四話 パニックチック年明け(ウィル編)
@ウィル視点@
ふー、どうやら無事に到着したようです。ここが通報で言っていた現場ですね。なんでしょう、いかにも闇の世界って感じがします。……できれば勇者だった頃に来たかったなー。いかにも悪の親玉が居そうな感じですし。
「アミュリーさん、準備は大丈夫ですか?」
「全然問題ないんだってば。それにしても、いかにも怪しい雰囲気が出てるんだってばー。ウィルも昔はこういう所を旅してたんだっけ?」
「え?ええと、まあ。そうですね。そうです!こういう場所で危機的な状況を乗り越え、何度も世界を救っていました!」
「おおー!凄いんだってば!」
は!しまった、ついついでたらめを!ま、まあ子供の夢を壊すのはよくないですからね。うんうん、やむなし仕方なし。
「すでに裏から校長さんたちが人々を神社に送り返しているはずです。私は正面から行きますのでアミュリーさんは飛んで中心部からお願いします」
「ラジャーだってば!」
「転送装置はなくしちゃダメですよー。あと銃型なので使う前にちゃんと説明してくださいねー」
「はーい、だってば」
さて、私も行きましょうか。とりあえず責任者の人から事情を聞きだしましょう。なぜ、小学生同士で履いてるパンツを盗み合うような事件が起きたのかを!
「さてと、失礼しまーす」
中に人は居なさそうですね。あ、いや、居た!居ました!あれはドラゴンの擬人化少女でしょうか?女子小学生くらいなので事件についてなにか知っているかもしれません。聞いてみますか。
「あの、すみません。ちょっといいですか?」
「うるさいわねぇ」
「はい?」
「あたいはこの上なく機嫌が悪いのよ!あんたはなんか目障りだわ!身包み剥いでやる!」
り、理不尽です!なんだか八つ当たりされてます!でも私の仕事は人々の安全の確保。この子も神社に送り返さなければ。
「私は特星本部から派遣されてきた者です。あの、お名前を聞かせていただけませんか」
「あたいは皿々様だ!本部に泣き帰って伝えておきなっ!栄えるフライブレス!」
「小判のブレス!?く、勇者ガード!」
ううう、小判の弾数が多くて剣だけでは防ぎきれませんね。仕方ありません。ならばやられる前に攻撃に転じる!
「大人しくしてください!幅跳び剣!」
「おっと!やるじゃない!」
後ろに避けられましたか。なんでしょう、強いですね。普通のドラゴンは小判なんか吐きませんし。きっと擬人化して怪しげな技術でも身につけたのでしょう。
「まだまだです!突撃剣!たあああぁっ!」
「甘いよ!ジエンドハンド!」
うわ、素手で剣を受け止めた!?く、動きません!
「で、ですが!手が切れなかろうとダメージはあるはずです!」
「剣があたいの手より強ければね!そらぁ!」
[ばりいぃん!]
「あー!私の剣が!」
「ふふふ、あたいの勝ちだね。さあて、なにを持ってるか見せてもらおうか!」
「勝ち気取りは早いですよ。高速剣!」
「ぎゃあぁっ!い、いたーい!おのれー!まだ剣を持ってたのね!」
おっと、なんだか不意打ちみたいな形になってしまいました。二本目の剣は想定外だったみたい。……ああ、こっちの剣はぼろぼろです。結構高いのになー。
「まあ、仕方ありませんか。あ、それより落ち着いてください。私はあなたに危害を加えるつもりはありませんよ」
「既に痛い目には遭ってるんだけど。まあいい。で、あたいになんのようなわけ?」
「今、この闇の世界では小学生がパンツを取り合う騒動が起こっているようなのです。なにか知りませんか?」
「ぎくっ!さ、さあ?そんな事件が起こるなんて物騒な世の中だねぇ」
あれ、なにか知っていそうな反応ですね。……そうか。この子はきっと被害者ですね。よく考えたら、パンツを取られたなんて恥ずかしくて言えるわけがありません。だから黙っているのでしょう。
「お願いします!どんな些細なことでも構いません!知っていることを教えてください!犯人は見つけ次第徹底的に懲らしめますので、あなたに被害は及びません!」
「て、徹底的。あ、ああ、そういえば!なんか氷を出す奴があたいの持ってたパンツを奪いに来たよ!凄く偉そうな態度だったわ」
「氷を出す女の子ですね。わかりました。情報提供ありがとうございます!」
「ああ、徹底的に懲らしめてやって!」
いきなり犯人の特徴を掴めるとは幸先がいいですね。この調子で犯人の情報を集めていきましょう。あ、でもその前にこの子を避難させなきゃ。
「では特星に送り返しますのでこちらに」
「はーい」
「あ、これ、銃ですけど転送装置なので安心してください。怖くないですよー。すーぐ終わりますからねー」
「は、はあーい」
他の救出班の方々ががんばっているからか、どの部屋にも人がいませんね。というか、ここ、広すぎでしょう。千部屋くらいは回った気がします。次はこの部屋ですね。
「おや、この部屋も豪華な部屋ですね。あれ、あの椅子にかけてあるコート、どこかで見た覚えがあるような」
いや、それよりも他の部屋と違って荷物がありますね。ということは、この部屋の人はまだ避難していないのでは?
