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その6 魔王、次回調査を準備す

 魔王国では、魔王と四天王が集まり、現実世界予備調査の報告会が開催された。

 部屋の隅には、参考人として勇者ヒロシが亀甲縛りにされて吊るされている。


「ロッドバルトにオディールよ、異世界の調査、ご苦労だったね。

 さて、異世界はどのようなものであったかを伝えてもらえるかな」


 魔王の問いかけに、ロッドバルトは勇者をにらみながら答えた。


「はっ魔王様。向こうの世界は勇者の説明とはかなり異なるものでしたよぉ」


「そっ、そんな・・」


 勇者はなにか言おうとしたが、ロッドバルトの眼力に(ひる)んで黙り込んだ。


「とにかく、最も重要な報告事項としては、向こうの世界では我々の魔法が使えないということですねぇ」


「ん?『我々の』というのはどういうことだ?」


「はい、少なくとも、わたくしとオディールの魔法は何も使えませんでした。

 しかし、異世界人はかなり強力な魔法を使っているようですよぉ」


「そんなはずは・・。

 俺の世界に魔法なんかあるはずないっすよ」


 抗議する勇者を尻目に、ロッドバルトは淡々と続けた。


「勇者の説明から、向こうの世界では誰も魔法が使えず、私だけが魔法が使えるため、圧倒的優位な立場であると考えていましたぁ。

 実際にはその逆で、我々二人だけが魔法が使えず、大変な目に合ってしまいましたよぉ。

 勇者さん、我々を罠にはめましたねぇ」


「そ・・そんなことは決して」


「向こうの世界に魔法が存在する証拠に、あちらの魔道具を持って帰りましたよぉ」


 ロッドバルトは空のペットボトルを魔王に手渡した。


「ふむ、これままた変わったものだな。

 どうも容器のようだが、こんな材質は見たことが無い。

 たしかに、こんなものは魔道具以外にありえんな」


「あっ、ただのペットボトルじゃないっすか。

 それは魔道具でもなんでもない・・」


 抗議する勇者を魔女サタネラが(さえぎ)り、勇者の縄を締め上げた。


「実物の証拠を提示されてるのに、まだシラを切るつもりかい」


「あいたたた。

 ・・・なんか、ちょっと快感・・」


 ロッドバルトはそんな勇者を一瞥(いちべつ)しながら説明を続けた。


「これまでの勇者の証言は、ことごとく嘘でありましたよぉ。

 向こうの世界には人間以外にも亜人、エルフ、鬼人をはじめとする各種魔物が住んでおります。

 また、彼らは驚愕すべき魔法を多く使役できるようですねぇ」


 勇者はなにか言いたげであったが、締め上げられて声が出なかった。

 一方、魔王はロッドバルトの説明にますます興味をそそられていた。


「ほほう、どんな魔法を目撃したのだ」


「まず問題になるのは、簡単に我々が別の世界から来た者であるということを鑑定できるようですねぇ」


「なんだと、どういうことだ」


「はい、通常は我々を比較的友好的に区別なく接してくれていましたが、機密エリアと思われるところに入ろうとすると、他の現地人と区別し、阻止されました。

 このことから、我々を簡単に現地人と区別する鑑定能力を持っているものと思われますよぉ」


「それは面倒だな。

 つまり、隠密裏に向こうの世界を調査することができないということになるな。

 他にどういう魔法を目撃したのだ」


「氷魔法ですねぇ。

 向こうの世界の気温は極めて高かったのですが、この魔王城よりも大きな建物全体の中が適温に調整されていました。

