〇話 現れた究極正者!(アルテ編)
@アルテ視点@
もうすぐ梅雨かー。今年になってからなんにもしてない気がするなあ。……神社のみんなは新年どこかに出かけてたみたいだし、私もどっか行こうかな。
「あああ、暇だ暇だよー!」
「朝からうるさい、居候」
ちょっと騒いだだけで雨双は怒る。こんなんだからあえて怒らせたくなってしまったよ、私。
「雨双ー?そんなこと言うけど君だって居候じゃん。私はまだ世界征服をして恩返しする気があるのだよ。君なんかよりも立派な居候だと思うけどなー」
「今はできないんだろう?私は一応、家賃を払ってるからな?毎月」
え、ええええ!?な、なんで払う必要もないのにわざわざ家賃を?もしかして雨双って天使かなにかなの?
「どうして家賃を?」
「そりゃ、タダで住むのは癪だし。普通のことじゃないか?」
「いや、住民を倒して家を奪ったり、住民を倒して説得して泊めてもらうのが普通だよ。これ、私の最新の侵略者スタイルね」
「悪い。私には世界征服者のスタンダートは合わないんだ」
ふふん、支配される側はお金を出すことに長けているべきだもんね。そう考えれば、雨双のよくわからない思考も、世を生き抜くために必要なプライドってことになる。
実はよくわかんないけど。
「ただいまー、だってばー」
「「おかえりー」」
アミュリーが帰ってきたみたい。なんか最近は出かけてることが多いけどどうしたんだろう?新年くらいからずっとこんな感じだけど。
「ああ、疲れたんだってば」
「例の件か?ちょっと待ってろ、シャーベットでも作ってくるから」
「冷蔵庫のさくらんぼ、使っちゃってだってば」
「ふんふん」
雨双はシャーベットも作れるんだ。いやそれよりも。なんだろなんだろ、アミュリーの出かける原因って?雨双もなんか知ってそうだし、悟あたりがなにかやっちゃったのかな?
「ねえねえ、例の件ってなんなの?私にも教えてよ」
「え?アルテに?……だっけ?」
あ、アミュリーがこっちみてる。でもなんでそんな疑うような目で見てるのかなー?ふふふ、どうやら私に知られたくないことでもありそうじゃん。
「アーミュリーッ?なんで私には教えてくれないの?」
「ちょっと、疲れてるからもたれかけないでー」
「ほらあ、教えないと取り憑いちゃうよ~?」
「やめてってばぁ」
肩に体重をかけてみるものの大して抵抗はないね。これは本当に疲れてるみたい。語尾も付け忘れてるし。雨双にでも聞いてみようかな?……いやいや、こんなに強情に言わないんだ、きっとアミュリーのほうが私の得する情報を持ってるはず。世界征服の情報とか。
「ねえアミュリー。今度さ、近くの帝国を乗っ取ろうと思ってるの」
「ああうん。アルテならできると思うよ」
「それでね、国の女王としてアミュリーを招き入れたいの」
「うん、私なら、……あ、私!?」
ふふ、驚いてる驚いてる。アミュリーはオシャレでびらんびらんな服が隠れ好み。ならその好みを最大限引き出せる舞台は魅力的なはず!
「アミュリー!帝国の女王に一番求められるものは常人がまず着ないような奇抜な衣装!君ならそれを着こなせると私は思うの!ドレス、…………マント、…………すんごい服。アミュリーにならとても似合うよ」
「そ、そんなぁ。そんな服着て踊るなんて、恥ずかしいよー」
「え、踊るつもり?……あ、ああ。いや、君なら踊れるよ!ぶっちゃけ、どんな服着ても平気なメンタルしてそうだし」
「あはは。そこまで言われちゃ引き受けるしかないね。よし、じゃあアルテも一緒に踊ろう!」
「そ、そうだね。例の件っていうのについて教えてくれたらいいよ」
「うん。実は数週間ほど前くらいからおかしな物質が現れたの、特星本部に」
あら、意外にも簡単に教えてくれるみたい。へー。特星本部に物質ねー。現れたってことはロボットみたいに動くのかな?
「そういや皆が帰ってきたのもその位だったよね。なにか関係あるの?」
「それなりに、かな。皆の宿泊先にいた錬金術師が作ったんだって。それで、その物質がアレらしいの」
「アレ?汚いとか?」
「ううん、アルテの好きな言葉。究極らしいよ。究極物質」
ふーん。究極物質、つまりはアルティメットなんとか。いいねー!なにがいいって、アミュリーがわざわざこんな話を隠そうとしてたことがいい!つまりは本当にあるってことでしょ?私に渡したくない奴が隠してるね、絶対的な力を与える究極物質を!
