五話 異次元からの置き土産
@悟視点@
湿度高く、じめじめとした生ぬるい空気の梅雨の真っ只中。数日前のお尋ね者騒動のとき、俺はお尋ね者を捕まえて金儲けという方法を思いついた。というわけで、今日試しに特星本部に来てみたわけだが。
「安っ」
お尋ね者の賞金額が安い。一人当たり五百セルないのがほとんどだ。……俺も今日初めて知ったんだが、本人の申請でお尋ね者解除できてしまうらしい。なるほど?それは確かに大金をかけるのはもったいないし、数日前に勇者社までわざわざ乗り込んだ俺はすげー遠回りしてるな、ちきしょー。
「相手探して戦闘してこれじゃあ割に合わねーな。しゃーない、帰るかぁ」
[どごぉん!どがぁーん!]
「お?」
どこかで戦闘音みたいなのが聞こえるな。わざわざ本部まで来て戦闘なんて物好きがいるのか?……あ、もしかして特殊能力増やせるとかいう試験でもやってるのかも。
「梅雨の中わざわざ来たんだ。ついでに覗いてくか」
確かこの辺から聞こえてたはずだけど。んー、いつの間にか音は鳴り止んだな。もう終わったのか?
「あれあれ、悟君じゃないですか」
「ん。この声は」
「じゃーん!私です」
後ろから声がかかったかと思えば、正面あたりに波動が出現して校長が出てくる。数日前とは打って変わって元気そうだな、このおっさん。
「やっぱり校長。今日は機嫌よさそうですね。前に言ってた正者とかいうやつ、……校長の兄だっけ?そいつの手がかりでも見つかったとか?」
「それが全然なんですよねー。冷静に考えれば、地球で消えた兄がこの星に現れる可能性は低いですし。懸賞金だけ懸けて調査を打ち切ろうかと思いましてね。お金がないので、さっき値引きの戦闘をしていました」
ああ、さっきの戦闘音は値引き交渉のか。……なんかさー、噂を聞いただけで探すだなんてすげー大げさだよな。正者といえば、地球でずっと昔に死んだと言われてる男だぞ。家族とはいえ、この星に居るだなんて普通考えるか?どうにも正気じゃないような。
まさか!金か!?
「校長。あんたの兄はもしかして、金とか財宝でも持ってるんじゃないか?」
「え?ええ、まあ。当時は数百兆円以上の金品を盗んでいるわけですから」
「あ、そうか!そりゃそうだ」
「その中には……。その盗まれた中にあるはずなんです。私の、一番の親友の宝物が」
「宝物ー?」
素晴らしい言葉の響きだ!だが、言葉に反して校長の表情は暗くなった。まあ盗まれたんじゃあ嫌な思い出だろうな。それとも、宝物の持つであろう輝きと眩しさの前では、校長の言葉なんて暗く沈んだものに聞こえるのかもしれない。価値が違うぜ!
「ええ。……いえ、やはり調査は続けることにします。悟君、ぶしつけなお願いになるのですが、兄の行方を捜すのを手伝っていただけませんか?兄は、……この星に居るかはわかりません。この世に居るのかすら怪しい。ですが、どうにも最近兄の存在感のようなものが蔓延している気がしてならないのです」
「んー。いいですよ別に。その代わり校長!正者の盗んだ金と宝は貰うからな!」
「ええ。私は兄の居場所すら掴めませんでした。もし宝物が悟君の手の内にあるなら、少なくとも今よりは取り返しやすいですからね」
校長、俺が親友の宝とやらを取り返したら、奪うなり買い取るなりするつもりのようだな。いいさいいさ。俺の本命はあくまでも数百兆円のほうだ!これをセルに代えれば、俺は晴れて特星王とか特星富豪とかそんな感じの存在になれるってもんだ!はっははは、異端派な主人公になってしまうなあ!
「で、ことの経緯っていうか。平成のー、31年だったか。正者が消えたのってその頃なんだっけか?」
「はい。兄が消えたのは平成31年の4月1日、日本時間で午前0時ぴったりです。……ああー、でも当時、4月説と3月説が出回ってましたねえ。監視カメラの性能が悪いからコンマ以下の時間のずれが生じてる、とか」
「え、正者、監視カメラに映ってたの?」
「そりゃもうばっちりと。正確に言うなら、兄、金融商品、施設、設備、データ、他諸々の同時消失が確認されたそうですよ。データ系統は海外のバックアップなどでいくつか修復したそうですが」
「ええー。それ、本当に正者の仕業なのかぁ?特星もない時代だろ?俺の子供の頃でさえ、そんな大規模消失なんかできそうな奴そんなにいねーぞ」
「兄から手書きの犯行予告があったらしくて。……にしてもその反応、昔を思い出しますよ。実は、当時の日本もそういう反応でしてねー!いやぁ、当時廃れ気味のオカルト界隈に大ブームが訪れたのですよ!」
「へー。食い気味に話すけど、そういえば校長そういうの好きそうだったな。っと、ちょっとタイム。……ジュース買います」
適当に歩きながら話していたが、運よく自販機と休憩スペースのあるところに辿りついてしまった。テーブル付きで椅子はソファ的なやつか。よし!話が脱線して長くなりそうだし、ここを占領するとしよう!
