一話 追跡者を動かす訳
@悟視点@
俺、ボケ役、流双。うむ、まさしく実力の拮抗している三人ではある。だが、俺とボケ役が手を結んでいる以上、俺たちに負けはないはず、だ。
「流双!お前にしてやられた恨みを晴らす!この俺、戦隊 黒悟がお前の相手だ!」
「会ったこともないのにしてやられたとは?まあいいでしょう。ティーンの英雄たるわたくし、ルソー イークサードが力といものをお見せしましょう!」
「この俺がいる限りボケ役に負けはない!主人公である雷之 悟がバックアップするんだからな!」
「あ、ツッコミ役もまだ戦うのか?じゃあ拾ったコート返すからそのコートは」
「ティーン・カ・シャット」
うおっ?お、俺の視点がいきなり空中に!しかも流双が喋ると同時だ。つ、つまりこれは流双の攻撃ってことか?確かに俺はさっきまで今いる場所の真下あたりに、って、あれー?なんで俺の足元に俺が二人もいやがる?んんんー?
「ふっふーーーん。コートが一人だろうが二人だろうが変わりませんね。やはりわたくしの特殊能力は最強。意識が途切れていればもはや敵ではないもんね~。さて、ではお風呂にしましょう。……あらやだ、今日だけでもう三回目のお風呂なのね」
あ、流双が奥のほうに向かっていく。意識が途切れるだって?なるほど、それがあのティーンの特殊能力かなのか!どおりで時間が止まったように瞬間移動してるわけだ。そういえば流双の技名も初めて聞いた気がする。いや、だとしても俺の今の状況は一体?
「くくく、休憩は俺を倒してからにするんだな、半袖女」
「は!?あ、あなたは!バカな!?」
お、俺のうち一人が動いてる。ってか、この動いてるほうはボケ役だな。立ち位置は俺が幽体離脱する前と同じみたいだし。足元にいる俺の体は立ちっぱなしで動く気配がない。
ボケ役、おい聞こえるか?……く、ダメだ。声も出ないなんて。
「き、聞きましたね!わたくしの特殊能力!いえ、それよりもなぜ通じていないのですか!?」
「意識がなくても夢は見る。そして夢は俺の領域だ。夢での動きを現実に反映させるなんて容易いのさ!」
「……?」
「あと意識を奪った後に独り言を言うのはやめときな。お前の独り言、何回か聞いたが相当薄ら寒かったぜ。ツッコミ役を通して聞こえてた」
「なな!?聞いていただってぇ!?く、お、おのれええぇ!あなたは、なにがあっても消す!死になさいっ!」
あ、流双の腕がボケ役を貫いた!今のは俺でも見えたが絶対によけれなさそうな一撃だった。だ、大丈夫かボケ役?
「む、手ごたえが、ないですって?」
「ふっふん。さっき意識が途切れたとき、俺の体を本来の状態である夢に戻した。変幻夢の魔神!これで攻撃なんていう脳筋戦法は通じない!そして、夢現つの冒険!現実のツッコミ役の体は、夢での動きと同じ動きをする!ツッコミ役ー、見てるなら試しに体を動かしてみろ」
見てるぜー。どれどれ?お、俺の体の動きに合わせて足元の俺の体も動いてる!なんていうかゲームみたいな感じ?すげー!
「ば、バカな。また意識がないはずなのに体が」
「あーあー。お、声も出る。悟様復活だ!油圧圧縮砲!」
「おっと。で、ですが素の能力ではわたくしのほうが上。まだ負けはありません」
簡単に避けられちまった。この状態、ずっと下向いてなきゃならないから辛いな。下にいる俺の体もずっとうつむいてるからゾンビっぽくって気持ち悪い。
「おいボケ役。この上から視点はなんとかならないのか」
「うむむ。お前が現実の夢を見てるのはその特殊コートの効果だからな。今は無理」
「く、ティーン・カ・コントロゥ!」
「ふん、まだわかってないようだな。お前の意識を操る特殊能力はすでにある意識を改変する力。意識を能力で途切れさせて解除することは出来るが、すでに途切れてる意識に干渉はできない。使い始めて数年ってところか?その程度じゃあ今の俺たちを攻略できないぜ」
「なら、これでどうです!ヒロイン・エンディンス・マジック!」
「今日の命中率はかなり悪いな。電圧圧縮砲!」
「…………ふふ、させませんよ!」
うげ、ボケ役が急に口調を変えて流双の前に飛び込みやがった!まさか流双に意識を操られて盾に使われてるのか?可哀想に。
「うふふ、どうやら呪術で操れば意識は関係ないから通じ」
[ばちちぃっ!]
