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変な星でツッコミ生活!?  作者: 神離人
本編:変な人たちの出会い その一
12/85

十一話 異世界のお姫様

@悟視点@


新年が過ぎ、春前の寒さに身を震わせるこの季節。地球ではチョコだのなんだのと騒ぎ、特星でも一部の者が大騒ぎしているであろうこの時期に、俺と旅行者である三人は未だに俺の宿に住んでいた。


数ヶ月前の旅行に来た次の日、宝くじを入手した俺と一泊二日の三人は特星に帰るつもりだった。だが、そこである問題点に遭遇した。…そう、それは帰る手段だった。


三人の無料の券を見たところ、乗り物が未完成版なので迎えに来るのが数ヵ月後であると書かれていた。一泊二日なのに数ヶ月滞在という無茶なスケジュールだったのだ。


で、俺もその乗り物がないと帰れないので、三人と買い取った宿に泊まっていた。そして迎えの乗り物が来るのは明日だ。


「折角の最終日前日だ。今日くらいはどこかへ出かけるか」


この宿に住み始めてからは俺は外出を控えていた。キャッシュカードが心配だからだ。宿に置いても使われるか盗まれるかの可能性が高く、持っていくのも奪われそうで心配だった。


だが最終日前日くらいは良いじゃないか!少しだけ名所巡りがしたいんだ!…ということで出かけることにした。インドア派もたまには出かけたくなるのだ。俺は冒険型だから仕方ない。


〔冒険型インドア派?家を探検でもするのか?〕


おお!ボケ役がいいアイディアを言ったぞ!未知の建物を探検するのは非常に楽しいことだ!たまに宝があるからな!…だがこの宿はすでに調べつくした。ここより大きい建物で宝がありそうなところか。


「…あそこだけだな。顔、忘れてないよな?」


すぐ近くにある神門城。門番の記憶力が良いと助かるんだが。






「やれやれ、簡単すぎる」


よくよく考えたら主人公の顔を覚えていないはずがないんだ。名前を忘れてたのか、コートの人や水鉄砲の男などと言われたのは気に食わないが。まあ顔を覚えていたから十分だろう。


〔その特徴が目立ちすぎるだけだ〕


うるさい。銃系の武器ならコートは必須だろ。武器だってヒーローらしさと環境への影響と値段を考えると水鉄砲が一番だ。


ちなみに俺はコートを大量に持っているが、半袖コートを含めてその全てのコートが深緑色だ。これは相手の視力を考慮したからだぞ。あと俺の好み。


〔へー。少しは考えてるのか〕


俺のコートの色が変わるのは悟ンジャーブラックの時くらいだな。


「ほー。懲りずにまた来たか」


上の階に上がるためのエレベーターを探していると、東武が腕を組んで現れた。


「懲りずに?まるで昨日自分が勝ったような言い方だな」


「昨日はすぐに帰るようだから貴様達のルールにあわせただけだ。だがあの姫に会いにいくというなら、あの姫に消される前に俺が楽に殺してやろう」


おお。話が通じる奴だと思っていたのに殺伐としている!これは戦うしかないようだな!


「言っとくが俺を殺せるだなんて思わないことだな!水圧圧縮砲!」


「前の技は本物か確かめてやろう。手作り水道水!」


俺の水の魔法弾を避けつつ流水で攻撃する東武。動きづらい!


「さらに!蘇生、魔学科法竜ゲニウス!」


東武が水を流しつつなんか凄そうな技を使う。というか水を止めてほしいな。水道代がかからなくても、飲み水は場所によっては売れるんだから。


「はいー、呼びましたか?」


明るい声と共にかっこいい竜が現れる。確かに東武が蘇らせた竜は一応強そうだった。しかしそれは見かけだけの話で、声は年齢の予測が不明な女の子の声だった。おそらく若い気はするのだが。


「悟だったか。俺が今から使う技は貴様が前に使った技と同じ、エクサバーストだ」


「え?そうなのか?」


「使うのは私ですけど」


エクサバーストを悪役みたいなこいつらが使えるなんて。


そういえば前にアルテがエクサバーストを使ったことがあった。確か融合魔学科法とか言ってたはずだ。そして今回使う相手は魔学科法竜ゲニウス。なるほど、魔学科法が関係してそうだ。…魔学科法ってなんだろう?


