十四話 化けたお化け
@雑魚ベー視点@
美しい少女の作る虹が消え去り、春の陽気に可愛い少女が誘われそうな今日この頃。なーんて、ロマンティックな気分ですねぇ!
「先に出発しましたが、悟さんには悪いことをしましたかねぇ?まあ日が出たら勝負開始の約束ですからね。悟さんは寝ている分、体力が回復してるでしょうから大丈夫です、多分」
悟さんとの宝探し対決、勝ちたいですねー。こんな大きな船まで作りましたし。うむむ、でも毬の寺の皆さんには申し訳がありません。徹夜でなんとか瓦礫撤去は終わりましたが、今日は宝探しで修復作業ができませんからね。後で埋め合わせをしなければ。……寺に浮遊要塞の修復ですか。先は長そうですよぉっ!
「それにしても悟さんは船も作らず、どうやって秘宝のある場所まで行くつもりなんですかねぇ?やはり泳ぐ気でしょうか?さすが主人公」
一応、コピーした地図を海岸に置いてきましたけど。よく考えれば水で破けてしまうような気がします。
[どかあぁん!]
「ひえ!なな、なんですか!?」
あ、船の後方から煙が!うう、さ、さすがに短時間で大型船製作は無理があったかもしれません。瓦礫作業の部品とか使いましたし。……とりあえず修理しなければ!
「って、なんですか?植物?」
どうやら、大きな木の枝が集まったものみたいですねぇ。これが煙の元っぽい気がします。なぜ木の枝から煙が出ているのかは謎ですが。
「いてて。残念ながら失敗のようだ」
おや、枝の中から学生みたいな人が。学生服を着る人なんて珍しいですね。この辺ではあまり見かけませんよ。私服か変装のどっちなんでしょうか?学校は基本的に年中休業中のはずですが。
「えっと、大丈夫ですか?落ちたみたいですけど」
「あ、どうも。…この船の持ち主ですか?」
「ええ!私はアミュリー神社に住み込んでいる雑魚ベーですよぉっ!」
「あの神社の?正月は毎年皆でお世話になってます。俺はクゥ。秋方町という町の高校生です」
毎年来てくれてるとはありがたいですねぇ。正月は結構な人がくるので覚えはありませんが、今度来たときにはわかるようにしたいですねぇ。秋方町といえば、神社からだと瞑宰京に行くのと対して変わらない距離のはず。暇つぶしに行くのもいいかもしれません。
「おっと。船が汚れましたね、すみません」
あ、隅に木の枝を除けてます。うーん、どうみても煙が出そうにありませんけどねぇ。砂煙でもなさそうです。
「その煙が出てる木みたいなのはなんですか?一緒の落ちてきたということは飛行機ですかねぇ?」
「それは葉鳥翼君一号。木の枝と葉と蔓で作った空飛ぶ飛行機だ。…失礼、飛行機です」
「ああ、別に私相手に敬語なんて必要ありませんよぉっ!」
「うーん。でも年上らしき人にはつけておきたいので気にしないでください」
おお、なんだか常識的で逆に変な人ですねぇ。木の枝と葉と蔓の飛行機で海のど真ん中まで来ている時点で、変な人であることには間違いないでしょうが。
「その飛行機を飛ばす技術があれば、浮遊要塞に新機能がつけれそうですねぇ。…クゥさん!その植物を飛ばすコツ、勝負で私が勝ったら教えていただきますよぉっ!必殺、カムトラップ!」
ふっふっふっふ。このカムを仕掛けた布陣を抜けられますかね?この技で出したカムは移動しません。よって私に近づいて攻撃するには、このトラップを潜り抜ける必要があるのですよぉっ!
「って、熱い!?」
ええ!?辺りにばら撒いたカムが動いています!これはおかしい!…いや待ってください。私たちは船で海上を動いてるわけですからー。空中に固定するトラップを仕掛けても、仕掛けた場所を通り抜けますよねぇ。しかも私の周りに仕掛けたら自滅するじゃないですか!
