二話 よい変態と変わった神
@悟視点@
「あー、今回も外れたか」
俺が現在見ているのは新聞のある部分。そこにはある名前が書かれていた。
「く、恐らく今年も魅異が勇者か」
そう、俺が見ているのは勇者合格発表。この星では年に一回だけこれが行なわれ、合格した者が勇者となれるのだ。その決定方法は簡単で、特星本部で勇者の職業を希望して、能力測定を受けるだけである。その中で勇者に適正な能力な人が選ばれるのである。
ちなみに魔王や聖王や神様も同じ方法で決定されるぞ。
「そういえば、隣のクラスのウィルも勇者になったことがあるんだっけ」
本当なら勇者姿のウィルも少し見てみたいなぁ。
「…身体検査」
いや、別に何となく言ってみただけだぞ?何も考えずに無心で言ったんだ!
「主人公が怪しい考えなどするはずがないだろー。特にこの俺に限ってそれはない」
さて、暇だからゲームでもするか。
「今日はストーリーを読みつつ、選択肢を選ぶゲームだ」
俺はよくゲームをするんだが、こういうゲームでバッドエンドにいかなかったことはほとんどないんだよなぁ。
「よ-し、クリアーするぞ!」
「こんにちはさまー、悟は居る?」
おや、こんなときに印納さんが来たみたいだ。
「居ますけど、こんにちはさま?」
「新挨拶よ。夜以外なら使えるわ」
変な宗教でも作るつもりだろうか?
「というか、どうして印納さんはここに?お菓子の城で花見でもしてると思ったんですが」
「お菓子の城は戦争で崩壊したわ」
「戦争!?」
この人は既に特星侵略を開始しているのか!…お菓子の城で。
「あ、相手は?」
「アリ共よ」
「え、アリ?」
予想外の相手だったが、何があったのかは大体予想できた。
「あー、アリにお菓子の城を襲われたんですね」
「そうなのよ。しかも、屋根のアイスが崩れたせいで溺れたわ。肌がツルツルになったし、ベタベタ感も悪くはなかったけどね」
おぉ、今度アイス風呂でも作ってみようかな?
「で、その後は火山に行ったわ」
「何で?」
マグマ水泳は一般人には中止されてるが、印納さんならやりそうだな。
「探偵と専門家に城跡を調べさせたら、火山のマグマ近くに生息するアリが私の城を襲ったことと、そのアリの住居がその火山だと分かったからよ」
なるほど、仕返しに行ったのか。
「で、どうやって火山のアリを駆除したんですか?」
「シンプルに火山を崩したわ」
まぁ、本気の印納さんならやりそうなことだ。普段はそんなに強くないけど。
「話を戻しますけど、何で此処に来たんですか?」
「ちょっとした依頼があってねぇ~、十万払うから受けてくれない?」
別に依頼とか受け付けてないんだが、十万セルもくれるなら受けるべきか?
「内容によりますけど」
「秘宝といわれる、朝日の宝石が欲しいの」
秘宝集めを十万セルで頼むか普通?
「何で秘宝なんかを?」
「さっき言った火山で夕日の宝石っていう秘宝を見つけたんだけど、朝日の宝石とペアだと凄い値段で売れるのよ!」
あぁ、ペアじゃないと価値のないものってあるよなぁ。
「でも、秘宝なんてそんなに見つかるとは思いませんけど」
「特星には秘宝なんてよくあるものだし、主人公補正で何とかなるわよ」
まぁ、主人公の俺なら何とかなるかな。
「じゃ、私はゲームして待ってるから」
「データは上書きしないでくださいよ」
「私は人のデータに上書きするほど酷くはないわよ」
…恐らく無事ではすまないだろうなぁ。
~瞑宰公園~
「さーて、休もう!」
その辺を歩いて探したが、どこにも落ちてなかった。もちろん、宝箱なんてのは一切なかった。
「おや、貴方は例の人じゃありませんか!名前は悟さんですねぇ」
「ん?お前は雑魚ベーじゃないか」
これから休もうと思ったら、雑魚ベーが急に現れた。海賊が陸に居ていいのか?
「まだそう呼びますか。まぁ、それもいいでしょう」
「ってか、何で俺の名前を知ってるんだ?お前との戦闘中は俺の名前は出てないはずだぞ」
「ふふふふふ、私が本気を出せばそんなものは簡単に分かりますよぉっ!まぁ、簡単に分かるのは少女のみですがねぇ」
とりあえず、こいつの関係者だと思われたくないし、さっさとこの場を離れるか。
「おぉっと、逃がしませんよぉっ!この前の決着が全然ついてませんからねぇ。もし、この勝負で貴方が勝てたなら、貴方を私のライバルに任命してあげましょう!」
しかし、逃げられなかったのパターンか!
