十八話 多くを惑わせる、ささやかで甚大な違い
@悟視点@
涼やかな風で心に哀愁を感じるこの秋の季節。俺の心情もそんな悲しさに打ちひしがれてしまう。……いや、やっぱ腹立たしい!季節三つは飛ばして夏になるくらい腹立たしい!
〔よく自然とそんなセリフが思いつくもんだな。それも週一以上のペースで〕
えー、悟ンジャーではお決まりだっただろ。テレビでやれるお前ほど凄くはないさ。いや、それよりどうしたもんかねー。まさか水鉄砲一つ買えないとは。
「ふふふふ!まさか貴様が六十セルすら持ってないとは驚いた!猫の我ですら水鉄砲くらいは買えるというのに!冷やかしか?冷やかしだろう?いいぞいいぞ、我は心が広いからな。そのくらいは見逃してやろう。さぁ、いつまでも六十セルのの水鉄砲を指を咥えて眺めているがいいさ!」
「うるせー!買う方法考えてるんだから黙ってろ!あと一人称が昨日と違う!」
もー、何でこんな猫にバイトをさせるかなぁ。勇者社もよっぽど人手不足なんだろうか。くそぅ、キャッシュカードさえあれば水鉄砲なんて百個でも千個でも余裕なのに!
〔百億セルともなると不機嫌だな〕
「ふっ、我は猫のスターだからな。常にファンの憧れの存在でなければならない。そう、昨日我を連れ去ったあの外道幽霊!寛大な我は奴の要望に応じて、一人称を変えてやったのだ!」
「そんなことはどうでもいい!それより千倍にして返すから水鉄砲一つ寄越せ!」
「むか。自分から聞いといて生意気な奴だ。自分の立場を分かってない。お前のキャッシュカード、我の力で遠い異空間に飛ばし去ってやろうか?」
ふん、俺でさえ部屋がお菓子化したせいでキャッシュカードの場所が分からんのに、こんな猫みたいな奴に見つけられるわけがない!
〔ツッコミ役、そいつは特殊能力で空間を操れるんだが、寮くらいなら丸ごと別空間に送れるような奴だぞ。能力的にも性格的にも〕
「…………まあいいか。バイトしてもう一回来よう」
「ふ、その必要はないぞ。そんなことしても水鉄砲は買えぬ」
「買えない?どういうことだ?」
「気付かんか?周りに我以外の店員が居ないことに。今日は銃の販売禁止日となった!この周囲の店は既に我々の手に落ちている!貴様は大人しく家に帰って寝ているが良い!」
げ、こいつ俺の敵か!しかも手間のかかる工作をして。……帰って寝てろってことは何か企んでるってことか?これは邪魔するしかないな!
〔ま、主人公として当然だよな〕
「この猫め、目的とかさっぱりだが覚悟してもらおうか!」
「くくく、愚か者め。貴様に我を攻撃をすることはできん!欲深い貴様は安全祈願のお菓子を食べたからな。戦いたくても戦えないのだ。ははははは!」
〔今日も能力で調べたが、とっくに効果は切れてるな〕
効果を完全に把握してないってことはこいつの能力じゃないってことか。じゃああんまり情報はなさそうだな、よいしょっと。
「え、何で我の首を掴んで持ち上げる?……いやいや、我と戦うことはできん。きっとこの後高い高いでもしてくれるのだろう。なあ?」
「そりゃああ!」
[がしゃあああぁん!]
「にゃああぁっ!」
うんうん、小さいから軽くて投げやすいな。……さて、水鉄砲が買えないなら仕方がない。試食品売り場にでもいくか。
[どさっ]
「いたた、お尻から落ちた。……ふ、我の能力は空間を操る能力!窓から投げられても簡単に」
「もう一丁!」
[がしゃああぁん!]
………………よし、もう諦めたようだな。改めて試食品コーナーへレッツゴー!その後は烈の部屋に殴り込みだ!
〔武器が無くてもたくましいなー〕
「よく来たな、悟!待ってたぜ!」
「知ってるよ。俺がさっき勇者社行くときにも会っただろうが」
こいつと戦う前に武器が欲しかったから後に回したけど、もしかして俺が部屋を出てからずっと待ってたのか?外で?暇だなー。
「で、何で待ってたんだ?烈は敵側だろ?」
「バカだなー!サプライズしたらネタばらしもしたいに決まってるだろ!だが当然ただじゃ教える気はねーぜ!さあ悟、事件の真相を知りたければ俺を倒すことだ!」
「ふん、俺の被害額候補も知らないくせに!烈、お前には新武器の実験台になってもらう!」
「……ちくわだと!な、何か妙に不恰好だな。ま、まさか幻覚を見せるほどのちくわか!すげー!」
いや、幻覚って。こいつは本当にどういう思考をしてるんだろうか。
〔ちくわを武器にするのもどうかと思う〕
「いいか?これは試食品売り場の刻みちくわを輪ゴム一つで修復した特別製だ。これを吹き矢の本体とすることで魔法弾を撃てるんだ。すげーだろ!」
「すげー!すげー!悟、お前天才じゃんか!」
〔ストローあったからそっちでもよかったんじゃないか?〕
何も物を買わないでストローを持ち帰るなんて非常識だろう?ちくわであれば試食品だからまだ言い訳もできるってもんだ。ちゃんと口に入れて持ち出したし。
〔どっちもどっちなような。……まあ勇者社だしいいか〕
「とにかく覚悟!水圧圧縮砲!うわっ、危なっ!」
足に当たるところだった!く、予想以上に使いにくいな!これだと銃の時みたいに上手く当てれないんじゃないか?
