善悪の木の実
そこはエデンの園。アダムとイブは平穏な日々を送っていた。
いつものように木陰の下で寄り添い合う二人。しかし、イブがふと気づいたようにこう言った。
「ねえ、アダム。これ、見て。どうしたのかしら……」
「さあ、なんだろうね。でもいいじゃないか別に……」
「そうね……ふふふっ」
「あはははっ」
そしてまたある時……。
「ねえ、アダム……」
「なんだいイヴ」
「これ……」
「ああ、前よりも大きくなってるね。ふふっ、美味しそうだね」
「あら、だめよ。だめ……」
そしてまた……。
「ねえ……アダム……」
「ん、え、なんだいそれ」
「ん、なんか、取れちゃったのよ。力を入れたらね」
「そうか……それで、なんだろう。食べられるのかな? 美味しそうに見えるけど」
「そう、そうなのよ。私もそう思って、食べてみたのよ・ほら、ここ」
「え!? そ、それで? どうだったの?」
「そうね、何というか……とにかく、アダムも食べてみて」
「そ、そうか。君が言うなら……あぁ、赤くて、瑞々しくて」
「美味しいでしょう? でも、なぜかしら。それを口にしてから私、なんか変なのよ」
「ああ、僕もだよ。どうしてかな……」
「ねえ、アダム……私たち、ひょっとしていけないことをしたんじゃないのかしら」
「いけないこと? でも、もう食べてしまったんだし」
「そっちじゃないわ、とぼけないでよ。ほら、いつもしてるあれよ」
「ああ、君の体の中に僕の体の一部を入れる、あの行為のことかい? でもあれ、すごく気持ちいいじゃないか。君も喜んでいたじゃないか」
「でも、それ以来、私のおなかが膨らんで、それでこれって……ああ、どうしてかしら、涙が……」
このことが神に知れ、アダムとイヴは楽園から追放された。
イヴの体に絡みついたそのへその尾は、干乾びてもしばらくの間離れなかった。
まるで蛇のように。