十五話 雷之家に送る希求な物語
@悟視点@
地味な暑さと蒸し暑さがサウナのようなこの季節。神社では最高に近い湿度の中、照る照る坊主を吊るして雨乞いが行われている。
……にしても大丈夫か?今日中に完成させるって言ってたけど。雑魚ベーも小学生連中の頼みなんか断ればいいのに。
「お前らなぁ、作り始める前に雨を降らせてどうするんだ」
「蒸し暑さと雨水でびしょ濡れになるよ。そんなことを言わせるなんて、悟も雑魚ベーに似てきたね」
「なるほど。私のアイススイートで成敗だな」
「二人は仲が良いから仕方ないんだってば」
ひえー、なぜか判らないが集中攻撃されてるぞ。しかも皆が楽しそうだ。あ、あれか!朝食の漬物を七割くらい食べたからか!
「漬物のことを怒ってるのか?」
「怒ってはいないよ。ただリーチに差があるんだから、器を自分のほうに引っ張るのは大人気ない気がするけどね」
「見えないように能力を使って、食器の配置を動かしてる子どもよりはマシだと思うぞ」
「お。私達の作戦を見破るとはさすがだ」
雨双は冷気、アミュリーは磁力、アルテは風の魔学科法だったか?それ使って食器を少しずつ動かしていたはずだぞ!主人公が見逃すと思ったか!
「あのー、完成しましたよ。露天風呂」
「え!?まだ数十分だぞ!」
「ああ、悟は知らないんだね。雑魚ベーは物凄く仕事のペースが速いんだよ。あの広い寺も二週間くらいで直ったからね。あ、そういえば悟は寺の修理期間中どこに居たの?私は一度も見かけなかったけど」
「三週間くらい海で漂流してたな。流れ着いた町の勇者社からワープでようやく帰れたんだぞ」
手伝うのが嫌だから、海から帰った後も寺には行ってなかったんだよなぁ。まさか修復済みとは思わなかった。…最初の二日間くらいしか手伝ってないのか。
「呪われそうだなー」
〔呪わないけけど、憑依する!〕
[ばちちぃっ!]
〔いたた!〕
うお、驚いた!……あー、なんだ。最近寺で見かける悪霊じゃないか。咏だったか?まーた俺に憑依しようとやってきたのか。懲りないやつだな。
「大丈夫だっけ?悟に憑依しようとするのは、やめたほうが良いと思うんだってば」
〔ああ、悔しい。憑依に加えて呪いの特訓もしたのにねぇ〕
「呪いって、俺が呪われたらどうする!」
〔ん?記紀弥から聞いてないの?ちなみに私は記紀弥から聞いたの〕
「え?なにその反応。まさか本当に呪うつもりか?それとも既に貧乏神に呪われてるとか?」
もしも貧乏神に呪われてたらどうするべきだ?俺だけ呪われるのも癪だし、金持ちの就職先でも探してやろう。
〔まず呪いにはいくつか種類があってね。悟の呪いはコートを着ないと体調不良になるもの。この呪いは体質的なものの一種らしいの。体質的な呪いは普通の生き物ではありえないもの。要するに、悟は人間じゃないと言うことね。…記紀弥の話ではある種の神様が持つ体質だとか〕
へー、なるほど。仮に神様なのはいいとして、今のところは神様らしき力は使えたことがないけどなぁ。まあいいか。これからは神様系主人公として活動していこう。
「ほらほら、お前たち!俺は神様らしいから、今まで俺に攻撃を当てた奴には謝罪のチャンスをくれてやる!とりあえず、千セルずつで許してやろう!」
「神様の氷像として神社に飾ってもいいが。試してやろうか?」
「…ふふふ!俺は慈悲深いから今のところは勘弁してやろう!」
いかに神様系主人公とはいえ、複数の小学生を相手にすると危ないからな。別に負ける自信などはないが、即倒せるわけでもないし。俺の時間を無駄使いするのもなー。
「で、それなら俺の親は?まあ変質者みたいな二人組だから、俺の血筋の奴じゃないんだろうが。特に性格は似てない」
「そうでしたかねぇ?前に神社でお茶会をしましたが、悟さんの性格そっくりでしたよ。ラスボスの子とコートの人」
