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変な星でツッコミ生活!?  作者: 神離人
本編:変な人たちの出会い その二
44/85

十一話 雑魚ベーの一族 ~名家サイドショットの悲劇

@悟視点@


雑魚ベーの案内でようやく洋館に入れたのはいいんだが、この館、やべー。なんかすげーもわっとしてて獣臭い。そりゃそうだ、だって館の中にはシカやらヤギやら狐やら犬やら……数は少ないが馬とかラクダもいるぞ!あ、変な生き物。


「悟さん、体調が悪そうですが大丈夫ですか?」


「大丈夫なわけあるか!動物園かよここはっ!?なんでそんなに広くないのにこんなに動物がいるんだ!ってか、まさかライオンとかはいねーだろうな!?」


「父上がちょっと……あ、でも猫派ではないようなのでライオンはいませんよぉっ!」


「く、館の主はまだ来ねーのか?このままじゃ鼻がおかしくなりそうだ」


「さっきタンシュクさんが呼びに向かったところですしもう少し待ってください」


「特星だとモンスターも動物も無臭が多いのによぉ~っ!」


「あー……それは多分不老不死ベールの石が違うからでしょうねぇ。なんでもこの世界のはプロトタイプの改良品だとかなんとか」


くそぉ、もういっそのこと動物たちぶっ飛ばして追い出してやろうか!つーかせめて動物用の小屋でも作ってやれよぉ!


「……よし慣れてきた。それで?ご主人様呼びされてたセーナがこの館の主ってことでいいのか?」


「まさか!あの人は私の姉ですけど私と同じく里帰りしてるだけですよぉっ!館は父上が取り仕切っていましてねぇ。これでも昔は女の子らしい女の子がいっぱいいたのですが……家族が皆狂ってしまいこんなありさまに」


「ああ、あいつが雑魚ベーの姉だったのか。名前似てねーからわからなかったよ」


「ええ?あ、いや、たぶんそれは本名じゃ」


「おお、帰ったか息子よ!とおっ!」


「ん?上か?って、うおっ!」


[すたっ]


上から声が聞こえたと思ったらじじいが降ってきやがった!う、しかも臭いがっ、この館の獣臭を増幅されたような臭いがこのじじいから漂ってきやがる!見た目はいかにも貴族らしくて、無双とかよりも上品そうで紳士っぽいのに!ひげとかきれいな曲線でどうみても整えてるのに!


「く、ようやく鼻が慣れてきたと思ったらこれか!」


「おや?なんだ客人を連れてきたのか?もしかしてかの星の者かね?」


「そうですよぉっ!この方は雷之 悟さん!昨日話題に出たよく事件に首突っ込んでる人です!」


「ああ、君が噂の。わしの名はレーガ・サイドショット。ベータの父で、大メインショット郷国の郷官としてサイドショット領をまとめさせていただいている。お見知りおきあれ」


「どーも。それよりじいさん風呂入ったほうがいいぜ。館全体も相当だけど、あんたは獣臭すぎて鼻が参りそうなんだ」


「ふっふっふ、わかるかね。しかしそんなことは無駄なのだ。わしはこう見えても1日3回風呂に入るが、愛人たち何匹かと触れ合うだけですぐに香りが移ってしまうのでな」


「父上!」


「愛人たち……何匹か?」


ど、どっちだ?もしも愛人が女子小学生でペット扱いされてるとかなら話は簡単だ。雨双の頼み通りに目の前のじじいをぶっ飛ばせばいいだけのこと。


だけど動物だらけのこの館。雑魚ベーの一族ともなれば館中の動物が愛人とかでもおかしくはない。もしそうなら、俺は人間と恋愛関係にある動物たちに囲まれて一夜を過ごすことになってしまう!相手は見境ない動物……物珍しさついでに襲われるかもしれない。


「おや丁度いいところに。おーいデアよ、こちらへおいで。あ、そっちじゃない」


[ひひぃーん!]


