二話 大蘇生のネーミング集合体
@悟視点@
新年が始まったばかりで寒さがますます強くなってくる冬の夜。季節が季節だけに海の上はかなり寒いな。こんな日に船出なんて正気の沙汰じゃないぜ、まったく。ああ寒い。
「こんな日に新年会のお誘いだもんな。それも転送装置の使えない帝国から。寒くて仕方ないぜ」
〔そりゃまあ船の外に出てれば寒いさ。船内戻れば?〕
「その手には乗るか。船内に戻ればすぐにでも熟睡して、初日の出を見逃すことはわかりきってる。それに残り五時間程度なら平気だ!ってかボケ役こそ復活して一日も経ってないけど大丈夫なのか?体とかはまだ作れてないんだろ?」
〔まあ。地球で作ったときはツッコミ役の体が残ってたからよかったんだが。一からまったく同じ体を作るのは大変なんだ。あ、ところで流双の教会に体の一部でも落ちてなかった?〕
「怖いこと言うなよ。落ちてるわけねーだろ」
〔うむむ、同化して全部夢になっちまったか。もう面倒だし記紀弥あたりに実体化の技でも教えてもらうかー?〕
あ、もしかして幽霊状態なのか?昨日から声に出さないと返事しないから変だと思ってたんだ!ってか、俺の体なんだからちゃんと作り直せよ。
〔あああ、動き続ける船の上じゃ寝れもしない。眠くもないけど。あー、早く体欲しいー〕
「ふふ、体が欲しいのか?」
「え?あ、お前は、神酒!」
「いい様だな、悟。どうだ少しは幽霊の苦労もわかってくるだろう?」
って、どこ向いて話しているんだこいつ?……あ、そっか。多分、神酒の向いてるほうにボケ役がいるんだな。ていうか俺とボケ役を間違えてやがる。
〔おや、寺の危ない幽霊だ。俺になんか用なのか?〕
「いやなに、悟が幽霊になったって聞いてさ。本当は去年と一昨年のお菓子代の清算にきたんだが、まあ死んだみたいだし許してやるよ」
げ、神酒め、まだそんなこと根に持ってやがったのか!そういえば一昨年も襲われたんだった。去年は襲われなかったからすっかり忘れてたよ。話変えよ。
「神酒、なんかいつも以上に偉そうだな」
「幽霊には格がある。なににも化けれないただのお化けは最も格下さ。ま、悟は私を見習って精進することだ。まずは寺のお菓子を盗まないことから始めるんだな!」
〔ああ、新年早々嫌味を言いにきたのか。悟は日ごろの行いが祟って大変だな、悟は〕
「ボケ役!?バカっ!」
「あ、あれ?んー?おい、幽霊のお前が悟じゃないのか?」
〔ツッコミ役の悟と一緒にするなよー。黒悟様は世界に唯一だぜ〕
ぼ、ボケ役の野郎、わざわざ名前で呼びやがって!この先でどういう展開が巻き起こるかわからないわけじゃないだろう!?
「よかった、悟は生きていたのか。なら遠慮なく罪の清算をさせてもらうっ!死ぬより怖い痛みを味わい尽くせっ!」
「そうくると思ってたし年明け早々でテンション高いな!緑コートの主人公、悟様が相手してやるぜ!」
「ふん、いまの私は生者ハンターの異名を持つ。勝てると思うなよ!」
やっぱり神酒の奴は刀を隠し持ってやがったか。新年会なのに物騒なもん持ち歩くなよな。という俺は水鉄砲だからジョークで済まされるが。
〔あ、じゃあ俺は〕
「死んだ幽霊にしてやる!水圧圧縮砲」
「ふ、停止。そして喰らえ!直進!」
「あぶねぇ!」
水圧圧縮砲が倍くらいの速さで撃ち返された!あいつは確か動きを変化させる能力。く、相変わらず面倒なやつだ。
「だがお前が変化させれるのは手と刀で触れたものだけ。数の力で押し切ってやる!空気圧分裂砲!」
「う、くっ。見えにくいし数が多い!反射!」
ふはははは!この技はダメージこそ少ないがどんどん疲労が蓄積する!逆に、いくつかはね返されたところで俺はちょっと痛いだけだ!
〔ん?あ、ボケ役後ろ!〕
[どがあぁっ!]
「ぐあああっ!?」
な、なんだ!?後頭部にすごい痛みが!しかもこの当たったのは水だと!こ、これは多分俺の水圧圧縮砲じゃないか!
「いっつぅ~。く、神酒の技ってあんな使いかたもできたっけな?」
「教えてやろう。前から兆候があったが、私の特殊能力はパワーアップした。私が手放したものでもこの通り!」
神酒が刀を投げた!?しかも俺に全く当たることなく、頭上辺りを通過して。
「落下」
「げ、うおおぉっ!」
[ざくぅ!]
み、神酒の刀がギロチンみたいに振ってきたあぁっ!こ、怖っ!まるであいつの残酷な性格をそのまま現してるような技だ!
〔特殊能力は使いこなすほど強くなる。その辺で切りまくったんだろうなぁ〕
「……ボケ役がツッコミ放棄するぅ」
〔え、なに?さっきのギロチン回避でまさかボケてたの?〕
「お前ら油断しすぎだ」
[きぃん!]
しまった!俺の水鉄砲が神酒にはじかれて船の奥に!しかも神酒がいつの間にか投げた刀を持ってる!く、こうなりゃ接近戦じゃあ不利だがハエ叩きで!
[ずばぁ!}
「いてえええぇー!」
「とどめだっ!」
もう無理だ!やだけどこの技しかない!俺と刀の間に魔法弾を!
「電圧圧縮砲!」
「ずばばちちぃっ!!」
「うわっ!?」
よし、神酒が刀を手放したが電気がぎゃあああぁー!背中水浸しで超喰らうぅ!
「ぎゃあああぁっ!電圧刀投げえぇっ!」
「う。て、停止!」
いてて。だ、だろうな!だが電気刀に気後れした時点で不意打ち確定だ!コート魔術・移動。コートを囮に背後上を取る!