「ひええぇ!自滅なんて情けないことできませんよぉっ!」
今までに何度か自滅した気がしますけどね。でも、元海賊として船の上での自滅は避けなければなりません!海賊の頃に船の上で自滅した気もしますが。
「よく判りませんが、俺のアイディアをただで渡す気はありません。助けてもらったことは感謝します。でも、戦うなら全力で行きます。目もくらむ舞い葉!」
おや、あの木の枝は腕に装備するものでしたか。ただ、甘いですねぇ!なぜか葉っぱを撒き散らしていますが、そんなものは船の移動で通り過ぎます!つまり少しの間しか目くらましにはなりません!
「残念ですねぇ。葉っぱを撒き散らしたところで無駄です!海くらいしか逃げる場所はありませんよぉっ!」
仮に攻撃するにしても、近づけば葉っぱの動きでわかります!まあ、本当に海に逃げたらむしろ厄介ですけどねぇ。救出を考える必要もありますし。…あれ、いつの間にか葉っぱの雨がやんでますね。
「あれ?クゥさん?」
あ、あれー!?さっきまで居たところにクゥさんが居ません!まさか本当に海に飛び込んだのでしょうか!?
「隙あり。…急降下する葉鳥翼!」
「へ?ぐふあっ!?」
ぐうぅっ!う、上から!?ぐ。
「ん?あれ?ここは?」
ここはどこかの森ですかね?え、でもどうして森なんかに?…船はなさそうですね。当然といえば当然ですが。って、うわ。全身ずぶ濡れじゃないですかぁ。うむむむむ、特星だけど風邪を引きそうです。
「あ、目が覚めたみたい」
「タフねー。船に穴が空いてたからダメージも大きいと思ってたわ」
おおおおぉっ!可愛らしい少女が二人も!どうやら小学生と同じくらいの年齢みたいですねぇ。しかも普通の人とは違う気配が感じられますよぉっ!
「どうも初めまして。私はアミュリー神社に住んでいる雑魚ベーですよぉっ!」
「え?アミュリー神社?へー、あの島の住人なんだ。あ、私は可美 夜沙。二人でお宝探しにこの島に来たんだよ」
「私は千華魚よ。あなたが船ごと沈みそうだったから助けたの」
ああああー、船が沈みかけだったんですか。クゥさんの一撃、凄い威力だったんですねぇ。私のジャンピングキックより強そうです。……にしても、この二人も宝探しですか。やはり悟ンジャーの秘宝が狙いですかね?だとしたら、この子たちに秘宝を譲るか、記紀弥さんにプレゼントするか。ぬぬ、これは迷いどころですねぇ。
「いやぁ、助けていただいてありがとうございます。よければ、私の用事が済んだ後に神社に来ませんか?食事でもお礼にご馳走したいのですが。あ、もちろん小学生はいつでも大歓迎ですよぉっ!」
「歓迎らしいよ。どうする、千華魚?」
「歓迎ねぇ。その言葉、私達の正体を知っても取り消さないかしら?」
残念ながら取り消しなんてことはありえませんねぇ。なぜなら私の神社は小学生以外でも結構歓迎してるからです!悟さんや記紀弥さんなどの常連クラスの人もいますからねぇ。
「まあこれを持ってたからには、まずはどっちが宝を見つけるのか勝負だよ!」
って、この物体は?あ、わかりました。おそらく私が持っていた宝の地図ですね。水で濡れてぐしゃぐしゃになっちゃってますけど。
「まあいいでしょう!秘宝は私が頂きますし、あなたたちは神社へ招待しますよぉっ!必殺、カムトラップ!」
さあ、この大量に設置したカムの布陣を抜けられますかねぇ!?船での戦いの時は船が動いてたから自滅しましたが、今回は乗り物での戦いではないので大丈夫ですよぉっ!これであの子達は私に近づけばダメージを受けます!
「目に見えるトラップなんて意味がないわ。水流、地形変動の激流」
うわ、凄い水流!でも水流くらい避けれます!って、周りにカムトラップがあるから動けませんよぉっ!
「うわああ!いたーっ!」
いたたた、結構強く頭を打ちました!木には注意しないと。それにしても遠距離攻撃とは考えましたねぇ。
「なるほど。あのカムとかいう技は水や風の影響を受けないのようね」
「土の壁でも防げないんだね。注意しておくよ。八方塞がりの土壁!」
うお、周りに土の壁が!?でも上ががら空きですよぉっ!
「しかし私のジャンプ力を見くびってもらっては困りますねぇ!」
「させないよ!落石、大岩落下!」
「へ?うわ!」
うぐぐぐぐ、お、重いですよぉっ!この二人、戦闘慣れしている気がします!
