十二話 雑魚ベーとテーナ ~サイドショット不老不死伝説
@悟視点@
いたぞっ、セーナだ!扉を開けては閉めを繰り返すこと8回、ようやくセーナの部屋を探し出すことができた!館のほとんどの個室を見て回ったが、母親らしきやつはみかけなかったな。まあ愛人とかいってあんな数の動物連れ込まれたら家出くらいするだろう。
「ていうか早く気づけよ!俺が来てやったぞ!」
「あん?ああ、あんたか。まだ生きてたのね」
「タンシュクに俺を暗殺させようとしたそうだが残念だったな。この世界には不老不死オーラが展開されている!」
「知ってる。ていうかうっさい!私は忙しいんだから出直しなさいよぉっ!」
セーナはベッドに寝転んだタンシュクの口の中に箸みたいなのでなにか……なんだあれ、蠢く金属……のようなものを慎重そうに突っ込んでる。呪いの儀式か?
「脳の脳力源置き場へ。古い分が余ったら廃棄場へ。……ふぅ~、ひと段落ね。さてとあんたかっ。お前よくここに顔を出せたものねぇ」
「ん?顔出しにくい理由でもあったか?」
「ふざけんなよーっ!帝国で!私のタンシュク強化に協力するはずだった磁力っ子を、あんな危ない城の主に預けやがって!1年間近く、帝国侵攻してはワープさせられての繰り返しだったのよぉっ!今月になってようやく協力してもらえたわ!」
「すげーな。なんか執念が」
でもアミュリーってたまに神社で見かけたからな。アミュリー神社に行けばそんな手間でもなかっただろ。タンシュクは闇の世界であったから、出入り口のあったアミュリー神社のことは知ってるはずだし。
「今すぐ1年の恨みを晴らすのもいいけど、タンシュクが壊れるといけないからねぇ。今は見逃してやるからとっとと消えるがいいわ!」
「あれ、不老不死オーラで壊れないんじゃないのか?」
「壊れるに決まってるでしょ!ロボットに不老不死なんてあるかっ!」
特星の不老不死オーラならロボットでも人間型なら壊れないはずだが。この世界のはプロトタイプの不老不死オーラらしいからそのあたりの効果が違うのかな。
「残念ながら退くわけにはいかないな!テーナってやつの情報を集めているんだ」
「テーナ?……ああ、そういや昔そんなやつが居たわね。つっても近寄り難いやつだったから話すことなんてなにもないわよ」
「テーナはサイドショット家に呪いを掛けて姿を消したそうだ。お前、実は行方を知っているんじゃないか?あるいは匿ってたりとか」
「私が知るわけないでしょ!それに匿うくらいなら大メインショット郷国に突き出して、いい待遇で城に居座ってやるわよ!なんせ城の奴らは不老不死を欲しがっていたからねぇ。当時ならテーナと引き換えにどんな要求でも通ったと思うわー!本当もったいない!」
「マジかよいいなぁ」
「でしょでしょー?でも現実は……テーナは一族に呪いを残して消えてしまった。人型ロボットと愛し合える私以外は、サイドショット一族のほぼ全員がおかしな趣味に目覚めたわ。この館の動物共を見たでしょう?かつては少女の館ともてはやされたここも、今ではこのありさま!」
自分のことを正常な方にカウントしているようだが、この一族に客観性という言葉はないのか?俺から見れば全員似たようなものに見えるぜ。
「そういえばテーナのやつはあんたらの性癖が変わることも想定してたのかな。下手すると雑魚ベーの性癖が変わってた可能性もあるんだよな」
「そんなもの想定できるかっ!とは言い切れないわね。なんだかんだで雑魚ベーが一人勝ちする結果になったし。きっと何もかもがテーナのやつの目論見通りに違いない!」
「そりゃあ永遠の愛とか言ってるから……雑魚ベーの一人勝ち?え、なんの話だ?」
「呪いの話よぉっ!テーナの呪いによって、雑魚ベーはサイドショット家の中でもずば抜けた功績を手に入れたわ!サイドショット家も私ではなく雑魚ベーが継ぐことになった。わかるかしら、私はテーナの動機の話をしているのよ!」
「跡継ぎ争いだって!?」