〔ツッコミ役、上だ〕


「え?」


ボケ役に言われて上を見ると、ゲニウスの上に東武が乗って攻撃しようとしている!


「いくぞ!必殺、エクサバースト!」


「は、はい。それっ!」


ゲニウスは一気に上昇してエクサバーストを放つ。ゲニウスが上昇するまで流水に耐えていたので、俺の足は少し痺れて動きにくい。

ところでゲニウスが使う技の名を東武が言うのはおかしくないか?


「く!エクサバースト!」


避けようと思えばいくらでも避ける方法はあった。だがこの角度だと城の地下までエクサバーストは貫通するだろう。そうすると城の地下の人たちが被害にあってしまう。それを防ぐため、俺もエクサバーストで攻撃する。

…どうせ足が痺れて動きにくいからな。


俺のエクサバーストとゲニウスのエクサバーストがお互いを相殺しあう。そして両方とも消えてしまった。


「わ、私の本気のエクサバーストを掻き消すなんて!東武様、この人強敵です!」


「…なるほど。仕組みはともかく威力は本物のエクサバースト並というわけか」


「こっちが本物だ!なにせ俺の最強の必殺技だからな!」


それよりもどうしよう。小学生の姫様と遭遇したら使って逃げようと思ってたのに、あの一人と一匹のせいで充電切れじゃないか。というかエクサバーストの燃費が悪い。充電溜まるまで数ヶ月だぞ。


「エクサバーストが最強の技か。…ふはははははっ!やはりその程度か!」


東武が俺の発言を笑いで返す。


エクサバーストの凄さを東武が知らないはずがない。だがならばなぜ強力なエクサバーストをその程度といえるんだ?視力が物凄く悪いのか?


「貴様は確かにエクサバーストを扱える。だが所詮はただの変人だ。エクサバーストまでしか扱えない。しかしこの俺はエクサバースト以上の必殺技を扱う!」


「エクサバースト以上!?」


「あ、その技も使うのは私ですよー」


エクサバースト以上ってなにがだろう?威力?速さ?名前だけだといいなぁ。…だが何が強くても大差はない。俺の足の痺れは悪化していて、凄く頑張らなければ動けないんだ。

例えるならば、長距離を全力疾走した後に更に走るくらいの気力がいる。恐らく。


「ふふん。自分の技の未熟さを思い知ることだ。必殺、エクサスターバースト!」


ゲニウスの口から広がるように技が放たれる。速度や範囲がエクサバーストより上がっている。この様子では威力も比較的に上がっているかもしれない。

だがその攻撃を避けるほどの気力は俺にはない。仕方ないので諦めて今日のところはやられよう。

…いや待て!キャッシュカードはどうなる!?やっぱり避ける!


「って、間に合わない!」


もうエクサバーストは避けれない程度に近づいていた。そこまで近くはないのだが、範囲がやや広いので走っても間に合わない。


「はぁ。なにやっているんですか」


もう駄目かと思ったときに聞き覚えのある声が聞こえた。たまにパーティなどで和食を食べている和風男、羽双が目の前に立っている。


「なっ!おい貴様そこをどけ!」


東武が焦ったように叫ぶ。おそらく俺にはいつの間にか不老不死の技を使ってたんだろう。だが不老不死の技を使ってない羽双が現れて驚いたわけか。

甘いな東武。羽双の特殊能力は時間を操ること。時間を止めて俺を脱出させるなんて朝飯前の筈だ。


「まあ避けてもいいんですが。それっ」


軽く右手を構え、エクサスターバーストが近づくとその拳を振り上げる。そう、エクサスターバーストを殴りあげた。するとエクサスターバーストは軌道がかわり、城の天井を消し去って空へ消えた。


「このほうが楽ですね」


「な、なんだと?この俺のエクサスターバーストが…」


「だからわたしのですよー!」


正直、この俺ですら予想外だった。だってあの技を素手で能力すら使わず殴れたんだから。…さすがは魅異の一番弟子。俺も今度弟子入りしてみようかな?