[ばちちぃ!}
「うぐぅ!あ。なにっ、コートだけ!?悟は」
「上さ!不本意ジャンピングキック!」
[どがぁっ!}
「うぐぁ!」
神酒の後頭部にかかと落とし気味のキックだ!神酒は、うん、どうやらすごく痛そうに頭を押さえてやがる。なんか見てるこっちが痛々しいなぁ。
「うううぅ~。く、日を改めるか」
「うぅ、気分が!は、早くコート着ねーと!」
「……コート脱ぐと弱るのか?脱がずに飛べばいいのに」
「いや、コート脱がないとあんなに飛べないし」
そういえば、なんでコート脱いで弱体化してるほうが高く飛んでるんだ?あれか?実はコート神って脚力とかひ弱いの?教えてくれよ解説ボケ役。
〔生者ハンターだとか言ってたが、図に乗りすぎたな。ハンターだって獲物に狩られる。遊び半分に人を襲うような真似はよしておくことだ!〕
「うう~ん、私としても水に流したつもりだったんだが。なんとなく斬らなければという気がして」
「心の底で許せなかったとか?じゃあ俺も神酒のあのことを許してやるからそれでおあいこだ」
「あれ、私なんかしたっけ?」
「特星本部への寮生報告書。妹から聞いた話だが、神酒が俺のことを悪く書いたそうじゃないか。二年分のつまみ食いしたお菓子代とおあいこでいいぜ」
「あれは記紀弥様の手伝いだし嘘は書けないんでな。それにお前、私はかなり配慮してやってるんだからな?勝手な思い込みなどで他生徒に喧嘩を売り、話し合いの余地もなく、危険人物だとかを引き連れ、特星でも相手を消し去れる兵器を平然とぶっ放す。これが妥当な評価だろう」
「ああ、確かにそんな嘘は書けないな」
心当たりは無くもないが、そんな誇張した意見はもはや嘘と同じようなもんだ!それに寮内での素行はそこまで悪くはないはずだし。事件解決中の印象が強くて偏見を持ってるんだな。
「まあいいさ。じゃ、今までのお菓子の件はそれでチャラにするから、もう二度と私のお菓子を盗み食いするなよ?キールのとかならいいから」
「神酒のかどうかなんて最初から気にしてないぜ!俺はきっと食う!」
「二度と寺に来るなっ!」
ふあぁ~。ようやく帝国に到着したようだ。結局、昨日は神酒との戦闘疲れで部屋に戻って寝てしまった。……ああ、初日の出はすでに高い。ていうか、ほぼ真上じゃね?
「げ、まさか寝過ごしてる~!?もう昼じゃねーかよ!」
〔あ、ようやく出てきたか。寝坊だぞツッコミ役。皆はもう四時間も前に出ていった〕
「お、ボケ役か?道とかわからないんだけど案内してくれ」
「俺も知らん」
な、なんてことだ!まあ、帝国城にいけばいいとは思うんだが。一般客と間違えられて帝国兵に教われないか心配だな。ああ、こんなことなら夜更かしするんじゃなかった。
「あああ~!やはり昼か!くぅ、釣りのし過ぎで寝坊してしまった!」
「おや、他にも寝坊したらしき奴が。って、なんだその埃そのものみたいな服」
「あん?なんだい君は?いや、名乗る必要はないよ。まず小学生ではないから新帝国の人間ではない。そのみすぼらしいコートから新年会の参加者でもない。君は帝国の宝を狙う泥棒、というわけだ」
「大ハズレだ!だが帝国に詳しそうな案内係は見つかったな。さあ!目的地まで案内してもらおうか!痛い目に会いたくなければな!」
「はん。いまの私は寒くて寒くて機嫌が悪いんだ。ちょっと運動して凍った服を溶かすとしよう。帝国のダークブレードと呼ばれていたこの私、ウェリーニア様の剣技を味あわせてやる」
「偉そうなやつ。緑コートの主人公、悟様に敵はないぜ!水圧」
「炎剣、ごおっとブレード!」
うおぉっ!?あ、危ない!あいつの剣、予想よりもずっと速いみたいだ。ちょっと距離を気持ち多めにとっておくようにするか。
「逃がさないよ。火の刃、ごおっとダガー投げ。そーらそらっ!」
「短剣!?水圧分裂砲!……いてっ!」
く、あいつの短剣と俺の水圧分裂砲だとあっちのが強い!相殺できずにこっちの魔法弾が斬られてる!速度も威力も向こうのほうが強い!
「ふふっ、なんだかいつもよりも調子がいいな。今年はいい年になりそうだ」
「く、余裕そうにしやがって」
〔ツッコミ役。奴の特殊能力はおそらく質系の魔法剣を操る能力。魔法の剣や短剣を生み出すほうが本来の能力だ。だが特殊能力を使いこなしていけば様々な使い方ができるようになる。補助系みたいな使い方をしているあいつはかなりの特殊能力使いだ!〕
「なに?こいつのが質系の特殊能力だと?」
「おや、よく気づいたね。そうさ。私の特殊能力は魔法剣を操る質系の能力。もっとも、よくいる質系能力者よりもいろいろできるがね。こんな風に!飛び火斬撃、ごおっとスラッシュ!」
「なんの、水圧圧縮砲!」
[ずばぁっ!]
「いってぇ!」
おい、嘘だろ!?あいつの飛ばした炎に俺の魔法弾が斬られた!ど、どうしてこんな偶々遭遇したような一般人がこんなに強いんだ!?
〔それに相手のあの服。雲のようなものに覆われているが氷のアーマーだぜ。敵の炎の攻撃はわずかに弱まってあの威力だ!]
「やれやれ。ウォーミングアップにもならなさそうだな?」
「く、なんてわざわざ炎の技を。って、温まりたいからか。なら!油圧分裂砲!」
「はん、バカめ。油の分だけ私の技は強くなる!飛び火斬撃、スーパーごおっとスラッシュ!」
[ずばごおおぉっ!]