「アミュリー、決めたよ!私は究極物質を取りにいくね!でもその前に教えて!ずばり、私に口止めしてたのは誰かに頼まれたから?」
「うん。本部長から名指しで言われて」
名指しって。特星本部は私をなんだと思ってるのさ。
そもそもアミュリーってば、口止めされてるのに喋っちゃっていいの?……でも、私は帝国一つあげて究極だからいいや!
「なるほど。よし、じゃあ行ってくる!君、言い忘れてなかったけど語尾付け忘れてるよー!」
「あ!げ、幻聴だってばー!」
彼女はちょっと間抜けだね。違いない!
というわけで、アミュリー神社近くの勇者社に到着!あとは中にある移動装置で特星本部に行くだけだね。ふふん、究極への道は一本道!冒険で道草しちゃうような主人公とは違うよっ!
「だけど邪魔は入っちゃう。もしもし、そこの出入り口の前にいる君、究極の邪魔だよ」
「きゃんきゃん、わおーん!」
わ、なんか人が移動装置の周りを駆け回りはじめた。……四足歩行で。この人、たまに神社で騒いでる人だよね。烈、だったかな?そんな感じの名前だった気がする。
「その鳴き声、もしかして亀なのかな?」
「わうん、わんわん!」
「あ、わかった!汚いカバのモノマネだねっ?」
「ぶっ!お、おまえぇ~。あのなー!亀とかバカとか一体どーいう思考してるんだ!?しかもさっきから口が悪いしよぉーっ!」
あらら、なんか怒ってるみたい。わざと答えを外したくらいで大人気ないなー。それに口が悪いだなんて言いがかりつけちゃって。
「口が悪いってのは言いがかりだよ?私、君を悪く言ったことないもん」
「言ったもん言ったもん!俺はちゃーんと聞いたもん!というわけで俺が勝ったら謝れよ!もちろん正座は百秒以上だぜ!」
「じゃあ私が勝ったら本当に悪口言っちゃうよ!シャーデペウスの業火!」
凍った大陸すらも燃やし尽くす必殺の炎だ!っちち、私は空中に逃げてよっと。……いやぁ、島全部燃えてるね。これなら逃げ場ないでしょ。
「わははは!この程度の炎か!この程度の炎ぉ!ぎゃあああぁっ!めちゃくちゃ燃えるー!水ぅー!」
「そりゃそうだよ。ま、この調子なら魔学科法を使うまでもないね」
「ちきしょー!穴に避難するしかねぇ!」
あー、穴掘ってる。さすがに地中に逃げられると見つけ出すのは面倒かな?なら、水の攻撃で今のうちに溺れさせよう。
[ざばあああああぁっ!]
「おっしゃああああぁっ!温泉掘り当てたぜーーー!」
「嘘ぉー!?い、いや、神社にも温泉があるんだからありえる、だろうけど」
「そして知っての通り?俺の特殊能力は水の上を歩く能力だ!沸きたての温泉を食らえっ!」
[ざばぁ!]
こっちにお湯を蹴った?だけど全然届いてない。やっぱりここは当てる目的じゃなく、くるね。
「見てみろ!温泉の上だって水滴の上だって余裕だぜ!覚悟ー!」
[つるっ]
「うぎゃあああっ!足が滑ったあぁっ!」
あらら、地面に落ちちゃった。しかも頭から突き刺さってるね。どうしよ。これじゃあ悪口言ってもそれどころじゃないような。
「今回はチャラでいいや。さてと、転送装置は、あ」
あー!勇者社が燃えてるー!し、しかもよく見たら神社や寺にも火の手が。あ、でも神社は冷気も出てるね。きっと雨双が頑張ってるんだ。
「よし、征服終わったら雨双にもご褒美を上げよう。そのためにも特星本部に行かないと」
あああ、飛んでいくとちょっとだけ遠回りになっちゃうなぁ。究極物質、他の人に盗られてないといいんだけど。
やっと着いたー!結構急いだからなんとかお昼までには間に合ったよ。さてと、究極物質はどこにいるのかなー。数週間前に現れたって話だし、特星本部ともなればすでに捕まえてるとは思うけど。
「くそー、あれだけ修行したのにランキング載れないか。やっぱり悟への復讐を先にするべきか?」