「い、いや!俺が本気を出せば貴様など!ぐあっ!」


羽双が常人ならば気づかないであろう速度で手裏剣を投げつける。ゲニウスは手裏剣に当たって消滅し、東武も手裏剣に当たって壁ごと吹っ飛ぶ。あれって絶対に銃弾より強いだろ。


「…どうしてお前がここに?」


「僕ですか?この城には先祖代々伝わる秘蔵の饅頭があると聞きましてね。少し分けてもらおうと交渉に来ました」


饅頭のために城に乗り込むとは。さすがは和風マニア。でも交渉する態度は微塵もないようだ。手裏剣で攻撃してたし。


「いいだろう。この俺を倒せたのだから秘蔵の饅頭はくれてやろう。こっちだ」


羽双を饅頭のある場所へ案内する東武。先祖代々伝わる饅頭を勝手にあげちゃっていいのか?とりあえず俺はその隙にお宝でも探そう。そして姫様に交渉してもらおう。


「そうだ。さっき自称小学生を名乗る子がいました。特星から来たと言っていたので気をつけてください」


そう俺に忠告して行く羽双。自称小学生?ということは小学生じゃなさそうな奴が小学生を名乗ってるのか?…特星でも見たのなら特殊能力を持ってるはず。気をつけよう。






地下などには牢獄があるだろうと考えた俺は逆に二階を歩いている。使ってない部屋を物置に使っている可能性は十分にある。そして空き部屋などの鍵は破りやすい。

だが部屋が多くて一つ一つ回るのが面倒だ。どうにかならないだろうか。


「ん?あれは」


廊下のかなり奥の方に見覚えのある姿があった。昨日小学生くらいの子を襲っていた中学生の一人だ。あの顔は最後まで残ってた奴だな。きょろきょろ辺りを見回している。

どうやら向こうは遠すぎてこちらの姿が見えてないらしい。確か人攫いらしいから、もしかしたらこの建物の構造に詳しいかもしれない。


「あれは覗きか?」


顔の位置がたまに鍵穴の前で止まっている。恐らく鍵穴から中を覗いているのだろう。…流石の俺でも凄く離れたこの位置からでは鍵穴の中は見えない。

こうしていても仕方ないので話しかけよう。


〔なあなあ。なにを覗いてると思う?〕


「人攫いのターゲットか宝物庫だな。でも一人だから宝物庫じゃないか?人攫うときは数人だったし」


ただあの性格で人を攫えるとは思えない。俺の知り合いのように自分勝手な性格のほうがむいてそうだ。というか普通にイメージできる。


〔お、言ったな?皆に言いつけてやるぜ!〕


「やめてくれ」


ボケ役とくだらない会話をしているうちにだいぶ攫い魔に近づいた。未だに攫い魔は鍵穴を覗いている。数分も覗き続けて楽しいのだろうか?


「おい、攫い魔!」


「ひぇ!…あなたは昨日の人攫いコートさん!なぜここに!?」


なぜか誤解を受けそうなあだ名で呼ばれてるぞ。そういえば前に会った時は名前を名乗らなかったからな。しかも同業者だと思われていたんだっけ。


「そろそろ名乗っておこうか。俺は主人公であり特星のヒーローでもある雷之 悟だ!」


「と、特星?いやそれよりも雷之 悟さん!?」


おぉ!ついに名乗る前から俺の名前を知っている奴が現れた!さすがに数々の事件を解決しているんだから有名にもなるよなぁ!