「いえいえ、私はファンタジー派です。世代的にも。そして現実であれフィクションであれ異世界転移推しですね。オレンジジュースで」
「生徒に奢らせるなよ……。異世界か、神門王国や闇の世界あたりは行ったことあるんだけどな」
「うんうん。それらは調査済みで移動手段が整ってますから、きっかけにはいいですよね。特星は導入、行き来できる異世界は入門、という感じでね」
校長が一人うんうんと頷いてる。感慨深いだろうなー。中学校、高校、特星と、校長とは地球からの、一般教師時代からの付き合いだからわかる。いつ頃からか落ち着いたが、このおっさん、特星や特殊能力がない頃から異世界に行こうと無茶をしてたからな。
「話が逸れてきたので兄の話に戻しますけど。実は、私が異世界にこだわる理由はもしかしたら兄の影響かもしれないんですよね」
「へー?校長、なんか兄を嫌ってる雰囲気だったのに」
「嫌いですし恨みも相当です。ただ兄が失踪する何ヶ月か前、帰りの遅かった兄が言ったんですよ。うさぎに連れられて異世界に行ってきたと」
「うん?う、うさぎ~?え、地球にある校長の家って瞑宰県だったよな?ていうか雷之家と同じ地区だったろ」
「ふふふ、言いたいことはわかります。私の子供の頃でも野生のうさぎに会えるなんてとてもありえません。異世界の存在以上にありえないことです。実は、地球の有名な文学作品にそういう話があるんですよね」
「ぶ、ぶんがくっ。知的だ!」
「兄の話の場合、うさぎについていくと異次元ホールがあり、その先が異世界だったという感じですね。今でも覚えていますよ。『うさぎを追って、異次元ホールから異世界に行ったら、魔法と錬金術があったし敵がいた』とだけ言ってました」
「え、もうちょっとなんか具体的なこと聞かなかったのか?」
「聞いても答えないんですよ、あの人。あれは絶対欲しいものを奪うときの態度ですね!自慢して独占するんです、あの人!印象に残ったのだって、異世界話とかまったく似合わないタイプだからです、いや本当に」
校長がまた愚痴っぽく言い放った。普段は温厚ってか茶化した態度を取ってるのに、よほど不満が溜まっているみたいだ。……しかし、まあ、ううーん。異世界にせよ地球にせよ、やっぱりこの星にいる可能性は低いんだよな。ていうか異世界と地球だとどっちのほうが特星に来やすいのだろうか?
「手がかりになりそうなのはこのくらいですかね?どうですか、悟君。参考になりました?」
「もうちょっと、こう、犯行の手口的なのはないのか?ほらぁ、地球なら警察の話とかさー」
「消えたと。どういう手段か見当もつかないと」
「そりゃそうだな!特殊能力なんかない時代だし。じゃあ平成31年の日本の技術とか」
「自動車が多かったですね。私や悟君が地球にいた頃に比べて、ロケットはあまりなかったはずです。インターネットとよばれる通信技術が主流で、パソコンはインターネットのためにあるという時代ですね。支払いは貨幣かカードが主流。職業は今よりも多種多様で、機械と人間が入り混じっている感じです。今の地球とは違い、クリエイター層が少数派。あとは現代よりも人工知能に注目が集まっていたはずです。ゲームは制限ありの3D主流。情報はSNSという共有型。携帯は多機能重視の小型パソコン寄り。……も、もう限界ですー、技術とかさっぱりなので勘弁してくださいぃ」
「じゃあ動機」
「兄は欲張りです。あとは自分の名を知らしめるためとかなら……、ええ、やるでしょうね」
「そいつは、盗みを悪事だと自覚してやるタイプ?」
「えー、んー。わからない、ですね。そういえば正義の名の下に悪事を働いていたような。ただ少なくとも相手の不幸を気にかけるような人では断じてありません」
「そうか。うー、むむ、む」
もしも正者の異世界話が本当だとすれば。正者は絶対に見つからない隠れ場所を持ってるって事だろ。そんなの、異世界に隠れるに決まってるじゃねーか!
いや、だが、異世界だというなら逆にチャンス!日本円は特星なら換金できるが、異世界ならただの紙くず!盗んだ資産のうち現金分はまだ残ってる可能性が高い!しかもだ、正者が特星の存在を知ったとすれば、換金にやってくる可能性がある!いや、むしろ特星の資産を盗みに絶対やってくる!奴は、欲深いらしいからっ!
