ベータ君!ああおい、二人ともちょっと席を外してくれ」


「「は、はい!」」


兵士二人は慌てて出ていく。廊下で待機とかじゃなくて階段下って行ったけどいいのか?……まあ武器はお茶だけみたいだったし戦力にはならなさそうだけど。


王は本を読むのをやめてどうやらまともに話す気になったみたいだな。


「本当にお久しぶりです。でもなんか、その……、メインショット王も随分と変わられましたねぇ。なんかファッションセンスが」


「それもこれも昔に特星開通したおかげじゃな。今やカジュアルの時代だからな。高級品は売り払って安くてお手頃なものを買いそろえたんじゃよ。……ところでそちらの少年は?」


「カジュアルな主人公だ!」


「私の友人の悟さんです。昨日センバンという使者がサイドショット家に来た際、一緒に襲われまして」


「襲われたじゃと?うむむ、やはり即席の人事では人選に問題があるようじゃな……。いやすまんかった。修理費はメインショット領から出すしレーガにも詫びておこう。ところでレーガは?」


「あのじじいなら後から来るらしいぜ。それはそうと、後継者決めで揉めてるんだって?」


「なぬ?お主たち、いったいどこでそれを?」


「それもセンバンさんから」


「うむぅ。今の人事担当にはしばらく仕事させないほうがよいな。書記官に全権限を移すか。……あ、城外の者には内密でな。騒ぎになると書記官のキャパを超えてしまうじゃろう……」


「噂通りの城だなぁ。だが安心しろよ。俺たちがこのメインショット城の仕事を減らしてやるぜ。兵士総動員で探してる継承者とやらを見つけてなっ!」


「なにっ?」


「大メインショット郷国が衰退してはサイドショット領にも悪影響が出ますよぉっ!私たちも後継者探しに尽力を尽くしましょう!」


「俺はお礼に高級品……は売ったらしいから、カジュアル価格なものを大量に譲ってもらえればそれでいいぜ」


「後継者が見つかるならお安い御用じゃ!では城の者たちに協力を伝えるから、休憩室で少し待っておってくれ」


「わかりました。悟さん、休憩室はこちらです」


「はいよ」




そろそろ城中に享禄要請が終わったころだろうな。にしても、さっすがカジュアル重視。こんな本格的な城なのに百貨店にありそうなソファーやテーブルだ。椅子なんか二昔は前の折りたたみ椅子だぞ!


「もうすぐかな。雑魚ベーは今回の事件どう思う?調査前の意気込みとかあるか?」


「意気込みはまあ、さっき王に言ったとおりですけど。……でも難しい事件になるんじゃないですかねぇ」


「ほう、聞き込み前なのに弱気じゃないか」


「さっき王が書記官の話をしていたでしょう?人事全権を容易く任される書記官……私には心当たりがあります」


「雑魚ベーに心当たりが?てことは昔の人間か」


「ええっ。メインショット城のパーフェクトカバーこと最上級書類書記官、タナレーラ ボンボンド。別名、記述師タナレーと呼ばれる人です!」


「なっ、なんかあんまり強くなさそうだぞ!」


肩書きがカバーに書類に記述って。インパクトがないというかサポート全般って感じがする。なんとなく頭よさそうな感じではあるが、そんな奴が逃げる候補者を倒せるのか?


「戦闘は……武勇は聞きませんし会ったこともないからなんとも。ただ、書記官としての腕や判断はとてつもなく優れていると聞きます。どれだけ字の下手な魔法論文も解読し、また書類情報だけで複数個所の盗賊の隠れ家をズバリ当ててしまうとか」


「すげー頭いいじゃん!」


「そうなんです。でもそんな優秀書記官がいるのに後継者は見つかっていません。書類情報が遅れているだけかもしれませんが、恐らくは」


「相当発見が難しいってことか。だけど……どんな事件でも解決できるのが主人公だぜ。その優秀書記官に格の違いを見せつけてやるよ!」


「ちなみにこの人、テーナさん捜索の件では、早々に異世界魔法説と異世界逃亡説を唱えていたはずですよぉっ!」


「早々にだって?む……ちょっとはできるようだな」


テーナの件は俺だって同じような答えにたどり着いてる。つまりその書類野郎は、主人公級の推理能力に加えて、特星民くらいの広い世界観を持っているということだ。……それもテーナ捜索でってことは何十年も昔に。ちっ、なんとも言えない不気味さを感じるぜ。