「ここなら水に落ちることもありません!必殺、ジャンピングキックですよぉっ!」
「またそれか!」
回転しながらのつま先キックを回避する。
[ドボーン!]
「水に落ちたか」
雑魚ベーはそのまま噴水に突っ込んでいった。水に落ちないとか言うから落ちるんだぞー。
「ふっふっふ、二度も私を同じ策で倒そうなど不可能ですよぉっ!」
水浸しになりながら雑魚ベーが噴水から出てくる。
「さっきの仕返しですよぉっ!そりゃっ!」
「おあっ!水を飛ばすな!」
雑魚ベーは予想外にも噴水の水を飛ばしてきた!おかげで俺の服も少し濡れてしまった。
好きの多い技だろうと思ってたから避けれなかった。
「ふはははは!私と同じ目にあわせてやりましたよぉっ!」
「く、水をかけてくるとは!って、どこいく!?」
雑魚ベーは俺がよそ見をしているうちに噴水の裏へ逃げていった。この噴水は大きいため、裏に行かれたら相手に技を当てるのは難しい。しかも、相手の位置がまったく分からない。
近づいたら奇襲を掛けられるだろうから、雑魚ベーが戻ってくるのを待つか。
「おい、無駄な抵抗はやめて俺にやられろ」
返事がない。公園の別の出入り口から外に出て、俺の後ろの出入り口から入って奇襲もありえるし、背後にも注意をするか。
…後ろにも居なさそうだが、噴水の裏から来る気配もないな。
「俺が行かないと話が進まないのか」
仕方がない、素早く突撃して即座に攻撃するか。
「よし、空気圧圧縮砲!…あれ?」
一気に噴水の裏まで走りぬけ、魔法弾を撃とうとするが誰も居ない。
「あー、公園の外から回り込んで、奇襲する作戦の方だったか?」
「ここですよぉっ!」
「うわっ!」
[ドッボーン!]
急に噴水から出てきた雑魚ベーに、噴水の中に引きずりこまれる。
「ふふふん、これで濡れ具合は同じですねぇ!」
く、わざわざ噴水の中で待ち伏せとは!
「でも、これでやっと魔法弾が当てれる!」
「させません!必殺、ジャンピングウェーブ!」
「うわ、水が飛ぶ!」
雑魚ベーがその場で飛び始めたせいで、水が飛び散り、水面が揺れて立ちにくくなる!
ってか、水位が腰の少し下くらいまであるのに、なんで水面より上まで飛べるんだ!?
「見ましたか!これこそが相手と自分に位置が近く、両方が水の中に居る時に使える必殺技ですよぉ!」
「いや、水で見えないし!」
しかも、波で少し押されるから狙いにくい!
「ってか、いい加減にしろ!」
「ひぇっ!」
雑魚ベーが着地した時に足を引っ掛ける。飛び跳ねてた時に起こった波で、そのまま倒れた雑魚ベーは流されていく。
左に流れたってことは一周して右から来るだろ。
「止まりませーん!」
やはり右から来た!ここで狙いを定める!
「って、少し速すぎ!ぐあっ!」
狙いを定めていたら、流れてきた雑魚ベーがそのまま俺に直撃した!
「うわ!流される~!」
どういうわけか、水の流れがどんどんと速くなっていく。
「どうなってるんだ!水の流れが速くなってるぞ!」
「あぁー、流れるプールを参考にした流れる噴水ですねぇ。今は調整の為に作動させてるんでしょうねぇ」
流れる噴水って、泳ぐ施設でもないのに水が流れる意味はあるのか?
「い、いつまで続くか分かるか?」
「そうですねぇ。お昼から二時間作動で、さっき作動したばかりなので残り二時間ですね」
「そんなに待てるか!」
水位が膝近くまであるのに加え、上手く水にのってるので足が底につかない!
「はぁ、…凄く疲れた」
「うぅ、噴水に住む巨大な魚に頭の方から噛まれましたよぅ!あれは確実に私を食べる気でしたねぇ!」
「巨大な魚ー?そんなのが流れる噴水に居るわけないだろ」
そういって噴水の方を見ると、巨大な魚が泳いでいた。
「…魚型のボート?」
「あ!あの魚に噛まれたんですよぉっ!」
鰻のようなうねうねした体の魚で、噴水の流れる水の部分のほぼ全域に達する大きさである。噴水を一周して、自分の尻尾を噛めそうなくらいの大きさである。
「ってか、水に入る前に気づけよ」
「下見て歩いたら、前の壁にぶつかるでしょうが!」
そんなことより、あの魚を捕獲すれば、今月の食費が無しで済むんじゃないか!?