「とお!食らえ悟!」
「いって!う、浮いただって!」
「ふはは、忘れたか!俺は水に浮くことができる!悟、お前の魔法弾の水滴に乗って回し蹴りをしたのさ!」
水滴に乗れるのか?こいつなら雨の日とかに雲の上まで歩きそうだな。……にしても攻撃が当てれないなんて面倒だ。ていうかちくわいらねぇ!食っちゃおう。
「お、武器を食べるなんて腹が減ったか!あ、違う、美味そう!じゃなくて、負けると分かって諦めたか!」
「うめー。……さて、烈!お前はずっと外で待っていたと言ってたな!」
「ああ!百歩たりともこの場を動いていないぜ!」
「お前は三回ある食事の一回を抜いた!つまりお前は一日のエネルギーの三分の一を補給できてないから、通常の三分の二の力しか出せない!」
「何!えーっと、三分の一だからー。く、悟の計算があってるだと!そういえば普段より力が出ないような気がするぜ!」
くくくく、引っ掛かったな!やっぱり催眠術を克服してなかったか!今の眠そうな烈なら十中八九は催眠術にかかると思ってたぜ!
「三分の一?違うなぁ。お前は今日の昼食や夕食を食べてない!つまり今のお前は立つ力さえ残っていないパワー無しの状態だ!」
「がーん!そういえば足がもう限界だ!ぐ、ぐふぅ!」
はっはっは!主人公の力を見くびるからこうなるんだ!
〔ある意味、烈も凄い能力だけどな〕
「烈、パワーが無くても気絶はしないもんだぞ。それに口も利けるはずだ」
「は!そういえばそうだったぜ!」
うーん、いつも思うがワザとじゃないよな?どうにもこいつほど暗示に掛かりやすいと演技でもしてるような気がしてくる。
「で、サプライズが何だって?」
「はっはっは!昨日、特星中が乙女な感じになったって言っただろ?あれは嘘だったんだ!……だ、だがな!嘘だったはずだが実は実現しちまったんだよ!悟が出てった後に特星中が乙女な感じに!きっと俺の隠れた裏の力が目覚めたんだろーな!」
「あー、特星中がお菓子になった事件か。そっちは別に犯人が居たけど解決済みだ」
「あれ、お菓子限定だったのか!ふふふ、なら特星の事件もあの方の仕業だな!」
おや、御衣の知り合いか?あるいはまさかこのバカが俺が探してる方の犯人を知ってるのか?……いやいや、まだ今日一回目の戦闘だぞ?しかも家の前。主人公が犯人知っちゃうには早いだろー!
〔おや、いつもと違って戦うことに積極的だな、ツッコミ役の癖に。昨日あんまり戦ってないから不完全燃焼なんじゃないか?〕
だって昨日はなんか俺の相手っぽくなかっただろ?頑張れば勝ててただろうけど、いつもよりは桁違いな感じだったし。よって俺が倒すべき相手は今日出会えるに違いない!主人公が活躍しないわけがないからな!
「それでお前らはどんなサプライズをやったんだ?俺の持ち物がお菓子になってたけど」
「ふっ!まず主犯はこの俺、烈様と名前の分からん女の子二人だ!女の子は大人しそうなリーダーの子と、猫耳つけた派手な子の二人だったはずだぜ!リーダーはその辺の小学生くらいの見かけだが、猫耳はもっと幼そうな感じだったな!」
こいつ小学生にリーダーの座を奪われたのか?何ていうか情けないような。
〔そのサプライズに見事に引っ掛かるのも情けない気がする〕
ふふん、子供の遊びに本気を出すわけにもいかないからな。できる主人公といえば子供には優しいもんだぞ。
〔ところで猫耳の女の子ってのはさっきの魔法少女猫だよな。男だが見かけは女子っぽいし、よく合う小学生連中よりは小さかった。きっと烈は性別を勘違いしてるんだろ〕
まあそうだろうな。……あ、残ってるのはリーダーだけじゃないか!
