ぶち壊し結婚式
とある人外ばかりが住む国があった。もっとも、その国の住人というのは基本的にナニカとの混ざりものであることが普通で、人外という認識もない。
色々な種族がそこにいるが、特定の特徴を持たぬヒトというものがいないというだけのことだ。それでも平和に暮らしていた。
あるとき、異界との扉が開いてしまうまでは。
扉が開いてしまった結果、数人のヒトがこの国に入り込んでしまう。
それだけならまだよかったが、異界から来たものにはこの国の者が魔物にしか見えなかった。そして、この国の者もあるべき特徴を一つも持たない相手に不気味さを感じた。
最初の接触は失敗し、その後も話をすることもなく争うことになった。その中で、一人が時をかけ対話を望んだ結果、わかったことは、彼らは帰りたかっただけで家に返せという。しかし、好んで呼んだわけでもない。その言葉すら疑われ、裏切られたと対話した者すら糾弾した。
異界へとつながる扉が原因で、そこにまだあるとわかるまでにはさらに無用な血がいくつも流された後だった。
その事件の現場には屋敷が建てられた。消えもせぬ扉をそのままにしておくこともできないためだ。開かぬように鍵をかけて。
それから長い時がたち、ある日、扉からの来訪者が現れた。小さな童女は館の主である竜に懐き、ついには夫婦になる。そして、生まれた子は半端者と扱われた。
国の中枢をまとめる竜種の子を害することは許されない。しかし、かつて同族を屠ったヒトの子の血を引くものを同様に扱えない。
その結果、その子はいないものとして扱われた。
母もなく、父も仕事で忙しく、寂しい子はいつしか扉の向こうから誰かが来てくれることを願った。
その願いは叶えられ、時折、ヒトの子が遊びに来ることになる。それは秘密の友達。それがいつしか恋になったのも不思議ではなかった。ほかに、親しい誰か、なんていなかったのだから。
そんな幸せな日々も長くは続かなかった。
父に露見し、娘は強制的に結婚させられることになったのだ。
その結婚式当日。
暗い表情の花嫁と同じく憂鬱そうな花婿。彼にしてもいきなり結婚、上司の娘と!? 拒否権なし!? となっており、望んでというわけでもない。
祝いの日とは思えないくらいに沈んだ結婚式は、途中でぶち壊しになる。
ヒトが乗り込んできたのだ。
花嫁を守るべく花婿は背に庇った。異界からきたものの恐ろしさは聞いていたが、うら若き乙女を置いて逃げるものではないと思ったから。
周囲は蜘蛛の子を散らすように逃げていく。
「セイナさん!」
「ダメよ」
あれ? お知り合い? と花婿が思ったあたりでぶん殴られた。
「君じゃなければやっぱり駄目なんだ。
一緒にきてください」
「でも」
「愛してるんだ」
その言葉で花婿は押しのけられた。
「わたくしは、この方と異界で暮らします!」
そう花嫁は叫んだ。
殴られて痛い頬を押さえながら、二人が消えた扉を見る。
「ぇぇ……」
呆然と呟く以外なかった。
そう、この、花嫁を連れ去られた花婿がクライである。