「あ。私はレーテレスです。特星で小学生をしています」


「…小学生?」


身長が高いから中学生かと思ってた。となると羽双が言っていた自称小学生はこの子か。確かに初見で小学生とは気づきにくい。雑魚ベーなら気づけそうだが。


「ちなみに他のメンバーは中学生ですよ。もう解散しましたけど」


「まあ、そうだろうな。人攫いどころか特星にすら向いてなさそうだし」


「私以外はこの世界の人でしたからねー。って、それどころではありませんでした!」


割り箸を一本取り出してこちらへむけるレーテレス。覗き行為を見られたから口止めしようというわけか。まあ宝を入手する準備運動には丁度いいかな。…ところでなぜ割り箸?


「私は結構前に特星にお菓子の家を持ってました。しかしお菓子目当ての変人集団が私の家を凍らせていったのです。その集団のリーダーがあなたと聞きました!」


……急になにを言ってるんだこいつは?確かに俺の周りには変人があまるほどいるが、俺がそのリーダーになったことなどないはずだ。というか氷の魔法弾を使っていない俺には心当たりがない。


〔それってお菓子の城を見つけたあの事件じゃないか?お菓子賢者や幽霊の第二形態とかのあの事件〕


…ああ、思い出した!雨双や記紀弥と初めて会った日の事件だな!確かに雨双がアイススイートでお菓子の城を凍らせていたな。

そうだ!俺はそのときにレーテレスと話したぞ!そして助けようとしたが無理だったんだ!


〔助けようとしてたっけ?〕


してたよ!水道水味のクリームだから断念しただけだ!


「ちょっと待て。凍らしたのは俺じゃないぞ。確かに凍らした奴とは行動はしていた。だが城が凍ったことに関しては俺は一切関与してないぞ!」


〔エクサバーストが原因じゃなかったか?〕


「え、関係ないんですか?すみません!勘違いしてました!」


まったく。最近の小学生やボケ役は勘違いが多いから困る。…エクサバーストは暴発したってことにしておこう。


「まあ俺はそんな細かいミスは気にしないぞ。…でも俺に美味いクリームと期待させて不味かったことは許さない!というわけで覚悟しろ!」


「い、いいですよ!なんだか理不尽なので返り討ちにします!」


レーテレスの能力はお菓子を作れる能力!ここで菓子を食いまくって節約だ!


「さあくらえ!水圧分裂砲!」


東武がいないのでおそらくお互いに不老不死ではない状態だ。死なれても困るので威力と大きさを下げて数で攻める。速度も僅かに水圧圧縮砲より速い。


「お菓子、巻き戻るバームクーヘン!」


レーテレスの辺りにバームクーヘンが出現。そしてカメレオンの舌のように伸びて魔法弾を叩き落とす。そして伸びきったバームクーヘンは自動で巻き戻る。


「なに!…あまり美味くない」


伸びたバームクーヘンを少しちぎって食べたが美味しくない。技としては使えるが料理としては使えないようだ。


「まだまだですよー!お菓子、柿の弾!」


次は柿の種を大量に飛ばしてくるがもちろん味はない。これで美味ければ生活には困らないのに。


「いたた!ハエ叩かない・高速!」


銃を左手に持ち替えてハエ叩きを取り出す。そして飛んでくる柿の種を次々に叩き落とす。ああ、勿体無い!でも不味いからどうでもいい!


「準備、飛び回るフライパン!」


今度はレーテレスの周りに複数のフライパンが出現。回りながら廊下を飛び回る。すでにフライパンにはフライってついてるんだから、回るフライパンでよくないか?


「というか危なっ!」


よく考えたらフライパンで骨折することも考えられる。これは当たるわけにはいかないな。


「俊敏ですね。ならこれでどうですか!お菓子、お餅ののびのび包囲網!」


餅でできた網をこちらに投げつけるレーテレス。広がって飛んでくるので避けれそうにない。


「いや!柿の種バリアー!」


落ちている大量の柿の種を餅に投げつける。すると餅にくっつき、柿の種のくっついた餅は俺にはつかなかった。


「どんな作戦を使おうが無駄だ!痛っ!」


よそ見して喋っていたら背中にフライパンが直撃。自動で戻ってくるのか!