「きゃっ!?」
あ、俺の魔法弾がボケ役をすり抜けて流双に直撃した。そ、そりゃそうか。夢でできてる体なんか盾どころか攻撃もできないだろうな。お化けみたいなもんだろ。
でも流双も避けるのが今までより遅かったな。
「く、やられました。まさかわたくしがコート二号を盾にすることを見切っていたとは」
「ん?ああ、当然だな。そういうこと何度もあったし。ていうかそのボケ役の体で喋るなら口調変えろ!」
[ばたぁん!]
「「え?」」
後ろ下から音が?って、教会の扉を開けてるのは!
「アイススイート!」
[ずがああああぁん!]
「うおおおぉっ!雨双!?」
「雨双!?しまった体を」
「きゃーっ!」
あ、危なかった。俺は何とか避けることができた。だが流双は多分間に合わなかったようだ。雨双がきたときにボケ役の体で驚いてたからな。
「お、おい雨双。いつからここに」
「アイススイート!」
[ずがああああぁん!]
あ、流双のいる方向に追撃してる。冷気でよくは見えないが逃げたりはね返す様子はないな。ていうか何で雨双がこんなところにいるんだ?こいついつも神社にいるのに。
「ふぅー。ん?悟の様子がおかしいようだな。まさかバカ母に意識を操られてるんじゃ?」
「まて雨双!俺は夢の中から体を操ってるだけだ!上にいるから見下ろす形でゾンビみたいになってて」
「は?意味がわからん」
ああ、よく考えたらちゃんとこの状況を説明できる気がしない。ってか、ちゃんと説明しても相当おかしい状況のような。
[びきびき、ばりいいいぃん!]
「ふふふ、ようやく会えましたね、雨双」
あ、流双がでてきた。まあやっぱりめっちゃタフみたいだ。しかもあの目線は完全に雨双を向いてるし。また俺が置いてけぼりで話が進むのかよー。
「ふん、さすがバカ英雄。健康そうじゃないか。宇宙に放り出された割には」
「ええ。いくつもの宇宙を支配して英雄力が上がりましてね。雨双はどうです?」
「私?絶不調だな。具体的にはナレ君とかいうふざけた幻聴、記憶にないが呪われて暴走、とかだ。闇の世界に厄介者でもいたみたいでな」
「まあ!呪いなんて!酷い親もいるものですねー。もー、うふふふ」
かなり高さがある位置からでもわかる。あの二人、ってか雨双がかなり不機嫌そうだ。え、なに?あいつ流双に操られてたのか?じゃあやっぱり闇の世界での悪霊いる説は当たってたじゃん!あの説を信じるならば流双こそが殺人犯!って、もう過ぎたことだな。
「ふん、手段も選べないバカやろーめ。一度冷たくしないと改心できないようだな!アイスフルーティ!」
「ティーン・カ・シャット!」
「おっと!俺にその技は通じないぜ!水圧圧縮砲!」
「当たるもんですか。あなたもこれで操ります!ヒロイン・エンディンス・マジック!」
「げ、それはボケ役を操った技!お、俺も操られる!」
ああ、俺があんなに必死に地面を指差してる!って、これ、今の俺の行動じゃないか!つまり俺の意志どおり動いてるし操られていないぞ!ふ、不発なのか?
