三話 パニックチック年明け(雨双編)
@雨双視点@
うぐぐ、悪霊の話を聞いてから何日経った?多分、一週間くらいのはずだ。なのに子供を全然集められないなんて。……く、雑魚べーが居れば女子小学生を見つけるくらいはできたはずだ。こんなことなら別行動なんてするんじゃなかった!
「仕方がない。ここは私が悪霊を倒すしかないか」
今から子供を見つけても間に合わないだろう。それに説明や説得に時間が掛かる。事情を知ってる私がなんとかするしかないな。どこぞの和風馬鹿はあてにならないし。
「それより問題は出口だ。そもそもここはどこなんだ?」
まずいな。人と会わないからって投げやりになりすぎた。えっと、確かこの建物に入ったのが二日前?っていうか二回寝る前のことだろ。その前はあれだな。屋敷内の他の建物だったはず。でも方向がわからないか。むぅ。
〔おー、それは大変そうですなぁ〕
「え!な、なんだ今の声は!?」
〔やあどうも!私はナレーターのナレ君!闇の王に仕えてたんですけど諸事情で辞めちゃいましてね。次の就職先として雨双に取り憑いていくことにしました〕
………………今日の私は疲れてるのかな。幻聴が聞こえる。今日は無理しないように気をつけるか。
〔心の病でしょうか〕
「お前の事だよ!そして間違っても私はお前みたいな訳わからない幻聴を聞いたりしない!」
くっそー。居場所がわかればぶっ飛ばしてやるんだがわからないな。そもそも頭の中に声が聞こえるし。ま、まさか本当に幻聴なんじゃないだろうな?
〔ぶっ飛ばせるわけないでしょう?やーいやーい〕
おまけに考え事を読まれてる。あれか?悟に憑いてるっていう黒悟みたいなのか?……プライバシーとかがまるでないな。
〔なぜ僕の姿が見えないか知りたいですか?あと心が読める理由も。それは僕が妖精だからなんです〕
「よく考えたら凄く馬鹿馬鹿しいな。さっさと行くか」
〔あ、ちょっと!取り憑いてるんだからもっとゆっくり!〕
うーん、方向はこっちで合ってると思うんだが。お屋敷内の建物一つ一つが大きすぎて方向がわからなくなるな。う、また行き止まりかぁ。
〔雨双はこういう家には住めなさそうですよね。らしくないというか。ちなみに私は王に仕えていたので長い間お城暮らしでしたけど〕
ああ、住めないな。城に住んでる奴って変な奴しかいなさそうだし。……現在進行形で変な奴に取り憑かれてるからな。
〔え、そうなんですか?怖いなぁ〕
お前のことだ!
「お!獲物発見!おい!お主の持ってる物を置いてってもらおうか!」
「あれ、お前は」
この猫っぽいのは見覚えがあるな。確かお菓子事件の打ち上げパーティに出てた奴だ。
「そう!我こそが特星一の大スター、ゲージだ!って、お主はなんか見覚えがあるな。カキ氷を売ったり撃ったりしてただろ」
「あー、うん、そうだ。それでなんで盗賊紛いなことを?」
「紛いではなく盗賊だ!ふん、我の能力と盗賊の相性は非常にいい。更に我のスター性で怪盗をやれば誰をも魅了できる!だから人手が欲しい盗賊に力を貸しているのだ!」
〔なんでしょう。可愛らしい猫ですね〕
怪盗ってひっそりと盗みに入るものなんじゃないのか?さっきのは脅して盗む感じだし、能力とも怪盗ともまったく会わないような気がする。
にしても、なんとなく悟と同じような性格だな、この猫。
「光物にでも目がくらんだんじゃないのか?猫だし宝石とか」
「ぎくっ!」
「ああ、やっぱり」
「まて、違う!我は黄金が欲しいのであって宝石なんかに目がくらんだわけじゃない!……ああ!」
やっぱり光物目当てか。まあ盗賊だからそりゃそうだな。
「くそー!我の大スターとしての評判がっ!こうなったら異空間に閉じ込めてしばらく口止めしてやるっ!移空、招き穴!」
「うわ!アイスチェーン!」
ふー、危ない危ない。いきなり前触れもなく落とし穴なんてえげつない奴だ。ちっこいからって油断はできないか。
「よいしょっと。ふん、どうやらまともに戦う気はないようだな」
「む、やっぱり弱らせないとダメか。いいだろう、我が相手をしてやる!天開、湧き降らし!」
「上だな!奥義、アイスサークル!」
やっぱり上から物を落とす感じだったか。だが、落ちる前に凍らせれば大したことはない!