「人がいねええぇっ!手遅れだったかあー!」
後ろから声!?あ。あのコートの人って確かどこかで。……そうそう悟さんでしたっけ。まだ避難してなかったようですね。あと、なぜハエ叩きを持ち歩いてるのでしょうか?
「あれ。お前は確か、えーと、ウィル!お前は無事だったのか!?」
「あ、はい。慌ててどうしたんですか?」
「人が居ないんだ! きっと犯人の仕業に違いない! まさか人まで消すとは予想外だがな」
「ああ、それは私たちがやったんですよ。この銃で人々を送るのが仕事でしてね」
って、なぜ悟さんまで銃、というか水鉄砲を構えているんですか?まさか!
「水圧圧縮砲!」
「きゃあっ!いたた。な、何するんですか!?」
「ふっふっふ、やはりウィルも犯人の一味だったか。実はそんな気がしてたんだ」
なにか勘違いされてる!?やはり銃は印象が悪いのでしょうか。銃を扱う悟さんなら、この転送装置を見ても動じないと思ったのですが。
「か、勘違いですよぅ。ほら、銃はポケットにしまいましたから。まずは落ち着いてくださいって」
「話してから倒してまた話すより、倒してから話すほうが早い!」
「それはまあ、否定できませんね。経験上。では倒してから安全に送り届けます!高速剣っ!」
「うぉっと!」
[きいん!]
ハエ叩きで防がれた!く、そういえばこの人って防御寄りの戦いをしてましたね。カウンターを決められないように気をつけなければ!
「隙あり!主人公パーンチ!」
横からパンチ?ここは後ろっ!
「よっと!」
「水圧分裂砲!」
大量の水の玉!でもこのくらいなら私の剣で防ぎきれます!
「勇者ガード!たああああぁっ!」
「ならっ!主人公スライディング!」
あ、足元!?飛ぶしかないっ!あ!
「勇者膝蹴り!」
「ぐぅ!ああぁっ!」
[どかぁ!]
あ、部屋の壁にぶつかった。顔がちょうどいい位置だったから膝蹴りしちゃいましたけど、大丈夫でしょうか!?
「さ、悟さん!大丈夫ですか!?」
「ううぅ。ゆ、勇者膝蹴りか。く、なんて威力だ」
「え?わ、私そんな技名言いました?あの、勇者流技にはそんな技ありませんから」
あちゃー、反射的になんか技名を叫んでしまったようです。ただの膝蹴りなのに。
「だ、だが、主人公にこの程度の技なんて全然効かないな!」
「なら、勇者数突剣!それえええぇっ!」
「ぎゃあー!」
……ふう。五回くらい突いたら気絶しましたね。なんてタフな人なんでしょう。さてと、情報は聞けそうにありませんし、このまま特星に送り返しましょう。
次はあっちの建物ですか。でも、さっきの建物とは違って宿泊施設っぽくありませんね。電気などの管理施設でしょうか?
「あああ、それにしても外はなんて寒さでしょう。ぶるぶる」
「何者だ!?」
あ、こんな寒い野外なのに人がいますね。ちょっと話を聞きましょう。……って、あの子はもしかしてアミュリー神社の雨双さん?
