二話 パニックチック年明け(羽双編)
@羽双視点@
はぁ、和室に和食に和服。衣食住が揃っていても、人物一人でここまで空気が変わる。やはり人付き合いは相手を選ぶべきですね。
「つまり!そういうわけで女子小学生の方が危ないんですよぉっ!」
「あー、はいはい。それで僕にどうしろっていうんですか、まったく。そもそもどうして僕のところに来るんですか。雑魚べーさんは顔が広いんだから、頼れる人くらい他に大勢いるでしょうが」
「探してる時間がないんですって!早くしないと雨双さんだって危ないですよぉっ!」
「大丈夫じゃないですかね」
あの人はなんていうか、やたら根に持つタイプですからね。やられてもやり返しに行くでしょう。何倍かにして。
「お願いしますよー!ほら、今日の私の晩ごはんです!和食を注文して持ってきました!これをあげますからなんとかしてくださいよぉっ!」
「僕の食べてるものが見えてます?同じものですよ」
「なら、現代のくノ一が実際に使った手裏剣!これをあげます!」
「む。………………ふむ」
紐で繋がれている手裏剣のようですね。そしてこっちにはスイッチ。なるほど、現代のくノ一はこういうのを使ってるんですか。ちょっと欲しい。……なぜか変な服にくっついてますが。
「まだまだ!この伝説の和服コート!超レア商品のこれもプレゼントしちゃいますよぉっ!」
「むぅ。確かにこれは素晴らしい和服コートですね。……仕方ありません、その三つで手を打ちましょう」
「え、和食も?」
そうと決まればさっそく向かうとしましょうか。丁度食事も終わりましたからね。……ただ、その前に一つやっておかなければ。
「その件は引き受けます。ただ、僕の食事の邪魔をしたことは許せませんね。覚悟してください」
「ええぇ!?う、女子小学生の方々の為です!いつでもいいですよぉっ!」
[どがあああああぁん!]
……ああ、手加減してみね打ちしたのに消滅しましたか。まあ経験上、この人は大丈夫でしょう。大丈夫じゃなくても魅異さんがどうにかしますし。
「それで?僕はどうすればいいんですか?」
「復活ですよー!いやはや、強いですねぇ。えっと、悪霊を倒してほしいんですが」
悪霊?さっきは話を聞き流してたから、どういう状況なのかよくわかりませんね。ただ、霊の類はあまり相性がよくない。倒すのは厳しいかもしれません。
「すみません。霊の類を倒すのは無理かもしれません。実体化していれば倒せそうですが。その辺のことはなにかわかりますか?」
「ええっ?実体化ですか。どうでしょうかねぇ?」
「なんでしたっけ。確か女子小学生が襲われて危険でどうとか。あと、閉じ込められて出られなかったとかも聞きましたね、さっき。まるでホラーです」
「そうなんですよねぇ。でも、特殊能力が使えなくなるのが一番大変なんです。あれがなければ、小学生の方たちも自己防衛ができるんですけどねぇ」
「え?特殊能力が?ふむ。時止」
……時間はちゃんと止まってるようですね。まあ女子小学生が危険ということですから、対象や範囲が決まっているのかもしれません。
「時動。では、特殊能力を使えるようにすればいいですか?」
「え?ええ、まあ。それなら各自で自己防衛ができるでしょうけど。方法がわからないんですよねぇ。あ、でも悟さんならなにか知っているかもしれませんよぉっ!」
「場所はわかりますか?」
「あのエリアの一番豪華そうな部屋に居ると思いますけど。食事の時間ですし。……多分、あの部屋ですねぇ」
「ふーん。近いですね」
あの位置なら時間を止めるまでもない。さっさと向かいますか。
[がしゃああぁん!]
