九話 未完のストーリー
@悟視点@
紅葉の中にたまに枯葉が見つかるこの季節。自然だらけの毬の島にある神社の外では凍えるような戦いが行われていた。ちなみにアミュリー神社って名前らしい。
「主人公より神様優先するとはどういうことだ!おかわり!」
「悟神社とかが良かったのか?コートが祀られてそうで私は嫌だなー」
「私もおかわりね。もちろん大盛りで」
現在俺と印納さんはシロップ無しのかき氷を食べている。そして雨双がカキ氷の作る役だ。
俺は普通に遊びに来たのだが、運悪く印納さんが神社にいた。そして紅葉を見ながらのかき氷に誘われたのだ。意外にも紅葉を見ながら食べるかき氷はよかった。シロップ無しでも美味かった。
だが、印納さんがかき氷を速く食べるのが得意だと言い出したのだ。もちろん俺は主人公なので俺よりは遅いだろうと当然の意見を出した。すると印納さんがどっちが速く百杯食べるか勝負だと言い出したんだ!
「印納さん、百杯はもはや大食いの領域だと思いますけど」
「大丈夫よ。元は水だから。おかわり」
「はいはい。まったく、タダで二百杯かき氷を作る私が一番損じゃないか」
それでも引き受ける雨双はいい奴なのだろう。だが雨双がそれを引き受けなければ勝負が起こらなかったのも事実だ。…元々の原因は俺だけど。
「これで百杯目!いい紅葉とかき氷だったわ」
俺なんか三十杯目くらいなのに印納さんはもう食べ終わる。速すぎる!そして紅葉見ながら食べれたことが驚きだ!
「悟の敗因は一つ。紅葉を見ながらかき氷を食べなかったことよ。じゃ、ごちそうさまでしたー」
そういって印納さんは神社の中に入っていく。数分後、俺は神社の冷蔵庫のアイスを外を見ながら食べてる印納さんを発見するのだった。
「ちょっと寒いけど満腹ー」
よく考えたらタダで食べ放題なんだからお得だよな。今度から神社にかき氷を食べに来よう。
「あれ、悟?…なんだか幸せそうな顔してるねぇ」
神社の中を歩いているとテーブルを拭いているアルテを発見。かき氷でもこぼしたのか?
ちなみにこの神社、外見は神社だが中は普通の家と同じような構造だ。トイレなどは最新式のを使っている。ちなみに風呂は小さな銭湯みたいな感じだった。
「そういうお前も楽しそうだな」
「そうかな?まあ特星の侵略手段を思いついたからね」
そういえば前に特星を乗っ取るって言ってたような。特星を乗っ取るには強敵が多い気がするんだがどうするつもりだ?ちょっと作戦が気になる。
「でも本当に乗っ取れるのか?強い奴が多いぞ。特に魅異」
「魅異はここを乗っ取るくらいなら手出ししないよ。誰も本気で困らないからね」
まあ御衣っていう凄い妹襲ってきても各自判断とか言ってたからな。
とりあえずアルテには特星の強い奴に対する策はあるということか。
「ところでアルテはどうして神社に?」
「雑魚ベーに誘われたんだよ。神社ができたら一緒に住もうって。それでタダで住むのは嫌だからいろいろ手伝ってるんだよ」
特星を乗っ取るわりには妙にきっちりしてるな。逆にそんな性格だと特星メンバーを支配することなんてできないと思う。大雑把な性格のほうが特星らしい。
「うーん」
「あれ、どうした?」
気づくとアルテが何かを考え込んでいる。しかし考えつつも手はちゃんとテーブルを拭いている。
「昔聞いた話と違ってね。というかこの時代で前に聞いた計画とも違う」
なんだなんだ?昔に雑魚ベーに誘われたことでもあったのか?