「それでそのリーダーって奴が部屋中をお菓子に変化させたのか?」
「ちょっと違うな!部屋のものを変化させたんじゃなくて、部屋そのものを摩り替えたんだ!」
「うん?いや、あそこは俺の部屋だぞ。間違いなくあの位置だ、うん」
「猫耳の子が空間を作ったりする特殊能力みたいでな!その子がお前の部屋より大きい空間を作り、寮にあるお前の部屋の前へ入り口を繋げる!そしてリーダーがお菓子の壁やら床やら家具を作る!こうしてすり替えトリックによるサプライズを行ったんだ!」
お、おおー。なんて大規模なサプライズなんだ。まさか部屋が入れ替わってたとは。まあちょっと考えればすぐに分かってたけどな。それにしてもほとんど二人の犯行じゃないか。
「烈、その話だとお前が完全に必要ないみたいだが、お前は何をやったんだ?俺を運んだのがお前とか?」
「え?いや、それは猫耳がやってたぜ!」
「じゃあこの衣装用意したのがお前とか?」
「可愛い柄とか分からないからな!リーダーと猫耳が二人で用意したものだ!ちなみに俺の担当はお前を騙す役と部屋のお菓子を食べさせる役でな!頭脳プレイができる俺が選ばれたってわけだ!でもなんでお菓子なんて食わせたかったんだろうな?」
こいつのずのーぷれーは基本的にラフプレイだけど、頭脳を使わなければむしろ適材かもしれんな。よく分からん行動が多いから目的を読みにくい。
お菓子は戦闘回避の効果があったみたいだが何が目的なんだろう?さっぱりだな。
「そういえば唐辛子っぽいのを食わされたな。あれもなんか仕掛けがあったのか?」
「いや、あれは日ごろの恨みだ!俺が言うのもなんだが、悟って頭悪いよな!さすがにあれを苺と思うなんてどうかと思うぞ!」
「でもあの唐辛子は一本二百万セルもする品種だぞ。食わなきゃ勿体無いだろ」
「な、なんだと!俺はそんな凄いものを栽培してたのか!よし、今度店頭販売してやる!」
こうして烈の唐辛子販売の旅は始まった。しかし予想に反して唐辛子は売れず、烈は路頭に迷う。主人公を欺いたがために、自分が欺かれる羽目になったのだ。
〔変なナレーション入れるのやめてやれよ。売れないのは目に見えてるけど〕
よく考えたら唐辛子食って食いつなぎそうだな。……それで他に聞けそうなことあったっけ?
〔居場所とか目的を聞いてないな。知ってるとは思えないが〕
「最後に、知らないであろうリーダーの目的と場所を教えてくれ」
「目的は遊びたかったからじゃないのか?子供だからな!居場所は知らないけどあっちかっらお菓子の匂いがするぜ!この匂いはリーダーのお菓子モンスターだな!」
へー、モンスターがいるのか。でも特星のモンスターは弱いってのが相場だから大丈夫だろうな。さっさと蹴散らそう。
「そうだ。烈って水鉄砲持ってたよな?」
「ああ、お前が押し付けたやつか!押入れに入れてあるぜ!」
「よっしゃ、今すぐレンタル終了だ!でも安心しろ!また百倍個にして貸してやるからな!」
「いらねーよ!」
甘い香りが強いな。この森全体に漂ってる気がする。この辺って元々こんな感じだったか?
〔そこの森は特に何の変哲もない森のはずだ。甘い香りがするってことは何かあるんだろ〕
ふっふっふ。そんなの分かりきってることだ。あれだろ?匂いで人寄せをして売りつけるって方法だろ?だが俺は所持金が一セルもない。つまり余計な買い物もしないというわけだ!
「そしてそこの屋台の店員!お前が俺の財布を狙った犯人だな!」
「うぅ、見つかってしまいましたか。あ、とりあえずわたあめでも食べます?」
「残念だな!俺は一セルも持ってない!」
「無料ですけど」
「ん、そうか?じゃあ貰う」
主人公に食べ物を無償提供するなんてできた悪役じゃないか。うーん、いい味だ。
「カキ氷も無料でどうぞ」
「おお、サンキュー!いやいや、いい店だな。森で屋台って組み合わせがぴったりだ」
「あ、いえいえ。ありがとうございます」
〔敵を前にして和んでどうする!しかもお菓子なんかに釣られるなんてそれでいいのか!俺にも食わせろ!〕
ふふふん、自分が食えないからって負け惜しみはみっともないぞ、ボケ役。つめてー!……カキ氷も美味い!でもやっぱ冷た!