「私は力を溜めるわ。もう少しお願い」
「オッケー!自分の技を受けさせてあげるよ!必殺、迫り来る土壁!」
いたた!地面!地面引きずってますってぇ~!た、多分土の壁が動いてますね!あたたた!いたーい!
「って、熱い!カムが!」
「あ、ここだね」
カムのところで止めないでくださいよぉっ!熱いですよぉっ!しかしカムは一定時間で消えるはずなので少しの我慢です!
「あ、消えちゃったね」
「た、助かりました」
な、なんとかカムが消え去りましたか。まあ外のカムも消えたので気づかれちゃってますが。しかし私の上の大岩が邪魔ですねぇ。
「時間は十分よ!喰らいなさい!必殺、水々しき水流砲!」
ひえ、水が!うぐぅ、い、息もできません!でも木の根っこに掴まれば何とか流されずに済むはず!……って、うわ!前から大量の岩が!ひえええぇっ!
「もう限界よー」
な、なんとか水の流れが止まりました。あ、私の上の岩もいつの間にかありませんねぇ。確かに強いですが、やはり特殊能力の腕前は一般よりは強い程度でしかありませんねぇ。
「でもさすがにもう相手は限界じゃないかな?大人しく帰るなら見逃してあげるよ」
「げほ。…いえいえ、心配要りませんよぉ。このくらいのダメージなら日常的に受けてますからねぇ。あなたたちは質系の能力者ですね?」
「まあね。私は水を操る能力を扱うわ。夜砂は地を操る能力よ」
「私は地を操るといっても、岩や土壁を作るのが限度だよ」
まあ戦っていれば大体わかりますけどねぇ。特に質系はわかりやすいですし。
「ふ、まあこれでも実力は強いつもりよ。さっきの技の威力を見たでしょ?」
「ええ。確かにあの技なら普通の勝負では勝てるでしょうねぇ。…しかしもう少し特訓したほうが良いですよぉっ!必殺、低空ジャンピングバックチョップ!」
私の回転と勢いからの攻撃!防ぎきれますかねぇ!?
「きたわ!夜砂!」
「うん!必殺、厚壁土壁!」
全方向を守る土の壁ですか。しかも厚そうです。でも、この技にはそんな壁など無意味ですよぉっ!…ほら、削りきりました!そして後頭部ががら空きです!
「せい!」
[どかあぁっ!]
ふ、見事にふっ飛びましたねぇ。いやー、強かったです。
「う、んん?」
おや、千華魚さんが先に目を覚ましましたか。
「あ、おはようございます。もうお昼くらいになってしまいましたが」
「ああ、負けたんだっけ。海で溺れて疲れてそうな奴に負けるなんてねぇ。私もまだまだだわ」
「いやいや、強かったですよ。攻撃する暇がありませんでしたし。でももっと強くなるなら神社の小学生の子達を相手にするといいかもしれませんねぇ。雨双さんって人が氷技を使ってましてね。水使いのあなたならなにか得られるかもしれませんよ」
千華魚さんの水流砲は、雨双さんのアイススイートと似たタイプの必殺技ですからねぇ。
アイススイートのように溜めなし広範囲な必殺技になるかもしれません。もしくは私の必殺技風に水流からキックもいいですねぇ!自滅しそうですけど。
「あなたは私を単なる小学生だと思ってるようだけど違うわ。私の種族は人じゃないの。…私の種族は名前と同じく千華魚。ほぼ絶滅気味の魚ね」
「おおおおぉっ!ということは擬人化ですか!?擬人化人魚さんですか!?」
「ふっふっふ、やはり驚いたようね。まあ無理もないわ。最近ではモンスターですらほぼ居ない生活の中、人に化けてる可能性が出てきたんだからねぇ。まあ化けさせてもらったんだけどね」
そういえば、特星エリアはモンスターがいるエリアだとか聞いたことありますねぇ。今では小学生が多いエリアのイメージが強いですけど。擬人化少女も小学生の中に含まれていたんですねぇ。
「ということはあれですか?セオリー通りに擬人化少女は差別されてるとかですか?」
「そんなわけないじゃない。この星に住むような物好きばかりの連中なのよ。そいつらが擬人化だからどうとか言っても説得力がないわ」
「それもそうですね。…ならどうして正体がばれたら招待を取り消されると思ったんですか?」
特に擬人化がばれても、私が招待を取り消す理由が思い浮かびません。むしろ擬人化少女は大歓迎なくらいです。それとナイス駄洒落ポイントですよぉっ!