「今度はこっちからいくぞ!アイスニードル!」
「甘いぞ!消物、同一ねじれ位置!」
「消したか!ならこれだ!奥義、アイスフルーティ!」
「う。移空、空間内テレポート!」
……ちっ、逃がしたか。でも広範囲攻撃は消せないようだな。あいつ自身は大したこともできなさそうだし、放っておくか?
〔でも向こうは雨双に弱みを握られています。能力的にストーキングしてくるかもしれませんよ?〕
うむむ、二人もストーカーがいたんじゃ厄介極まりないな。やっぱり気絶させておくか。
〔私はパートナー〕
パートナーは合意なく付回したりはしない。
「くっくっく!質系の能力でよく頑張るではないか!だがお主の能力の攻略法は見つけたぞ!」
「こっちのセリフだ!次で決めてやる!」
「ならば受けるがいい!幻間、魅惑の日照り!」
うわ、周りが海岸みたいになってる!?しかも暑い!ん?……って、私の服まで水着に。
「お主は寒さで敵を倒すとみた!だが、この空間では幻覚によって温度が夏のように感じられる!もうお主の氷など我には通じないのだ!物理っぽい氷は消せばよいしな!」
「ふーん、幻覚か。それよりせっかくの水着だ。ビーチバレーでもしないか?」
「え、ビーチボール?なんだ、我と遊ぼうというのか?ふっふっふ、嬉しいことをいうではないか。でもルールがわからぬのだが」
「私が教えてやる」
私もビーチバレーはやったことはないがまあ問題ないだろう。球技に共通するルールを知っているからな。ついでに特星社会のルールも知ってる。
「ふむ、まあよかろう!もし我に勝てればお前と少しだけ仲良くなってやる!」
「う。……球技っていうのはボールを使って相手に勝つ。ただそれだけだ!アイスボール!」
「はん?うがぅ!」
お、周りの空間が元に戻ったな。だが私は水着のままか。ふん、やっぱり幻覚に紛れて水着とすり替えてたか。悪知恵の働く奴。
「うぐぐ、卑怯者め~」
「お前の能力の攻略法は逃げる前に攻撃を当てること。この距離ならお前が逃げるより早く攻撃を当てれる。さあ、私の衣服を返してもらおうか!」
「ぎく。み、見逃してくれないか?これがないと人気スターの怪盗人生が終わるよぉー」
「その発言が既にスターとしては終わってるような気もするが。え、なに?そもそも怪盗って他人の衣服を盗むものなのか?」
「我も詳しくは知らん。でも人間の履いたパンツが必要であるとあの盗賊は言っていたな」
えええー。私の中で怪盗のイメージが変態的になっていくんだが。いや、どう考えてもこいつは騙されてるよな。こんな小さな子供を使ってパンツを盗ませるとは、その盗賊を放っておくのは危険そうだ。
〔一応、この子が嘘をついてる可能性もありますよ〕
そんなのはわかってる。まあどっちにしてもこの衣服は返してもらわないと。……あれ?