「油断しすぎですね。お菓子、ショートケーキ部隊!」


今度はショートケーキが飛び回る。そして液体の生クリームらしきものを飛ばす。


「ん?おっと」


避けたはいいのだが生クリームからは煙が出ている。どうやら火傷するかもしれない温度のようだ。コートは防火性があるが肌に当たるのは嫌だな。


「空気圧圧縮砲!」


空気の魔法弾で部隊を追撃していく。向こうからも攻撃してくるが避けるのはたやすい攻撃だ。


「あっという間に全滅ですか!?早すぎます!」


「隙あり。水圧分裂砲!」


「きゃあっ!」


驚いている隙を見て零距離で水の魔法弾を大量に撃ち込む。肩を撃ったので恐らく大怪我はしていないだろう。


「お前の敗因はあれだ。菓子が不味い」


「それは技用だからですね。毎回味調節する余裕がないんですよー。負けたのでもう帰りますね。丁度明日に迎えの乗り物が来るようですからあ、ちゃんと面倒見てあげてくださいね」


ふらふらと帰るレーテレス。ということはお菓子の城も手抜きだったのか。まあ出入り口一つだったから手抜きだろうな。今度お菓子でも奢ってもらうか。

…ところで誰の面倒を見ればいいんだ?


「そこに居るのは誰ー?レーテレス?それとも東武?雑魚ベー?」


扉の中から、俺の知っている名前ばかりを呟きながら少女が出てくる。この子はレーテレスとその一味に襲われてた子じゃないか!


「あ、違った。でもあなたはあの時の人。本当に来てくれたんだ」


大体このパターンだと思ってはいたが予想通りだった。俺の助けたあの子は金持ちで間違いなかった。だが予想以上に強いはずだ。雑魚ベーの情報が正しくなければいいんだが。


「あの時はごめんね。名前も住所も言わなくて。でも私を知らないみたいだったから教えたくなかったの」


「俺ってそんなに悪人面してるのか?」


レーテレスにも同業者と間違えられた。そして助けたこの子も名前や住所を教えず遊びに来いといった。知らない人に関わらないのは大切だけど、主人公のオーラで善人か悪人かを判断してほしいかった。


〔悪〕


俺がたまに変人と思われるのはボケ役のせいだろう。独り言が増える。


「ううん。私が強すぎるからだよ。ほとんどの人が機嫌を損ねないように近づかないの。この城の兵士だって女の子の気持ちが判るって理由で町の女の子が働いてるだけ。決め方はくじ引きって言ってたね」


慎重に決めてる割にはくじ引きってばらしてるのか。気づかれたらむしろ機嫌を損ねると思うけどなぁ。賢い決め方なのかアホな決め方なのかわからん。


「さああなたはどうする?引き返すなら今のうちだよー」


「話を続ける。さっき聞き覚えのある奴と間違えられたからな」


レーテレスに東武に雑魚ベー。この関連性の少ない三人を何故チョイスしたのか。それ以前にどういう関係なのかも気になるところだ。

というか来いと言ったんだから、少しは俺が来ると期待しても良かったんじゃないか?


「知り合いなの?三人はこの城に通ってくれてるんだよ。…この世界にいる間はね。東武以外は特星に居ることが多いみたい」


ということはほとんどの人は城に近寄らないのか。なら宝くじも城の中で売っても儲からないんだろうな。俺が賞金貰ったからなおさらだ。


「私と再戦にくるのはその三人だけだからねー。住民は頭下げて褒めてるだけだもの」


「俺なら喜ぶ状況だ。だがまあこの俺は簡単に怯えはしないのさ」


主人公は悪から恐れられなければならない。戦隊ものでは特にそうだ。ならば、自信過剰ともいえるほどの実力を持つらしいこの子を倒せばこの世界の悪は俺に屈服する。特星の前にこの世界に俺の実力を広めてやろうじゃないか。


