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変な星でツッコミ生活!?  作者: 神離人
本編:変な人たちの出会い その二
35/85

四話 お尋ね者・悟!?

@悟視点@


春らしさが過ぎ去り、それでいて夏にはまだ程遠い梅雨の季節。快晴で雨なんて降りそうにないが、なんか明日から梅雨入りして雨が降り始めるらしい。そんな梅雨の日に外に出るなんてことはないようにしたい!したかった!


「というのに、……俺が、お尋ね者だってぇ?」


〔お~、その手紙にそんなことが?なになに?


【雷之 悟様。あなたは特に深刻な理由もなく、ただの悪ノリで、私の上司である几骨社長秘書を撃退したとの噂を聞きました。これは人としてとても許せない行為です。よって、几骨社長秘書本人に代わり、私の方からあなた様を三日間のお尋ね者として登録させていただきました。おめでとうございます!おめでとうございます!おめでとうございます!期間は、この手紙が届いた当日からの三日間となります。季節感を考慮して梅雨のこの時期をお尋ね者期間としましたので、雨の中に輝くあなた様のクールな逃亡劇をお楽しみください。勇者社社員、あ、名前は書きませーん】


…………これはぁー、その、あれか?罠か悪戯か、それともまさか本当にそのままの意図で?〕


そんなのはどうでもいいんだ。でも、この梅雨の時期に濡れまわれば不快感で大ダメージだ!コートも痛む!なんとかして梅雨入りする今日中に捕まえるしかない。まあ、ボケ役の言うように悪戯とかの可能性もありそうだが。


〔お前を挑発して、几骨や勇者社社員を倒させる作戦かもしれねーぞ。……そういや、その几骨を追いかけたときって烈も居たとか言ってなかったか?俺は出かけてたからよくわからんが〕


あ、そういえばそうか。この挑戦状が本物なら、確かに烈も指名手配されてなきゃおかしいよな。俺は巻き込まれただけのようなものだし。……となると烈が主犯でいいや。


「烈のことだ、手紙を読んでも状況にピンとこないだろうなぁ。それに几骨の件はあいつの仕業にも関わらず烈自身には戦闘能力があんまりないし。狙われやすくてやられやすい。……烈やばくない?これは、友人として助けてやるしかねーな!」


〔大丈夫か?手紙、梅雨前におびき寄せようって風にも見えるけど〕


おお?今日は弱気じゃないかボケ役。なんかこの手紙に気になることでもあるのか?まさかお前の差し金じゃないだろうな。


〔俺が?ツッコミ役に手紙?えー。悪戯するにしてもツッコミ役相手なら『来い悟』の三文字で済ますぜ?曲解されそうだもん〕


「するかっ!さっさと言えーい!」


〔ええぇ。それがさー。実は他の町の話なんだけどさ。なんか、魔法に関する特殊能力者だとか魔法を扱えるやつを集めてるらしいんだよ。手紙や勧誘、商品無料券で集めておいて町での高待遇で魔法関係者を留まらせててさぁ。だからその類じゃないかなーって〕


「町での高待遇だって!?そいつは確かに黒幕がいそうな予感がするから」


〔ほら見ろ、そういうだろー!烈との友情が大事ならとりあえずそっち行けって!魔法のほうは人材被害は一応あるけど事件かどうか怪しいんだ〕


む。つまりは面倒ごとを押し付けようってつもりだな?ふん、烈に手紙のことだけ解説したらその町とやらに行ってやる。


〔その前にお尋ね者脱却しなきゃ梅雨の間は追われるだろうぜ〕


じゃあやっぱり手紙の送り主を倒すしかないってのか。結局梅雨前に倒しに行くってことに変わりはないわけだ。ボケ役も手紙の主を倒しに行ったほうが安心できるように心変わりしてしまった。


〔あ、あれー?〕


だがちょっとだけ倒す気が上がったぞ。さっさとお尋ね者扱いをやめさせて魔法使いの集まる町に行ってやろう。手紙の送り主には高待遇への踏み台になってもらおうか!




というわけで烈の部屋の前。まあ同じ寮だし何か起こってからきても別にいいんだけどな。攻撃されれば音でわかりそうだし。さて烈は部屋にいるのだろうか。


「この手紙はああぁ!?大変だぁっ!!!すげーやべー!!!」


「おや?今手紙に気づいたみたいだな。中からいかにも危険を理解できたかのような烈の大声が」


〔朝からそんなに叫ぶのもやばいと思う〕


ふむ。どうやらいらない心配だったようだな。いくら烈とはいえこんな理不尽な手紙を送られたらそりゃあ身の危険も感じるか。じゃあ用は済んだから次へ向かおう。とりあえず勇者社で情報集めかな。


〔本当にちょっと寄っただけだったな〕


あいつが大した情報を持ってるとも思えないし。烈が雑兵を引きつけて俺が本命を叩くっていうコンビプレー作戦さ。時間稼ぎを出来るだけの危機感があるなら大丈夫!


〔わあぁー〕




「こ、これはラブレターだー!!!」


「れ!?烈にラブレターだってぇ!?」


[どがあぁん!]


〔ああ、烈の部屋の扉が蹴破られた〕


せっかく立ち去ろうって感じだったがこれは突入せざるを得ない!ラブレターだぜラブレター!そんな面白そうな話、俺が読まずに誰が読むっていうんだ!大丈夫だ、扉は普通のキックで蹴破ったから。


「烈ー!俺にもそのラブレター読ませてくれー、って。あれ?烈?」


「うぐぐ、おうぁ」


「れ、烈が扉の下敷きに。な、なんてことだ。まさか俺は、敵の悪質な罠に陥ってしまったってのか?」


〔ラブレターで扉が蹴破られるなんて誰が予想できるんだ?〕


「烈が玄関なんかにいるから。それはともかくラブレターだ。ああ、これかな?烈、こんなに大事そうに握り締めて。……ぐしゃぐしゃで読みにくいなぁ。えーっと。


『あなたのことが大好きです。なので近場の勇者社一階まで百万セルをお持ちください。あなたに恋する謎の美女より』


だってさ」


…………これが烈を自滅へと追いやったラブレター・ドアトラップ!他人の純情を利用する、なんてタチの悪い罠なんだ!烈が自滅したのも仕方がないことだと俺は思う。決して烈を責められない。