「な、なんだ!?襲撃か!?」
「やあ、悟さん。ご機嫌いかがですか?」
「うわ!ぱ、羽双!ご、ご機嫌?機嫌は超不機嫌になったけど。まさか俺に用があるのか?ひえー」
和室ではありませんが、結構な部屋を選んだようですね。……よく考えたら他の部屋にまず入るべきだったかもしれません。窓を割られて機嫌のいい人も珍しいですし。
「いきなりすみません。ちょっとお尋ねしたいことがありましてね。少し急いでいるんですが。……お時間よろしいですか?」
「ああ、うん、全然おーけーだ!急ぎみたいだからな!早く聞いて、急いで用を済ませてくるといい!」
おや、意外とすんなり話を聞いてくれますね。やはり人は言動では判断できません。普段は頼りなさそうでも、いざって時には役に立つものです。
「聞きたいことは一つ。特殊能力を封じているなにかについてご存知ありませんか?」
「え、もしかして神社周辺で特殊能力が使えなくなるやつか?」
「神社周辺?へー、神社周辺ですか。ええ、それだと思います。その使えなくなる状態、なんとか対処できませんか?」
「ああ、あれなー。多分、神社の奴らが原因だろうな。なんでも、この屋敷で殺人劇を再現するのが目的らしい。神社周辺でテスト運用してるんだろ」
「ふーん。物騒な話ですね」
思ってたよりは話が大きそうですねー。ま、僕には関係のない話ですが。ただ、特星で殺人となるとよほどの強さでしょう。雨双さんあたりにも一言、意味ありげなでたらめを言って警戒させておきますか。
「神社っていうのはこの近くの神社のことですよね?」
「ああ。そこの神社にでも仕掛けがあるんじゃないか?あいつら機械仕掛けの武器だったし、機械で封じててもおかしくはないだろ。……あー、それと特殊能力封じも神社内とか言ってような」
なるほど。まあその予想通りなら話は早いですね。気は進みませんが、神社を消せば済む話です。
「その人たちは複数犯ですか?まあ邪魔はさせませんが」
「あ、あぁ。俺が見たのは二人だな。片方は会えばわかると思うが。……あ。そういえばもう片方がくノ一だったぞ」
「そうなんですか?ほう、それは興味深い話ですね」
まさかくノ一が殺人側にいるとは。暗殺とかもやってるんでしょうか。ふむ、是非とも手合わせ願いたいものです。
「あ、質問が多くなりましたね。じゃあ始めましょうか」
「え?なにを?」
「勝負ですよ、勝負」
「はぁ!?な、なんで!?俺がなにをした!」
あれ?話ではもっと好戦的だと聞いていたんですが。今日は気乗りしないみたいですね。まあ、でも折角だからなにかしておきたいところ。
「まあまあ。技を見せて欲しいだけですから。こっちから攻撃はしないので疲れることはありませんよ。さあどうぞ」
確かこの人は特殊能力の才能があったはず。参考程度にみていきましょう。
「そ、そうか?なら、どれだけ耐えられるか試してやる!ハエ叩きアタック!」
[きぃん!]
「う、刀か!でも攻撃できなきゃ怖くはない!主人公タックル!」
[ひらり]
ふむふむ、動きは悪くなさそうです。不意打ちで使えばどちらの技も結構当たるでしょうね。ハエ叩きのほうがリーチ分決まりやすいかもしれません。
「ハエ叩きあげ!そしてとっておき!コート魔術・移動!」
[きぃん!]
む?悟さんの姿が見当たらない?いや、後ろの上!