「もし神社に気の弱い子が居たら怖がるかもしれないでしょ?一応、副業でこの星のモンスターやってたのよ」
「怖いものがなさそうな子しか居ませんよ。擬人化モンスターどころか幽霊の友人がよく来ますし」
「ど、どんな環境よ。…ああ、神社って幽霊の居る寺の近くだったわね。今日にでも会ってみるわ。神社へ特訓に行ったついでにね」
「いい人たちが多いですよぉっ!それでは私は先に進みますので、神社でまた会いましょう!」
「おや、洞窟ですねぇ」
こんな森の中に洞窟が。いつの間にか山道になっていたようですねぇ。洞窟といえばお宝!ここに眠っている可能性がありますよぉっ!
「とにかく入ってみましょう!」
うわー、やはり中は真っ暗ですねぇ。懐中電灯くらいは用意するべきでしたか。いや、まあ流されてたでしょうね、海で。……うむぅ、曲がり角も多いようです。もう出口が見えませんし、出るのにも苦労しそうですよぉ。そもそもこの暗さだとお宝を見つけるのも大変ですよね。
……いつものパターンだと、そろそろ少女とであって勝負になるはずですね。洞窟内からは見知らぬ女子小学生オーラが出ています。単純に探すだけでは終わりそうにないですねぇ。
[がんっ]
「痛いっ!な、なんですか!?」
うぅ、足首をぶつけました。よく見えませんが、足元になにかありますね。これは箱でしょうか?
「ふふふふふ!よく来たな雑魚ベー!しかし俺の方が速かった!」
[ぱあぁっ]
ま、眩しい!光がついた?それに今の声は悟さん!……うー、やはり海で溺れていた時間は大きなタイムロスでしたねぇ。
「ああ、遅かったですか。記紀弥さんには私からプレゼントしたかったんですがねぇ」
「雑魚ベー。お前は確かに凄い。お前自身は弱いのに、特星では強い小学生から信頼を得ている。正直、お前は主人公の俺より信頼されているはずだ。女子小学生にはな」
「んん?…そうですかねぇ?私が少女との信頼を築けるのも、悟さんが神社通いしているおかげだと思いますよ。私も人気のために半袖コートでも着ましょうかねぇ?流行らしいですから」
少女が悟さんと出会い、そのついでに私と出会う。この流れは結構多いですからねぇ。私一人の頃は、少女と出会っても吹っ飛ばされるだけでした。今では一緒にお風呂とか入るくらい親しいですが。
「え、本当に流行なのか!?ふん、ファッションで着るのはどうかと思うがな。コートってそもそも防寒具だし、なぜ半袖なのかわからん」
「んー。実際に着ていた悟さんに言われても説得力はないですけどねぇ。…そういえばコートを着替えたりする時、キャッシュカードを無くさないんですか?同じコートばかりだと紛らわしいと思いますけど」
「え?ああ、無くすわけないだろ。…ほらキャッシュカード」
「ちょっと本物か確かめたいんですが、貸してくれませんか?」
「何で疑ってるんだ?まあいいけどな。はい」
お、差し出してきましたか。まあ別にキャッシュカードが本物でも偽者でもどっちでも構いませんがねぇ。ただ、一つだけ判ったことがあります。
「あなたは悟さんではありませんね?黒悟さんなのか、それ以外のなにかなのかはわかりませんが」
「え?…なんでそんな結論に?」
「まずあなたは自分自身を信頼できていませんでした。少女からの信頼の話で、私の方が信頼されているといいましたよねぇ?本物の悟さんなら、自分が信頼されていることを正しく見極めるはずです!自分より私が信頼されてるなんて言うはずありませんよぉっ!」
「まあ、そうだな。正しいかどうかは別だが」
ふ、これだけであれば、今日の悟さんはちょっとうつっぽいだけという可能性があります。しかし、私がその後にたずねた質問の答えも決定的に変でした。
「それに半袖コートの話。本物の悟さんのコート集めはファッションも兼ねてます。緑色のコートを着るのはファッョンだとよく聞かされますねぇ。ふりふりコートは緑色でも、似合わないからファッションに向かないと言ってました」
「うん?あー、似たような会話はどっか聞いたな。お前との会話じゃなかったけど」
私はふりふりコートの方が好みですけどねぇ。着心地のよさは抜群ですから。ただ売ってる店がほぼないのが欠点ですねぇ。悟さんから譲ってもらうのが一番簡単かもしれません。…自作でしょうか?