〔追い詰めたのはツッコミ役じゃあ〕


「烈、大丈夫か!助けに来たぞ!」


「お、おおおぉ?あれ、悟!?い、いま、お前が扉を吹き飛ばしたような……え!?」


「ああドアか?さっき外からすごい衝撃で吹き飛ばされてる一部始終を見たぜ。犯人の姿は見ていないけどな。ほら、立てそうか?」


「そ、そうだったのか!俺はてっきり悟の声が聞こえたから、お前が犯人かと思ったぜ!!」


「ばれたか!」


「……おめーかよ!?」


む、なんだ、ばれてなかったのか?でもまあ不可抗力だったし別にいいや。それよりも手紙が思ってたのと違うから説明の手間が増えちまった。


「あ、そうだ。罠かもしれないからこの手紙は読んどいたぞ。やっぱり罠だったけどな」


「え!?ラブレターじゃないのかこれ!?」


「地球で流行ってた詐欺ってやつだよ。お前よりも金目的の騙しの手紙さ。犯人を探しやすい特星でやるようなもんでもないと思うけどな」


「騙しの手紙なのか!?じゃあ朝早くに届いてたお尋ね者ってやつもまさかそれなのかぁ!!?」


「お、烈にも届いてたのか。いやそっちは調査中だ。今日中にお尋ね者扱いはやめさせるつもりだがな。烈よ、俺たちはお互いにラブレター・ドアトラップに酷い目に合わされたもの同士。いわば共通の敵にやられた被害者ってやつだ。一緒にこんなことする敵を倒そうぜ!」


「おおー!!!あ、でもさー。最近、まったく敵に勝てる気がしないぜ」


「ふっふっふ。心配するな烈。いくらお前に攻撃力がなくても大丈夫だ!……いいか、ゲーム的によーく考えてみろ。俺たちが二人になれば体力は二倍。敵の攻撃は分散して半減。つまり、お前がいるだけで防御面は四倍も有利になるってわけさ……!」


「四倍だってぇ!?それって俺でもすげーのはわかるぜ!!」


「だろう?だろう?よーし行くぞ烈!いくらお前でも、四倍の防御性能をもってすれば楽勝だぜっ!」


「おっしゃー!!最強の防御性能をお見舞いしてやるぜ!!!」


適当に言いくるめるつもりだったが、よく考えたら本当に凄く有利なんじゃないか?よく考えてないからわからないが。……いかん、烈のバカが移ったかな?


〔普通、人数が多けりゃ有利なんです。大丈夫か、ツッコミ役?〕


よく考えたらそりゃそうだ。でも、そんな当然のことを言われると腹立つなー。




というわけで、近場の勇者社までやってきた。相手は勇者社の社員だと手紙に書いてあったからな。手がかりがあるというか、敵の本拠地だといっても過言ではない。勇者社っていくつもあるけど、まあ、とっておきの秘策で敵を探し出してやるさ。


「勇者社か!!でもよ、勇者社って大量にあるだろ?ワープ装置を使うにしても、どの勇者社に犯人がいるのかわからないぜ!?」


「大丈夫だ、烈。俺たちはまだお尋ね者になってから日が浅い。長くても数時間ってところか。俺たちをお尋ね者と知っている勇者社の人間は少ないはず。だから、俺たちをお尋ね者扱いするやつを倒していけばいける!そのうち犯人を倒せるって訳さ!」


「え!?待てよ、悟!!それだと多分、五人以上は相手にしなきゃならないぜ!!!俺たち四倍だし、五人抜きはちょっときつい気がする!!!」


「……そうだなー。じゃあ手ごろな社員倒して几骨さん呼びつけるか。あんまり関係者以外の仕事の邪魔したくないし。というわけで、……受付さーん!」


「は、はい?嫌な予感……」


「「勝負だ!」」


「や、やっぱりそっち系の客かー!騒ぎ方からして、戦闘目的だとは思ってたんだよ僕!……しかし、甘くみられたものだ。受付マスターのプロフェッショナルたる僕に。戦闘の心得と準備がないとでも思っているのかー!?」


マスターのプロフェッショナル!な、なんか……強そうだっ!ってか、受付マスターの奴、名乗りもせずにこっちに向かってきてやがる。んー、一般人をワンサイドゲームで倒すくらいの心構えだったが、相当な戦闘狂に勝負を挑んでしまったようだ。


「僕の手で眠らせてあげるよ。ミス・トラップウォール!」


「悟ー!!俺が前衛で先に行くぜ!!俺たちの連携を喰らえ、バカ受付め!こっちは戦力差四倍だ!!!」


「あ、おい!ちょっと待て!」


烈の奴、向かってくる受付に対抗してるのか!?弱いのに受付に向かって行ってるぞ!しかも、あの受付はちょっともやがかかって見えている。偽者かパワーアップ中の可能性が高い!


「どりゃああああぁっ!!!って、うおお!?か、貫通したぁ!!?」


「だね。パワー・アクアス!」


[ずぶぶぶぅ!]


「ぐっ、うあぁっ!!」


やはり偽者みたいだ。烈の拳が敵の幻影を突き抜けて、烈が動揺してるところを数本のレーザーのような攻撃で返り討ちにしてる。本体は偽者の後ろにいたようだな!それに、なんていうのか。あの受付の偽者、見た感じ質量とかがないみたいだ!


「く、烈!やっぱりやられたか!」


「おっと。もう終わりなんて。戦闘ざっつ雑すぎて、僕がカメラ映えしないじゃないか。あ、ぴーすぴーす」


「……それ、監視カメラ」


「昨日テレビで見た強盗撃退シーンのように、僕のお尋ね者撃退シーンが放映されるのさ!パワー・アクアス!」


「水圧圧縮砲!ちっ、お尋ね者とばれてい」


[どばああぁん!]