「…勝負するんだね?折角会えたのに」


「折角会ったなら勝負しないと。一度でも戦えば会いやすくなるって噂だ」


この噂は都市伝説の一つなんだが、あながち事実のような気がする。一度会っても戦わなければ次に会ったときに戦うことになる。これは結構身の回りであるような気がする。


「今回は最初から全力だ!無臭墨汁圧縮砲・暴発!」


手の上に墨汁の魔法弾を作り出し、無理やり暴発させる。墨汁の魔法弾は結構前から練習していたのだが、頑張った甲斐があって最近ようやく無臭の墨の魔法弾を作り出せた。これでついに俺の実力をいつでも披露出来るようになった。

墨汁の軽い洪水により、俺の全身は真っ黒になる。警戒したらしい相手は後ろに下がって墨汁を避ける。


「暴発?目晦ましかな?」


「全身が黒い俺は強いぞ!今の俺は悟ンジャーの主人公、悟ンジャーブラックだからな!」


ハエ叩きに銃を装備して言い放つ。正直どうして黒いと強いのかはわからない。だが主人公であれば変身後が強いのはお約束だろう。


「…格好いい。…私は姫のかど まき。やるからには負けないよっ!必殺、拡散火炎玉砲!」


小巻は辺りに大きめの速い火の玉を放つ。その火の玉は壁や廊下をへこませている。鉄でも混じってるんじゃないかあの火の玉!

などと考えていると火の玉が一つこちらに飛んでくる。


「げ!必殺、悟ンジャー集合!」


戦隊とは仲間同士が力を合わせて戦うもの!だからこの攻撃を受ける仲間を呼ばなければ!だがこの技は結構ランダムだ。場合によっては後で俺が酷い目にあうかも。


「って!ぐうっ!」


火の玉がコートごと体に直撃。体の半分辺りまで貫通してその後全身が勢いよく発火する。そして数秒で消し炭となった。


「あ。や、やりすぎちゃった?」


「まだまだ!水圧圧縮砲!」


俺は小巻の背後から姿を現して水の魔法弾で油断しているところを攻撃。武器が水鉄砲なので今の水圧圧縮砲は土交じりの岩でも砕くことができる威力だ。


「わ。さっきやられたはずじゃ?」


小巻は俺を倒したと思ってたようで驚いている。もしくは喰らった水圧圧縮砲の威力に驚いたのかもしれない。

…そういえばさっき俺と同じような服の奴がやられてたな。一体誰だろう?


〔俺だよ!当たる直前に召喚されたから、体が燃えて一瞬でここに逆戻りじゃないか!〕


ああ、やられたら家に自動で戻れる体質なのか。


「………さっき燃えた人は別人ですよ」


「あれ。記紀弥も集まったのか」


「…………強制でしたが、面白そうな状況ですね。でも入浴中だったらどうする気ですか?」


悟ンジャー召集は悟ンジャーに関係の深い人を呼び出す技だ。だが暇な人や忙しすぎる人は呼び出されやすいといったような条件により確立が変動する。その条件に入浴中や着替え中は確立が〇になるというのがあったはずだ。だから大丈夫。


「まさか仲間がいたとはね。だけどそんな子供を巻き込んじゃっていいのかな?」


「………構いません。私自身、悟ンジャー好きですし。それに生前は初代悟ンジャーの一人でした。小学校と通信制大学の掛け持ちで」


あれ、記紀弥ってもしかして物凄く天才キャラなのか?というか悟ンジャーにおいては俺の先輩?いやいや初代と現代は違うだろう。


「……そして!いまから私は現代悟ンジャーの悟ンジャーキャプテンです!」


堂々と宣言する記紀弥。って待て!この俺を差し置いてキャプテンを取るとはどういうことだ!?キャプテンといえば間違いなく俺だろ!