「おい!私の衣服はどうした!?」
「え?あ、あれ?いや、我は知らんぞ!お主の様子を見てたらいつの間にかなかったんだ!」
「くくく、お探しのものはあたいが貰った!」
「お前が変態か!って、女子だと?しかも人間じゃなさそうだ」
まさか同年代位の女子に目をつけられたのか?う、ううーん、どうしよう。見た感じドラゴンっぽいけど。私としてはこんな人外系女子なんかに付きまとわれるのは困る。でも強く断って傷つけるのは嫌だなー。子供を泣かせるのは趣味じゃないし。
〔雨双も子供でしょうに〕
「おお!粉々殿ではないか!ほら、その衣服の中に目的のパンツがありますぞ!我にかかれば余裕でした!」
「さすがはあたいの一人弟子!後で褒美に盗みの秘伝を教える!それとあたいは皿々だ!」
「ははー。では我は先に部屋に行っております」
あ、猫が逃げた。まあ衣服は目の前にあるから別にいいんだけど。でもこいつには要注意だな。さっき気付かれることなく衣服を盗んでたし。それに言い寄られても本気で困る。
……っと、その前に事実確認をしておくか。主人公バカとかはこの辺を怠って勘違いするらしいからな。
「えっと、皿々だったか。お前、私のパンツが目的だそうだな。そのー、用途とかはどういった感じになってるんだ?」
「え!?そ、そんなこと答えられるわけがないじゃん?」
「あー、そりゃそうか」
「ま、あたいはこの道では相当有名だからねぇ。あたいの名を知ってるあんたなら使い方の想像くらいつくんじゃない?そう、その想像の通りさ!あたいが盗んだからには好き勝手に使わせてもらうよ!」
うぐぐ、やっぱり変態的な用途に使うつもりか。っていうか、こいつ常習犯なのか?有名人ってことはそういうことなんだろうな。これは説得しても無駄かな。
「あんたがパンツを手に入れる方法はただ一つ!あたいからパンツを奪うことだ!」
「だがこれでお前を精神的に傷つける心配はなくなった。馴れているからこそ、お前はそのパンツを手に入れることができない!アイスソード!」
「そんなしょぼい氷!燃えるチューズブレス!」
「なに!?アイスセーフ!」
ふう。まさか炎を吐くとは。この分厚い氷の壁はすぐには溶けなさそうだが、氷の剣は一瞬で解けた。つまり小技はあまり通じないってことか。
「いつまでも隠れていられるとでも思ってんの?消し飛べ!滅びるマンブレス!」
「げ、氷の壁が!く!奥義、アイススイート!」
うううう。む、向こうのは光線?にしても、私のアイススイートと互角とは!なんて威力の光線なんだ!
「うぐぐぐ、よっと!」
[ずがあああん!]
あいつ、どうやら途中で諦めて避けたようだな。ああもう。なんでこういう変質的な奴に限って微妙に強かったりするんだか。
〔雨双も強いじゃないですか。微妙に〕
私は良識的だけど。
「やるじゃないの。でもこの技には反撃できない!栄えるフライブレス!」
「小判!?奥義、アイススイート!」
「よっと!」
ちっ、避けられたか。あの大量の小判を吐く技はマンブレスとかいう光線ほどの威力はなさそうだな。なんでこの技に反撃できないっていうんだ?
〔反撃しなかったらくれるとかじゃないですか?あ、私の分け前は四割でいいです〕
そんな理由で反撃しないわけないだろ!それに欲深い奴なら奪うだろ!あと、なに私が貰うこと前提なんだよ!
「あれあれー?反撃しちゃっていいのかねぇ?その小判、ちょっとでも傷がつくと価値が暴落しちゃうよ。常温以外の温度にも弱い。さあこれで手が出せないでしょ?」
「出せるに決まってるだろうが!奥義、アイスフルーティ!」
「え、嘘!?ぎゃああぁっ!」
ふむ、避けられると思って広範囲攻撃にしておいたが、要らない心配だったみたいだな。油断してると避ける動作もできないのか。
〔いや、でもまだあの子生きてますよ。やっちゃわないんですか?〕
殺すわけないだろ!物騒な!
〔ええー。戦場だったら逆にやられますよ。……じゃああの子は身も心も無防備ですよ。やっちゃわないんですか?〕
縛ってホラー映画でも見せつけるか?
〔えげつないなあ。ぶるぶる〕
「うぅ。く、くくくく。あたいは言っただろう?パンツを取り返す方法を。だがあんたは遅すぎた!さらばだ!」
「あっ!ちょ、ちょっと待て!」
「おっと。ふん、その上着だけはくれてやる!あんたとはまた戦いたいねぇ!じゃあねー!」
「ま、待て!あ、それと悪霊には注意しろ!」
ちくしょう逃げられた!逃げ際に上着だけは取り返せたが。くそ、完全に油断してた!
〔ふん、奪われると思ってパンツだけは懐に入れておいたが、要らない心配だったようね。油断すると倒したすぐあとに捕まえる動作もできないのか。……とか思ってるかもしれませんね。どこかの誰かさんのように〕
ま、まあいいさ。上着を羽織ってないと落ち着かないからな。これだけでも取り返せてよかったと思っておくか。
〔着ないんですか?正月明けで寒いのに水着マントとか頭おかしいと思うんですけど〕
うるさいなぁ!こっちのほうが動きやすいんだよっ!