たしかにそういう展開も考えてはいたけど……。言っちゃ悪いが、こんな落ちぶれ動物園でやるようなことじゃないぜ。でもまあ、当時は金目のものがあったのかもしれないな。
「じじいの話では愛とかが動機だという話だったが」
「はっ!たしかにテーナはことあるごとに雑魚ベーを捕獲したがっていたわ。でもね。永遠に愛し合うには金品は必要不可欠!サイドショット領の跡継ぎの座を狙うのはごく当たり前のことよ!」
「あり得る話だな。よしなら聞いてやるからお前の知ってることを教えな」
「その態度は気に喰わないけど、タンシュクのクールダウン中だから特別に付き合ってやるわ!まずはサイドショット秘話第一話、テーナのやつの呪い編!」
「あ、そういうノリでいくのか」
「始まりはテーナが呪いを掛けた当日らしき日。私たち家族や館に来ていた親戚の枕元に手紙が置いてあったの」
「親戚がこの館にいたのか?」
「当時は女の子がいっぱいいたもの。親戚の来訪はそれなりに多かったし、入り浸るやつもいたほどよ。で、話を戻すわ。手紙にはサイドショット家の者全員に呪いを掛けたと書かれていたわ。その呪いには二つの効果が宿っていると」
「不老不死と、少女に発情すると消滅するってやつだな。……ちなみに二つの効果がある呪いって書かれてたのか?」
「ん?現に二つでしょ?」
「いや、二種類の呪いを掛けたとかじゃないのかなーって」
「そんな細かいことは覚えてないわよ。でも二つ掛けられたみたいな話はしてないと思うし。一呪い二効果じゃないのー?」
まあ今まで話を聞いてきた感じ間違いないんだろうが、どう考えても変だよな。一つの技でそこまで複雑な効果や条件を付けるなんて。魔法や呪術でそこまでできるかもイメージ的に怪しいし、普通なら不老不死と消滅は別の技を使うと思うんだけど。
「テーナに話を聞こうにもテーナはどこにもいなかったわ。そして手紙を読んだ親戚の一人が、みんなの前で愛人だった女の子の服の隙間を試しにのぞき込んで……消滅したのよ」
「まあその時点ではいたずらにしか思えないもんな。でも雑魚ベーの一族だしまだまだ被害はそんなもんじゃないだろ」
「そうなのよねぇ。その後すぐに父が少女への発情禁止令をサイドショット領全域に発令したわけだけど。サイドショット家の親戚は日に日に姿を消していったわ。目の前で消えていったと言う目撃者を残してね」
「一緒にいた側もたまったもんじゃないな。そんな心霊現象に近いものを目撃させられたんだから。そういえ幽霊として化けて出たりは?」
「は?幽霊なんているわけないじゃん?」
む、どうやらこの異世界では幽霊の存在が信じられていないみたいだな。特星や地球みたいに遭遇率が低くて信じない人が一定数いるみたいな感じかな。俺も地球では一度も見たことなくて、特星でようやく信じた側だからわかるぜ。
「さて続いて第二話よ!不老不死問題編!あんたが知りたがってた雑魚ベーの功績がいざ明らかに!」
「なら三話以降は聞かないぞ」
「さっき言ったように目撃者を残して親戚が消滅しまくるもんだから噂になっちゃってね。メインショットの奴らに呪いの内容が知られちゃったのよ。みんな少女には口が軽いし」
「それなら雑魚ベーから聞いたぜ。調査されたんだってな?」
「そう!サイドショット家では消滅する呪いが問題だったんだけど、メインショット城の奴らは不老不死の呪いに目を付けたわ。で、サイドショット家と協力して調査しよーって話になったわけ」
「おおっ。ドラマとかなら共同調査という名の拷問とかするところだな!何回くらい死んだ?」
「あっははは!そんな真似したら逆に不老不死の力で滅ぼしてやるわよぉっ!サイドショット領内外の聞き込みと探索をサイドショット家の人間同伴でさせられたのよ。私たちはテーナの顔がわかるからね」
「え?サイドショット家が不老不死を独占してるって噂が出たんだろ?」
雑魚ベーと話したときにそんなことを聞いたはずだ。悪いことって言ってたし、サイドショット家を疑って強制的に調べた感じじゃないのか?