「ん? ねえねえ、そこの人」
「え、俺か? どうした?」
「今言ってたランキングってのを見せてほしいんだけど」
ふふふ、これはチャンスだね。世界征服のためにもランキングに載る実力者について知っておきたい。あと究極物質についてもなにか知らないか聞いておこう。
「え。でもこれは俺軸のランキングだから見ても意味ないと思うぞ?」
「うん?……どゆこと?」
「知らないのか?俺の知り合いしか載ってないんだよ、このランキングには。だから君の友達とかについて知りたいなら君用のランキングを作ることだ。受付はあっち」
へえー、全く知らなかった。そもそも特星本部に来ることないからなぁ。でもそうとわかればやることは一つだね。
「なら、君のランキングにも私の名前を載せてあげるよ!私は宇宙を染める侵略者、アルティメット!さあ、あなたも名乗った!」
「侵略者?そうだなぁ。終焉を告げる魔法使者、クレー!魔法を扱う特殊能力だ!それじゃあ闘技場に」
「エクリミスの純水!」
「お!?アタックバリア!げ、マジカルバリア!」
私の水魔法で建物内は水没した!だけどバリアかなにかで防がれちゃったみたいだ。どうしよ。私がこの水で溺れることはあんまりないけど。
「けどあなたの魔法が気になるんだよね。魔学科法カゼ!」
激しい風で建物内の水と壁を外に吹き飛ばす。あ、魔学科法はあのバリアを通り抜けるみたいだね。クレーが苦しそうにしてる。
「く、アタックバリア!……これでもダメか!?」
「ふんふん。見た感じ、どっちのバリアも魔学科法を弱めることはできてるね。だけどどっちのバリアも完全に防ぐことはできてない、って感じ?」
「この威力で弱体化してるのか?く、お前のその技はなんだ!?」
「あ、知りたい?善戦できたら教えてもいいよ!パーテパニングの大雪!」
室内に降り注ぐ巨大な雪玉を避けきるのは凄く難しいはず!さあさあ、埋もれちゃいなよ!
「そこが安全圏だな!スカイゴー!」
「うわ、君も飛べるの!?」
しかも雪が降らない私の近くまでくるとはね。やるじゃん。
「ブリザードキューブだ!」
「魔学科法ホノー!」
私の周囲から広がる炎でクレーの氷魔法は溶けて、クレー自身も吹っ飛んだ。ふふふ、いい線いってたけど私のほうが根本的に強いのよ!
「ぐぐぅ、こ、降参~」
「うん。君って結構強いんだねー。一度にこんなにも魔法を撃ったのは久しぶりだったよ」
「あー。君の魔法、凄い威力だからな。俺もバリアがあって何とかって感じだったし。どういう魔法なんだ?」
「ふっふっふっふ。普段の私は二つの魔法を扱っててね。生まれつき使える魔学科法、そしてアレンジ盛り沢山の魔法を今回使ったってわけ」
「へー。特殊能力なしで魔法を使えるのか」
そういえばクレーって特殊能力で魔法を使ってたんだっけ。他の魔法とか術は使わない、っていうか知らないのかな?私は逆に特殊能力を使ったことないけど。
「使える使える。アレンジ魔法なんて拾い物の禁断魔法がベースだよ?」
「き、禁断魔法?なんか代償とかがやばそうな魔法だな。寿命とか減るんじゃないか?」
「そうそう、魔力を補うためにね。でもねー、私は魔学科法用のエネルギーで禁断魔法を扱ってるんだ。だから簡単に使えるってわけ」
「ってことは魔学科法のほうが」
「そう!魔学科法を完全開放すれば天下無敵!たとえ魅異が相手になっても負けはしないはずだよ!……あと魔学科法はエネルギーと魔力の中間だからバリアが通じなかったの。まあ、魔法とは言い難いかもね。あ、ところで究極物質って聞いたことない?」
いけないいけない、思ったより時間掛かっちゃったな。この人がなにか知ってると楽なんだけど。お願い、なにか知ってて!