「やっぱり!その馬が愛人だっていうんだろう、じいさん!」


「ほお、よくわかったな。紹介しよう!わしの愛人の一匹であるデアちゃんだ。ほらよしよし。んうぅ、ぶちゅうぅ~っ」


「はぇ!!?」


な、うお、あのじじい!いきなり馬とキスをしやがっただと!?う……や、やばいっ。やっべえ、なんて絵面なんだ!じじいの顔がみるみる馬の涎でべっちょべちょぐちょに!まるで酸で顔を溶かされたゾンビのような絵面っ!マジで涎で顔がゆがんでいるかのようだ!


く、なんで俺にはこんな光景が見えているんだ!?おかしい!俺の視力ならただ単に涎まみれの貴族野郎が映るだけのはずなのに、こんな見え方!ゾンビのように錯覚するなんて……。まさかこれが恐怖補正!俺自身が恐怖によって混乱し、パーフェクト視力をも上回る幻覚を俺に見せつけているというのか!俺が、馬とじじいなんかに恐怖を……!


「ああもう、業が深いんですからっ、もお」


「業以前にキスが深い!こんのくそじじい、馬の口に入り込みそうな深いディープキスをっ!絵面が……っ!ううっ」


「ああっ、悟さん大丈夫ですか!?ちょっと父上ぇ!客人の前で何てことしてるんですか!悟さんが今にもぶっ倒れそうなほどふらふらになってるじゃないですかぁ!あなたねぇ、それでも少女を愛するサイドショット一族の長ですか!私は情けなく思いますよぉっ!」


「ん?ぷはぁっ!ふふ、安心するがいいベータよ。今いるわしの愛人たちはみーんなメスだけだよ。というのも、オスや両性具有種だと大メインショット郷国への報告書に注意喚起シールが必要で」


「そーいうことじゃないんです!」


「ああぁ、両性とかファンタジィだなぁ」


「……とりあえず私は悟さんを部屋に運んでおきますから。父上は本当、事と場所を考えてくださいよぉっ!」


「公衆の面前でキスをするのは特星経由で伝わった文化なのだがなぁ。さてはて?」




「うぅん……、ん?…………はっ!」


見覚えのない天井だと思ったら、そうだ!雑魚ベーの家に来てたんだった!確か貴族じじいが見せつけるかのようにディープキスをしやがって。その後精神ダメージを負った俺は、雑魚ベーに部屋まで案内されてそのまま寝ちまったんだ。


「あ、悟さん!ようやくお目覚めのようですねぇ!」


「ああ、雑魚ベーいたのか。って、まさかお前ずっと看病してたの!?」


「そうですよ。本当は私もさっさと自室に行こうと思ってたんですけどねぇ。実はタンシュクさんが姉の命令でこの部屋にやってきましてね」


「ああ、あのロボット女か」


「目的を聞いたら悟さんをぼこぼこに半暗殺しにきたというので。とりあえず説得して帰ってもらって、悟さんが起きるまで部屋を見張ってることにしたんですよぉっ!」


「それはありがたいな。おかげでぐっすり眠れたわけだ。何時間ぐらい寝てた?」


「んー、まあ本も結構読み進んでますから3時間くらいですかねぇ」


ああ、よく見ると雑魚ベーのやつが本を持ってるな。なになに、魔法と呪いに関する本?ふへぇ、人型ロボがいて魔法や呪術もあるんだな、この世界。


「…………」


「…………」


な、なんかちょっと気まずいな。雑魚ベーの奴は一体何を思って黙ってるんだろう?俺の家の地球基準で考えると、甘利のラスボス趣味や皇神のコート信仰が知られた感じ?それとも希求の恋に恋する感じが悪化して俺と行為に至ってしまい、それを見られる感じ?……どっちもこんなに気まずくはならんな、雑魚ベー相手だし。もし仮に俺が馬とキスして目撃されてたとしても雑魚ベー倒せば済むし。