「お前は、アミュリー神社で何度か見た顔だな。というより聞いた声だが」
「どうも。私は元勇者のウィルです。特殊な場所で事件が起きているということで、皆さんの安全確保にきました」
「そうか。それは助かる」
そういえば、この子は氷を扱えるんでしたっけ。うーん、さっきの子からパンツを盗んだ犯人かもしれませんし、ちょっと話を聞いてみましょうか。
「あの、この世界で小学生がパンツを盗み合う事件があったらしいのですが、なにか知りませんか?犯人の一人は氷を扱うらしいのですが」
「氷?あいつ、氷のブレスも吐くのか」
「なにか知っているのですね!」
「え。ああ、うん。なんか悪霊を復活させるための薬の材料だったらしい」
「悪霊ですか?」
悪霊。私の経験上、たいした相手ではないと思いますが。うむむ。でも封印されていたということは、桁外れの実力なのかもしれません。つまり、勇者時代に会わなかった強敵!
「わかりました。パンツ盗賊も悪霊も私が片付けましょう!元勇者として!で、その復活はどこで行われるのです?」
「……………………」
「雨双さん?」
どうしたのでしょうか?急に黙ってしまって。……というか、なんだか雨双さんの気配が変なような。悪霊、ではありませんね。これは呪い?
「……お気づきのようですね。そう、私は雨双じゃありませんよー」
「うわ、誰ですかあなた。乗っ取るなら、急に口調を変えないでください」
身長は雨双さんのままなので、口調に違和感を感じます。いやそれよりも。一体、どういうつもりでこの子を乗っ取ったのでしょう。呪いに近い状態のようですが。
「私はそうですね、ナレ君とでも名乗っておきましょうかね。話は途中から聞いてました。あなたがかの有名な、とてつもなく強い社長勇者のようですね」
「違いますよ」
「嘘はダメです!ふふふ、私はただいまお昼寝中。この状況で私が呼び出されるのは、計画の邪魔者、つまりあなたの情報が出たときなのです!」
ふむ。どうやらこのナレ君という人は、勇者である魅異さんのことを敵対視しているようですね。私を現勇者と勘違いしているようですが。
「勝機は常に情報にあるのですよ!特星最強の実力、この技で私が見切って差し上げましょう!エルァーザー・アイセ」
[ごごごごごごごぉ!]
前方全て、いや、周囲全てから眩しい霧の壁が!
「十数秒後、このレーザーで氷の世界ができますよ!雨双もろとも凍りましょう!」
レーザー!?この周囲全てを包む壁がですか!?
「くっ、解呪剣!」
「いたっ!あ、見えなくなって……」
これで呪いは解けました!あとは壁のようなレーザーを防げば!
「雨双さん!起きてください!どうか氷の壁を!」
あああ、ダメです。もうどうしようもありません!
「氷造、コールドハウス!」
「え?」
[ごおおおおおおおぉん!]
うわわわ、すごい音と揺れです!でも、誰かがバリアかなにかを張ったようですね。真っ暗なのでどういう感じなのかはわかりませんが、レーザーは防げているみたい。
[ばこーん!]
外だー!って、うわ。お屋敷が燃えてるじゃないですか!どうやら氷のレーザーに潰されたときに引火したようですね。聞こえませんでしたが、爆発とかしてたのかもしれません。
しかしおかげでこの辺りは明るくなりましたね。これで人探しもはかどるというものです。
「ふふふ、命拾いしましたわね、ウィルさん?」
「あれ、あなたは特星本部の。マメさん!」
マメ カーテンレース。この子は確か、特星本部にこの世界の使用を申請していたはずです。なにか知っているかもしれません!
「マメさん、あなたに聞きたいことがあります!」
「あー。ですが、とりあえずその方を避難させてはいかが?」
あ、そういえば雨双さんが眠ったままでしたね。本部に避難させておきましょう。それ。
「それで現状についてなのですが、どういう状況なのかわかりますか?」
「そ、それがですねー、実は管理者の立場を奪われてしまいましてですねー。ちょっと収集つかないかなーなんて気がしておりますのー」
「指をつんつんさせても大問題なような。え、それなのに忍者のコスプレして遊んでるんですか? 怒られますよ?」
「これはやらされているんですのぉーっ!」
これはどうやら状況を把握できていない可能性が高そうですね。説明してあげましょう。
「実は先週、この世界で凶悪なパンツ盗難事件が起こったという通報がありました。それで被害者を増やさないために、私や特星本部の人たちが出動してきたというわけです」
「へえー。まったく知りませんでしたわ。にしても、パンツくらいで随分と大げさじゃありません? さっき校長さんとか居ましたわよ」
「通報者が、大事件みたいな雰囲気で解決するように希望したそうです。それで知名度のある人選になっちゃいまして」
「本部は相変わらず暇してますわねえ、私と違って」
あ、マメさんって忙しいんですね。……そういえばさっきの氷の技ってマメさんの使った技でしたよね。いや、まさか。
「ところで氷の技を使える人ってどのくらいいます? 特殊能力でもそれ以外でもいいのですが」
「氷?そうですわねぇ。……私が招き入れた中には十人いますわ。質系で扱える人が一人、非質系で扱える人が五人、特殊能力以外で扱える人が四人かそれ以上、という感じでしょうか」
「そしてあなたも」
「あらあら、目つきが怖いですわよー。まさか氷使いが犯人なのかしら?」
「そうです!そして本命の質系氷使いは二人!あなたと雨双さんです!」
雨双さんは、まあかなり怪しかったですけど無力化しました。しかしこの世界にみんなを呼び寄せた張本人はあくまでもマメさん。大本命はまだ残っています!
