〇話 本質なきアッパーサイド・トラッカー
@悟視点@
すっかり葉も土も茶色く染まった秋の季節、も終わりそうな時期になった。そろそろ暖房器具でも出さなきゃやってられないな。火炎放射器くらいしかないけど。
まあ、これが帝国の最後の武器なんだ。これから冬だしすぐ売れるだろ。
「にしても調子が悪いな。夏の絶好調はどこへ行ったのか。あれ以来、クロサバーストも撃てねーし、枯葉のような心情だぜ」
〔くくく、あのときのお前には溢れた悟ンジャーブラックの力が混じってたからな。闇の世界の影響で。だが、クロサバーストで闇の力を使い切った。だからへなちょこなツッコミ役に戻ったというわけさ〕
へー、この体でそんなことが。ってか、お前いつになったら俺の体を返すの?人間のが楽だからって人の体を奪いやがって!
〔これは俺の特殊能力で作った俺の体ですーっ。ちょっとツッコミ役の体を見本にしただけさ。コピーだよコピー。……あ、でももう本物消えたから俺こそが本物じゃね?なら君だあれぇ?〕
こ、こいつっ。今度街中で会ったらエクサバーストで消してやろう。二度と体を取り戻せないように。
〔まあまあ。春に夏とハードな旅行が続いたんだ。秋くらいはほのぼのしようぜ。まず半袖コートを片付けて長袖コートを出そう〕
今年は半袖コートを着ることが少なかったな。帝国から帰って、ある程度武器を売ってから出したし。さあ、片付け片付け。
[ばたぁん!]
「大事件だー!!!」
「大事件かー!お、お前、もうちょっとタイミング考えろよな!」
〔いや、むしろ狙いすぎに感じた〕
た、確かに流れるように俺の片付けが潰されてしまった。……さて、今更だがやって来たのは烈か。見飽きた顔してるなあ。
「帰れ帰れ。俺の部屋の片付けのほうがよっぽど大事件だっての」
「お、その反応は外見てねーな!?魔界だぜ魔界!特星ってやつは魔界みたいなもんだ!!」
「う、うるせー。頼むから俺の静かな秋を邪魔しないでくれよ。って、なんか外も騒がしいな」
烈がうるさくて気づかなかったが、さっきから外がやたらがやがやしている。なんだこの雑音?外でパーティでもやってんのか?
「んー。げ!なな、なんだあのモンスターの群れは!?」
「な!な!!悟でもやべーってわかるだろ!!?」
外を見てみるとあちらこちらがモンスターだらけじだ!どうなってやがる!まさか群れでこの町を滅ぼしに来たってのか!?……いや、でもよく見るとあんまり群れって感じでもないな。なんかばらばらに動き回ってる。
「にしても烈はよく無事だったな?モンスターとほぼ同時に来ただろ?」
「いやあ、なんかいつの間にか周りがモンスターだらけでさー!襲ってくる気配はなかったけどびびって逃げてきたんだ!!」
「わざわざ俺の部屋に来るなよ」
「そういうなよー!俺、いつモンスターに噛まれるか怖くて怖くて仕方ねーのよ!!なあ、頼むよ悟ー!なんなら今日一日はヒロインっぽくしてやるから助けてくれよー!!」
「だああっ!!気色悪いから出てけーっ!水圧圧縮砲!」
[どがあっがしゃああぁん!]
ひへー、部屋の窓と引き換えになんとかあいつのヒロイン姿を見ずにすんだ。とはいえだ。どうせあいつはまた来るだろうし、このままじゃあトラウマを植えつけられかねんな。逃げよ。
〔外はモンスターだらけだぞ?どうするんだ?〕
ふっ飛ばした烈はっと、ああ、確かに襲われもせずにモンスターに踏まれてるな。可哀想な奴。ま、とにかく大丈夫そうだから行こう。時間経過でモンスターが凶暴化するかもしれないし。
現代エリアがモンスターだらけだから特星エリアに来てみたが。うーむ、いつもより静かだ。ここなら無事に秋を満喫できそうだな。山は茶色くて風情があるし、草原はなんか秋っぽい緑色をしている。
〔でも町にいたのは襲ってこなかったじゃん。危険なのだけ特星エリアに残ってるかもしれないぜ?〕
う。確かにそうかも。油断しすぎないように休むか。
「あ、あのお。ちょっといいかなあ」
「え?ってさっそくモンスターか!水圧圧縮砲!」
「うわあっ!」
ちっ、伏せて避けやがったか。ていうかなんだこいつ?モンスターなのに言葉を話せるのか?へー、珍しい。擬人化なしで話せるモンスターか。
〔そいつは流々竜だな。闇の世界にいたジパンポーロドラゴンとかとは違って特星産のドラゴンだ〕
ああ、ドラゴンね。猫みたいなサイズだから気づかなかったよ。体も何色か混じってるっていうか何色も透けてるような色で、全然ドラゴンらしくないし。
「あ、危ないじゃないのお。なにすんだよー、いきなりさあ!」
「いや別に、モンスターと遭遇したら倒すってだけだが」
「わ、待った待ったー!なにもこんな時に襲わなくてもいいんじゃあない?」
「お、こんな時だって?お前、モンスター騒動についてなにか知ってるのか?」
折角だからこいつを倒す前に状況を聞いておくか。主人公としてはこういう事件を見過ごすわけには行かないしな、うん。ふふふ、それにきっと謝礼金ももらえるだろう。
「危なく私も巻き込まれかけてねえ。友人も脅されて人探しに行っちゃったんだあ」
「脅されただって?しかも人探し?なんだなんだ、お前らモンスターの癖にそんな理由で現代エリアに来たたのか!?」
「そだねえ。あれは帝国にいた仲間たちが帰ってから数日後のことかなあ。いきなり鎧を着たお爺さんが現れて、この地域はいただくから掛かってこい、とか言って手の早いモンスターたちと喧嘩を始めたのよお」
「へえー。で、負けて人探しとやらを手伝うことになったわけか。そこそこ強い爺さんだな。……ん?あれ、でもやられたモンスターは消滅するんじゃないのか?」
俺は何度か特星エリアに来たことがあるが、確か倒したモンスターは消滅してたはずだ。擬人化してるやつは消滅せずに気絶するだけだが、町に居たのはほとんどモンスター姿のモンスター。倒して命令したってのはおかしい。