「そんな!私の意識を送り込むことが出来ない!?」
「ツッコミ役にそんなちんけな呪いは通じないさ」
「え?」
[もあん]
「夢の体もんわりん。この技により流双!お前の体にはかなりの夢補正が掛けられた!お前の体の強さはお前の夢に左右される。お前は元がやたら強いから弱体化だな、多分」
「ボケ役!」
ボケ役が流双に触れたとき、流双の全身が歪んで見えた。ていうか、ボケ役はもう操られた状態から元に戻っていたのか。いつの間に。
「わたくしの呪術が、効かない?」
「ツッコミ役の体は神だ。しかもやばい生霊や呪いを生みだせそうなほど強固なほぼ一人信仰、つまりは特殊な信仰形態でな。そんな奴がコートに執着してコート神を作っていたら、どうだ?その体はコートなしでは崩壊する神の体となるのさ。ま、半ば超強力な呪いのようなものだな」
「なに!?その話は本当なのか、ボケ役め!お、お前、事によっては先に始末して体を取り返すからな、おいっ!」
「ま、まてまてツッコミ役!今やお前自身への信仰もわずかにあるからきっとへーきだって!コート神が死んでも雷之悟神として生き返れるよ多分!場合によっては!」
ボケ役、体を取られたくないから適当言ってるんじゃないだろうな。ま、まあとにかく。俺の体には呪いが効かないってことか。もうちょっと神聖な力で浄化みたいな理由が欲しいのに、呪いに近いからって。
「へへー?呪術が効かないというのも興味深いですが、神を作るほどの信仰ですか。わたくし達英雄の力も一部信仰から得ているのです。だから、手荷物が一つ増えましたねっ!」
「アイスセーフ!」
[がぎいいいいぃん!]
おっと。向かってきた流双を迎撃しようと思ったけど雨双が防いだか。流双のやつのスピードが大分と落ちているな?ボケ役の技で弱体化してるっぽい。
「は、速い!いや、わたくしのほうが落ちているというのですか!こんなにも!」
「隙がありすぎだぜ!水圧圧縮砲!」
「ぐうあぁ!い、痛い!とても、とても久々に!くぅ、よくもやりました、ねっ」
[ばきぃ!]
「いってえええぇ!」
いてててて。あのやろー思いっきりぶん殴りやがって!って、あ、あれ?視界がいつも通りに戻ってる!ああ、殴られた痛みでようやく意識が覚醒したんだな!
「この体では、く、力技は諦めるしかないみたい。非常に、非常に癪ではあるのですが。この勝負、数を気にしなければ負けてしまう。ティーン・カ・チェンジ!雨双はわたくしを守ってください」
「む、仕方ないな。このバカ母に逆らうバカコートたちは、私が倒してやるか」
「なに!まさか雨双の意識を操ったのか!?」
「いや、さっきまでとは違う。あれは多分操作してるわけじゃ」
「ヒロイン・エンディンス・マジック!」
「……ふふふ。再びこのコート男の意識はわたくしの手に」
ま、またボケ役が流双に操られた!なんかどんどん敵の数が増えていってるんだけど!こいつら来る前より状況悪くないかこれ!?
「さっきはまるで使い道のわからなかった夢を操る能力。ですが操る直前の意識から一つわかりました。この男、夢さえなければ弱体化する、と。この男の夢、全てわたくしの体に送ります!ティーン・カ・ドリームアウト!」
「させるかよ!電圧圧縮砲!」
「アイスフルーティ!」
[ばちち、ごおおおおぉっ!]
「寒ーい!おい雨双!邪魔するな!」
「ふふふ、今のは手加減してやったんだ。私はバカ母の体を守りたいだけだ。だがバカ母を倒したいのならば私に負けたほうがいいだろう」
な、なんだって?いや騙されるわけにもいかない!あいつは流双に、操られてはいないらしいがなんか味方してるし。それに味方っぽいこと言って時間稼ぎが流双にとって得策な気がする。
「ならこっちはどうだ?空気圧圧縮砲!」
「…………あら?あ、無駄ですよー。このコート男の体はかなり無敵みたいですから」
「暇なら私が相手をしてやるぞ?アイスニードル!」
「いてててっ!ああもう!先に雨双を倒してやる!水圧圧縮砲!」
「アイスボール!」
く、相殺された!そもそも雨双にはアイススイートとかの大技があるが俺にはない。つまり正面から撃ち合うのは俺にとって分が悪い。
「やっぱり、接近戦だ!ハエ叩きアタックー!」
「ふん、バカヤローめ。アイスス」
「お、無双だ!」
「な」
「ハエ叩きショット!」
「あ、アイスボール!」
[がぎぃん!]