「ふふふふ。まあいいでしょう。パーティはすでに終わりを迎えようとしていますわ。最後の締めに、あなたには言い訳しようのない助言を差し上げますわ。私に勝てましたらね!」
「高速剣っ!」
「きゃ!いたた。いきなりやりますわね!目標、レーザーピンポ」
「高速剣!それぇ!」
「くうううぅ!」
あ、まずい。少し距離が開きましたね。
「突撃剣!やあぁっ!」
「くうぅ!氷造、コールドハウス!」
[きいぃん!]
ああ、惜しい!氷の犬小屋で防がれましたか!ですがこんなものは地面に剣を刺せば。
「勇者上下斬り!」
「そんな!?きゃああっ!」
やはり犬小屋に床はありませんでしたか。マメさんは、どうやら今の攻撃で倒せたようですね。気絶はしていませんが立ち上がれないようです。
「くっ。よくコールドハウスの弱点がわかりましたわね」
「斬りあげで氷の犬小屋を浮かせて、そのまま相手を攻撃する。犬小屋に床があれば通じない攻撃でしたが、まあそのときは転がして酔わせるまでのことでした」
「犬小屋じゃないんですけれど」
「え?」
あぁれ?見た感じ、入り口がないこと以外は犬小屋そのものみたいに見えますが。特にサイズが。
「さっき助けたときに使ったから弱点がわかった、とかないんですの?」
「ああ、さっきのバリアみたいな技も同じ技でしたか。……技の弱点はともかく、あなたが遠距離技ばかり使うことは知っていましたよ。特星本部であらかじめデータをもらってましたから」
「ああ、だからあんなに連続で攻撃を。ずるいですわよー」
勇者たるもの、あらかじめ首謀者の弱点を知っておくのはあたりまえのことです!
って、そんなことを考えている場合ではありませんでした!
「それはともかく私が勝ちましたよ!さあ、一体なにが目的なんです!」
「まあいいですけど。私は、特殊能力以外の力を高めてほしかっただけですのよぉ。なにかを企んでいるふりをして、いかにも怪しい振る舞いをして、私を倒しに来た人たちにアドバイスしていただけ。だからパンツなんか知りませんわー」
じゃあ怪しい言動をしていたのもその為だったのですか。
特殊能力以外の力を高めるという目的は、本部を出るときに聞いた話と同じですね。つまり本部に出した報告書どおりということですか? でも、だとすると犯人は一体?
「ああ、でも神社に確か……」
「どうかしましたか?独り言なんて」
「先週、布を咥えた猫のような生物を見かけたような。猫なんか招待していないのですけれども」
「猫、ですか?それはどこで?」
「神社の地下に入っていきましたわ。もっとも、追いかけてもどこにもいなかったので見間違いかもしれませんが」
うむむむむ?こんな世界に入れる猫なんていないと思いますけど。しかしなんとなく怪しい気がしますね。次は神社に向かってみましょう!
「情報、ありがとうございます。では本部に送りますね」
「あら、私の情報を信じてもよいのかしら?」
「ぶっ。あ、あの!これから犯人を捜すってときに悪い冗談はやめてくださいっ!」
「冗談ではありませんわ。私、言いましたわよ?言い訳できないような助言をすると」
む。助言だというならば聞いておきましょうか。言い訳できないというのが引っかかりますが。
「それで?あなたの助言とは一体?」
「そうですわねぇ。言ってしまえばあなたの弱点。勇者的な思考についてですわ」
私の勇者的思考が弱点?うーん。あまりそういう思考をしている自覚はありませんが、そんなに偏って見えるのでしょうか?
