六話 正者の宝が潜むところ
@悟視点@
昨日は特星を危機から救ったわけだが。……そうなのか?どうだろう。とにかく、俺はこの帝国の地で戦い抜き、知的勝利を収めた。そしてアルテに寮に返された。……そのせいで、今日は早朝から船に揺られて海の波を見つめる半日だ!
「だがようやく俺は帝国に降り立った!もう昼だけど。今日こそは正者の隠し財産を見つけてやるぜーっ!」
とはいえどうしたものか。アルテは昨日の様子だと機嫌悪そうな感じだし。……ていうか、どうしてまた帝国に来たんだ俺。今の帝国は小さい女の子だらけ。この帝国にいるアルテ以外のどの女子から、正者について聞きだせるっていうんだ……!?く、失念していた!船に乗っていた体感八十時間くらいの間、無心で海を見つめるのに夢中で気づかなかったっ!いかに到着までの時間を潰すかしか考えてなかった!
「…………正者?それはもしや、正安さんのお兄さんのことですか?」
「……え?あ、お前は記紀弥!どうしてここに」
「……どうもこんにちは悟さん。実は同じ船に乗船していたのですが、その、珍しく集中しているようだったので。ちょっと話しかけ辛くて。……船から下りたし、そろそろかなぁと思って」
「え。あ、ああそう。俺の八十時間は……遠回りだったのか」
「………………はい?えっと。私がここにいるのはアルテさんに呼ばれたからです。願いを……あ、いえ。悟さんはどうしてここに?」
願いを叶えるためにやってきた、ね。はあぁ。アルテが9999ぅ~……京セル出してくれたらこんな手間取ることもないんだが。……だけど、数百兆の手がかりなら今掴んだっ!
「そうっ。記紀弥はさっき正者についてなんか言ってたよな?俺は正者の手がかりを探してるんだ。……校長の兄とやらがそいつらしくてな。校長から頼まれてるんだ!知ってることを教えてくれ!」
「…………ははぁ~。そのお礼に正者さんという方の隠し財産をいただく約束なのですね」
「う。鋭いな。た、頼むよ、記紀弥ー。お礼に百万セルくらいあげるからさ」
「……いえ、お金には困っていませんので。ただで教えますよ。しかしあれですね。……悟さんならもっと、情報聞きだすついでに口封じのため倒してやるぜ!とか、言ってもいいと思いますけど。最近、調子悪いんですか?」
「お前は、一体どういう目で俺を見てるんだ……」
それじゃあまるで通り魔か危険人物じゃないか。まさか、そういう人物としてみられてるから、通り魔扱いされているんだろうか。ダークヒーロー系主人公だと思われてるってことか……?
「…………言葉通りの目で見ています。もう少し、こう、無理を通す感じでいいんですよ。……他人に遠慮しすぎていては輝く光も失せてしまいます。どの道戦うのですから押すべきところは押さないと」
「そうかぁ?話が通じるかどうか確認したほうがいいんじゃ?」
「……ほら。そこだって、言われるまでもないからさっさと情報よこしな、といいながら一発撃つところなのに。……ふぅ、わかりました。正者さんについて教えるのはやめておきましょう」
「はっ!?お、おい待て!なんでこの流れでそうなるんだよっ!」
「…………ふふふ、怒った真似をしたって無駄です。今の悟さんなんかちっとも怖くありません。なんの厄介さもなければ格好よくもないですっ。そして。……ここまで言われて、なお、私を無理やり襲えないような主人公なら!それはもう敵に舐められても仕方ないというものですよ!」
「なんだと。はんっ!上等だ記紀弥!幽霊状態で来なかったことを後悔するんだな!寺までぶっ飛ばしてやるからよっ!水圧圧縮砲!」
「…………たあっ!」
[ぴしぃっ!]
「な、なに!?」
記紀弥が水の魔法弾を素手で受け流した!?軌道を変えたってのか!しかも今の音。記紀弥のやや遅れた掛け声で聞き逃しそうだったが、……多分、威力負けしてる気がする。あいつの拳は水圧圧縮砲と同程度以上の力を持っている!
「ば、バカな。まさかお前まで超パワーアップの、戦闘力インフレの闇に飲まれたのか!?」
「………………なにか勘違いしているようですね。悟さんは私と戦う機会があまりなかったから知らないのかもしれませんが、……私、元々これくらい強いんです」
「ぐっ……。そうかよ!だけどそれはお互い様だっ!空気圧分裂砲!」
「…………防御の結界。……悟さんを軽く見ているわけではありませんが、宿のチェックインの都合上、今回は一歩も動かずに戦っています。私を一歩でも動かすことができたなら負けを認めましょう!無論、寺どころか少しも吹っ飛ぶつもりはありませんけどね」
「なら俺の勝利条件はお前を吹っ飛ばすことだ!電圧圧縮砲!」
「……無駄です。この結界は水鉄砲で威力強化した水圧圧縮砲をも防ぎます。電気の魔法弾など」
[ばしゅううぅ!]