ハエ叩きは打ち落とされたか。だが、ここまでは計算通りだ!すでに雨双の目の前に俺の姿はない!そこにあるのは俺の夢コートだけだっ!コート魔術・移動!
「なに?悟が消えただと?」
「主人公キッ」
「む。アイスサークル!」
[ごおおおおおぉっ!]
「ぐああああぁっ!」
ば、バカな!当たるまであとほんのちょっとだったのに、気づかれただって!そ、そんなバカな!完璧に雨双は俺を見失っていたはずなのにっ!く、くそぉ!
だ、ダメだ!上方向に巨大冷凍光線が、体が持ち上げられる!
[どさあぁっ!]
「ぐぅ!」
「悟。今のは正直危なかったよ。お前の技が強かったらさっきので負けていただろう。だが、覚えておくことだ。私の身近にはもっとバカみたいに飛んでくるやつがいる!」
「く、上からの不意打ちは失敗だったか」
「そして、私は勝ったぞ。バカ母を見てみろ」
ん?げ、流双の体から物凄いオーラみたいなのが出ているぞ!な、なんだありゃ!少なくとも見かけは今までの流双より強そうな感じだ!
「いや、そっちじゃなくて。この黒悟のほうだよ」
「え?あ、ぼ、ボケ役ー!?」
「静かにしてろ」
「むぐぐー」
いちいち口を塞ぐなー!こっちは立ち上がれないほどのけが人だぞ!いや、だ、だがそれどころじゃない!なんかボケ役の体が消えかけてる!色がすごく薄くて目を閉じてるし、なんかもう死んでるんじゃないか?
「むぐぐぐ」
「そう、黒悟が自分の体が夢でできてるいっていたな。だから、バカ母が夢を自分の体に全部送るといったときに思ったんだ。なんか、理解不足で自滅するだろうって」
「むぐむぐ。むぐぐ」
「バカ母のあの呪術は昔から知っていた。自分の体を操りながら、他人を操るのは凄く忙しいと言ってたし。だから、弱体化したバカ母は私に体を守らせたんだろう。弱体化した状態で二つの体は操れなかった、多分そんな感じじゃないか?」
あああ、ボケ役が消えていく。流双は多分今の自分の状況に気づいてないんだろうな。ちょっと意識が遠いなーとかそんな感じ?……いや、それで異常を感じないのもどうなんだ?
「だが、バカ母も自分の体にわずかに意識を残してはいるはず。とどめは私が決めたいが、同時にバカ母を守らなければならないという気持ちもある。むむ、どうすればいいんだ?」
「むごごごー!?むごふっ!げほっ!」
雨双ー!手から冷凍光線のなりそこないがでてるって!ぐおぁっ!い、息ができねー!ちょ、ちょっとマジで気絶するからやめて!動けないんだからさー!
「も、もうすぐ、わたくしの体に全ての夢を、この男の夢を、送り終わります。ふふ、こ、これで、最後です、よ」
[きいぃん!]
あ。も、もうだめだ。い、意識が、……ごふぅ!
「はぁ、はぁ。か、体の感覚的に、元の強さに、近づいた感覚がありますっ。なのに、どうして、こんなにも眩暈が?う、あぁ」
「ふ、バカ母よ。お前は策に溺れたんだ。もしくは黒悟の罠にはまったのかもしれない。おそらく、バカ母の意識のほとんどは黒悟と共に消え去ったんだろう」
「コート、男が、消え、た?」
……ああー、なんか真っ暗だ。なのに声がやたらはっきり聞こえるから変だなーとは思ってたけどさ。一つ肝心なことを思い出したぜ。
「わかりません、よく。が、あなたはわたくしに、攻撃はできません。残るは、雨双だけ。わたくしは、意識の回復を待ち、勝ちます」
「くっ。私が攻撃できないのは、こんな心情なのは、バカ母の仕業か!この」
「このやろおぉっ!雨双ー!おらぁー!」
「は?い、いたたたっ!さ、悟!?」
よくも俺に冷気を飲ませ続けやがったなこいつめ!だが!意識が無くなれば俺は夢の中だ!痛みもそんなにない!課俺の体の動きに、現実の俺の体もついてくる!今こそさっきの仕返しだおらー!腕をひねり上げてやったぜ!