「わかりやすく頼む」
「…私は特星に来る前に雑魚ベーと別の世界で会ったことがあってねぇ。そのときに雑魚ベーは神社に小学生二人と住んでいると言っていたんだよ」
へー。アルテが特星に来る前か。確かにその頃だと神社は完成してないから話と違うな。
「時間軸がおかしいということだな?」
「いやいや。時間移動をしたかもしれないからそれはわからないよ」
なら矛盾点なんてものは一切ないじゃないか。
「でもあの時は神社を一人で何ヶ月もかけて作ったって自慢していたんだよねぇ」
そういう肝心なことは先に言おう。そうしないと間違えた答えを言うじゃないか。
まあ確かに矛盾してるな。だってあれは記紀弥が流れ星に願って完成したんだ。というか神社って一人で作れるものなのか?……ま、つまり本来ならば雑魚ベーが神社を建てるはずなのに歴史が変化したってことか。うーん、事件のわりには害がないな。神社の完成ということは変化してないわけだし。
「あいつパラレル世界では神社手作りしてるのか。やべーな」
いやでも、時間移動がそもそもアルテにできるものなのか?魔学科法ってのは確かに特殊能力とは違う力があるようだが。特星内に記憶を操る人物が居るとかの方が信用できそうだ。アルテの記憶を操ったとか。
でもなー、アルテが特星来る以前にアミュリー神社の名前を当てれるはずがない。特星に来た後のアルテは結構強いから多分その辺のやつなら能力使う前にやられるな。ていうか騙すメリットなし。……唯一、雑魚ベーだけは記憶改変さえできれば好感度アップでうはうはだろうが、それなら約束覚えてるほうが多分印象いいよな。うーん、わからねー。
「一人で作ったことはそれで何とかなるけどもう一つ。神社で二人の少女と暮らしているの部分はどうするの?」
「え、雑魚ベーって雨双とアミュリーと住んでるだろ?」
他に一緒に住むような物好きなんているのか?
「私がここにいるよ。もちろん神社完成時からずっと」
「あー」
さっきタダで住むのが嫌だって言ってたな!確かにアルテを含めれば三人の小学生が住んでいるな。あれ、でも待てよ?
「その昔の雑魚ベーはアルテのことを知ってたのか?」
「いや、お互い初めての出会いだよ」
本来はアルテが居なかったから二人の未来になったわけで。その話のその矛盾はアルテが居るから発生するわけだ。
「お前が原因かー!」
「あ、なるほどねぇ」
まあ今の状況に満足してるから別に良いけど。それにしても未来って変わるんだな。
「あ、でも魅異は現代で会ったら久しぶりって言ってたよ!」
「魅異は例外」
無駄な推理に時間を使ってしまった。だが俺にかかればこの程度の問題は簡単に解決だ!…さて次は神社のどこを回ろう?
「でも流れ星とアルテは関係ないよな」
アルテが事件を起こしたからボケ役が事件を起こした?
〔俺の事件はなんとなくだぞ。流れ星は印納に頼んだけどな〕
ううん。やっぱりアルテは関係ないのか?ボケ役の気まぐれが原因で未来が変わったとか?…逆に話で聞いた未来と共通する部分を考えるか。
〔過程はどうであれ、神社が完成して雑魚ベーたちが移り住んだことだな〕
「神社に秘密でもあるのか?」
なら神社を見学するついでに怪しい場所がないか探るか。
〔それにしてもさっきからどこ歩いてるんだ?歩く音が響いてるぞ〕
「んー?なんか浮遊要塞って場所らしい」
少し前に一セル落として追いかけていたら、草むらの近くに地下への階段を発見したのだ。中に入ると浮遊要塞と大きな張り紙が張ってあった。
〔物凄く怪しいと思うんだが〕
怪しいか?わざわざ浮遊要塞って張り紙があるわけだし、雑魚ベー辺りの作ったものだと思うんだが。少なくとも賢い奴が作ってるってことはない気がする。まず作る場所が間違いだ。
「地下に作ったんじゃあ飛ぶ物も飛ばないな。飛ばない要塞は売ってしまおう」
「こらこら。売るのは勝手だけどこれは飛ぶ要塞だよ」
部屋の一つから一人の男が出てくる。その男はコートを着ている。なんだか他人とは思えない雰囲気を出している男だ。年は校長と同い年くらいだろうか?