「…………相手にはなりません」
「ちっ!魔法弾が効かないなら直接ぶっ壊すしかないか」
「……岩をも砕く水圧圧縮砲。悟さんの体術でその威力が果たして出せるでしょうか?」
う。……確かに俺の近接攻撃はすべて水圧圧縮砲ほどの威力はない。針を通すようにわずかな相手の隙を突いたり、フェイントに使って魔法弾で決めたり、連打で気絶まで持っていったり、基本的に単体の威力は魔法弾に劣る。記紀弥の全方位結界をぶち破るのは難しいだろう、が!
「だけど接近戦で結界を壊すと俺が言ったからには、接近戦がベストなんだよっ!いくぜ!」
「…………いいでしょう。私に見せてください。防御結界を越える、悟さんの新必殺技を!」
[ばしぃっ!ぎぎ……]
記紀弥の結界を両手で挟んで力を加えてみたが、……ヒビ一つ入らなねぇ!だが、これでもう俺の必殺技から逃れることができない!
「……勝負ありましたね。これで勝負は私の」
「お前の負けは決まった!主人公ぅ~……ダァーイスっ!っりゃっ!」
「……え?わっ、あ、わっ!」
[がんっががっ、ざぼぉん]
思いっきり結界を転がして、記紀弥入りの結界を海へと落としてやった!ふ、見事に二転三転したな!ここが船から下りたばかりの船着場でなければできない芸当だ!
記紀弥は……あ、結界ごと浮かんできた。
「…………なるほど。壊すというのはブラフでしたか。私の敗北条件を上手く突かれてしまいました」
「ついでにいうと投げたときに結界は数センチ浮いていた!つまりっ!ちゃんと数センチぶっ飛ばしてるし、文句なしで俺の勝利条件も満たしたってわけだ!」
「……むー。戦闘中に話術に乗ったのは私のミスですけど。なんか、釈然としません。……あ、それはそうと、あの、波に流されてるので助けていただけませんか」
「え、記紀弥泳げるだろ?結界解けばいいじゃん」
「…………代えの服がなくて。お城で下さると聞いていたから、持ってきていなくて……。ああ、悟さんが遠くなっていく。お願いし……す、悟さ……」
そうこうしている内にどんどんと流されていってるな、記紀弥。ええー、でもうすぐ帰りの船が出る時間だぞ。今を逃したら、次の船がくるまで帝国で数時間暇を潰さなきゃならない……。
「ふっふっふ、悪いな記紀弥。お前の持ってる情報だし、正者の情報は寺にあるってことだ。情報出し渋ったことを反省することだな」
「…………」
「ふむ。大丈夫大丈夫、瞑宰京の方角に流れてる。……………………………………………あー。もーっ!記紀弥のわがままドジ野郎めっ!」
[ざっばーん!]
結局、記紀弥を救い出してしまった。……帝国の魔の手から、なんとか海へと記紀弥を連れ逃げることに成功したんだっ!あたり一面に敵の気配は全くない!どうしようもない!……人が流されたからってむやみに飛び込むもんじゃないってことか。地球でもそんな話を聞いた気がする。
とりあえず、記紀弥入り結界を浮き輪代わりに、流れ旅をせざるをえないようだ。帝国も大陸も見えるけど、すっげー遠い。ま、行くなら大陸だ!海水の流れなのか帝国方向に泳いでも遠ざかってたからな!
「…………あの。結界、張りなおしましょうか?悟さんも中で休んだほうが。海水は少し入りますけど」
「よ、よせ!浮き輪がないと本当に泳ぐことになるぞ!」
「………………本当にすみません。服など気にせずに早々に結界を解いていればこんなことには」
「それは気にすることじゃないなぁ。記紀弥の服は和服よりで水を吸収しやすい。防水コートの俺でさえここまで流されたんだから厳しかっただろうさ」
それによくよく考えればあれだ。正者の話を聞くにはあまりにも時間がなさ過ぎた。きっとどのみち、さっきの船を見送って、次の船を待ってた気がする。
「で、正者についてなにを知ってるんだ?」
「…………どこから話しましょうか。……そうですね。では、肝心そうな話から。私が見たわけではないのですが、最近、正者さんと正安さんのことを愚痴る幽霊がよく神社にきているそうです」
「正者と校長のことを?なら人違いってことはなさそうだな!だけど幽霊なのか」
「……はい。寺の幽霊仲間、……というかサボってたキールがみたので間違いないと思います。大人の男性で、そのときは白い服をきていたそうです」
「ああ、キールね。あのサボり幽霊は相変わらずだな」
白い服の幽霊ねぇ。白装束着てる霊とかだったらなんか呪ってそうでやだなー。だけどこの情報は大きい!そもそも正者自身の行方不明になった年齢の問題で、正者について愚痴れるほど知ってるやつがそれほどいないはずだ。
正者と校長を愚痴れる奴は情報量が多い奴しかいない!例えば、子供の頃に正者や校長と知り合いだったとか。異世界で正者と知り合い、特星で校長と知り合ったとか!特星に正者がいて、特星で両方と知り合ったとかっ!