「喰らえ!エクサバースト!」
「やりますね。それっ」
「げ!殴って受け流した!?」
……ふー、少し焦りました。ただ、他の人のエクサバーストより威力が低かったですね。今のは恐らく武器での技、きっと燃料でも足りなかったんでしょう。
「ひえー、今のは自信があったんでけどなぁ。よし、降参するか」
「あれ、特殊能力は使わないんですか?」
そもそも僕は特殊能力を参考にしたかったのですが。ハンデが大きすぎましたかね?やる気を削いでしまうほどに。
「いや、そのなぁ。今は特殊能力を使わないようにしてるんだ」
「それはなんというか、悟さんらしくもない。よければ理由を聞きたいのですが」
「特殊能力に頼りすぎって神社の奴に言われたんだよ。忍者じゃないほうに。特殊能力を進化させる能力を身につけろって」
ふむ、確かにそのほうが効果的な場合も多いでしょうが。さっきの悟さんの動きなら、むしろ特殊能力をどんどん使ったほうがいいはず。
「そうですか。では僕からアドバイスを一つ。悟さんは特殊能力を使ったほうがいいですよ」
「え?そうなのか?」
「まあ、宇宙を割るレベルになるならその方が手っ取り早いです。好きな方法で戦っていれば、限界突破なんてすぐできますからね。……まあ、変人レベルになれるかどうかはわかりませんが」
「……もうそれは変人だろ」
「なにか?」
「ああ、いや別に」
さてと。予想より話し込んでしまいました。神社はやや遠いですから時間を止めて行きましょうか。厄介な人に遭遇するのも嫌ですし。
「あなたが時間を止めた犯人のようねぇ。あなたのせいでタンシュク観察が進まないわ!どうしてくれるのよぉっ!」
む、いきなり厄介そうな人が。知り合いでなくても意外といるものですね。時間停止の影響を受けない人。……時間が伸びたなら、短縮しない観察をすればいいかと思います。
「あなたは?」
「私はセーナ サイドショット!ふっふっふ、時間を止めたようだけど私には通じないわ!私の危険と安全を操る能力で、特殊能力を受けなくなる技がある!あなたが攻撃系の能力を使おうが一切のダメージを受けないのよぉっ!さあ、自分の無力さを嘆きながら朽ちて」
[どがあああぁん!]
「あーれー!」
[きらーん]
「単なる能力ですか。なら殴れば早い」
手加減したから、少しすれば落ちてくるでしょうね。ま、この暗い世界で星が光ったんです。屋根の修理代くらい大目に見てもらえるでしょう。
「よく来たな、羽双!待ってたぞ!」
「悟さん?いえ、黒悟さんですね」
うむむ、これはまた厄介な人が現れましたね。そういえば、このお屋敷には変人が集められてましたね。基準が甘そうではありましたが。
「知ってのとおり、夢に溢れる俺に時間停止は効かない!それより、さっきはよくもツッコミ役相手に手加減したな!ハンデをやりすぎだ!」
「手加減したから仕返しに来たと?」
「そんな幼稚な理由で来るわけないだろ。時間停止するほど忙しそうだったから、邪魔してやろうと思っただけだ!」
[ぐさっ]
おっと。反射的に刺してしまいました。しかしまあ、この人も暇な人ですね。こういう人を避ける為に時間を止めたというのに、これじゃあ意味がありませんよ。
「頭を狙うなんて酷い奴ー。ま、俺には通じないけどな。変幻夢の魔神!」
む、刀がすり抜けた。霊みたいなものですか。
〔この技によって俺の体は幻の夢へと変化した!この夢はいわゆる幻影!つまりお前の攻撃手段は通じないというわけだ!〕
この手の相手はどうにも対処がしにくいんですがね。僕の邪魔をできるというなら相手をするしかないでしょう。
「時動。そして時止。……これで黒悟さんの周りは時間停止の壁に囲まれました。あなた自身に時間停止は通じないようです。しかし、周りの時間を止めてしまえばどうでしょう?回りの止まった時間を動かす力があなたにありますか?」
まあ、時間停止の壁に囲まれているなら聞こえないでしょう。さて、どう出るのか。それとも出られないのか。
〔余裕で脱出!そして水圧圧縮砲だー!〕
「それ。なるほど、あなたも使えましたか」
〔普通にはじくなよー。自信なくすじゃんか〕
「濡れたくありませんからね。さて、では倒せそうにないので僕はもう行きます。修理と説明はお願いしますね。神離流技、地崩し!」
[ずがあああぁん!]
