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その7 魔王幹部、第二次調査を実施す

 第二次調査もロッドバルトとオディールが行うことになっている。

 前回との違いは、護衛として十体のドクロ戦士、そして荷物持ちとして、(アリ)型魔物のアントマンが随行する点だ。

 荷物持ちのアントマンは小柄な人間サイズであるが、乗用車ぐらいなら軽く持てる力持ちである。

 現状の召喚設備では人間サイズよりも大きなものは通ることができないため、あまり大きな魔物を連れて行くことはできないが、アントマンなら大丈夫である。


 全員が召喚台に登るとさすがに狭かったため、ロッドバルトは早々にドロッセルマイヤーに召喚の起動を指示した。


「それでは現在最も人のエネルギーが集中している場所のすぐ近くに転送します。

 一日後にちゃんと元の場所に戻ってくださいね」


 ドロッセルマイヤーの呪文と共に例の黒い影が現れ、ロッドバルトとオディールはやはり気持ち悪さをこらえながらそこを通っていった。

 着いたのは都市の裏路地のようなところであり、周囲に高い建物がそびえていた。


「よかった、文字はちゃんと読めますねぇ。

 言語記憶はうまくいったようですぅ」


 看板を見ながらロッドバルトがつぶやいていると、後ろでガラガラと積み木を崩すような音がした。

 振り返ると、転送穴の出口すぐのところでドクロ戦士がばらばらになって骨の山を築いていた。

 あっけにとられた二人が見ていると、転送穴からアントマンが顔を出した。


「オイ、オマエラ、ドシタ?」


 アントマンも骨の山を見ながら叫んび、急いで駆け寄ろうとしたが、穴から上半身が出たぐらいの頃、荷物に押しつぶされるように倒れ込んだ。


「オ・・オモイ」


「どうしたのでございますか」


 オディールが駆け寄ったが、アントマンは倒れたままじたばたするばかりだった。


「ニモツ・・オモイ・・ウゴケナイ。

 ソレニ・・クルシイ・・イキガデキナイ」


「あなたにとって、そのぐらいの荷物は大したことないはずでございましょう?」


「クルシイ・・シヌ・・オレ・・カエル」


 アントマンは腹這いのまま、体を引きずるようにして転送穴の中に戻っていった。

 その直後、転送穴は消失し、二人と骨の山だけが残された。


「どういうことでございましょう」


「なんだか想定外のことばかり起こりますねぇ」


 二人には理解できなかったが、現実世界においては、筋肉のない骨格だけのドクロ戦士は動けるはずがないのである。

 彼らはこの世界の物理法則に従い、骨の山になってしまったのである。

 アントマンも同様である。

 たしかに地球の蟻は自分の体重の百倍もの重さの物を持てるが、それはスケールが小さいからである。

 スケールが大きくなり、身長が千倍になると、脚の筋肉断面積は百万倍になるが、体重は十億倍になる。

 荷物どころか自分の体重すら支えられなくなるのである。

 さらに、昆虫は気門で呼吸しているため、スケールが大きくなるとガス交換ができず、窒息してしまうことになる。

 酸素濃度が高かった太古のペルム記には1m近いトンボも存在したが、今では大きな昆虫が存在しないのはこれが理由である。


 結局、調査隊は一瞬で二人だけとなってしまった。


「こっ・・これでは、前回の調査と同じことになってしまいましたねぇ」


「お父様、わたくし今回はこちらの通貨を持ってきたでございます。

 必要なものはこちらで調達できるでございますわ。

 それに言葉も通じるはずです」


「それはずいぶん助かりますねぇ。

 それに、前回と異なり、気温もずいぶん快適のようです。

 あの暑さがないのはホっとしましたねぇ」


 現実世界では、もう10月の終わりとなっていた。


「お父様、こうしていてもしかたありませんので、調査に向かうのはいかがでございますか」


「そうですねぇ、帰りはどうせここに戻ってくるので、ドクロたちはその時に回収するとしましょうか」


 とりあえずドクロたちをそのままにして、二人は明るい方へ歩いていた。

 なんだかとても(にぎ)やかそうで、人がたくさん歩いていた。

 いや、人だけではなく、いろいろな種族がいた。

 特に魔物が多いようだった。


「お父様、魔族がたいさんいるようでございますわ」


「そのようだねぇ」


「私、人間以外がこちらにいるのか勇者に再度確認し、彼ははっきりいないと言ってたのでございます」


「とんだうそつきですねぇ」