地球のニュースで知ってただけの可能性もあるが、特星にきてから正者について愚痴るのは不自然な気がする。
「たしかにいい話だ。次は神社に向かってみるか。……あ、それで、肝心じゃないほうの話は?」
「…………逆徳政令エイプリルというのを知っていますか?」
「ああ、地球で正者の起こした事件だろ。日本国家を半壊させた」
「……くすん。もう私に話せることはありません……」
「そ、そう。……ていうか記紀弥もその事件知ってるってるんだな。天利とも知り合いだったようだし、もしかしてお前って……」
「…………お察しのとおりです。わたくし、毬 記紀弥は、あなたの母親である天利と同年代。……正者さんの大事件は私たちが五歳の頃に起こった事件なんです」
「天利と同年代だって?ってことは子供の頃の俺と会ってるのか?」
「……いえ。私は大学入学前……飛び級で十歳で中学卒業したあたりで死んでしまって、幽霊の状態で大学講義巡りの旅に出ていましたから」
高校が飛んでる……。正者の影響で日本が大変だったとはいえ、すげー学歴だな。十歳で大学に入るつもりだったのか?
「その年齢で幽霊かぁ。正者の大事件から五年なんだろー。その時期じゃあ正者の影響で自殺した霊でさぞ溢れかえっていただろうな」
「…………確かに正者さんの件で自殺した霊とはお会いしましたけど。溢れかえってはいませんでしたね。むしろ私を見て、他に霊がいるなんて思わなかったという人も多かったですし」
「え、そうなの?死人の数だけ霊がいるもんだとばかり思ってたが」
「……そもそも私だって、自分が幽霊になるまでは霊の存在を信じていませんでしたし」
「そりゃなんというか、世代ギャップを感じるな」
「…………正者さんの件以降、それまでの常識を覆すようなことが世間を何度も賑やかしました。国は建て直しのためにロケット事業を推進して、再出発ということで日本中の地名と県がほとんど変わりました。いつしか、人に認知される霊が現れましたし、私も死後わずか数年で生きている人に見えるようになりました。異世界産と噂される謎の多い石や草木が発見され、テレビで話題になりました。……巨大隕石の到来以降は特に顕著で、魔法の存在などが主張され始めました」
隕石あたりは俺も知ってる時期だな。俺が魅異と会ったのもそのあたりのはずだ。……瞑宰県とかの地名は正者大事件以降に作られたものなのか。それは知らなかった。
「その中に正者の目的でもあったのかもな。まあどれもこれも、正者が動こうが動かなかろうが起こってたことだろうけどな」
「…………そうでしょうか。今考えても、平成31年にはもっと別の未来が続くはずだったと。……あ」
「どうかしたか?」
「……あ、いえ、続いていなかったなぁ、と思いまして。……平成は31年で終わるはずだったんです。4月1日に新しい年号が発表されて、5月1日から年号が変わるはずだったんです。正者さんの件でうやむやになってしまいましたけどね……」
「ええ!31年で変更だって!?ええー、じゃあ正者が事件を起こしたから俺は平成生まれになったわけかぁ。うむむ、ありがたいけど、ちょっと複雑な気分」
「………………新しい年号はなんだったんでしょう。んんぅ~、年号のことを思い出したら無性に気になってきました……!もやもやしますっ」
「そうか?発表されてないんなら無いも同然だろうに」
「……気になります」
ああ、これはしばらく考えて諦めるやつだな。……にしても平成31年4月1日に年号がねぇ。正者が同日に事件を起こしたのならなにか関係があるんだろうか。目的があるなら、事件日というかタイミングってのは大事だと思うが。んー。
結局、陸に流れ着くのに一日掛かったか。雲行きが怪しいけどもう朝だな。だが、直接毬の島に流れ着いたのは運がよかった。潮の流れが途中から変わったときにはひやっとしたぜ、本当。……記紀弥のやつはそろそろ毬の寺に着いた頃だろうな。俺も……アミュリー神社に到着したっ!
[ひゅるるるる……]
ん?なんだこの音……、上っ!
[どがあああぁんっ!]
「っと!おいおい。いきなり不意打ちなんて、珍しく勝気に溢れてるじゃないか。……雑魚ベー!」
「私は、……失望しましたよ。本っ……当ぅ~~~~~にぃっ!失望しましたよぉぉぉっ!……悟さんっ!あなたの体中に纏っつている幾重もの女子小学生のオーラっ!!あなた一体純粋無垢な少女を何」
「水圧圧縮砲!」
[どがああぁっ!]
「ぶっ!」
そっかー。俺はオーラというモノが感じられないからさっぱりだが、匂いとかと違って海で流され続けた程度じゃ取れないのか。ちび女子だらけの帝国には昨日と一昨日で二回ほど行ってるからなぁ。……ま、こいつが歯向かおうが問題じゃないが。
それよりも問題は正者情報を持ってる奴がいないことだ。今の時間帯、神社の客は少ない。遊びに来るには最適な時間だが、神社の客を待つには最悪な時間帯だな。
「いたた。ですが私は」
「電圧圧縮砲!空気圧圧縮砲!」
[ばちばちぃ!どかあぁん!]