「雑魚ベーお前……そういえばさっきの話からしてベータってのが本名らしいな」


「ああ、ええ。その様子だと悟さんは父との会話で気づいたようですが……。ちゃんと最初に出会ったときに名乗ってますからね、私」


「別に気づいたのは今だぜ。ってことはやっぱりあのキス魔じじいがお前の親父さんなわけか」


「そうですけど。キス魔って、気にするところそっちなんですか?」


「ああー?お前ぇ、俺がせっかく馬相手のところは気遣いでスルーしてやったのに無下にしたなっ!なら単刀直入に言うけど、なんだあのじじいは!夢見てないけどきっと今の夢に出たぞ!ゾンビより怖い老ゾンビが!」


「ぞ、ゾンビぃ?……あのとにかく本当に申し訳ないです。正直、父が馬を呼んだ時点でああなる気はしたんですよ。でも悟さんなら、ぶっ飛ばしはするだろうけど大丈夫かなーとか思ってたんです。すみません。まさかあなたが精神ダメージを受けるような人だとは」


ああ、なるほど。雑魚ベーなりに勝算があってのことだったってわけか。まあ確かに、俺がじじいと馬のディープキスごときに動じるかといえばそんなことはない。……ただ、今は異世界にいるわけだし、カルチャーショックという形で旅行を満喫しなければならなかった。俺の旅行本能が俺の足をふらつかせたにすぎないっ!


「安心しろ雑魚ベー。俺は歴戦と百戦錬磨の主人公!特星の危ない連中相手におかしい橋を何度もわたってきてるんだ。それに比べたら動物がなんだ!変態がなんだ!そんなの俺の遭遇した変人どもには何歩も及ばないなっ!性癖なんかじゃ分裂はできないし星も割れないぜ!」


「ええっ。どうしてショックを受ける前より元気そうになってるんですか。さっきまでふらふらだったのに、なぜそこまで自信と確信めいた顔ができるんです?」


「さてなんでかな。ただ一つ直感で……。雑魚ベーが雑魚雑魚しいとすっごい強気になれるな!助ける側と助けられる側の差をはっきりと感じる!せっかくだ、俺が困りごとの一つ位は何とかしてやろうじゃないか」


「何とかって……まさか解決するつもりですか?この家、サイドショット家の呪われた悲劇を打ち破ると?」


サイドショット家の呪われた悲劇?あれ、じじいの性癖以外にもなんか困ってることがあるのか?まあ貴族一家だしそりゃそうか!きっと政略だとか策略を張り巡らせた陰謀めいたものが渦巻いているに違いないっ!


「解決するかはともかく話ぐらいは聞いてやるさ。言わなきゃ撃って話させるまで!さあどうする?主人公である俺に解決を託して話すか!それとも悲劇とやらを暴きたい俺に倒されて話すか!選びな!」


「いえ別に戦うつもりはないので話しますけど」


「じゃあ聞いてやろう。当然主人公としてな!スパイごっこはもう終わりだ!」


「わざわざ特星からやってきてそんなことしていたんですか?ではそうですねぇ。手始めにサイドショット家について簡単に話しましょうかね」


雑魚ベーのいう悲劇なんて全くあてにはならないが、それなりに深刻そうなムードで話しているんだ。これで大した話じゃなかったらぶっ倒してやる!




「サイドショット家は昔から名門貴族として民から慕われていた家柄で、一族代々少女を愛してやまない家系でした」


「少女を愛してやまない……手を出していたなっ!」


「ええ勿論!そしてそれは私の父の代、つまり現在の代までは何の問題もなく続いていたのです」


冗談で言ったのになんの誤魔化しもせず、むしろ自信ありげに認めやがった!これは後で雨双の抹殺リストに載せるやつを探す羽目になりそうだ!……内容次第では討伐リストくらいはマジで作りかねないな。


「だけどお前の父が獣に恋するじじいになっちまったと」


「そうなんですけど、それにはちょっとした経緯がありましてねぇ。……私が今と同じく20歳で、サイドショット家のこの館に住んでいたころ。悲劇の引き金が引かれたのです」