「あのー、私は別に弱点とかないですよ?油断しないように気をつけてます」
「ちゃんと倒した相手の話す情報は疑っていますの?」
「え?」
「道中で聞いた情報の真偽は確かめています?犯人を最後に倒して事件解決だなんて思っていませんよね?」
「え、えええ。何を言ってるんですか」
情報の真偽は倒して確かめるものでしょう?それに犯人を倒しても解決しない?それこそ私の経験上、一度もなかったことです。別の人が倒しちゃったことはありますが。
「あなたのような勇者思考は、特定の条件で出される情報、状況にひどく弱いですわ。それでも解決するにはするのでしょうが、遠回りをしたり、関係のない人を巻き込んだりしていますのよ。……もっと刑事的な思考を身に着けることをお勧めいたしますわ」
「むむー。でもそういうのは賢い人のやることですしー」
「指をつんつんさせても弱点は治りませんわよー?そんなだからいつまで経っても元勇者止まりなのだわ」
もう、なんで勝った私がお小言を言われなければならないのでしょう。こうなったら早く切り上げて先に進みましょう!
「でもまあ、そういった思考の人を近くに置くだけでも改善しますわ。今日のところは仕方がありませんので私が」
「わかりました。ではそういう人を探しておくのでさよならー」
「あ、ちょっと!」
話の途中ですが、転送装置で特星本部に返しちゃいました。
どうやらついてきてくれるようでしたが、別にいいでしょう。本当に事件が解決できないかどうか、私自身の目で確かめてやります!
というわけで神社に来ましたが、やや暗いですね。お屋敷の炎が燃え広がっているので、かなり見やすくなっていると思いますが。
「おや、これは!」
神社に人、いえ、人に化けた猫が倒れている!?しかも近くに立っているのは、校長さん!もしかしてすでに猫が怪しいと考えて倒したのでしょうか?
「おや、ウィル君ではありませんか。こんなところでどうしたのですか?」
「あ、それがパンツを盗んだ犯人がここにいるらしくて」
「犯人がここに?それはおかしいですね。犯人はお屋敷に追い返したはずですが」
「え、捕まえなかったんですか?」
「ええ。あ、ゲージのほうを捕まえに来たのでしょうかね。この子は私の飼い猫なので食べるのはやめてほしいのですが」
「食べませんよ!それより、どうして犯人を逃がしたのですか!?」
校長さんの話からすると、その逃げた犯人と猫が共犯のようですが。猫を倒したのはともかく、犯人を特星に送らずにお屋敷に送った理由がわかりません。
「いえいえ、あなたたちに犯人退治を任せようと思いまして。面白そうなので!」
「あ、そうですか」
「そんなことよりも今ゲージに起きられては。って、あれ?」
おや、校長さんも今気づいたようですが、いつの間にか倒れていたゲージさんがいませんね。……これって犯人に逃げられたことになるんじゃ!?
「おい!そこのお主!」
「うわああぁっ!?な、なんですか急に!」
急に目の前に出てきましたよ!?この猫、おそらく只者じゃありませんね!魔物の類でしょうか!?
「おや、そんなところに」
「うるさい物質!で、お主だ。いいかよく聞け!」
「え、なんですか?怖い夢でも見ました?」
「違う!あのご主人、つまり校長には一切触れるんじゃない!」
「え、えー?どういうことなんですか?」
とりあえず校長さんはー、近づいてくる気配はありませんね。しかし触れてはならないってどういうことでしょう?汚いとかそんな感じ?
「今のご主人様は究極物質とやらに操られているんだ!触れただけでしばらく体を乗っ取られるぞ!少し前にも、我の師匠が乗っ取られたのだ!」
「そ、そうなんですか!?校長さん!」
「ほらほら暗黒波動ですよー」
おおお。確かにいつもの校長さんと違って邪悪な波動が出ています!……でも、普段からあのくらいの波動は出せそうな気も。うんん?
「あの、雰囲気はいつもの校長さんと変わらないような」
「まあそうだな。うむぅ、だが我にはわかるのだ。あいつに近づくと毛が逆立つ」
「ふふふ、そうですよ。私の操り主は、私そのものになりきることができるのです!これぞドッペル波動の力!」
「ほら!本人もああ言っているぞ!」
「で、でも普段の校長さんもあんな感じですよ。どうすれば」
あ、でもどちらにしても倒すことに変わりはありませんね。操られていないとしても悪ふざけしすぎですし。
「わかりました!ではこの校長さんをとりあえず倒しましょう!」
「うむ!我も援護してやる!移空、湧き降らし!」
[ずがががががっ!]