「ぎゃあああぁっ!」
「言っておくが、今日の俺はとてつもなく勝気に溢れてるっ!不意打ち、ハメ技、容赦はしないぜ!」
「くっ。とおおおぉっ!」
ちっ、雑魚ベーめ、空中に跳んで逃げたか!神社の屋根の三倍ほどの距離……低めだな。ただあの位置からのジャンピングキックでも、俺の魔法弾を簡単に蹴り砕くことができる。……奴の側面に魔法弾を当てるしかないっ!
「う。無理な緊急脱出で距離が。で、ですがっ!この位置からのジャンピングキックでも、二発っ!二発直撃させれば、悟さんは撃沈するはずですよぉっ!見せてあげましょう!これが私の渾身のジャンピングキックですよぉぉっ!そりゃあああああぁぁっ!!!」
「あの回転、ちょっとまずいな。俺の魔法弾の軌道が外れなきゃいいが」
「おい、朝から騒がしいぞ雑魚ベー!アイススイート!」
「「え」」
[ずがががあああああぁんっ!]
雨双、いつの間に神社の境内に。……雨双の巨大冷凍光線に雑魚ベーは飲み込まれたが果たして?あ、回転が弱まっていく。
[ひゅうううううぅ~~~、がしゃあぁん!]
「あ、落ちた」
「朝早くから大声で……!そんなんだからアミュリーやアルテに家出されるんだっ」
雨双は落下で気絶してる雑魚ベーを睨みつけてる。な、なんか雨双、機嫌悪そうだな。……いやいや、ここで気おされてるようだから主人公らしさが足りないとか言われてしまってるんだ!強引にでも情報集めるのが主人公だろう!
「おい雨双!」
「悟か。こんな朝早くに、私に何か用でも?」
「あるから来たんだ!問答無用で俺の質問に答えてもらうっ!」
「ふん。で、何を聞きたいんだ?」
「正じ、あ、いやその、ほら、あれだよ。えー…………ゆ、幽霊出るかなーって」
あ、危ねー!危うく正者の財産のことを口に出しそうになった!記紀弥のときもつい口が滑ってばれたし、今回は上手く誤魔化せてよかった。
「幽霊の溜まり場は寺だが」
「男の霊なんだ。寺には男の霊はいないだろ?……男勝りなのは多いけど。あとは、白い服を着てるって言ってたような」
「ん。もしかして、雑魚ベーが最近見かけるとか言ってた、少女じゃない霊のことか?朝早くにくるらしいから、私は見たことないけど」
「朝早く?」
「話通りならそろそろ……と。ほらきたみたいだ。じゃあ私は寝るから。騒ぐなよ」
「おう、さんきゅー雨双。……さて」
ようやく正者について知ってそうな奴のおでましってわけだ。果たして、話の通じる霊かな?
風で俺の緑のコートがたなびいている。そして同じような着方をしている、目の前にいるおっさんの白い白衣はたなびくことはない。……間違いない、こいつこそが白い衣装を着た幽霊だ!見てくれからして医者か科学者といったところだろう。
「くくく、待ってたぞ。正者を知ってる幽霊め」
〔あー?てめえは、天利のところのガキ……!]
「え、天利を知ってるのか?」
〔それ前に答えただろてめー!ビルでの出来事忘れてんのかぁ!?〕
「ん?……あー!お前は確かベリーっ!」
こいつは確か、前に、烈と瞑宰京中心部を旅してたときに会った口の悪い科学者!へええ、こいつが正者の情報を!そういえば、校長や天利のことを知ってるような口ぶりだったな。
「お前、二度と特星にはこないとか言ってなかったか」
〔けっ!バカがよ!この星にいなきゃあ正者に復讐できねーじゃねーか!それともなにか!てめえは、この俺様の言葉を約束か何かと思ってたわけかぁ!?ひゅははぁ、笑えるぜっ!〕
「相変わらず口だけは達者な……。で、お前、正者について愚痴ってたそうじゃないか。なにを知ってる?」
〔あああ!?正者だとおおぉ~!あんのクソ野郎がっ!どうしたってぇ!?〕
「お前と正者の関係は?」
〔あんなゴミ知るかっ!会ったのだって一度きりだ!あの野郎おぉ……っ!正安の無能野郎も許せねえが、あいつだけは会ったらタダじゃ済まさねぇ!くそがぁ……絶対殺す!〕
おおう。凄まじい怨念みたいなものを感じさせる怒りかただ。だが、やっぱりこいつは正者について知っている!本当なら戦闘で倒して聞き出したいが、……俺一人で幽霊状態の敵を相手するのは厳しいんだよなぁ。
〔はぁ……はぁ……!熱くなっちまったが。……てめーは正者のことを知ってどうする?奴の盗んだ日本中の資産でも奪うってのかぁ?〕
「なに!もしかして場所知ってるのか!?」