「だから喧嘩だってえ。多分、手加減したんじゃないかなあ?消えて戦ってたみたいだからわからないよお」
[む。その話が本当ならちょっと厄介そうだな。消滅させずに倒した方法のことだが。変わった能力を使ってるか、特星モンスターをぎりぎり倒さないように加減できる達人か、あるいは特星のことによほど詳しいかだな]
特殊能力は姿を消すってやつじゃないのか?まあ俺の視力の前では効果薄いだろうけどな!その爺さんも俺が相手とは災難だな。
「その後、お爺さんは他の地域も周るって行っちゃったんだけどお、ちょっと前に帰ってきて現代エリアを探せってえ」
「そいつはなにを探してたんだ?」
「和服の男とその妹を探してるってえ」
〔「げっ!」〕
い、いや、ちょっと気が早いかもしれないけど。だが、もしかしたらそれって俺の知ってる感じの二人じゃーないだろうな?た、例えば、羽双に雨双とか。
〔へええ。それは面白そうな話じゃないか。ツッコミ役、もしかしたらその二人の関係者かもよ〕
あんな凶暴な奴らの関係者とかそりゃモンスターも従うだろうな!いや待てよ。そもそも羽双と雨双にはかなりの実力差があるんだ。関係者だからって強いとは限らないような。そもそも戦うと決まったわけでもないし。
「ふー、まあいいさ。今回の件はとりあえず保留にしておこう。……さてじゃあこいつ倒すか。モンスターだし」
「え!?ちょ、ちょっとお!そんな適当な理由で倒さないでよお!あなたは私を、ってかモンスターをなんだと思ってるのさあ!」
「ん、そうだなぁ。経験地であり金でもあるかな。それとレアアイテムを稀にしか落とさない悪」
「そ、そんなあ!」
「それにだ!俺のゲームキャラは何回も殺されてるからな!死ねっ!水圧圧縮砲!」
「わああぁ!」
……よし、倒せた。んー、言葉が通じると少し申し訳ない気もするな。だけど事件解決後にはまた人を襲うだろうし、仕方ないよなあ。
〔どうだろう?あそこまで会話できるなら、擬人化してもらって人を襲わないって選択もあったかもな〕
え、マジで?う、ううむ、これは本格的に悪いことをしたかも。その、なんていうんだろう。虫を殺したときよりも、なんだ。そう、しいていうなら地球でトカゲを踏み殺したときくらい悲しくなってきた。
〔色合い的にはナメクジだけど〕
ていうか、なんでモンスター倒すだけでこんなに感傷的にならなきゃなんないんだ。やっぱモンスターは黙って金とアイテム落とすのが一番だ。ゲームみたいに。
〔でも幽霊とか擬人化モンスターには敵意薄いよな〕
いや、その辺はなんかあれだし。動物っていうか人間寄りだし。同じ人型でも怪人とかはむしろ容赦なくいけるんだけどな、うん。
「貴様、なにをしている」
「へ?え、誰だ?いつの間に?」
って、この爺さん、鎧だぞ!鎧を着ているし槍を持ってやがる!まさかこいつが特星エリアのモンスターを倒したじじいだっていうのか!?
「我輩を知らぬ、……人間か。ほぅ、しかも貴様、地球の日本人だな?」
「げ、よく見ただけでわかるな!特殊能力か!?」
「愚かな。我輩はあらゆる戦をこなしてきた戦いのプロフェ……、達人だ。一度見た人種は頭に入っている。我が名は戦土無双王。無双の切れ端の異名を持つ、戦いの王である!」
「えーっと、名前がチェンクーさん?」
「逆だ。いや、貴様には和名のほうがよいな。我が旧名は戦土 無双。小僧、手下となった貴様には我が旧名を称えさせてやろう」
って、なんか勝手に部下にされてるし。それにしても無双だって?やっぱり羽双雨双の関係者っぽいな。しかもあの二人みたいに名前を変えてるのか。
「なあ。あんたの関係者に」
「名乗れ小僧っ!」
「ああ、うん。……俺の名前は雷之 悟!現状、唯一無二のコート神だ!」
〔ちょっと前まで俺がやってたけどな、コートの神〕
「無双とか言ってたな!お前、特星エリアを侵略して、モンスターに羽双や雨双を探させて何するつもりだ!……いや、見当はついてる!あいつらの力を使って特星全部を支配する気だろう!?そうはさせねーぞ!」
おー!なんだかんだで今日も主人公らしくカッコいいこと言ってるなー!問題点はつい勢いで敵うかどうかわかる前に言っちゃったことだけど。ど、どうしよ。こういうときに限って相手の目的とかがわかりやすいからつい勢いが。
「む。小僧、二人を知っておるのか。……まあよい。まず貴様の考えだが的外れだ」
「え、じゃあなんであいつら探してるの?」
「この星の侵略という点は当たっているが、それは数の力の証明のため。我輩が二人を探しているのは我が妻の要望なのだ。奴らのちっぽけな力など星の侵略には不要よ!」
「あ、なに?物量でいくのが好きな感じなのか?」
「当然。個がいかに強かろうと攻め勝てる数で押し切ればよい。そう、数の力は甚大!あらゆる戦、いかなる状況においても、数さえ絶やさなければいつかは勝てるのだ!」
あー、それは不味いな。正直、俺はあんまり数を相手にするのは得意じゃないんだよな。あと強い奴相手にするのもちょっと。
「そんなに数が好きならそのー、その鎧脱いでさ、力にものを言わせない戦いとかいいんじゃない?」
「小僧、ふざけておるのか?貴様の意見には一理ある。だが、我輩は数以前にだ。中華風の全てに、戦闘様式を含めた全てに心奪われておるのだっ!」
「……ああ、羽双系の人間か」
「あやつとは入り方が違う。奴の興味は現代における日本的、和風のイメージに沿っておる。しかし我輩は違う!我輩は中華風からイメージされる食や建築物に加え、三国時代の戦にも関心を向けておるのだ!とりあえず兵法書も持っておる!」
やっぱり同種の趣味じゃねーか!ま、まあとにかくこいつには中華まんかなにかを渡せば機嫌よくなりそうだな。餃子や中華そばでもいいだろう。危なくなったらすぐに食料品売り場へ逃げ込もう!
