その1 勇者、魔王と対決す
流行りに便乗して、異世界召喚の物語を書いてみました。
魔王の立場に立って、勇者召喚物がどうなっていくのかを考えてみたら、こうなりました。
ふざけた話でごめんなさい。
勇者ヒロシは魔王城の固く閉ざされた城門前に立っていた。
黒髪、短髪、童顔でマント姿の、典型的な量産型なろう勇者の彼は、最後の決戦に向けて気を引き締めていた。
ここまで長い道のりであった。
2年前に、ナーロッパ国の魔導士により魔王討伐のための勇者として召喚され、勇者としての訓練を受けたあと、魔物を倒すために各地を回りながら信頼できる仲間を集めてきた。
そう、すばらしい仲間である。
イケメンの剣士、ジークフリートは聖剣エクスカリバーを振るい、神速で魔物を倒すことができる。
白鳥の羽根飾りが似合うオデットは、強力な回復魔法が使える聖女である。
エルフのシルフィードは、那須与一が裸足で逃げ出す腕前を持つ弓使いである。
この強力なメンバーによる勇者パーティーが結成されてからは、魔王軍も恐れをなしたのか、これまで抵抗らしい抵抗も受けずここまでやってきたのだ。
勇者たちからすると、これまでの旅路は、魔物との戦いよりも、補給なしにこの遠路を移動してきた苦労の方が大きかったと言わざるを得ない。
疲労と空腹により、多少消耗気味ではあったものの、これからの決戦に向けてパーティーメンバーの意気は高かった。
城門の前でヒロシは勇者らしく大声で宣言した。
「俺は勇者ヒロシだ。
ナーロッパ国王の命により、剣士ジークフリート、聖女オデット、射手シルフィードと共に魔王討伐に来たぞ。
勇者の名において、これからお前たちを殲滅する。
さあ覚悟しろ」
ヒロシの宣言が終わるか終わらないうちに、周囲の建物の陰に潜んでいた魔物たちが一斉に走り出てきて、勇者たちを取り囲んだ。
統制のとれた魔物たちのその数、数千に及んでいる。
身構える勇者たちの頭上に声が響いた。
「ここまでご苦労でございましたねぇ、勇者さんたち。
でも、降伏するのはあなたがたの方ですよぉ」
ヒロシが声のする方を見上げると、城壁の上に4人の魔物が立っていた。
「初めてお目にかかりますねぇ、私は悪魔ロッドバルト」
「その娘、死の黒鳥オディール」
「わたしゃ刺し殺しの魔女サタネラさ」
「おれは不死身の魔導士スティラクスだ」
ヒロシは彼らの名を聞いて戦慄した。彼らは魔王四天王だ。
数千の魔物に取り囲まれているだけでも危機的状況であるのに、四天王が一堂に立ちふさがっているのだ。
これは想定外だった。
ヒロシは元の世界にいたときはゲーマーであり、RPGにハマっていた。
RPGで魔王討伐のゲームをプレイした際、中ボスとは旅の途中で一人ずつ出くわし、個別に撃破していって、最期に魔王と対決していた。
各個撃破は一人の中ボスをパーティー全員で協力して叩くことができるだけでなく、これを倒すことで経験値を積み、どんどん強くなって次に当たることができていた。
しかし、この旅ではこれまで強い敵と戦うことなく、経験値も稼げていない状態で今、四天王全員と対峙しているのだ。
ヒロシは思わずつぶやいた。
「こんなはずは・・なんで四天王が一か所に集まってるんだ」
ヒロシの声はロッドバルトの耳に届いたようだ。
「そんなの決まってるじゃないですかぁ。
勇者の伝説は我々も良く知っていますよぉ。ですから、私たちは決してあなた方を甘く見ていません。
あなたたちの存在を知ってからは、できるだけあなたがたに力をつけないようにこれまで極力戦い避け、ここに誘い込んで、総力戦で一気に片を付けるようにしたんですよぉ。
こちらの思い通りに行動してくれて感謝いたしますねぇ。
準備万端の一国の軍隊に、たった四人で攻め込んできた己の短慮を反省することですねぇ」
ロッドバルトは言い終えるや腕を上にあげ、勇者パーティーに向けて振り下ろした。
その合図を受けて、数千人の魔物たちは一糸乱れぬ動きで勇者たちに襲い掛かった。
勇者たちは多勢に無勢ながらも必死に応戦した。
しかし、次第に数に押されつつあった。
この接近戦では弓は役に立たず、まずはエルフのシルフィードが弓を取り上げられて魔物たちに抑え込まれた。
次に聖女オデットも魔法の杖を折られ、魔物にタコ殴りにされて、瀕死の白鳥のように倒れ込んだ。
さすがに勇者ヒロシと剣士ジークフリートは接近戦での強さを見せ、魔物に取り囲まれながらも善戦していた。
これを見ていた魔導士スティラクスが剣士ジークフリートに向かって魔法を唱えると、ジークフリートの剣が突然重くなって剣技が鈍り、その隙をついた魔物にジークフリートは取り押さえられた。