…あの二人、アミュリー神社でお茶会なんかしてたのか。俺は結構な割合で神社に行くのに、よく今まで会わなかったな。
〔さあ?知り合いの人に聞けばどう?〕
「そうするか。…ところで呪われてると憑依できないものなのか?」
〔普通は出来るんだけどねぇ。その呪いの効果に、呪いの類を防ぐ効果があるみたいなの。霊の憑依もその守備範囲に入ってるっぽいよ〕
霊に対するセキュリティは万全じゃないか。まあ体質的なものらしいから、いい効果があってもおかしくはないのか?悪い呪いばかりじゃないんだな。
「悟さん。今から女子の方々が露天風呂に入るらしいので、私たちはこの場を離れましょう」
〔あ、私も入ってくるよ。よいしょ〕
あ、実体化した。咏も露天風呂にいくのか。あの悪霊も神社メンバーに入るつもりか?……お、アルテだ。
「私が一番乗りだね。って、なんで君たちはまだ居るの?覗き?」
「誰が覗くか!…ああ、でもあれだな。これをやる」
俺の隠しコートの一つ!子供用半袖コートだ!ふっふっふ、これを貰って喜ばない子供はいないはずだ。
「レア物の半袖ふりふりコートだ。子どもサイズのは本当にレアなんだぞ」
「あー、まあこのふりふりは可愛いけど。…ところでどういう理由でこれを?まさかコートそのものを覗きたいとかじゃないよね?」
「私欲のために人を利用はしないって。寺の修復に出てただろ?だから特大努力賞だ。ちなみに耐水性だからそれを着て露天風呂には入れるぞ。じゃあ俺はこれで」
「あ、待ってくださいよぉっ!」
いろいろと文句を言われる前にさっさと退散してしまおう。俺の親に詳しい奴、寺にも一人居るな。努力賞を渡すついでに呪いの話も聞いておこう。
「ま、まさか誰も居ないなんて予想外だった」
「本当、幽霊一人居ないですねぇ」
咏は少し前に記紀弥から呪いの話を聞いていたはず。寺の幽霊について何も言ってなかったから、少し前までは普通に皆や霊は居た可能性はまあ多分高い。
なら、どうして俺がここに来る前に寺から霊が居なくなったんだ?
「もし誰かが霊を消したなら、犯人の目的はなんだと思う?」
「んんんー、悟さんがプレゼントを渡すのを阻止したかったんじゃないですかねぇ?犯人は小学生と恋愛をしたい人で、悟さんと小学生の人たちが仲良くなるのが心苦しかったのかもしれません」
〔………見つけました。雷之 悟さんに雑魚ベーさんですね?〕
「いやいや、俺は神様だから。多分、雷之はつかないぞ」
なんでこいつ森の中から出てきたんだ?第二形態なのは普段どおりだけど。しっかし、この神様系主人公の俺の顔を忘れるとは、悟ンジャーファンとしてどうなのさ。あれだな、減点!
「あの、記紀弥さん?雰囲気がいつもと違う気がするのは気のせいですかねぇ?」
〔……………覚悟してください。あなたたちには私達の物語通りに動いてもらいます!空く霊の落とし穴!〕
「うお!」
「うわわぁ!」
こ、股間打ったー!く、あいつめ!いきなり足元に穴なんか空けやがってー!
「大丈夫ですか悟さん?私のように土を両足で挟めば股間は打ちませんよぉっ!」
「いきなり穴が空いたのに出来るかっ!」
〔……息霊の火炎ブレス!〕
あ、危ねー!このでてきた霊は火を噴く霊か!ふ、だがこのコートは完全防火性!こんなしょぼい炎なんかまったく通らないぜ!
「大丈夫か雑魚ベー?俺のように耐火性のあるコートを使えば熱くないぞ」
「あ、いえ。私の目の前の霊は頑張ってるのですが、調子が悪いのか暖房程度の熱しか出ていません」
あ、本当だ。凄い頑張ってるけど火の粉程度だな。ってか、俺のほうの霊とは威力が違いすぎる!俺も弱いほうにやられたかったな。防御の手間が省けるから。
「さあ反撃だ!水圧圧縮砲!」
「低空ジャンピングバックチョップですよぉっ!」
……ああ、駄目だなこりゃ。第二形態だからすり抜けるのか。でもこっちが見えてるなら光とかは効くかもしれんな。よし!