「ああー、たぶん……調査前にメインショット城から不老不死の方法を提示しろって言われててねぇ。放置して関係悪化したみたいだから……その時の噂だわ、きっと」
「そうか、答えがテーナしかわからないもんな。それは確かに答えるだけ無駄ってもんだ」
「結局、調査で関係改善して、何も見つからずにまた悪化して。向こうもサイドショット家が少女を捨てるわけないことはわかってるでしょうけど。それでも調査後は使者があいさつに来たり向かわせたりみたいな社交辞令も減ってた気がするわ」
「情報集めたいのならむしろ増えるだろうが。もしかして諦めたのか」
「かもね。諦めムードは感じられたわ。……だけどそんな中、雑魚ベーがそんな諦めムードを完全解決できるやつを連れてきたっ!第二話ここまで!」
「なにぃ!?お、お前。第二話で雑魚ベーの功績も話すって」
「雑魚ベーが!解決できるやつを!連れてきたっ!そういえば三話以降聞かないとかさっき聞こえた気がするわねぇ!参考までに教えてやるわ……私は私の話に耳を貸さないやつが憎いっ!」
「めんどくせーな!わかったよ-。聞いてやるからさっさと話しな!」
「むふっ!第三話!あいつの功績編!雑魚ベーの連れてきたやつには名前があるけど忘れたわ。なんかやたら偉そうで見たこともない魔法を使う男よ!魔法生物みたいなのもいたわ!」
「異世界の住民ってわけか」
「そう。しかも特星のね。氷のペンギンや竜はこの世界にはいない」
特星からきただって!?しかも氷のペンギンと言えば、エクサバースト竜と一緒にいたあいつしかいない!神離…………東武っ!だった気がする!
「もしかしてそいつの名前は東武って名前じゃないか?」
「さっぱりね!雑魚ベーとその東武かもしれない男は不老不死の準備があると父に言ったわ!だから大メインショット郷国に行く手筈を整えろと」
「ちょっと待てちょっと待て!雑魚ベーが東武と知り合った経緯とか、そもそもなんでこんなところに特星から人が来てるんだ!?」
「私が知るか!とにかく二人はメインショット城に行ったのよぉっ!その同日にメインショット城からの二つの知らせが世界中に広められた。その時点で、この世界で人が死ぬことはなくなっていたわ」
「一つは不老不死ベールの話だな」
「ええ。雑魚ベーと東武の協力により不老不死がもたらされたという知らせ。それが一つ目。そして、特星と大メインショット郷国の行き来行われるようになるという、二つ目の知らせ」
「おお、その時に特星とこの世界の交通が開かれたわけか!」
でも東武が不老不死の石を持ってきて、それをこの世界で一番強そうなメインショット城に渡して、特星との交通が開かれたんだろ?特星側が黒幕のごとく得を……いやそうでもないか。こんな異世界まで来て喜ぶのは校長くらいのもんだ。東武ロリコン説ならまだありえなくもねーけど。
にしても、この世界ではプロトタイプの不老不死オーラの石が使われてるって雑魚ベーは言ってたよな。たしか、特星が完成したのは俺が中学生の頃で、移住可能になったのが高校の頃。もしその時期に東武がここに来たとなると、少なくとも何十年……場合によっては百年以上前の話だということになる。ひゅー、まるで雑魚ベーたちの過去が歴史の話みたいだ!特星が完成したずっと後のことって可能性もあるけどな!
「大規模な調査でも見つからなかった不老不死の方法を手に入れた!その結果、メインショットとサイドショットの関係が改善された!雑魚ベーのやつは……私を差し置いて、この館でもメインショット城でも顔が利く立場になったのよぉっ!」
「雑魚ベーが跡継ぎかぁー。いやでもあいつ特星に居たぞ。しかも海賊やってたし」
「それは父や母が獣好きに目覚めたり、母が幻獣や神話の獣を求めて別世界へ出てったりとかで色々あったのよ。三話と四話終わりっ」
「四話がタイトルコールもなしに!」
し、しかしあれだな。貴族は内輪もめで家族事情もごたごたしてるイメージはあったが、思ったよりも話が深刻っぽくて難しい!テーナを倒して呪いを解けば解決する……のか?
俺の家でいうところのコート信仰や主人公ラスボス関係。サイドショット家にもそういった家族の絆的なものがあるとすれば、恐らくそれはロリコン同士の絆ってところだろう。ただまあ呪いが解けたからといってロリコンに戻るかはわからないわけで。んー。……ああっ面倒だなーっ!こんなの勝負して勝者側の方針でいけばいい話じゃん!なんでそもそも当事者たちが戦闘する感じじゃないんだ!現状、サイドショット家は互いに道を違えて譲らない敵同士……決着が必要はずだろ!解呪だなんて遠回しなことしやがって!