おお、校長さんの頭上から机やら椅子やらが!これは早速決まりましたね!
「って、私いなくても倒せるじゃないですか」
「いいや、我の能力はご主人様の波動と相性が悪いのだ。見ているがいい」
「波動のバリアです!波動反鏡!」
うわ、いろんな物や波動がこっちに!
「勇者ガード!くっ」
「移空、招き穴!」
一応剣でガードして防ぎました。猫さんも真っ黒な穴のようなものを作って、直撃を防いだようです。
「あの、飛んできた波動は触れても大丈夫ですよね?ちょっと掠りました」
「ああ。たぶん、本人に触れなければ大丈夫な気がする」
「こちらからもゴーゴーですよ!破滅の闇よ、暗黒の波動よ、我が生徒と僕をダークチックに染め上げるのです!闇波動波ぁ!」
こ、これは巨大な波動の光線!いや、ですが雨双さんのときとは違って一方向からの攻撃!これは、カウンターのチャンス!
「くそぅ!移空っ」
「私は結構です!たあああああぁっ!」
威力は強大!回避もできない!ですが、闇は私のもっとも得意とする相手!負けるはずがありません!
「勇者!返魔剣っ!」
この剣先から発するバリアで!巨大光線をなんとか!……はね返した!
「なんですって!?や、闇!万歳っ!うわあああぁっ!」
[どがああぁん!]
うわぁ、すごい威力。校長さんははね返した波動の力で壁に叩きつけられていますね。大丈夫でしょうか?
「ぐ、ううううぅ。闇波動を使ったのに私が負けるとはぁー!おのれ勇者の血筋め、なにゆえそのような力を得たというのか!?」
「ふふふ、勝てないのは当然です!なぜなら私は勇者だった!闇ほど私に勝てない力はありませんよ!」
って、わあああぁ。なんだか凄く勇者してる気分です!現役時代もこんな台詞言う機会はありませんでしたからね!
まあ、血筋云々は勇者に関係ないですけどね。雰囲気あるのでいいと思います!
「か、カッコいい。我もやりたい」
「あ、猫さん。そちらは大丈夫でしたか?」
「あ、ああ。それよりお主、いや師匠!どうか我をあなたの弟子にしてください!」
「え?弟子、ですか?」
……私、弟子入りなんか頼まれたのは初めてです!どうしましょ!でも、ここを逃しては今後一生弟子入りされない気がします!
「そうです!我はあなたの戦いぶりに感動しました!我もあなたのようにカッコいい台詞を決めたいのです!」
「えええ、そんなにカッコよかったですか?」
「はい!魅力的でした!」
「もう、しかたないですねー。本来、弟子は取らない主義なのですが、あなたの熱意に心打たれました!弟子入りオッケーです!」
「ははぁ!ありがたき幸せ!」
とはいったものの、やはり特別に態度を変えられるのは気恥ずかしいなぁ。普段通りに接していただきましょう。師匠面するのも気が引けますし。
「猫さん、そんなに改まる必要はありませんよ。同じ道を目指すものとして対等でいましょう」
「そうか?ならばよろしく頼むぞ、ウィルよ!」
「あ、呼ぶときは師匠呼びがいいなあ」
「わ、わかった!師匠!」
私が師匠かぁ。こんな日が来るなんて夢にも思いませんでした。
「あ。師匠!後ろ!」
「あれ、校長さん?もう動けるのですか?」
さっきの波動はかなりの威力だったはず。もう立ち上がれるなんて凄い回復力です!
「私は校長ですからね。そして波動の力を使えば、こんなこともできるのです!」
うわ!校長さんの体中から黒くてもやもやしているモンスターが!
「師匠!あれこそが究極物質の本体であるぞ!触れないように気をつけるのだ!」
あれが究極物質!しかし見た感じは闇の力でできているように見えます。もしかすると、私の技でどうにかできるのではないでしょうか?
「というか、校長さんの波動でどうにかできませんか?」
「あ、私は闇波動波のダメージがあるのでこれが限界ですね。ウィル君がんばれー!」
「あれは絶対に手伝う気ありませんね。……猫さん、究極物質は闇の力でできているのですか?」
「え、いやその。パンツだが」
パンツ!?いや、別にいいですけど。って、全然よくありません!闇ならともかく、パンツ相手によく効く技なんか習ってませんよ!