よし、船に火がついた。これで姿を隠しつつ目くらましも出来る。あとはあの埃服が船から逃げ出さなけりゃ完璧だが。
「しかも暖かい。はあぁー、やっぱり正装だからってこんな服着るもんじゃないなぁ」
「よし、ごきげんだな!油圧圧縮砲!」
「おっと。ふふふ、いつの間にか私の後ろ側に潜んでいたか」
「避けたか。ふん、だが俺は魔法弾を使う。つまりは遠距離攻撃のエキスパートって訳だ。お前の遠距離攻撃で俺は倒せないし、お前が近づけない無敵布陣を用意した。お前に出来ることは、燃える船から負け逃げすることだけだ!」
「え。君、まさかそれで挑発のつもりなのか?…………私は勝ち負けに興味はなかったが。どうにも君はぼこぼこにでもしないと勝手に勝ったと喜んでそうで腹が立つな。風の刃、ぶわっとダガー投げ!」
「風か!?よっと」
距離があるから何とか避けれたか。さて、炎の後ろに隠れたからすでに埃野郎の姿は見えない。あとは取っ手のあたりに油圧圧縮砲を落としておいてっと。
「見つけた!君は私の炎を逆手に取るつもりだったのだろうが、その手は食わない!とどめだ!水剣、びしゃっとブレード!」
「寄ったな?そらぁ!」
「足引っ掛け!?なんのっ!」
くくく、やっぱり飛んで避けたな!蹴る準備は万端だ!
「これでとどめ!主人公キ~ック!」
[がきぃん!]
「ふ、無駄だ。この服は凍っていてキックなんて、えぇ!?落ちっ!」
[ばちゅるん]
「取っ手を掴んでも落ちるのさ」
ふはは、船から落とす作戦大成功だ!炎と煙で視界が悪いし、挑発に乗ったから余裕だったな!遠距離攻撃だけはちょっと予想外で怖かったが。
「なああぁっ!ツタ剣、にょきっとブレード!」
[ばしぃっ!]
あ、あれ?あいつ船の側面、結構下のほうに張り付いてやがる!ツタ剣ってまさか植物のツタか?もはや魔法剣っていうか剣じゃねーだろそれ!うむむ、このあたりから魔法弾で狙えば落とせるかも。
[つるん]
「あ。…………やだ」
あああ。下を覗いてたから、自分の仕掛けた油で、滑ってしまったあぁ。もおぉ~!寒中水泳やーだー!誰かヘルプー!
「ん?上から何やら?」
[どかぁ!ばしゃばしゃぁーん!]
ううう。埃服には勝ったし道も教えてもらったが、城の見えるほうに道なりなんて聞くほどのことでもなかった。さ、寒い。
〔さっきの奴みたいに船の炎で暖をとればよかったんじゃ?〕
「バカ。それだと俺が放火の共犯者みたいだろ」
〔油撒いてたような〕
「じ、事故だしー」
まあ、埃服が本格的に捕まりそうならアルテに弁償させるさ。あいつ確か現帝国トップだから頼めばなんとかしてくれるだろう。新年会絡みだし大丈夫、うん。
「おや、聞き覚えのある声かと思えば。悟さん、でしたっけ?それとも黒悟さんですか?」
「ん?お前は、……占い師?」
「シスターですよー。ほらほら、このお顔に見覚えがあるでしょう?」
「げ!お前は教会にいた、流双!?」
〔なんだこいつか〕
確か羽双たちの母親の!ローブっぽい服着てたからわかんなかったよ。前に会ったときは夏の女生徒みたいな格好してたし。
「ううん、発音が違っているわ。ルソーですルソー。わかりやすくいうならばルソゥではなくルソォー。そっちだと和名になりますよ」
「お前、まだ特星っていうかこの宇宙にいたのか。さっさと他の宇宙にでも帰れよ」
「あら、邪険にしますね。星は違いますがわたくしはこの宇宙の生まれなのです、よ。ここからでは見えませんが、この指差す地面の向こうに地球という星がありまして」
「うん?え、あんた地球出身なの!?青くて丸くて日本がある星の!?」
「そりゃまあ。というかその日本生まれですよ、わたくし達は」
そ、そうなの!?達ってことは無双とかも!?お、驚いたなぁ。俺が日本にいたときはこんな宇宙征服をやって回るやつはいなかったが。
「あ、じゃあボケ役がルソーに喧嘩売ってたのもその関係か?前の事件で助けにきたとき」
「ボケ役、さん?前回も聞いたような。というかどこを見ているんですか?……なにかあるのかしら?」
〔まーな。昔、地球に隕石が落ちた日の、たぶん数日前ことだが。地球から発射されたロケットが壊れる事故があったんだ〕
地球に隕石?……ああー、そういえば昔にすげー大騒ぎになったことがあったな。隕石を女の子が、っていうか魅異が粉々に消し去っていたんだっけ。てか、あの日にロケット事故があったのか?
〔ロケット事故は最初、突如出現した隕石との接触が原因だと思われてたそうだ。だが後の調査で違うとわかった!ロケットは自らの自爆機能によって壊れていたんだ!〕
「自らの自爆機能で自爆?まさか。ルソーがロケットを自爆させたのか!?」
「ロケットの自爆?…………まさか。まさかあなたは、地球のロケットハイジャックのことを!?」
「え?は、ハイジャックぅ?」
〔やっぱりか。校長が言ってたぜ。ロケットに乗ってた乗組員は友人一人だけだったと。そいつの死体から西洋っぽい呪術の痕跡が見つかったと。そして搭乗口のカメラに映ってた乗客は、流双!お前だけだっ!〕
「校長が言ってたぜ。ロケットの乗組員は友人一人で、そいつの死体から西洋呪術の痕跡が見つかったって。そして搭乗口のカメラにお前の姿だけが映っていたのさ!」
「ふふふ。そうでしたか。実は無双も乗っていましたが、ひっそり搭乗しようとしたのが仇になりました。無双のように素早く乗り込めばカメラに映らなかったのね。ふっ。ですが、そんな過ぎたことを今更気にして何になるというのです?」
ふん、主人公相手に悪事を白状してただで済むと思ってるのか!校長は友人を失ってさぞ悲しんでいただろう!ボケ役としても仇をとってやりたいのさっ!
〔ベリーと天利の約束でな!悟ンジャーの撮影を宇宙でやる予定だったんだっ!なのにおめーのおかげでその話は幻の回として消え去った!こんなやつ宇宙の果てまでぶっ飛ばしてやれ、ツッコミ役!〕
「ま、まさか悟ンジャー宇宙編の、話が一部分抜けてたあの回か!?そいつは許せねえなぁ!勝ち目はともかくルソーはぶっとばしてやる!」
「悟ンジャー?ああ、聞き覚えがあります。内容は知りませんが、とても幼稚で見るに堪えないヒーロー劇ですね。地球にポスターがありました」
「〔ぶっとばす!〕」
「できるものなら!ヒーローというはダンディかマッチョってのが至高なんだから!そしてわたくしのようなティーンなヒロインを巻き込むの、です!いざ!」
「うぐぁ!く、ハエ叩きアタック!」
「なっ!?おっと!」
いってて!い、いつの間にかルソーの拳が俺の腹を殴ってやがった。だが!ルソーの動きに前回ほどのキレがないぜ!前回、弱体化してたときみたいだ!まあそれでも避けられたが。
「あ、あれー。羽双の一撃でさえこの星のバリアを貫通するはずなのに。なぜ、わたくしの本気の一撃が通じないのですか?」
「知るかよ!水圧圧縮砲!」
「そんな技など」
〔ばすぅ!〕
「うぅ?か、掠った?この男の攻撃、こんなにも速かったのですか!」
なんだかわからないがルソーの奴の動きが鈍い。さっきの攻撃の弱さといい、どうやらそんなに強くないんじゃないか?