「さて小僧。貴様は先ほど我輩の兵を一つ奪ったな?」
「え?あ、さっきのモンスターか?」
「兵一つの損失は、貴様が二倍働いても補えぬ。罰を受け、五倍の働きをせよ!上玉醒斬!」
「うお!?」
[ずがぎいいいぃん!]
う、お、お前は羽双!?お、俺は無事だったのか!さっき、無双は一瞬と思えるくらいの速度で俺に斬りかかってきてたが。羽双がそれを防いでくれた!こいつ実はいい奴なのか!
〔おーおー、友情みたいな展開かー?〕
「小僧貴様、羽双っ!」
「く。だ、大丈夫ですか悟さん?」
「大丈夫じゃない慰謝料ほしい……。から二人まとめてエクサバーストぉっ!」
「「な!?」」
[ずがああああああぁんっ!!]
俺のエクサバーストに二人は飲み込まれた!って、ちょっと軌道がずれたか。……あのじじいが今回の黒幕みたいだからな。今回、出し惜しみはなしだ。
〔ええー。羽双はいいのか?〕
羽双ならほら、エクサバーストにも耐えれるかもしれないし、仮に消滅したとしてもお前や魅異なら体作って復活させれるだろうから大丈夫!なんとかしろ!
「ぐ、うぐううう。羽双、貴様ぁ!ふんっ!」
「って、爺さんも無事か!だ、だがさすがにダメージはあるようだな!あ、それと爺さん、お前を倒したのは俺だ、俺」
「ええ。僕はただ無双さんの避けたほうに光線の軌道を逸らしたまでですので」
「あ、そうだったのか。とにかく変態全裸じじい!その黒焦げの状態じゃまともに羽双と戦えないだろう?さっさと一生特星支配を諦めやがれ!」
ていうか俺一人じゃ敵わないから本当諦めて!……にしてもこの爺さんやばいな。いくらエクサバーストで衣服が消し飛んだからってよく全裸で仁王立ちしてられるよな。怖っ。
「確かに。今や我輩には羽双とやり合う力はない。が、甘い!我輩にはこの星で集めた幾多もの魔物兵がおるっ!羽双、我輩の邪魔をするならばこの星の魔物全てを敵に回すと思えっ!」
「ふむ。あなたは知らないでしょうが僕は時間を操る特殊能力を扱えます。……なぜ、その僕が悟さんより来るのが遅れたと思います?」
「途中で和食でも食ってたんだろ」
「慢心して寄り道でもしおったな」
「……それらもあります。しかし特星中の町でモンスターを倒していたというのが一番大きい理由でしてね」
「なにぃ?先に我輩の兵をだと?ばかなっ!それでは我輩の数の勝利がっ!」
急に自分の頭を押さえて座り込む無双。なんだっていうんだ?このじいさんは自分で戦う気がないのか?強いくせになんてわがままな奴なんだ!いやまあ、こっちとしてはありがたいけどな、うん。
「い、いやっ。羽双、すでに貴様は我が兵との戦いで消耗している。つまりだ!このまま我輩が貴様を倒し、特星侵略してもそれは兵の数の力による勝利!兵法書にもある、大統領は一人だが数の力で勝つのだと」
「うん。うん?……うん。ああうん。兵法書読んだことないけどそういう本なのか」
「ぬ?ああそうだ。この兵法書こそ三国時代の中華における真の兵法書。我が妻の計らいで手に入れることができた一点ものよ」
無双の持っている本、まるでっていうかノートそのものだし兵法書って手書きで書いてあるぞ。え、まさか本気でこれが兵法書だと思い込んでるのか!?
「あ、あの、ちなみに他のページはどんなこと書いてあるんだ?」
「小僧、兵法書に興味があるのか。面白い。まずわかりやすいページだと、らぶらぶあい英語、とある。三国時代には英語が嗜まれていたのだ。また我輩が侵略を始めるきっかけになった、宇宙に星条旗を、というページ。ここから三国時代は宇宙規模の戦が行われたとわかる」
う~ん、やっぱりなんか昔地球で聞いた話と違うような気がする。ぐ、だが歴史とか詳しくないからなんとも言えない!精神攻撃できるかと思ったんだが。
「悟さん、この人たちの好きはあくまで上辺なんですよ。興味のない部分にはノータッチ。宇宙侵略だって土地が広いほうがそれっぽいからやっている。気にするだけ疲れるだけです」
「それがどうした。我輩には絶対的な数の力がある。土地取り合戦で三国時代を味わえばよい!」
「う、やる気か!?」
「…………いや、いまや勝てば数の力が証明される状況。我輩の目的は達成された。ここからは我が妻、流双に任せようではないか」
[がぎいいいぃん!]
おお、羽双が逃げようとしてる無双に追撃を!だがじいさんの槍で防がれた!あのじじい、エクサバーストを受けてもまだ動けるっていうのか!?ほ、本来は消滅するはずなんだがなぁ。
「ちぃ、羽双か。どこまでも邪魔しおって!」
「悟さん、ここは僕が引き受けます。悟さんは強い仲間を連れて流双さんを探してくださいっ」
「あえ?他にも誰か」
[がぎいいいいいぃん!ぎいーーん!ががぎぃん!]