〔知らねえよっ!しらねーけど、どうやらそのつもりみてーだな!喜びな、このベリー科学術の科学者、ベリー様がよぉっ!答えたい範囲で好きなだけ質問に答えてやるよ!〕
おお、どうやら正者に敵対してるからか協力してくれるようだ。だけど正者の隠し財産については知らないらしいから、……なにを聞けばいいんだ?正者の大事件については知ってるようだが。
「じゃあ、正者の逃げ先について心当たりとかは?校長は異世界だって言ってたけど」
〔さあ。そういうのは正安の専門だろーが。もし本当に異世界なら手が出せねえよっ!ちったあ考えてもの言いな〕
「協力する気あるのかお前……」
〔だが……。はっきりいって、正者が平成31年に異世界に行った可能性はかなり高いだろーな〕
「正者がエイプリルの大事件で消えたから?」
〔いいや。……俺はよぉ、科学っぽいものならどの分野にもとりあえず手を出すオールラウンダーなんだけどよ、……子供の頃には特に宇宙エネルギーと天文に興味があったのさ〕
「へへぇ、宇宙に逃げた正者でも発見できたのか?」
〔宇宙観測はしてたがそうじゃねえなぁ!俺が観測したのは地球のエネルギーのズレさ!平成31年3月中旬に完成したエネルギー観測装置の試作実験でよぉ、近所の立ち入り禁止になってる空き地にとんでもなく大きな反応を示したのさ。……もっとも子供の工作そのものな装置だ。欠陥があったのかも知れねぇが〕
「平成31年か、って、お前何歳だよ」
〔当時は五歳……いや四歳か。くくく、そんな装置をガキが作れるわけねえと思うだろう?31年3月の始めに思いついて、二週間で作ったんだぜぇ。閃きの天才って訳さぁ!……そういや、天利のやろーや正安がおかしくなったのもたしか〕
「天利や校長がおかしく?いつものことじゃないのか?」
〔……いや。3月頃からだ。そう、変わった遊びしてるなと印象深かった。間違いねぇ!……天利がラスボスとか名乗り始めたり、正安が異世界がどうのと言い始めたり。3月の始めあたりからよぉ、今のあいつらみてーな生き方が始まったっていうか……。今に繋がる流れができたっていうか〕
騒がしかったり考え込んだり、忙しいやつだ。んー、天利のラスボス自称に校長の異世界執着か……。天利はともかく、校長は正者から異世界の話を聞かされて興味を持ったかもしれないとか言っていたな。
「天利と校長はどっちも特星の製作者っていう共通点はあるけど。それにベリーだっけ?おめーはロケットを作ってるとか言ってた。……特星そのものが正者の陰謀ということか?」
〔いや。正安のやろーが特星製作を考えたのは巨大隕石到来後、しばらく経ってからだ。これだけは間違いねぇ。……だけどよぉ!平成31年3月以降の正安らは星を作っちまいそうなほどパワーに満ち溢れていた!正者の大事件を乗り越えられるパワーが、3月始めの俺たちには、……少なくとも現瞑宰町周辺には、すでにあったような気がすんのさぁ!〕
「平成31年3月の、地球で起きた変化……。星を作りそうなほど活気に満ちていただと?」
校長の話を信じるなら、その現象は間違いなく正者の願いによるものではない。正者は町に活気を願うタイプじゃない、はず。……正者が引き起こしたというよりは、むしろ、正者も謎の活気の影響を受けてるような。国相手に金を盗むのに予告文を送っているあたりとか。……いや、単に挑発する性格なだけか?
〔一つだけアドバイスだ。俺も正者のゴミ野郎を探してるが、……昔なじみからはなんの手がかりも得られてねぇのよ。奴の行方を知る奴はいねぇ!人に聞く以外の手段で、正者の手がかりをなんとかみつけなっ!さもなけりゃ、てめえの探し物は詰みさ!〕
……ん?あー、いつの間にか神社を去って毬の島の海岸まで来てたみたいだ。島のやや内側には毬の島の勇者社が見えるな。
にしても正者の行方を、財産行方を知る奴がいないだって?バカな!もし本当にそんな状況なら、いくら敵を倒しても目的地にたどり着けないじゃないか!
「錬金術の化け物はいた。異世界はあるし、正者が異世界に行ったこともわかってる。……昨日俺が封印した、錬金術の化け物を呼び覚ますか?」
錬金術の化け物は、印納さんの大怪獣バッジとやらに封印されてるはず。そして大怪獣バッジはアルテが装備中。今のアルテなら錬金術の化け物にも勝てるらしいし、ありだな。呪われたバッジに近づくのは気が引けるけど。……あと、アルテ本人が女子会かなにかの邪魔をすると怒りそうなのが怖い。
[ざばぁっ!]