〔流双の調子が悪そうだな?でも油断するなよ。今のツッコミ役だと特殊能力の意識操作には耐性がないぜ!〕
「ティーン・カ・シャットが通じたなら、前のように操りましょう。これで!」
「うぐあああああぁっ!」
あ、頭が割れるみたいに痛い!うううううぅ。し、しかもここはどこだ?見たところどこか住宅か?木の机や椅子が倒れてる。いっつぅ。
「あああ、あぁ!うううぅ」
「ん?……って、ルソーまで寝てるじゃん。外で。なにしてんだあいつ」
〔大丈夫かツッコミ役?だいぶ操られて痛めつけたが〕
「いま額辺りと後頭部が痛い。俺の意識が奪われたようだがなにがあったんだ?」
〔えっとー。ルソーがティーン・カ・コントローとか叫んだとたん、まずツッコミ役が笑い出しただろ。その後すぐ、ツッコミ役は体が動かしにくいって言って、準備体操。その後はそこらをランニングして、外に突っ立ってたルソーを鑑賞。鏡を探しにその家に入って一通り荒らしまわった挙句、窓をまじまじと見つめ始め、机の上でポーズを色々試しだした。だがバランスを崩したみたいで、そのままツッコミ役は机から落ちて後頭部を強打。……で、倒れたツッコミ役ががばって起き上がったが、そこに机の角があって顔から、それも目の辺りから突っ込んだ。ツッコミ役が悶絶していて、途中からルソーが悶絶し始めた。って感じだったぜ〕
確かその技は相手を乗っ取るルソーの必殺技。る、ルソーの野郎っ!あいつ人の体使ってなんて痛々しい攻撃を仕掛けてくるんだ!恐らくルソーが悶絶し始めたあたりで、奴のコントロールが解けたって感じか。
「あれ、もしかしてルソーがうめいてるのは」
〔普段より痛かったんだろうぜ。ツッコミ役の体で角に顔面叩きつけたんだから。宇宙を渡ってる英雄だし、痛みとは無縁な奴だろ?顔が潰れるくらいの痛みはあったんじゃないの?〕
「ひえぇ!そんなの机の角見ただけで腰が引けるぜ。でも、自分で乗っ取って自滅するあたり、自業自得でしかないな」
〔崖から飛び降りて意識を元に戻すとか、やりようはあるんだがな。できないのに策を弄するタイプと見たね。きっと単に殴ったほうがつえーよ、こいつ〕
じゃ、なんの成果もなかったけど行こうか。ルソーはここに放っておくとしよう。ルソー、今回の大ダメージに免じて悟ンジャー侮辱については許してやろう!
おおー。やっぱり豪華だな、帝国城。すでにそこら中に知ってる奴や知らない奴がうじゃうじゃしてるぜ。もっとも、広すぎるから知ってる奴には俺のほうからしか気づけないようだが。
〔さすがに戦ってる奴はいないな。みんな皿持って食い歩きしてやがる。あああ、俺も飯食いてえ。でも幽霊だから食えねー!〕
「お、料理置き場はあっちだな!ボケ役!今年運のないお前はそこで指でもくわえて見てることだ!へへへ、なんなら目の前でレポートしてやろうか」
〔ち、ちくしょー。助けてやった恩を仇で返しやがる〕
「そこのコートのお兄さん、ちょっといい?」
「はあい?俺か?」
誰だこんな時に?って、うさぎ耳?どうやら擬人化モンスターの、えーっと、女かな?年下っぽいし発達途中だからかなんか判断つかないや。で、中学生くらいでうさぎ耳がある。でも皿は持ってないからこいつも食事前だな。
「なんだ?料理はあっちだけど」
「そうじゃないんだ。あのね、お兄さんって緑コートの主人公って呼ばれてる人でしょ?すごーい!」
「おえ?ああ」
「でもセンスがバカみたいにないねっ!」
「…………上げて一秒でその言葉、さては喧嘩売ってるな?」
正直、喜ぶ隙すらなかったが。しっかし、なんだこいつ!見ず知らずの、いや、むしろ主人公と知ってて俺に喧嘩売りやがって!いいさ、こんな奴はタダ飯の前に吹っ飛ばしてやる!
〔おや、不穏な気配。ツッコミ役、そのうさぎには霊的な力が宿ってるぜ〕
「幻聴が聞こえる?ていうか、誤解しないでお兄さん。僕はただね、お兄さんならもっとセンス溢れる二つ名を名乗れると思っただけさ」
「な、なにお前?怪しすぎて逆にいい二つ名を名乗ってやりたくなってきた」
「言っちゃえ言っちゃえ」
「って、引っかかるかっ!こうなったらしばらくは緑コートの主人公を名乗り続けてやる!」
「はんっ、意気地なしめ。いいさいいさ、あんたを選んだのは名の売れてる中でも弱そうだったからだ。来てもらうよ、僕たちのいる帝国へっ!名もなき消怪奇!」
「なに!?うおおおお!?」
〔あ!俺も行く!〕
ほ、ほとんど見えないが大量の手に掴まれてる!全身を!しかもこの本物の幽霊みたいな奴らに引っ張られるー!おおああ!うさぎ女にぶつかるーっ!
…………は!こ、ここは?帝国の町中?遠くに帝国城が見える。まさか城からここまで謎の手に引っ張り出されたのか?ひでー。
「ここは来るときに通った道、だな。でもどことなく違うような?あー、なにが違うのかなぁ」
[どかっ]
「痛っ」
な、なんだ!?店の裏に回りこめない?なんか見えない壁みたいなのがあるぞ!ま、まさかこれは、3Dゲームでよくある世界の果てみたいなあれじゃないのかー!?