「引く準備はできたぜ」


「室内なので撃たないでくださいね、水鉄砲」


「引けばこの部屋がびしょびしょになるという悲劇の引き金だっ!あ、続けていいぞ」


「こほん。えーと。……悲劇の引き金が引かれましたよぉっ!そして、引いたのは私の妹!妹の名はテーナ サイドショットといいます」


妹までいるのか!館についたときにロボ狂いセーナが姉と言ってたから、雑魚ベーは真ん中だということになるな。


「てかお前、当時も今も20歳だろ?じゃあ悲劇の引き金を引いた妹ってのは」


「テーナさんは当時10歳です。今はもしかしたら違うかもしれませんが」


「ほう?」


「テーナさんは10歳にして魔法や呪術の才能がありました。そんなテーナさんはある日、どこのものともわからない魔法だか呪術だかによってサイドショット一族にある呪いをかけたのですよぉっ!」


「へえ、調べてもわからなかったのか?呪いだってことはわかってるんだろ?」


「呪いだと知ったのは特星に移住してから、しかも割と最近です。あ、当然調査はしていましたよ。メインショットの方々にも協力してもらって世界中を調べたようですが。この世界にそんな魔法や呪術は存在しないという結論に至りました」


「え、存在するかどうかはわかるのか?」


「ええ、なんせ種類が少なすぎて……。この世界の魔法などは、貴族の基礎学問みたいな扱いなので構造はわかっているんですよねぇ。論文とかもありますし」


なんかあまり融通の利くものではなさそうな感じだな。テーナの才能というやつも学問的な才能のことなのかもな。


「話を戻すぜ。その呪いでサイドショット一族はどうなったんだ?」


「呪いには二つの効果がありました。まず一つ目は不老不死となる効果。ほら、私がエクサバーストとかで消滅しても復活するでしょう?あれ、実は妹の呪いなんです」


「プラス効果じゃねーか!しかも特星の不老不死ベールよりも効果が高い不老不死だろっ!?おめー恩恵にあずかっておきながら何が悲劇だ!」


「いやいや、悪いこともあったんですよぉっ!なんせ、サイドショット一族が不老不死の秘術を独占しているんじゃないかというあらぬ噂が立ちましたし!さっき言った、大メインショット郷国からの調査とかもサイドショット領が一番長期間調べられたんですから!私も山のような報告書を書かされました……」


「ふん、調査リテラシーがなってないな。敵や情報源を倒せば犯人にたどり着くというのに!」


「特星外でも通用するんですかね、それ」


しかし同じ不老不死といっても色々あるんだな。身近なものでも効果はまちまちだし。ボケ役が昔、夢の力で体を作って俺を生き返らせたらしいが、それは自動的ではない不死……というか蘇生。コート神の体は信仰でできてるから不老。不老不死ベールはもちろん不老不死。


……俺も結構な種類の不老不死を体験してるな。ふ、地球にいたころじゃ考えられない話だぜ。当時の地球での現実的な手段だと、幽霊として不老不死人生を送るくらいしかないだろうし。特に隕石落下前は。


「まあ一つ目は不老不死とそれほど悪くはない効果なわけだ。なら当然悲劇の原因は呪いの二つ目の効果にあるってことだろ?一つめの効果が悲劇だとか抜かすのなら撃つ」


「と、当然二つ目が本命ですよぉっ!呪いのもう一つの効果。それは少女……小さな女の子たちに発情すると体が消滅してしまい、復活もできないというものです!」


「思ったより大したことない……ん?」


「どうしました?」


「いや……それってお前がたまに興奮して蒸発しちまうあの隠し芸みたいなやつだろ?お前毎回復活してるじゃん」


「ああいえ、それはまた別の現象です。呪いによる消滅は悟さんに見せたことないというか……そもそも二つ目の呪いの効果は一度たりとも発動したことありません。いいですか。私は呪いに掛かって以降、一度たりとも少女たちに発情したことがないんですよぉっ!」


「嘘つけ!絶対嘘だ!今までの呪いや不老不死は信じられるが、お前が女子小学生に発情したことないなんて絶対ありえない!」


「いや本当ですって!何を根拠にそんなことを!」


「普段の言動!行動!お前が小さい女の子供に発情欲情してない時があるかも怪しいもんだぜ。それを一度もないだなんてどこの誰が聞いても大ぼらでしかないねっ」


「やめてくださいよ……私だって気にしてるんですよっ。一族の中で私だけ小さな女の子と交わることができず、少女を求め続けて、でも消滅は嫌だから発情しない修行までして。……結局少女たちには手を出せず、かといって女の子が大好きだから家族のように他の道を探すこともできない」


思ったんだが、こいつって常識というか世界観がちょっとおかしいところがあるよな。雑魚ベー的には手出しするほうが善行みたいな感じでいいんだろうか?