「って、うおお!?」


あ、危ねー!受付のレーザー一本と水圧圧縮砲が相殺し合って、残りのレーザーが俺のそばを掠めていった!しかも敵のレーザーは多分、水。か、完全に力負けしてるなぁ。


「んー?僕のパワー・アクアスと相殺だって?……こいつ。水鉄砲以外にも、水攻撃を強化する術を持っているのか」


「ふ、主人公様補正さ」


〔雷之家の血筋補正な。ま、ツッコミ役の体は元々俺の体だから、正しくは雷之家血筋の信仰補正だけど〕


んー?あー、随分前に天利が言ってたな。確か、水や風や雷が強いんだったか。……ってか、ボケ役はいい加減にさっさと体返せよ。レンタル料でもいいよ。


〔だが、水鉄砲と雷之家補正を受けた水圧圧縮砲は、敵のレーザー一つで防がれている。あいつは相当の水使いってことだ!〕


あ、そうなの?でも言われてみれば確かにそう言うことになるのかな。ふふふ、いいことを聞いた。心理的動揺を狙ってやるぜ。


「受付マスター。お前、かなーり水の力が強いようだな。一目見たときからそんな気はしていたが。……今の攻撃で確信したぞ」


「ふ。さすがに勇者社に悪名を広めてるだけあって、中々戦闘センスがあるようだな」


「え、え?悪名?俺、そんなの初耳だけど」


「コート男の雷之 悟。勇者社にある危険戦闘者リストの中でも、かなりの通り戦闘魔だとか。そして、僕はそういう悪の撃退を待ち望んでいたんだっ!レイン・ド・プレス!」


[どかかかかかぁっ!]


「ぎゃああああぁっ!!!悟ー!やべーってぇー!!」


「いってててぇ!何だこの雨は!?石でも入ってんの!?水圧圧縮砲!」


[どばしゃああぁっ!]


だ、ダメだ!この雨、一粒一粒が結構な威力だからか、俺の水の魔法弾の軌道が下に逸らされる!五歩くらい先で落とされるし、威力もすげー削られてるみたいだ!し、しかも、……俺自身、立ってるのが辛いし、痛いし、疲れてきたっ。ぐ。うむむむ。……本当はやりたくない攻撃だが。このまま一方的にやられるくらいなら、自滅覚悟で一発逆転を狙ってやるか!


「ぐぐ。おい、受付!本当にこのまま攻撃しててもいいのかな?お前は自らの首を絞めてるんじゃないか?」


「お。命乞いかな?いいに決まってるじゃないか。僕にハッタリは」


「辺りをよく見ろ!室内はほぼ水浸し!お前が掃除させられれば、徹夜は確実だっ!」


「んえ?なにっ?」


よし、一瞬だろうけど奴の雨が止まった!くらえっ!


「電圧圧縮砲!」


「やば。レイン・ド・プレス!」


電気の魔法弾は、相手の届く直前に雨のバリアに阻まれたが。だがもう手遅れだ!その距離ならもはや問題じゃないな!あとは全体水浸しだからきっとぉ。


[ばちばちばちちぃ!]


「「「ぐわああああぁっ!!」」」


やっぱりこっちにまで電気がああぁっ!だ、だが、きっと、敵のほうがダメージは大きい、はず。近いし。し、しびれる……。


「うぐぐ。こ、こいつ、自分をま、巻き添えに、電気をっ!」


「っとと。水圧圧縮砲!」


[どがあぁっ!]


俺の水の魔法弾で受付マスターは宙を舞い、カウンターまで転がり突っ込む。そしてそのまま動かなくなった。どうやら気絶したようだな。


「ふううーっ。この水の力比べ、どうやら俺の水の魔法弾のほうが強かったようだ。な、烈もそう思わないか?……って」


「がぐぐぐぐがぁっ」


「あ、床で寝てたんだっけか。こいつ、一番痺れてんじゃないのか?」


不憫なのー。じゃ、烈が起きるまでに几骨さんを呼んでおくか。とりあえず受付マスターに連れてこさせるとしよう。




んー。…………うーん。受付マスターが几骨さんを呼びに行ってから、あ、もう二時間か。受付を代わりに任されたものの、暇だ。……くそー、なんで受付に代理がいるんだ。別に利用者いないから二時間くらい空けときゃいいのに。


「おっ!なあなあ悟ー!!あっちの女の子可愛いと思わねっ!?」


「百回は聞いたぁー。はああ。受付代理なんて、ちゃんと給料出るんだろうか」


「おおっ!!ここに重要そうな書類があるぜー!!暗号とか宝の地図とかねーかなー!?」


「おや、やっと見つけたと思ったら。お宝だなんて、気になるお話をしていますね!」


「あぁー?って、あれ、校長?どうしたんです、こんな所で?」


やべ。客だと思って威嚇気味に返事しちゃったよ。ってか、本当にどうして校長がこんな所に?買い物とかするイメージじゃないんだけど。金なさそうだし。……校長権限でただ食いでもするのか?


「いえね。烈君に聞きたいことがあってきたのですよ。ちょっと生徒から気になる話を聞いたので」


「げ!!俺ぇ!?」


校長直々に呼び出しとは。なにやらかしたんだこいつ。……いや、でも普段から俺も結構酷い目に遭ってるな。ふふふ、これはいい機会だぜ!


「わあ、悪い奴だなー。校長!こいつは人のセーブデータを消すような極悪人です!烈には厳しい説教をしてやってください!」


「はああ!?いやいや校長校長!待ってください!!悟のほうがよっぽど俺よりよーっぽど悪事を働いてるって!!あ、さっきもここの受付をぶっ飛ばしてたぜ!」


うっお、烈め!こっちに飛び火させようとしてやがる!