「そして最後はお金です。金銭管理をしっかりしている悟さんですよ。簡単に私にキャッシュカードを渡そうとするのはおかしいですよぉっ!」
「…そんなにもミスを見つけたのか。なら言い逃れはできないな。予想通り俺が黒悟だ。悟から宝の地図について聞いてな。さあ、秘宝が欲しければ奪ってみるがいい!」
なるほど。だから悟さんに変装して、堂々と秘宝を横取りしようとしたわけですねぇ。変装していたかどうかはわかりませんが。しかし、よく考えれば私に用があるか、宝を取りに来た人に用があるかのどちらかですよねぇ。何か用でもあるんでしょうか?戦いたいだけかもしれませんが。
「まあ、良いでしょう!一人の小学生にプレゼントをあげる為にも、この勝負は私が勝ちますよぉっ!」
「お前の強さを確かめてやろう!正夢、幻の夢世界!」
暗くなったり明るくなったり目に悪そうです。…って、あれ?ここは?
「ここはなんですか!?」
「誰が教えるか!予知夢、針山ロード!」
「へ?うわぁっ!」
じ、地面が針だらけに!あ、でも針の上にいるのにまったく痛くありませんね。なぜでしょう?とりあえず、オーバーに驚いて損しましたねぇ。
「安心してるようだが甘いなぁ。予知夢だから時間差攻撃に決まってるだろ。近い未来に激痛がお前を襲う!」
「そうですか!なら空中攻撃ですよぉっ!必殺、ジャンピングキック!」
[どかっ!]
「痛い!」
あ、頭がなにかに当たりましたよぉっ!おかしいです、何もないはずなのに。って、うわ、しまった!針が全身に!…あ、さっきの足へのダメージが今来ましたぁ!む、でもそこまで痛くありませんねぇ。なんというか、タワシ的な痛さです。あ、今度は全身にタワシみたいな痛さが。
「ん?何で落ちた?まあいいか!悪夢、恐れる出来事!」
うわ、今度は周りがアミュリー神社に!しかも大量の少女たちがいますよぉっ!複数の女子小学生オーラも確かに感じます!
[雑魚ベーさん、結婚しましょう!]
[いえいえ私と結婚するべきです。それは決定です]
〔…………私となんてどうでしょう?冗談ですが〕
[私だ。私を選ぶんだ、雑魚ベー!]
「ちょっと待ってくださいよぉっ!私はまだ結婚とかそういう段階まで考えてませんし、そもそもあなたたちとは初対面ですから!もう少し親交を深めることからはじめましょう!」
「って!どこが悪夢だ、この野郎!」
「ぐはあ!」
いたたた、アッパーされてしまいました。自分で技を使っといてあんまりですよぉっ!にしても危ないところでした。一度にあんな大勢の少女に求婚されるなんて、どの人を選べばいいのか物凄く迷います。
「それにしても中途半端な技ばかりですねぇ。悟さんの話ではもっと凄い技が多いと聞いていましたが」
〔……それは能力の使用者に夢がないからです。あの能力は使用者の夢の大きさで、威力が変わりますからね〕
「記紀弥!?」
「記紀弥さん!?って、あれ?黒悟さんの声が?」
黒悟さんが記紀弥さんの名前を叫んだ時、女の子っぽい声になってました。辺りには他に誰も居ないので、間違いなく黒悟さんの声のはず。……そもそもさっきから変なんですよねぇ。なーんか、黒悟さんから見知らぬ女子小学生の気配が漂っているような気がしますし。
〔…………遅れてすみません。初対面の人を危険なことに巻き込んでいるのですから、もう少し急ぐべきでしたね〕
「へ?…あ!さっきの幻覚のときの声はやっぱり!」
さっきのもてもて状態のときに聞こえたんですよねぇ。記紀弥さんの声が。あと、知らない小学生の気配に、記紀弥さんの気配も混じってた気がしてたんですよ。うぅ、幻覚じゃなかったんですね。
〔………隣に居たのですが、気づかなくても仕方がありません。なんせ私たちは初対面ですから〕
記紀弥さんが拗ねてます!ジト目でこちらを見つめてます!…珍しいことなので凄く嬉しいのですが、ここは素直に謝っておきましょう。
〔……彼女は千宮 咏。神酒の妹の霊です〕
「え、黒悟さんが?神酒さんの?」
「ふ、ばれたみたいね」
謝るタイミングは逃してしまいましたが、驚きの新事実です!まさか神酒さんに妹が居たなんて予想外です!そして黒悟さんが妹ってことはないでしょうから、きっと変装とかそんな感じでしょう。本来の姿を見てみたいですねぇ!