んー?この男は怪しいな。物凄く怪しい。
「この程度の温度でコートなんか着るとは不審者っぽいな」
「ふん。君だって着ているじゃないか。それにこれは我が家の風習みたいなものだよ」
「それは気が合わないな。俺の家の風習も同じようなものなんだ」
なんだろう。この男とは昔に会ったことがあるかもしれない。そう、確か父親がこんな雰囲気だった。ていうか他に心当たりねえや。……ただこの雰囲気はなんか自然すぎて違和感があるな。昔に会ったときとあまりに雰囲気が変わっていない。だから多分、データを元に化けてる偽者かよっぽどの変人かのどちらかだろう。
「おや。悟だったのか。そばらく顔を見なかったから気づかなかったよ」
「鈍いなぁ。コート着て要塞に居るのに。…ところで誰だ?」
父親の可能性があっても名前は知らないので聞いておく。もしこいつが偽者だとしても、本物の父親が名乗った名はこいつが名乗った名と同じということにしよう。
「ふふふっ。私の名前は雷之 皇神!特星製作者の一人でありお前の母親、…のサポート役であり夫でもある!」
要するに俺の母親よりも格下の中間管理職ということだ。もしかしたら一番下っ端かもしれない。
〔あれ。聞き覚えのある声だと思ったら皇神がいるのか?〕
急にボケ役が話しかけてくる。というかボケ役は皇神の知り合いなのか?
〔あぁ。悟ンジャーが対決する悪役の一人だ。幹部クラスの男だったはず〕
悟ンジャーでも中間管理職かよ!完全に本職とリンクしてるじゃないか!
「ん?黙り込んでどうしたのだ?」
〔それと偽者部隊の皇神ジャーブラックという敵でもある。負け続けてる幹部が悟ンジャーの真似をして部隊を作る。そして悟ンジャーと戦うって話だ〕
主人公の偽者が現れるってのはよくあるけどさ。皇神ジャーって名前はないなぁ。だってそのまんま過ぎるだろ。そもそもレンジャーじゃない!
〔あぁ。レンジャーではないのがもう一人居るな〕
ファッション番組のボケ役には言われたくない!
「…それにしても幹部に偽者役とか悲惨だなー」
口に出すつもりはなかったが、ついつい言ってしまう。
「ほぅ。この私の実力を見抜くとはさすがだ。これはもう戦うしかないだろう!」
まあもともと戦うことは予想済みだしさっさと倒すか。
「悟ンジャーとしても父親としても偽者な男に負ける気はない!」
「後者は本物なのだが。平和な雰囲気!」
皇神の技を回避して攻撃を仕掛けようと思っていたが何も起こらない。むしろなんだか戦う気分じゃなくなってきた。
そうだ。どうして俺達が戦う必要があるんだ?
「攻撃を避けようなんて考えて損したなー」
「そうかい。それは損だったね。必殺、皇神ジャー三打撃!」
皇神が結構な速さで三発ほど殴る。
むむむ。一体どうしてこの男は俺を攻撃するのだろう?かなり痛いが子供が転んで怪我するのと同じようなものか。
「何をするんだ?暇なのか?」
「私は忙しいのだ!さっさと帰ってくれ!必殺、幹部タックル!」
今度は体当たりで壁まで吹っ飛ぶ。
おー、凄い迫力!そして死にそう。
「どうすればいいんだ?」
もしも俺が攻撃すれば他のやつらが真似する可能性がある。そうすれば特星中で能力を使った戦いが行われるかもしれない!
〔いつも通りじゃないか〕
え?そ、そういえばそんな気がするような。もしかしてあの男と戦って大丈夫なのか?…そりゃそうだ!