 あれだけの氷魔法は相当魔力の高い魔導士でなければ不可能ですよぉ」


 ここまで聞いた勇者は、ロッドバルトの言う『魔法』が何を意味するかを理解した。

 ペットボトルにしろ冷房にしろ、科学の産物である。

 『充分に発達した科学技術は魔法との区別がつかない』とはクラークの三法則の一つだが、まさにそのことが起こっていた。


「それは魔法じゃなくて・・」


「まだ言うか、この嘘つきめ」


 勇者は再びサタネラに締め上げられたが、ロッドバルトは勇者を完全に無視していた。


「その他、遠隔地の様子を大画面で高精細に中継する、遠隔監視魔法も恐るべきものでしたよぉ」


「そっ、そうなんでございます、魔王様」


 ここからはオディールが興奮気味にしゃべりだした。


「その中継がまたものすごいものでございました。

 兵士たちの爆裂魔法の威力は、まるでめぐみんのそれのようであり、将軍クラスの能力ともなると、我々四天王が束になっても敵わないほどのものでございます」


「なに、それほどのものなのか」


「はい、特に彼の魔法・・カメハメ何とかの呪文により繰り出す破滅的魔法は、大陸を破壊するレベルのものなのでございます」


「カメハメ?!いや、それはたぶん、ゴク・うっ」


 勇者はそこまで言いかけて、サタネラに締め上げられて声が出なくなった。

 ちなみに最後の『う』は人名の一部ではなく、勇者のうめき声である。


 ここまで聞いた魔王は、深刻な顔になった。


「うむ、それは我が国の安全保障上の脅威だな」


「はい、そこに縛られている勇者は、自分は元の世界では平凡な者であったと証言してございます。

 それでもこちらの世界で力をつけて、現在のレベルまで成長しているのでございます。

 もし、件の将軍のような者が召喚され、敵対したとしたら・・」


「極めて危険な事態ということだな」


「そうなのですよぉ。

 ただ、今回の調査では、魔法が使えず、言葉が通じませんでしたぁ。

 したがって、あまり多くの情報を持って帰ることができなかったことは、申し訳ない限りですぅ」


「いや、そのこと自体が貴重な情報だよ、よくやってくれたな。

 でも、言葉が分からないとなると、今後情報を得るのが困難だな」


「魔王様、その点でございますが」


「なんだ。オディールには考えがあるのか」


「はい、むこうの世界で魔法は使えませんでしたが、自分の記憶には特に問題はございませんでした。

 つまり、魔法でなければ、記憶しているものは向こうでもそのまま使えるということでございます。

 であれば、こちらで向こうの言葉を一旦身につけてしまえば、勇者の世界に行って会話することは可能ではないかと愚考するのでございます」


「ほう、なるほどな」


「勇者の頭から魔法で言語能力を引っ張り出し、それをコピー魔法で脳に書き込む方法がございます。

 深層記憶を引き出す魔法を使う際に、引き出される者に激しい苦痛を与えますが、この際、気にしなくても構わないでございますね。」


「そうだな、まあそこはがまんしてもらおうな」


 青くなった勇者を誰も見ていなかった。


 ここで鋭い読者なら、魔法で記憶が引き出せるのであれば勇者の記憶を引き出せば現実世界の情報がとれるではないか、とつっこんだかもしれない。

 でもそれでは話が面白くないので、言語能力のように無意識に使えるファームウェアのようなものと、意識上の記憶というデータベースのようなものは別のものであり、ここではファームウェアに相当するもののみ引き出し可能、と言うご都合主義に目をつぶって頂けると助かる。