「人の口塞いだあげく冷気送りやがって!」
「ぐううぅ!さ、悟ぅ!お前、あとで凍らせてやるからなっ!」
「え?い、いやまあ大人気ないし許してやるか!ほらよ、これでどうだ?」
雨双の目を片手で塞いで、もう片手で掴んでいた腕を、よし前に向けた!くくく、さっき目を閉じてたときに気づいたんだが、目を閉じてれば前は見えないぜ!ていうかあれだな、夢の俺はなにも触ってないのに現実の俺の触感を感じるんだな。力加減が楽で助かる。
「……おい、なんの真似だ?」
「え?えっと、ハイジャックごっこ?とにかく雨双は目の前に超強い一撃を」
「アイスサークル!」
「ぎゃあああぁっ!」
流双に攻撃できないから攻撃できる状況を作ったのにさ!気づいてくれねーんだもんな!いやまあ、気づかれてたら攻撃できないんだろうけど!ああ、現実の俺が落下してる。雨双の目の前に。
「死ねっ!アイスハーモニィカ!」
[ずがあああああぁっ!]
「うおおおおおぉっ!」
「はぁ、はぁ。……え?きゃあああああぁっ!」
ささささ寒い!冷たい!だが上から見てるから見えたぞ!ありゃあ圧縮した冷凍光線だああぁぁ寒いっ!よくみたら俺の体が氷漬けになってるしー。流双の体も一緒に。
「はっ!なぜ私はバカ母への攻撃をためらっていたんだ?……しまった、状況説明できそうなやつが誰一人残ってない。えーっと。とりあえずそこの男どもを起こすか。アイスニードル!」
「「いてててーっ!!」」
ああ、可哀想に。クレーと烈が氷の棘にやられてる。ていうか俺はどうすればいいんだ?体を動かしても氷付けの俺の体はまったく反応しないし。
「な、なんだー?って、お前はいつかの氷少女!飯代でも返しにきたのか?」
「クレー、俺こいつ知ってるぜ!!神社のカキ氷屋さんだ!!!」
「お前たち、一体どうしてこんなところに?バカ母となにか関係が?」
「郵便配達の終着点だ!!」
「ええっ?」
「俺は流双さんという方からお誘いがあってな。騙されにきた」
「はあ!?」
しまった。あの二人はしばらく特星エリアにいたようだから多分今回の事件を知らないはず。つまり、雨双に真実を伝えられるのは俺だけ!早く出してくれー。
「ところで流双さんどこだー?ていうかいつの間に冷房が」
「バカ母はあっち」
「え?ああああぁっ!流双さぁーん!?なぜこんな氷付けに……!しかも子持ちだったなんて!」
「な、なんて完成度だ!!みろよー。こっちのなんか悟そのものだぜ!!」
「「どうみても本物だろ」」
「なにぃ!!?び、美人の姉ちゃぁーんっ!!!」
あいつら全然こっちの心配してねぇ!よーし、とりあえず目が覚めたらあのバカ二人まとめて倒してやろう。
「とりあえず悟を助けないか?バカ母を先に起こすと厄介だ」
「我輩も同感だ。もはや流双の敗北は決まった」
「「「なに!?」」」
こ、この後ろ下方向から聞こえる声には効き覚えがある。……やっぱりだ。あいつは無双!あのじじい、羽双を打ち破ってこの教会までやってきたのか!?
「ば、バカ父!」
「久しいな、雨双。地球で別れて以来、我輩たちは力をつけたが。どうやら我輩たちは貴様たちを甘く見ていたようだ」
「ふん、私になんのようだ?」
「知らぬな。貴様に用があったのは流双だ。が、一つ賞賛の言葉を送ろう。雨双、圧倒的パワーを持つ流双をこの人数、数の力で倒したのは見事なものだ!貴様たちの数の戦術を認め、この宇宙の支配は見送ることにする!そこの小僧たちもその実力でよく戦えたものだ」
いや、全然数の戦術を活かした戦い方はしてないと思うが。流双の無力化はほとんどボケ役一人でやってたし。しいていうなら呪術で操れる人数が一人だったことくらいじゃないか、数が有利に働いたのは?