「仕方ありませんね、それっ」
とりあえず転送装置で特星本部に送っておきました。あれだけ怪しい姿ですし、誰かが見つけて対処してくれるでしょう。
さてと、それでは人質救出と犯人捜索を再開したいのですが。
「校長さん、猫さん、パンツ盗難事件について聞きたいことがあるのですが」
「あー。それなら我が詳しいぞ。何でも話してやる」
「では犯人の居場所はどこですか?というか、もう特星本部に帰ってたりします?」
確か犯人は校長さんがお屋敷に送ったといってました。ということは、すでに誰かが特星本部に送り帰している可能性があります。
「くくく。よかろう!我の空間移動ですぐに調査を」
「いえ、私の波動でわかりますよー。お屋敷にはすでに調査係しか残っていませんね。すでに特星本部に居ると考えていいんじゃないですかね」
「ご、ご主人様ぁ」
波動って便利ですねー。私たちを送ってくれたのも校長さんですし、レーダーみたいなこともできるみたいですし。
「でも、もう一人の犯人は目の前に居ますよ」
「我だ!師匠にやれといわれたのでな」
「ほー。なかなか度胸のあるお弟子さんですね。やりますか?」
「ま、待て師匠!師匠というのはお主より前の師匠で!我は盗賊にも弟子入りしているのだ!いわゆるダブルなんとかというものだ!」
「ダブルデートですか?ゲージも隅に置けませんねー」
「それをいうならダブルブッキングです!……まあ、事情はわかりました。校長さんを相手するときに手伝ってくれましたし、倒すのはやめておきましょう」
今回の目的はあくまでも救助ですからね。事件は解決したというかすでに終わっています。この後犯人がどうなるかは流れに任せましょう。
「ふふふ。感謝するぞ、師匠!」
「どういたしまして。それと盗賊のお師匠さんにも事情説明はしてくださいね。私のほうは暇があるときに来てくれればいいですから」
「ウィル君ちょろそうですね。私も弟子入りしていいですか?」
「やる気のない人はお断りです!それで、お屋敷以外も全員救出が終わっているのですか?」
「あとはそこの神社のー、地下、ですね。神社の地下の一人を救出すれば任務完了ですよ」
神社の地下ですか。なんだかんだで救出作業もこれで最後。気合入れていきましょうか!
「それでは私は他の救助員に解散を伝えてきます。ゲージはどうします?」
「我は師匠に着いていくぞ!」
「では、神社に行きますよ!」
ここが神社の地下ですか。外ほど暗くはないですが、薄暗いため不気味な雰囲気は漂っています。いかにもなにか敵が待ち構えていそうですね。
「おやおや、こんなところに客人とは。珍しいこともあるもんだ」
「あ、お主はちょっと前に封印が解けた」
「そう。俺こそが永き眠りから解き放たれし闇世界の王、クレー!あの憎たらしい男に復讐するときがきたのだぁ!」
わー、なんだかとてもテンションの高い方ですね。ただ、言っていることが少々物騒です。このまま放っておくわけにもいきませんね。
「猫さん、この方はどういう方なのですか?」
「よくは知らんが、究極物質を作るときに神社の封印が解けたようなのだ。数年間封印されていたとか」
「その通り。そして俺はあの男、雷之 悟が来るのを待っているんだ!」
え、復讐の相手というのは悟さんだったんですか!?もうとっくに帰ったはずですけど。
「あの、ここで待っていても悟さんは来ないと思いますよ。帰りましょう?」
「なんだと。悟のやつはここに立ち寄らずに帰ったのか!あのやろー。わかりやすく神社から憎しみのオーラを出してるっていうのに!」
「あ、この気配はお主のものだったのか?究極物質の残したものとばかり思っていたのだが」
「ゲージさんには見えるのですか?その憎しみオーラが」
「ああ。前より弱まっているが、いまだに毛が逆立つようなオーラが神社を覆っているのだ!まあ、我の大スターのオーラに比べれば大したものでもないが」
私には全然わかりませんでした。どうやらよほど強い復讐心を持っているようですね!
「マジか。よく気づいたな。これは常人には見えない闇のオーラ!俺も実は見えない!だが動物には感じ取ることができるみたいだ、猫め」
「マヌケめ。我を呼ぶならゲージ様と呼べ!」
「あっそ。……ゲージだって!?お前、校長室に住んでた猫か!」
「ほほう、我のことを知っているとは少しは見所があるではないか。クレー、お前の名は覚えておいてやるぞ」
「覚えておいてやる、じゃねえよ!お前、親切にもエサをやっていた俺から、財布盗んでっただろ!あれ高かったんだから返せよ!」
うわぁ、この猫さんって盗賊する前から常習犯だったのですね。あ、でも猫だから物を集める習慣みたいなのがあるのでしょうか?