「あの魚め、私が食べてやりますよぉっ!」
「なっ!それは駄目だ!」
「へ、どうしてですか?」
俺が食べるんだから、雑魚ベーの分はない。
だが、雑魚ベーが納得できる理由で誤魔化さなければ!
「食物連鎖表では、雑魚ベーよりあの魚の方が上だ!むやみに勝負を挑めば食われるぞ!」
「な、なるほど!そういえばそうでしたねぇ!」
知ったようなことを言って、自分が嫌にならないか?
〔相手を騙すようなお前こそどうかと思うけどなぁ〕
いやいや、人は間違いを経験して成長するんだぞ。
〔そういう言葉を悪用するとはねぇ。俺の中で、ツッコミ役への好感度が下がったぞー〕
お前になら嫌われてもいいけど。
〔酷いな。本当にそれで主人公か?〕
…頼むから俺を悪人みたいに言うのはやめてくれ。
〔俺の趣味に文句を言う権利は、ツッコミ役にはないっ!〕
うぅ、ボケ役が言葉で俺を攻撃するー!
「うーん、確かに一度食べられましたし、その魚への復讐は諦めましょうか」
「それがいい」
後は雑魚ベーが居なくなった後、あの魚を捕獲すればよし!
「でも、朝日の宝石はどうするかな」
あおの巨大魚がその宝石を飲み込んでいて、料理の時に気づくという展開だと楽なんだけどなぁ。
「ん、朝日の宝石を捜してるんですか?」
「持ってるのか?」
こういうことを言うやつは、宝石のある洞窟かなんかを知ってる可能性がある!
「私は持ってないんですが、持ってる人なら知ってますよぉっ!」
「それは誰だ!」
「特星で神様の職業をやっている女の子が居るんですが、その子の家の机の引き出しにあるはずです」
何でそこまで具体的なのかは知らないが、そこまで分かるなら家の場所も分かるんじゃないか?
「悪いが、その女の子に会わせてくれ!」
「えぇ!私も一度は会いたいと思ってたところなんですよぉっ!」
あー、知り合いじゃないのか。
「非常に可愛い子なので、仲良くなりたいですねぇ。でも、行き方がわかりません」
「…場所を教えてくれ。わかる場所まで俺が案内するから」
「うーん、それが異空間なんですよねぇ」
あー、いきなりだが道がわからなくなった。
「異空間ってどこさ?」
「場所は勇者社の近くの別空間です」
「…頭が痛くなってきた」
一応、勇者社の近くまで来た。
「この辺りですねぇ」
「道だな」
雑魚ベーが言うには、道路の位置の別次元に家があるらしい。異世界と異次元ってどう違うのかな?
「ですが、別次元に向かう方法がないのですよぉー」
「うむぅ、そういう話に詳しいやつを一応知ってるんだけどなぁ」
「そうなんですか!なら、その人の本拠地を教えてくださいよぉっ!」
場所はすぐ近くの建物の社長室だが、関わらないほうが身のためだ。
〔なあ〕
ん、どうしたボケ役?
〔俺の居る場所も異次元なんだけど〕
そうだったのか?
〔あぁ。そっちで勇者社が建ってる場所の近くの道路だが、こっちでは家が建ってるみたいだぞ〕
そうか、よくやった!今すぐその家に突入して、朝日の宝石をとってきてくれ!
〔断る〕
え、何でだ?
〔今日は出かける予定じゃないからだ。場所を特別に地図で調べたんだから、俺に感謝して自分で向かえ〕
方法は?
〔そっちの勇者社から、こっちの勇者社へ来れるかもしれない。まぁ、魅異に尋ねてみることだな〕
そうか、ありがとう!
〔ふふん、感謝が足りないなぁ〕
…やっぱり破滅しろ。
「よし、案内する」
「では、お願いします。それにしても、何で異次元に詳しい人と知り合いなんですか?」
「俺が主人公だからだ」
「おぉ!主人公って凄いですねぇ!」
ふふん、尊敬が足りないなぁ。
〔破滅しろ〕
え、何で!?
~勇者社~
俺達は魅異に事情を話し、異次元への行きかたを尋ねた。
「普通は誰かに送ってもらわないと難しいから、今回は私が送ってあげるよ~」
おぉ、簡単に解決した!