って、消えるように飛んでいきやがった!え、もしかして流双ってやつも倒さなきゃダメなのか?ていうか特星のモンスターは羽双が倒したんだから解決じゃないの?
〔数による特星侵略が無双の目的で、羽双雨双と会うのが流双とかいうやつの目的らしいが。どうだろうなー、俺の予想じゃ流双ってやつも羽双系のやつだと思うなぁ。恐らくアメリカン好き〕
俺もなんとなくそんな気がしてたぜ。にしてもどこ探せっていうんだよー!無双のじいさんはたまたまここにいたからいいものの、あいつら特星中を行き来してるんだぞ!
〔ふふん、主人公なんだろう?なんでもいいから目的意識があればそのうち解決してるさ〕
ええー。んー、それじゃあ仲間集めから始めようかな。強くて楽々仲間になる感じのやつを探すか!
というわけで特星エリアのどこかにある森に到着!なんか、敵の居場所探すどころか寮にさえ戻れる気がしないんだけど。……まさか迷子!?
〔あ、もしもし特星本部ですかー?なんか悟っていうツッコミ役が行方不明でして、ええ。彼から数億セルいただく約束をしていまして、戦隊 黒悟あてに送っていただきたく〕
…………お。木の陰に人影が見える。あれは、学生か?ボケ役の言葉はあてにならないし、とりあえずあの人影を仲間にして連れて行くか。気づかれないように距離を詰めてっと。
〔お、俺の電話コールの演技を無視しやがった〕
「おいちょっといいか?」
「うん?って、あああっ!お、お前は悟!?」
「え?なんか見覚えが。あ、お前クレーだな!」
「くっ。ちょっと待っていろ悟!」
なんか随分久しぶりに見た気がする。ってか、あいつなんで草むらに隠れてるんだ?ま、まさか久々の再開に照れてるってのか?……いや、そんなキャラでもないか。
〔探りでも入れてみたらどうだ?〕
「ふむ。やいクレー!お前こんな森でなにを悪巧みしてるんだ!こっちは全部お見通しだぞ!」
「は?……いや、よく来たな悟。この時を待っていたんだ。悟、お前に復讐するときをな!」
「復讐だって?………………クレー、お前なにか勘違いしてるか騙されてるぞ」
「ふん、そうでもないさ。…………さあ悟!お前と最後に会ったときとは違う、この闇世界の王クレー様がっ!ぱぱっとお前に復讐してやるっ!フレイムボール!」
「か、カッコいい二つ名を!大花火圧縮砲!……なら俺が勝ったらその二つ名を俺がいただく!ついでに俺の仲間にしてやるぜ!」
[ぼわぁっ!]
俺の魔法弾とクレーの魔法で相打ちか。やっぱりあいつの特殊能力は威力が低いな。水圧圧縮砲ならあいつのどの魔法攻撃でも打ち破れる!
「ふ、強い魔法弾なら勝てると思ってるな、悟」
「う、ばれてる」
「昔の俺とは違うのさ!マジカルアップデート!そして喰らえ悟!エアショット!」
「水圧圧縮砲!」
[ずばぁーん!]
「なに!うぐっ!いてて」
これは風の刃で相手を斬る技?い、いや、それよりもなんで俺の水圧圧縮砲が斬られた!?あいつの魔法にそんな威力はないはずだ!
「まさかクレー。さっきのマジカルアップデートって技は!」
「そうだ!俺の新しい特殊能力、魔法を操る能力の補助系バージョン!何年も闇の世界で修行し続け、なんとか特星の試験に受かって手に入れたのさ!」
闇の世界?あ、もしかして新年に行ってたあそこか!じゃああの世界にはクレーも紛れ込んでたっていうのか!
〔あれ、特殊能力の試験対策でなんで闇の世界に?〕
「え?おいクレー、試験と闇の世界とどう関係があるんだ?」
「ぎく。と、とにかく覚悟しろ!アイスキューブ!」
「く、水圧分裂砲!」
[どがどがどがぁ!]
「うぐぐっ!」
だ、ダメだ!似たような技だと単純に力負けする!これじゃあ昔とはまるで逆の状況じゃないか!クレーめ、ちょっと新技覚えたからって勝てると思うなよ!
「ふっふっふ、厳しいだろ、悟。そろそろ降参したらどうだ。今なら雑用くらいで許してもいいんだぞ?」
「ぐ、クレーに負けるような俺だとでも?」
「ふぅん、そうこなくちゃな。なら後悔して喰らえーっ!アイアンランス!」
「これがコートの神秘だーっ!コート魔術・移動!」
なるべくクレーに近づいた後、コートを囮にジャンプ!……よし、クレーの後ろに着地できそうだ!
「ん?なっ、悟が消えた!?」
「コート神キック!」
[ごすぅ!〕
「ぐあっ!う、後ろだとー!?」
[どさぁ〕
クレーのやや後ろあたりに落ちていき、クレーの後頭部に踵落としをお見舞いする!そして華麗に着地ー!クレーはそのまま倒れたようだな。
「う、うおぉ、頭が」
「って、まだ倒せてなかった!コート神キック!」
「ぐふぅ!?ちょ、ちょっと待て悟!」
「悟ンジャーキーック!」
「アタックバリア!はぁ、はぁ。いっつ~!」
うお、謎のバリアに無効化しやがった!ま、まずい!コートがない今じゃあ競り負ける!どうする?先にコートを取りに行くべきか?速攻で決めるか?