「食らいたまえ!幹部型潰し!」
こちらに走ってくる皇神。技の名前的に跳んで俺を押しつぶすつもりだろう。ならばこちらは潰される直前に反撃すればいい。
「ふははははは!」
皇神は両手を広げ笑いながら走ってくる。怖い!怖いがギリギリまで引きつけなければカウンターっぽくない。というわけで我慢してやろう。
「とうっ!」
そして皇神が跳ぶ。ダサい!…そして俺に当たる直前に俺は銃を取り出し皇神につきつけて、距離がなくなりそうなところで叫ぶ。
「密着暴発砲!」
俺が言い終わると同時に銃の先端が皇神の顔に密着。そして暴発した銃により皇神は吹き飛ぶ。
「うわあぁっ!ぐほっ!」
やや上向きに使ったから皇神は天井に叩きつけられ落ちる。
この技は弾を撃つ技ではない。弾を銃の中で何かを暴発させて勢いと振動で敵を吹き飛ばす技である。そのため密着してないと意味がない。だが摩擦効果で熱さ分の追加ダメージがあるのだ!…銃によっては薄い鉄板に穴が空くかも。
「でも手が地味に痺れるぞ」
振動するから肩こりにはいいかもしれないが…。今日の装備も水鉄砲だから水圧圧縮砲のほうがよかったかも。水の魔法弾の威力があがる気がするし。
「ふん!手が痺れて弾が撃てないならこの勝負は私が頂こう!」
「水圧圧縮砲!」
余裕そうな皇神を水の魔法弾で吹き飛ばす。一応岩でも砕ける魔法弾なので多少は堪えるだろう。
「うぐぐ。手が痺れているのになぜ撃てたんだい?」
「スタミナ凄いな!…別に魔法弾は引き金引く必要はないんだ。引いても撃てるけどな」
恐らく特訓すれば銃無しでも撃てると思う。ただ俺の場合は命中精度が落ちるかもしれない。
そもそも水鉄砲で岩が砕けるわけがないだろ。これは市販されてた子供向けの水鉄砲だぞ!しかも七十セルとちょっとお得品!
〔よく壊れなかったな。振動で〕
勇者社の製品を甘く見るな!特星での生活のことを考えてか、使い捨ての物を除いたおもちゃ系製品の平均寿命が約二百年!俺の持つハエ叩きなどの伝説系のものは半永久的に使えるそうだ!
〔あのハエ叩きって伝説系の物なのか…〕
「私の負けのようだ。潔く負けを認めて逃げるとしよう」
元気に立ち上がって走って外へ行く皇神。もう回復したのか、まだまだ体力に余裕があったのかはわからない。ただ元気な奴だとは思う。
〔皇神は体力があるタイプだな。まあ悪役なら回復早いほうが向いてるな。そういう意味では雑魚ベー辺りは悪役にピッタリだな〕
…普通に悪役じゃないか?姫卸婆さんと二人で正義の小学生と戦ってそうだ。もちろん雑魚ベーが幹部でな。でもそれだと俺達の出番がなくなるな。
しばらく歩いていると動力室らしき部屋を発見した。この部屋を破壊すれば浮遊要塞の発進を防げるだろう。何故防ぐのかは知らないが。
〔この部屋を破壊すれば何者かのたくらみを邪魔できるからだろ?〕
そうだった。でも結局は雑魚ベーたちがここでしかできない事がわからないんだよな。
「入り口の蓋が開いていたので急いで来てみましたが…。やはり見つかったようですねぇ」
「見つかっちゃったな。ふたの閉め忘れが原因で」
俺達が入った後に入ってきたのは雑魚ベー。場所的に予想してたが、やはりこの浮遊要塞は雑魚ベーが作っていたらしい。
「閉め忘れてましたか!?戸締りには気を使うほうなんですが」
「まあもっとも開け忘れたのは別人だろうけどな」
さっき皇神が逃げていくときに閉め忘れたのだろう。俺が見つけたときに開いてたのも皇神か母親を名乗る変人かのどちらかだな。母親はまだ見つけてないけど。
「とにかく今日は浮遊要塞の発進日です!これを使って悟さんと戦うつもりなので外に出てくださいよぉっ!」
「どっちにしても結果は主人公の勝ちだ!なら今勝つほうが手っ取り早い!ビー玉弾!」
ガラスの弾を大量に発射してして攻撃するが雑魚ベーは腕で顔を守る。…いつもなら回避行動をとりそうだが。
「く、普通銃で撃つ弾はビービー弾だと思いますがねぇ!」
「小さい弾って嫌いなんだ」
なんというかダイナミックさに欠けるんだよな。ビー玉ならそこそこ重くて普通の窓なら割れる威力はある。しかもたまに大きめのビー玉が出るというおまけつきだ!