「そうそう、話はゲージちゃんから聞きました。全部私たちのことを見抜いてたらしいですね。前に会ったときも思いましたが、やっぱり凄い人ですねー」
「うんうん。……あれ、お前なんかと会ったことあったっけ?」
「あ、覚えてません?ほらー、前に神門王国で会ったじゃないですか」
「…………ああ、思い出した!人攫い中学生と組んで見捨てられた奴か!」
「う、まあ、そうでしたね。その通りですよぉ」
そういえば、こいつと会ったのは宝くじを賞金に引き換えに行ったときだったな。どおりでキャッシュカードが狙われるわけだ。
「既に知ってると思いますけど、今回は二つの目的でサプライズを仕掛けたんです」
二つねー。ん?二つだって?あ、こりゃまずいな。一つは予想してたけど二つ目は予想外だ。これじゃあ主人公として格好がつかない!
「当然お前らの目的なんかお見通しだ!お前と烈とゲージの三人でやったんだろ?よくも烈を騙してくれたな!」
「いやあの、騙したつもりはないんですよ?ただ昨日は準備が忙しくて何も言えなかっただけなんです。準備後は町中のお菓子を食べつくすといってどこかへ行っていたようですし。今日もお菓子屋さんの準備で忙しくて向かう暇がなくて」
「ああ、だからそんなエプロンつけてるのか」
「これは普段着ですよー」
うぅむ、こいつの目的がよくわからんな。世界征服とかならお店優先にするはずないし。そもそも戦闘回避のお菓子で昨日は助かってるんだよなぁ。
「まあいいや。なんか知らんが店の準備の邪魔されたくなければ大人しく返すことだな!」
「別に盗ったつもりはありませんー。それに今日は駄目です。それではまた会いましょう!洋菓子、焼かれ怒る大カボチャ!」
「うがおー!」
「こいつがお菓子のモンスターか!……って、逃げるな!」
あの巨大カボチャモンスター速すぎるだろ!そもそも何でカボチャが空飛んでるんだ!お菓子の範囲から外れてるだろうが!
〔お前の魔法弾だって上達すれば飛んだりワープしたりできるけど〕
特殊能力の定義なんて曖昧なほうがいいだろうな。便利だし。カボチャが飛ぶなんてお菓子使いの間じゃ当然のことといえるだろう。気にしないでおくか。
で、俺はいつ飛んだりワープしたりできるんだ?一時間後くらいか?
〔すっごく晩成型〕
明日くらいかな。
「いやー、駄目だ。飛んでる位置は見えるが全然追いつけそうにない!」
もう他の町辺りの上空を飛んでるな。ま、走って追いつけるとは思ってないが。
〔そりゃまあ、逆方向に走れば遠ざかって当然だな〕
ふふふ、ちゃんと計算済みだ!勇者社のワープ装置を使ってあいつの居る辺りのワープ装置に移動すれば余裕で追いつける!
「そして勇者社が見えてきた!これはもう余裕で先回りできちゃうわけだ!」
「おっと、そうはさせませんよぉっ!」
「お、雑魚べー!悪いがすぐ退け!水圧圧縮砲!」
「うわ、とぉぅ!」
げ、普通に叩き落としただって!い、いや、偶然やったに過ぎない!雑魚べーなんて常に偶然の灯火!さっさとやっつけてやろう!
〔風前な〕
「そう、偶然だ!主人公タックル!」
「そうはいきませんよぉっ!必殺、熱刀波!」
「げ、熱ちちちち!」
「あ、やっと止まりましたねぇ。そんなに急がず、少しは私の話を聞いてくださいよぉっ!」
こ、こいつめー。俺がちょっと急いで油断してるときに限ってきちんと技を使いやがって!
「いきなりなんだよ。俺は忙しいんだが」
「それがですねぇ。レーテレスさんがあっちの方へ飛んで逃げてるようなんですけど、悟さんなら何か知ってそうだと思いましてねぇ」
「知ってるも何も俺が追ってるの。ちょっと倒してやろうと思って」
「ま、そうでしょうねぇ。別に普段なら止める理由もないのですが、今回はレーテレスさんが戦いたくなさそうな感じなんですよ。そこまで嫌がってるわけではないのですが、でも少し戦うのを嫌がってます」
それは主人公に倒されるのは相手側としては避けたい事態だろうな。俺に勝てる見込みがあるわけないし。
「それで戦うのをやめとけっていうのか?」
「いえいえ、やめるだなんて思ってません!倒して止めるまでです!あなたが本物の悟さんならやめるわけないでしょうからねぇ!偽物なら昨日の分をやり返すまでですよぉっ!まあ、似合わない服装ですから偽物でしょうけどねぇ!」
「あ、うん、本物だけどな。さて、それなら倒して通るまでだ!水圧分裂放!」
「ふふふ、そんな攻撃当たりませんねぇ」
うお、凄い動きで動いてやがる!く、雑魚べーの癖になんであんな動きができるんだ!名前に雑魚って付くくらい弱い奴のはずなのに!