「そうか、ここはゲームの世界なのか」
「なに狂ったこと言ってんの」
「あ、でたな敵うさぎ!」
「ようこそ。ここは今は無き印納帝国。ここに建ち並んでるのは今や空き物件となっている店の数々だ。現帝国では看板がなかったでしょ?」
「印納帝国?情報の古い奴だなぁ。今日のパーティはアルテの帝国で行われてるんだぜ。印納さんの帝国はすでに滅びた!」
だけど違和感はきっとあいつの言うとおり看板だな。城に行くときに気にしてなかったから確証はないが、多分、店に看板なんかなかったと思う。あ、あの服屋コート売ってる。
〔ふあぁ~、なるほどなぁ。ここは昔の帝国の再現ってことだ〕
「うおっ!ボケ役、急に出現するなよ!驚くだろ!」
姿は見えないはずじゃなかったのか?今ではボケ役の姿がよく見える。
「え?あれ?え?な、なんで同じ人物が二人も?なんだお前は!?」
〔戦隊 黒悟。いまじゃあただの幽霊だけどよ。お前の正体くらいはわかるぜ〕
「ああ、……君が黒悟か」
〔ツッコミ役、こいつはアーラビットって妖怪だ〕
「そりゃまあ、うさぎだろうな。どんなうさぎかは知らないけど」
俺にだってそのくらいのことはわかってたぜ。だってうさぎ耳ついてるもん。だが、こんなおかしな世界に引きずり込んでくるなんて只者じゃない!猫といい、うさぎといい、最近の動物は人を攫うみたいだな!
「うさぎじゃないよ。僕は名々氏 有名。人間にはうさぎだってよく言われるけど、うさぎとは関係のない妖怪らしい」
「え、うさぎじゃないのか?」
〔アーラビットは地球に生息する妖怪なんだ。信仰だとか強い感情だとかの性質を食べる厄介者でさぁ。あのうさ耳みたいなのが耳アンド口で、あそこから人の想いを食うのさ。動物型のアーラビットはうさぎそっくりなんだぜ〕
「へええ、地球生まれのアーラビットはそういうのなのかぁ。でも残念だ!僕は名前から生まれた!僕が吸収するのは捨てられた名前だけさ!実力だって悪魔そのものだっ!」
「……って言ってるけど、本当に同種族なのか、ボケ役?」
〔あ、アーラビットは思いから生まれる思念体の妖怪!個体差が大きいから、きっと、……きっと突然変異なんじゃねーかなあ!〕
なんかボケ役からいつもより自信が感じられない。こいつ、地球の生物っていうか怪物とかには案外疎いのかもしれないな。とはいえ俺の疎さには遠く及ばないほどの雑学持ちだし?あてにしてやろう!
「僕は君たちのことも知っている。君たちによって没にされた技名が色々記憶しているんだ。どうにも最近、悪いこといっぱいしてるらしいね?」
「悪いことしてる奴を倒してるだけだがな」
〔え、ていうか俺も?……いや、奴は捨てられた名前の思念集合体。わかった!奴はアーラビットだが、奴の体内にいる捨てられた名前の一部が怨念化しているんだ!ここに来る直前、そのうさ耳野郎から霊的な力を感じたのもそれだっ!〕
「僕は、悟!あんたの悪名高い二つ名を吸収させてもらう!君くらいに知名度が高まった二つ名は、きっと僕の大きな力となるぜ!名称与奪の爪!」
「うおっと!結構すばやいな。空気圧圧縮砲!そらそら!」
「君の技にはこれだ!圧力開放乱舞!」
[ばしゅしゅしゅぅ~ん]
「げ!空気圧圧縮砲が!」
あいつの爪に触れただけで俺の空気圧圧縮砲が掻き消えた!というか、ただの強風になったのか?うさぎ耳の服や髪が揺れてたが。
「お、お前のその爪はなんだ!?」
「くくく。僕の爪は触れたものの名前に準じる特性を一つ奪い、他に移すことができるのさ。圧縮の爪!」
「何度やろうが、げっ!」
[ずばぁ!]
「痛ぇ!……いっててぇ」
〔うわ、大丈夫かツッコミ役?〕
あ、あいつの爪自体は避けれたが。いつの間にか奴の爪先から空気の爪が出てた。多分、あいつの話どおりなら空気圧圧縮砲を逆に利用されたっぽい。……面倒くさいなっ!
「ふん、こんなの要らないや。ほらほら、もっとトリッキーな技を使ってきなよ。そんなんじゃあ本気も出せないよ?」
「このやろぉ!技名がダメなら単にぶん殴ってやる!」
「なら腕でも減らそうか。両腕から両っていう性質を奪って」
「え、マジ?く、やっぱり殴るとかそういうのはよくないから、……行けボケ役!」
〔心配ないぜツッコミ役。うさぎはよく相手を騙すらしいから恐らく戯言だ!見てなっ!〕
「夢なんて性質そのものみたいな言葉だよね」
〔きゃーきゃー!やっぱやーめた!ふぅっ。あ、危なかった。俺のアイデンティティと存在を同時に奪われるところだった〕
ていうかうさぎじゃないって言ってたじゃん。しかし、どうしたものかなぁ。はっきり言って寄れば即死、遠距離は安全だけど吸収されやすいって遠距離持久戦しかないよな。
「……あ、あれ。そういや捨てられた名前しか吸収できないんじゃねーのか?」
〔え?あ、そうだよな!はんっ、やっぱりはったりか。そんな嘘に誰が引っかかるかってんだよ、やーい〕
「ふーんだ。僕が技名から性質を与奪できるのはこの上なく目撃しただろ?吸収はできなくてもこの程度は出来るのさ。だけど捨てられた名前こそが、本分だっ!火圧圧縮砲!」
「なに!?す、水圧圧縮砲!」
[ずばしゃーんっ!どごぼおぉっ!]
「熱ちちち!」
くぐああぁ!あ、あの技は俺が没にした炎系統の魔法弾!でも俺が練習してたときよりも強い!く、耐火性のコートに焦げ跡がっ!