「究極物質?えーっと、確か前にどっかで聞いたような。受付に聞いたらどうだ?焼け崩れてなければ向こうにあったはずだぜ」
「知らなかったか、残念。じゃ、ばいばーい」
受付。私的には受付台と人が揃ってれば受付っぽいと思うんだけどね。びちゃびちゃの雪しかないなんて、完全に予想外だったよ。
「でも、受付の看板あるしねえ。いったいどうしたんだろ」
「まったくだ!洪水だの、大雪だの、炎だの、この施設は魔境かなにかか!?」
「おやや?君は寺の幽霊。どうしたのこんな所で。ご主人のお使い?」
「ん?お前は、……アルテ。そうか、お前が」
あ、これはもしかして私の攻撃がここまで及んじゃった感じ?うわ~、この子は怒りっぽいから戦闘になるかもしれないよぉ。このままじゃ余裕勝ちして機嫌損ねちゃうかも。
「ふ。知っての通り私が神酒、ここの受付だ。手伝いでやっている」
「そ、そうなの。初耳だよ」
そうそう、神酒だ。神酒が受け付けやってるなんて初めて聞いたよ。ま、どうでもいいけどね。
「アルテ、この施設の惨状はきっとお前の仕業だ!だからお前を始末する!」
「わあ、やっぱり好戦的。だったら相手するしかないね!って、あれれ?」
か、体が動かない!なんで?神酒がなにかをしたようには見えなかったけど。
「停止だ。ふん、私の特殊能力を忘れたわけじゃないだろうな?」
「神酒の仕業なの?君の特殊能力はそもそも知らないよ」
「え。い、いや、前に自己紹介しているはずだ!私は触れたものの動きを変化させると!って、なにぃ!?なぜこんな説明を!?」
「んんん?今、触れてないじゃん」
「な、なにかがおかしい!それは、その、記憶か?でなければ私自身が。そう、私の記憶か、あるいはお前を止めている今の私がおかしいんだ。私にこんな芸当はできなかったはずなんだ!」
はー。
「それより落ち着いたみたいだから聞きたいんだけど、究極物質を、って!あれは!」
神酒の中から黒い霧が!?いや、私にはわかるよ。魔学科法が奴を求めているんだ。あいつが神酒の体に覆われていたときとは違って、はっきりと体で直感できる。あの黒いもやもやこそが究極物質だよ!
「ふふふふふふっふ、ついに見つけたよ。究極への最終つり橋!ああ、まさか本当に見つかるなんて思わなかった!魔学科法を手にいれ、記憶を取り戻してからもずっと追っていたのにっ!」
そう。多くの禁術や秘術、魔法を試したけどダメだった。手がかりなんて本当にわずか。私の大昔の記憶と些細な噂だけ。有力候補だった古書や魔道書も偽物だったり盗まれてたり、……ジパングなんか、パンツ泥棒が入れ違いで書を盗んでいったって。嫌になっちゃう。
「だけど見つけることはできたんだ。そして私は数年前、魔学科法の真の力を手に入れている。究極物質を、君を受け入れる力はあるんだよ!…………い、いないっ!」
究極物質に逃げられた!い、いや大丈夫。これだけ近ければ気配で場所がわかるからね。でも誰かの中に入ると気配も消えちゃうから、急いで追おう!
「待てアルテ!……なぜか私は無性に腹が立つんだ。ちょっと斬られてくれ。あとでお菓子あげるから」
「む。究極物質の影響が消えた、かな?どうやら通す気はなさそうだね」
あ、そういえば、私の体がいつの間にか動くようになってる。どうやら究極物質が体内にいる間は特殊能力が強化されるみたいだね。性格もよくなる。そして究極物質が体外に出るといつもの性格に戻る、と。、
「操られてるほうが可愛いんじゃない?シャーデペウスの業火っ!」
「どっちもどっちだ!停止!」
げ、私の広がるはずの炎が止められた!これじゃあ炎の外が見えないじゃない。うむむ、もしかすると神酒との相性はあんまりよくないかも。
「ふふん、だけど私に魔学科法は効かないよ!」
「直進!自分の炎を喰らえ!」
「あちち!ちょ、ちょっと効くけど余裕!」
うぅ~、とはいえ本来島一つを焼き尽くす炎。あんまり当たってられないよ。
「喰らえぇっ!でやあああぁ!」
「おっと」
[ぱしぃ!]
「な、なんだと!?私の刀を素手で!」
「ふふふふ、この程度の攻撃なんだ。これじゃあ特星外で直撃しても傷一つつかないよ」
「な、ならそのまま吹き飛べ!飛ばし斬り!」
う、ぐぐ。今、体が吹き飛ばされそうになった!どうやら刀に触れてる相手の動きも変化させれるみたいだね。あああ、飛ばされないよう刃を強く握ったからちょっと痛いよぉー。
「ぐ、バカな!お前にそれだけの力が!?」
「君、近距離戦なら私より強いって思ってるでしょ。君たちの背は私より高いしリーチもあるからね。だけど、近距離戦のやりようがなってないね。ほら、じっとしててー」
ゆっくりと刀を辿って神酒の元までたどり着けた。素直にじっとしてるあたりが素直ポイント高いね。素直な小動物ポイント十点!
[がしぃ!]