「私には慈愛という形で少女たちを愛するしかなかった!」


「いやもうわかったからいいよ。お前は発情してないんだな、うん。……あ、でも一族の中でお前だけ手出しなしってことはないだろ。お前の妹とか10歳だったわけだし」


「もっと小さいときに他貴族のお子さんと色々あったそうです」


「やっぱり貴族宅ってのは頭おかしいのしかいねーな。もしかしてサイドショット家の風習に嫌気がさして一族を呪ったんじゃないのか?」


「理由は…………どうなんでしょうね。今では知りようのないことなので。呪いをかけた後、テーナさんは行方知れずになってしまいましたし」


「あー、逃げられたんだ。まあ別世界の魔法か呪術を使ってたなら移動手段はあるだろうからな。じゃあ次会ったら倒して聞いてみようぜ!」


「んー、テーナさんが不老不死の環境下にいればそれもできそうですが。もしも自分に呪いをかけず、不老でもなかった場合は生きてはいないと思うんですよねぇ。年齢的に」


ああ、寿命で死ぬなんてパターンもあるのか。……呪いってのはどうなるんだろう?呪いをかけた本人が死んだ後も効果が残り続けるものなのか?もしそうなら解呪できる手段が消失してる可能性も……。呪いは別世界のものである可能性が高いし。時間経過で呪いの出所で解呪技術が消失してるかも。


「なるほどなー。テーナの呪いで女の子に手を出せなくなった。その結果、あのじじいは動物を愛人にし始めて、セーナってやつは手を出すための相手としてロボットを作ってるのか」


「はい。でも信じてください!みんな本当は可愛い少女たちが大好きだったはずなんです!呪いさえなければっ、一族みんながロリコンとしての道を歩んでいました!それだけは確信していますっ!」


「だろーな。雑魚ベーの一族だし」


「悟さん……っ!」


なんでこの会話の流れで友情を感じたような顔して俺の手を握れるんだろう?まあ俺としてはどうでもいいが、こいつらにとっては悲劇みたいなもんだったのかもな。


「って、離せ!ったく。で、俺にその呪いをどうにかしろとでもいうのか?」


「言い出したのは悟さんですけど。どうにかできそうですかね?」


「えーーー、一応聞くけど、解呪法はこの世界にないんだろ?」


「それは間違いないですねぇ。何かの条件で解呪できるタイプの呪いという可能性もありますが。お祈りでもしてみます?」


前の正者財宝探しでわかったことだが、過去の人物を探し出すっていうのはかなり難しいんだよなぁ。しかも今回は目的のものがこの世界内にはないことが確定してるわけだし。各異世界を巡るとなるときつすぎる!


「さすがに捜査範囲が広すぎて見込みはないな!諦めなっ」


「偶然解除もですか?」


「エクサバーストでも復活するからな……。それだけ強い効果だと正攻法しか受け付けない気がする。ま、とりあえず話だけでも聞きまわってみるか。まずはあのじじいに話を聞きに行くぜ!」


「あ、ちょっと待ってくださいよぉっ!もしかしたら今、自室で動物たちとお楽しみ中かもしれません!私が先に行って様子を」


「はんっ、裸だっていうならむしろ好都合!服もなしに水浴びできるか試してやるよっ!」




「じいさんいるかー?邪魔するぜー」


「おや、君はさっきの」


あれ、じじいのやつ普通に椅子で本読んでるな。せっかく照れ隠しに水圧圧縮砲でも撃ってやろうかと思ったのに、攻撃する口実がなくなってしまった。ていうか廊下にもこの部屋にも動物いねーけどどこに行ったんだ?