「そう、私は毬の寺の副リーダーだった。寺での地位なら姉より上だった。でも辞めたの。副リーダーとは名ばかりで、雑用係をやらされてたからね」
あ、過去話に入っちゃうんですねぇ。あまり自己紹介もしてないのに。
〔………否定はしません。でも、なぜ辞めたのですか?知っての通り、毬の寺はサボり自由な寺です。あのキールでさえ、サボりながらも辞めずに寺に住んでいます。それほど雑用が苦痛でしたか?それとも神酒の雑用を増やさないため?〕
へー、毬の寺ってサボり自由だったんですねぇ。ということは神酒さんは自ら雑用係を引き受けているわけですね。…帰ったら寺の修復をまた手伝いましょう。
それにしても、黒悟さんから咏さんの声が出ているのは、気分がいいものではありませんねぇ。ギャップがありすぎですよぉっ!
「毬の寺には一つだけ暗黙のルールがある。それは寺の中では人のお菓子を食べてもいいこと。そのルールのせいで、私のとっておきのドーナツが食べられたの。記紀弥、あなたにね」
〔………私があなたのお菓子を食べたのは、あなたが辞めた日が最初で最後のはず。なるほど。食べ物の恨みというわけですね〕
神酒さんの家系の人は皆お菓子が大好きなんでしょうか?神酒さんもお菓子を取るとやけに怒りますよねぇ。寺を出ていくほど美味しいドーナツなら、私も食べたいですねぇ。
「あのドーナツは当時、二万セル以上の値がつくレア菓子だった。それを食べたなんて絶対に許せない!」
〔…………そのドーナツ、今では同じものが七十セルで売っています。しかも一箱に二十個入りで二万セルの内、一つを食べたに過ぎません。あなたは一箱に十個入りで五十万セルのお菓子を、全て食べたじゃありませんか。ストック含めて合計五箱も。さすがに泣きましたよ?…お互い様です〕
「く、まさか気づいてたとは思わなかった」
〔………お菓子の箱に落書きが残ってましたからね。名前入りで〕
「う。…バカだ、私!そういえばそんなの描いた気がする!」
頭を抱えて困った様子ですが、姿は黒悟さんなので可愛くはないです。なんで黒悟さんの体なのに女の子の声が出るんでしょうかねぇ?幽霊って不思議です。
「ああ、よく考えたら凄く得な職場だったのね。戻る気はないけど。こうなったら、今度こそ強い奴に憑依して、違う目的で寺を乗っ取ってやる」
お、変装ではなく憑依してたんですか。そういえば夢を操る能力っぽいのを使ってましたよぉっ!
「おや、寺を乗っ取るつもりだったんですねぇ。それなら神社に遊びに来ませんか?強い人がたくさん集まりますよぉっ!」
「神社?そんなのあったっけ?」
〔……寺の近くに最近できたのですよ。私の寺はどんな霊でも歓迎ですから、いつ戻っても構いません。しかし、寺を乗っ取りにきたときは返り討ちにします〕
〔ふん。あなたたちのお菓子は私がいつかは頂く。覚えておくことね〕
あ、倒れた。そ、それよりさっき可愛らしい霊が見えましたよぉっ!いやぁ、また会うのが楽しみですねぇ!
「あ、ところで黒悟さんは大丈夫ですか?」
〔………意識がないですね。悟さんのところに話しにでもに行ってるのでしょう。そして無防備なところを憑依されたという流れでしょうか〕
「へー。悟さんと話してる時は体から離れてるんですか。黒悟さんも霊の一種なんですかねぇ?」
〔…………霊ではないですね。まあ咏みたいなものですが。ところで秘宝は取らないのですか?〕
「あ、そうでした。その秘宝のことで記紀弥さんにお話がありましてねぇ」
さっき気づいてあげれなかったこともありますからね。謝罪の意味も込めて、この秘宝は記紀弥さんに送りますよぉt!