異世界で特星についての情報は得られるか、……まあ地球に行き来できるなら得られるだろう。むしろ地球にいたのなら、なんで特星に今まで手を出さなかったのかってなる。
異世界に行き、盗んだ資産から物などを売り、十分満喫した生活を送り、気まぐれかなにかで地球を様子見。すると特星がいつの間にかできていたあああぁー!ならば盗んでやる、という流れだろうな。うん、なんていうか簡単にイメージできるぜ。
「悟君、あまり無理に考えすぎることはありません。……普通に考えれば兄は死んでいるか異世界にいる状態。この星に現れるはずがないんです。悟君も普通に生活しながら、暇なときに情報集めを」
「甘いな校長。俺はもう手がかりを掴んだ!」
「なんですって!?」
「待ってな校長っ!明日までには、いやっ、明日までとは言わず今日中だ!今日中に正者を校長の前に引きずり出してやるよ!」
「なんと。明日までどころか今日中に……。わかりました。悟君を信じて、兄撃退の準備をしておきます!波動の力を極限まで高める、一分の狂いもない完璧な準備体操を!」
正者に関する情報はとても少ない。だからこそ、俺から正者に辿りつく道は簡単にみつかる。異世界、うさぎ、魔法、錬金術。このヒントの中からマイナー所を選ぶなら、うさぎか錬金術。だけど異世界産のうさぎなんて見当もつかない。逆に異世界からきた錬金術師っぽい奴なら、今目の前にいる。
「そういうわけで錬金術について教えてもらおうか。泥棒の大親分にして熟練錬金術の、…………ちびっ子ドラゴン!」
「皿々様だぁっ!しかもあんた、なんであたいの隠れ家知ってるのさ!?」
「飼い主同伴で猫に聞いたのさ。後は話すまでもないだろ?」
「ちっ。あのバカ猫、今度会ったら破門にしてやるわ!」
「おやおやおやぁ~。本当にいいのか?奴は、主人公が錬金術を学ぶ手伝いをしたんだぜ?栄誉あることだって褒めてやらないのか?」
「ふん。反吐が出るねぇ。錬金術はあたい一人が使えりゃ十分なのさ!当然、……あんたに錬金術は教えない!こんなバカに情報漏えいした猫を誰が褒めるかっ!あたいの圧倒的な錬金術の腕を見て、自分では遠く及ばないことを」
「待った!」
「お……っ!」
今にも突進してきそうな勢いだがそうはさせないぞ、盗っ人ドラゴン。今回手に入る数百兆円分の資産は、はっきりいって桁が違う。……少し前、宝くじで百億セルを手に入れても無駄遣いなんかできない日々が続いたが、そんな心配はもうなくなるだろう。使い放題だ。
今までの俺は、物事の解決に戦闘を多用しすぎていた。最近は通り魔か何かと思われてるんじゃないかとすら思う。だがそれは違う!あくまでも、主人公ゆえに、戦闘を仕掛けられているに過ぎないのさ。俺はいつだって平和的な解決を望んでいた。……いいだろう、見せてやるよ。金を得る主人公がいかに平和的に物事を解決するのかを!
「ちょっ……とぉ!舌噛んだじゃないの!なんなのさ急に!」
「おいドラゴンもどき。もしも目的のお宝が見つかったらお前の願いを一つ叶えてやる。だから、……戦闘の意思を捨てて大人しく情報提供するんだ」
「本物だっての。にしても、願いを叶えてくれるだって?あんたにそんな大それたことができるっての?」
「数百兆円、つまり数百兆セル分の資産が手に入る。大抵のことは叶えられると思うが?」
「数百兆セル?なら、そんなの聞くまでもないねぇ。全部盗んであたいの」
「水圧圧縮砲!そらそらぁ!」
「は?あぁっ!?」
水の魔法弾を五発くらい皿々に叩き込む。ふん、どうやら盗っ人に交渉を持ちかけたのが間違いだったようだ。だけど平和的に解決できてよかった。俺はノーダメージ、平和そのものだ。……ま、元々こうなることを読んでたんだけどな!実は!はっはっはっはっは!
「あぐぅ。あ、あんたさぁ、不意打ちするなとは言わないけどさぁ、人に待てとか言ってすぐにこれはどうなのよ……」
「華麗に決まっただろ?それともあれか?俺の慈悲の心に免じてやり直して欲しいのかね?」
「まさかっ!何でも聞きなさいよぉーもぉー!いくらでも話してやるからさぁっ!」
「錬金術のある異世界って知らないか?ていうか、そもそもお前の生まれって特星と異世界のどっちなんだ?」
「異世界なんて特星から行けるところしか知らないしー。長居してないから錬金術があるかなんてさっぱりよ!あと私は地球出身だ!地球くらい選択肢に入れといてよね!」
「え、地球にドラゴンなんているのか?見たことも聞いたこともないけど、どこに住んでるんだよ」
「おや、意外ね。あんたも地球からきたんだ。くくく、無知ねぇ」
「……なんだ?地球にモンスターの住処でもあるってのか?」
「今ならあったりして。そんなことより、錬金術について知りたいんじゃなかったの?」
って、そうだった。どうする?異世界生まれだと思ってたのにあてが外れちまった。こいつさえ倒せば正者のいる異世界まで一直線だと思ったのに!なんで地球にドラゴンがいるんだよっ!?