「雑魚ベーから動物の相手してるかもって聞いたんだけど、動物いないのか?」


「ははは。あと2時間早ければ交尾をお見せできたのだがね。ふむ……彼女たちはまだ水浴び場だろう。それほど会いたいというならわしが案内しようか?」


「いや別に動物たちに会いに来たわけじゃないんだ。呪いの」


「まあそれがよかろう。君のような若者が彼女たちの濡れた姿を見ては発情してしまうからな!寝取られては敵わん!ははは」


「それより呪いについて話してもらおうかっ!」


「およ。テーナの呪いのことか。あれについてはテーナ本人にしかわからんと思うが。なにが知りたい?」


「解呪法……は知らないよな。じゃあ呪いが何かをもたらしたりしたか?テーナってやつが呪いで大儲けしたとか」


「解呪法はわからん。呪いがもたらしたものか……そうだな。やはり少女以外を愛する道が開けたことだろう」


「呪いの効果がピンポイントでサイドショット家の風習狙いだからな。そりゃそうか」


「ああ。ベータと犠牲者を除く全ての身内が新しい道を切り開いたからな。不満を言うものもいるがわしはこれでよかったと思っておる」


「え、犠牲者出たの?」


「あたりまえさ。犠牲者が出なけりゃ誰がテーナの呪いだなんて信じるものか。事情を知らなかった親戚の者たちが結構な数消失しておるよ」


「身内が消失してんのによくこれでよかっただなんて言えるな、あんた」


「あの呪いがなければ、わしはきっと過ちを犯し続けていたからな。幼女であろうが大人であろうが人はどこまで行っても人でしかない。同じ種族に恋することなど近親相姦のようなものだ、とな」


「悔い改める姿勢だけは評価するよ。真似する気にはなれないけど」


でもこれは呪いを掛けた動機としてはあり得るかもしれないな。話の感じからして、テーナはあらかじめ自分の家族には呪いのことを伝えていた。でも親戚には伝えてない。家族以外の誰かを殺害するために呪いを……でもそれだと不老不死の効果は必要ないよな。普通に刺したほうが早そうだし。


って、いかんいかん!今回の目的はあくまで解呪法探しだ!犯人の目的を阻止することじゃない!あ、でも呪いについての情報はもっとほしいかも。


「んー。その呪いで消滅した……いや不老不死になった奴でもいいんだけど。その呪いに掛かった親戚はサイドショットって名字があるやつだけか?」


「いや。名字が違う親戚も被害にあったよ。メインショット家の少女に呼ばれた者などは、名字がメインショットだったが消滅したはずだ。大騒ぎだったよ」


「少女に呼ばれてるってあたり掌握されてるなぁ」


「言っておくが他の領だと相手など選べぬぞ。サイドショット領は昔から格式高くメインショットの方々との付き合いも深いことから条件を付けることが許されているのだ」


「へー。ちなみに婚約相手とかへの呪いの影響は?」


「あったな。相手方も消失している場合は夫婦共にというのが多い。形式上結婚だけして、愛人の少女に一緒に手を出していたのだろう。よくある話だ」


ふーむ、家名を対象に呪いが掛かっているわけでもなく、血の濃さとかDNAとかが条件でもなさそうだな。


ま、家名はともかく血による発動はなくて当然か。エクサバーストで血一つ残さず消滅した雑魚ベーでも不老不死の効果で復活したし。やっぱ物理的な部位に掛かってる呪いってわけじゃない。魂とか精神とか、いかにも魔法らしいタイプの呪いだろう。……うむむ、専門家でもないのに呪いの専門家のようだ!