〔ああー。リーダーはツッコミ役だから大丈夫。キャプテンは作戦室に居そうな人のことだ。資金管理とかゲームとかできそうなあの役だ。…初代でも記紀弥はキャプテンだったな〕


「まあ頑張ってね!必殺、拡散水玉砲!」


小巻は水圧圧縮砲みたいなのを辺りに放つ。今度の攻撃は壁や廊下を余裕で貫いている。水圧圧縮砲じゃあ返り討ちにあう。


「………防御の結界」


「必殺、悟ンジャースピン!」


記紀弥がバリアーみたいなので防ぎ、俺がスピンすることで全ての水玉もスピンする。そして俺が止まると全ての水玉が止まり、それぞれ地面に落ちていく。レースなどで使えそうな技だ。


「さすがだね。…え」


急に小巻の動きが止まり、小巻も驚いた表情をしている。よく見れば小巻の周りに霊らしきものが何体かみえる。これはあの時の!


「……………幽霊、自縛爆霊の召喚」


[ドガガガアァン!]


小巻に触れていた自縛爆霊が数体爆発する。破片などが飛んでくるが俺のコートは刀の刃すら止める丈夫なコート。小さな破片程度なら全然平気だ。


「というか大丈夫なのか?小巻は直接喰らってたが」


不老不死でもないのに爆発を受けたら大怪我するような。


「心配無用だよ。必殺、圧縮水玉砲!」


「………有利、一種適応」


記紀弥が結界を消して俺の肩に手を置く。そしてそのすぐ後目の前に俺の身長と同じくらいの水玉が直撃する。しかし吹き飛ばされそうになるだけでダメージはない。

だが全身についていた墨汁がほとんど取れてしまった。これでは通常通りの力しか出せない!


「………この技は適応者に、一種類の属性に対する耐性を与える技です。今は水系の技が通じません」


「完全に無効なんて。あなたも強いんだね」


なるほど。風は無効にできないから吹き飛ばされそうになったのか。一応服とかが濡れてはいるが全然冷たくない。海で使えば便利そうだ。


「って、さっきの技って俺の技と似すぎだぞ!」


「真似してるんだよー」


真似するなら本家以上に強くするんじゃない!俺の水圧圧縮砲が劣化版みたいじゃないか!本物は勝たなければならないというのに。…勝ったら本物なんていうのは無理。俺は平和主義者だから実力行使はありえない。勝てる場合は別だが。


〔小物的だな〕


「でも次の最後の技は本気だよ。…東武」


「ふん。すでに不老不死にしてある」


「え!」


後ろを振り返るといつの間にか東武が立っていた。歯に粒餡らしきものがついているので羽双と和菓子を食べていたのだろう。


「いつの間に居たんだ?」


「…………私の技を解説している時に不老不死の技を使っていました」


「ほほー。気づいていたのか。技の感覚的に幽霊のようだが、貴様の顔は覚えておいてやろう」


俺は全然気づかなかったな。辺りを見渡していれば見つけれただろうが、命とキャッシュカードがかかってるから油断する暇もない。


「さあ覚悟してよ!奥義、神門風の構想終結!」


小巻が手を挙げると東武が消えてしまう。また先の長かった廊下が壁になっており、窓から外は何も見えない状態になった。窓を開けようとするが開かず、まるでこの場所が一つの部屋のようだ。


「……………さっきの場所とは違いますね。小さな異空間のような世界です」


「そう。ここは出来たてほやほやの異世界。私の力だとこの大きさが限度だけど」


ほやほやどころか物凄く寒いな。いやまあ冬は寒いものだけど、異世界を作ってくれるなら日光などのオプションもほしいな。


「で、異世界を作ってどうするつもりだ?譲ってくれるのか?」


「崩壊するよ」


「………なんだか勿体無いですね」


大げさに崩壊と小巻は言っているが俺は騙されないぞ。この部屋程度の世界を崩壊させるなんて簡単なことだ。それこそエクサバースト数発で余裕だな。


「って、なんか息苦しい!なんだこれは!?」


「……空間内のものが消えているようです。空気が減っていますね」


「そのとおりだよ。もし宇宙で使えば使用地点を中心に宇宙を崩せるらしいの。だからこそここを作ったんだよ」


な、なるほど。宇宙は崩せるが別世界までは及ばないということか。…確かに効果範囲に関しては俺の必殺技を超えるのかもしれないな。

でもまあその程度。いくら俺を閉じ込めようが範囲を広げようが大した問題ではない。主人公のいざという時の回避率には到底及ばない。もし俺が悟ンジャーブラックの状態で泣ければ危なかったけどさ。