「失礼します!連絡係から、城中に聞き込みの件は伝えたとの伝言です!」


「ああ、城の兵士か。ご苦労さん。よし雑魚ベー、話を聞きにいくぞ」


「ええ。しかし誰に聞き込みするんですか?広いお城なので総当たりだと時間掛かりますよ」


「それがある程度なんとかなるのさ」




やってきたぜ書記官ルーム前!この部屋のあたりだけ扉が少ないところから考えて、結構な大部屋を与えられているようだな。


「書記管理室ですか。いいんですかねぇ?この城の数少ない無断進入禁止エリアですよ、ここ。今はどうだか知りませんけど」


「俺はそんな話聞いてないから大丈夫さ。それに書記官が一番怪しいんだよ。今回はそれなりに根拠もあるぜ」


「というと?」


「まず秘術の場所だな。一部の関係者しか秘術の存在を知らないってことは、どこの領の秘術も隠してあるか、厳重管理されてるってことだろう?」


「まあそうでしょうね。サイドショット領の秘術も隠し部屋にありましたから」


「秘術の存在自体が秘密ということは一般兵士が偶然発見できる場所にはない。そして秘術の存在自体も側近と関係者しか知らない。さらにはレア技だから特殊な仕掛けがあるかも。とにかく……秘術部屋への侵入はよほど難しいだろうぜ」


「メインショット城の広さだと隠し部屋候補も多いでしょうねぇ」


「だけど書記官なら城に関する書類も数多く見てることだろう。なんなら見取り図や暗号用紙を目にしてる可能性だってある。ほかの連中よりも発見の可能性は高いんじゃないか?」


書記官は人事を任されるほどだからまず側近の部類だろう。そして王の様子からしてかなりの仕事を押し付けてるようだったし、重要書類が紛れてたなんてことはありそうだな。


「すごい!悟さんの推理がこんなにもそれっぽいなんて!」


「ふっ。さらに秘術の効果。領をよりよくする人間を選ぶってことは有能な人間が選ばれるんだろ」


「それは……どうでしょう?確かにメインショット王は、書記官が来るまでは地獄のような働き者だったらしいですが。でも、サイドショット領の秘術は有能でもない私を選んでいますよぉっ!」


「お前のところは……、なんか、領とか効果対象が特殊すぎるからなぁ。それと王が働き者だったなら、やっぱなおさら書記官が選ばれる気がするぜ。ほかの関係者とか知らねーけど」


[がちゃ]


「私が継承者ということはあり得ませんよ」


「わっ、どうも」


「ん?あ。お前はっ!昨日会った……特星ナレーター!?」


「やはり来ましたね。悟さんに雑魚ベーさん。兵士から話を聞いたときにまさかとは思いましたが。……来てしまいましたか」


まさか地面でじたばた文句喚いてたこいつが、噂の優秀書記官だっていうのか!?こいつが、ボンボン記述師タナレー!


「すでに私の正体もご存じのようですね。二人のお察し通り。私は書記官、タナレーラ ボンボンド。メインショット城における書類全般を担当しています。まあ、優秀でも有能でもありませんけどね」


「もしかして、この人が悟さんが道中言っていたナレ君ですか?」


「その認識で合っていますよ、雑魚ベーさん。私は特星ランキング上位者である印納さんやアルテさんのように、相手の考えを読むことができます」


「気をつけろ雑魚ベー!こいつは変人レベルの実力者だ!今すでに、俺やお前の特星ランキングにはこいつの名が載っているかもしれない!」


「あ、いえ。私は正真正銘の非戦闘員なので載りませんよ。……多分」


「あれー、どこかで見たような気がするんですけど。声も聞き覚えが。テレビかなにかに出てませんでした?」


「こいつは俺をこっそりナレーションしたのが唯一の仕事らしい。だから多分その時居たんじゃないか?あるいは変人効果による幻覚か」


「そうなんですかね?」


「話を戻しましょう。私が秘術に選ばれた継承者……つまり犯人だということはあり得ません」


あ、そういえば今さっき言ってやがったな!だけど変人のこいつが容疑者になった時点で、あらゆるアリバイや無実の証拠があろうと変人パワーで説明がつく!言い逃れは不可能だ!