「あ、お前!助けてやった恩を仇で返しやがって!そもそも先に殴りかかったのはお前だろ!」


「俺はやられただけだろー!!それにあれは悟の計画じゃねーか!」


「未遂も悪ですー!それにだ。俺はお前を止めようとしただろ?やっぱり話し合いをしようと思ってたんだよ本当!」


「おめー、この休憩中に言ってたことと話が違うぞ!俺が先走らなければ不意打ちで被害なく倒せてたってさっき言ってたろー!!」


「ぐ、ちゃんと聞いて、いや。た、多分烈の聞き間違いじゃないかなあ!」


「あの、はい。お二人共、そろそろいいですか?」


「「あ、どーぞ!」」


「はーい。えっとですね。去年の今くらいの季節、つまり梅雨の時期に君たちは帝国に行ったそうですけど。……烈君、君は他の生徒にその話をしたときにまさじゃという名前を言ったそうですね。どこで、その名前を?」


君たちって。……ああ、そういえば前に帝国に行ったときに烈も居たなあ。……正者かー。うーん、正者、まさじゃぁー……。聞いたことあるようなないような名前だな。でも聞いたことねーや。


「きょ、去年ー!?いや、だが、あの帝国の話なら今でもよく覚えてる!!しっかり覚えてるぜ!!…………俺の必殺技で悟を倒したっ!」


[ぼかっ!]


「覚えてないけど、勝手に話を作るな。俺がおめーに負けるわけねーだろ!もしも負けてたら俺のほうが覚えてるぜ、絶対!」


「っててぇ~!そ、そういえば夢だったような……!!校長、正直俺は正者なんて名前は覚えてないけど、帝国から帰った直後なら覚えていたと思う!!で、俺は同級生たちにした話ってのが、俺が活躍した話、つまりは夢の中での話がほとんどのはずなんだ!!!」


あ、そういえば。思い出したぞ!烈のやつ、幻の必殺技で俺を倒したとか寝言言ってやがったんだった!帝国から烈を連れ帰って、寮のあいつの部屋において、外で奴のおやつを食ってたとき!くっ、烈め、あの妄言を他のやつにも話してたのか!


「では、正者と言っていた相手というのは、もしや」


「夢の中で戦った誰かって訳だぜっ!!!そうー、確か、悟だろー。アルテだろー。魅異とも会っただろー。アミュリーが変だっただろー。んー、そのくらいかな!あ、でもアルテは悟の変装だったから、三人だなっ!!」


「って、勝手に夢の中の俺で遊ぶなーっ!」


[ばこっ]


「いてて!どうせ夢だろ!?叩くな悟こいつー!!」


「ふむむ、烈君も含めて五人ですか。でも魅異君だと私では……。可能性が一番高いのは、お金にがめつそうですしやはり」


って、なんだなんだ?あの校長がまじめそうな顔して考え事してるぞ!もしかして仕事にだらしないせいで、特星本部あたりから注意喚起でもされて、仕事してる真似でもしてるのか?高校も何年長期休暇が続いてるかわかんないほど休み長いし。……自業自得か。


「どうしたんだ校長ー!?考えごとなんてらしくねーぜ!!!まさか正者ってのはそんなにやベー奴なのか!!?」


「よせよ、烈。きっとろくに設定も作らずに仕事してるフリを」


「正者というのは、私の行方知れずの兄の名です」


……なんだって?


「「校長の兄だって!!?」」


「そう。物欲集合体の異名をつけられた兄はとてもがめつく、その、なんというか、……すっごい図々しいのです。……言葉だけだと問題なさそうに思うでしょう?特星だとそんなの日常茶飯事ですし」


「ああ」


「はっきり言って悟レベルだな!!」


「烈、俺は図々しくないから殴らないぞ」


「一日に三不法侵入をモットーにするほど高頻度!五歳での年間補導数は千回越え!まともに補導された回数はほんの数回!「天下の迷惑小悪党、正者!」って、やっぱり悟君知ってるじゃないですかー!もー!」


おいおいおい!地球にいた頃よく聞いたフレーズだし、俺でも知ってる有名人だぞ!確か、七歳で行方不明になった不法侵入・器物破損・業務妨害の天才。度の過ぎた悪事を働く組織しか狙わないが、家庭会社団体などを問わない上、資産をほぼ壊滅させるやべーやつだとか。……俺が地球で射撃大会に出てた時期でも、テレビ局で特番を組まれるほど知名度はあったはず。


「おお!!?なんかかっこいいな!?」


「ああ。俺が地球にいた頃は、大人からは帰りを待つって声が高かったな。異名もやりすぎ義賊とか逆徳政令とかそこまで酷くはなかったような」


「まったくもう、結果だけは知らない人受けするんですから、もう!……仕方ありませんね!私の波動裁判によって、魔の手が特星に向けられないか見極めます!来なさい悟君だけ」


「俺、だけ!?いやまあ別にいいぜ。いいんだが。……烈を相手にしなかったことを後悔するんだな!水圧圧縮砲!」


「なっ、とぉ!?」


[どかあぁっ!]


よし、とりあえず先手は取れた!だけど、直前で校長が身を反らしたから魔法弾の半分ほどしか当たってないか。


「くぅ。波動点射です!」


「なんの!分裂攻撃には同じく、空気圧分裂砲!そして電圧圧縮砲!」


「同じような直線的な攻撃は通じませんよ。波動ワープ!」


[ばちばちぃっ!]


ぐああぁっ!く、校長に撃ったはずの魔法弾が俺の背中にっ!ちっ、ワープ機能だな。そういやあの波動で校長自身が移動してるんだったか。まったく、波動とか言っとけばなんでもありだと思いやがって!


「いてて。校長に遅れをとるとは」


「なあなあ!!俺はどっちを応援すればいい!?」


「烈ならさっさと俺を守れ!」


「がんばれー!!!こうちょー!!!応援してるぜー!!!」


「任せてください。これでも教師、生徒に遅れはとりませんよ。波動波!」


大型の光線か!似たような技相手だと避けきるのは困難!だが凍ったりするわけじゃないだろ?なら答えは簡単だ!