いや落ち着け、俺のやるべきことはあくまで犯人撃破!絆や性癖なんてもはや当事者間の問題だし、この家の惨状に首を突っ込んだところで解決不可能!俺にできることといえば、犯人を捜して倒すか、跡継ぎ決行のときに俺が名乗り出ることくらいだ。
……でもテーナが倒せる場所にいねーとどうにも。
「ふーん…………んー」
「……なによ、黙ってどうした!?あ、もしかして話の続きを待ってる?すでに私の話は終わりを迎えたわよぉっ!」
「え、いや、あんたらの家族間のことで……すげーやばそうだなぁ、と」
「互いに愛人が本命だから夫婦仲はよかったわよ!それ以外はまあ危ないかもねぇ」
「そうみたいだな。雑魚ベーも父親のじいさん相手に怒鳴ってたし。あいつにしては珍しく他人に悪印象を持ってるようだったぜ」
「あら、私だって……私の愛を邪魔した上に跡継ぎにもなる雑魚ベー!跡継ぎ決めの秘術を雑魚ベーにも試させた父!私と同時期に同じく不老不死論文を提出して、私の論文を潰したテーナ!……なんかとりあえず母も!あいつらと仲がいいわけではないわ!」
「ああ、なんかやられたこと根に持ちそうだもんなお前。さっきの話も大昔の出来事のはずなのに結構詳しく覚えてたし」
「はん!あんたみたいなのとは頭の出来が違うのよっ!」
バカそうなこいつに言われても……いやでも自力でタンシュクみたいな人間と見分けのつかないロボを作るあたり頭はいいのかもしれないな。皮膚とか指紋とか……目や毛にすら不自然さを感じないもん。多分、本物の人間素材でロボットを作ってもあそこまで本物らしくならないと思う。
「なにタンシュクをじろじろ見てんのっ!さあもうタイムアップよ!今すぐ私に叩き出されるか、あんたが自主的に叩き出されるか、好きな退出法を選ぶがいいわ!」
「あー。相手をしてもいいんだが、今回はなるべく騒ぎを起こさない予定なんだ。そっちから来ないならここに用はないから帰るぜ」
危ない危ない。クールダウン中のタンシュクも加われば一対二で戦うことになるところだった!一年掛かったとはいえ、こいつらは再度帝国に侵入してアミュリーの協力を得たって話だ。それなりに戦闘慣れしてるだろうし、二人相手は分が悪い気がする。一対一の連戦ならどうってことはないんだがな。
「ならさっさと出ていきなさい!これからタンシュクにお目覚めのハグとお洋服選びをするのよ!私たちだけの密室領域に光粒子一粒でも侵入させるようなら消すっ!」
「昨日見たものに比べればマシそうだが、そんな面白みのない場にいる気はないなぁ。帰ろ」
「タンシュクー!アップデート終わりよー!」
さてとどうするか。一応、関係ありそうな話ではテーナの不老不死論文があるみたいだが。論文……難しい本とかで使われてそうなあれだよな。博士でもあるまいし俺に読めるわけない!なら、とりあえず雑魚ベーの部屋に行くとするか。もうやることがない。
「雑魚ベー、話はあらかた聞いて回ったぞー。って、鹿が部屋に!なにしてんだ?」
「悟さん!いえね、この鹿がケガしたまま廊下を歩いていたので手当をしていたんですよ。ほら、足のあたり。水飲みの時にどいかで擦ったみたいですねぇ」
「あ、ちょっと包帯が赤い。って、血が出てるだと!?おい不老不死オーラはどうした!」
「ああ、特星では動物にも効果あるんでしたっけ。ここの不老不死オーラは人型のもの以外には効果が出ないんですよ。だから動物はケガをしますし死んじゃうので注意が必要なんです」
「あー、そういえばプロトタイプだったな、ここの不老不死オーラ。そんな弊害があるのか」
「ええ。ですが逆に特星とは違って、動物や魚をすぐに調理したりもできますよ」
なるほど、特星だと勇者社に一旦預けて調理できるように加工してもらう必要があるからな。不老不死でも勇者社いらずの生活ができるってわけか。
「はい終わり。もうケガしないように気を付けるんですよー」
