十二話 空にかかる虹とその頃の誰か
@どこかの誰か視点@
暖かい日差しと桜の花びらを散らす風で眠くなるこの季節。私は道に迷いつつも恐らく目的地に近づいていた。そう、もうすぐお兄ちゃんに会えるだろう。
私が現在居る場所は判らない。ただ目の前には豪華そうな席に座る女の子が一人。小学生低学年くらいに見える。同い年かもしれない。
「え?あれ?私以外の人がどうやってこの部屋へ?ってか誰ですか!?」
どうやら動揺している様子だねぇ。ただ怪しまれるわけにはいかない。この子はなんとなく私と似たような性質な気がするからこれは友達決定だね。
「私は名前を隠す工作をしているから名前は言えないんだよねー。ちなみに偶然通りかかっただけだよ!」
「そこのドアは私でないと通り抜けられないはずですが。…あ。私の名前は神離 御衣です。こんな字なのでお間違えなくー」
空中に文字を映し出される。
神離 御衣?途中で会った魅異ちゃんの知り合いかな?ということはお兄ちゃんについてもなにか情報を持っているかもねぇ。
「あ、そのコート。もしかして雷之 悟さんの家族かなにかですか?」
しまった。名前を隠して進入したのに服装でばれちゃった。…さっきから特殊能力で私のことを調べつつ、考えや行動を読もうとしてるみたい。そのうち気づかれるだろうから、多少は教えてあげようかな。
「妹かなにかだよー。もっとも名前を教える気はないけどねぇ」
「折角会ったんだから名前くらいいいじゃないですか。名前が駄目なら特殊能力だけでも教えてくださいよー」
「無理に探し出そうとしなければ教えていたけどなぁ。特殊能力は」
そこまで言ったところで御衣ちゃんは能力を使うのをやめる。普通に訪ねただけなのにどうしてここまで警戒されてるんだろう?やっぱり服装が原因かなぁ。
「気を悪くしたのなら謝りましょうか?」
「いやいや。いきなり訪ねたこっちにも少しは非があるからね」
そもそも謝るか聞く時点で反省はないだろうからね。…それなら自分の非を認めた私は損をしてるような。さっきの発言取り消そうかなー。
「ええっと。まずはここに用があって来たのですか?」
「だから違うよ。お兄ちゃんに会いに行く途中で通りかかっただけ」
随分前に特星にお兄ちゃんと一緒に着いて、その後迷子になって、今日まで迷い続けてたっけ。別世界にも迷ったなー。…よく考えるとこれって凄いことだね。
「ここは特星本部と呼ばれる場所でしてね、特星のお偉い人がたまに集まるんですよ。それと変な人も多いですね」
「へー。じゃあ御衣ちゃんも変人だったのか」
「どちらかといえば偉人ですよ!ここの本部長ですから私!」
おおー。小学生で本部長とは予想以上に偉そうだ。学校の班長みたいに誰もやる人がいなくて押し付けられたんだろうなぁ。どこが偉人なんだろう?
「んー。少し外を見てください」
御衣ちゃんに言われて外を見る。…草原が広がっているねぇ。それにこのビルよりも低いビルがいくつかみえる。なんだか特星って草原多いよね。
「なるほど。他より高いところにいる御衣ちゃんはバカだと」
「煙ですかねー。私、軽いですから」
財布でも軽いのかな?今度ジュースでも奢ってあげよう。
「えー、答えを言ってしまうとここは特星ではないのです。瞑宰京から出入りできる別世界のようなものなのですよ」
「そういえば前に裏ステージってところに迷ったなぁ」
「ここは裏ステージでもありませんよ。裏ステージの瞑宰京へ出入りすることは可能ですが」
ということは、表ステージと裏ステージ繋ぐ正規ルートの一つがここなんだね。私もとして一度は正規ルートで裏ステージにいかなくては!お偉いさんが行き来する建物だから道中にお宝とかありそうだよねぇ!まあ無欲な私はお宝なんてオマケでしかないけど!