「じゃあ、…………錬金術関連で正者って聞いたことあるか?」
「正者?ああ、あるね」
「え!?あるのか!?」
「あるってば!錬金術師の頂点、杉野 正者でしょ!こんなの、錬金術に興味あるなら現代だろうが紀元前だろうが常識……あれ?なにかおかしいねぇ」
「どうした。正者は紀元前には多分いないけど、どうした」
「うっさい!知ってるわよ!あたいが日本に渡ったのが、…………いやでも確か紀元前の流派でも、…………え、え、あれぇ!?」
「……俺は静かな悟」
「不気味っ!ちょっと聞いてよー!覚えたはずのないことを覚えちゃってるー!具体的にはあんたが知りたがってた正者の情報をなぜかあたいが知ってるよぉーっ!記憶改変でもされてるの、あたい!?」
ホラ吹きドラゴンが頭を抱えて騒ぎ立てている。どういうことだ?正者は多分、校長に年が近いだろうし平成生まれだと思う。だけど、こいつの様子から察するに、紀元前時代の錬金術に正者の情報があったってことか?時系列が崩壊してないか?……いや、この状況に筋が通る説が一つだけあるか。
「そんなの考えられる可能性は一つだろ。きっと俺の主人公補正で、俺に必要な情報が芽生えたんだ!よかったな!俺の力になれるぜ!」
「はぁ~?……くっくっく、あんたの雑な推理、雑すぎてなんだか冷静になれるねぇ。……あたいにはすでに解決策が見えた!犯人を倒せばこんな症状は治るわ!あたいを差し置いて錬金術の頂点を名乗ってる、その正者とかいうやつ、真の頂点たるあたいがぶっ倒してやろーじゃないの!」
盗賊ドラゴンを仲間にしたわけだが、謎は増えてもまだ情報は増えてない。俺と皿々はどこへ向かうわけでもなく、歩きながら正者について話し合う。とりあえず、俺が正者探しをする経緯は大体話し終えたかな?数百兆円については話してない。
「俺のほうは大体こんな感じだ。さあ、錬金術のトップドラゴン!次はお前が知ってることを話せ!」
「ふ、さすがは主人公を名乗るだけはあってみる目があるねぇ。まず正者について知ったきっかけはないわ。当然のように知っていたのよ。ここはいい?」
「さっきの様子からなんとなくは」
「情報を知った時期はなんとなくわかる。紀元前、あたいが錬金術を学び始めた頃ね。……きっとこの偽記憶には、錬金術を知ってから手に入れた知識である、という設定付けだか条件付けがなされているわ」
「それもまあ。錬金術を知る前から正者がすげー錬金術師って知ってると違和感あるからな。魔法とかよりマイナーだろうし」
「次に内容。……正者は錬金術のトップである。正者は錬金術とは無縁な日本人だったが、ある日、溢れ出る才能で錬金術の欠片を作り出した。正者はあまりに憎たらしいうさぎと共に、他の錬金術の欠片を作るための旅に出た。正義のためだ。錬金術の欠片を持つ悪の組織を次々に粛清し、正者は全ての錬金術の欠片をみごとに作り出し、願いをかなえた。その願いは地球の平和である。正者が最後に敵対したのは錬金術そのものだったが、その錬金術の力はとても強大かつ強靭であり、ただの人間やうさぎ如きでは到底敵わない相手だった。二匹は運よく錬金術の破片を各地で作り出した。そして二匹は、錬金術の王に多大な苦戦をしつつも辛勝した。そして正者が地球の平和と言う願いをかなえたのだ。……という感じね」
「長いなぁ。にしても正義のために地球の平和を願っただって?なんか、校長の話に出てくる正者と随分印象が違うな」
正者ってろくでもない野郎だって話じゃなかったっけか。欲しいものは奪うだとか。自慢して独占するだとか。この話に出てくるやつと同一人物だとは思えないぜ。
「んー、自然と思い出せるのはここまでね。……話していて思ったんだけど、違和感がある気がするねぇ。ちょっと待ってなさい、紙に書き写してみるわ」
「聞いてた感じだと、平和の願いをかなえたって二回言ってたことくらいかな。あとは……ラスボス戦が補足扱いみたいに聞こえた気がするぜ」
「んーんー。……………………ははぁ。なるほど。二回説明してるんだねぇ、これ」
「それは俺の推理」
「あんたの言うとおり、最期の敵についての部分が補足なのよ。一度目の、地球の平和を願った、というところまでが前半部分。それ以降が後半部分。……そして、前後半で明らかに印象が違っているところがあるわ!」
「前半では正者が楽々願いをかなえてて、補足ではラスボスに苦戦してるみたいな感じだな。まあ、ラスボス戦は苦戦するものじゃねーの?」
「ちっちっち。事実苦戦したかはどーでもいいのよ。あたいに記憶を植えつけたくそバカが、どういう印象を残したいのかが重要なのっ!……前半ではラスボスなんて眼中にないわ。正者の才能、正者の仲間、正者の功績、正者の最後とどうみても正者の冒険が中心となっている。……だけど後半部分はそうじゃない。最後の敵の時系列、視点、正者グループに対する卑下の言葉と、明らかにラスボス視点になっているのよ」
「そ、それがどうしたんだ?」
「好き勝手に記憶に残せるなら、どっちかだけでよくない?……いいや、はっきり言ってやるわ!最期の敵とやらは、嫌々、正者に関する記憶を錬金術師に植えつけている!私の倒すべき敵は、錬金術そのものと称されてるやつ、つまり最後の敵とかいうやつよ!」
……俺の敵じゃねーじゃん!い、いやだが待て。正者はラスボスを倒して願いをかなえたってことは、つまりだ。俺がラスボスを倒して願いをかなえてもらえばいいじゃないか!そうすれば正者の盗んだ資産なんて関係ない!9999京円だって手に入れることができる!