「ようやく最初に入った出入り口か。な、長かった」
「ああ~、いい雪だったわ。あら、こんなところに水着仲間が」
「げ!お前は印納!」
〔誰です?知り合いみたいですけど水着仲間なんですか?〕
違う!……私の師匠が通う高校の先輩なんだが、なんていうか変な人なんだ。私はこの人苦手なんだよなー。ってか、この人は水着で外を歩いてたのか?やっぱり変な人だ。
「しかも水着マント?うんうん、高貴な変質者って感じでいいと思うわ!」
「私はそんなものになるつもりはない!」
「でも惜しいわねー。お供はもっと近くに置くべきよ。水着でいる苦労をちゃんと見せないと、変質者としての理解を得られないわよ」
この人の中で私は変質者確定なのか?それとお供ってこの憑いてる奴のことだよな。お前、遠くから取り憑いてるのか?
〔ぎく。あ、あんな変態のいうことを信じるつもりですか!〕
「それはもっともだな。さあ、そこを退くか凍らされるかどっちがいい?」
「両方よ!ここを退いて凍ってみせるわ!」
「そ、そう?なら通らせてもらう!アイスソード!」
「私の早売り技術を見るがいいわ!うおおおぉっ!」
うわ、私の飛ばした氷の剣が消えていく!い、一体なにをやってるのか全然見えないぞ!売ってるのか?誰に?どんな対応で?
「ふ。あなたの氷の剣は一つ百セル。二千セルがあなたの財布から私の手元に!」
「なにっ!?えっとー?げ、本当に減ってる!」
「そしてこれがあなたの買った商品よ!喰らえ!アイスソード!」
「く、そんな理不尽が通じるか!奥義、アイススイート!」
……よし!アイススイートで氷の剣ごと印納を凍らせることができた!あの人、相当理不尽だからすぐに復活するはず。さっさと神社に行くか。
「理不尽な私が凍るだけで終わると思ったの?」
「え?」
「あっはっはっは!私は氷の印納様よ!氷のように冷たくクールビューティな印納ちゃん復活!」
「その状態で動くか!?」
か、間接部分とかどうなってるんだろう?いや、そんなことはどうでもいい!く、凍らせる技が効かないとなるとどうしようもないぞ!
「おっと、勘違いしないで欲しいわ。私はこれ以上戦う気はない。どうせ通すのだから私との戦いは時間の無駄である。私のクールビューティな脳細胞がそう語っているわ」
「ば、ばかな!印納の思考がクールビューティな感じに!……脳細胞が凍死してるんじゃ?」
「ところで、水着マントで外へ行こうなんて正気の沙汰じゃないわね。どうかしたの?悪霊の封印を解く儀式かなにか?」
「悪霊だと?まさかなにか知ってるのか!?」
ここまで来る間に悪霊の話はほとんど聞かなかった、ってか聞く暇もなかったが。ついに悪霊に関する手がかりが手に入るのか。……情報提供者があてにならないけど。
「さっきドラゴンっぽい変態が言ってたわ。錬金術の霊魂がどうとか、黒く染めるのがどうとか、霊薬がどうとか。言葉の響きだけ聞くと、悪霊復活の薬を作ってるように聞こえなくもないと思ったの」
あいつか!うむむ、内容は専門用語が多くてよくわからない。でも、聞いた感じでは悪いことが起こりそうな気がする。やっぱり最悪の事態を考えておくべきか。
「あ、そうだ。あなたにもお土産をあげるわ。はい、コールドスリープ異次元タケノコ」
「な、なんだ?この禍々しい雰囲気のタケノコは?凍ってるようだが」
「ここに閉じ篭ってても暇だからね。先週くらいまで旅行してたのよ」
旅行?旅行だって?ここから出ると悪霊の呪いで死ぬはずじゃないのか!?いや、まあこの人は死ぬほうがレアケースかもしれないけど。それよりも小学生救出の手がかりになるかもしれない!