「とにかく、言葉が通じるのか確認するのも兼ねて、聞いてみるのでございます」


 オディールは近くにいた魔族らしい男に声をかけた。


『あの、すみません、皆さん何をされているのでございますか』


『ハロウィンだよ。

 何言ってるんだ、あんたも仮装して参加してるじゃん』


 そう、人のエネルギーが集中する場所、ここは渋谷の交差点近くでハロウィン真っ最中だった。


『ところで、あなたはどなたでございますか』


 自分の仮装を尋ねられたと思ったその男は、威厳をこめて答えた。


『吾輩はドラキュラなるぞ』


『これはこれは、バンパイヤ伯爵家の方でございましたか。

 それは失礼いたしましたでございます』


『ははは、あんたも乗るねぇ。

 じゃ、お互い楽しもうぜ』


 手を振って去っていく男を見送ったオディールは、ロッドバルトに駆け寄っていった。


「聞きましたかお父様。

 言葉は通じましたし、なんとこちらにもバンパイヤ一族の高祖がおられるようでございます」


「こちらの世界も我々の世界と変わりないようですね」


「でも見たところ、むしろこちらの世界の方が人間の比率がすくないようでございますね。

 前回は人間の方が多かったようでしたが」


「こちらの魔界に転送されてきたのかもしれませんねぇ」


「そうだとすると、勇者の国のこのお金は使えるのでございましょうか」


 横に自販機を見つけたオディールは千円札を使ってみることにした。

 使い方は勇者に教えてもらっている。

 お金を入れて操作すると、ちゃんと飲み物が出てきた。


「よかった、ちゃんと使えるようでございます。

 それに飲み物が冷たい。

 自販機というのは氷魔法が使える魔道具なのでございますね」


「私にも一本水を買ってくれませんかぁ。

 この世界の水はなんとも言えぬほどうまかったからねぇ」


「はいでございます」


 嬉々として水を飲んだ二人だったが、期待したほどではなかったのは言うまでもない。


「うーん、やっぱり水は有明に限る」


 目黒のサンマのようなことを言いつつ歩いていると、前方から大きな音が聞こえてきた。

 人の流れに押されてその近くまでやってくると、ビルの建設現場だった。

 金網に隔てられた奥で、多くの建設機械が動いていた。

 大きなクレーン、ブルドーザなどが動いており、近くではパワーショベルが穴を掘っていた。


「お父様、あの魔獣をご覧になるでございます」


「なんとまあすごい魔獣ですねぇ。

 見たことのない魔獣ですが、力強く土を掘っていますよぉ。

 土の中に巣を作っているのでかねぇ」


「向こうは、巣の材料のようなものを吊り下げて・・竜族でございましょうか。

 あの大きさは、魔装竜に匹敵するでございます」


「うーん、この金網の中でいろいろな魔獣たちがあばれていますねぇ。

 しかし、あのサイズの魔獣たちをこの薄い金網で閉じ込めているとは、これは魔法結界の金網のようですねぇ」


「はいお父様、この世界の魔法はとてもレベルが高いようでございます。

 とにかく、この世界をもっと知る必要がございますね」


 気を取り直した二人は調査を開始し、通行人に聞き込みを行うことにした。


『あの、この国の政治形態について教えて教えていただくことはできないでございますか』


『何言ってんだよこんなときに、勘弁してよ』


『申し訳ないですがぁ、この国の軍事はどのようなものですかぁ』


『おっさん、なに寝ぼけたこと言ってんだ、知るかよ』


 誰に聞いてもまともに答えてくれなかった。


「お父様、誰もちゃんと対応してくれないでございます」


「どうも不親切な者が多いようですねぇ。

 魔物の風上にもおけん奴らです」


「もしかして、私たちが他の世界から来たことがバレていて、機密情報を教えてくれないのではないでございましょうか」


「ふむ、その可能性はありますねぇ。

 前回も機密エリアに立ち入ろうとしたら止められましたからねぇ。

 ちょっと聞き込みが直接的だったのかもしれません」


 そう言いながらふと前を見ると、商店と思しき建物に書物が並んでいるのに気付いた。


「お父様、書物を売っている商店がございます。

 これを購入して持って帰れば、いろいろと情報が入手できるのではございませんか」


「おおっ、それはよいですねぇ。

 早速、行ってみましょう」


 入店時に誰何(すいか)されるものと警戒していたが、そんなこともなく普通に入ることができた。

 大きな書店であった。