[あいつのやられる度に強くなる能力は本格的な戦闘以外でも発動するんだ。多分、普段から雨双あたりにぶっ飛ばされて強くなってったんだろうな。昨日もやられてたし、ついに主人公交代なのか?]
昨日は武器がなかったから負けただけだ!今やっつけるから見てろって!
「さあ、こっちもいきますよぉっ!必殺、琴刀ブーメラン!」
「武器投げか!よっと」
余裕だ!それでこの後戻ってくるからそれも避ける!って、落ちてる?
「隙が多いですねぇ!必殺、逝刀ブーメラン!」
「いって!く、くそ、戻らないのかよ!技名詐欺なんて卑怯だぞ!」
「え?ブーメランって刺さるように投げるものじゃないんですかねぇ?手裏剣みたいなイメージでしたけど」
「え?ああ、さあ?詳しくは知らん。あ、隙あり!空気圧圧縮砲!」
「ぐ!うぅ、さすがは悟さん。抜け目がありませんねぇ。本物でしたか」
当然!本物の俺が本気を出せば攻撃を当てるくらいわけはない!でも、予想以上に効いてなさそうだ。エクサスターガンがあればエクサバーストを撃てるんだが。
「仕方ありませんねぇ。とおっ!」
あれ、勇者社のほうに逃げていったぞ。もしかして予想以上に効いてたのか?実は効いてるような気はしてたんだが。
「これでよし。さて、勝負再開しましょうかねぇ!」
「何で勇者社の入り口を開けたんだ?中からなんか出てくるのか?」
「いいえ!中に入れないためですよぉっ!」
[ごごごご、どがーん!]
な、なんだ!勇者社の下にでかい崖が!
〔いや、あれは昨日やった浮遊要塞化だな。自動ドアに触って勇者社を浮遊要塞に変えたみたいだ〕
崖じゃなくて勇者社にくっついてる土か!にしても改造するの早すぎるだろ!昨日は十秒かそこらは掛かってたのに!
「とにかくあの上まで乗らないと!」
「おっとぉ!この先は通しません!この私が居る限り、悟さんでも一歩たりとも通ることはできないでしょうねぇ!ふふん!」
「土が崩れやすくて登りにくいな。穴を掘るか」
「って、通った後ですか。でも逃がしませんよぉっ!必殺、ジャンピングキィーック!」
「おわ!気付かれたか!」
いや、でも雑魚べーのジャンピングキックでちょっと上のほうに穴が!あいつを追い出してあそこから上に掘り進めば多分いける!
「く、外してしまいましたねぇ!」
「よいしょっと!ふー、何とか届いたか。勇者社も完全に飛んだみたいだな」
「いましたねぇ!必殺、ジャンピ!」
[どがあぁん!]
お、天井に突っ込んだ。そりゃまあ、こんなところでジャンプしたら突っ込むよな。天井に手が届くし。……さて、このチャンスを逃す手は当然ない!
「というわけで落ちろ、サンドバッグ!主人公パンチ!」
「んぐー!んぐぐー!ぐへぇ!ま、まだまだぁ!」
「うわあぁっ!足を掴むなぁ!落ちる落ちる!ゆ、油圧圧縮砲!」
「ぶぶはぁ!あ、ちょっと!滑ります!滑りますよぉっ!あぁーれぇー!」
よっしゃ!ようやく倒せた!ああもう、あんなやつに手間取るなんて運が悪い!さっさと掘り進んでレーテレスを倒さないと!あとキャッシュカードも!