「はっ!だが待て名推理ドラゴン。正者の性格が本物から一脱してるんだから、全部作り話じゃねーのか?」
「そうかもねぇ。だけどあんたの前情報だと、異世界や錬金術のことを正者は話しているんでしょ?本当の可能性のほうが高いわ。自慢話で嘘つくなんて自慢できない部分だけに決まってるもの!……それに、盗むのが得意なんでしょ、そいつ。なら相当あてにしていいんじゃないかしら」
「え?いやいや。盗みが記憶の内容に関係あるのか?」
「錬金術の欠片を持つ悪の組織を次々に粛清し、正者は全ての錬金術の欠片をみごとに作り出し、願いをかなえた。……この部分さぁ、奪えばいいでしょ!ていうか話の流れ的にどう考えても奪ってんのよ、ここ!」
「ああ、そうか。悪の組織が錬金術の欠片持ってるんだもんな。そりゃ奪うな、俺でも」
「はい、さっき内容を書き写した紙。作り出したの部分を、盗み出しただとか奪ったに変えてみればわかるわ。正者らしさがすっごい出てきたでしょ?」
どれどれ、前半部分を書き直してみるか。
『正者は錬金術のトップである。正者は錬金術とは無縁な日本人だったが、ある日、溢れ出る才能で錬金術の欠片を盗み出した。正者はあまりに憎たらしいうさぎと共に、他の錬金術の欠片を奪うための旅に出た。正義のためだ。錬金術の欠片を持つ悪の組織を次々に粛清し、正者は全ての錬金術の欠片をみごとに奪い尽くし、願いをかなえた。その願いは地球の平和である』
おおお!校長から聞いていた正者のイメージに大分近づいたな!となると、正義だとか願いの部分が違和感だらけだ。それっぽく書き直そう。
『正者は錬金術とは無縁な日本人だったが、ある日、溢れ出る才能で錬金術の欠片を盗み出した。正者はあまりに憎たらしいうさぎと共に、他の錬金術の欠片を奪うための旅に出た。自分のためだ。錬金術の欠片を持つ敵対組織を次々に壊滅し、正者は全ての錬金術の欠片をみごとに奪い尽くし、願いをかなえた。その願いは自分の力を地球中に知らしめることである』
「こんな感じでどうだ?」
「おお、いいねいいねー!雰囲気でてると思うわ!これぞあんたの話に聞いてた正者って感じよ!」
ただ、願いの部分はまだわからねーな。正者が日本の資産を奪ったのは、異世界に行ったと校長に話してからのはずだ。果たして、自分の力を知らしめるという願いでそこまでのことができるかは怪しい。日本の資産の七割くらい欲しいとかのほうが現実的かもしれない。……そう願うくらいなら十割欲しがるか。
「これで正者についてはわかってきた。だが、皿々。結局俺たちは正者や錬金術の怪物には近づいてないぞ。情報が集まっただけだ。きっと、敵を倒してないから進まないんだ」
「あんたゲームバカとか戦闘バカって言われない?情報提供者の目処もなしに戦闘したって目標に近づけるわけないじゃん!」
「目処はなんとなくでいけば大丈夫だって」
「そんなのでよく人探ししようと思ったわね……。あたいの持論なんだけど、錬金術ってのは不等価なのよ」
「どうした急に?」
「いいから、錬金術は不等価なの。錬金術の目標である不老不死の実現には、等価交換ではどれだけのエネルギーを費やしても到達できないから。……地球では等価の錬金術が主流になったけどねぇ」
「はぁ。まあ科学とかはそういう感じだもんな。特殊能力はタダで出るけど」
「それって不等価の科学じゃないの?……ごほん。で、不等価でも代償は普通必要でね。この星にあるエネルギー量は錬金術の代償としてはとてつもなく多いの。……不等価錬金術の異次元ホール分を補えるくらいには、多いっ」
「へぇ、この星のエネルギーの多い場所に敵がくるってのか?」
「錬金術そのものな敵に知能があるならば、この星のエネルギーを逃す手はないわ!言っておくけど、異次元ホールを作るほどのエネルギー量!地球を全部エネルギーに代えて錬金術を行使したとしても足りないわ!」
「……特星にはそんなにエネルギーで溢れてたのか。実感はないけど」
「ふっふっふ、その通り。そして……さあ、港に着いたわ!乗り込むのよ!今、特星で最もエネルギーが高まる土地、帝国へっ!」
船に揺られること数分。……いやまあ寝てたからそう感じるだけかもしれないが、とにかく数分後!いつの間にか日が暮れかけているが、帝国に到着した!だけど、これは一体?
[わいわいがやがや]
帝国という割には、なんか、小さい女子が多いような気がする。ていうか周囲を見渡しても、俺以外全員そんな感じに見えるんだけど!ど、どうなってるんだ!?帝国ってのは、兵士風なやつが排他的なこと言って返り撃たれる場所のはずなのに。なんか観光地みたいだ。
「おい、皿々!お前何か知らないか!?それとも、まさか女子力のエネルギーパワーこそが地球全部のエネルギーを上回る、特星のエネルギーだってことか?女子力で帝国が観光地化したと……」
「落ち着きなさいよ、あんた大丈夫?……これは、錬金術じゃないねぇ。似たような力を感じるけど、一体何かしら?思ってたより底が見えないわ」
「帝国のトップが魔法みたいな技使うからそれじゃないか?魔学科法っていう周辺に被害出しまくる感じのやつなんだけど」
「かもね。あんたにはわからないだろうけど、そこら中の女子に細かい力が流れ込んでいるわ。その作用でみんなここに集まっているのかも」
んんー?……俺もよく見てみたが、さっぱりわからないな。目で見えるタイプの力じゃないのか。……って、それだとこのちびっこドラゴンも敵の力に乗せられてきたんじゃないか?