よし、綺麗にお屋敷全体を崩せました。神社は無事のようですから向かうとしましょう。にしても、神離流技をなんとなく使ってしまいましたね。やっぱり神離流技の部分が長い。一応、魅異さんの弟子ですから、もっと宣伝するべきでしょうが。……面倒だから別にいいか。
お屋敷の明かりが消えたから本当に暗いですね。いつもなら、この辺りはまだ明るいはずですが。屋敷を崩したのは失敗だったかもしれません。
「おっと!印納ちゃん、時間を止める不届き者と遭遇しちゃったわ!旅行帰りに!さあ、どうなるのかしら!?時間を止めて私をどうしようっていうつもりかしらー!?」
く、また面倒な人物が。もしかして時間止めてるほうが面倒なことになるんじゃ?この後は時間を止めないようにしましょうか。
「しかも!屋敷をなんとなく崩して他人に後始末を押し付ける極悪人!印納ちゃん、屋敷のように木っ端微塵にされるかもしれないわ!頑張れ私!あ、そうだ。これ、お土産の異次元タケノコね。異次元レーザーとかを発射できるわ」
「すみません、僕は急いでいるので通してください」
「えー。通るってのは自分でするものよ。私に頼まれても困るわねー。それにここは私の土地じゃないから邪魔するのも気が引けるわ」
「そうですか?なら通りますよ」
[ずぼっ]
「あら!なんとこんなところに印納ちゃん印の国旗があるわね!つまりこの世界は私の土地!邪魔をするのも私の自由!さあ、この地に刺さった国旗を理由に妨害するわよ!」
「ちっ、やっぱり邪魔しますか。それ!」
[きぃん!]
う、この国旗はかなり丈夫なようですね。今のは星を割るくらいの威力はあったはずですが。吹っ飛ばないから吸収されてる可能性もありそうです。
「さすがは魅異さんの先輩。よくわからない強さです」
「ふふふ!私の強さに魅異は関係ないわよ!そう、私自身の魅力!そして友達との絆!周りの人々の支え!これが強さの秘訣なのよ!」
「うわ。後ろ二つは印納さんには似合いませんよ」
「魅力パワー!うふー!」
ええまあ、ある種の魅力は持っているかもしれませんね。少なくとも僕は近寄りがたいですが。
「さあ!私の魅力が世界を覆うわ!槍魔術、ミラクルパラソル!」
「水!?……あれ?なんだ、息ができるじゃないですか」
急に水で埋め尽くすとは。確かに水の中にいるようですが、息ができますし声も変わってませんね。水というよりは無重力に近いような気がします。
「私の水中ダンスで感動しなさい!って、水着がないわ!」
「ならこれでどうですか?そーれ」
[ずがあぁん!]
よし、旗の刺さった部分を地面から切り取れた。印納さんがこれで邪魔しなければ進めます。ついでに斬ってみましたが傷一つありませんね。水中とはいえ誤差のはずですし、やっぱり強いですね。
「あら、お見事!今、さり気なく斬られたけどまあそれはいいや。はい、お土産。じゃあねー」
水位が戻りましたか。……謎のタケノコ、どうしましょう。
「お屋敷の破壊にさっきの水没。そんな真似ができる人数は限られてくる。そして馬鹿兄にはそれができるわけだ。そうだろう?」
時間を止めなかったからか雨双さんと出会えましたね。ちょっと用もあったし丁度いい。なにか勘違いしていて面倒ではありますが。
「似たようなことはできますね」
というか、お屋敷は僕がやったんでしたっけ。まあ面倒なことだから別にいいか。
「はぁ。まあ噂になってる物騒な奴が馬鹿兄ってことはないか。面倒なことはしなさそうだし」
「あー、悪霊のことですね」
「え?悪霊?神社で特殊能力を封じるとかいう奴のことだぞ?」
「ええ。……ああ、うーん」
どうしましょう。雨双さんに説明するのが凄く面倒です。ここは知らないふりでも適当にしておきましょうかね。
「すみません、思い違いでした」
「嘘つけ。どうせなにか面倒なだけだろ。勝負して聞き出してやる!アイスニードル!」
「おっと。ふん、意外と勘が鋭いですね。まあそれなりに強ければ教えてあげてもいいですよ」
どのみち、雨双さんの特殊能力は見るつもりだったんだ。今ここで見るのもいいでしょう。
「それなりで済むと思わないことだ!アイスボール!」
「丁度いいサイズです」
[ずばばばん!]
「ほら、メロンの彫刻ができましたよ。茎がポイント高いです」
後でタケノコと一緒に戦敗品としてプレゼントしましょう。
「く、馬鹿にするな!奥義、アイススイート!」
「む。……ええ、中々の技ですね」
[ばりぃーん!]