「というわけでやっと追いついた!さあ、準備はいいな?」
「いたたたた、ま、まさか回り込まれるなんて。しかも撃ち落されるなんて想定外ですよぉー。準備なんかできてませんって」
「それは好都合!もうすぐ昼だしお前なんかさっさと倒す!で、部屋を取り戻して昼飯を食ってやる!」
「え、部屋が戻ってないんですか?おかしいなー、ゲージちゃんが昨日の内に、出入り口を元に戻しておくはずだったんですけど」
「え、そうなのか?」
そういえば、烈が言ってたな。こいつが偽の部屋を作って、猫耳が偽の部屋への入り口を繋げたって。……こいつ倒しても部屋に入れないじゃん!い、いや、こいつはちょっと前に盗ったつもりはないといっていた。つまり何かを盗むかのような真似をしている!あれ、でも否定とも肯定とも捉えれるか。
「あ、もしかしてその為に私を追ってたんですか?昨日の安全祈願お菓子の仕返しかと思ってました」
「両方だ!仕返しはするし、サプライズの後始末も昼までにやってもらう!」
「あれー、もしかしてサプライズの内容も知らないんですか?さっきは知ってる口ぶりだったのに」
「う、何か墓穴を掘ったかも」
「残念でしたね!サプライズの日は今日なんですよ」
さ、サプライズは今日?いや、少し落ち着こう。そもそもこいつとは大きく認識のずれがあるような気がする。仕方ない、事情聴取した後に吹っ飛ばすか。
「えーっと、まずお前らのサプライズってのは俺の部屋を取り替えることじゃないのか?」
「違いますよー。あれは今日のサプライズの為の準備なのです。悟さんにはサプライズの為に休んでいていただく必要があったので、特星お菓子事件をでっちあげ、自然と安全祈願のお菓子を食べさせる作戦だったのです。それに武器が無ければ戦わないでしょーから。まあ、なぜか本当に特星中がお菓子だらけでしたけど。あれもゲージちゃんの仕業なんでしょうか?」
そういえば、レーテレス達は昨日何があったのかよくわかってないのか。猫はどうだろう?昨日は挑戦的な感じで現れたけど。
「昨日のは別の奴の仕業だな。ゲージって昨日の朝に会ったけどあれもお前らの計画のうちか?」
「ええぇ?そんなわけありませんよ。初耳です。昨日は部屋を入れ替えて自由行動って日程でしたけど、悟さんに会ってたんですか。何でですかねー?」
「昨日の事件の黒幕が、お菓子で俺の相手を雇ってたとか言ってたな。多分、それに参加したんじゃないのか?」
「そうなんですか。お菓子といえば私も手伝いの報酬であげましたけど。他でも手伝いをしてたなんて偉いですねー」
〔いや、ゲージはツッコミ役が戦闘回避することを知ってるはず。つまり希求からタダでお菓子を貰うつもりであっちの依頼は受けたんだろうな〕
おー、なるほど。やっぱりあいつは猫だな。嘘が下手そうだったけどせこい隠し事をしまくりじゃないか。部屋を戻さないのもキャッシュカードを狙ってのことだな。今日の朝もキャッシュカードの事を言ってたし。
〔あれはお前が金ないときに勝手に喋ったからだ〕
ていうか、キャッシュカードの場所は多分俺の部屋だよな。入れないだけで。よく考えたら、あの猫ならこんな真似しなくてもカードを奪えるような気がするんだよなー。レーテレスがサプライズ目的で、ゲージが金以外の何かが目的って気がする。
「つまり、俺のキャッシュカードは安全圏!」
「ど、どうしたんです?急に?」
こいつらを倒す理由がなくなったんだけどどうしよう。部屋を戻してもらうだけってのも物足りないし。まあ、サプライズやら目的やらの邪魔でもしてやるかな!手間かけさせられたし!なら内容を知ることが先決ってわけだ!
「今日も勇者社でゲージに会ったけどそのことは?」
「それは計画の内なんですよねー。お菓子で店員の方に銃の販売を控えてもらえば、安全祈願のお菓子の効果が切れても戦闘はしないと思いましてね。加えてゲージには、家で休むことを勧めるように頼んでおきました」
そういえばそんなことを言ってたような気もする。でも喧嘩売られた印象が強くて帰る気にはなれんだろ、あれじゃあ。
「お菓子の効果期間とかはゲージに話したか?」
「ああ、言ってないような気がしますー。まあ勇者社に銃を買いに行ったときの保険ですからね」
「ふーん。じゃあ俺が部屋に戻れてたときは別の対策をしてたのか」
「はい。実はゲージちゃんに部屋の銃を隠してもらったんです。だから、朝に言ってた盗んだ物っていうのは、最初は銃の事かと思ってましたよ」
「あー、いや、部屋のことだって。住居は大切だからさ」
そうかそうか、あれは銃のことだったのか。あれだな。キャッシュカードは本当に蚊帳の外だな。まあ銃を隠されたからまだまだ許せないけど。……あとはサプライズについてくらいか?大方、時系列順に聞いたよな、うん。
〔ふふふ、あの森に屋台を出してた理由を聞いてないんじゃないのか?〕
ん?ああ、そういえばそうだな。よく考えたら森で屋台なんて不自然か。
〔そうそう、自然の中なのにな!〕
「森で屋台を出してたのは何でだ?」
「ああ、あれは小巻ちゃんが帰りに、あれ?」
「うん?小巻がどうかしたのか?」
「あああー、うんー、そうですね。まあいいや。ふっふっふ、実は今回のサプライズは修行中の小巻ちゃんが帰ってくることなのです!」
なんだって!小巻ってたまに会うけど、確か特星中を修行して周ってるとかだったはず。しかもあいつとは戦うって約束をしてたような気がする。……や、やべー!
「そして小巻ちゃんとの待ち合わせ場所!それこそがあの屋台のある森だったんですよ!悟さんと小巻ちゃんへのサプライズで、二人が全力の戦いをできるように色々準備してました。そう、サプライズの内容と目的は二人の全力勝負を実現することだったのです!」
だから安全祈願のお菓子やらを俺に食わせたのか!いやー、危ないところだった!このままサプライズを待ってたら全力の小巻と戦うところだった!