「まさかお前も?」
「はっ!錬金術を極めたあたいにこんな子供騙しが通じるとでも?」
「現にお前ここにいるじゃねーか」
「ぶっちゃけ、あたいに力が流れる気配がまるでないわ。……んー、たまにいる擬人化系のやつらにも力は流れてないっぽいし。あんたみたいに付き添いなのかも」
「人間の女子だけを狙う力?雑魚ベー、……は擬人化も狙うから違うか。んんんー、人間の女子狙い。……言葉だけ聞くと、昔話の悪役によくいそうなイメージだな。生贄によこせとか騙してつれていくとか、そういうの。大抵、獣や妖怪みたいに人外なんだ」
「言っとくけど、あたいはそういうのとは違うからね?欲しけりゃ奪うけどちゃんと力づくだからね?」
「あっそ。……帝国城までもうすぐだぞ」
「あら本当ね!ていうか、よく目的地がわかったねぇ。言ってないのに」
「ふふん。帝国ごとき攻略済みなのさ!ここには、観光スポットが城しかないっ!」
日が暮れ、月光だけが辺りを照らす夜の帝国城内、玉座ルーム。さすがに帝国城内となると人の数が随分減っている。夜だし、寝室方向に向かってるやつらが多かったな。
そして玉座にはアルテが足を組んで腰掛けてる。若干、椅子とのサイズが釣り合ってないんだが、まだ家具置き変えてねーのかよ。
「ふっふっふっふっふ。ようこそ私の城へ。こんな夜更けに……、なにか私に用でもあるのかな?お客人お二方さん?」
「まだ日が暮れてからそこまで時間は経ってないけどな。外は普通に暗いけど」
「……偉そうなやつね。とりあえずさー、暗いから電気つけたら?こっそり盗むのは趣味じゃないわ!」
「欲しいものがあるの?ならここに住もうよ。……いくらでも分けてあげるよ。あなたの欲しいものをなんでも、あなたの欲しいだけ用意してあげる」
「う。なんでも……、いくらでも……」
「マジ?じゃあ俺住むから9999京9999兆セル頼む!今週中に!」
「悟はダメ。あと京の次のケタは垓」
「な、なんでだ?アルテなら簡単に用意できるだろ!9999垓セルくらいさー!」
「ふふふ。……ここでね、女子会をするんだ。とはいってもただの女子会じゃないよ。愚痴とか噂話とかじゃなくて。私のような女の子が、本当に欲しいものを願うための女子会。私がみんなの願いを聞いて叶えてあげるの」
「みんなの願いをかなえるだって?……ふっ、よくいうぜ。よくわからない力で女子ばっかり集めて、影響のなかった外見だけ子供のドラゴンを物で釣って、俺の願いをかなえない不公平なやつが!果たして、本当に願いをかなえるだけかな?」
「あらら、私が他になにか企んでるとでも思ってる?勘違いはやめて欲しいなー。……みんなの欲しいものが私の欲しいものかもしれない。同じものを欲しがる者同士、結びつきを感じれたらとても嬉しい。ただそれだけだよ?」
アルテは前に、世界征服の野望を口にしていた。なぜか今日まで音沙汰がなかったから単なる気まぐれだと思っていたが……。こっそりと特星中の女子をかき集めているところを見ると、野望は打ち果ててなかったようだなっ!
「お前は、世界征服の同士を集めているっ!」
「そんなのいくらでも集められるよ。作ることだってできるもんね。特星中の女の子たちだって、その気になれば全員ここに強制召喚できる。全員の願いをいつの間にか達成させることだって可能さ。……でもそんなことしないよ。過程も手順もなしの結果なんかつまらないもん」
「金は別だろーって、ちょっと待てよ。それだと願いをかなえた女子がつまらなくなるんじゃ」
「え?あ、あぁ、いわれてみれば確かに。んー。……んんんー。…………あー、うん。でも私は達成感で満たされるからね。まあそこは仕方ないよ」
「ひ、ひでぇ。そもそも、帝国に来たやつら操って集めてるだろーが」
「私は帝国に願いをかなえにくるきっかけを与えただけだもーん。自由意志だもーん。操っただなんて人聞きの悪い」
「そ、そうなのか皿々?」
「んー?ああ、そうだねぇ。あたいは専門じゃないからどっちなのか区別つかないけど。だけど一つわかったことがある。……アルテだっけ?あんたの悪党っぷりは正直気に入ったわ!」
「え、ええー」
「本当?じゃあ私たちと一緒に住んでくれる?私、あなたのことも知りたいの。地球の擬人化ドラゴンは初めてだし。特星の擬人化ドラゴンならいたけどね」
「いいわ!なんなら共に世界そのものを奪ってもいいくらい!……もっとも、先にあんたから奪ってやるんだけどね!あんたの内に秘めた錬金術のパワーを!錬金、アルケミストパズル!」
[どぁん!]
皿々が手をかざした途端、アルテのほうから何か大きな音が鳴った。石壁を破壊したような変な効果音だったな。……あれ?