「だはぁ、はぁ。くそ、俺の技を!」
「はっ!技を捨てた本人が何言ってるんだか。わかる?火圧圧縮砲の怨念があんたを倒したがってる」
〔……ツッコミ役。奴のいうとおり、敵の炎には怨念のようなものが憑いてた。水鉄砲と雷之家血筋パワーで強化されたお前の水圧圧縮砲を、敵の怨念が破ったんだ!〕
「ば、バカな!くっ、電圧圧縮砲!」
「ハエ叩かない・居合!」
う。電圧圧縮砲もどこからか取り出したハエ叩きでかき消された!しかもあの技は居合っぽくないからハエ叩かない・高速に改名した技。なのに、うさぎ耳の技はまるで居合みたいな必殺技だ!
「うう、くぅ。こ、この劣化コピー野郎めぇ!」
「それは心外だなぁ。心外だよね。僕の技のほうが名にふさわしい技だと思っているんだろう?僕の技のほうが理想に近いから心外なこと言ってるんでしょ?わかるんだから」
〔ねえねえ俺の技は?〕
「あんたの技の怨念は技名だけの奴ばっかりだね。飽きるの早すぎ、無理。情報源と力の源にはなるけど」
〔うぐぐぐ〕
「おいうさぎ耳。お前の技はなぁ、ほんっとーに劣化コピーって奴だっ!お前の威力上げた技なんか俺は出せないからな!出せない技なんか劣化だぜ!」
なんかちょっと本気で痛い目をみせてやろうか!奴の技のほうが理想に近いだと?それがどうした!悔しくなんか全くないし、むしろその技で勝てなきゃお前の存在が心外ってもんだ!
「はん!技名が君の理想を記憶しているんだ。そんな言葉、僕の技への負け惜しみさ!空気圧連打砲!」
「いてて。うぐぐ!大量の空気弾か!水圧圧縮砲!」
「おっと!圧力解放乱舞!」
[ばしゃーん!]
「わ!冷た!」
よし。水圧圧縮砲は解除されたが水はあいつに掛かったぜ!これだけ寒い新年、水浸しで駆け回れば体力消耗は激しいはず!隙ができたら打ちのめしてやるぜ!ざまーみろ!
「く。僕に風邪を引かせようって魂胆か?」
「風邪?特星で引くかよ。電圧圧縮砲!」
「ハエ叩かない・居合!」
かき消されたか。……だが、圧縮する性質を消すことはあっても電気を消す気はないみたいだ。えーっと、電気だけを消せば圧縮弾が残るから、……なんか起こるのか?
「なあボケ役。うさぎ耳がもし圧縮砲の空気や電気を消せばどうなるんだ?爪の技で」
〔あん?そんなの圧縮部分に周りの空気が入って空気圧圧縮砲になるんだろ。つまり痛いから消してない〕
「……あのさ、そもそも空気も電気も性質じゃないだろう。僕の爪は種族的なものだし、心の性質しか奪えないんだってば。バカだなぁ君たち」
「心の性質だけ?初耳だが」
「ん、やば。コート魔術・超接近不意打ち!からぁ」
「これは、後ろ!」
「主人公砲段蹴り!」
「主人公キーック!」
[どがぁ!]
「いったぁ!」
よし、打ち破った!主人公砲段蹴りは数年前に考えてた蹴り技用の名前!あの頃は銃ばかりだったから大した威力のイメージがなくて助かったぜ。まあ、今でも銃の技が一番強いと思うけど。
〔わかった。ツッコミ役、あのうさ耳の爪は心の篭りやすい名前、固有名詞にしか通じない!さっきは騙されたが、適当にぶん殴れば爪では性質を奪えないはずだ!〕
「なに!?」
「ちっ、ばれたか。だが僕には捨てられた技がいっぱい」
[どがっ!]
「う!ああ」
[どさぁ]
「お、倒れた。なんだなんだ、口の割にはただの石で殴るだけでよかったのか。技にだけ強いだけの奴だったな」
〔うわ、両拳くらいはありそうな石だ〕
「そこの郵便受けを支えるのに使ってたやつだ。この世界、見えない壁はあるが石とかは投げれるんだな」
「うぐぐ、お、お前~。特星の住民は技で戦いあうんだろう?そんな勝ち方して嬉しいわけ?」
「なんだ?もう一発好きなように決めるチャンスくれるのか?いいうさぎだな!」
〔こいつ神様業的にはすげー邪魔だしエクサバーストとか〕
「こ、降参するって。これ以上僕に何かするなら助っ人が黙っちゃいないぞ」
「〔助っ人?〕」
え、こんな挑発的なうさぎに助っ人がいるのか?こいつと共通の目的、たしか二つ名を奪ってパワーアップだっけ。そんな感じの目的を持った奴が他にもいるっていうのか?
「そ、そうだ。捨てられた名前たちに紛れて、捨てられた姿の怨念がいた。姿というのは格好のことさ。この捨てられた帝国を再現し、ここで邪魔されずに獲物を襲うことを提案してきた奴だ」
「なに!?ここは元々ある世界じゃないのか?」
「名前だけで町通りが生まれてたまるもんか。ここは現実世界の帝国の町中だよ。君たちを連れてきた技はね、捨てられて間もない地名や店名のところまで瞬間移動する技なんだ」
ここがさっき通りかかった町中なのか!?……って、看板と見えない壁を付け足しただけじゃないか!あんまりすごくない!あとこの辺、帝国トップが変わってからすでに半年以上経ってると思うんだけど。
「そして私が、無き帝国を舞台として用意した」
「え?誰だ!?」
〔この声、ま、まさかっ!?〕
「こっちだ。待ちわびたぞ、……主人公っ!」
あ、いた。少し離れた場所にあるレンガの上に、み、見知らないおばさんが降ってきたぞ!?し。……ん?あ、あれ、いや。ど、どっかで見たことあるような。…………んー?なんかあとすっごいちょっとで思い出せそうなんだが。旅行風の服装をしているが、それを変えればなんかこう、見覚えある感じになりそうな気が?
〔やっぱり!お前か、雷之 天利!〕
「な、天利だって!?そ、そうか思い出したぞ!服装が違うが、悟ンジャーに出てきたラスボス!秘密結社天利ンガルの総帥王、天利そのものだ!……それに、昔見た母さんがこんな感じだったような」
「ふはははは!よくぞ気づいたな、悟たちよ!なぜ、悟が二人に増えているのかはわからないが。まあ私にとってはどうでもいいことだっ!」
「で、でも天利は小学生だったはずじゃ?本当に本物か?」
「そう、私こそが天利。……いや、その名は今の私には相応しくない。そう、さしずめ黒天利とでも名乗らせてもらおうかっ!私の目的はただ一つ、ラスボスとして主人公であるお前たちを打ち滅ぼすこと!」
これは、間違いない!奴は天利の若いころ、っていうか小学生に戻る前の姿だ!面影あるし性格とかそっくりだ!