「とはいえどういう呪いなのかもわかんねー。一般人が小さな女の子に手を出して消滅したとかは?不老不死でもいいけど」


「当時サイドショット家以外から不老不死が見つかったという話は聞かぬな。少女に手を出した一般人もよく捕まってるから消滅しているようには思えん」


「だよな。メインショット側でも被害出てるもんなー。土地依存な呪いでもなし」


もし本当に魂とかに作用する呪いだったらどうすりゃいいんだ。よくわからん呪いをよくわからんものに掛けたら解決のしようがないじゃねーか!土地とかなら呪いの中心地域である館でも壊せば何とかなりそうなのにっ。


「わっかんねー。もういいや……部屋に戻って休もう。じゃーなじいさん」


「呪いを解きたいのであれば、解呪法じゃなくてテーナを追ってはどうかね?」


「いや、過去の人間を追うのは無理があるぜ。しかも犯人が消えたのは相当昔だろ」


「そうだな。でも動機は明らかなのだから解呪法を追うよりは可能性あると思うのだがな」


「ん?じいさん、テーナの動機を知ってるのか?」


確かさっき、雑魚ベーはテーナ本人がいないから知りようがないとか言ってたはずだが。もしかして雑魚ベーとテーナの仲が悪くてあいつだけ知らされてないとかか?


「なんだ、ベータから聞かなかったのかね?テーナはな、ベータと愛し合うために魔法の学問をあそこまで極めたのだぞ」


「な、なにー!?そいつって雑魚ベーの妹なんだろっ?」


「そういう立場だからか意気は凄まじかったね。あとテーナには永遠に子供でいたいという不老不死への執着があった。口癖のように、兄や少女たちと永遠に幸せに暮らすんだと言っていたよ」


「でも実際は姿を消したんだよな。まあどの道、おまけ付きの呪われた不老不死じゃ長続きしなかっただろうな。妹に発情して死ぬなんていう無様な最期を迎えてただろうぜ!くくくくっ」


そうなんだよなー。不老不死と消滅の効果がどうにもかみ合ってないんだよな。呪いの対象を生かしたいのか殺したいのかわからん。怯えながら生き続けろっていうつもりなんだろうか。


……異世界の魔法なら代償もありえそうか。でもなーっ。不老不死の代償があんなアホみたいな条件で消滅だなんて思いたくないんだよなっ!まだそれなら、一族を皆殺しにすることで不老不死を完全にしようとしてるってほうがピンとくる!悪役らしさが出ているし!でも雑魚ベーに消滅する呪いを掛ける意味が。


「ダメだ!不老不死と消滅の呪いを同時に掛ける意味もわからないし、永遠に一緒に過ごしたい相手の前から姿をくらます理由もわからん!なにより、この情報でどうやって敵を探せばいいんだ!」


「そういうときは犯人の立場になって考えるのだ。推理小説ではそうやって解決している」


「むむ。俺が同時に呪いを掛けるならその理由は……好きなだけ盾として使った後、復讐されないように消すため!好きな相手の前からいなくなる……そいつに不意打ちするためなら、好きな相手だろうが視覚外に出る!」


な、なるほど!信じられないくらいしっくりくる!不自然な部分も多々あるけど、そんなものが問題ないように思えるくらい納得できる!こんな答えに共感できる自分がちょっと信じられないぜ。


「テーナってやつはなんて恐ろしい極悪人なんだっ。俺は主人公だからやむなくそういうことが必要になることもあるだろう。だが、10歳の女の子がそんな恐ろしいことを!」


「私の娘を悪者呼ばわりするのかね?確かに隠滅も不意打ちもやりかねない節はあるが、10歳なりの理由があってのことだろう。怖いから守ってーからの、もういいや隠しちゃえー、とか。驚かしちゃえー、とか」


「ようやく犯人像が見えてきたな。ていうかなんでこんなに犯人の情報が少ないんだ?……あ、そうだ、解呪法を探すなんて遠回りなことしてたからっ。じじい!テーナについて知ってることを教えてもらおうか!」


「何か用事ができたようだな。テーナについてはわしよりもベータかセーナに聞くといい。当時のわしは愛人の少女が多すぎて、あまり詳しく話し込む余裕はなかったのだ」


やっぱり昔はロリコンだったのか。んー、どうしよ。雑魚ベーかセーナねぇ。雑魚ベーはなんかテーナのことを隠してたっぽいし、セーナのやつに話を聞くかー。厄介そうな相手だけど。

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