「なんだ?アルテの体から変な霧が」
「え、なに?さっきの音、私の中から聞こえたよ!?」
「アルケミストパズルは分離の錬金術。対象から親和性の低い要素を分離するのさ。ま、除霊や解呪の錬金術版ってところだねぇ。……だけど魔学科法とやらの力ならこんなのには本来気づけるはず。こんな、エネルギーをこそこそ横取りしてるような小悪党くらい、見つけられたはずだわっ!」
〔ぐ、ぐおぉ、他流派の、錬金術師風情がぁ……!よくも、私の餌場をっ!〕
「私の体に、いつの間に?君は一体?なるほど、錬金術そのものなんだ」
〔さすがだ。その気になれば理解が早い。……だが、限りあるエネルギーをそんなこと使ってよいのかな?くくくくく〕
「え?……あ!私の体に、究極のエネルギーが、ない……!」
〔ふははははぁ!貴様が探しているのはこれかな?〕
「あれ。あああ!あれはあたいの究極物質!なんであんなところに!?」
錬金術の霧の化け物から、いつだったかに見た究極物質が顔らしきものを出す。……どうやら霧一粒一粒から出現したように見えたな。あの霧野郎と同化してるっぽい。
〔貴様たちはともかくだ。そこの悟とかいうコート男は現状を理解できてはいないだろう。自己紹介してやろう。私は真の錬金術が実体化したもの。……名前はない。好きに呼ぶがいい〕
「この泥棒術め!あたいから言わせりゃねぇ、あんたなんか錬金術ですらないのよ!」
「え、錬金術の化け物だろこいつ」
「自称ね。そもそも錬金術は作る技術よ。例えば、地中に金が埋まってるのは錬金術じゃないの。人工と自然発生の違いね。……で、これまでの情報から考えると、こいつは自然発生した錬金術よ!」
「「自然発生した錬金術?」ありえるのか?矛盾してねーか」
〔錬金術師風情が、知った口を。いいだろう、遺言に貴様の浅知恵を残してみよ!面白ければ笑い話として語り継いでやる〕
「存在することが面白いあんたの笑い話をねっ!まず正者の残した記憶に錬金術の破片が集まれば願いがかなうとあったわ。これが根拠の一つ。記憶の正者を実物に当てはめるならば、破片を作ったのではなく、そこら中に自然発生した破片を持ち主たちから奪っていたのよ」
〔愚かな。正者に対する記憶をよーく思い出すのだ。記憶によれば正者は破片を作り出したとあるだろう?あのクソ野郎には、私の破片を…………つ、作り出す才能がぁ、あったのでは、ないかぁなぁ~~……っっ!〕
なんだろう。表情があるわけじゃないんだが、ものすご~くいやそうに反論してるみたいだぞ、この謎生物。ふ、たかが嘘つくくらいで、なさけないやつめ!そんなに正者ってやつにボコボコにされたんだろうか?
「身内いわく、本物の正者は錬金術という言葉が相当似合わない人物らしいわ。才能があったとして、あんたそんな奴に破片から作ってもらったの?」
〔戯言もその辺にしておけよ、弱小錬金術師がっ!あんなのに、私が作れるわけなかろうがぁっ!いいだろう、ここだけははっきりさせておこう。正者が我が破片を作ったというのは大嘘だ!なんで私があんな奴の活躍を広めなければならない!?ああ、あああ、忌々しい……!〕
「もう一つの根拠は錬金術のエネルギーよ。持ってるエネルギーじゃなくて扱えるエネルギー。……はっきりいってさぁ、今の錬金術じゃ異次元ホールなんて作れないのよ。不等価交換でどれだけエネルギーを増やしても、錬金術に異次元ホールを作れる力がないから。科学で言うところの技術理論や構想や設備とかの問題ね」
〔それは私にも言えるのではないか?同じ錬金術ではないか〕
「いいや、違うわ!これは時間の限られている人工技術ならではの問題!あんたみたいな自然発生が人工に勝る点はねぇ。……錬金術の技術や理論に無知でも、錬金術の設備なんかなくても、時間と運に任せて勝手に発生してしまうことよっ!あんたは自然現象が意思を持っただけに過ぎない!英知の結晶、錬金術なんかじゃあ断じてないわ!」
〔ふん。……御託はもう終わったか?他の二人がぽかんとしているぞ〕
「んー。魔学科法を使って話や経緯を簡単に理解できるけど、やろうかな?エネルギー源は取られちゃってるけど。どう思う、悟?」
「やめとけやめとけ。なんか熱弁してるけど、マニア同士でしょーもない話をしてるのさ。大事な話なら、主人公の俺にわかるように話すのが筋ってものだからな!つまり理解は体力の無駄だ!」
まったく、おしゃべりドラゴンめ。あと敵も。俺を置いてけぼりでべらべらと難しい話をして、まるで俺が話についていけてねーみたいな雰囲気だっ!要はあの霧を倒せばいいんだろ?
「はい、じゃあお話はここまでだ!お前らの活躍の場は終わりー!ここからは俺が全部持っていくぜ!正者の財産も究極物質も全部俺のものだっ!水圧圧縮砲!」
[ぺちょん]
俺の水の魔法弾は、敵の体に当たったが。なんだ?霧の体に飲み込まれて消えたぞ!情けない効果音だったし、無効化されたってことか?