 分野ごとに分類され、膨大な書物がストックされていた。

 二人は手分けして、政治、経済、軍事、科学の分野の本を中心に集めて行った。

 文化を知るために、その他の本も少し必要である。

 内容を精査している時間が無いので、とりあえず目についたものをピックアップしていった。

 したがって、科学のコーナーでは、SF小説も混じることになった。

 そのうちロッドバルトは、奥に18禁と書かれたカーテンがかかったコーナーがあるのに気付いた。


「はて、18禁とはどういう意味でしょうかねぇ。

 しかしこの入りづらい雰囲気、きっと重要機密書類が置いてあるのでしょう。

 これは入手しておかないといけませんねぇ」


 機密書類を精査しているところを見られたら追い出されるかもしれないため、ロッドバルトはバタバタと適当に選んで、早々に18禁コーナーから出てきた。

 持ち出したすべての本にビニールがかかっていた。


「ふむ、全ての書物が封止されているようですね。

 やはりこれは重要な機密文書に違いありません」


 二人は勇者に教えられた通りレジでお金を支払った。

 大量の千円札を使い、レジのおねーさんは少し迷惑そうだったが、これは異世界人に機密文書を売ることに抵抗を感じているからではないかと二人は解釈していた。

 とにかく通報される前に急いで書店を立ち去ることにしたが、本はとても重かった。


「お父様、荷物持ちのアントマンが来られなかったのはきびしいでございますね」


「そうだね、こんな重いものを運ぶのは人生初めてですねぇ」


 そう会話しながら、とりあえず本を転送場所に置いてこようと、二人は元の場所に戻ってきた。

 しかし、件の路地に入る入口に黄色いテープが張られて通行止めになっており、奥で多くの人が何やら忙しそうにしていた。

 テープを無視して入ろうとしたロッドバルトは、赤く光る棒を持った人に止められた。


『こら、ここに入っちゃあいかん、テープが張ってあるだろ』


『どうしてだめなんですかぁ』


『この先に大量の人骨が落ちていると通報があったので、現場検証中だ』


『それはうちのドクロ戦士のものでございま・・』


 オディールの言葉はロッドバルトにより(さえぎ)られた。


『そうですかぁ、残念ながらこちらは今通れないんですねぇ、失礼しましたぁ。

 オディール行きますよぉ』


「お父様、どういうことでございますか。

 荷物を置いてこられないでございますよ」


「いや、あれは勇者が言っていたケーサツという衛士たちのようですぅ。

 機密文書をかかえた状態で関わり合いになるのはまずいでしょぉ」


「さすがお父様、その通りでございますわぁ」


「いつまで連中があそこにいるか分かりませんがぁ、帰りの時間までにいなくなっていることを願いましょぅ」


 大荷物を抱えて身動きができない二人は、宿屋に避難することとした。


「勇者によると、宿屋はホテルというらしいでございます」


「おおっ、あそこに派手な光で、ファッションホテルとかいてありますねぇ。

 とりあえずあそこにしましょう」


 二人はラブホテルにチェックインした。

 受付のおばさんは、ロッドバルトを白い目で見ていた。


『休憩ですか、お泊りですか』


『泊りでおねがいします』


『8500円よ』


 宿泊費を支払って、部屋に入った二人は変わった構造に驚いていた。


「お父様、ベッドが丸いでございますわ。

 それに壁一面が鏡になってございますわ」


「ふむ、浴室もガラス張りですかぁ。

 おかしな造りのへやですねぇ」


「わたくしが入浴するときは、ずっと目を閉じているんでございますよ、お父様」


「わっ、わかってますよぉ」


「あらっ、これが勇者が言っていたテレビでございますね。

 情報を取得するのにとても有効だとのことでございましたわ。

 たしか、リモコンというもので起動できるはずで・・」


 ここはラブホテルなのである。

 オディールがスイッチを入れた途端、テレビがついてXXX(ちょめちょめ)な行為が映し出された。

 父と娘が二人の時にそんな映像が流れた場合の気まずさは想像に難くないであろう。


「お父様、不潔です」


 いきなり平手打ちを食らったロッドバルトは、完全に理不尽なとばっちりだった。

 あわててスイッチを切ったオディールは、正気に戻った。


「ご・・ごめんなさいでございますわ、お父様。

 気が動転したのでございます」


「いや、いいですよぉ。

 わたしくしもびっくりしましたからぁ」


 頬をさすりながら、ロッドバルトも居心地が悪そうに答えた。