冷凍光線そのものの威力もいいですが、自然と氷に閉じ込めるところが強いですね。足止めできれば追撃なり距離をとるなりできるでしょうし。
「おい!お前、今のはわざと受けただろ!」
「僕は忙しいんです。知ってることを教えますからこのくらいで勘弁してください」
「え、忙しい?馬鹿兄が?ふーん、そうか。私としては聞くこと答えてくれれば別にいいけど、なんていうか物凄く意外だ」
なんでしょう。この人には僕がいつも暇してるようにでも見えているんでしょうか?予定のない時間が余りあるだけでしかないというのに。
「それで特殊能力を封じる奴ってどんな奴なんだ?私はこれから倒しに行こうと思ってたんだが」
「ああ、だからこんなところに。えっと、確か二人組で悪霊とくノ一らしいです。女子小学生を襲っていて、屋敷で殺人がどうとかって聞きました。特殊能力を封じるとか。神社でそのための実験をしてるとか。あと閉じ込められるとも」
「えええぇ!?わ、私の予想とかなり違う。そもそも神社で戦ったって奴から聞いたんだぞ。閉じ込められてはないだろ」
「僕に言われましてもね」
正直、くノ一と会えれば僕は満足ですし。それによっぽど死なないような人のほうが多い気がしますからね。
「もしかしてこの闇の世界のことを言ってるのか?閉じ込められるってやつ。確かに閉じ込められてる感じはするが」
どうでしょう?ああでも、適当に脚色するつもりだったから丁度いいか。これを使いましょう。
「あー、そうかもしれませんね。ええ、恐らくこの世界を抜け出すと死ぬのでしょう。相手は特星で人を殺せる悪霊です。この世界から抜け出すと死ぬ呪いをかけていても不思議ではありません」
「な、なるほど」
「まあとにかくそういうわけです。他の女子小学生の身を案じるなら、お屋敷で悪霊を待っていた方がいいと思いますよ。団結すれば特殊能力がなくても強いでしょうし。あ、ほら、いつの間にかお屋敷が直ってます」
どうやら勝負をしてる間に修復が終わったようですね。
「そうするか。じゃあ私は戻るから」
「ええ」
さて、神社まではもうすぐですね。
あ、タケノコと氷のメロンを渡し忘れてた。……まあいいか。氷はその辺に飾っておきましょう。タケノコは、埋めておきますか。
ここですね。この神社に例のくノ一がいるのでしょう。……ただ、そもそもこれは神社なのだろうか?前見たときは神社と気付かずスルーしてましたよ。おかげで初詣もできませんでしたし。
「さて。そこの影でこそこそしている人。ちょっと聞きたいことがあるんですが」
「ぎくっ!ああもう!ちょっとしか読めませんでしたわ!そう!私がマメ カーテンレースですわよ!もう、なんでこんな時期外れに初詣に来るのかしら?しかも意外と鋭い感性ですし」
おや、なんだか不機嫌そうな感じですね。この子がくノ一?どっかで会った気がしますね。どこであったんでしたっけ?
「で、あなたもパーティを止めに来たのかしら?」
「その前に一つ。あなたはくノ一ですか?」
「へ?…………ああ、気付いてましたのね。ええ、確かに。前にあなたに会った私はくノ一でしたわね。うふふ」
前に会った?……ああ!そうだ。確かお屋敷の入り口で会った門番、こんな感じの子供でしたね。力を見たいって言っていた。……確かあの時、お屋敷の主とか言ってましたが、本物の主を守るための嘘でしょう。本物の主が門番をするとは思えませんし。
「過去形ということはやはり?」
くノ一を辞めた?屋敷の入り口で軽く痛めつけたときはいい動きしてましたけどね。少なくともくノ一の才能はありそうでした。
「ええ、そうですわ。入り口で会ったのはくノ一。しかし、今ここに居る私はお屋敷の主!これがどういう意味か、あなたは既にお気づきのようですわね。見事ですわ」
やはりくノ一から転職したようですね、お屋敷の主に。反乱とか下克上でもしたのか。……どうにかくノ一に戻るように説得できないでしょうか?いや、そもそものお屋敷の主が戻ってくればいいだけのこと。そしてこの人にくノ一の楽しさを思い出させればいい。
「えっと、和服の人ですからー。そう、あなたは神離流技とかいう技が使えるんでしたかしら?それでー、その。…………えー。まあ、あれですわ!特殊能力なしでは全然戦えないって感じですわね!そう、あなたは特殊能力に頼りすぎですわよ!」
「む。さすがに手厳しいですね」
まあ、今回は特殊能力を使っても苦戦することが多かったですからね。能力なしで戦えないと判断も妥当です。くノ一から見ればなおさらでしょう。
「特殊能力には限界がありますわ。あなたの特殊能力は十分に強い。特殊能力で応用できるように、他の能力を鍛えてはどう?」
「おや、そこは補足が足りませんよ。特殊能力が得意な人はちょっとした限界なんて越えますよ」
「あら。ならみせてもらえますか?この特殊能力を封じるフィールドで使えるものなら!氷造、コールドドーム!」
へえ、氷ですか。どうやらいくつも特殊能力を持っているようですね。ドームってことは周りも囲まれてる可能性もありますか。
にしても、この氷の床は薄そうですね。マメさんは特殊能力が得意ではなさそうです。少なくとも氷を主力にしても大して強くはないでしょう。
「見せてみろですか。僕は特殊能力があまり得意ではありません。ですが、そのうちきっと来ますよ。あなたと同じく氷を操る人が。もっともその人は特殊能力は強いでしょうがね。それ!」
[ずがががががぁっ!ばごおおぉん!]