「おい!お前は外に出られたのか!?外に出てもなんともないのか!?」
「そうねぇ。普通なら到着するまでの移動中にまず死ぬわ。私は可愛いから生きてるけど。お、もしかしてなんか買ってきてほしいの?」
「いや、そうじゃなくて。今、この世界で起きてることを特星本部の奴に伝えてほしいんだ!頼む!問題を解決できそうな奴を呼んできてくれ!」
はっきりいって私には小学生を守れる手段がない!そもそも自体を伝えることすらできてない以上、この人に解決できる奴を呼んできてもらうしかない!
「おーけー。今この世界で起こってることを伝えればいいのよね?大丈夫大丈夫。正確に伝えておくわ」
「あ、ありがとう!」
なんかちょっと不安だな。いや、この人が苦手だからかもしれないけど。
「ついでに神社までの道をショートカットしてあげるわ。槍魔術で!」
「え、なんで槍魔術で?」
「だってー。今回使うタイミングがなかったんだもん!」
ま、まあ神社に着くのは早いほうがいいか。
到着!って、うお!や、やたらバランスの悪いところだな!
「な、なんですの!?う、げほげほ!」
「うわ!なんだお前!?」
下から女の子の声が!って、まさかここは人の上?なんで肩車されてるんだ私!?うわ、倒れる!
[がつーん!]
あ、危なく頭を打つところだった!って、下に居た子は?
〔あなたの首絞めと踏み付け、そして頭を打ったショックで気絶したようです。凄いですね、一撃必殺ですよ!〕
あ、お前ずっと静かだったけど居たのか。って、それどころじゃない!と、とりあえず寝かせておけそうな場所はないか?あ、あれは神社か?あそこに寝かせておくか。
〔悪霊への生贄となるわけですね〕
う。まあ、ここよりは安全だろう。多分。
うわー。ものの見事に壊れてるな。なんだあれ?怪物にでも襲われたのか?とりあえず、この子をどこかに寝かせておかないと。賽銭箱の上でいいか。
「あれ、マメはやられちゃったの?一流のくノ一にはまだまだ程遠いわね」
「だ、誰だ?」
「ふふ、私はあそこにある館の主!逸衣 刺間よ!って、うん?水着にマントだって?え、なに?変態?マメにはこれからなにかするの?」
あ、これはまずいな。いつもの勘違いされてしまうパターンだ。ここは誤解のないように正直に話しておくか。
「待て、私は怪しい者じゃない!ただ、ちょっと誤ってこの子の首を脚で絞めたり、頭を地面に叩きつけたりしてしまってな。休ませるついでに用事を片付けていこうと思ってここに来たんだ」
「脚で首を?ああ、なるほど!あなた、レスラーなのね?」
「うーん。まあ、戦いはするが」
どうしよう。正直、今の私の服装はかなり変わっているからな。むしろレスラーと間違えられたほうがいいような気がする。そういうことでいいか。
「それでレスラーが神社に何の用事なの?必勝祈願?」
「ちょっと悪霊退治に。いや、悪霊の復活阻止か?くノ一と悪霊のコンビがいるらしいんだが、その悪霊が完全復活すると大変なことになるらしい」
「くノ一はそこで寝てるわよ。新入りだけどね」
「そういえばマメって名前だっけ。そのくノ一」
マメといえば館の主の名前だったような。でもこいつはさっき自分が主だと言ってたな。うむむむむ?どちらかが嘘をついているのか?
まあどちらが悪霊であるにせよ、完全復活させなければ大したことはできないだろう。
「じゃあそうだな。猫っぽい奴と変態っぽいドラゴンはいなかったか?居たらそいつらに会わせて欲しいんだが」
「あら、それは残念。その二人は神社の地下に居るけど通すことはできないわ。黄金と引き換えに神社を貸しているのよね」
なるほど。神社の地下に悪霊が封印されてるのか。ありきたりだな。
〔私たちも黄金と引き換えに邪魔をしない約束でもしませんか?なにもせずにお金ががっぽがぽですよ!〕
バカ!小学生の命がかかってるんだぞ!
「親切なところ悪いがそいつらは放っておけなくてな。私も地下に邪魔させてもらうぞ!」
「ふん。レスラーの近距離技で私を捉えられるかしら?漆黒、黒念刻波刀波!」
く、闇の煙が出る光線か!ただでさえ暗くて見辛いってのに更に見えなくなった!ど、どこから攻撃してくるつもりだ?