「さて、無欲な私は用事があるから帰るね」
「…それは困りますねー。あなたの強さは私と同等。特星で五番目くらいの強さですね」
やっぱり口が軽いなー。そもそも強さなんて勝負方法にもよるけどねぇ。例えば暗記問題の勝負なら上位五位以内の順位でさえ多少は変動しちゃうわけだね。
「ちなみに五位までの名前は全員わかる?参考程度に聞きたいなぁ」
「え?そうですねぇ。あなたの名前を聞かせてくれたら教えますけど」
名前を隠す工作をしてるから本当に無理なんだけどねぇ。ならばぎりぎり私の正体がばれないような情報を出しておこう。
「代わりに称号を教えるね。私のは迷子専門冒険者だよ」
この前子どもになったお母さんと会ったときに貰った称号だけど、名前を名乗るときに一度も使った記憶がないんだよねぇ。なんだか情けない称号だから仕方ない。
「冒険者だったんですか。これらは自称ですが、一位が勇者社社長。二位が特星の奇才天才超絶スペシャル美少女。三位が平和ボケ魔法使い。四位が私で特星のお偉いさん。五位が四位と同着で迷子専門冒険者。といった順位です」
同着なのに御衣ちゃんの方が順位が上なのが気に食わないなあ。一位や二位は見ての通りだけど三位は一体誰だろう?自称で平和ボケってついてるからボケなのかな。ちなみに私はつっこみ。
まあ御衣ちゃんが通さないつもりなら、用事が済むまで待っててあげよう。好感度を上げればもう少し詳しい話を聞けるかもしれないからね。
「ついでに六位は少女の神様。七位は悟ンジャー界のお化け。八位は和風旅人。九位は夢を作る初代悟ンジャーブラック、十位はあだ名こそアルテ アルティメット少女。…上位三位は不動でしょうが、それ以外はある人物と関係の深い人をチョイスして選んでいます。ちなみに頻繁に更新しますのでたまには聞いてくださいね」
…軽いのは口だったようだねぇ。私も順位に入ってる時点で誰が中心か大体判るよ。…でも何の順位なんだろう?能力の便利さランキング?…それならお母さんも入るかな。
@悟視点@
桜の花が風で舞い散るこの季節。俺は毬の寺でのんびりと毎日を過ごしていた。春休みといえばバカンス。春のバカンスといえば毬の寺だ。花が多い割になぜか虫が少ないからな。
今日寺に居るのは俺と留守番の神酒のみ。記紀弥は今日の夜桜の花見に備えて買い物に行っているらしい。普段は神酒が行くらしいが、今日はサプライズ企画があるとかで記紀弥が一人で買い物中なのだ。
「で、私の桜餅を食べた理由は?」
そんなバカンス中にもかかわらず俺は神酒に斬られそうな状態だ。桜餅を食べながら寝転がっていたらいきなり踏まれた。桜餅の一つや七つくらいで大人気ないぞ。まあ合計八個食べたけど。
「お客用っぽく出してあったら普通食べるだろ」
「私は確か宝箱に鍵をかけて入れたはずだが」
主人公が宝箱の中身をいただくのは礼儀中の礼儀だろ。特に特星では。確かに宝箱の鍵を壊して開けたことに関しては俺に非があるけどさぁ。
というか本当に斬られそうだ!このままでは俺のポケットの中のキャッシュカードまで危ない!
[ざあああああ…]
財産の危機に直面しているこのタイミングで雨が降る。まさかこの雨の中追い出されるのか!?俺のような人は賢いから風引きやすいんだぞ!まあ防水コートだけどな!