〔あ、あのオーラ。信仰ほど強くはないが、かなりの知名度や人気が奴に集まっている。地球での天利の人気が奴に、黒天利に力を与えている!だが黒天利を名乗ったのになぜ人気が奴に?〕
「人気が力をだと?戯言を!貴様たちもコートの力だとか抜かす皇神と同類か。私の力とは、私がラスボスであるがゆえに強いのだ!そして悟!貴様たちは主人公であるがゆえに私と戦う宿命にあり、強いのだ!」
こ、こえー。でもなんていうか、天利より本物っぽい!これは、こればかりは決着をつけてやるしかないなぁ!主人公様にラスボスが粋がったって勝てるわけないんだ!
「俺は知ってるぜ。結局悟ンジャーではお前はやられ役に過ぎなかった!それがラスボスであるお前の限界ってことだ!」
「くくく。もう黙るがいい。貴様が込めるべきは心ではない。放つべきは言葉ではない。「〔銃弾だっ!〕」……ふむ?」
「俺もテレビの前で言ったことあるぜ、その台詞!水圧圧縮砲!」
「ふん。電磁仕掛けの秘宝部屋!」
[びびび、ばちばちっ]
な、なんだ!?周りの景色がコンピューターだらけの部屋みたいになったぞ!天井には電気銃、周りには電流の壁みたいなのがそこらかしこに。あ、うさぎ耳が小部屋に閉じこもってる。
「水圧圧縮砲が消滅した。どんな電気だぁ!?」
「私の特殊能力は物語を操る能力。舞台や登場人物を出現させて、物語が動くようにすることができる。そして、出現するものは必ず物語を動かすのだ!」
[ばちちちぃ!]
「うわぁ!?な、なに!?なに!?なんなのー!?」
「ふふふ。うさぎよ、どうやら舞台は貴様を排除することを選んだようだ。用済みのお前は邪魔なだけという判断らしい。諦めて散り去れ!」
「え!そ、そんな!?本来、僕は帝国の捨てられた店名の吸収だけが目的だったんだ!巻き込んでおいてそんなのって……」
[ばちんばちぃ!]
「あああぁっ!」
ああ、うさぎ耳が死んでしまった。いやまあ、死んではいないか。で、でもまずいな。電気銃の銃口がこっちを向きやがった!
[ばちばちばちぃん!]
「ひえええ!危ねーっ!と、とりあえず先に逃げろぉっ!」
〔俺平気ー〕
「当たって死ね!役立たず!」
こっち行ってここを進んで、……って、ここうさぎ耳の殺害現場じゃん!ここで行き止まりだと!?……あ、こ、こんなところにスイッチが!これが停止スイッチだなっ!
[ぴっ。どがああああぁん!]
「「うぐああああぁ!」」
〔うお!?自爆スイッチだったようだな!〕
「ぐうぅ!熱気逆巻く闘技場!」
[わーわー!きゃーきゃー!]
お、おぉ。炎に包まれた眩しい部屋から、一転して青空広がる闘技場に!観客まで用意されていやがる!それと、どうやら爆発のダメージは黒天利の方が上だったようだ。ま、俺のコートは防火性高いし当然か。
「ぜぇはぁっはぁ、わはぁ、忘れっ、ふはぁ~。…………さて、ここからが本番だ、悟。私の名は、ファイナル・ラスト・ボスの黒天利!」
「ん?さっき名乗ってただろ。ボケてるのか?」
「くくく。道中気づかなかったか?お前たちは戦いの度に二つ名を名乗らされていたのだ」
〔……そういえば名乗ってたな。ツッコミ役は〕
「な、名乗ってたが。それがどうしたっていうんだ!」
「主人公であるお前を見つけ出すため、この島を舞台に見立てて特殊能力を使っていた。舞台演出として、二つ名の知名度で強さが決まるようにな。本来、この星における二つ名の知名度が強さに変換されるが、私だけは地球での二つ名の知名度が強さに変換される。発動条件は、……今、私が名乗ったことからわかるだろう?」
「はー?……あ!お、俺は緑コートの主人公、雷之 悟だ!やっぱりな!最初からおかしいと気づいてたんだ!ラスボスがなんかやってる感じ、そんな気配をずっと感じてたんだよ本当!」
名前と二つ名、で、いいんだよな?発動条件って。……とりあえず舞台の能力ってことは賢そうにしていれば本当に賢く慣れるかもしれない。ついつい全てを見通してそうなこと言っちゃったのは正解だったな!
「ふふふふ。本当の実力者は二つ名で認識されるもの。主人公としてのお前は、この星でどれほど有名になったかなぁー!?天利ンガル・シュートっ!」
「飛び蹴り!おっと」
[どがあああぁ!]
う。避けたが、闘技場が土煙に覆われたな。町中や電気部屋とは違って砂が舞いやすいみたいだ。ど、どこからくるんだ?
「いや、むしろ先手取るか。水圧分裂砲!」
「いた!いたた!なんですかもう!風咲き烈風波!」
「え、誰だ!?いってて!げほっ!がほっ!」
す、砂煙がぜんぶこっち方面に吹き始めた!一部泥になって!しかもなんだ。俺と黒天利の間には見覚えのない女子がいる。同年代くらいのようだが、一体どこから現れやがった!?
「ふん。どうやら舞台が勝手にエキストラとして呼び寄せたらしいな。おいお前。私たちの邪魔をするなら容赦しないぞ。とっとと消え失せるんだな」
「って、どこですかここぉ!?え?あなたたちの仕業じゃないんですか?」
「くくく、それがどうしたというのだ?呼び出したからといって用はないぞ!観客席で大人しくしているがいい!」
「見ての通り、悪いのはあいつだ!俺は緑コートの主人公、雷之 悟!主人公だし怪しくないぜ!」
〔俺はもはや解説役な黒悟だ!〕
「なによこの集まり。もういいですよ。きっとあなたたちを倒せば帰れますから!風裂きの竜巻線!」
[ずごばばばばばぁ!〕
「うぐ。く、あくまで私たちの勝負の邪魔をするか!ぐうぅ」
「これは、さ、避けにくい!いたた」
でもさっきの技もなんだが、こいつの技、見た目よりかなり控えめな威力だ。これなら目くらましにちょうどいいかもしれない。
「正面から不意打ちだ!空気圧圧縮砲!」
「ぐぐ。く、天利ンガル・ジャンプ!って、うわあああぁー!?」
「うわ、黒天利のやつ!なんて速くて高いジャンプなんだ!?」
〔いや、多分竜巻で飛ばされてるじゃ。さっき風の音に紛れて悲鳴が聞こえたし〕
「ボケ役ー!なに言ってるのか全然聞こえねーぞ!……そうだ、油圧圧縮砲!」
黒天利のやつはどうやら空中からの攻撃に切り替えるようだが、残念だったな!こっちには竜巻相手に一度試してみたい攻撃方法があるぜ!