「この勝負はとりあえずお預けだ!夢からの現実逃避!」


布団を取り出しすぐに潜り込む俺。この程度一秒で十分だ。






「っんー?朝か」


まだ眠気が残った状態で目が冷める。俺が今現在居るのは寮にある自分の部屋だ。すぐ近くには驚いた顔の記紀弥と小巻が座っていた。


「え、あれ?大迫力な私の技は?今日一番の見せ場なのにー!」


「………寝てから起きるまで約三秒ですか。さすが主人公ですね」


夢からの現実逃避は家に帰れる技だ。現実逃避といえばやっぱり我が家だな!

この技は本当にその日の出来事を夢オチにするのだが、夢オチになった時点で俺は家で寝ているわけだ。そして夢から覚める前に俺は超強力な現実逃避を行う。すると夢からの逃避は現実逃避ではないので、現実逃避を成立させる為に、夢の出来事が現実に反映されるという仕組みだ。ちなみにボケ役との協力技だ。


〔俺が夢オチ担当だぜ〕


おそらく小巻の作った異世界は崩壊するだろうな。時間が経てば崩れるようだったから、もうすぐ崩壊完了のはずだ。


「うーん。私の技が見せられないのは残念だったけど、久々に全力で戦えたよ!しかも回避までしちゃうし、悟は本当に強いんだね!」


「まあ当然だ。ヒーローで主人公だからな」


「そうだよね!そ、それでとても強い悟にお願いがあるんだけど!」


「ん?」


小巻からお願いってなんだろう。小巻の職業的に俺より不自由することなんてあまりないはず。強さも俺に追いつけるかもしれない程度には強い。そんな小巻からのお願いとなるとあまりいい予感がしない。


「……あ、私はこの辺で失礼します。ちょっと見たいものがありますので。それでは」


少し急ぎ気味に部屋を出て行く記紀弥。急いでるということは悟ンジャー関係の番組かなにかを見る予定だったのかな。俺も帰ったらコート専門のファッション番組を見なければならない。…いつ放映されるのかは謎だけれど。


「それで前に悟に助けられて、悟がかっこいいから付き合ってほしいんだけど、…駄目?」


「ん?ああ、駄目だ」


話の流れ的に城の後継ぎか告白だろうと予想はできたが予想通りだった。でも残念ながらまだまだ今の状態の小巻とは付き合えないのでしっかり断る。だが小巻がショックを受ける前に理由説明が必要だな。


「理由としては今の小巻だと俺と不釣合いというのが大きいな」


「…うん。確かに悟は主人公だけど私はただのお姫様だから不釣合いだよね」


小巻の言うことはまったくそのとおりだ。だがそれ以外の部分に関しても不釣合いといえるだろう。特に神門王国での小巻の様子に問題があった。


「その通りだがそこじゃない。小巻は神門王国で自分が強すぎるって思ってただろ?自惚れてるようじゃあ精神的にまだまだだ。あと世界を消滅させるくらいの実力しかないようだとヒロインとしてはインパクトが薄い。…こんなところだ」


「な、なるほど」


「だから特星で腕を磨き、俺と釣り合う実力をつけることだ。強さと精神とイベント発生率をあげるといいぞ」


もっともこれらは全てゲームで役立つものばかりだから、実際の恋愛に良い影響があるかどうかはわからない。でもまあ悪影響はないだろうから上げて損はない気がする。


「わかった!私頑張って悟を超えて、それから会いに来るからそれまで待っててねー!」


そう言い残して小巻は部屋を出て行く。しばらく会うことはないだろうと思っていたが、その後に開催した宝くじ大当たり記念パーティで再び小巻と会ったのだった。

…俺を超えることなく今後も会うことになりそうだ。

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