「くくく、財布だと?盗んだ数が多すぎて覚えておらんなぁ。それにだ。我は盗んだものなど片っ端から売っているのだぞ?もうないに決まっているだろう!」
「よーしわかった。こんの猫野郎め!まずは悟よりもお前を倒してやる!ついでにウィルも!」
「え、なぜ私の名前を?ってか、巻き込まれてる!」
「師匠に喧嘩を売るとはバカなやつだ!お主など五秒で倒せるぞ!移空、招き穴!」
あ、クレーさんが地面の穴に落ち、落ちない?それどころか浮いています!
「我の穴に落ちぬだと!バカな!?」
「くくく。俺は質系と補助系の特殊能力を持っている。それはそれぞれ魔法を扱う能力!俺は空飛ぶ魔法、スカイゴーで飛んでいるのさ!そして、アタックバリア!」
クレーさんの周りにガラスのような壁が!おそらく物理系攻撃を封じる壁でしょう。
「ならばこれでどうだ?移空、湧き降らし」
「このバリアは全面対応だ!そんな物を落とされても効くかぁ!さあ喰らえ!ブリザードキューブ!」
「く、勇者ガード!」
「移空、返し穴!お主の魔法、威力を上げて返してくれよう!」
おお!猫さんが氷をはね返しました!あの氷は魔法攻撃!クレーさんのバリアにも通じると思います!
「ちっ!マジカルバリアだ!」
あ、物理バリアがたぶん消えましたね。これはチャンス!
「よし、今です!勇者突撃剣!やあぁっ!」
「何だと!?く、アタックバリア!」
[がきぃん!]
あああ!剣がバリアに挟まってしまいました!
「師匠!」
「ウィル!まずお前から倒し」
「勇者レーザー撃です!」
「ぎゃあー!」
お、クレーさんが剣先からのレーザーを受けたからか、バリアが解けました!
「よっと、着地ですー」
[どさぁっ!]
あ、クレーさんは顔から地面に落ちましたね。大丈夫でしょうか?
「いててて。くそー、強いじゃないか」
「どうです?おとなしく帰る気になりましたか?」
「いや、そもそも帰る気なんだが。そこの猫が挑発しなければな!」
「ふーんだ。お主がけちなだけであろう?可愛い猫のいたずらじゃないか。その程度も大目に見ることができんのか、器の小さい男め」
「くっそー、今度会ったら一対一で決着つけてやる」
うむむ、猫さんには後で少しお灸を据えなければなりませんね。それにしても、最初会ったときとは違って意外と普通の人ですね。どうしてこんな人が復讐なんか考えているのでしょう?
「あの、差し支えなければ教えていただきたいのですが、クレーさんはどうして悟さんに復讐を?とてもそのようなキャラには見えませんが」
「……それはなあ。それはなあっ!俺だけ今作においてまったく出番がなかったからだよーっ!!!」
「は、はい?」
出番、ですか?なんでしょう。悟さんが普段から言ってる主人公とかと関係がある話なのでしょうか?
「俺はなー!!初期作においても本当、最初期組のレギュラーだったんだぜ!!?しかも悟のライバル!!それがなんだよ、リメイクされて今か今かと出番を持ってたんだぞ!!〇話中ずっと!!!でも、名前さえ出なかったさ!!……もう、見間違えかと思ってさ、『このページの検索』機能で『クレー』って打ったくらいさ。一致する結果はもちろんなかった」
「そうなんですか」
「そのとき俺は決めたんだ!!いつか出番が来る日までに力をつけて、悟のやつに復讐してやるってな!!!だから〇話が終わってからずーっとここにいたんだーーー!!!!!」
クレーさん。……そんなにビックリマークをいっぱいつけなくてもいいんじゃ。
「クレーよ。我はスターという立場だから、お主の気持ちはよくわかる。出番がなくて辛かったのだろうなぁ。我も自分の出番がくるまでは同じ気持ちだったのだ。……ほれ、こっちにこい。我が慰めてやろう」
「……お前も俺より登場早いじゃん」
「そりゃまあ落ちぶれたお主とは素質が違うから」
「こんの猫おおおおぉっ!!」
とりあえず、戦いも終わりましたので帰してしまいましょう。それで任務は完了ですね。はあぁ、今日は疲れたなー。