「ふむ。例に挙げたような変人ならどうとでもなる、二人共そうお考えのようですね。まずはその疑念を晴らしましょうか」


「うわ、本当に考えてることがわかるんですねぇ」


「うわっ、雑魚ベーと同じこと考えてた!」


「ちょっと悟さんー、気持ち悪いこと言わないでくださいよっ」


「いいですか、よく考えてみてください。もしも私が、先ほど例に挙げた方々のような力を持っていれば、この世界の秘術など何とでもできると思いますよ。こそこそ隠れる必要がありません」


それは確かに言えてる。変人クラスの実力者だと、秘術そのものを受け付けなかったり、後から無効化したり、はっきり言って何でもありだろう。そもそも、メインショットの奴らに追われて困るような軟弱者はいないと思う。


変人クラスが相手じゃないのなら、分裂や幻覚や意識操作でのアリバイ工作っぽいのは難しいか?別世界の魔法とかもあるから可能性はゼロじゃないが……そんなものを都合よく準備して、秘術継承して、バックレるなんて、目的があるとすればメインショットの混乱くらいじゃないか?別領から狙われてるのかな?


「悟さん。テロの可能性はあまりないと思いますよ。秘術は国をよりよく導けるものに継承されますからね。メインショットへの悪意や敵意があれば、まず秘術に選ばれることが難しくなります」


「おい記述師!本命じゃない予想をわざわざ口にするんじゃねえ!」


「雑魚ベーさんの不安はその通りです。秘術の継承を判断できるのは王と秘術鑑定士の二人だけ。そして王は秘術鑑定士以外は調べていません。実質、秘術鑑定士一人で継承者候補を探しているので、まあ、当てずっぽうで見つけるのは難しいですね。……秘術が他領と統一されていれば、秘術鑑定士の助っ人を呼ぶという手も使えるのですが」


おや、そんな状況なんだ。まあ秘術ってくらいだし知ってる奴がそもそも少なそうだからな。診断できるやつも多くはないってことだろう。


しかしあれだ。秘術の特性を考えると、継承した奴は故意犯じゃなさそうだな。わざと継承して逃げるようなやつは継承できないから。何らかの事情で継承しちゃって、でもメインショットを継ぐのは嫌だから逃げてるって感じか?仕事多いから。あるいは……狙って継承して、それを誰かに伝えたから誘拐されたか。


「悟さんの誘拐説は……どうでしょう。今のところ、秘術が盗まれてから行方不明になった側近や親族がいるという話は聞きませんが。少なくともメインショット城内では。各領については派遣した使者の報告待ちですね」


「悟さんはなんでそんな物騒な発想ばかりなんですか!?」


「いやだって貴族ってそういうイメージだし……。ていうか意外にちゃんと調査やってるんだな。で、本名タナレーラだったか?あんたは秘術鑑定士に調べてもらったのか?」


「……いいえ。ただ、先ほども言いましたが私には不可能なことです。なんせ私は、今朝この世界に到着してから秘術がないのを確認するまで、ずっと人目につくところにいたのですから」


「なにっ?いや、でもお前会ったときローブつけてたよな」


「ローブは昔に王から送られた特製品です!特殊な布繊維を使ったもので同じものは世界に二つとありません!」


「え、でもタナレーラさんは特星に居たのでしょう?特星でなら模造品をオーダーメイドすることができるんじゃないですかねぇ?それに特別な布繊維かどうかは一般人には判断がつきませんよぉっ!」


「一般人に模造品のローブを渡してアリバイ作り。こんな城で働いてるなら大金も簡単に出せるだろうぜ」


「う。……い、いえ。アリバイ作りはそもそも秘術を盗む前にしなければなりません!でも、アリバイ作りをしてから秘術の継承を狙っても、秘術の効果によって秘術の継承はできなくなります!アリバイを作って秘術持ち逃げなんてメインショット領に悪影響が出ますからから!よって、私がアリバイ作りをしてから秘術を継承するのは不可能です!」


「む、そうか。さっきそんな話出てたな。そうか、事故路線で行くとアリバイ作りなんかできねえのか」


「私は思ったことを言っただけで、特に全容については考えていませんよぉっ!私にはこういう複雑なのはさっぱりですからねぇ」


書記官のアリバイについては多分城の兵士が調べてるだろうし、こいつってわけじゃないのか。そもそもの話、悪意なくこっそり秘術継承して逃げるなんて真似ができるもんなのかな?秘密部屋を見つけて侵入するだけなら簡単……でもないし、継承して隠れるつもりだとアウトとか難易度高すぎだろ!