「あああぁっ!じ、神社が粉々に!なな、なんてことをしますのよ!?あれは借り物ですのよ!ああ、あれだと特殊能力封印装置も粉々にですわ、しくしく」
「あ、すみません。ちょっと頼まれてましてね」
とりあえずこれで雑魚べーさんの頼みは解決しました。あとは前の屋敷の主人を連れ戻し、マメさんがくノ一に復職すれば解決です。
[ばりばりばりーん!ひゅー]
「おっと」
[ずばーん!がしゃあああぁん!]
「きゃああああぁっ!」
ふー。まさか氷ドームの天井が落ちてくるとは。まあ当たっても大丈夫ですけど。ところでマメさんは大丈夫でしょうか?
「うぐぐぐぐぅ!ひ、酷い目に遭いましたわ!もう絶対にあなただけは許しませんわよぉ!どんな条件が来ても必ず倒しますわ!攻略、ビクトリティロード!」
「さっきのドーム、薄そうでしたが」
「お黙りあれ!……ビクトリーロードは相手に楽に勝つ手段を一つ知ることができる!これであなたもおしまいですわよ!ええっと、この人を倒すのは無理?和風のものを献上して和解せよ?ほ、本当にやってられませんわ!」
実際はそんなことはないでしょうが。まあ楽に勝たれるのは嫌ですね。
「もう。今日は災難ですわ。降参しますわよ、降参」
「そうですか。ところで頼みがあります」
「なにですの?」
「お屋敷の主を辞めて、くノ一をやってほしいのですが」
「はあ!?な、なんで私がくノ一をしなくてはなりませんの!?私はお屋敷の主ですわよ!」
まあ、嫌がりますよね。立場的には主なんて呼ばれるほうが上でしょうし。でも、マメさんは前に戦ったときはかなりくノ一の才能がありそうでした。そして今回も、前ほどではありませんがくノ一の才能が感じられた。放っておくには惜しいです。
「あなたはくノ一に向いています。……そうですね。それっ」
[ばごおおおおおぉん!]