〔落ち着けツッコミ役。お前の勝ちだから、とりあえずコートを着といたほうがいい〕
え?あ、ああ、よくみるとそんな感じだな。いかんいかん、コートがないと思考力もちょっと落ちるな。……これでよし。
「大丈夫かクレー?」
「いてて、このやろ。遠慮もなく蹴りやがって。……まあ、今回は俺の負けだ。悟も強くなってたんだな」
「そうそう。さっさと俺の仲間になって復讐の動機とか話せよ」
「も、もうちょっと感傷に浸らせてくれても。なに、ちょっと悔しくてな。初期作ではお前のライバルとして活躍してたのに、今回はずっと出番がなかった。動機はそれだけなんだ。バカみたいだろ?」
「うん」
「……次会ったときにボコボコにしてやる」
ふー、思ってたより深刻じゃなさそうな理由でよかった。そもそも俺に恨まれる理由はまったくないし。八つ当たりされたってことだな。
〔そんなことより闇に世界にいた理由聞こうぜ〕
「ああ、そうだ。クレー、結局お前は闇の世界でどんな試験対策をしてたんだ?」
「う。俺としてはあまり言いたくはなかったが。じ、実は試験対策ってのは嘘でさー。闇の世界に行ってたのは試験の後なんだ。その、復讐の雰囲気に合っていたからって理由と、……決め台詞のために」
「雰囲気は合ってるけど、決め台詞?」
「そうだよ。悪いか?お前に会ったときの復讐の言葉や、勝ったときの決め台詞、急には思いつかないからな」
え、そんなことのためにわざわざ闇の世界に行ってたのか?バカじゃね?決め台詞なんかその辺の公園で練習してりゃいいのに。
「そんなの公園とかでやればいいじゃん。恥ずかしいなら防音の部屋とかさ」
「だーれが恥ずかしいもんか。ただ俺は練習姿を見られるのが嫌なんだよっ。それに防音部屋なんて本当に防音かどうかわからないじゃないか」
「ええー」
〔まあ科学技術を信じきれないのは仕方ない。クレーはそもそも特星原住民。科学技術に対する信用が俺たちほど強くないんだろう〕
ああ、そういえばそうか。そもそも公園で意気揚々と叫べばいい話だけどな。にしても復讐のために何年もあんな場所にねぇ。ちょっと尋常じゃない執念してるよな。
「で、俺が悟の仲間になるんだったか?」
「おう。なに、俺の前でさっきのバリアを使ってくれればいいさ」
「盾役か。構わないが倒せそうな敵は勝手に倒させてもらうぞ。悟、お前の活躍の場はないと思うんだなっ!」
なんかやたらとやる気満々だなー。今回の相手はとんでもなく強いっていうのに。ま、クレーに勝てて俺に勝てない相手なんていないけどな!
「行くぞクレー!目的地へ案内してくれ!」
「え?いや俺目的地聞いてないけど。俺の目的地でいいのか?ていうか悟は何しにここに来たんだ?」
「…………とりあえずクレーの目的地へゴー!」
「お?おおーっ?」
やってきたのは森に隠れるように開いている洞穴。って、どうしてまたクレーはこんなところに?道中も魔法の話ばっかりで要領を得ないな。
「クレー、こんなところになんの用があるんだ?お宝でもあるのか?」
「いや、闇の世界でお世話になった人から手紙が来ててさ。寮に。手紙に目的地が書いてあって、そこに行くとまた手紙があるんだよ。そんな感じでこの辺を歩き回ってんのさ」
「……それって悪戯かなにかじゃないのか?」
「さあ?モンスター相手の腕試しもかねてるからそれはそれで」
相当暇か時間感覚がのんびりしてるみたいだな。闇の世界生活が長すぎたんだろう。……んん?洞穴の奥からなんかやってきてる?しかも人か!?
「クレー、どうやら恩人とやらがきたみたいだぞ」
「え?そうなのか?会うのは初めてなんだよ、緊張するなー」
「あれは、男っぽいな。あいつは、あいつ、ぶっ、わはははは!」
「ど、どうした悟?」
「おおおお!?な、なんか入り口から人の笑い声が!!まさか俺を食そうとする化け物かっ!!?だがこの烈様がおいしく返り討ちに、って砂がぎゃああああっ!!!」
[がらがらずどどどぉっ!]
くくはははっ!入り口から見えてるのは烈だぁーっ!ど、どんな恩人がクレーを助けたのかと思ったらあいつかよ!……って、烈のやつ、岩や石に埋もれてる。ちょっとやばそうだから助けるか。
「ふー、助かったぜ!ありがとな、悟に……お前はクレーだと!?え、え?まさかお前らも洞穴で一緒に死んだのか!!?」
「ふ、久しぶりだな烈。闇の王クレー、闇の底から迎えに来たぞ!」
「いや、新しい闇の王は俺だろ。新闇の王悟だから、覚えとけよ烈」
「なんだなんだ、そういうノリか?なら俺は旧世闇よりの王!!ダークデッカイパワー烈!!!」
「「前半はいいと思う」」
……っていうかどうしよう。なんか適当にこいつらに着いていっても流双ってやつを見つけられないような気がしてきた。
〔見つけても勝てるかどーか怪しくね〕
「ところで烈よ。お前はどうしてこんな場所に来てたんだ?まさか、俺みたいに手紙を?」
「お、わかっちゃうか!?実はハンバーガー屋で綺麗なねーちゃんに頼まれてな!!特星エリアのいろんな場所に配達してるんだっ!」
「烈が配達してたのか。じゃあクレーの部屋に届けたのもお前だな?」
「んー?あ、最初に届けたやつか!!そういえばあれだけ現代エリアだったな!」
ってことはクレーだけ狙い撃ちの手紙ってこと?本当に世話になったやつからの手紙なのか。いや、怪しすぎるけどな。
「どうせ全部クレー宛だし全部渡せば?」
「そうなのか?ま、あとどうせ三枚だからいいか!ほらよっ!!」
「サンキュー烈。ええと、これは違う、これが次で、最終目的地のがこれかっ!」
クレーが最後の手紙を掲げる。逆に読みにくいんじゃないだろうか、そのポーズ。
「ふふふ、悟、列。俺は正直、恩人は男かもしれないとも思っていたんだ。名乗った名前がナレ君とかいう妙な名前だったから。でも、美女と聞いてちょっと期待しちゃったよ。青春をっ!」
「まさか恋文っ!?恋文を届けた俺は恋愛管理職だったのか!!?」
「ああ、そうだ……?烈は、そんな感じだな!俺の恋をきっと後押ししてくれる」
「お前ら、情報なかったら多分そいつ倒すからそのつもりでな?」
「……悟は俺の恋の邪魔になるようだ」
「ふっふっふ!ここでやっちまうか、クレー!!?ぼそぼそっ!!!」
「うぉわ!耳元で叫ぶなー!」
こいつらペアだとろくでもねーな。流双の情報手に入れたらさっさと強い味方探そっと。
もうすぐ夕暮れだが、なんとか手紙の最終目的地にやってこれた。なんだこの建物、小型の城って感じの建造物みたいだが、その割にはサイズが小さい。あと木製の門みたいなドアだな。
「すげー!城だ!!だが前に夢で見た城のほうがすげーでかかったぜ!!!」
「バカ、これは教会っていう建物だ。特星本部のガイドブックでみたことある。地球にもあるんだろ、悟」
「え?あ、ああ、教会だな!日本だと魔法使いがよく出てきたはずだ!あとシスターや僧侶、天使や武術家やパラディンもいる、はず」
とはいえ、俺は教会ってみたことないけど。教会そのものも、十字架とステンドグラスとオルガンがありそうってイメージだし。やっぱり神社みたいに神様が住んでるのか?