「うおおぉ!?」
海の中からいきなりなにかが顔を出したぞ!こ、こいつは、人間の少年?身長的に多分、小学生の高学年……いってないくらいか。ボタンがいっぱいの賢そうな服に、蝶ネクタイ、それとモノクル装備。……とりあえず海水浴をする格好じゃねーな。
にしても、泳ぐような音は全く聞こえなかったぞ?勇者社のほうを見てたからいつ来たのかもわからん。海岸に着いた時点で、泳いでる人間は一人もいなかったはずだが。
「……えーっと。なんだお前は!?」
「……あの人の気配がすごく近いのに。潮の流れは読みどおりで、無事、この場所に流れ着くことができたのに。まさか化け物の手下に見つかるなんて……」
「化け物の手下がいるのか?ていうかなんで泳いで……」
「隠してもわかるんです。あなたの体からは、錬金術の力の痕跡が纏わりついていますから。……長時間、あの化け物のそばで無事にいられた。奴の部下なのですよね」
「おや、昨日会った錬金術の化け物を知ってるのか。あんな話の長い奴、遭遇して短時間で傍を離れろってほうが無茶だろうに」
ってことは、こいつまさか帝国からここまで泳いできたってのか?丸一日掛けて?なんてバカな奴なんだ……。船でどっかの大陸に渡って、勇者社のワープ装置で毬の島に飛べば早いのに。
だけどこの少年、どうやら錬金術の化け物のことを知っているようだ。……帝国城内で一部始終を目撃しただけの一般人?そりゃないな。俺の視力やアルテの力を掻い潜って玉座ルームに潜むことはできない。そもそも錬金術の怪物に詳しそうな雰囲気だし。……正者の関係者だっ!
「お前が会おうとしてるのは、正者か?」
「正者……。やはりあの男の差し金ですか。悪いですけど僕、あの乱暴者のもとに戻るつもりはないんです。僕が会うべき人はこの先にいる。……無理にでも通してもらいますよ!」
[ずざぁっ!]
「うおっ!」
このガキ、海岸の砂を蹴り上げて目くらましをっ!だが、この隙に奥に移動してるお前の姿は、砂の隙間からでも簡単に捉えられるぜっ!
「水圧圧縮砲!」
[どかあぁっ!]
「うっ、あああっ!」
よし、少年の背中に直撃したっ!だけど砂が目に入って痛い~!く、普段なら難なく防げる技だが、まだ色々聞くつもりだったから油断してた!
「いっつ……。悪いけど正者のもとには案内してもらうぜ。奴の盗んだものを取り返さなけりゃならない」
「え?う……うぅ。ほ、本当に敵じゃないんですか?」
「俺は昨日、錬金術の化け物を封印した!正者の盗品を取り返すためにな!正者の居場所を教えろっ!」
「正者は、……あの人の居場所は、……きっともうないです。あの人の滞在先の異世界は、地球の日本時間で、平成31年4月1日に滅びることが決まっているはずですから」
「な……なにあああぁ!?そ、それって一体」
「ですが盗品たちの保管場所はわかります」
「でっかしたっっ!少年よっ!俺は心の底からお前を信じていたぞ!さあ言え!正者の盗品の場所を!」
正者の身になにかが起きていたみたいだが、もうそんなことはどうでもいい!どうせ過ぎたことだ!それよりも財産の場所を知ってるやつがいるとはっ!ふ、ふふふ!ベリーの誰一人知らないなんて言葉、まったくのアテ外れだったぜ!
「錬金術の化け物がいる城の、可愛らしい小物入れに入った、カセットの中に。……不思議な施錠がされている異空間が中にあるんです。ドラゴンみたいな人が開けてくれました」
「ドラゴン?ま、まさか……!」
錬金術の化け物がいたのは帝国城。そこでお宝の入ったカセットを、ドラゴンが開けただって!?……今、帝国城にいるドラゴンは、皿々っ!間違いなく盗む!
「あの、お願いです。僕をこの島のどこかにいる持ち主のところへ、連れていって……!もう自分で行く力は」
[きいぃん!]
「うわっ!」
なんだ!?とんでもない強さの光が少年からっ!光は一瞬みたいだったが、思わず目を覆うほどの光だった。一瞬少年が縮んだようにも見えたが。
「……うぅ~。予期せぬ不意打ちが多すぎる。って、これは?」
さっきまでいた少年がいない……代わりに何か落ちてるな。これは望遠鏡?片手に収まるサイズの望遠鏡だ。長さは片手武器になりそうなくらい。
「持ち主へ届けろって。これがさっきの子供だってのか。……物も擬人化することがあるとは。お~い、もしもしー?……返事なしか」
だけどこの島のどこかにいる人物って言われてもよ。アミュリー神社、毬の寺、勇者社と三カ所も探す場所があるんだぞ。しかも、アミュリー神社と勇者社はそろそろ観光客がいるころだ。
俺のお宝に、皿々の魔の手が伸びている今!この望遠鏡の持ち主を探し回る余裕はない!一刻も早く、正者の盗品を取り戻さなければ!
「ということで、この望遠鏡は一旦いただいておこう。持ち主探しはあとだっ!」
早く、早く帝国にあるというカセットを見つけ出さなければ!