「ケガするならこの洋館での生活は大変そうだな。ここ、二階だろ」
「だから動物たちは外にある緩やかな坂道から入るんですけど、時間掛かるみたいですねぇ」
この館は天井高いからなぁ。さっき下の階にある部屋も見て回ったけど、俺の部屋の倍くらいの高さがある天井だったぜ。
「それで呪いは解けそうですかねぇ?」
「ああ、それなら手段はテーナを倒すことだけだ!だけどテーナはこの世界にいないんだろ?」
「ほぼ確実に居ないと思いますよぉっ!私、少女の中でもテーナさんの気配は嫌というほどよくわかるんですけど、まったくその気配はありません」
「この世ににいるかどうかは?」
「そういう分類はちょっと。でもまあサイドショット領内には間違いなくいないでしょうねぇ。この星にも、うん、やっぱりいそうにないかと」
確か雑魚ベーは、アミュリー神社に居ながら帝国や瞑宰京の女子小学生の気配をおおまかに探れるほど察知範囲は広いはず。わかりやすい相手で気配がないなら多分本当にいないんだろう。……ていうかワープ装置がない世界だから星内のすげー遠くにいてもむしろ困る。
「それと!雑魚ベーお前、テーナの目的について知ってたな!なんでもお前との永遠の愛とやらを望んでたそうじゃないかっ!」
「うう。いやその、本心かどうかはテーナさんがいないからわかりませんよ。ほら、言いふらしてただけかもしれないでしょう?」
「ふ、残念だったな。俺の妹の希求も似たような状態だから俺にはわかる。あれは本気だ!ヒロインになったつもりで本気で恋に恋してるのさ!」
「いーえ!たとえ恋に恋するような好意であったとしても!私にテーナさんの愛が向いてるなんて、そんなの絶対嫌ですよぉっ!私、少女の中でもあの人だけはどうしても苦手なんです!」
「別にテーナはもういないんだからさー。過去に好意が向いてたとしても別にいいじゃん。もしもテーナがお前に好意を向けてなかったら、俺が誤情報をつかまされたことになるんだぞ!それに嫌だったら話は単純だ。いざ遭遇した時にとりあえず倒しちまえばいいだろう?」
「もおぉ、いい加減にしてくださいよぉっ!家で暴れるのは構いませんけどねぇ、強引についてきたんですからちょっとは家族に配慮してくださいよぉっ!」
「おいおい!俺はお前の家族から聞いたことを伝えてるんだぜ。それもロボットや動物を傷つけずに穏便に聞き出してるんだ。手緩いとかならともかく、やりすぎ扱いされる筋合いはないっ!」
「うむぐっ」
そもそも今日は暴れてないんだけどな。館で戦闘したら寝床がなくなるかもしれないし。でもまあ明日には帰るつもりだから朝の運動がてら戦闘するのは悪くないかもしれない。なんか……うきうき旅行気分がまったく発散されてないんだよなぁ。思い出作りに一戦くらい派手な戦闘をしてから帰りたいところ。
「テーナの目的が雑魚ベーなら話は早い。一族を巻き込んでまで不老不死を実現させたようなやつだ。お前を攫いに来る可能性は十分ある」
「私狙いなこと前提なんですかぁ……?」
「当たり前だろ、証言者二人の有力情報だぞ。それともなんだ、お前の前ではそういう素振りはなかったのか?」
「いえまあ、その節はところどころ……感じられましたけど。あ!でももし本当に私狙いならとっくに攫われてるんじゃないですかねぇ。あれから何十年と時は経ってますよぉっ!」
「あー。でもお前って家を出て特星に来てたんだろ?行先を家族にちゃんと伝えてから移住したのか?お前が特星にいることをテーナが知ってたならあり得るだろうが」
「家出なんで伝えてないですねぇ。でもテーナさんの呪いから家出までの何年かはこの館で過ごしていました!テーナさんにその気があればその期間に連れられていたはずです!」
「その辺はどうだろうな。ただ、異世界同士をつなぐのには莫大なエネルギーが必要だと専門家のドラゴンが言ってたからな。テーナが一族に呪いを掛けた後、確認か何かのために呪いの仕入れ先の異世界に戻り、運悪くここと異世界をつなぐ出入り口が閉じてしまった……とかはあるかもよ」