「うわ!お前、何で抱きついてるんだ!?し、しかも!力強すぎだろ!」
「ふふふ、本当の近接戦闘を教えてあげるよ」
「はあ?あ、まさかっ!?や、やめろ変態!離せぇ!」
「残念ながらハズレだ!シャーデペウスの業火っ!」
「げ!うわああぁっ!ぐうううぅ、うひゅぅ」
私の周りから広がる炎は当然神酒にも当たるよっ!そして神酒は、うん、すっかり目を回してるね。気絶はしてないから置いておこう。
「あああ、全然勝てないー」
「噂どおりの強さだったね。つまり強くなってないってことだけど。君は普段、刀よりお菓子を持ちすぎなんじゃないかな?」
「ば、バカにするなよ!……あ、本当だ」
「そーでしょう。正直、武器の腕より性格のほうが怖いもん」
「バカにするなよぉー!お前、絶対いつかは斬ってやるからなっ!」
「そいつぁ残念。さっきがラストチャンスだったよ」
さてと、究極物質を追わなくちゃね。いいや、追うわけじゃないか。さっきの出会いはあまりにも風情に欠けてたからね。なんかこう、終止符!って感じで出会うよー。そして特星最強の魅異を倒して、あ。
「あ、ねえ、神酒ー?こんなに燃やしておいてなんだけど、特星全体の強さランキングってあるかな?トップあたりだけでいいんだけど」
「燃えた。燃えてなくても知り合い以外は表示されないな。全体データなら本部長が持ってそうだが」
「本部長の部屋は?」
「最上階辺りに表札がある」
それは好都合!究極物質の気配も上階からするんだよね。ふふふふ、全てが究極への道程を、特星支配の流れを形作っている!今日、魅異は私の手に落ちるし、特星はアルティメット特星に変貌するんだ!究極のエネルギーを祝福するようにね。えへへへーいっ。
さーて、屋上に出る扉の前に着いた。究極物質の気配はこの先からするね。
にしても本部長室に誰もいなかったのはラッキーだったねぇ。火災で避難してる人多かったし、そのおかげかな?それに究極物質もずっと気配がし続けてる。つまり誰にも取り憑かずに屋上に行ったんだ。
「ここまで調子いいと最後に一波乱くらいありそう!でも負ける気がしなーい!そーれ、突撃ぃ!」
「きゃーははー!究極物質コートよぉ!きゃっ!印納ちゃんかーわいっ!美貌で息できないわー!」
「うわ」
印納が走り回ってる。究極物質から顔だけ出して。……印納はなぜか特星ランキング二位に載ってるよ。強さで考えればふさわしい相手、かもしれないけど。うわぁ。
「きゃはー!きゃはー!……ありゃ!よ、よくぞここまできたわね!私が、特星、美少女の印納ちゃんでーす!」
「噂と記憶よりすごい暴れっぷりだねー。究極物質に精神をやられちゃったの?」
「そうなのそうなの!おかげで衣服も全部消えちゃったの!このコート以外!つまりほぼ全裸!やーん!恥ずかしくて死んじゃうわー!きゃはははー!」
「え、ちょっと大丈夫だよね!?究極物質になにかあったら絶対に殺すよっ!!」
究極物質は究極の物質。並大抵のことでは手を出すことなんてできないけど。だけどこいつなら何かやりかねない!
「殺すだなんてぇ、きゃっ!すごく比喩でしょう?」
「すごく比喩だよっ!その程度で済まされると思うなよっ!」
「やあだぁ、怖いから返すわよー。あ、衣服出してっと。はい」
「お?ありがと。おお、おおおおおーっ!」
究極物質を吸収したとたん、全身から力がみなぎってくる!これはすごいよ!魔学科法の真の力を手に入れたときよりもっとすごい!どれだけだろうと!無尽蔵にエネルギーを出せる気がする!
今まではまるで力を出せなかった!大海の水をストローで出す感じだった!だけど今なら海ごと持っていける!今こそ、アルティメットを名乗る時がやってきたんだ!
「あっはっは!まさか究極物質が錬金術で、それもパンツでできていたなんてね!単純、だけど盲点だったよ。やたらと遠回りしちゃった。それでも当然私の手中にあるけどねー!よっしゃー!」
「ご機嫌そうねー。目的でも果たしたのかしら?」
「ふふん、果たされたも同然だね!ところで特星の強さランキングは知ってる?魅異、君、メニアリィが上位三位なんだけどさ」
「あら、強さランキングだなんて当てにしてるの?一対一だとか多人数だとか、状況次第で勝敗は変わるのに」
「しーてーるーのーっ!問題はそこじゃなくてバランスだよ!高校生、高校生、小学生なんて高校生強すぎでしょ!だからこのランキングは小学生、高校生、高校生にしちゃうの!私がトップになって!」
データによれば、上位三人はランキング開設以来順位が不動らしいんだよね。つまり私の実力とランキングが確かなら、この不動の三位は大きく変動する!