「雑魚ベー!直感で吹っ飛ばせ!」
「無理ですよぉっ!悟さんこそ神様の力でどうにかできないんですか!?」
「え?あー、ちょっとやってみるか」
うーむ、とりあえず神様っぽい力で敵を見破ったりできないかな?……いつもと同じような感じだな。暇そう。
〔………さっきから、私が操られてるとは思わないのですか?〕
「んん?そりゃ当然。技の名前が子どもっぽいからな。落とし穴とか火炎ブレスとか。記紀弥の性格にそっくりだ」
もしかして操られてるふりでもしてたのか?演技下手だなー。
〔……まさかそんなところで見破るとは思いませんでした。しかし私はそこまで子どもっぽくはありません〕
寺で神酒や咏とお菓子争奪戦をしてたような気がするが。最近は俺の持ってるゲームをたまに借りてくし、やってることは完全に子どもだよなぁ。意外に賢いけど。
「操られてる真似までして、一体目的は何なんですか?ちなみに私は騙されましたが」
〔………さあ?私は天利に悟さんを連れてきてほしいと頼まれたのです。どちらが強いか試したいんでしょう〕
そんなの試すまでもなく俺の方が強いに決まってるだろ。天利は所詮、自称ラスボス。自称主人公と自称ラスボスならば主人公が勝つのは当然だ。特に戦隊ものではな!……いや、そもそも俺は本物だけど。
「じゃあ神様の話は、俺をおびき寄せるために咏に教えたのか?さすがに天利とかが考えたわけじゃないと思うけど」
〔……はい。ただ、体の話は嘘ではありません。恐らく、雷之夫婦は悟さんの神様体質についてはよく知りません。その体質は一応、呪いです。霊っぽい真似のできるあの人こそ、その体質の原因なのでしょう〕
うんん?あー、あいつかな。生まれつきの体質じゃないなら、やっぱり親は天利と皇神か。でも、結構昔からこの体質だったから、昔になにかあったのか?
「話がさっぱりですよぉっ!もっと単刀直入に話していただけませんんかねぇ?」
〔…………悟さんは呪われた体質です。それは何者かの仕業です。悟さんの両親はそのことを知りません。勿論、両親とは天利と皇神のことですよ?そして犯人は霊っぽい人。こんなところです〕
「わかりやすいですねぇ。ありがとうございます」
俺が呪われてるわけじゃなく、何者かの仕業で呪われた体質になってる。ここがポイントかな?でもこの呪いの体質は、神様特有の生まれつきのものなんだろ?俺の親が神様ならそのことは知ってるはず。俺の親は変人だけど多分人間だ。突然変異の可能性もあるが、それだと誰の仕業でもないことになる。誰かの仕業で強制的に突然変異を起こさせられた。…俺の生まれたのは確か特星が作られる前。無理だな。
「というか、記紀弥から聞いた方が早いな。明らかに原因が誰かを知ってそうな言い方だったし」
〔…………負けても話しません。雑魚ベーさん、こちらを手助けしていただければ、あなたの呪われた体質について詳しくお話しますが。どうでしょう?〕
「あ、私も呪われていたんですか。ちょっとだけショックですねぇ」
雑魚ベーも呪われてるのか。しかも俺と同じ呪われた体質タイプだったとは。…ってか、なんで雑魚ベーには詳しく話して、俺には駄目なんだよ!
「呪いの話なんてなくても、私はいつでも少女達の味方ですよぉっ!必殺、熱刀波!」
「おっと!」
曲刀でレーザーだって?いや、でもあれだな。当たった草木とか今動かなかったな。なら、カムの変化した技か!色もオレンジっぽかったし!