「コートを盾に主人公タックルっ!ぐ、うおおおおぉっ!いってててぇ!」


「避けずに突っ込むですって!?ええぇと、次は」


「遅いんだよサボり教師!水圧圧縮砲!」


「正面!波動ワープ!」


[ざざっ、どがああぁっ!]


「う、なぜ、私に魔法弾、が?……やられ、ました」


[どさっ]


「ふ、同じような攻撃は通じないんだろ?まったくだな。同じ位置にワープを設置してんだもん。波動で見えないだろうがよくみてみな!俺は背後のワープ波動に回り込んで撃っていた!」


とはいえ、波動の裏側を撃ったからって、校長側に弾が出るとは限らないが。現にうまくいってるんだから俺の勝ちって訳だ!……んー、考えてもわからねーけど、とりあえず波動の法則は全て見破ったぜ。


「さすがは悟君。波動aに入るときの方向によって波動bから出る方向が変わる仕組み、見抜いていたのですね。そして波動bに入るときもまた然り」


「またしかりーっ!ふっふっふ、校長、俺は知的な主人公だぞ。考えるまでもなくわかっていたさ。そして今の戦闘で俺が正者とかいう兄じゃないとわかっただろ?」


人並みはずれた戦闘の読みとセンス!欲深いだけの一般人との差を感じるはずだ!これは主人公確定で間違いなしだろうからなー!はっはっはっはっは!


「ああはい。さっき波動波に突っ込んでくれたのでわかりましたよ。間違いなく悟君でした」


「……え、あれ。それだけ?」


「うううー、それにしてもなぜ戦う必要が……。こほん、あー、烈君もちょっとこっち来て下さい」


「ほいほい!どしたー!?」


「はい。……烈君も大丈夫と。では私は起き上がれそうにないのでこのまま帰りますね。さよならー」


「あ、校長!今の戦闘はあんたの運動不足を考慮した完全完璧なサプライズプレゼントだからなー!主人公はそういう配慮も出来るほど賢いんだぞー!」


って、もう居ないや。これだとまるで俺が勘違いして戦闘を仕掛けてしまったようだ。烈の診断はすげー薄い波動のベールみたいなので一瞬包んだだけだったし。


「校長の兄、正者か。……烈は特星生まれだから知らないだろうが、地球には日本という国がある」


「知ってるぜ!悟の故郷だったっけか!!」


「そうそう。で、俺の生まれ故郷は瞑宰県っていう、……県は、まあそういう地区にある瞑宰町なんだが。俺が生まれる少し前にはそんな名前の県や町はなかったらしい」


「はあ。だがよ悟!このタイミングでその話を持ち出すってことは、まさか正者は町の名前を変えるほどの歴史っぽいやつなのか!?」


「歴史っぽい奴のはずだぜ。いつだったかな、語呂合わせで……、そうそう平成31年だ。平成31年のエイプリルフールにおきた大事件、日本国逆徳政令事件、別名、大恐慌エイプリルフールとか大虚構エイプリルフールって言われてる。…………日本の国家予算が全部盗まれ、多くの貨幣製造施設が壊滅した大事件さ!」




暇つぶしに烈に正者の話を教えていたが、よくよく考えたら俺も詳しくはねーな。そもそも俺の世代の人間でもないし。とりあえず、正者が日本の国家予算を壊滅させて、それが日本中の県名や町名を変えるきっかけになったくらいしかわからん。因果関係も当時の人間じゃねーからさっぱりだ。


「やべーなそいつ!!俺の部族ならテロリスト扱いで多分そいつ殺されるぜ!!!」


「ん?まあそうかな?ま、俺が地球にいた頃は単なる話のネタだよ」


「おやおやおやー?話題のネタとはもしかしなくてもぉ、我のこと?くくく、いいぞいいぞ、もっと我を話題の中心にして盛り上がるのだー!」


「あ、ワープ猫」


いつぞやのクソ猫ゲージが空中の異空間から顔を出す。そして回転しながら着地!って、あれ?今日のこいつの服装は比較的少女趣味っぽさがないな。一瞬少年っぽい雰囲気を感じたぜ。……着地時に見えてしまった女児用パンツがなければ、だが。


「なんていうかお前、雰囲気変わった?」


「おおー!その格好勇者か!!?かっこいいー!!!」


「ふふん、ふふふん、知恵のなさそうなお主らにもわかってしまうかー。いやぁ別に自慢するわけではないがな、元勇者に弟子入りしたオーラというやつが?あふれ出ているのだろうなぁ!」


そういえば、こいつウィルに弟子入りしたんだっけか。先週の平日、校長と世間話をしてたときに聞いた気がする。……こんな猫を弟子に取るなんて、ウィルの奴もなに考えてるんだろうか?


「くくく、我のこの姿を拝めたのはラッキーだぞ?今日はたまにやる勇者活動の日だからこの服装なのだ。いつもなら目にすることのできぬ代物よ。これは本物、師匠の現役時代のお下がりだからな!ほれほれ、非売品であるぞ。目に焼き付けさせてやろう!」


なるほど。ウィルの衣装だからちょっとすっきりしてるっていうか、それほど少女趣味を感じさせない動きやすい服装なのか。機能美ってやつだな!


「あ、そういえば校長がさっき来てたぞ」


「え?ヒゲのおっさん、ごほんっ……じゃなくてご主人様が?」


「ご主人様!?悟、こいつ校長に仕えてるのか!!?」


「だははは!校長ついにヒゲのおっさん呼ばわりか!哀れー!」


「ふん、確かに正安は我が主。だが、我の心はすでに師匠に捧げ、勇者一色!あんなみすぼらしい男に哀れみなど感じぬな。……お主らがやつに哀れみを感じるのは、お尋ね者として地に堕ちたからだろう?」


「「ば、ばれてる!!?」」


し、しまった!あまりにお尋ね者扱いされなさ過ぎて忘れてた!俺たちはお尋ね者扱いされてるんだったよ、そういえば!となれば次のパターンは当然。


「悪の一味め!我が勇者の剣技のさびにしてやろう!光栄に思って散るがいい!勇者突ー!」


「やっぱりか!って、短剣?……主人公パーンチ!」


[どかぁ!]