「今、こんなにも簡単に特星と大メインショット郷国を行き来できるのに?」
「テーナがいなくなったのは特星開通の数年前だろ。当時、そもそも異世界に行く手段をテーナ以外が持ってたのか?」
「論文くらいはあったかもしれませんが、実行できる人はいないでしょうねぇ。はぁ、あの時代に本当にテーナさんが異世界に……いえ、これは私が一番よくわかっていますね」
「俺は女子小学生オーラなんて珍妙なもの感じ取れないからな。まあ、命と引き換えに不老不死の呪いをまいたか、不老不死の呪いをまいて異世界に移動したかのどっちかだろうな。聞いた話からして。……ちなみに女子小学生オーラは幽霊からも感じ取れるのか?」
「ええ。記紀弥さんとか神酒さんも持ってますよ。タンシュクさんや擬人化モンスターの皆さんも持ってますし、見た目女子小学生なら……あ、でも天利さんだけは例外的に極端に少ないですね」
「あれは中身が年喰ってるからなぁ。とりあえず死亡後幽霊の可能性はなくなったわけだ。やっぱりテーナは異世界にいる可能性が高いし、進展なしだな」
「もうこの話は終わりにしましょう。異世界説が濃厚になっただけでも私的には進展ありですからねぇ。解決策は気長に考えますよ」
「そうしろそうしろ。でももう一度言うが、テーナが呪いを掛けてから異世界に戻った可能性は十分あるからな。その場合、テーナはお前が特星にいたことなんて知らないし、この世界で隠居してるかもしれないお前を探し続けているってことも十分にあり得る」
「今もってことですか?」
「もしかすればの話だ。運が良ければ、テーナが故郷帰りしてるお前をついに見つけるわけだ」
不老不死に異世界移動。どっちも特星では実現されてることだが、人を集めて特殊能力を活用してようやく実現できるってレベルだ。それをテーナってやつは特殊能力なしに一人でやってのけてる。一族や目標である雑魚ベーを消滅の危機にさらしてまで目的達成を狙ってるんだ。テーナが雑魚ベーを見つけて放っておくわけがない。
「もしそうなれば、無事に感動の再開というわけにはいかない気がしますねぇ。私としては普通に喜び合いたんですけど」
「そう。テーナはお前が嫌がってた展開に持っていこうとするはずだ。だけどな雑魚ベー!もしそうなればそれはチャンスだ!手がかりのなかったテーナが向こうからやってくるんだ!テーナを追い払うのも呪いを解くのも方法は一つ!倒すだけでいい!」
「で、でもそう簡単にいきますかねぇ。そもそも数十年という時間が経ってるんです。偶々故郷帰りしてるだけの私を見つけますかね?」
「まあ難しいかもしれないな。そもそも異世界で生き延びれてるかもわからない。だが、少なくともこの世界に今はいないわけだろう?もしテーナが生きていてお前を探しているなら魔法か何かを使ってるはずだ。魔法で探すならとりあえず出現率の高い自宅は調べると思うぜ。万が一お前を諦めてたら、それはそれでお前の嫌がる展開は発生しない。呪いは解けないけど不安の半分は解消されるだろ」
「物凄いポジティブな考えますねぇ!でも言われてみればそんな気もしてきます。都合がいいのになんて心強い考え方なんでしょう」
「最初から言ってるじゃないか。遭遇した敵はとりあえず倒せばいいんだよ。なんでこんな小難しいことを織り交ぜたらわかってくれたのかさっぱりだ」
「家族が敵って考えがまずしたくないんですよ。わかりませんかねぇ。たとえば悟さんだって妹さんを殴るなんて気分が悪いでしょう?」
「日常生活だったらそりゃ悪いけどさー。家族をいたぶる趣味はないし。でも戦闘として成り立ってるなら気にせずに顔面狙いで撃つけどなぁ。そのときは家族というよりは敵だから。お前だって敵の女子小学生を蹴り踏もうとしてるじゃん」
「それはそうですうけど。家族や女子小学生相手だと戦闘後にちょっと罪悪感とか湧いてきません?少し時間を空けたくらいに」