「しまった!洗濯物を取り込まないと!」
神酒は外に干してある洗濯物を取り込みに出て行く。ふふふ、俺ほどの主人公は恵みの雨を呼ぶことができるのだ。今が実例。
〔それは凄い。じゃあツッコミ役は悪役扱いか〕
幽霊でないこの声はボケ役だな。というか俺が悪役?またなにか発生するのか。そして原因はこの雨というわけだな。ナイス推理。
〔単純だなー。見かけに騙されるタイプだ〕
「ふー。これで全部か。…ああ!」
大量の洗濯物を取り込んだ外を見て大声をあげる。なんと外の雨が降り止み、遠くに大きな虹が出ていた。だが物凄く遠くにできているようだ。
「私が洗濯物を取り込んだ途端に雨が止むなんて、天気は私に恨みでもあるのか。…仕方ない」
落ち込んだ様子で神酒は洗濯物を干しに再び外へ出る。俺もついでに虹を見るために外へ出る。辺りは濡れているが空は雲ひとつない晴天だ。
「狐の嫁入りか?」
「私が知るか。でも雨が降ってる時も日が差してたな。周りの三つの虹には流石に驚いたが」
「え、三つ?」
「見ろ。同じ大きさの虹が三つあるぞ」
神酒に言われて周りを見回すと、正面の虹のほかに左右の空にも虹が出ている。左右の虹はそれぞれ微妙に大きさが違って見える。
んー、三つの方向の空に見えるということはあれだ。
「神酒、ちょっと屋根まで飛ばしてくれないか?」
「私は忙しいんだが」
「うーん、無理なら大花火圧縮砲で飛ぶか。土煙で洗濯物が汚れるかもしれないけど」
「…仕方ないな。お菓子食べられた分も含めてー、飛ばし斬り!」
神酒の技で尻近くを斬られて屋根よりちょっと高い場所まで吹き飛ぶ。痛い。普通に飛ばせるのにわざわざ斬るなんて酷いやつだ。食べ物の恨みは怖い。
なんとか屋根に着地。すると毬の寺が邪魔で見えなかったもうひとつの方向の空が見え、虹がかかっている。
「四方向に虹か。間違いなくなにかありそうだな」
前みたいに願い事が叶ったりするかも知れない。ならばこれはいくしいかない!まあ別に願い事やお宝なんて無欲な俺は興味ないけどさー。でもまあ怪しいからいくしかないなー。
「神酒!無欲な俺は急用ができた!記紀弥が帰ればまた後で遊びに来るって言っといてくれ!」
「わかった。私のお土産は千セル程度のお菓子で頼む」
…まあ神酒の桜餅は一つ千セルの値札がついてたし、同じ千セルで平等というわけだな。…でもそれだと斬られた分が損じゃないか?
〔ボケ役って何個食べてたっけ?〕
とりあえず毬の島の勇者社から他の勇者社へワープしよう。今はワープ屋が春休み無料サービス中だからお得だ。もっとも俺の学校は夏休み中だけどな。
勇者社の入り口前。どうやら四つの虹の秘密を探るつもりなのは俺だけじゃなかったようだ。まああれだけ大きければ他に狙う奴が現れるのも当然だが。
そして入り口で偶然会ったのは雨双だった。
「悟か。もしかして四つの虹について探ってるのか?」
「それは当然。あらゆることに首を突っ込むのが主人公だからな。雨双はあれだろ?悟ンジャーレインボーへの転職」
「そんなよく判らない目的で私がくるわけないだろう。虹を見てアミュリーがどっかに行ったんだよ」
なるほど。悟ンジャーレインボーの座を狙う奴は一人じゃないのか。だが虹色のような人気色は半端なやつには任せられないなー。
「とにかく!アミュリーはあの虹を気にしてた!この問題は私一人で何とかするから悟は春眠していろ!奥義、アイススイート!」
「いきなりか!大花火圧縮ジャンプ砲!」
地面に大花火圧縮砲を撃って空高くジャンプする。しかもこの技は土煙により俺の居場所を隠す効果があるのだ。もっとも土煙はアイススイートに飲み込まれて凍ったが、それでも俺の場所は判ることはない!
「避けられるのは予測済みだ。奥義、アイスフルーティ!」
「ばれた!?重ね着コートガード!」
広がるタイプの冷凍光線が一瞬見えたので予備のコートを着込んで身を守る。冷凍光線が俺の場所に到達した時には、かなりの広さになっていた。そして凄く寒い。
「寒い!でもアイススイートほどの威力じゃないな!」
まあ広がるように撃ってるのだから攻撃が当たる時間は短いだろう。でも命中力は高いな。回避の難しい空中に俺を移動させ、当たりやすいこの技で墜落させる気だ。
「…墜落?」
下を見ると結構高い。しかもアイスフルーティを受けたから勇者社に突っ込みそうだ!突っ込んで墜落したのでは流石にコートを着ていても痛いはず!
「じゅ、銃が出せない!」
内側のコートに銃を入れたこと、そしてアイスフルーティを受けて両腕が凍ってしまったことで銃が出せない!
「本当に激突か」
…いや。そうはいかない。主人公だけ負けたら所持金を半分くらい奪われるかもしれない。別に銃なんてなくてもタイミングさえ掴めば!