それにしても接近技ばっかりなのは大変だなー!わざわざ敵の攻撃に突っ込む必要があるなんて!こっちは逃げながら撃つだけで勝てるんだから余裕だ余裕!
「…悟さん。もしかして私に遠距離がないと考えてるんじゃないですかねぇ?」
「え…」
ナイスタイミングで言われたことを考えていたものだから、ついつい攻撃を中断してしまう。
まさか雑魚ベーが遠距離攻撃を覚えたのだろうか?
「私は特星にきてから使っていない技があります。それがこのカムという技ですよぉっ!」
雑魚ベーが手の上にバスケットボール程度の球体を出現させる。その球体はオレンジ色でぼやけていることがはっきりみえる。俺の視力でなければ単にぼやけて見えるだろうが。
「それっ!」
「うわ!」
そしてその球体をこちらに飛ばしてきた!…だがその球体の速度は非常に遅く、子供の徒歩と同じくらいの速さだ。
「触れたら爆発とか?」
「いえ全然」
ただの色のついた気体のようだ。どんな気体で出来ているんだろうとちょっと触ってみる。
「って、危ないですよぉっ!」
「へ?熱っ!」
カムの中は結構な温度だったようで驚いて飛びのく。…く、火傷するかと思った。特星だからしないけどそのくらい熱かった。
「大丈夫ですか?カムは気体の球体を発射する技です。そして人肌から熱湯くらいまでの間で調節でき、早さも少しなら調節可能です。さっきのは熱湯くらいでしたから、非常に熱くて結構危険なんですよ!」
人肌から熱湯くらいか。冬であれば暖房代の節約になるということか。もっとも夏の需要はほとんどないだろうが。
「さあまだまだいきますよぉっ!必殺、ジャンピングキック!」
恒例の必殺技でこっちへ攻撃する雑魚ベー。それを走って回避する。
「よく避けれましたねぇ。…あ!」
急に雑魚ベーが焦ったような声をあげる。よくみると雑魚ベーの足が動力装置みたいなものの隙間に挟まっている。…これはチャンス!
どうせ動力装置も壊すつもりだった。ならば雑魚ベー相手だし手っ取り早くこの技でいくか。
「しかしまだまだですよぉっ!カム!」
次はさっきよりも少し速いカムを出す雑魚ベー。だがもう手遅れだ!
「エクサバースト!」
俺の使える最大の技で雑魚ベーと装置を消滅させる。充電はまた空になった。だが何とかなるだろう。あくまでも勘だが。
「ああ…。私の作った浮遊要塞が」
いつの間にか復活している雑魚ベーを発見。回復早いな。
「ま、必要経費だと思って諦めろ。真犯人は倒してやるから」
「何のことですかー?…もう帰りますよぉ」
さてさて雑魚ベーが怪しくなかったことが証明された。あとは真犯人を倒すのみだ!
その後俺はほとんどの部屋を歩き回ったが誰も居なかった。そして疲れたので休憩室にやってきた。休憩室は体育館のような構造でステージがある。
「…ここだけ見ると要塞には見えないな」
壁は木造でできているので見た目は完全に体育館だな。
そんなことを考えていると急に電気が消えてしまう。そしてステージにスポットライトらしきものがあてられる。
「なんだ!?」
「ようこそ私の舞台へ。私の世界へ。そして私の物語へ。…ふふふ、私の期待通りの物語を進む主人公、雷之 悟!お前が来るのを私は非常に楽しみに待っていた!」
な、なんだ!?この少女からは今までの奴とは違うラスボス的雰囲気が出ているぞ!まさか本気で勝負とかしてくるつもりか!?