 いや普通はファームウェアよりもデータベースの方が引き出しが簡単だろ、などとつっこむ奴なんて嫌いなんだからねっ。


 魔王は次の調査について話題を振った。


「では、現地の言語能力を身につけて次の調査を行うものとするけど、ロッドバルトはどういう方針で行えばいいと思う?」


「向こうの住民は、我々が異なる世界から来た事を簡単に見破るようですので、今度の調査は人間に近い形態にこだわる必要はないでしょうねぇ。

 もはや隠密裏に偵察することはできませんからぁ」


「そうだね、ただ我々は敵対するつもりがないという意思ははっきり伝えないとな。

 とにかくうまくコミュニケーションを取り、こちらが敵意を持っていないことを伝える必要があるよ。

 ただ現実問題として、向こうの支配層と接触するのは、現時点では不可能だな。

 得体のしれない世界の住人とアポなしに会ってくれるわけがないからな。

 結局のところ、当面はあまり目立たないように情報を集めていくしかないな」


「では次回も私と娘で行って参りますぅ。

 ただ、アイテムボックスが使えないため、荷物をそのまま持っていく必要がありますぅ。

 誰か荷物持ちを連れて行く必要がありますねぇ」


 「そうだな、もう人間型にこだわらなくてもいいから、荷物持ちには力の強いアントマンを連れていけばいいよ。あいつなら体重の100倍ぐらいの荷物を運べるからな。

 それと、護衛のためにアンデッドのドクロ戦士を10体ほど連れてけよな。

 連中なら水も食べ物もいらないから、荷物が増えることもないだろうし。」


「魔王様のご配慮、感謝いたしますぅ」


「あと、なんとか現地の通貨が手に入ればいろいろ楽になるし、証拠品を持ち帰ることもできるのだけどな」


「向こうの通貨がどんなものかわからないですからぁ、魔法でも生産のしようがありませんからねぇ」


 その時、それまで勇者を杖でつついていた魔女サタネラが声を上げた。


「おい勇者、お前がこちらに召喚されたときに、金はもってなかったのかい」


「あ・・・ああ、ポケットに財布が入ってました」


「それはどこにあるんだい」


 それにはロッドバルトが答えた。


「勇者の私物なら、ナーロッパ攻略時に勇者の私室を差し押さえて、異世界分析のために調査班が全て確保していますよぉ。

 おそらくあの中に通貨が入っているのでしょうねぇ」


 それを聞いたオディールは、歓喜の声をあげた。


「それを取り寄せて、複写魔法でコピーすれば、現地のお金が手に入るではございませんか。

 それなら現地で水も手に入りますし、あんなみじめな思いをすることももうございませんわ」


「よし、それでは勇者の財布を調べるとともに、出立まで勇者の身はオディールに任せよう。

 しっかりと通貨の種類やその使い方を勇者から学んでおくんだぞ、オディール」


「諒解でございます、魔王様」


「勇者よ、もう嘘をつくんではありませんよぉ」


「いや、いままでも嘘なんかついてないっすよ」


 勇者は小声でつぶやいていた。


 その後、具体的な日程の話し合いが行われ、第二次調査隊の出発は2カ月後に決まった。

 準備しなければならないことがたくさんあったのだ。


 まず勇者立会いの下、私物から財布と通貨を探し出した。

 この世界の通貨とあまりに異なっているため、これまでこれが通貨であるものと分からなかったのだ。


「なんですって?

 こんな紙っ切れがお金でございますか?

 また嘘をついているのではございませんか?」


 勇者に財布を手渡され、中身を確認したオディールは、勇者を疑いのまなざしで見ていた。


挿絵(By みてみん)


「本当ですって、俺はうそなんてついてないっすよ。

 信じてください」


「だって、通貨には価値が無いと商品と交換してもらえないでございますよね。

 魔王国の通貨だって、魔石を加工したものでございますよ。

 こんな紙になんの価値がございますの?」


「いや、だから皆、これをお金だと思って使ってるっすから・・」


 勇者は不換紙幣の仕組みをちゃんと説明できなかった。


「まあ、よろしいでございますわ。

 この紙の模様はすごく細かいですから、美術品としての価値なのかもしれないでございますね。

 とにかく言語能力コピーをしたら、この紙に書いてある文字を読んである程度嘘は見抜けることでございましょう。

 ところで、この紙の周りにまとわりついてくるオレンジ色の文字のようなものは、何でございますか」


「あっそれ?

 それは『みほん』って書いてるんっすよ」


「どういうことでございますか」


「いやぁ、それがないといろいろとうるさいんっすよ」


「よくわからないのでございます」


 オディールは、このままでは(らち)があかないので、先に進むことにした。


「それで、この中で一番価値が高いのはどれでございますか」


「それっす」


 勇者はオディールが持っている千円札を指さした。


「これはどのぐらいの価値なのでございますか」


「ちょっとまともな夕食一食分といったところっす」


「ふーん、これが勇者の国の最高額通貨なのでございますか」


「いえ、その十倍の一万円札というのもあるけど、俺ニートなんで、万札なんて持ってないんす」


 オディールにはニートの意味が分からなかったが、なんとなく察したので、勇者に軽蔑のまなざしを送りながら財布を調べ、数枚のカードを取り出した。


「これらのカードは何でございますか」


「ああっ、それはクレカっす。

 買い物に使います」


「これもお金なのでございますか」


「いや、そうじゃなくて、買い物時にスキャンするっていうか・・どう説明したらいいんだろ」


「それじゃあ、これ一枚でどれぐらい価値があるのでございますか」


「それは人によって限度額が違って・・

 俺のは家族カードなんで限度額は低いっす」


「ますます訳がわからないでございますね。

 わたくし、勇者の世界のお金の使い方を理解できる気がしないでございますわ」


 その後も二人は出発までの時間の大部分を一緒に過ごし、オディールは勇者から現実社会の情報をできるだけ多く引き出した。

 いつしか二人の間には、愛情・・などは全く生まれてたまるかでございます。


 その後、勇者から通貨の千円札だと教えられたものを複写魔法で100枚ほどコピーして携行することとした。

 お札のシリアル番号もすべてそのままコピーしたが、異世界人はそんなことは気にしないのである。


 勇者の脳からの言語能力抜出しは出発の数日前に行った。

 早めにこれを行って、もし勇者の脳にダメージを与えた場合、他の情報が聴けなくなるからである。

 結果的には勇者は脳に恒久的なダメージを負うことはなかったが、苦痛のあまりしばらく失神することとなった。

 まあ、これは想定内のことである、勇者よすまん。

 なろうの勇者は、努力もしないイキリ性格破綻者が多いため、ついこんな扱いをしてしまうのだ。


 とにかく、いよいよ第二次調査隊の出発日がやってきた。

 


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