〔ツッコミ役、寮住みじゃん〕
「ゲームの通りなんだな、地球!じゃあこの教会にも戦闘のプロがいるってことか!!」
「ナレ君は優しい人だと思いたいが。で、まず誰から行く?」
「「先頭はクレーだろ!」」
「俺か。呼ばれたの俺だからなぁ。よしじゃあ、お邪魔しまーす!」
[どおぉーん!]
クレーが開けたドアの先には、って、え?……こ、これは!じゅうたんに机にこたつに、……なんていうか全然教会っぽくない!広さ以外はよくある部屋って感じだ!
寝転びながらこたつに入ってテレビを見ている金髪女がいるが、あいつがクレーの知り合いか?若そうだから流双じゃなさそうだが。ていうか同年代くらい、か?
「暖けぇー!暖房効いてるなこの教会!!!」
「ようこそ、我がティーン聖域へ。わたくしがお呼びした人数より多いようですが、ねっ」
「ああ。って、このほとんど冬の季節にショートパンツだと!?しかも袖なしへそ出しシャツ!お、お前、季節感もっと出せよ。クレー、烈、とりあえず気をつけろ!」
「ふふっ、そんなものは無存在ですよ。そお、現代暖房器具の前には季節などない。わたくしのナレ君の偽名ほどに無存在、そうでしょう?」
なんか自分の髪をばさーってしてるな。こいつ、もしかして自分に酔ってるんじゃないか。実力はわからないが自信はやたらと感じられる。
「……悟!!お前はこいつに気をつけろと言ったがな!!……俺はぐっときたぜ!!!」
「俺はお前がバカだと知ってるからそんな気がしてた。クレー、葉書きでたらい回しにされたお前なら怪しむよな?」
「ふ。燃えたぎる闇の前では仕草など無作用、なぁ?」
「影響されてるじゃねーか!単純バカ!」
「あらら?わたくしの術中に陥らない方もいますのね。よろしいっ!稚拙な術でごめんなさいね、今更ながら名乗らせていただきます。わたくしはルソー イークサード。クレーさんとはお友達をさせていただいていますわ」
術だって?そ、それにルソー イークサード?まさか、こいつが例の流双とかじゃあないだろうな!?
「はっ!!聞いてくれ二人とも!!俺は一度このルソーに会ってるからそこまでぐっときてないぜ!!」よく考えたらちょっとしかぐっときてない!!!」
「あれ、なんかさっき乗せられた気がする」
「わたくしは見ての通りのシスター。でも呪術も嗜んでいるんです。だからなのか、特星でも似たような力を手に入れちゃって。…………クレーさんにお話を聞こうと思ってお呼びしました!わたくし、特星にきたばかりで何もわからなくて。特星について、わたくしに色々教えてくれませんか?」
「それはいいんだけど。それよりルソー、お前無双の一味だろ」
「え!?な、なぜそれをっ!?」
「ふっ、図星みたいだな!ルソー イークサード、いや戦土 流双!主人公たるこの俺の目を欺けると思ったら大間違いだ!観念し……」
……俺、烈、クレー。クレーは俺より弱いし、烈は問題外の実力。……こ、これは、勢いで正体暴いちまったあとだから今更なんだが、観念するのは俺たちのほうなんじゃ。いや、最初からわかりきってたけど、つい!勢いで!!ついつい推理披露を、ていうかわかりやすすぎるんだよ!
「……気づかれてしまったのですね。そう、わたくしはティーンの英雄こと、和名は戦土 流双。クレーさんを遠まわしにここにおびき寄せ、特星の情報を聞きだすつもりでした」
「る、流双さん?俺、一ヶ月くらい手紙を追って歩いてたんだが。なんでそんな遠まわしなことを?」
「わたくしの正体を知れば、きっと実力者を連れて特星侵略阻止をするだろう思って。ごめんなさいね、クレーさん。私の都合で無茶させてしまって」
「いえいえいえ、修行になったし礼を言いたいくらいですよ!な、悟、烈!」
「知らん」
「こたつ暖けぇ!!ストーブ派だったけど乗り換えるぜ!!」
なーんか、強いって割にはやたらと下手にでてくるなぁ。もしかしたらこいつってそんなに強くないのか?話を聞いてる感じだと、慎重、人を動かす、術士みたいな感じだし。もしや羽双、場合によっては雨双より弱いかもしれない。なら、なんとか勝てる!