「ぐ、うぅっ!?」


少しアッパー気味にして偽勇者猫を中に浮かせる。そして不意打ち気味に決まったのか、全方面がら空きだぜ!


「水圧圧縮砲!」


[どかああぁっ!どかっ!]


「ぎゃん!」


ゲージは店の柱に叩きつけられて下にぼとりと落ちる。意識はあるようだが地面を這っているところを見るともう動けそうな感じではないな。弱っ。


「えーっと。とりあえずあれだ。遠距離か不意打ちかどっちかにしとけー?」


「ぐ、……くっ。貴様も、師匠と同じことを……。正面対決ができることの証明に、……お主らを、倒すつもりだったのに」


「素人目に見てもわかるぜ!!リーチ差あるからやめとけ!!!」


「……ふん、どうせ正面突破のほうがカッコいいとかそう思ってるんだろ?だがな、大スターもどき。遠距離や不意打ちのほうが本当はカッコいいのさ」


「ど、どうして?」


「主人公の俺が使ってるんだから当然だろ!お前何を見てるんだ?」


「「うぜー………」」


ふーんだ。どんなに呆れようが俺は勝ってるし負けるほうがカッコ悪いね!ってか、戦闘で役に立ってない烈まで呆れてんじゃねー!工夫したら戦力になるだろうにこいつはよー!




猫は帰った。しかしお尋ね者である以上、また同じように俺たちの首を狙うやつが現れるだろう。外はすでに雨が降り始めている。梅雨入りしてしまったってことか。……事態は深刻だ。このままだと不快感全開の梅雨の中を走り回ることになってしまう。


「あー!ついに梅雨入りしちまったぜ!!どうする悟!?傘でも買ってくか!?」


「几骨さん遅いな。こうなったら、この勇者社を防衛拠点に使うか?」


「ふふふふふふふ。その必要はありませんよ。哀れな哀れな指名手配犯のお二人さん!」


「「誰だ!?」」


この声が聞こえたのはそっちの通路からだった、って、二人組?男女のペアで、しかも女はスーツを着ている!?こいつは怪しい!


「間に合った!几骨社長秘書よりも先に着きました!これぞ乙女の勘ってやつですかね!ふふふ、はははははははー!」


「あの、目標探したの俺の人脈なんすけど」


「へい!シャラップ手下一号!目標を目の前になーに世間話してるんですか!見てみなさい。あなたの暢気っぷりに目標は言葉を失ってますよ。子供にバカにされて恥ずかしくないんですか、あなた?私ならぶっ飛ばしてますね!」


「とりあえず、階級は同じっすよ。俺のが勇者社に入るのひと月遅かっただけで」


な、なんだこのテンションの差がバカみたいに違う二人組は。相性悪そう。……ただスーツの几骨社長秘書って呼び方には覚えがあるな。確か手紙に書いてあった呼び方もそんな感じだった。


「おい、そっちのスーツ女。俺たちを罠にはめたのはお前だな?」


「はっ!しいて言うならあなたたちの自業自得といったところですね!」


「なにー!!?じゃああの頭悪そうな手紙もこいつらが書いたのか!!?センスやベーな!!!」


「いや、俺もやめとけって言ったんすけど、この人聞く耳を」


「子供は自身の能力のなさをそうやって人のせいにする!ふふふ、未熟ですねー、哀れですねー。今この場で判明しているのは、お尋ね者のあなたたちは紛れもなく悪であり!それを倒す私たちは紛れもなく正義であることです!」


「ふん、ちょっと違うな!主人公は俺で、俺が正義で、間違いなく俺が勝つのさ!」


「力が全ての未熟者の言葉ですね!その力すらも私には遠く及ばないことを知りなさい!さあ、やっちゃってください手下a!」


「へーい。そういうわけで君らに恨みはないっすが、覚悟してもらいますよ」


って、タッグで戦うとかそういう感じのでもないのか。別に手下男なんか倒してもなんの得もないが。……邪魔するならばぶっ飛ばすまでだ!


「おいおい!こっちは二人だぜ!!そっちは一人でいーのか!!?」


「一応バイト料貰ってるんすよ?引くわけないでしょ」


「ふん、そりゃ残念だったな。安いバイトで俺の相手をするなんてな!水圧圧縮砲!」


「質網、細目の柔網!」


[ぎぎぎぎ、ばしゃあぁん!]


なに、俺の水圧圧縮砲がゴムっぽいネットにはじき落とされた!あの手下野郎、遠距離に強そうな特殊能力を使いやがる!


「ふっふっふ!この手下1号は意外に有能でしてね!彼の網の特殊能力は質系、非質系、補助系全てに適正があり、検定試験などを経て全系統使える状態なのですよ!これが熟練の身のこなしというやつです!はははははー!」


「あの、もうちょっと個人情報尊重してほしいんすけど……」


「よそ見しすぎだー!!その網引き裂いてやるぜえぇっ!!!烈パーンチ!!!」


「質網、細目の剛網」


[がきいいぃん!]


「いってええぇっ!!この網硬えぇっ!!!」


「硬くて柔軟性抜群なんすよ。質網、厚地の多重ロールネット。そーら、いっちょ上がり、ってね!」


[がっしいいぃっ!]


れ、烈が簀巻きにされてしまった。別に戦力としてはなんの変動はない。だが、あの敵の簀巻き攻撃は片手で相手に簀巻きにできるようだし、気をつけたほうがいいな。


「ダメだ!!動けねー!!!」


「どっすか?威力はないけどもう戦闘不能っしょ」


「ふん。ちょっとはやるじゃないか。だが烈と違って俺は」


[ばぁん!]