「やいおっさん!!なんか偉そうに言ってやがるがこの俺たち、烈とクレーが組めばお前なんか瞬殺だぜ!!」
「当然だ。貴様たちのほうが数が多い」
「いいから流双さん助けようぜ。あ、悟も。フレイムボール!フレイムボール!でえええい!」
おおっ!さすがクレーの魔法!俺の体を覆っている氷が溶けていく!いいぞ!その調子で俺をさっさと救出してくれ!早く話に加わらせてー!
「火力不足だな。我輩の槍のほうが早い」
「ん?ははは!!!無理すんなよじいさん!!悟たちを覆ってる氷はあんなに分厚いんだぜ!!割れるわけないさ!!昼食賭けてもいいぜ!!!」
「愚か者め。あの程度の氷、障子の紙とそう変わらぬわ。どけぃ!我輩の槍であんな雑氷、跡形もなく消し去ってやる!」
「おい待て。私の氷が雑氷とは聞き捨てならないな。炎で半分溶けた氷を粉砕しても不本意だろう?もう一度凍らせるからバカ父は待ってろ」
「はぁ、はぁ。え、ええ?せっかく魔法連打でここまで溶かしたのにー。ていうか的当てゲームするなら俺が流双さん狙うよ。お前ら危険そう」
「そういうことなら私がバカ母だ。私が一番あいつをぶちのめしたい」
いつの間にか俺たちが的になってるじゃねーか!早くこの危機に気づいて目を覚ませよ!俺の体!ん?なんか足元が熱いような。……は、現実の俺の足に火がついてる!クレーがよそ見しながら魔法撃つから!
あ、意識がなんかまた戻っていく。
[ぴきぴきぴき、ばりいいいいぃん!]
「「「「なに!?」」」」
「よっしゃー!悟様の復活だぁっ!待たせたな!」
どうやらなんとか炎の熱さで俺の体に意識が戻ったようだ。上から見下ろす形じゃなくて、俺の体からの視点になってる。
「命拾いしたか、騒々しい小僧よ。コート小僧があと一歩遅ければ、貴様の財産は絶滅していたというのに」
「くっそー!昼食逃した!!」
「おぉまえらぁ~っ!ああもういい!はぁ。ああー、そうだなぁ。とりあえずクレーに烈。お前らあっちで凍った流双でも溶かしててくれ。俺たちはちょっと話があるから」
「よし任された!」
「俺なにもできねーじゃん!俺も話に加えろ悟ー!!!烈ちゃん暇だと死んじゃうんだぞー!!」
「お前町の事件とか知らないから茶々入れるだろ!教会内の備品とか好きなだけ持ってっていいからさ、な?」
「マジか!?そうと決まれば宝探しだぜ!!」
よし、なんとかクレーも烈も退けた。あいつら町の事件について知らないし、クレーは流双に肩入れ、烈は無双にやたらけんか腰だからな。邪魔。
「宝探し、だと?ならば数の力が大きく作用する。よいだろう。我輩もそちらに」
「まてまて!じいさんは事情聴取!あ、ていうか羽双はどうした?」
「む。バカ兄がバカ父に会っていたのか」
「そうだ。ふむ、羽双か。なに、数の力を失った我輩はあの時点で敗北していた。数日前、コート小僧が去ったすぐ後のこと、我輩は羽双に勝ちを譲ったのだ」
「……え、数日前?」
「数日前だと?数日前といえば、あのモンスターが町を襲った事件が。ま、まさかバカ父たちの仕業だったのか!?」
え?え?あ、あれ?なんか俺だけこいつらと時間感覚が違ってるの?事件があったのは今日だし、羽双たちと別れたのもほんの数時間前の出来事だよな?あれ?