〔ふふふ、なにかしたか?あまりにエネルギー量が違いすぎるようでな……、まさか今のが攻撃だとでも言うつもりか?〕
「あいつは究極物質を手に入れて力をフルに使える!異次元ホールを作る力と同程度以上の力が必要だわっ!」
「そんなの一人間にできるかよっ!」
「一ドラゴンを足しても無理だねぇ。でもほら、ここに一人いるわ」
「ふふん。私だよ!格下相手に、究極物質を見事無様に奪われちゃったこの私だよーっ!……うううぅっ、身体検査くらいしておくべきだった……ね。魔学科法ですぐ終わるのに。いつの間に体内にあんなのが……。だめ、もうやだ……」
「……戦うまでもなく瀕死だぞ。心が」
「究極物質さえ取り戻せば、あんな錬金術もどきは軽くぶっ潰せるわ!さっきまでの魔学科法にはそれだけの力があったのにっ!……まさかエネルギー源を奪われるなんて!」
〔私の正体を早々に暴いたのは失敗だったな。さあどうしてくれようか。貴様たちは私の苦い思いをわざわざ再燃させてしまった……!ただでは澄まさぬぞ!〕
な?どんどんと霧が膨れ上がってきてるような。ていうか敵がどんどんでかくなってる!通常形態にも勝ててないのに巨大化とか頭おかしいんじゃねーのか!?
こ、このサイズ。玉座の間の高い天井付近に頭がある。三階建ての家くらいはあるんじゃないか。だが、エネルギー無限と言う割には大したことないともいえるか?
〔まずはアルティメット……。貴様の魔学科法の力、それはこの私にこそふさわしい。私の存在は錬金術などではなく、その強大な魔学科法そのもので構成されるべきだ。……いただくぞっ!貴様の魔学科法をっ!〕
「く。パーテパニングの大雪っ!」
[ぐぁん]
「………………!……!」
アルテ周囲に大雪が溢れる前に、霧野郎のでかい手にアルテが捕まった!霧の中でアルテがなにか口走ってるのがみえたが声は聞こえないか。大雪は霧の中で出現しては消えてるし、やべー。
「アルテ!俺たちはいつか助けに戻るから、それまで耐えて」
[じじじじじ……!]
って、何だこの音は?せっかく仲間の尊い犠牲を胸に一時退却しようってシーンなのに、邪魔しやがって!ていうか、なんか霧が光り輝いてるんだが。
〔こ、これは!なんだこの力はぁぁーっ!?エネルギーを、いや、私そのものをどこまでも吸い込もうとしているこの力はっ!?バ、かな……っ!あああぁ……!〕
霧が一点に集まっていくぞ!いや、あれはどこかに吸い込まれていってるのか?霧が、アルテの胸にどんどんと吸い込まれていっている!胸についたバッジに!……さっきまではあんなのなかったような。
「え?な、なにが起こってるの!?あたいにわかるよに説明しなさいよー!」
「俺が知るかよ!ああ、完全に吸い込み終わったようだ。アルテは……、あ、着地した」
霧の手から落ちて、アルテはちょっと離れたところに落ちたな。この玉座室の部屋の端くらいの位置だな。あ、でももう飛んできた。
「おーい。いやぁ、なんかよくわかんないけど助かったよ。どっちが助けてくれたの?」
「俺だ。しかし助けてなんだけど何を起こしたのか自分でもよくわからないな。アルテの胸のバッジになにか仕込んだような気がするが」
「なーに嘘言ってんのよ。……嘘だよねぇ?」
「バッジ?ああこれ?確かに私のじゃないね。じゃあ悟に返すよ、……あれぇ?外れないよこれ。どうやって外すの?」
「あー?どれどれ。……あれ、このバッジって見覚えが」
このへんな生物のバッジ、絶対に見覚えがある。どこで見たんだったかな。……………………げ!そうだ思い出した!これは、印納さんの家に代々伝わるとかいう、呪いのバッジっ!いつの間にか俺のコートにくっついていたやつだ……。前にアルテと戦ったときになくしたみたいだったが、アルテに乗り移っていたのか!……名前も思い出した、大怪獣バッジとかいうバッジだ。……どうでもいいけどな。
「わ、悪いが冗談だ。そのバッジは、まあ、お守り代わりにすればいいんじゃないか?きっとご利益があるぜ、うん!」
「じゃあ貰っちゃおうかな。バッジの裏とかはどういうデザインだろ。……お、すごい!このバッジ、上着を脱いだら中の服に移ったよ!えっへぇ~、最近はおもしろい物があるねー」
「本当だ。よくつける気になるわね。あたい的には、ちょっとした不気味グッズだわ」
俺もそう思う。印納さんいわく呪われてるらしいからな。今のところ技をふさぐ便利グッズにしか見えないが、いつどんな副作用があるかわからない。爆発しそう。
「そ、そういえば究極物質は?」
「私が取り戻したよ。君たちも欲しかっただろうけど残念だったね!……わお、このバッジ、大怪獣バッジっていう名前しかわからないや」
「え、お前の魔学科法を使っても……?」
「うん。まあ魔学科法は戦闘向けの力だからね。実力の近い相手の情報対策は破れないよ。物理的な情報対策なら多分余裕でぶち抜けるけどね」
「アルテからは奪える気がしないねぇ。しばらくはあんたに預けとくよ。……不安は残るけど」
「……やべ。そういえば正者の足取りが途絶えちまった。……ダメだ、ひとまず寝よう。アルテ、部屋貸してくれー」
「あんたはまだ寝るのね」
「難しい話で疲れちまったんだよ。ああもういいや。玉座で寝よう」
「って、私の椅子に座らないでよー!私は今からここで皿々とお話するんだから!君は帰って!」
…………ああ、俺の部屋だ。戻されたな。……おやすみぃ~っ。