「今のはカムっぽい!でも今までで一番速い!」
「ふふふ、その通りですよぉっ!これこそが前に秘宝探しで対決した時に手に入れた秘宝!その名も、琴刀と逝刀ですよぉっ!そしてカムはこの二刀を通すことで、速度の速い縦長光線として発射できるのです!名前通り、熱湯程度の温度が限度ですが」
これは少し不味いかもしれないな。雑魚ベーのカムは遅さ、すり抜ける、一定時間で消えるの三つが特徴だったはず。速くなったら避けにくくなる!
〔……火球散乱の術!〕
うおー!異空間みたいな穴から大量の火の玉が!しかもそこそこ大きい!こ、これは避けるよりも防ぐだ!
「なんの!雑魚ベーガード!」
「ええ!?あちちちー!」
ふははははー!弱いくせに接近戦をするこいつが悪い!俺の盾にしてこの後に倒してやる!いやー、それにしても熱そうだ。
「そしてこの武器は俺が貰う!…あれ?」
あ、何だ?体が動かないぞ!
[どがあぁん!]
いってて!背中が爆発!?く、自縛爆霊か!
「うううぅ。巻き込まれましたよぉ~」
「いてて、攻撃手段がないなんて反則だろ。しかも二体一だ」
〔…………格好良くはありませんが、今日の私はちょっぴり悪役なのです。だからこそ、私が敗北する要素を味方に引き込むのは当然のこと。お喋りが過ぎるのも悪役ならではの演出ですね〕
ほうほう。負ける要素を味方に引き込んでるのか。それはそうだ。一人で勝てるなら、雑魚ベーも一緒に倒せば良いだけのことだ。足手まといになる雑魚ベーを味方につける理由、それは雑魚ベーに記紀弥を攻略する鍵を握っているからに違いない。……あれ、俺が過小評価されてるような。
「それで弱点は?雑魚ベーの性格とか喋り方か?」
〔……それだと仲間にしても逆効果ですよ。ふふふ、それに木や壁や人をすり抜け、空気や重力の影響も受けないこの体に、弱点などはないのです!〕
へー、空気や重力の影響を受けないのか。…なんだろう?微妙に変な違和感があるな。宇宙規模の違和感が。今はとりあえず弱点を聞き出そう。
「なるほど。なら実体化できない霊は喧嘩もできないわけだ。すり抜けるからな」
〔…………いえ。霊同士であれば触れ合えますよ。似たような性質のものにも触れます〕
つまり雑魚ベーのカムであれば攻撃は当たるのか。ただ、記紀弥はそこそこの実力者。雑魚ベー程度の攻撃が記紀弥に当たるとは思えないな。そもそも雑魚ベーは記紀弥サイドの味方だし。どうしよう?
「…仕方ない。俺の家に伝わる秘伝の技を使うか」
〔………秘伝の技?天利からはそんな話聞いてませんが〕
そりゃまあ作り話だから当然だ。でもどの程度の必殺技がいいんだ?エクサバースト程度では幽霊状態の記紀弥は脅せないよなぁ。使う前に倒さなければ、と思えるような必殺技があれば。
〔…………しかしそのような技があるなら、やはり天利との対決で使ってほしいですね。雑魚ベーさん、これ以上の追い討ちはやめてください〕
「え?」
「ええ!?…わ、わかりましたよぉっ!」
お、おおおおぉっ!なんか適当な嘘が通じたみたいだ!ふ、まあこんなことは想定内だったけどな!
〔………秘伝の必殺技というからには、涙あり感動ありの必殺技に違いありません。さあ、早く天利の場所へ向かい、命懸けの必殺技を成功させてください〕
「そんな危険なものが代々伝わってたまるか!普通の技だよ!」
「少女が使えば危険ですからねぇ。特星では大丈夫かもしれませんが」
〔……少女でなくとも子どもが使えば危なそうですね。大人で命懸けですから、子どもであれば反動で体が消滅するかも。もし存在すれば、ですけど〕
だから普通の技だってのー。嘘だけど。
「記紀弥ー。こっちは俺達が来た方向だぞー」
天利の場所に案内すると記紀弥が先頭を歩く。しかし記紀弥が向かっている方向にあるのはアミュリー神社。浮遊要塞はまだ完成していないから、神社内に隠れているということか?