「……っく、いってええっ!」


く、銃弾が見えた、銃で撃たれたのか!……網野郎の後ろでスーツが銃を構えてやがる。網野郎が邪魔で気づかなかったぜ。


「忘れたなんていわせませんよ。これは二対二の勝負!戦力が減れば一方的にボコボコのボロッカスにされると思いませんか?」


「あ、あの。銃弾、俺のすげー近くを通ったんすけど」


「そりゃ射線上にいれば当然でしょう。私、初射撃ですよ。うまく雷之 悟だけに当たったのは相当運がいいですね。ふふん」


[ばぁん!ばんばぁん!]


また銃声が鳴り響いたが、今度は二発は見当違いの方向に飛んでったか。そして一発は見当たらないし、俺は当たってはいない。……ってことは?


「ぐぁ……」


[どさぁ]


ああ、やっぱり部下っぽい奴の背中に銃弾が。


「あー!ちょっと退いてくださいよ、部下ファースト!あなたは私の盾になって、私の攻撃を避けて、その能力で敵の攻撃を妨害し、私の攻撃が当たるように敵を誘導する!それだけすれば私の勝ちは決まりですよ!がんばって!」


「もう意識ないぜ、そいつ」


「え、嘘?」


「お前の意識ももうないがな!空気圧圧縮砲!」


[どかあぁっ!]


「きゃあああぁっ!」


……あの黒幕黒スーツ女、俺の空気圧圧縮砲に当たって動かなくなった。そしてさっき部下のほうも背中から撃たれて気絶した。


「無事なのは俺だけ!あまりにも簡単に勝ってしまった!」


ど、どーいうことだ?銃弾や魔法弾一発程度で決着がついてしまうなんて。よ、弱すぎないか?勇者社の社員教育とかがちょっと心配になってきた。いやまあ、社員教育してなさそうではあるが。


「おい悟!俺も無事だからな!あとこのぐるぐる巻きのネット解いてくれー!!」


「ふっ。烈、そこまで見事に捕まってる状態は無事とは言わねーと思うぞ」


「その通り」


[ずむっ!]


「あぐぁっ!」


「な!烈!?な、何者だお前!?」


急に空中に現れて、烈の顔面上に自然落下とは思えない速度で着地した、……女子小学生か?いや、背中についてるのはどう見ても羽!こいつ、モンスターだな!尻尾があるから鳥系ではなさそうだけど。……夏なのになんでふりふりの長袖洋風着てるんだろ。


「満足できていないように見える」


「は?……お前誰だよ!あとその位置だと烈からパンツ見えるぞ」


「さっきの戦いだからなあ。やれやれ仕方ない。私が満足させてやろう」


「もしかして俺たちに懸けられた賞金目当てか?」


「違う。私の名はオマー。見ての通り悪魔さ」


あ、悪魔だって!?羽と尻尾が黒い以外にそれっぽさはないようだが。まさか、こいつがそこの雑魚どもを操ってたとかそういう感じか?スーツ女とか黒幕のわりに自滅紛いなことしてたし。


「お前がなんかこう、今回の事件の犯人か!」


「違う」


「え。そこに倒れてる奴らとのつながりは?」


「こんな奴ら知らん」


「なら、勇者社関係の人?俺らが暴れすぎたから鎮圧にきたとか」


「いいや?」


「……梅雨との関係が」


「ないなあ」


「じゃあ目的はなんだよ!こっちはクライマックスなムードだったんだぞ!」


あとは几骨さんがくれば、そのまま終わりか几骨さん倒して終わりだったのに。こんな事件解決の後に一体何しにやってきたっていうんだ?なんていうか水を差された気分だ。


「強い信仰を感じたのでな。私が邪神になるために奪ってやろうと思ってきた。だが、今の戦いを見て、とても冷え冷えとした気分になった。私にも貴様にも、共に燃え上がるための火種が必要だ」


「つまり、今回の事件の犯人、被害者、巻き添え係、情報提供者のどれでもないと。……お前、タイミング悪いだけの通り魔じゃねーか!」


「燃えている燃えている。だが通り魔は心外だ。親切な悪魔さんだ」


「信仰目的でなーにが親切だ!喰らえ、水圧圧縮砲!」


「当たりはしないさ。私は超すげえーというやつだから」


く、飛んで避けられたか!ここは勇者社内だから攻撃届かないほど高くは飛べないだろうが、空中での移動速度も普通に速い。


「口を閉じ込めても湧き上がる苦しさと熱、ブラックミスト・テレマ」


「おお?辺りに霧がげほっ、ごほ!しかもちょっとむせる!」


辺りが黒い霧に覆われて、電気がついてるとは思えないほど暗くなった。霧っていうか毒ガスかなんかだろ、むせるし。


「ごほん。こいつ、なら空気圧圧縮砲!」


「当たる度に身体は痛み心すら侵食する、ダメージハント」


「っと!危なねっ」


黒い槍かなにかが降ってきたが何とか避けれた。にしても前口上が毎回長いようだが、もしかして呪文的なあれなのか?回避中も呪文中も隙があんまりないから厄介だ。


「さて、こんなものか」


「なんだ、休憩か?げほっ。空気圧分裂砲!」


「おっと。まあ聞け。すでに貴様は私を捉えられいほど深く暗黒霧に呑まれている。そして時が経つにつれて奪われる体力。貴様にはもうどうしようもないのさ」


「今の惜しかったな。ぎりぎり避けられた」


「私の声を頼りにしているようだが……。私が会話に飽きて、音すらも封じれば貴様の思考は不安に支配される。万が一にも攻撃は当たらない。詰みだ。……そろそろ完全に明るさが失われる。怖いだろう?理性のある今のうちに嘆き、憤慨でもしておくか?」


「ん?げほっ。た、確かにまったく何も見えない気が……」


「そうだろう、そうだろう」


「気がしないキック!」


[どかあぁっ!]


「ぐぁ!?」


よっしゃ!バカめ、近くにゆっくり下りてくるとは!俺のしなやかかつ正々堂々正面からのキックで着地際を見事捕らえてやった!