まあ、この溢れる力なら特星どころか宇宙だってどうとでもできるだろうけどね。パラレル世界だって行き来できるかも。
「でね。君で肩慣らしさせてほしいの」
「ふんふんー?それが特星を支配して魅異を泣かすシナリオ?」
「ん。やたらといろいろ知ってるね?」
「印納ちゃんはパラレル世界とか行き来してるもん!器用さと経験が違うのー!ま、私も暇だし本気で相手してあげるわ!印納ー自空間!宇宙の全色は無色になる!色の構成消失により全物質は崩壊するわ!」
「すでに宇宙は私の魔学科法のエネルギーで成り立っている!名づけて魔学科法、アラヴァイスの噴流!」
消えかけた世界の性質を魔学科法に変えたよ!これで世界は救われた!こんなことは前の魔学科法じゃできなかったことだね!
って、世界を作り変えたから私たちの居る場所がちょっとずれちゃった!今は宇宙にいるみたい。遠くに地球と特星と月が見えるね。まあ今の私にとっては些細なことだけど。
「今すぐ決めるよー!魔学科法、えーっと、デウォイル神変!君は完全に私と同一になっちゃうよ!はい、消滅!」
「消えたけど現れたわ!印納ーイリュージョン!この技によって消失するものは出現するのよ!」
「残念だったね。私と同化した以上、君の体は私の思いのままなんだ。さあほら、降参してよ」
「甘いわあ!印納ーマイペースによって私は私以外のあらゆるものを受け付けず、あらゆるものから受け付けられなくなった!さらに私は」
「いや、や、ちょっと待った!」
あああ、しまった!思わず止めちゃったよ!ううーん、どうしよう?言っちゃったら負け惜しみみたいな気がするけど、さっきから思うところがあるんだよね。どうしよ、言っちゃおうかな?うん、言おう。
「どうしたのかしら?トイレ?」
「あのね、なんか思ってたのとかなり違うの。すごい飽きた」
「ああ、やっぱり?じゃあ魔学科法で思ってること変えちゃう?」
「いや、それも違うんだよぉ。私はもっと地面の上で派手にぶちかましたいのー!一発攻撃されたら一撃で全滅寸前に追い込むような関係がいいのー!いちいち口で言わなきゃ何やったか伝わらないなんてやだー!印納の相手がそもそもやだー!」
「やーだー!恥ずかしいからってそんな嘘混ぜなくてもいいのにー!」
やっぱり今日のところは引き上げかなー。あーあ!折角の究極の力もこれじゃあ何の役にも立たないよ!また別の世界に旅に出ようかな。
このくらいの力の持ち主ってどうしてるんだろ。やっぱり手加減したり、制約つけて戦ったり、力の一部を封印したりするのかな?あるいは印納の言うみたいに思考改変?やだよー、つまんないよー。
「アルティメット、いやアルテー。あなたって魔法使ってきたんでしょ?強さ固定の魔法だけ使えばいいんじゃないの?あんたの考えで言うところの制約つけて戦う感じ」
「それしかないかな。身体能力は相手に合わせる感じにして、っと」
魔法は魔学科法のエネルギーで使うからどうとでもなるね。身体能力は自動調整型の魔学科法で永続的に何とかなる。おお、思ったよりものの見え方が違うね!流れ星とかがさっきは止まって見えてたよ!
「とにかく私は魔学科法の力を満喫したいよ。印納、もう一戦勝負しない?」
「やーよぉ。同条件で戦うとあなたの方が強いじゃない。さっきの勝負もそうだけど、まともな戦いであんたを倒すのはもう無理なのよ。私って非戦闘員だし」
「非戦闘員?いい勝負してたじゃん」
「特星ランキングを見てみなさいよ」
あ、この紙って自動で書き換えられるんだ。おおー、確かに私の順位が二位になって印納に勝ってるね。これで私の実力が印納より上だと証明されたってわけだね!
「…………って!魅異に負けてるよ!ちょっと!これはどういうこと!?」
「あんたって弱いのねぇ」
「君よりは強いもんっ!ちくしょー、その内魅異を倒してランキング書き換えてやるんだから!とりあえず今日は適当な相手でもいないかな」
「それならいい相手が来てるわよ。ほら、特星のあの辺り。珍しい旅行者ね。かなり強そうだと思うわ」
「うん、見えない。まあ行ってみようか」
究極の力は手に入れたし、魅異はいつだって倒せるからね。さあ、ストレス解消だよ!