「そう。我輩が特星のモンスターたちを集め、数の力を見せ付けた。これが数日、いや三日前に起こした大事件だ。もっとも、我輩と流双では目的は違うが」
「お、おい無双?俺たちが戦ったのは数時間前じゃないのか?」
「む?いや三日前だ。……だがもし貴様が数時間前と感じているのならば、それは流双の言っていた新しい力だとかの影響だろう。奴は秘密主義者だからどのような力かはわからぬがな」
秘密主義者の割には随分と口の軽そうな感じだったが。い、いや、とりあえず流双の特殊能力は意識を操る能力だったよな。ってことはあの野郎、俺らの意識を奪ったまま数日も放置してたってことか!なるほど、雨双が意識を操られて怒る気持ちもちょっとはわかるぜ。
「それで流双の目的は?」
「知らぬが心当たりならある。まず、あやつは洋風好きで破壊力を信奉している。が、我輩とは違い意志が弱い。破壊力以外にも数、情報、チームワーク、気分などを求めて中々動かないような奴なのだ」
「ああ。バカ母はそんな感じの性格だったな。あと時間感覚が狂ってる」
「流双は数年前、侵略先のある星で侵略占いをした。結果は家族。その後貴様たちを探すと言い、特星近くまで侵入して数年間偵察していたのだ。そして数日前に計画実行になった。……おそらく今後の侵略活動を手伝わせるつもりだったのだろう」
「え?占いを理由に雨双や羽双探してたの?ていうかそれだけの理由で侵略してるんじゃねー!」
「我輩たちにとって侵略は食事前の運動のようなもの。貴様たちの意思などどうでもいい」
なんて厄介な奴らだ。よくこんな自分勝手な性格で英雄が務まるもんだな。あ、でも英雄ってのは流双が言ってただけだから無双は違うのか。
ていうか特星一つに数年だろ?本当に宇宙征服してんのか?
「もうここに用はない。流双もあれだけ解凍できれば十分だ。我輩は行く」
「ん?うおわ!流双さんが消えてる!烈、お前どこに隠しやがった!?」
「消えたぁ!!?し、知らねーよ!!こたつにちゃんと半分くらい入れてたはずだ!!!」
遠くのほうで列とクレーの騒ぎ声が聞こえる。あいつら結局とんでもない力を見ることなかったな。まあ、知らないほうがいいのかもしれんが。
「あ、そういえば雨双はなにも聞いてなかったけどよかったのか?」
「ふん、あいつらに聞くことなんか何もないさ。あのバカ英雄どもと私やバカ兄とは住む世界が違うんだ。宇宙規模で」
「……あれ、そういえばお前や羽双って英雄じゃないのか?」
「ん?ああ。私たちはただの人間だ。よく誤解されるがバカ兄も人間だし。詳しくはないが、英雄は功績から信仰を手に入れてなれるとか何とか。……これ、私よりお前たちの分野だろ、どっちかといえば」
んー、聞いた感じ神様と同じように思えるがなんか違うのか?ってか、あれだなぁ。いつの間にか俺はどんどん信仰雑学みたいなのを覚えつつある。これは、もしかすると結構世間離れしてるのかも。
「ううううむ。なんかボケ役の一言が恋しくなってきた」
「そういえば戻ってくる気配がないな。なんだ、悟の癖にお悩み相談か?」
「あいつの話はわかったようでわかりきらないような気持ちよさがあるのさ。現実の話なのに夢のように非現実的、みたいな?ま、数ヵ月後くらいには戻ってくるだろ」
「ふーん?でも数ヵ月後じゃ他の事件が起こってるかもしれないぞ。悟だし」
そもそも数ヵ月後には聞きたいことも忘れてるだろうな。さてと、俺も今日は疲れたしそろそろ帰ろうか。……って、烈もクレーもこたつで寝てやがる!
「気持ちよさそう。私も寝よう」
「え。お、おい俺の寝場所は空けとけよ!」
よし、何とか俺も場所を取れた!って、げ!?俺の場所だけなぜかやたらと濡れてるぞ!く、だが、俺のコートは防水性!結構眠いし意地でも寝てやる!すーすー、ぐおー、がおー、ぎゃおおおおぉん。