「異次元の場所にある勇者社でいいね?」
「あぁ」
「はい、到着」
移動したかわからないくらい早いし!
「早いですねぇ。とにかく向かいましょう!」
「あぁ」
俺達は勇者社を出て、すぐ近くの家の前まで来た。
「うわー、本当に勇者社のお隣さんじゃないか」
「元の瞑宰京とは町の構造が違いますねぇ」
確かに様々な家や道が全然違う場所にあるが、勇者社は元の場所と変わらない位置にあるようだ。
「ところでこの家に住んでるって少女は誰なんだ?」
俺の好みだったらたまに遊びに来よう。
「アミュリー レイカレーンさんという人で、磁力を操る能力の他に、複数の能力が使える凄い女子小学生なんですよぉっ!」
「え、女子小学生なのか?」
残念ながら恋愛対象外だ。
「期待して損した」
「いえいえ、そんなことはありませんよぉっ!明るい性格に何事も前向きな心、そしてちょっとした知識の貧しさは、普通の女子小学生以上に放っておけない魅力があります!まさに私と共に過ごす小学生に相応しいですねぇ!」
こ、こいつを連れていって大丈夫か?
〔変な展開になりかけたら、魅異がなんとかしてくれるだろ〕
あー、確かに。
「さて、それじゃあ忍び込むか!」
「え、どうしてですか?普通に玄関から入ればいいと思いますけどねぇ」
ふふふん、雑魚ベーは深読みということを知らないな!
「アミュリーは一人でここに住んでるんだろ?」
「えぇ。この別次元自体が特別な状態でないと来れませんし、基本的には帰る手段が無いに等しいですから」
「お、何故だか詳しいな!」
まぁ、この次元に来る為にいろいろ調べたからだろう。結果的に方法は知れなかったようだが。
「で、相手が小学生でも、女子の家に男二人が急に訪ねてきたら怪しむだろ!下手したら話すら聞いてもらえないかもしれない!だが、忍び込んでから話を聞くのであれば、相手が納得するまでドアを掴んで家を出ないという荒技が出来る!」
「おぉ!実に怪しまれそうな技ですねぇ!」
「そう褒めるな。普通の主人公ならこのくらいの発想は序の口だろうからな」
しかし、この作戦にはちょっとした問題がある。
「何処から進入するかが一番の問題なんだよなぁ」
「もっと根本的な問題がありますよぉっ!」
根本的な問題って所持金とか?
「あー、十セルしかない」
「いや、お金じゃなくて服装ですよぉっ!もうすぐ春なのにコートなんか着てたら怪しいでしょうが!」
あー、服装か。作戦への不満じゃなくてよかった。
「半袖のコートも持ってるから、こっちの方がいいか?」
「おぉ、いいセンスじゃありませんか。今度、私の分も買っといてくれませんかねぇ?」
「家に何着か新品があるから、帰ったら安値で売ってやるよ」
冬の間は安かったから、それを狙って大量購入したんだ。
「進入経路は窓だ。窓なら見つかっても覗きとしてなら誤魔化せる」
「はぁ、別に私は構いませんがねぇ」
早速雑魚ベーに中を覗かせる。
「こちらは悟。どうだ、ターゲットはいたか?」
「こちらは雑魚ベーですが、ターゲットは他の部屋にいるようです!」
おぉ!通信ごっこ風に会話をしてみたが、意外にも楽しいものだ。進入とかの時ってこういう話し方をしたくならないか?
「鍵の解除は出来そうか?」
「鍵は既に解除された形跡があります!こちらはいつでも進入が可能な状態ですよぉっ!」
窓の鍵が開いていたようだ。
「なら、先に侵入作戦を実行しろ。後からこちらも進入する」
「了解しましたよぉっ!」
雑魚ベーが窓から入り、その後に俺達も後に続く。
「二人とも入れますかねぇ?」
「よいしょっと、入れたぞ」
「私も進入完了だってば」
うん、俺達以外に誰にも見つかった様子はないな。
「さて、朝日の宝石の確認だけするか」
持ってったら泥棒になるから、机にあるかの確認だけしよう。別に泥棒も特星では問題にはならないが、神の権力で嫌がらせを受けるかもしれない。
「…あれ?」
引き出しを開けて中を探すが、それらしきものは見当たらない。
「おぉ、知らないふりをして盗む作戦ですか?」
「いや、本当に無いんだ!まさか他の人に譲った後か!?」
「もしかして、これのことだっけ?」
そういって隊員三号が取り出したのは宝石だった。
「って、勝手に持ち出したら駄目だろ隊員三号!俺達は盗みに来たんじゃないんだから!」
「まぁまぁ、アミュリーさんだって盗むつもりはなかったんですから」
まぁ、仕方がないから許してやるか。
「って、何でアミュリーがいるんだ!?」
「あ、今更気づいたみたいだってば」
「本当に今更ですねぇ」
いつの間に現れてたんだ!?