「テ・・テレビというのはこういうものだったのでございますね。

 あはは・・きっとこれは勇者の罠だったのですね」


「そうですねぇ、なんとも卑劣な奴です」


 ロッドバルトはまだヒリヒリしている頬に、勇者への復讐を誓っていた。


「そ・・それでは入手した文書を簡単に精査しておきしょうかぁ」


「そ・・そうでございますね。

 いらないものを持って帰る必要はございませんし、

 足りないものがあれば、追加で購入するでございますわ」


 二人は手分けして本の山を確認し始めた。

 ロッドバルトはまず封止された重要書類から取り掛かった。

 とにかくこれらが最も機密度が高そうだからである。

 ビニールをやぶり、中を見たロッドバルトは凍り付いた。

 さっきテレビで流れていたもの以上の激しい画像が満載なのであった。

 自分がこんなもの選んできたことをオディールに知られると、どんな目に合うかわからない。

 ちらりとオディールの方を見ると、幸い彼女は本の内容に集中していた。

 急いでロッドバルトはこれをベッドの下に隠した。

 しかし、封止された本はまだ他にもある。

 こっそりと中身を確認していったが、どれも同様の内容であった。

 封止本の最期の一冊を確認していると、後ろに気配を感じた。

 ロッドバルトがおそるおそる振り返ると、オディールが仁王立ちになっていた。


「おーとーうーさーまー、これはどういうことでございますか」


「いや、こ・・これは機密文書だと思ってぇ」


挿絵(By みてみん)


「先程、何かベッドの下に隠してございましたね」


 オディールがベッドの下を探ると、たくさんの本が出てきた。

 ロッドバルトが隠したものよりもずっと多かった。

 おそらく、以前の宿泊者が置いていったものが含まれるのだろう。


「私が一生懸命精査している横で、こんなにたくさんの不埒(ふらち)な本を隠して持って帰るおつもりでございましたか」


「いや、違う、信じてぇ・・」


 ここからは大変恐ろしい状況となったので、描写は控えることとする。



 さて恐怖の一夜が過ぎ、帰還時間が近づいてきたため、二人はホテルを出ることにした。

 受付には別のおばちゃんが座っており、テレビでニュースを見ていた。


『8時のニュースです。

 昨夜、渋谷の路上で多数の白骨が見つかりました。

 警視庁の発表によりますと、死体はほぼ十体分で、完全に白骨化しているようです。

 警察は殺人事件を視野に入れて捜査を行っています』


 ロッドバルト達は、ニュースが気になり、耳を澄ませていた。


「まずいですわねお父様、うちのドクロ戦士のことでございますわ」


「しっ、静かにぃ」


『次のニュースです。

 昨夜、渋谷の書店で偽札が使われたとの通報がありました。

 調べによると、昨夜9時ごろ、渋谷の書店で仮装した二人組の男女が本を大量に購入し、28枚の千円札で支払いました。


 千円札にどれも同じ形の折り目がついているのを不審に思った店員が調べたところ、すべてが同じ番号の千円札であり、偽札であると警察に通報しました。

 これら千円札の完成度は極めて高く、番号が同じである以外は、本物と見分けがつかないとのことです。

 警視庁では、周囲の監視カメラの映像などを用い、捜査を行っています』


「なんだか、これはまずい気がしますねぇ」


「はいお父様、とにかく帰還場所へ急ぐでございます」


 ニュースの内容を完全に理解したわけではないが、二人は仮にも魔王四天王のメンバーである。危機管理の能力も高いため、自分たちがまずい状況にあることを察し、転送場所に急いだ。

 しかし朝の渋谷である。

 比較的人通りも多く、コスプレをしているかのような姿の二人は目立ったため、通行人にじろじろと見られていた。


「やはり私たちが別の世界から来たことがバレているようでございます」


「そうですねぇ、みんなに監視されているようですぅ」


 二人はなんとか転送場所近くまで来たが、路地に入る入口には黄色いテープが張られたまま立ち入り禁止となっていた。

 ただ、今はだれも人はいないようだった。

 二人はバリケードを破って中の転送場所にたどり着いた。

 ここは往来から死角になっており、二人はほっとしていた。

 その後、近くで足音が聞こえるたびにびくびくしていたが、ようやく時間がやってきて、元の世界に戻っていった。



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