「暗殺、黒静深淵霊歩一断狩!」
「うおっと!」
あ、危ないな!いつの間にか背後に近づいていたのか!
「なに!避けたですって!?」
「そこか!アイスボール!」
「いった!く、なんで私の技が避けれたの!?私の忍び足は完璧なはず!」
「斬ったあとに技名を言わなきゃ丸わかりだろ、バカ野郎め」
「な、なるほど!」
とはいえ、さっきの技は危なかったな。斬る前に技名を叫んだから避けれたものの、これからは気配で気付くしかなくなる。恐ろしい奴だ。
〔種明かししなきゃ相手は気付かなかったんじゃないですか?〕
いや、でもほら、今のうちに欠点を教えないとこれから伸びないかもしれないし。
「だがこの欠点は今度直す!喰らいなさい!暗殺、真悪根絶一刀飛来斬!」
「まあ技名を叫ぶ気持ちはよくわかるがな!奥義、アイスサークル!」
「あーれー!」
ふー。やっぱり上から狙いには打ち上げるような攻撃が一番だな。
〔どっちかといえば雨双を囲むような攻撃でしたね。打ち上げには成功しましたが〕
まあカウンター向きの技だし。にしてもあれだな。暗い。神社の地下を探すのも一苦労だな、これだと。
〔さっきの人を吹き飛ばしたのは失敗だったんじゃないですかー?〕
うむむむむ。って、おや?あっちから明かりが近づいてくるぞ。あ、あいつは!
「待てー!あたいの究極物質!ん?げ、あんたは!」
「久しぶりだな。いや、さっき会ったばかりか。さあ、私のパンツを返してもらおうか!……あとついでに松明を一本分けてくれるとうれしいんだが」
「いや、ちょっと退いてよ!時間泥棒は死刑にするよ!それにほら!あんたのパンツはあそこよ!」
〔ああ、あれですね〕
空の上か?うわ、なんだあれ。黒い霧か?だとしたら、なんかやたらうねうねしてる霧だな。なんであんな所に私のパンツが?
「あの霧の中に私のパンツがあるんだな?」
「そうじゃなくて。あの霧の一部があんたのパンツでできてんのよ」
「は?い、一体どんな風に使えばあんなになるんだ?まさか私の想像を絶するような変態なのか?」
「ああもう!あたいは急いでんのよ!ほら、パンツのお礼にこの松明あげるから!じゃあね!待て、究極物質ー!」
な、なんだかよくわからないが行ってしまったようだ。私のパンツはなんかもうどうしようもない状態みたいだな。諦めよう。
〔雨双のパンツって究極物質だったんですねー〕
そんなことはないと思うが。
「おや、氷女。お主も来ていたのか」
「あ、落ち猫ゲージ。おい、私のパンツが究極物質扱いされてるんだがどういうことだ?」
「我の人生は右肩上がりだぞ?まあ、我もそこまで詳しくはないが説明してやろう。師匠は凄いエネルギーの物質を作ろうとしていたようでな。それを作るのに人間の男女の脱いだパンツが必要だったのだ」
なんだ、じゃあ錬金術の材料として私のパンツを欲しがっていただけだったのか。ふん、大した使い道でもなさそうだな。
「それで完成したのが究極物質らしいのだ。師匠は究極物質から更に霊薬とかいうのを作ろうとしていたようだが」
「霊薬!まさかそれは悪霊を復活させる薬か?」
「さあ?まあ霊魂がどうとか言ってたからそうじゃないのか?我は怪盗として弟子入りしてるだけだからよくは知らない。ま、とにかくその究極物質が逃げ出したから追いかけているのだ」
〔凄い!雨双のパンツは生き物だったんですね!〕
き、気持ち悪いことをいうんじゃない。パンツ履くときに気分悪くなるだろ。
「生き物なのか?私のパンツは?」
「生き物ではないらしい。でも究極物質には心があるとかなんとか。師匠は真っ黒で邪悪な心だと言っていたな」
わ、私のパンツは邪悪なのか?何気にショックなんだが。
「師匠も行ったから我は部屋に戻るかな。スターたるもの体力を温存しなければ」
「お前の能力で追いかけてやればいいのに」
「いやぁ、あの物質は近づくと毛が逆立ってしまうのだ。じゃあそういうことで。……あ、そうだ。究極物質を作るときに変な奴が復活してしまってな。空間を繋げてここに運んでおくから話を聞いてやってくれ」
あれ、それって悪霊のことじゃ?もしかして霊薬とか関係なくて、究極物質のついでに復活してしまったとかそういう感じか!?だとしたらちょっと可哀想だ。
〔仮復活かもしれませんよ?そうだ!慰めに究極物質の材料でもプレゼントしては?〕
絶対やだ。
「よっしゃ!ついに俺は永い眠りから目覚めた!ついにあいつへの復讐のときがきたんだ!」
「お前が悪霊か?」
「うん?なんだこの子?ふむ、でもそうだな。お前の言うとおり。俺は復讐に飢えた悪霊だ!この日の為に数年間は修行し、ついにパワーアップを遂げて復活したんだ!」
思ってより明るそうな悪霊だなぁ。それにあんまり強くなさそうな気配が。い、いや、油断はしないでおくべきだ。相手は女子小学生を葬り去る外道!自分で悪霊って言ってたから間違いない!