「大花火圧縮ジャンプ砲!」
激突直前で魔法弾を作り出し、その爆発で衝突せずに雨双のほうへ飛ばされる。そしてコートで風の抵抗を増やして横への移動距離を減らす。
大体雨双の真上近くでコートを予備入れに入れて攻撃する。
「このまま俺のキックを喰らえ!」
「…断るに決まっているだろ!奥義、アイスサークル!」
雨双を中心にその周りが輝き、その後急激な寒さに襲われる。寒い!体中がどんどんと凍っていくぞ!しかも上にまた吹き飛ばされてる!
「うぐっ」
「あー、いつだったかの勝負も最後まで戦えばこうなってただろうな。まあ魅異さんの前で醜態を晒さずに負けたんだから運は良いんじゃないか?」
[どかっ]
最後に雨双の長い台詞と変な音が聞こえると同時に俺の意識はなくなった。
「ううん?」
やけに体が寒いので目が覚める。よく見るとコートが水浸しの状態だ。そういえば雨双と勝負をしていて変な技を喰らったな。えー、フルーティサークル?
まあ防水コートだから何の問題もないが。
「あれ、下に居るのは雨双じゃないか」
俺の真下には雨双が寝ている。そうだ思い出したぞ。俺のキックと雨双のアイスサークルの対決になったんだ。そして俺のキックがアイスサークルを打ち破って雨双の頭に直撃した。俺は寒さ故に春眠してしまい雨双は気絶。こんな展開だった気がする。
「俺の頭が痛いのは春眠中に熊にでもやられたんだ、きっと」
「うぅ、何が起こったんだ?」
気絶していた雨双が目を覚ます。どうやら状況を把握できてないようだから教えてやろう。
「悟!?お前が起きてるって事はまさか!」
「ふふん。当然俺の勝ちだ。…あー、いつだったかの勝負も最後まで戦えばこうなってただろうな。まあ魅異の前で醜態を晒さずに負けたんだから運は良いんじゃないか?」
「なんか腹立たしいな。まあ負けたのは認めるが」
まあ誰がどう見ても俺の圧勝だったから仕方ない。同時気絶の場合は先に目を覚ましたほうが勝ちってのが基本だからな。
「じゃあ私は帰るか。アミュリー見かけて困ってたら助けてやってくれ」
「了解ー」
虹のことを知ってそうだからおそらく途中で会うだろう。もし会わなくてもそのとき探しに行けばいいだけだ。
勇者社のワープ装置で虹の下にある町に着た。どの虹の下にある町かはわからないが、几骨さんに頼んだから大丈夫なはず。あの人、事件の時によく会う気がする。そういう担当なのだろうか?
…などと考えていたら町外れの特星エリアに着いた。虹の真下はここだ。
「あら、やっぱりこんなところに来たのね。でもノーヒントじゃあ仕方ないかもしれないわ」
「わ、印納さんか」
急に背後から軽く手を振りながら現れたのは印納さんだった。虹を発生させるだけの技とか使えそうだけど、犯人かといわれたら違う気がするんだよなー。
「まあこの上に上ろうと先端探して走り回るよりは良いけどねー。…さて、今はすでに夕方。夜まで時間つぶしに勝負よ!」
「勝ったらヒントくださいよ。水圧分裂砲!」
とりあえず攻撃を命中させる為に広範囲に水の魔法弾を撃つ。そのうちの何発かが印納さんに当たる。
「く、やるわね!槍魔術、スパイシーメタリック!」
辺りの土が動き出し印納さんの後ろにどんどん集まっていく。そしてその土は空中で合体して、輝きながら砂になって空の上へ飛んでいく。
「感動的ねー」
「エクサバースト!」
「きゃー!」
雑魚ベーと強い奴以外には使いたくなかったが、印納さんほどの変人はこのくらいしないと倒れないだろう。それに仮に消滅しても特星なら大丈夫だ。
「可憐でか弱い女の子相手に酷いわねー。衣装に砂煙が飛んだわよ」
しかし予想外にも印納さんどころか衣装ですら無傷だった。…いや、でも倒せたら倒せたで不自然だな。むしろ倒せないほうが自然な気がする。
「今回も私の負けにしておくわ。夜までの暇つぶしはできたからね。さあ、あれを見なさい!」
印納さんの指差す方向は真上。しかしそこには虹がまだあるだけだ。その後印納さんは他の虹にも指差す。やっぱり虹自体を調べないと駄目なのだろうか?