そしてこの変わった口調は俺を混乱させるための罠?どうやら語尾に『だってば』と『だっけ?』が付くようだが。
「探してるのはこれだっけ?」
アミュリーが取り出したのは綺麗な宝石。うん、あれで合ってるはずだ。
「頼む、それを譲ってくれ!当然ながらタダとは言わない。雑魚ベーを人材として譲るという条件でどうだ?今なら半袖コートもオマケでプレゼント!」
「え!勝手に私を人に譲らないでくださいよぉっ!」
「アミュリーと暮らすチャンスだぞ」
「是非私を雇ってくださーい!」
俺も雑魚ベーも得する方法はこれ以外にないんじゃないか?
「この宝石が欲しいのなら住居を探して欲しいんだってば」
「住居?この家があるじゃないか」
「そうじゃなくて、普通の場所にある住居だってば」
あぁ、元の次元の住居のことか。
「う、元の次元の家ですか」
「どうした雑魚ベー?」
雑魚ベーが困ったような顔をしている。
「私は今のところは特星に家がないんですよねぇ」
なるほど、アミュリーを預かれないな。
「変わった場所に家を建てようとは思ってるんですが、場所と家の形式が決まってないんですよ」
…待てよ!アミュリーは神様の職業だし、結構お金持ちなんじゃないか?なら、食事代はいらないのに加えて、家賃的な意味で俺にお小遣いをくれるかもしれない!
「よし!それなら俺の部屋に来るといい!」
「えぇ!」
雑魚ベーが少しショックを受けたようだ。
「本当にいいのだっけ?」
「あぁ。でも、寮だけどいいか?」
「大丈夫だってばー!」
よし、交渉成立。
「ちょ、ちょっと待ってください!男性の部屋に少女が住むなんて反対ですよぉっ!」
「ほぉー、人材としてアミュリーの家に行こうとしたのは誰だったかな?」
「うぐぅっ!そ、それはですねぇ」
雑魚ベーは必死に言葉を考えているようだが、反撃の言葉が出ないようだ。
「今から寮に戻るけど、引越しの準備があるなら手伝おうか?まぁ、俺の部屋はそんなに広くないが」
「この家は別荘として放っておくから大丈夫だってば」
「あ、それなら食料は持って帰ろう!特星だから腐らないだろうが、俺の家の食料は一人分しかないからな!」
「わかったんだってば」
よし、これで我が家の食料が少し増えるぞ!
「到着!」
「おー、一人用の部屋にしては広いんだってば」
確かに風呂場などを含めて五部屋くらいはあるからな。
「予想以上に綺麗な部屋ですねぇ。ゲームがついた状態で放置してありますよぉっ!」
あ、そういえば印納さんが居ないじゃないか!
「って、あぁっ!ゲームがフリーズしてるし!」
セーブ中の画面でフリーズしてるってことは、セーブデータが消える可能性が!
「ねぇねぇ、領収書があったんだってば」
「領収書ですか?私にも見せてくださいよぉっ!」
領収書よりも印納さんがいないことのほうが大変なんだが。
「く、せっかくの臨時収入かと思ったのに」
「へぇ~、悟さんって宝石とか買ってるんですねぇ」
「…宝石?」
「ほら、この領収書を見てくださいよぉっ!」
いや、なんとなくオチが分かったからあまり見たくないんだが、見ないことにはオチにならないので一応見ておく。
そこには朝日の宝石の購入金額が記されていた。やっぱり俺の名前で購入されてるし!
「しかも二十万セルとか!俺に頼んだ金額の二倍じゃないか!」
いや、領収書に俺の名があるってことは、印納さんは実質タダで秘宝を入手してるってことか。
「…こうなったら印納さんに奢らせるしかない!」
「おぉ、今日はご馳走ですねぇ!」
「いっぱい食べるんだってば!」
意外にも印納さんは普通に奢ってくれた。どうやら宝石が市場価格の数倍の値段で売れたらしい。そして領収書の二十万セルのお金も倍にして返してくれたのだった。