一人残った勇者ヒロシは、多数の剣戟を受けながらもなんとか持ちこたえ、一人で劣勢に耐えていた。
戦況が膠着した様子を見ていた死の黒鳥オディールが悪魔ロッドバルトの目に無言で問いかけると、ロッドバルトはオディールにゆっくりとうなずいた。
その瞬間、満面の笑顔でオディールがジャンプした。
「必殺、32回転のフェッテでございます!」
オディールは叫びながら回転し、勇者ヒロシに突っ込んでいった。
魔物達の剣を受けていたヒロシは防御態勢をとれず、その蹴りをモロに受けて悶絶した。
ヒロシは頬に強い痛みを受けて気がついた。
どうやら何発かビンタを受けたようだ。
周りを見回すと、自身も仲間も厳重に亀甲縛りされており、王宮の広間のようなところでシャンデリアから吊るされていた。
正面には玉座があり、魔王らしき者が座っている。
ここはなろうの世界であるため、魔王はもちろん幼女の姿である。
赤髪ツインテールの魔王は深紅の瞳でヒロシを見つめ、鷹揚に話しかけた。
「おい、ボクの国の平和を乱す侵略者め。
なんか言いたいことがあれば聞いてやるぞ」
「お前が魔王カスチェイか・・」
「魔王様を呼び捨てするんじゃないよ。
それに、いくらなろうの勇者だからと言って、魔王様にまでタメ口きくんじゃないよ」
勇者をそう制止した魔女サタネラが、勇者を縛っている縄の一部に杖をひっかけて引っ張ると、局部に縄が食い込んだ勇者は苦痛に顔をゆがめた。
痛かったが、ちょっと新しい世界に目覚めそうになった。
「ははは、サタネラ、そんくらいにしてやれよ」
「はい魔王様」
サタネラは縄から杖を離し、苦痛から解放された勇者はくやしそうにつぶやいた。
「いてて、いらんことを言うんじゃなかったっす、あれが魔王だということは分かり切ってたのに・・」
元の世界で異世界転生モノを多く読んでいた勇者にとって、魔王の風貌は周知のものであり、確認するまでもなかったのだ。
「なにをつぶやいている」
サタネラがこう言いながら再び杖を縄に近づけたため、ヒロシは焦った。
勇者としてはこんな時に新しい世界に目覚めるわけにはいかないのだ。
ヒロシは無理に虚勢を張って言い放った。
「人の世にあだ為す魔王よ、俺は勇者として魔王を成敗しに来た。
俺は勇者としての当然の責務を果たすのだ」
魔王はにやりとしながら答えた。
「ふむ、なるほど・・それは一理あるな。
そういうことであれば、こちらもお前の理屈に基づくなら、魔王の責務は人の世にあだ為すことだな。
ボクは今までナーロッパ国に直接手を出していなかったが、おまえの論によると、ボクは自分の仕事をサボっていたことになるのか。
よし、ここは素直に反省して、これからナーロッパ国を征服することにしよう」
話が思わぬ方向に向かったため、ヒロシは焦って応えた。
「ちょっと待て、なんでそうなる。
そんな卑劣な行為は許さないっす」
勇者らしくなく弱気な言葉遣いになっていったヒロシとは反対に、魔王は少し語気を強めた。
「卑劣だと?
ボクはこれまでナーロッパ国に直接手を出したりしなかったぞ。
そりゃぁ、国境付近で人間と魔物との小競り合いはあったかもしれんが、それは個人同士のいさかいであり、ボクが国として人間の国を侵略するよう指示したことはない。
それを魔王討伐が責務だという理由だけでそちらが先に国王の名の下に攻め込んできたんだぞ。
これはナーロッパ国による我が国への侵略じゃないか。
ボク達は当然の権利として、これに対する報復としてナーロッパ国を征服をするんだ。
どこに卑劣呼ばわりされるいわれがあるんだ」
勇者は言葉に詰まったが、すでに魔王は勇者への興味を失っており、四天王に向かって指示をした。
「おい、お前たち、すぐにナーロッパ国攻略のための戦略を立案して提出しろ。
彼の国の戦力をまず詳細にまとめ、これに対する複数の戦略案それぞれに、想定される攻略日数と経済的、人的損失を比較するんだ。
その中から最良の戦略案を、人的損失を最小にすることに重点を置いて選択し、より詳細に計画を立てるぞ」
「はっ」
四天王たちは一斉に頭を下げたが、その後悪魔ロッドバルトが付け加えた。
「して、魔王様、勇者一行はどういたしましょうかぁ。
国内法に基づくとぉ、魔王様殺害未遂は刑法第21条の2項の殺人未遂罪と第56条1項の不敬罪の両方に該当するため、死刑が妥当と思われますが」
「ふむ・・」
魔王は少し考えたのち、にやりとして続けた。
「いや、こいつらの面白い利用法を思いついたぞ。
とりあえずこいつらは地下牢にぶちこんでおけ。
そのうち死刑になった方がよかったと思うかもしれんがな。
まあ、ちゃんと水と食料は与えておけ」