〔お、もう虹の下についたのか。じゃあ夜までこの辺探ろうぜ〕
「もう夜よ!…じゃあ私は帰るから後はどこかの黒いのに聞いておいて。それじゃあさよならー」
謎めくステップでこの場を去る印納さん。黒いのってボケ役のことだよな?それじゃあさっそくヒントを言ってくれ。
〔まず虹をよく見ろ。そして特星での過去の事件の流れを思い出せ〕
そうだなー。とりあえずお前達が答えを知ってそうな素振りを見せてて腹立たしい。真っ先に事件に気がつくべきなのは主人公だろうが。
〔ふふん、俺の能力は知ってのとおり夢を操る。前に夢を叶えただろ?あのくらいまで使いこなせれば予知夢くらいは楽々見れる〕
じゃあボケ役が誰かの夢を叶えて虹を作れるのか。まあ外部からの犯行より内部犯の方が割合多いからなあ。ゲームでは。
〔外での事件に内部も外部もないような気がするが〕
その前によくよく考えれば虹が光を出すわけがない。これは虹じゃないだろ?夜に見える虹的なものなんて、オーロラくらいしか知らないぞ。
〔うん。違うと思う〕
そもそも俺が見て距離がわかりにくいことがおかしかったんだ。あの光ってるなにかはよっぽど遠いところ、おそらく宇宙にでも存在するんだろう。
そして宇宙にまで影響を及ぼせそうなのは十人居るかすら微妙なところだ。まあ内部、判りやすくいえば俺の知り合いにはそのくらいだろう。
〔まあ虹らしきものを宇宙に出すくらいなら俺でもできる。でも外部といえる、ツッコミ役の知り合い以外の可能性は?〕
前に小さな世界を作れる小巻と知り合ったばかりなんだぞ。そして今回は宇宙に発行物を出す実力者。連続でそんな事件が起こるなんてありえない。だから内部氾。
まあそういうストーリーを作れそうな人なら居るが、それだとやっぱり内部犯だ。
〔天利か。そっちの予想が本命か?〕
いやいや、あれでも自称ラスボスだ。だからこんな事件で自分と勝負になることを嫌うはず。だから本命はもう一人のほうだ。
…さて、もう夜だから今日は近くへ食べにいくとするか。
「雑魚ベーも雨双も居ないのか。夜の買い物かアミュリー探しかどっちだ?」
俺が来た場所はアミュリー神社。本当に神社かと思えるくらい内装が神社らしくない。ついでに名前も神社らしくない。
〔電気がついてないな〕
「ということはその辺に俺を恐れるアルティッシシシシシモが居るのか」
「…せめてアルテって呼んでよ!ちなみに隠れているわけでもなく、君を恐れているわけでもないよ!邪魔されそうだから隠れただけ!」
〔隠れてるじゃないか〕
まあ恐れてはいないだろうな。神社に来るたびに何度か普通に会ってるから。
「あの虹もどきを宇宙に出したのはお前だろ。この島から見ても俺には各虹は多少違う大きさに見えた。だからここは四つの虹のど真ん中から遠いように思える。だが神酒は各虹が同じ大きさといってた。要するに本当はこの島が虹の真ん中に近い位置にあるが、俺は勘違いしていたということだ」
まあもっとも各虹のど真ん中に宝があると気づいたのは少し前だ。ちなみに宇宙とはいえ、特星の近くにあの虹はあるようだ。見え方がなんか夜だとそんな感じ。
「…まさか一日で、しかも君に見破られるなんて。私は君を過小評価していたみたいだね。まさか四つ全て回ったのかな?」
「特星の事件は単純で判りやすいものがセオリーだ。四ヶ所も回らないと解決できないなんて事例、過去には一度もなかったぞ」
〔お、ちゃんと俺のヒントを聞いてたのか〕
今までと今回の違いがそのくらいしかなかったからな。まあヒントなんてなくても気づけたけどな。ボケ役の活躍の場を増やしてやろうという俺の心遣いだ。
〔あー、うん〕
「さあ虹っぽいのを出した動機を言ってもらおうか!あとアミュリーのことも知ってたら教えろ!」
だけどアルテがアミュリーのことを知ってる可能性は低いんだよなぁ。アルテが知ってるなら雨双に教えているはず。もしアルテの目的達成にアミュリーが必要なら話は別だが。
「アミュリーの場所ならわかるけど教える気はないよ。もしこのリベンジ戦に勝てたら教えてあげる!魔学科法コーセン!」
アルテは空高く飛び、大爆発をおこす光線を乱射する。ただ前よりもかなり威力が抑えられてるようで、木々をまとめて十数本吹っ飛ばすくらいの威力しかない。あと神社はその光線の爆発を受けても無傷のようだ。…中の食器などが落ちてるようではあったが。