「ぐ。き、貴様ぁ。どうやら、相当に耳がいいらしいっ」


「耳がいいだって?ふははは!お前は相当に油断と思い込みが激しいらしいなぁー!水圧圧縮砲!ごほごほっ!」


「く。音は塞がれて」


「まだまだ!空気圧分裂砲だ!げほっげほごほごほっ!」


「うるさいしいいや。ダークサイレンサー」


〔なんだ、空気の様子が?って、俺の声が聞こえない!あとちょっと空気薄い気がする!〕


空気の肌触りが変わったかと思ったら自分の声が聞こえなくなった。ていうか体の動かし具合も変だ。なんていうか力を入れ続けないと止まる。口は普通に動くようだが声が聞こえない。


あの悪魔は、いたいた。前方上からゆっくりとこっちに近づいてきている。でもさっきまでは、羽を使ってなさそうなレベルでしか動かしてなかったのに、今はなんかすげー激しくばさばさ動かしてるな。移動速度は遅いけど。


〔なら先手必勝だ!電圧圧縮砲!〕


……って、電圧圧縮砲が飛ばない!?どんどん減速して地面に落ちてしまった。ど、どうやらこの謎現象の影響らしいな。じゃあ、あいつが寄ってくるのを待つしかないのか!?


〔だが、あの悪魔女の諦めムードを粉砕し、奴の澄ました態度が動揺したことにより、俺の勢いは格好つけたいほどノリに乗っている!誰がカウンターなんて待つもんかバカめ!〕


この場で正常に働く魔法弾で先手を撃つのさ!今、正常に働いているのは重力、光、口……口と言うか体内?でもさすがにそれら魔法弾はまともに作れる気がしない!


〔……いいや、もう一つ、もう一丁だけ手はあった!悪魔を倒すにふさわしい一撃が!〕


動きにくいが、素早く水鉄砲ともう一つを持ち替えて、よし。これならいける!格好良くいつの間にか持ち替えていた光線銃、エクサスターガンなら!


〔ふっふっふ、運のいいやつめ!決め台詞のために消滅は見逃してやるぜ!設定はやや強めだ!エクサスターショット!〕


……思惑通りだ!光線球は普通の速さ!のろのろと降りてくる悪魔に直撃だ!


「お、空気が」


身体の動かしやすさや声が元通りになり、空気の感じも戻った。ちょっとむせそうだが、暗さの原因の霧も薄くなって光が差してきたな。


[どさぁ]


「く。バカな。ずっと見えていたのか。……水鉄砲で狙われた時点で、気づくべきだった」


「闇には強いのさ!で、結局お前なんだったんだ?」


「説明はした。見ての通り、可哀想な悪魔ちゃんだ。酷い男」


「精神攻撃は通じないぜ。それに攻撃前の呪文みたいなの、三つ目のときは途中でやめてたな。お前、信仰じゃなくて感情が目的だっただろ」


「ん?感情と信仰って違うのか?答えて、神様だろ」


「全然違う!」


悪魔なのになんでそんな違いもわからないんだろう。……いやでも、よく考えたらどっちでもいいか。俺の体がもしコート神じゃなくて悪魔なら絶対気にしてないな、うん。


「やっぱいいや。それよりこんな弱そうな神に負けてちょーショックだ。帰る。泣きながら帰ってやる」


「悪魔って泣くのか?」


「貴様なんかよりいっぱい泣けるし。……くっ、覚えてろぉ!わーん!」


泣きながら飛んで、勇者社の階段から上階へ逃げていった。ほ、本当に泣くのか。なんだかまるで俺が泣かせたかのような感じで、人がいたら誤解されそうだ。


「いつの間にか霧もなくなってるな」


「悟さーん!」


おや、フロアの奥から聞き覚えのある声が。あれは、几骨さんだ!


「はぁ、はぁ。遅れてすみません!黒い煙のようなものが見えたので消火器を探していて。……え、悪魔と戦った、ですか?」


「几骨さん、いきなり心読むのやめてもらえます?」


「自動なので。なるほど、勇者社を占拠したのはそちらで寝ている、……名前のわからない女性社員の仕業だと」


「ああ。几骨さんは知らないのか?」


「うーん。どうでしょう。重役や魅異社長の友人ではないと思いますが。……そちらの男性の方は、特星本部で何度かみたことありますね。だるそうな人です」


几骨さんのものの覚え方は、なんか俺に近いかもしれない。俺もモブっぽい奴はあんまり印象に残らないし、大体能力や雰囲気で覚える。


「ええっ。覚え方変えようかな。……こほん失礼。今回は、部下が勇者社社員として悟さん方に迷惑をかけたようで、申し訳ありませんでした」


「手紙に勇者社社員って書いてたからな。修理代とかの弁償なしにして欲しいんだけど」


「それは大丈夫です。そもそも普段であっても、勇者社から戦闘被害による修理代の請求はありません」


「そういえば来たことないな。……たまに魅異に渡されるけど」


「あー、多分社長の趣味ですね。勇者社の管轄じゃないので捨てちゃっていいですよ。……悟さんたちの首に懸けられた賞金もすぐに解除しておきますね。では、特星本部へ行くので失礼します」


そういってフロアの奥へと立ち去る几骨さん。あの人いつも忙しそうだな。おかしな部下を持ったばかりに。……さて、どうやらこれで俺の賞金首騒動も終わりみたいだ。烈は気絶してて謝罪してもらえてないけどな!ふははは。


「時間だけは掛かる事件だったな。さて、おい烈起きろ!いつまでも寝てると賞金に換えるぞ!……は!そうかこの手が」


今ならまだ烈は気絶している!俺だけ賞金首を解除してもらい、そして烈を突き出せば賞金は俺のものじゃないか!なぜ気づかなかったんだ!几骨さんは、……もう見当たらない!


「几骨さーん!違う、違うんだー!烈はあんたの部下の被害者じゃなくて、几骨さんによって賞金首になった本物の賞金首、って」


成り立たなねえ!やっぱり烈は本物の仲間だったんだ!ふ、危うく敵の巧妙な仲間割れトラップに引っかかるところだった。……帰ろ。

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