もう合計何度来たかわからない帝国城に再び到着したっ。料金は掛かったが、高速船を使ったおかげで昼前に帝国城に到着できたぜ。
「可愛らしい小物入れにカセットか。……帝国トップが印納さんの時代、帝国内にはそんなものはなかったはずだ。アルテが持ち込んだか、来客の女子たちの誰かの持ち物かだろうな」
常識ある人物なら、勝手に他人の小物入れを開けることはあっても!カセットの施錠とやらを解いて、金品を盗んだりはしないだろう。……だけどカセットの中にあるという異空保管庫を開けたのは、盗っ人ドラゴン、皿々。絶対に盗む!
しかも皿々が開けたとなると、アルテが持ち込んだものか、来客が持ち込んだものかの見当もつかなくなる。昨日、皿々と共闘した俺にはわかるぜ。敵の強弱関係なく奪いに掛かるのが、皿々だ。
アルテなら余裕で返り討ちにできるだろーが。奴の皿々に対する気に入り度合い、主人公を強制帰還させて話したがるほどだから相当っ!手加減して譲る展開なんて十分ありえる!
アルテか来客かどっちだ?可愛い小物入れとかアルテって感じしないし、来客をあたるほうが無難かな。カセットは、……なんでカセットに異空間が。
「じゃあさっそく宿泊に使えそうな部屋を……あ、ダメだ、数が多すぎる」
この城、無駄に広いし、来客用の部屋いっぱいあるから探し当てるのはすげー時間掛かるじゃん!……よくよく考えたら、俺の賢明な推理では、アルテが怪しかったような気がする。面倒だからアルテの部屋にカセットがあるとみた!
「考えながらなんとなく歩いてたけど、今いる場所からアルテの部屋へ行くにはわりと近いし。ふっふっふ、俺には最初から、無意識下で全てわかっていたということだ」
[どがぁん……]
「おや」
上のほうから小さな爆発音が。誰か戦闘でもやってるんだろうか。……ていうか今から二階の部屋に向かおうってときに……、なんてはた迷惑な。
広く長い通路だがよく見える。アルテの部屋の前で、両手を広げて笑ってる擬人化ドラゴンの姿が。右手にはカセットが握られていて、いつもよりも悪人っぽさに拍車がかかった雰囲気を出している。……どうやら、部屋に行く必要はなくなったようだなっ!
「あーっはははぁ!ついに!開かずの封印が解かれたっ!少し前に出ていった王ももう居ない!世界は私のものとなるのさぁ!」
「おい皿々!さっさとカセットを返しやがれ!」
「くくく、おやおや、なにか来たみたいだぞ!私はお前のような雑魚に構ってる暇はないのだよ!死にたくなければ、私の視界からさっさと消えなさい」
「む。皿々じゃなさそうな口調。まさか乗っ取りか!?……まあなんでもいいや!痛い目に遭いたくなければさっさとカセットを寄越しなっ!」
「ほお。まさかこんなすぐに気づかれるとは思わなかった。冥土の土産に私の名を教えよう。私は財宝の守護者、異空星臣。お前のような者から正者の宝を守るのが本来の役目なのだが、……封印から解放され、自由に動ける体を手に入れた今!そんな役目など、もうどうでもいいことさ」
「じゃ、じゃあ俺のカセットは!」
「必要ないなぁ。もっとも、お前の口の悪さは極刑に値するがねっ!風切りの錬空拳!」
[ずかぁっ!]
「ぐっ!」
敵の振るった手から、風の刃が!半分くらいは片腕で受けたが、もう半分が首辺りをかすっていった!そこそこ痛い技だ!
「……む。お前、その手になにか埋め込んでいるなぁ?運のいいやつめ」
「なに訳のわかんないことを!水圧圧縮砲!」
[どがあぁん!]
「なっ!うぐあああぁっ!」
「……って、直撃するのかよ!?」
俺の水の魔法弾でドラゴン姿のなにかは吹っ飛んだ。しかもなんか、相当のダメージを受けているように見えるような。……反撃されることを想定してないのか?
「う、ぐがぁ……!な、なんだこの威力っ。高位の魔法使いがなぜ、こんな城みたいなところに……!?そもそも最初の一撃で腕ごと首を刎ねれなかったのがおかしいっ」
「もしかしてお前、この星のことを知らずにここに来たのか?不老不死オーラに包まれたこの星では、首を刎ねれる人間なんてほんの一部だぜ」
「不老不死のオーラ?なにを訳のわからないことを……。人の身でそんなものが実現できるものかっ!石砕きの錬石拳!」
今度は奴の触れた壁が岩になった!?触れたものを変化させて攻撃する敵か!
「く。水圧圧縮砲!そして空気圧分裂砲だ!」
[どがあぁん!ずががが!]
「ぐああ!ならば、ならばっ!軽石飛ばしの錬空岩!」
「速っ!ぐっ!」
穴だらけの岩が高速で飛んできたが、身を反らして直撃は免れた。だが、体の半分ほどに当たったから超痛い……。
「はぁ、はぁ……。目障りな人間だなぁ、お前っ!」
「……あ、王だ!」
「なにぃっ!?」
「空気圧圧縮砲!」
[どがどがどがぁっ!]