「うーん、追撃しすぎたりするとちょっと申し訳なく思う。でも家族だからやりにくいってことはまったくないな。むしろ気分的には盛り上がることのほうが多いぜ」
「悟さんの家族観はどうなってるんですか……」
「主人公とサブヒロイン、主人公とラスボス、主人公とボス幹部、コート神と……んー、ツッコミ役とボケ役」
「いやいやいや。マジであなたの価値観どうなってるんですか。なにをどうやったらそんな頭おかしなものの見方ができるんですか!?」
「ふふん、主人公でないお前には一生かかっても理解できないだろうさ」
「最後のは黒悟さんですか?」
「ああ。まあ……あいつと希求はあんまり面識ないけどな。なんならお前の人生についてのほうがよっぽど詳しく語れるくらいだ。今日一日で、語れるほど聞かされたからっ」
「いや本当に感謝していますから。悟さんの推理を参考にして今日はテーナさんに備えますよぉ。悟さんは部屋に戻ってゆっくりお休みください。夕食は届き次第お持ちしますから」
「ああ。ていうか出前なんだな。お前が作ればいいのに」
「すみませんねぇ。コンロはあるんですがセーナさんが部品を使ったのか動かなくて」
「あいつめぇ」
この世界の店で作ってる料理かぁ。こんなファンタジーの実物みたいな世界で作る料理がうまいんだろうか?同じ食材でも味覚の誓い雑魚ベーが作るほうがよかったんだけどな。ま、旅行の醍醐味だと思って現地の味を試してやるか。口に合うといいんだが。
うん。おいしい。串焼き肉に串焼き魚に串焼きおにぎり、あとはトマトや木の実を串に刺した野菜と、なんでもかんでも串刺しなのが気になるが味は普通にうまい。特別絶品ってわけでもないけど基本焼き料理だからハズレがないのがいいな。おにぎり食えるのが一番ありがたい。できれば焼きおにぎりは塩より醤油で焼いてほしかったけど。
「ふー、最悪まずかったら動物か雑魚ベーに奢ってやろうと思ったが必要なかったな」
さてと。飯も食ったしちょっと前に昼寝もしてるから暇だな。外は月が隠れてるのかないのか暗めだ。とはいえ街には明かりが結構あるから出歩けるけど。……よくみたら外の家には結構電気通ってるんだな。外装の割には生活水準高いのかも。そういえばこの館も電灯に電子コンロがある……ってか自立ロボいるんだった。
「暇だし雑魚ベーとカードゲームでもするか。まずは雑魚ベーにカードゲームを買わせるための戦略を立てて」
[っががああぁん!]
「うお!?な、なんだ今の音!」
はっ!まさかテーナが本当に襲撃してきやがったっていうのか!可能性としてはあり得る話だったが、正直あまり来てほしくなかった!不老不死オーラを上回る不老不死と消滅の呪術を扱う相手だ。弱いわけがない!
「とはいえ雑魚ベーの弱さじゃ瞬殺されて一生弄ばれること間違いない。仕方ないな。次期館の当主として、住人である雑魚ベーも一応守ってやるとしよう」
「これで館内の子は全員揃ったかね!ではみんな避難路に急ぎなさい!私がしんがりを務める!」
あ、動物じじいが館の動物を避難させてる。階段を下りるときに穴が開いてる天井が見えたし、どうやらテーナは空から侵入してきたようだ。
「あ、悟さん!どうしたんですかこれは!」
「ああ、雑魚ベー。テーナに備えてるのに遅かったじゃないか」
「あ、いや、ちょっとお腹が。それよりあの天井の穴。やはりテーナさんなんでしょうか」
「だろうな。もう館内に侵入してると思うが」
「ほう、怪しい輩が二人も紛れ込んでいるようだ!」
[どかぁ!]
「ぐわぁ!」
「雑魚ベー!?水圧圧縮砲!」
[どがあぁんっ!]
「うぐおぅっ!ぐっ、き、貴様ぁ。不意打ちとは……やってくれる!」
ちっ、やっぱり水圧圧縮砲が普段の空気圧圧縮砲くらいの威力しか出ないな。って、あれ。こいつ男じゃないか。それも二十歳くらいの。もしかしてテーナじゃないのか?