「そういうわけで、戦わずに休んでください」
「い、いや、それはできない相談だなー。ゲージが何か企んでるようだし、主人公として奴の悪巧みを止める必要がある!」
そうさ、あの猫が俺の部屋を元に戻さない理由!それについては今だ何も分かってない!きっと特星中をかつおぶし帝国とかにぼし帝国に作りかえるつもりだろう!
〔美味そう〕
「それにお前にやられた分は仕返してない!えっとー、そうだな、あそこにある打ち上げカカシ!あれでどっか遠いところに葬り去ってやる!」
「え、何でそんなのが現代エリアにあるんですかー?ま、飛ばされてもいいですけどね。小巻ちゃんと戦ってくれるなら」
「それはちょっと。俺も忙しいからさー」
「あらら。もうー、けちんぼなんですから。あなたみたいな人は無理にでも攫わないとねぇ、無駄に動き回って体力使っちゃうんですよ!妖菓子、苦味を刈り取るチョコの怪人!」
うわ、チョコのモンスターか!モンスターを出すってことはやる気だな。いいさ、予定通りに吹っ飛ばすまで!
「くらえ、水圧圧縮砲!」
「ぐぎゃあぁっ!」
「やられましたか。でも、まだまだです。妖菓子、薄塩味を包むクッキー!」
「ん?うおー!な、なんだ!ぎゃあ!何かに包まれたー!」
くっそー、拘束技か!あ、でもあれだな。普通に手とか動かせるぞ。
「本当にクッキーでできてるな。そりゃあ!……凄い脆いぞこれ」
「それはそうですよぉ。クッキーなんですから」
「うぅ、何かお菓子ばっかり見てたから気分悪くなってきた」
いや、今葉昼だから腹の減りすぎかもしれん。……でもなんか変だな。むしろちょっと前より大分腹持ちがいいような。
「ふふん、効果が出てきましたね。私のお菓子モンスターを倒すと、元となるお菓子を食べた状態になるのです」
ええ!なんでそんな珍妙な効果なんか!でも甘いお菓子を思い出すとちょっと気分が悪くなるような。あ、ある意味恐ろしい技かもしれないな!
「俺が食べたのは板チョコとクッキーか。確かにその二つだけでも甘いものは嫌になるな」
「あとカボチャのパイも食べてますよ。さあ、その状態で私の甘い攻撃に耐えられますかー?お菓子、弾けるコーン弾!」
「あちち!当たるとポップコーンになるのか!しかもバニラ味!く、水圧分裂砲!」
「きゃ!あいたた!お菓子、弾力グミバリア!」
あ、与えてるダメージは大きそうだが、技の種類がやたらと豊富で攻めにくいな。炎とかが効きそうだけど、俺はあんまり得意じゃないし。
「一応やってみるか。大花火圧縮砲!」
「わ!っと。うふふ、無駄みたいですね。お菓子、降り注ぐ砂糖せんべい手裏剣!」
ちくしょう!花火くらいじゃどうしようもないのか!
「バリアー邪魔だ!いって!うぐ、も、もう絶対倒す!主人公スライディング!」
「悟さんを跳ね返せばいいだけです。あ、あれ!」
「グミの下をくぐれば楽勝!水圧圧縮砲!」
「きゃあー!」
…………気絶したみたいだな。はぁー、疲れた。食後の運動にしては動きすぎた。ってか、よくみたらこのせんべい美味そうじゃん。食おう。
〔それでどうするんだ?カカシで打ち上げるのか?〕
大気圏に打ち上げて燃やしてみるか?そこのグミと一緒に。
〔気絶してるし完全に追い討ちじゃねーか。特星本部に怒られるぞ〕
いや、冗談だから。でも打ち上げカカシの刑は約束したから譲る気はないぞ?レーテレスが起きた後にでも打ち上げよう。えーっと、とりあえずこのグミでカカシに巻きつけとくか。
「むにゃー。ん?ふぁわぁー。……動きにくい?は、まさか金縛りですか!」
「違う。何ていうんだ?生贄縛りとかそんなのだ」
「あ、悟さん。って、縛られてますね?どうして私はこんな状態に?ああ、いえ、負けたからですけど。何でこんな両手広げた縛り方なんですかー?もっとヒロインみたいに後ろで縛ってくれればいいのに」
「カカシの形に合わせたんだから仕方ないだろ。お前が立派なカカシとして、農作物にお菓子を与えますようにって願いがこもってるんだよ」
「ううー、知り合いにこんな姿見られたら顔合わせできませんよぉ。知り合いと会ったら悟さんを恨みますからねー!呪いのお菓子とか送ります!」
たまたま落ちたこんな場所で知り合いに会うわけないだろ。さて、あとはゲージを倒して小巻と戦わないように帰れば大丈夫だな。
「おお、リーダー。こんなところにおったとは、さすがの我でも手を焼いたぞ」
「きゃー!げげ、ゲージちゃん!ち、違うんですよ。私はリーダーじゃなくてカカシなんですよぅ」
「でたな、悪行猫!」
ふふふ、そっちから現れるとは好都合!こいつもさっさと倒して打ち上げカカシの刑にしてやる!あ、でも目的を聞かないと。
「おや、お主も丁度良いときにいるな。ふふふ、我のスタートしての素質が舞台を整えるのだろう!……で、リーダーは何をしておるのだ?」
「わ、私は修行中のカカシですー!神様目指してますよ」
「え、あー、そうか。それで悟、お主はリーダーからサプライズの事は聞いたのか?」
「ああ!お前が計画を無視して、俺の部屋への道を戻してないって聞いた!どういう目的だ!」
「いやいや、すまんな。朝も話したと思うが、昨日外道な幽霊に連れ去られていたのだ。その時にそれはもう酷い目に遭わされてな。そのせいで忘れておったよ。もう元通りにしたから安心して帰ることだな」
ふーん。…………え、忘れてただって?ふーん。
〔どうしたツッコミ役?やたら無関心だな〕
いや、間違いなく何の謝罪もしないと思ってたからな。気が抜けたぜ。ふっふっふ、でもそうか!既に戻したなら後は部屋に逃げ込めばこっちのもの!居留守使って小巻との勝負は回避できる!