「もう掃除係がうっかり秘密部屋見つけて継承したとかでいいんじゃないか?」


「メインショット王は秘密部屋に入りそうな人間を真っ先に調べさせたとおっしゃってました。ああ見えて、ちゃんと仕事すれば優秀な人ですからね。対応は早いですよ」


でも人事を適当な奴に任せてミスってたあたり、不真面目なんだろうな。能力の高い書記官を捜索に参加させてないあたりやる気のなさが伺える。


「……はっ!ていうかなんで思考の読めるお前が探してないんだよ!?心読めるならお前が探せばすぐに解決できるじゃねーか!」


「あ!そういえばそうですよねぇ!書類仕事してる場合じゃありませんよぉっ!」


「いえ、私も捜索のほうが楽そっこほんこほん!捜索に私が出るべきと言ったんですけどね。王の去年分の書類仕事が溜まってまして、その、期限を過ぎると王自身が出向く羽目になるから、こちらを優先しろと」


「マジか!あの堕落じじい、よくそんな性格で秘術に選ばれたな!」


「秘術による選別は継承時の能力や性格を参照にしますからねぇ。私の父も、秘術に選ばれたときは立派なロリコンでしたよぉっ!」


「あ、やっぱりサイドショット領はそういう条件で選ばれるんですね……。領主の傾向からそんな気はしていましたが」


そういえばサイドショット領も秘術の内容は似たような感じだったっけ。秘術ってこの世界の数少ない魔法らしいし、根本の部分は使いまわしなのかもしれないな。少なくとも継承に関する部分だけ聞けばほとんど同じ魔法みたいに感じるが。……なんで秘術鑑定士とやらは流用できないんだろ?


「そうだ!よろしければメインショット王にお二人から頼んでいただけませんか?私が捜索に参加できるように」


「え?俺たちが?でも多分、言って聞くようなじじいじゃないんだろ?」


「はい。でもほら、そこは悟さんと雑魚ベーさんですから。ちょっと一試合という感じでどうにかなりませんか?」


「無理です無理!王相手に戦えるわけがありませんよぉっ!」


「俺はどっちでも。でもそんなに書類仕事が嫌なら特星にずっといればいいんじゃないか?なんでわざわざこんな城に帰ってるんだ?」


「これでも故郷なので。はぁ……私も毎年、この世界に戻る度に思うんですよ。広場で一日休んで、城には寄らずに帰ろうって。でも結局、いつもこの部屋で仕事を終わらせてから帰るんです。職業病ってやつですね。一日休むつもりが……大体一か月半くらいの徹夜作業になっているんです」


「控えめに言ってぶっ壊れてるんじゃないか?」


「うわぁ、タナレーラさんに比べたら私の故郷帰りなんて気楽なもんですねぇ。多分、帰らないほうがいいですよぉ。特星の不老不死オーラは精神面も整うっぽい感じですけど、大メインショット郷国の不老不死オーラにはそういう効果はありませんから。きっと、歯止めが効いてないんですよ」


「そうですよね。ええ、なるべく覚えておきます」


なんかお悩み相談みたいになってきたな。まあ、とりあえずはアリバイっぽいのがあるらしいから他行くとするか。本当かどうかは王に聞くしかないし。


「じゃあ俺らは犯人捜しで忙しいから他行くぜ」


「はい。……少し安心しました。悟さんが思ったより大人しくて。昨日、広場で遭遇した時はどうなることかと思いましたが」


「お、そこは私も同意見ですねぇ!大丈夫ですか悟さん?今朝の腹痛が尾を引いてませんか?」


「うるせー!敵が現れたら見てろよお前ら!主人公の実力を見せつけてやるからよ!」


「「やめてください!」」


ふんっ、本当は宿が必要だった昨日だけ戦闘を控えるつもりだったんだけどな。どうにも、気分の切り替えがうまくいかないみたいだ。これじゃあいかにも敵っぽい奴でもいなけりゃ調子が上がりそうにないぜ。……さっさと犯人見つけて倒さないとな!

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