「きゃあぁっ!?じ、地面が!地面が割れましたわ!」
「ええ、割りました。僕は力技は得意でしてね。気の向くままに力を強くしてたら星を割れていたのです。あなたはくノ一が向いています。だからくノ一を続けていれば異例な程強くなれますよ、きっと」
「ひええぇ!わ、わわ、わかりましたわよ!なればいいんでしょう!?なりますから早くどっかへ行ってくださいませ!」
「そうですか?ありがとうございます。……そうだ。今、くノ一をやってる人はどこですか?」
くノ一のマメさんがお屋敷の主になったということは、逆に元主の人がくノ一をやっている可能性がありますからね。
「へ?会っていませんの?……あ、そうでしたわ!お屋敷が急に壊れたから、修理の手伝いに向かわせましたのよ!最近雇ったくノ一を!」
ふむ、最近ですか。やはりその人がお屋敷の主である可能性が高そうですね。
雨双さんと戦った後にはもうお屋敷は直っていました。つまり神社とお屋敷の道でなら遭遇できるかもしれません。む、今のは。
「そこの木の上ですね。気付いてますよ」
「げ、その声は!く!」
「時止。よっと」
まったく。急に逃げ出すなんて失礼な人ですね。あれ?でもこの女の子とは初対面だったような。暗くてよく見えないので断定はできませんが。
「時動。どうも」
「わああぁ!?きゃー!」
[どさっ]
あ、落ちた。初対面らしき人に怖がられるのは初めてですね。ああ、でも真っ暗なのか。この子は子供みたいですからね。お化けとかが怖い子供なのかもしれません。……あれ?でもマメさんがくノ一だったから、この子が悪霊?まあどうでもいいけど。
「よいしょ。大丈夫ですか?」
「ひええぇ!ど、どうしてあんたがここに!?」
「落ち着いてください。僕よりきっとあなたのほうが怖いですから」
「失礼ね!そんなわけないでしょ!あ、でもくノ一は怖いものなのかしら?」
どうやらこの人で間違いはなさそうですね。それにしてもさっきの飛び方、この人もくノ一に向いてそうでしたね。着地は下手でしたが。
「ええっと、それで私になにか用なの?」
「どうして後ろに下がってるんです?まあいいや。実はあなたにはお屋敷に戻って欲しいのですが」
「え?戻るならやっぱりあっちじゃない」
「お屋敷の主になってほしいのですが」
「へ?え?えええ!?私が!?な、なんで!?」
そういえば、どうしてこの人は主を辞めたんでしょう?マメさんが乗っ取ったと僕は思ってましたが。まあ、尋ねると長そうですし、興味もないのでスルーでいいか。
「お願いします。僕としては自主的に主になってくれると非常に助かるんですよ。説得の手間も省けますし」
それにあまり子供を倒すと雨双さんがうるさいですからね。厄介事は避けるに限る。
「あ、いや、私はいいけどさ。マメ様、つまり今のお屋敷の主はどうするのよ?多分聞かないわよ。言っとくけど乗っ取るなんてのは嫌よ、面倒だし」
「大丈夫です。既に話し合いで説得しておきました」
「マジで!?ほ、本当かしら?うーん、じゃあ聞くだけ聞いてるか。マメ様、やられ役ばっかり押し付けるし。こんな境遇とはお別れしてやるわ」
どうやらくノ一の大変さがわかったようですね。これならいい主になれるでしょう。
「まあ、なにか困ったことがあれば僕に言ってください。力になってあげますから」
「え?じゃ、邪魔者は殴り飛ばすってこと?」
「うん?まあ、状況次第ではそうなるかもしれませんね」
「あ、いや、大丈夫!私の手に掛かれば邪魔者なんかでないから!あなたの助けなんて要らないわ!」
ふむ、まあ本来の主ですからね。自信やプライドというものがあるのでしょう。僕が手を貸すまでもなさそうです。
「では近い内にまた神社にお邪魔しますね」
「ええええぇ!?な、なんで来るのよ!?」
「いえ、マメさんがどんなくノ一振りなのかをみておこうと思いましてね。ちゃんとできてないようならどうしましょうか」
やはりやる気を出させるには報酬がいいでしょうね。武器?でも雑魚べーさんが見せてくれたくノ一の手裏剣。あれは機械とかが付いていましたからね。あまり僕では良し悪しがわかりませんし。
「マメ様がくノ一をするの!?しかもちゃんとって。………………えっと、二ヶ月は待ってもらうわ!」
「はい?」
「そう、私が主になったらリニューアルオープンするから!二ヶ月後まで、あなたは絶対神社に近づかないでよ!」
二ヶ月ですか。なぜそんなに時間が?……ああ、殺人をするって話でしたね、確か。まあそれに関しては僕の出る幕はありませんからね。他の方に任せましょう。面倒ですし。
「わかりました。では二ヶ月間はお屋敷の和室に篭るとしましょう。くノ一に関することで用があるなら、適当に探してください。ある程度の協力はしますよ。他の面倒事は協力できませんが」
「わ、わかったわ。さよならー」
さて、雑魚べーさんから報酬を貰いましょうか。和食の鮮度が落ちてなければいいのですが。