「流双!お前の侵略を阻止するのは主人公である俺だ!羽双や雨双を連れていくのは構わないが、特星侵略をやめないなら今すぐ倒れることになるぜ!」
「そうなの、とても残念だわ。では戦わなくてはなりません。わたくしは、目的はいくつかありますが、そう、途方もなく大きく、強く、自由。そんな最高の理想世界を実現するために、ねっ!」
「ふーん、その程度の理由か。大きさ、強さ、俺、どれを取っても主人公のほうがお前の世界より優れているがなっ!それが主人公!そして、…………クレーの番!」
「ん?ああ。……はっ!俺に話を振るのかよ!?え、じゃ、じゃあ、男女のめぐり合いっ!そして、烈!」
「よーい、スタートぉっ!!!」
「空気圧圧縮砲!」
よし、なかなかいい感じの不意打ちになった。これは確実に先手を取ったな!……ん、あれ、撃ったはずの空気圧圧縮砲はどこだ?ていうか、流双がいない!?
「「「消えたぁ!?」」」
ば、ばかな!?完全に消えたぞ!羽双や無双のやつらも消えるような速度で動いてたことはあったが。だが、これは、多分違う。俺の目でもまったく捉えられないってのは本当に消えたときだ!多分!
「クレー、悟!!後ろにいるぞ!!!」
「「後ろ!?」」
「スタートは切られました、よ。もっともスタート以外にもなにか切れているのかも。でも、背を向けては戦えないのではないでしょうか?」
「ふ、ふふーん。こうも簡単に主人公の背後を取るとは。流双、お前羽双みたいに時間を操ったな!」
「まあ、羽双は時間を操れるのね!ふふ、いいことを聞いたのでお答えしますね、違います。私は時間操作なんてしてません。そんな大げさなこと、私にはとても」
え、じゃああの瞬間移動みたいな移動法はなんだっていうんだ!?まさか本当に速すぎる速度で、目で見えないほどの速度で動いたっていうのか!?
「流双さん、俺はあんたと戦いたくはない。一緒にお茶でも飲もう!」
「あなたがクレーさんですね。ねえ戦いましょう、特殊能力で。ばれてしまったからには逃がしませんけど、わたくしは相当にこの新しい力を使いたかったっ!呪術より強く、洋風かつティーンなことができる能力なのですから」
「さっさと倒してやるっ!電圧圧縮砲!」
「やるしかないか。フレイムボール!」
「ふふ、能力を使うまでもありません。とぉっ!」
おおっ!消えるような速度で飛んで、すげー回転して着地した!これは消えるように早かったが目で捉えることができた。消えるのは特殊能力だな!ていうかやっぱり普通に強くないか!?
「言い忘れてましたがわたくしは英雄。知っていますか?英雄は幅が広いのですよ。数人がかりでようやく魔王一匹を倒すこともあります。が、極めし英雄はなんの装備もない単身で、宇宙を滅ぼすような悪を倒すらしいです」
「く、悟!流双さん強いぞっ!」
「まったく当たらないな。くそ、百発百中が取り柄なのに」
「すやすや」
うぐぐ、攻略の手段が思いつかない。烈に至ってはなんか寝てやがるし。ボケ役、英雄っていうのは神様みたいになんか弱点はないのか?俺がコートないとやばいみたいなそんな弱点は?
……………………あいつぅ、肝心なときに居ないなっ!
「んー、これならハンデがあってもいいかもね。どうでしょう。私に指一本でも触れることができればあなたたちの勝ちというのは」
「か、完全に甘く見られてる!どうする、悟?」
「いいだろう。その代わり、俺が勝ったら教会のこたつをいただく!クレーもなにか言っとけば」
「ハンデもらうのにいいのか?なら流双さん!俺が勝ったら流双さんの食べたい食事をおごらせてくれ!」
「いいですよ。となれば私の攻撃方法はこうです、ねっ!」
「ぐおぉっ!?」
いててて!な、な、何?なんだ!?いきなり顔がとんでもなく痛みだした!ていうかいつの間に俺は倒れてたんだ!?さっきまで確かに立ってたはずなのに、いきなり俺は倒れていたぞっ!
「どうした悟!?って、うわ、汚っ」
「いやでもな、流双!このパンチで俺に触れたってことは俺の勝ちだ!お前から俺に触れたってことだからな!そもそも、こんな教会内で鬼ごっこなんて勝負を捨ててるだろ!」
本当に殴られたかどうかはわからないが、とりあえず勢いで勝ったことにできるかもしれない。ってか、一体なにが起こったって言うんだ?……わからねー。
「いいえ、わたくしは触れていない。自分の衣服をよく見てください」
「ん?うおお、俺のコートに泥がついてるー!こ、こいつよくも!」
「それだけじゃないぞ、悟。お前の後ろにはプランターと花が散らばってる。流双さんはきっとお前に花を植えたプランターを投げつけたんだ!」
「そうですそうです。わたくしの強さをそうやって知ってください。そうだっ、宣言しておきますね。……たとえ指一本触れたとしてもあなた方に勝ち目はありません。私に触れたことを知る術がないのですから」
そうか。……ん?それって不正し放題ってことなんじゃ。
「く、なら流双さん。俺たちにどうやって勝てっていうんだ」
「さあ?証拠を出すとか。あ、いいですね!洋風っぽい!証拠が全てです。わたくしに触れたという物的証拠をきっちり押さえてください。そうすればあなたたちの勝ちにしましょう。……知らない間に証拠がなくなっていなければ、の話ですが」
「よーし、賢い俺は全てわかったぞ。クレー、この野郎は俺たちに勝たせる気がまったくないんだ」
「ふふっ、当然でしょう?こちらは数年かけて特星侵略の準備をしてきたのですよ。本当に勝ち目を与えると思いますか?」
やっぱりあれだよな。時間停止みたいなあの技が問題だ。こうなったら俺だけで倒したかったが、もう少し味方を増やすしかないか。でも多分、流双のやつがそれを見逃しはしないよな。
「クレー、こうなったら味方を呼びに行くんだ!教会の出入り口に走れ!ここは俺が引き受けた!」
「なに!?さ、悟。……わかった、必ず味方を呼んでくる!それまでやられるなよっ!」
[がしゃがしゃーん!]