「うぐああああぁっ!?ば、バカな!こんな手で、私があああぁ……っ!」
敵が油断した隙に、空気の魔法弾を三連続で撃ち込む。今のは綺麗に決まった!横目で見るだけでも回避は難しいのに、完全に後ろを振り向いたんだから。異空星臣は気絶してはなさそうだが、倒れたまま起き上がる気配はない。……ふふふ、この敵、独り言で王がどうとか言ってたからな。知的勝利って奴だ!
「ほらみろ。地球なら死にかねない攻撃でも生きてる。お前は、不老不死なんて人間に実現できないとか言ってたようだがな。……本当に欲しいものなら、探せばいつかは見つかるのさ!見つかるまで探す気があればなっ!俺は探し続けて見つけたぜ、正者の財産をっ!」
「こんな……、子供の体では……!お前の、……その強靭な体を寄越せぇっ!」
「うげっ!?」
[ばちばちぃっ!]
「ぐあああぁっ!」
異空星臣、というか皿々の体から、黒っぽい立体の影が現れてこっちに飛び掛ってきた。だけど、影が俺の体と重なったとたん、どこかに弾き飛ばされた。
「う、奪え、ない…………だとぉ!?」
「ああ、そういえば前に誰か言ってたな。……この神の体は呪いに近いとかで、他の呪いの力が通じないとかなんとか」
印納さんの呪いのバッジはなぜか弾き返せなかった気もするが……、あの人の言葉はいちいちあてにならないからな。例外だろう。
「おのれっ。せっかく巨大な錬金術の力から独立できたというのに……!王の力が保管場所に及ばなくなり、逃げ出せるようになったのにっ!こんな化け物じみた奴にいきなり遭遇するなんて……!」
「俺は確かに主人公だし強いけど、化け物じみてはいないと思う」
「ちょっとちょっとー。こんなに騒いで、君たちなにしてるのー?」
おや、噂をすれば化け物じみた奴、アルテが目の前に出現したぞ。怒ってるというよりはなにか面白いことでも期待してきたような態度だ。
「あー、悟っ!追い返したはずの君がなんでまたここに?しかも私の部屋の前で……ストーカー?そこの変なのと一緒に、皿々を襲ってたの?」
「んなわけないだろーが。むしろ俺は助ける側だったくらいだ」
「なんだ面白くないのー。私がまとめて相手してあようと思ったのにさっ。勝手に部屋のカセットを持ち出した仕返しも兼ねてね」
「その仕返し相手はそこのドラゴン。アルテお前あれだ、物におかしなのが憑いてないかぐらいチェックしろよ。そこの倒れてる影、昨日いた錬金術の怪物と一緒にカセットに潜んでたらしいぞ」
「悟はわかってないね。事前に備えるのなんてカッコいい台詞だけで十分だよっ!ネタバレなんて面白くないじゃん?」
アルテめ、昨日究極物質を奪われたばかりなのに相変わらずだ。まあ確かに俺が同じ立場なら、事前チェックはしないけどよ。それは俺が自分の実力をよーくわかってるからさ!主人公ならなんとかなるし!
「ていうかなんのカセットなんだこれ?貰っていい?」
「いいよ。ちなみに忘れてるようだけど、そのカセットは悟がくれたやつだよ。結構前に、魔学科法の力を探してたときの」
「そうなのか?」
「ま、もう魔学科法の力は残ってないからただの入れ物だね。じゃあ、ほいっと」
アルテが、いつの間にか特に言葉を発せずに這っていた異空星臣に近づき、バッジを近づける。すると異空星臣の影のような体がバッジに吸い込まれた!
「ぐあああぁっ!ばれてたかっ!あああぁぁ……」
「ふっふ~ん。やっぱ面白いねー、これ。捕らえられる相手の少なさが、私のコンプリート欲を彷彿とさせるっ!……じゃ、皿々を看病するからまたねー」
アルテは機嫌よさそうに、皿々をずるずる引きずって自室に入っていった。…………よし、よしよおおしっ!アルテからカセットを手に入れるという難所を突破したぜ!実力的に一番の難所だったが、平和的に済んでよかった!
「このカセットから繋がる異空間に!日本の資産の約七割が!……ふふふふふ~。あ、でもどうやって開けるんだろう?皿々が開けたから錬金術か?……………………皿々ーっ!」
「ああもう、邪魔しないでよ悟!帰って!」
[しゅぅん]
……あ、ここは俺の部屋。どうやらアルテに強制帰還させられたようだ。アルテの部屋に、皿々を起こしに入ろうとした途端に戻された。……ふ、だけど目的のものは手に入ったんだ。今、アルテの機嫌を損ねて、カセットを返却しろとか言われたらおしまいだ。換金するのはいつかの楽しみに取っておいてやるぜっ!
ところで、なにか後回しにして忘れてるような。そう、いくつか後で寄るところがあった気が。……昼だから飯だな。飯食いにいくか!