〔雨双、彼が私の仕えていた闇の王です。彼の執念は間違いなく本物ですよ〕
え、そうなのか?なにか弱点みたいなものはわからないのか?
〔直接会ったことはありませんからねー。ただ、彼は特殊能力で魔法を扱います。またバランスのよくなんでもこなすので弱点はありません〕
純粋に打ち勝つしかないのか?ある意味面倒な奴だな。こんな万能な奴がどんな理由で人を恨むんだろう?
「その復讐心、私で試したらどうだ?本番前の予行練習にはもってこいだと思わないか?」
「え、別にお前で試す必要はないけど。うーん、まあいいだろう。俺は闇の王クレー!もし俺に勝てたら今日の晩飯をおごってやる!」
「ふん、私を倒せたらおごらせてやる!」
「ああそう。……喰らえ!フレイムボール!」
「よっと」
ふむ、今のが基本的な攻撃かな。すぐ出る技らしく、技の速さや大きさはそこそこ。癖がなさそうだからちょっと物足りない気分になるな。
「お前はきっとなにか物足りない攻撃だと思っているだろ?」
「ああ。まったくな!アイスソード!」
「ブリザードキューブ!いて!いてて!」
うん。技の撃ち合いでも私のほうが勝ってるな。威力は相殺し合うくらいには同じだが、私のほうが攻撃の弾数がちょっと多い。
「やるじゃないか。今までの俺なら負けてたかもな。だが!俺はこの数年でパワーアップした!俺の特殊能力は質系の魔法を操る能力。この能力に加えて、補助系の魔法を操る能力を得たのだ!」
「なんだと!?修行で特殊能力が増えたのか!?」
「いや、特星本部の特殊能力増加検定に受かった」
お、それは凄いな。聞いた話によると、最難関の筆記試験とそこそこの技能試験があるらしいが。もしかしてこいつ頭がいいのかも。
「とにかくだ!補助魔法を手に入れた俺は神社の地下に篭り、自分を追い詰めるために入り口を封印してもらった!そして地下で数々の技を考え出した!」
どうでもいいけど、長い語りだな。攻撃するべきか凄く迷う。
〔まあまあ。修行期間が長かったから自慢したいんでしょう〕
ってか、お前はあいつの知り合いだろ?声を掛けなくてもいいのか?
〔今はあなたに憑いていますからね。私の声は届きません。一度憑くとしばらく離れられないんです。本体に戻るとまたここに来るのが大変ですし。……それに飽きるほど同じ話を聞かされました〕
それはご愁傷様だ。
「だが、それでも俺は諦めなかった。そう!それもあの憎きバカを倒すため!そして俺の技は」
この悪霊、現時点では害もなさそうだから放っておくか。悪さするようなら改めてこよう。……こいつの復活記念にコールドスリープ異次元タケノコを置いていくか。
〔コールドスリープが解除されたら襲って来たりして〕
どんなタケノコだよ!
「タケノコビーム!」
[びー、どかーん!]
「な、なにがおこったんだ!?」
「なんなんですのよー!」
〔……ほら、後ろが大騒ぎになってますよ。神社のタケノコがコールドスリープから目覚めたんじゃ?〕
も、もう懲り懲りだ!頭がおかしくなる!私は帰るから勝手にやっててくれー!