〔………いえ。露天風呂に入った後に案内します。咏と話したいこともありますから。二人も一緒にどうですか?〕
「狭そうだから俺はやめとく。まだ他の皆が入ってそうだし」
それに未だに朝のおかずの件のほとぼりが冷めてないからなー。記紀弥たちとお風呂に入ったとなれば、間違いなく雑魚ベーと同レベル扱いされてしまう。そうなれば俺の主人公としての品格が地に落ちる!
「では私が記紀弥さんの背中を流しますよぉっ!」
〔……ええ。よろしくお願いします。あ!止まってください!〕
どうしたんだ?……あれ、森の色合いが違うな。もしかしてここから先が別空間とかに繋がってるのか?
「ワープゾーン的なものか」
〔…………はい。さっきから天利が私たちを特殊能力で導いてますからね。すでに敵の手中にいるも同然です〕
「え?俺たち誘導されてるの?」
〔………え?特殊能力に気づいたから、ワープゾーンに気づいたのでは?〕
そんなことに俺が気がつくはずがあるだろ。ちょっと試しに聞いただけだ、うん。
「俺は主人公だから、あの小学生程度の行動はお見通しだ。実は特殊能力を使われる前にわかってたんだ」
「おお、さすがは悟さんですねぇ。なら入っても余裕ですねぇ!」
「ええ!?…そ、そんなこともわからないのか雑魚ベー。簡単に決まってるだろー!」
落ち着け。簡単の定義は人それぞれ。一度もやられずに倒すことを余裕といっても嘘にはならない!
「確かに余裕だな。穴に入ることは足を踏み入れるだけで成立するのだから」
あれ、皇神だ。いつの間に居たんだ?
〔………なんだ、皇神ですか。私たちは皆と一風呂浴びてから向かうつもりです。五時間後にまたきてください〕
「長いね。茹でお化けになっても知らないよ」
俺は茹でお化けなんて知らないけど。新種か?そもそも茹でたところで食えるのか?
〔……私は泡だらけの露天風呂に入りたいです。五百メートルくらいの高さが好ましいですね〕
「高いな!」
「まあ。私は別に構わないが。でもさっきお風呂に居た子たちは居ないよ。天利が特殊能力で誘拐したからね」
「誘拐ですって!?バスタオル姿のまま誘拐したら寒いじゃないですか!」
「室内風呂に誘拐したから大丈夫。ちゃんと普通の部屋や着替えも用意済みとのことだよ」
あいつらそんな簡単に誘拐されてるのか?普通犯人捜して倒そうとするけどな、誘拐されたら。
「まあそいつらはどうでも良いんだ。ただ、コートは俺の専売特許だ。偽者は退場願おうか」
「ふん。お前を倒し、私が主人公となるのだよ。中間管理職も飽きたところだ。そう、私は皇神!世界一コートの似合う男!皇神ジャーの力を見せてあげよう」
「…二人は先に行っててくれ。これは超天才同士の戦いだ」
「あ、はい。気をつけてくださいよぉっ!変に熱い雰囲気ですから」
皇神を倒すまでの間に罠の音がしなければ俺も行くか。倒すまでに罠の音がしたら様子見で。あと、できれば二人だけで天利を倒してくれないかな?そうすればリーダーの俺が倒したことになるんだが。
「私の特殊能力は雰囲気を操る能力。これを見るがいい」
「それは、剣?」
えっと、確か勇者社のお土産コーナーで見たことあるぞ、あの剣。
「これは勇者専用の武器だよ。勇者が装備した場合のみ、必殺技が使える。そして今の私の雰囲気は勇者の雰囲気」
「まさか!水圧圧縮砲!」
「必殺、ノーカウントバリア!…そう、私の雰囲気は無機物すら誤認させる!」
うわ、不意打ちの魔法弾を防いだか。ってか、吸収したのか?あの剣専用技っぽいな。これは少しばかり厄介かも。
「こちらの攻撃もみたまえ。必殺、模擬エネルギー下し」
何だ?あいつの体が一瞬光ったみたいだけど。まさか自爆するつもりか!?