「皇神!今の私はあまりラスボスみたいにみえないぞ!もっとラスボスの雰囲気を全開にするんだ!」
「無茶をいわないでくおくれ。これが限度というものだ。そもそも君にラスボスの雰囲気というのは、私の雰囲気を操る能力を使ってもかなり無理があるのだよ」
よく見ると逃げたはずの皇神が舞台幕の裏にいるのが見える。俺が雑魚ベーの相手をしてる間に入ったのだろう。
「仕方ないなぁ。…私の名は雷之 天利!この特星の物語を司る者であり、お前の母親でもある!」
舞台裏がいるとわかっているので今はあまり雰囲気が凄くない。というかサポート役の皇神は大変だな。バトルして更に演出係。下っ端同然の働きじゃないか。
「それで目的は?というか俺になにか用でもあるのか?」
おそらく俺がここにいるのは天利のなんらかの能力が原因だろう。
「皇神。ここは感動的な雰囲気だ」
「あ、すまない。もうすぐニュースが始まるから帰らせていただくよ」
それだけ言い残すと凄い速さで休憩室を出ていく皇神。感動的な雰囲気どころか部屋中に気まずい雰囲気が流れる。
「…く!今夜のニュースは全て中止にしてやるっ!そして皇神には絶望的な物語を経験させてやる!」
なんだかよく判らないが天利は舞台幕に八つ当たりをしている。数秒で舞台幕がボロボロになる。高そうなのにもったいない。
「とにかく天利!お前が主犯だってことはわかってる!俺と勝負だ!」
「嫌だ。今の私は凄く機嫌が悪い。別の機会に相手してやるから出直して来い」
別の機会だと?今まで勝負を後回しにされたことはなかったがどうする?…いやいや、相手の調子が悪いなら楽々と倒すチャンスじゃないか!
「と、私がいっても出直す気はないんだろう?」
「さすがは偽者の親の片割れだ。俺のことをよく判ってるじゃないか」
「それを決めるのは私だ。今日の物語は終了だが一つ言っておくぞ。私たちは本気で人を困らせる気はないんだ。本気で事件解決しても良いがたまには楽しむべきだぞ。じゃ、また会おう!」
言いたいことを言って天利はなにかを考える。すると天利の姿が消えてしまった。
〔天利は勘違いしてるな〕
急にボケ役が話しかけてくる。途中から居なかったようだがどこに行っていたのだろうか?
〔雑魚ベーを悪の幹部に勧誘してたんだ〕
元悟ンジャーが敵役を勧誘するのはどうかと思う。
「それで天利はなにを勘違いしてるんだ?」
〔お前が事件解決を頑張ってると思ってたようだ。どうみてもやる気ないのに〕
物凄く嫌だが毎回これでも頑張ってるぞ!やる気はないけど!
「…そういえば天利のことで気になったことがあるんだが」
〔ん?〕
さっき俺は次の敵が母親であると思っていた。そして予想通り天利は俺の母親だったわけだ。だけどそれにしては物凄く不自然なことがあるのだ。
「ラスボスの雰囲気でつっこみ損ねたが、天利の姿がどうみても子供だった」
〔…子供?〕
そう。俺が対峙していた雷之 天利は子供だった。しかも雨双やアミュリーよりも小さかった。大体小学生の低学年くらいの姿だったと思う。
〔俺が会った時は高校生か大学生くらいの姿だったはずだが。確かに後半は声が幼かったな。…まあ変な物語でも体験して子供になったんだろう〕
昔の天利ってどんなやつだったんだ?今でもかなり無茶そうな性格に見えたが。
〔悪のラスボスとして悟ンジャーに出てたな。…本当にラスボスのような奴だったぞ。物語はアドリブで作ればいいとか言って、打ち合わせもせず本番を行うようなやつだ。天利の出番があると月に二桁はカメラが壊れるんだ〕
ひえぇ、恐ろしい。もう今度の勝負はしないでおこうかな。特殊能力無しでも強そうなのに、それに加えて特殊能力なんか使わせたらどうなるのか予想もできない。
さて。宝くじの当選日まであと半分というときに発覚した親たちの事件。主犯である母親の天利との勝負は後回しになった。だが俺はいつ現れるかわからない天利に勝てるのだろうか?
また、当選日に無事に百億セルを入手できるのだろうか?…でも正直これはなんとしても入手したい。事件に巻き込まれるのは覚悟のうえで。
そのような問題を残したまま食べるかき氷は非常に美味しいぞ!…それにしてもなにかの事件を無視した気がするが気のせいだろうか?