うーむ。もうすっかり夕方ですねぇ。にしても、こんなに早く咏さんと出会えるとは思いませんでしたよぉっ!神社の皆には一通り会ったようですねぇ。…あとで向こうの女の子たちのように戦うんでしょうか?
「それで記紀弥はプレゼントを受け取ったの?」
「いえ。寺にはその武器を使える人が居ないから、と言われて返されました」
「でしょうね。だからこそ私はあの宝の近くにいたの。記紀弥たちに会わず、秘宝を使える強い相手に憑依するためにね。でもあの地図を寺に置き忘れたのは予想外だったわね。コピーをばら撒いたからって油断してたわ」
その結果現れたのは私と記紀弥さんと黒悟さんだったというわけですか。黒悟さんなら、悟さんが聞いていた話を盗み聞きできますからねぇ。まあ地図なので盗み見ですが。
でも秘宝が曲刀二本だけとは思いませんでした。てっきり黄金などがあるのかと。…これは海賊の持ってるサーベル的なものともいえますから、私が使うことにしましょうか。元海賊ですし。カムを出すのに便利そうですからねぇ。
「ところで咏さんは何の霊ですか?さっき記紀弥さんが、どんな霊にでもなれる霊だったって言ってましたけど」
「ああ、今の私は悪霊よ。ただ本来はお化け。お化けが化けてる悪霊ね。もう戻れないけど」
「悪霊ですか?一体どうして悪霊に?」
「特訓不足かな。でも寺を出た頃は自縛爆霊にしかなれなかったの。そしてそれが嫌だから強い人に憑依していき、レベルアップして悪霊にも化けれるようになったわけ」
一度化けると元に戻れないんですか。それならもっと特訓や修行をして、強そうな霊になればよかったと思いますけどねぇ。
「ちなみに記紀弥もお化けね。お化けを極めるつもりらしいわ」
「極めたらどうなるんですか?」
「他の霊に化けてもお化けに戻れるらしいよ。化けれる霊の数も凄く多いから、お化けを羨ましがる霊も多いの。その分、修行や経験はたくさん必要だけどね。自縛爆霊を操れば一人前、普通の実体化ができれば上級、記紀弥クラスだと結界を扱うから、特星ではトップクラスね」
さすがは記紀弥さん。他の霊を従えてるだけあって強いんですねぇ。神酒さんやキールさんも実体化できるから上級クラスなんですねぇ。お化けじゃない霊かもしれませんが。
「私なんか悪霊になって、やっと普通の実体化を覚えたのに。まあお化けのときも他人に憑依はできたけどね。それは補助系の特殊能力である、生物に憑依する能力があったからこそできたの。今度は悪霊として、特殊能力なしで憑依できるレベルにまで成長してやるわ。そして寺を乗っ取る!」
うーん、乗っ取るどころか今は壊れちゃってますが。まあ応援しておきましょう。
「…そういうわけで、特訓するわよ!」
「そうですか?なら私も手伝いますよぉっ!」
「さすが補助系ね。話がわかる。なら実体化した私と勝負だ!」
咏さんも神社で多くの人と出会って、寺を乗っ取るなんて考えは忘れてくれれば良いのですが。まあアルテさんだって世界征服するといいつつその気配はないわけですから、咏さんもそのうち寺の乗っ取りは諦めるでしょう、きっと。
「ん?そこの君は寺を乗っ取りたいの?なら私と特訓しない?世界制服のアイディアを、寺の乗っ取りに応用できるかもしれないよ?」
「それは本当!?なら私の特訓に付き合ってもらうわよ!」
…あ、諦めてくれるといいんですけどねぇ。私は寺の修復を手伝ってくるとしましょうか。記紀弥さんに今日は休んでいいと言われたのですが、やはり手伝いましょう。
〔…………では、悟さんを迎えに行ってあげてください。落ちていた海賊船に乗って漂流したらしいので〕
「あ、忘れてましたよぉっ!」
居ないと思ったら漂流してたんですか。相変わらずですねぇ。