ここは特星エリア?こんなところに旅行だなんて変わった人もいるもんだねー。ま、この星に来るってことは変な奴かなにかなんだろーけど。私以外は。
にしても草が多いね。草原って感じ。アミュリー神社周辺は森だから木は多いけど、こういう草だけの場所は少ないんだよね。もう少し木の数減らしてもいいと思うよ。
「そこにおる小娘。貴様に用がある」
「お、来たね。私になにか用ー?」
あら?おじいさんだ。しかも、なんだろう?なんか鎧着てるね。鎧に、マントに、兜に、でっかい槍。どっかの国の騎士でもやってるのかな?あと、すっごい睨んでくるんだけど。
「我輩はある小僧と小娘を探しにここにきた。が、見つけるのに手間取りそうでな。貴様にも手伝ってもらおうか。痛い目にあいたくなければな」
「ふーん。断ったらどうなっちゃったりするわけ?」
「当然、今すぐにでも泣き喚くことになるだろう!そして次の侵攻時には、……死だっ!」
[ずがあぁん!]
うーわ!おととと。このおじいさん、槍を叩きつけてこの辺を揺らしてるね。なるほどなるほど、確かに前の私ならちょっと苦戦してたかもしれないね。
「あはは、参ったなあ。その程度の小技じゃあまるで心に響かないよ。私の魔学科法にはあまりにも及ばない!」
「ほう。完全なる赤い気か。貴様、珍しい力を持っているな?小娘よ」
「あ、わかるー?そうなんだよ!完全な黒と白、つまり究極物質と真の魔学科法でようやくここにたどり着いたんだよ!究極魔学科法の域にっ!」
そう、究極の赤、名づけて究極魔学科法!あーもー、印納は知ってるからか、まったく気の話題とかには触れてくれなかったからね。満足!そう、今の私の気はとてつもなく赤いんだよ!究極だからね、いえーい!
って、一人で盛り上がってどうすんのさ。ああ、まずいなあ。このままだと印納みたいな支離滅裂な話し方しちゃいそう。相手が知らない人でよかった。
「こほん。とにかく君の言うことは聞く気はないよ。泣かせるもんならやってみなよ」
「生意気な小娘だ。よかろう。我が戦歴の中に貴様の名を入れてやろう。我輩は無双の切れ端、戦土無双王。名乗れ、小娘よ!」
「私?私はー、あー」
そういえば名乗るアレってどうしよう。朝考えた宇宙を染める侵略者ってのは嫌だなー。実際染めたらろくなことにならなかったし。
究極は絶対に入れたい単語だね。究極何とか。究極の何とか。……究極何とかがいいかな。究極覇者、究極魔学者、学者っぽい?究極信者、究極星者、究極正者、究極聖者、テレビに出たときごちゃごちゃしてそうだから、究極信者か究極正者。特星乗っ取るし、有名な正安に近い究極正者にしておこうっと。よみはまさじゃの方がいいよね、うん。親しみありそう!
「どうした?汚名を残さずに散りたいか?それとも震えて声も出ぬか?」
「待ったあ!私は究極正者、アルティメット!よっろしくー!」
あ、おじいさんの目がいっそう険しくなった。なんだろ、究極を名乗って怒ったのかな?それとも待たせすぎた?もう一時間くらい考えてぶち切れさせてもよかったかもね。
「究極、……まさじゃ?聞きなれない言葉だ。小娘、まさじゃの意味を答えろ」
ああ、意味が気になったのね。でも私も知らない。校長っぽいこと言っておこうかな、えっと。
「全校、百年間の夏休みだーって意味だ!」
「ふん、くだらん。覚える価値もない」
「ひどい!ちょっとだけ頑張って考えたのに!」
「我輩は忙しい。早急に心変わりして、働けい!天沁龍波刃!」
「わ。あ、危ない!」
槍での切り上げ攻撃をされたけどなんとか避けれた!ああ、衝撃波が雲を消滅させてる。この威力だと空は飛ばないほうが楽かな。
「反射神経だけはいい小娘だ。だが忠告してやる。我輩の攻撃は宇宙を裂く一撃。この星の貧弱な守りなど無意味!つまり貴様の首を刎ねるのも容易いということだ」
「あっそー。惜しいね、地球人やこの星の住民は首なんかなくても死なないよ!魔学科法、ターモティスの炎陣!」
私を中心とした空中や地面にいくつもの魔方陣を出現させたよ。今回は私の周辺だけに収めたけどね。
「この魔方陣から出る爆炎は好きなように広げられる!避けるのは不可能だよ!それっ!」
[どどどどどおおおぉん!]