「危ないなっ!水圧分裂砲!」
数には数でということで水の魔法弾を大量に発射して光線を相殺する。とはいえ実質的には俺の技のほうが低い威力だ。なんとか早期決着をつけたい。
「そんなちっぽけな弾じゃあ私は倒せないね!魔学科法カゼ!」
今度は車でも吹き飛びそうなくらいの凄まじい暴風が吹き荒れる。地面に張り付き、飛んでくる木や岩や家具や自分の魔法弾を避けながら風に飛ばされないようにする。
「水圧圧縮砲!」
高威力で高出力の水圧圧縮砲で攻撃する。しかしそれすらも別の場所へ飛ばされてしまう。今日はすでにエクサバーストも使ってしまったので打つ手がない。
〔空気の魔法弾で空気を圧縮すればどうだ?〕
空気圧圧縮砲はこの辺りの空気を圧縮して撃ってるわけじゃないから無理だ。普通に撃っても吹き飛ばされるのはわかりきってる。…それなら作戦は一つ!
「神社に逃げる!」
「そうはさせないよ!吹き飛べー!」
「うわっ!」
神社に入れそうなところで風が強くなる。あまりの風圧に耐えきれず、地面を転がされることになる。更に運悪く穴に頭から落ちる。
「あいてっ!あー風の影響は受けないけど穴じゃあ追い込まれるって。…あれ?なんだか見覚えが」
金属でできた廊下のような場所。ここは確か雑魚ベーが作った浮遊要塞じゃないか。…前に来てからそこそこ時間が経っている。もしかしたらこれは面白いことができるかもしれない。
ハシゴを上って外を見る。アルテはまだここのことを知らないらしく、暴風で木々を吹き飛ばして俺を探している。
〔まさか浮遊要塞を使うつもりか?〕
「使って壊せば二つの事件を同時解決したことになる!操縦室はどこだ!?…あ、ここのようだ」
意外にも動力室のすぐ近くにあった。大きなスイッチを押すとモニターなどの電源がつき、一見真っ暗な画面が表示される。だがよく見ると土の中が表示されているのが判る。
「前後左右のレバーと上下のレバー。あとは電源とその他ボタンがたくさんか」
穴に落ちた時から廊下が明るかったし、やはり雑魚ベーがこれで悪さをする気だったのだろう。アルテもこの要塞の事を知らないようだから、一人で極秘裏に作ってきたのだろう。
「よし!上昇だ!」
〔出発進行ー〕
要塞を覆っている土は剥がれ落ち、要塞は徐々に上昇していく。そしてついに地面が見え、空を飛んでるアルテと同じ目線にまで浮遊した。
このままでは外の声が聞こえないので外の音を集める装置と、外まで声が聞こえるマイクを使う。
「まさか要塞が出てくるとは予想外だよ。私の風でも落とせないようだ」
「はははは!この俺が本気を出せば、要塞を作るくらい余裕だ!」
「ならその苦労は消し飛ぶことになる!魔学科法コーセン!」
アルテは更に上昇して、さっきまでの光線とは違う、前に使った広範囲が爆発する光線を撃ってくる。二発当たっただけで要塞全面の屋根が吹き飛んだらしく、俺の頭上に星空が広がっている。
「そこだね!融合魔学科法エクサバースト!」
「ええっ!?全速回避!」
予想外の攻撃に横に逃げようとするが、要塞の後ろのほうに直撃したらしく大きな揺れが起こる。動力室がやられるのも時間の問題だな。
「こっちの攻撃も喰らえ!」
方向転換してたくさんあるボタンの一つを押す。するとチャージが始まり、押したボタンが光る。これはもう一度押せば発射ということか。
「さ、さすがに避けるよ!」
アルテは一旦攻撃を避けるために後ろに飛んでいく。なのでこちらも全速で移動して追いかける。そのまま撃っても良かったのだが、こちらは砲身の場所なんて判らない。更にもし避けられたら次の光線でやられるのだ。
だからアルテがこの要塞のどの辺りから逃げているのかを探し、零距離で撃たなければ当たらないだろう。雑魚ベーの要塞だから攻撃範囲や命中率は信用できない。
「さっきより速い!?さっきいろいろ壊しすぎたようだね!」
よく考えたら今壊れていない分だけでも、縦三と横三で家が九件分の大きさはある。このまま体当たりしてもいいかもしれない。というか零距離なら体当たりしなくてはならない。
「喰らえアルテ!突撃だ!」
「なに!ぐっ!」
俺の声に驚いて振り向いたところを突撃する。まさか突っ込まれるとは思わなかったのだろう。そして俺は光っているボタンを押す。
[ぱぁーん!]