「風に流される!な、なぜ悟はこの風の中無事なんだ!?……いやそうだ!そこの邪魔者!私の名前は黒天利で二つ名が」
「そして大花火圧縮砲でくらえ!合体技、竜巻火炎解砲!」
「ファイナル・ラスト・ボスチっ……噛んだ」
[ずぼごおおおぉん!]
「ぐああああああぁ!おのれ悟ンジャーブラックぅっ!だが覚えておくがいい!我が天利ンガルは滅びぬぞぉーっ!」
「きゃあああっ!」
[どがあぁっ!どさあぁっ!]
よし、黒天利と、……ついでにいつの間にか巻き込まれてたっぽいうさぎ耳も落ちてきたな。黒天利は地面に突っ込んで、うさぎ耳は下で悲鳴を上げてた女の子の上に落ちてきた。黒天利、やられ台詞をわざわざ叫んでくれたな。
「ふ~。三人相手でも余裕だったな!ん、おおお?」
周りの景色が闘技場から帝国の町中に戻っていく!そうか、黒天利がさっきまでのフィールドを作ってたんだったか。よく見ると、看板からは名前が消え失せてるな。
〔黒天利の舞台とやら。どうやら身体能力や特殊能力の強さを均一化して、知名度で強さが決まるようにしてたらしいが。実戦で使い慣れてないみたいな感じだったな。しかも相当無理なレベルで使ってたのか、奴に不利益な発動が多かったっぽい〕
「無茶な使い方?実力以上の技なんか出せるのか?」
〔まあ、質系ならコントロールや威力がおかしくなったり。非質系や補助系なら予期せぬ事態になったりな。黒天利の特殊能力はおそらく天利とは違い、補助系の舞台を作り上げる能力。まあ、物語を作るとも言えなくもないか。黒天利はそれを怨念パワーで無理やり広範囲、多重舞台で使ってたようだ。使い慣れててもキャパシティオーバーするだろうぜ〕
「そんな事態になるなんて。ボケ役!なんで隠していやがった!?」
「いや、特星にきたときに説明があっただろ。特星本部にも注意書きのポスターとかあるし。授業でも特殊能力の授業で習うぞ」
「忘れた。行かない。今は、……何休みだ?冬だから冬休み、いや、正月休みだし。学校なんてここ数年いった記憶がないぜ」
「うんんぅ……。もー、君たち騒がしいよ。ふあぁ」
あ、うさぎ耳が起きた。こいつはなんだかんだで利用されて捨てられたんだよな。弱いくせに偉そうだし、いかにも小物って感じだったから当然といえば当然だよな。黒天利からもそう見えたことだろう。
〔倒した頃に起きてくるとは、運のいいやつ〕
「まったくだぜ!こっちは黒天利倒すのに苦労してたってのに!」
「黒天利?…………あ。んん、じゃあ。僕はどうやら利用されてたみたいだからこれで。またいつか会おうじゃないか」
「おっと。最後にどうしてもわからない謎があってな。答えてもらうぜ!」
「なに、な、なにさ?言っとくけど僕に答えられることなんてほとんどないからなっ!今回の計画は大体そこのおばさんが考えたんだから!」
確かに今回の事件は舞台とかも黒天利がやってたみたいだし、こいつは獲物を連れてきて二つ名の吸収を、……っていうか二つ名変えてれば連れていかれすらしなかったかもな。でもこいつにしかわからないことがあるんだよなぁ。
「……今見てもやっぱり判断つかないんだが、うーん、…………お前って男か女かどっちなの?」
「あれ、そんなことなのか?それなら」
〔そいつは男女の二つ名から生まれ出たアーラビット。通常のアーラビットと同じく両性具有者、つまりは両方のはずだぜ。見たところ、女の割合がちょっと高めだな」
「ああー、両方か!惜しかったな、外した!あ、もう用は済んだから帰っていいぞ」
「……なんなんだお前ら!?い、いや、変人だろうけど。……もういい?疲れたし、僕はもう行くからな?」
うさぎ耳、答えも聞かずに去っていったか。城のほうに。もしかして城に住んでるのか?俺たちも城でくつろぐのが目的だし、またすぐにでも会うかもしれないな。
〔で、どうする?黒天利とエキストラの女の子、ここに置いてくか?〕
「モブはともかく、黒天利を連れてくのはまずいかもな。天利が帝国城にいるかもしれないし。ああー、でも過去との対決みたいなのはありかも」
「ぐ、う、必要、ない」
「あ、起きたかー?」
黒天利が目を覚ます。こいつ本当にどうしようか。そもそも怨霊らしいけど成仏したりとかしないのかな。
「私の目的は、はぁ、あくまで主人公である悟、お前たちとの対決だった。それが達成されれば、未練は」
「え、本当に成仏するのか?」
「……いや、あんな勝負になったんだ。未練は、ある。だが今の私と会うつもりはない。私は秘密結社天利ンガルの総帥王!ファイナル・ラスト・ボス、黒天利!宣言しよう!この星に、秘密結社天利ンガルを再建するとな!悟、それまで勝負はお預けにしておいてやる!黒き流れの川!」
[ざっぼぉーん!]
おお、どす黒い液体が流れる川が黒天利の足元から遠くまで!そのまま船着場のほうへと流されていく。……って、勝負はお預けって、俺勝ったじゃん!?
〔……どうする、ツッコミ役?〕
「……帝国城行こっと」
その後、帝国城に向かうと二つ名を変えようと勧誘するうさぎ耳が居た。勧誘があまりにもしつこいからか勝負になって負けてたけどな。懲りない奴。