む、俺の後ろに走り去ったはずのクレーが、俺の正面奥にあるこたつの上に倒れた。ていうか流双がクレーをぶん殴ったように一瞬見えたが。でも証拠なんてつかめない!計画通りに俺が仲間を探す!
これだけの距離があるならこの技だ、コート魔術・分身!よいしょ、っと!
「逃げられはしません。わたくしの領域に一歩でも足を踏み入れた時点で、あなた方を百年でも千年でも留まらせることができるのです。今だって暇だから遊んでいるに過ぎない、わ」
「ふ、まさかクレーの逃走戦術を見破るとはな。流双の力は予想より強かったのか」
「よく考えられた戦術ですが残念でしたね。わたくしの知能指数の前では敵ではありません。……ところで両手を広げてなにをしているのです?」
「ぎくりっ。いや、ほら、ここって教会じゃん?なんかこう、十字架の気持ちを表現したくてな」
ま、まずい。俺は今、コート魔術・分身によってコートを一瞬で脱いだ。そしてコートを後ろから着ているかのように広げている状態だ。おそらく流双は距離が遠いから気がついてない。この後は、かかしでも見つけて、コートを着せて、身代わりにするって戦法だ。が、問題が一つある。
コートを脱いだ状態の俺は多分思考力が低下するってことだ。
もう、あれだ。さっきの言い訳が通じるとはまるで思えない!くそぅ、思いつきで実行したのが間違いだったか!そもそもかかしなんてどこにもねーよ!
「ああ、わかります!なんかティーンって感じですよね!」
「は……!?あ、そうだなあ!なんか俺もティーン力が上がってる!」
とはいえ、コートを脱いでるから体調が悪くなる!は、早く教会の外へ逃げないと、その内逃げる体力までも無くなってしまう!
「うふふ、わかりますー?この教会の十字架もほら、交差点からの縦横の長さが完全に等しく作ってあるんですよ!十こそがティーンを表すにもっともふさわしい文字ですわ!」
「う、うん!そうだな!くっ」
流双が目を閉じて語っているな。いまなら、いまなら少しずつ距離を開けて逃げることが出来る!そーっと、そーっとぉ。
「ふあぁ~。ん?は、お前ら、おはよう!!まだ戦ってたのかぁ!!?」
「あら、お目覚めですか」
「烈うううぅーっ!お前えぇっ!」
「へ!!?ど、どうした悟!?俺、なにかやらかしたってのか!!?」
「烈、お前は今なぁ!ぐっ!……い、いや、おはよう!」
落ち着け!落ち着くんだ!今作戦を流双に知られたら間違いなく脱出のチャンスがなくなる!なんかいつもより冷静ではあるな、俺!でもコートがないから眩暈がしてきた、うぐ。
「おはよう!なんか一日くらい寝てた気分だぜ!!ん?げ、クレー!!!俺の寝てたこたつの上でクレーが死んでやがる!!!」
「殺してはいません。もっとも意識はないので」
「クレーの仇ぃ!!!」
[どがっしゃああぁーん!!]
こたつが宙に浮いた!?とにかく逃げ、いや、不意打ちするべきか?両方だな!
「燃えろ、油圧圧縮砲!そして俺はコートを着て逃げ、うぐぐぁ!?」
な、なに!俺は、床に倒れていて、この、気分の悪さは!も、もうこれは完全に動けないほど、体調不良が進行してる!し、しかもコートが、手を伸ばしても届かない!
「いたた、不意打ちされるとは思わなかったわ。でも、わたくしの勝ち。クレーさんも、郵便配達屋さんも、コートの人だけはなぜ倒れたのかよくわかりませんが、とりあえず倒れました」
「うぐ、ぐっ」
「でもコートの人は意識があるようね。ちゃんと気絶させておかなきゃ」
「そうはいかないぜ!」
「「え?」」
ど、どこからか声が。って、あれ?調子がよくなっただと!?いつの間にか俺がコートを着ている!だ、だが、俺が脱いだはずのコートは落ちてるな。どうなってるんだ?
「ど、どうかしましたか?悟さん、でしたか。まだ余力があるのでしょうか?」
「どっちを見てるんだ?こっちだ、落ちてるコートをよく見てみな!」
うお、落ちてるコートがなにかに押し上げられていくぞ!人だ!それにこの俺にそっくりな声はもしかして!
「ボケ役か!」
「その通り!落ちてるコートは俺が貰ってくぜ。ツッコミ役、お前のように簡単にコートを捨てるやつには夢素材のコートで十分だ!」
「なっ!コート男が二人!?」
「それは違うな、英雄女学生!人間なのはこの俺、戦隊 黒悟!こっちの寝てるコートは既に人間じゃないんでね。そして、だ。おめーには一度、手痛い目に遭わされたことを思い出した。お前の相手は俺が務めさせてもらうっ!」
「そうなのですか?会ったことあったかしら?」
「ふん、ないから今日までやり返せなかったんだ!覚悟しやがれ偽洋風が!」
「……なんだかよくはわかりませんが、ぶっ倒せばいいのね。いいですいいです、ティーンの英雄たるこのわたくしが、力というものを教えてさしあげます、わっ!」
なんかボケ役と流双の戦いが始まってしまった。俺は、どうしよう?とりあえずボケ役をサポートでもしておくか。他の二人は、……起きそうにないか。じゃ、とにかく二ラウンド目だっ!……ボケ役なら勝てる、よな?