耳が痛くなるような音と共に、砲身から細長い紙が大量に飛び出しアルテを巻き込む。よく判らないが紙が絡まって動けない今がチャンス!適当にボタンを連打する。すると一つのボタンが点滅する。
「よし!これで最後だ!」
勢いよく点滅しているボタンを押す。
[どかあぁーん!]
すると今度は巨大な爆発音が聞こえる。しかしそれは外から拾った音ではない。音が聞こえた場所はすぐ近くの動力室からだった。
「げ、まさか!」
「え、まさかってなんなの!?こっちはなんともないけど!」
アルテの声を無視して動力室のところを見にいくと予想通り。部屋の中は真っ黒で動力になりそうなものはなにもなかった。
〔はははは!自縛ボタンを押すなんてツッコミ役らしいな!〕
非常に悔しいが押してしまったものは仕方ない。操縦室に戻ろうとすると体が浮くような感覚を感じる。あぁ、墜落してるんだな。
落下した時に爆発する可能性があるので、急いで要塞の壊れたところから脱出しようとする。だがそのときに見たくないものが見えてしまった。なんと、要塞の落下先には毬の寺があった。
瓦礫で埋もれた寺らしくない寺、毬の寺。瓦礫の近くで夜桜を楽しんでるメンバーとは裏腹に、俺とアルテは寺の柱に縛られていた。
雑魚ベーに悪用されると思われていたあの要塞。しかし実は夜桜花見のサプライズのための小道具だったという。発射したチャージ砲はクラッカーだったのだ。更に最後はリモコンで自縛させ、積んであった花びらが舞う予定だったらしい。それをアルテが光線で爆弾の積んである場所を吹っ飛ばしたため、エラーで動力室が壊れたのだと雑魚ベーから聞いた。
「アルテ。そろそろ虹もどきを出した原因を教えてくれないか?あとアミュリーが誰のところに出かけていたのか」
行方不明とされていたアミュリーは雑魚ベーたちと帰ってきてた。そして夜桜花見の最中だ。雑魚ベーの話では友人のところに行っていたらしいが詳しくは知らないらしい。
雑魚ベーと雨双が夜なのに居なかったのは、アミュリーを迎えに行っていたからだと言ってた。俺が雨双と勝負した後にアルテが場所を教えたらしい。
「私も詳しくはないけどね。確か魔法使いの神様で、その強さは特星の神様で一番強いらしいよ。特星全体でも三番目に強いようだね」
「どこでそんな話を聞いたのかは判らないが、特星最強は俺に決まってるだろ!主人公なんだから!」
こうなったらまず手始めにその三番目に強い奴から倒してやる!確か特星の神様は裏ステージに住んでるって前に聞いたからな!
「別に止めるつもりもないけどね。でもその子のいる場所は特別だから、虹がないと場所が判りにくいよ。今回虹を出してたのもアミュリーに頼まれてのことだからね」
じゃあ俺とのリベンジのために起こした事件じゃなかったのか。というかそれならアルテに虹を消されたらその強い奴にあえないじゃないか!
「ならまだ虹を消すなよ。場所はどの虹もどきだ?」
「全部の虹の中心に歪んだ空間があるらしいよ。私は言われた場所が中心になるように虹を出しただけ。だから詳しくは知らないなぁ」
とにかく四つの虹の中心に行けば良いということがわかった。明日のことを考える俺と暇そうなアルテが解放されたのはパーティの終盤で、その内容の半分くらいが片づけだった。ついでに寺の修理費とお土産代を取られ、この日は散々な目にあったのだった。