「そして喰らうがいい。幹部タックル!」
「なに?うわっ!?」
いてて、前に使ったときとは段違いのタックルだな!まさか前回は手加減してたのか?
「ふふふ。さっきの模擬何とかは、この武器の性能を他に移す効果があるのさ。この武器は軽くて強いから、私の速さと攻撃力が上がったのだろう。ってか、この武器が重くなった」
「解除法は?」
「武器を壊すか、私が気絶するか、この魔法を無効化するかだね。あとは時間経過くらいか。…あ。…ふふふ。さっきのは嘘だ。攻略法を知りたいようだがそうはいかないよ」
「もう攻略法は知ってる。こっちもタックルで対抗して、打ち勝てば良い!主人公タックル!」
所詮は幹部が使うタックル!主人公の全力タックルに敵うわけがない!
「他にも見せたい技はあったが仕方ない。幹部タックル!」
お、武器を投げ捨ててきたか!なら正面衝突より足引っ掛けだ!
「うおわ!?」
「じゃーなー!ついでにこれをくれてやる!大花火圧縮砲!」
さて、倒したかはわからないけど走って先に進むか。罠っぽい音はしなかったし!
大迷宮って場所に着いたっぽいな。入り口の看板を信じるなら。……お、中にも看板発見!やたらと親切だなー。
「なになに?普通に少女を助けたい方は右の道。素晴らしきヒーローショーを見たい方は左の道。たまたま撃っちゃうような方は、賢ければ頂点に立つ資格があり。…なるほど」
これはおそらく分断作戦だな。記紀弥と雑魚ベーは銃を使わないから、真ん中の道を選べないし。天利は俺との一対一の勝負をするつもりか?ラスボスなんて仲間複数で倒すものだと思うけど。
「でもこの看板が邪魔で通れないのか」
看板には賢ければ何とかって書いてあったよな。まさか知恵を使ってこの看板を超えろってことなのか!?
「近づいても開かない。なら自動ドアじゃないのか。お金を入れて開く扉でもなさそうだ」
看板の下も狭くてコートが土で汚れるしなぁ。うむぅ、これは完全に密室と言っても過言ではないぞ。どうすれば超えられる?壊すという手も一応あるが、後で弁償代を支払うことになるかもしれん。
「下が駄目なら上からは?…ああ!乗り越えればいいのか!」
わかったぞ!頂点とは看板の上のこと!頂点に立つ資格があるということは、看板の上に乗る資格があるということ!そして頂点の先である真ん中の道の先に天利がいる!そうとわかればさっさと乗り越えてしまおう。
[ずずずず]
「おおっ?」
上に乗ったら看板が沈んだぞ!つまり、この先の道に進めってことか?どうやら俺の推理は正解だったようだな。
「もっとも、俺以外に真ん中が進めると気づける奴はいないだろうが」
[びょおぉん!]
「は!?うわああああああ!?」
か、か、看板が飛んだー!ってか、今空中じゃんかー!あ、足場みっけ!とりゃああぁっ!
「こ、ここは迷宮の最上階か?ひえー、森の木で気づかなかったけど高いな!あー、もう疲れた」
「よく来た、悟。まさか私の謎を完璧に解くとは思わなかった。一文字の誤字も見破ったのか?」
うげ、天利!そうかそうか、もうこんなところに着いたのか。……って、待ち伏せしてたってことは正しい道がこれなのか?