とりあえずこの辺りを吹き飛ばすくらいの威力にしたけど。ううーん。炎が邪魔で全然周囲が見えないよー。こりゃあ大量展開には向いてないや。
「でも無双王。いや双王?とにかくあいつが消えたのは見えた。避けられたみたいだね」
「貴様、まさかこの我輩に汚れを付けるとは。……少々甘く見ていた」
「私の説明中に消えてれば避けれたのに。でも余裕あるよね。降参には早いんじゃないかなー?」
「いいだろう。我輩は現地調達での兵の収集を良しとし、更に今回は偵察のために来ている。それ故にこの銀河を埋め尽くすほどの兵しか連れてはおらぬが」
「負け惜しみ?」
確かに現地収集はさっき勧誘されたからしてるみたいだけど、銀河を埋め尽くす兵ってのはおかしな話だね。私はさっき宇宙で戦ってたけどそんなのいなかったよ。それに空には太陽しか見えないし。
「気づかぬか?貴様に勝機など元からなかった。そう、我輩一人を相手したところで戦いには遠く及ばぬ戯れなのだっ!その青臭い体と心に刻め、いかなる戦局も数で押し切れると!」
「私、数には強いよー?さあて本当に勝てるかな?」
「小娘よ、貴様がたとえこの星中の住民を壊滅できたとしてもだ。銀河全体を兵で囲めばよい。銀河の兵を全滅させるならば宇宙を兵で埋め尽くす。これを繰り返しても貴様に勝ち目があるかな?」
「え、なにそのゴリ押し戦法。もしできたとしても烏合の衆に負ける私じゃないよ!」
「抜かしおる!ならばその身をもって真の戦いというものを思い知れいっ!氾異灯!」
ん?な、なに?空が真っ暗ななにかに覆われていくよ!どんどんあたりが暗くなっていく!しかも、あれは、なんかオレンジ色の粒々が広がっていくね。なんだろう?
「これは異世界間を行き来する我が秘術。そして広がる光こそ我が兵たちだ」
「うっそー。あんなにいっぱいなの?」
これはもう、逃すわけにはいかないね!私の今使ってる魔法・魔学科法は銀河いっぱいまで広がるようになってるはずだよ!つまり、思いっきり撃てばちょうど敵を殲滅できるってわけ!
「でもあんなんじゃあ朝か昼か夜かもわからないからね。消すよー!魔学科法、パーテ・レパンチュ明けの帰路!」
「ん、光、だと?なんだと!?我が兵たちが、消え失せおった!」
よしよし。どうやら全員巻き込むことができたみたいだね。日光がまた差すようになったよ。どうやら無双王はこの技に驚いてるみたいだね。ずっと空を見てる。
「貴様、我が兵はどうした?我が宇宙艦隊をどこに消した?」
「あのオレンジ色って艦隊だったんだ。えっと、パーテ・レパンチュ明けの帰路を受けると自分の世界に旅立っちゃうの。と言っても故郷のことじゃないよ。自分の心の中にある世界ね」
「逃避行動か」
「いや、実際行ってるよ?それで自分の世界に飽きたら、新しい世界を知るために外に出るの。もっとも、行きたい場所に追い出されるから君の所には戻らないかもね?……あ、艦隊は巻き添えで誰かの世界に入っちゃったんだと思う。諦めて」
「…………おのれ。次はないぞ。今回はあくまで偵察だ。次来たときには優秀な兵を集め、新しい我が軍がこの星を支配する!」
支配だって?じゃあ私と同じような目的を持ってるじゃん!意外と多いのかなぁ?侵略者コミュニティでも作っちゃおーかな?侵略者フレンドいないし。
それにしても今日はもう帰っちゃうのかー。なんだかんだでほとんど戦えなかったや。でも究極魔学科法になった魔学科法の力は確かだった。大満足だねっ!
「今度来るときは君が直接相手してよ」
「断る。数の力こそが最も優れている。そして数の勝利こそが最も美しい。数なき勝利など、勝利としての価値はないに等しいのだ。我輩の愛読するある兵法書にも、多数決マジつえー、とある」
「ふーん。君一人のほうが強そうだけどなあ。あ」
凄い速さで空に消えていったね。本当に侵略できると思ってるのかな?
「私も肩慣らしに侵略したくなってきちゃった。アミュリーとの約束もあるし、帝国でも侵略しちゃおう」
究極魔学科法を手に入れた私に敵はない。帝国なんて余裕だね!
その次はこの力で、いつか魅異のやつを泣かせてやるっ!そして、その次は、……その後にこそ、懐かしくない顔に会いに行くんだっ!