「不意打ちしたのはお前だろ!お前はテーナ、ってわけじゃないよな?名を名乗れ!」
「はぁはぁっ、く、よかろう。私はセンバン!メインショット城に仕える太陽の魔術師だ!空気が悪い館も人が過ごせる程度に換気されただろう?しかし獣臭いな」
「太陽の魔術師ってお前、天井の穴から星一つしか見えない空を見てみろよ」
赤ニット帽と赤ローブはそれなりにコンセプトにはあってると思うけど、活動時間考えろよな。……こいつの持ってる赤いガラス付きの杖はちょっとほしい。レア武器かもしれない。
「いたた。う!さ、悟さーん!ちょっとお腹の具合が悪いんで離脱しますよぉっ!」
「あ、おい」
雑魚ベーが洗面所のほうへ行ってしまった。そういえばさっきも腹の具合が悪いとか言ってたな。もしかしてプロトタイプ不老不死オーラは腹痛とか自然治療しないのか?それはちょっと厄介。
「ふ、はははっ。実は胃の裏あたりを狙って攻撃していたのだ!どうする、早くも一人脱落だぞ。おとなしく捕まったほうがいいんじゃないか?」
「はん!あんな貧弱野郎と一緒にするなよ!俺はこの館の次期当主である雷之 悟!サイドショット家の最期を看取るものだ!」
「なにぃ!?サイドショット家ではない人間がこの館を継ぐというのか!?そんなバカな話があるか!サイドショット領はどうなる!」
「くれるならもらうけど。でも人はいらないんだよな」
「アホ!そんなもの世間が認めるはずが……いやだが、今のサイドショット家の惨状ならもしや?」
後継者決めるときに乗っかって全員倒すつもりだから世間も何もないんだけどな。でも結構現状いけそうな感じみたいだ。こいつの反応からすれば。
「ふふふ、いいことを聞いたぞ。サイドショット領といえば、大メインショット郷国に次ぐ勢力を持った大御所。技術面では常に最先端と聞く。貴様のようなアホに継がせるくらいなら私がいただく!」
「どうやらただの侵略者みたいだな。いいぜ、どうせもう天井に穴空いてるんだ。俺の館で暴れたことを公開させてやる!」
「我がセンバン領候補地に貴様のようなアホは要らぬ!即刻排除して牢にぶち込んでやる!サンセットブラスト!」
「な!?水圧ぐぅ!」
な、なんだ!?一瞬目の前が真っ暗になったかと思えば、この赤い石が俺の体に。さっきの暗転中は全く何も見えなかった!
「くそ!この俺に視力の状態異常を決めやがって!」
「こんな暗闇に動揺するようじゃ全然大したことはないな!サンセットブラスト!」
「ぐ、電圧圧縮砲!いてて!」
ぐ、なるほど。電気の魔法弾の明かりで見えたが、俺が撃った時点ですでに移動してたようだ。どうやら暗転と同時に回避してるらしい。
「無駄だ。私の太陽魔術は太陽光を石化させて発射する魔法術。応用で太陽光以外を利用すれば、最大変換量こそ落ちるものの光を完全吸収することができる」
「へえ、それは残念だ。できれば俺の持ってる太陽光を光線化する銃と対決させたかったが。充電切れなんだ!空気圧圧縮砲!」
「うおおっ!サンセットブラスト!」
「おっと!水圧分裂砲!」
[どかっ!どかっ!]
「いてて!おのれぇ!サンセット」
「空気圧圧縮砲!」
[どかああぁん!]
「ぐぅああぁー!」
よし、直撃だ!技の数が少ないから対処は簡単だったな。太陽石アタックは数発発射されてるみたいだが、密集してて範囲が狭いから暗転と同時に回避でよけれる。敵に攻撃するときは暗転解除のタイミングで攻撃すれば普通に避けるしかなくなる。威力重視で日が昇ってるときに来るべきだったな。
「そういえば結局何しに来たんだ?館乗っ取りに来たのか?」
「…………」
「ああ、気絶してる。どうせ明日帰るから別にいいや。おーい!敵倒したから雑魚ベーかじいさんきやがれー!」
と、天井に穴があるからついつい空に向かって叫んじまった。とりあえず目的がわからないしこのレアそうな杖はいったん俺が預かっておこう。異次元倉庫はまだいいか。俺の使ってる部屋においておけるからな。
「ダメージ受けてちょっと疲れたし部屋で休むか。部屋の上に穴が開かなくてよかった」
眠れそうならこのまま寝てしまおう。こんな倒しただけの知らないやつについて聞かれたって俺も困るし。でも天井に穴開けてまで何しに来たんだろう。