「ん、誤字?…あ、あれだろ。あの誤字は紛らわしいな。うん」
正直、どこに誤字があったのかはわからないけど。まあ、主人公である俺は知らず知らずのうちにそれに気づいていたんだろうな。だから正直に気づいてたことにしよう。
「まあ、打たなかったようで安心したぞ。私はハンデありの勝負は好まないんだ。どの程度のダメージかは知らないが」
「そのくらいのハンデで結果が変わるとは思えないけどな。一発撃つ程度で倒れるとは思えないし」
「なら看板で打てば良かったのに。上手く打てるように作るのは大変だったんだぞ。皇神は打ち方が悪いらしく、一発で落ちたからな。泡吹いてた」
ほうほう。看板がこの屋上より高く上がったのは、上からたまたま天利を撃てるギミックがあったからか。そういう風に設計されている時点で偶然ではないが、看板の謎を完全に解いたら天利との勝負が楽になるってわけだ。ゲームっぽいいセンスだ。
…この高さから落ちた皇神は少し可哀想だな。
「ま、過ぎたことはどうでも良い。ついさっき雑魚ベーも記紀弥も帰ったはずだ。人質はもういない」
「監視でもしてたのか?人の行動を覗こうとは悪趣味だな」
「そうじゃない。私は私と悟以外を帰らせただけだぞ。物語を操る能力を使ってな」
…物語?自称ラスボスだったから凄い能力を期待してたが、よりによって非戦闘員的な能力だとは。なんだか気が抜けるな。
「さぁ、勝負だ、悟。この勝負でお前が偽者と判れば、消えてもらおう!」
おお?特星市場には偽者の俺が流通してるのか?まあ俺自身、自分の価値の高さは自覚してるけどさ。偽者まで出てくるとは予想外だな。さすがは俺だ。
「まずは小手調べだ。ステータス・ペーパー!」
「先手必勝!水圧分裂砲!」
……俺の攻撃を避けもしないだって!?び、微動だにもしてない。そんなにあの紙には熱中できる話が書いてあるのか!?
「く、効かないとは!」
「お前の最初の攻撃は私のパーティに通じない。そういう物語だ」
「…卑怯だろ!その能力!まさか何でもありか!?」
「んん?いや、そうでもないぞ。私の能力はMPを消費しないと使えないからな。それに使えても所詮は物語だ。期待通りにならなかったり、非現実的なことはできなかったりする」
ということはさっきの攻撃が効く可能性もあったのか。…いや、きっと大丈夫だ。主人公が負けるなんて非現実的なことは起こるはずがない!
「ふむ。彼女になる可能性があるのは、今のところ小学生の小巻という子だけか。少ないな」
「…おい。さっきの技の効果ってなんだ?」
「小手調べ程度のものだぞ?相手のスリーサイズ以外の見たい情報を紙に映し出す物語だ。画像不可」
やっぱりなんでもできるじゃねーか!物語ってつけとけばどうにかなるだろ、多分!
「わかった。水圧圧縮砲!」
「なに!?ぐっ!」
お、効いたな。全部の技を防ぐわけじゃないのか。
「まだだ。チェンジダメージ!私とお前のダメージを入れ替えるぞ!」
また反則みたいな技を!って、あれ?ダメージ受けるどころか大分楽になったぞ。
「ええ!?私のダメージが増えた!?」
「ああ、そうか。ここに来るまでに結構ダメージ受けたからな」
「く。主人公ならノーダメージで来ると思ってたが。期待はずれだったか」
「いやいや。全員ノーダメで倒せたって。それは道で転んだ時のダメージだ」
途中で戦った奴らの攻撃もいくつか受けたが、全部ダメージを与えるには至らなかったからな。俺は強すぎるから仕方ないかー。
「なら並大抵の攻撃は通じないんだな。こうなったら残りMPを強力な一撃に変えるしかないか。それでも私の攻撃一発で倒せるとは思わないが、格好つけないとな」
両手が凄い光ってる!よくわからないが何でも出来るような能力の攻撃技だろ?きっとエクサバースト以上の技に違いない!
「ま、待て。それでこの俺を倒せるわけないだろ?絶対に無駄なあがきで終わる!諦めろ!」
「確かに無駄かもしれないな。でも私はラスボスだ。ラスボスが一度やられただけで負けることはあまりない。その後がある」
「ラスボスの次?隠しボスか!」
「第二形態だ!ラスボスは負けるとわかっていても第二形態になる必要がある!私が小学生の姿をしているのも、全てはこの第二形態のためだっ!」
…天利が小学生なのはその第二形態のためだったのか?ならその第二形態っていうのは、天利が自分の姿を小学生にしてまでなりたい状態!若さのためとかそういうのもあるかもしれないが、天利は第二形態に対して強い執着がある!多分!…一体どれほどのものなんだ?
「見せてやるぞ!これこそが私の第二形態だ!」
うわ、光がとんでもなく強い!ど、どんな姿になるつもりだ!?