「さてと用件は伝えたから我は帰る。あとリーダーの探してた奴も見つけておいたぞ、ほれ。ではまた会おうではないか」
「レーテレスー!早めに来たよ!」
うっおうぅっ!こ、ここにきて小巻に遭遇しただって!い、いや大丈夫だ!俺は主人公!この状況なら
確実に誤魔化せる方法がある!
「あれ。あ!悟もいたんだ!久しぶりー。数ヶ月ぶりだね」
「か、カカシー。俺はカカシだぞー。視力がいいから間違いない」
「お?珍しい遊びをしてるね。レーテレスも?」
「カカシー、カカシー。私はレーテレスじゃありませんー」
よし、予想通りレーテレスも乗っかった!二対一でカカシだと言い張れば、多数の勢いに負けて本当にカカシだと思い込むはず!二倍もの人数がカカシだというんだ、十分に可能性はある!
「うーん、私もカカシ遊びしたいけど、今日は王国に帰らなきゃならないんだよね」
「え、神門王国に行くのか?……く、ばれてしまった!小巻、そこのカカシは実はレーテレスなんだ!」
「ああぁっ!自分が見つかったからって酷いですよー!ううぅ、恥ずかしい。いつかこの恥はお返ししてやります」
俺だってカカシに化けてることを気付かれたんだ。それにレーテレスは誰がどうみてもカカシって言ってるだけの変人にしか見えなかったし、ばれても恥の上塗りにはならんだろ。
「レーテレスには言ったけど、一度神門王国に帰ることにしたの。明日には帰ってくるから日帰り旅行だね。ふっふっふ、お土産は期待してもいいよー」
え、そうなのか?確かレーテレスは特星修行からこの町に帰ってくるって言ってたが。もしかして勘違いだったのか?
〔小巻はこれから神門王国に行くみたいだし恐らくな。いや、まあここに寄ってるから帰ってくるってのは間違いじゃないけど。多分、レーテレスの思ってるのとは違うんじゃねーかな〕
「ああ、そうだったんですね。な、なんだかどっと疲れが出ました。そうですかー、勘違いでしたか」
お、レーテレスがぐったりしてるな。
〔まあサプライズの為に色々やってたみたいだし、疲れるのは当然だろ。勘違いもしてたっぽいし〕
やれやれ、仕方のないやつだな。……ふむ、まあ小巻を送り出すのにサプライの一つくらいはあってもいいか。ちょっと手を貸してやろう。
「小巻、実はお前を送り出すためにレーテレスが準備してたサプライズがあるんだ!いまからそれをやってやる!」
「おお!それは楽しみ!」
「さ、悟さん!どうもありがとうございますー!サプライズ、やってくれるのですね!」
「ああ!スイッチオン!」
[ごごごご、ぴゅうぅーーーーん!]
「わああああああああああ!」
おお、さすがは打ち上げカカシ!あっという間にレーテレスの姿が小さくなったな。まあ少なくともこの辺には落ちなさそうな気がする。
「おー、なるほど!この為にカカシの真似をしてたんだね!」
「ああ。……俺は帰るけど小巻はどうする?」
「んー、ちょっと早いけど神門王国に行くよ。またねー」
「おー。土産頼んだぞー」
さーて、これで部屋に入れるし、明日は土産が貰える!レーテレスが帰らなかったら、あいつの分も食ってやろう。うん、明日はいい日になりそうだ。