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失神明け

意見書の件を了承し、取り敢えず部屋に戻る。失神しているメイド達はまだベッドに転がっていた。流石に心配になって脈を取って、呼吸を調べるために顔に手を近づけた。

 すると、

「えぇ?」

同い年くらいのメイドが目を覚ました。

 状況が理解できていないのか辺りをキョロキョロと見回した後、俺の顔をジッと観察するように眺める。

「申し訳ございません!」

 ベッドから転がり落ち、そのままの流れで土下座をしてくる使用人に俺は直ぐに声をかけた。これは別にLOFCを恐れた訳ではなく、業務中に気絶した挙句、主人のベッドで横になっていたということへの謝罪だろう。

「いやいや、本当に大丈夫だからそういうのは」

「本当に申し訳ございません。雇われている身でありながら」

「大丈夫だから、な、ほら、落ち着いて。ほら、顔をあげて」

 俺が言った通りに顔を上げた使用人は、強張った顔をしていた。それがクラセチカに似ていて、思わず手が伸びた。そのまま使用人の頭を数度撫でで、抱きしめた。自分が子供だった時のことを思い出す。明日の生活を憂い、薬でラリった両親からの暴力に怯える。そんな子供だった。あの時自分は、こうして欲しかった。人の温もりを感じたかったのだ。

「なあ、お前名前は?」

「アルです」

「わかった。アルね」

「お嬢様、痛いです」

「おお、悪い悪い。なんだか昔を思い出して」

 アルを離してやると、顔が真っ赤になっていた。そして思い出したかのように顔が青ざめた。

「あっ、LOFC!」

「大丈夫、解散目前まで来てるし、もしなんか言ってきてもクビにはさせないから」

「あ、ありがとうございます」

 ここで鐘が鳴った。まぁ、何を告げる鐘なのかは一ミリもわかんないんだけど。

「アル、これ何の鐘?」

「これは御夕飯の支度ができたことを知らせる鐘です」

「俺はどうすればいい?」

「その、お嬢様、失礼をお許しください」

「へっ?うん」

「お嬢様は何故そんな輩のような喋り方をしておられるのですか?」

 記憶が無いことを告げるべきかどうなのか、正確には無いわけではないのだが、人格が俺になった時点で、全員のロベリア像をぶち壊す形になってしまうことは火を見るより明らかだ。だったらもう大人しく真実を告げた方が楽になれる。

「記憶が無いんだ」

「えぇぇぇ!!! すっ、直ぐにお医者様を呼んできます!」

「いや、大丈夫だ。医者に見せに行って治る類のもんじゃない」

「そうですか。でも何でよりによってこのタイミングで……」

「何かまずい事でもあるのか?」

「本当に記憶が無いのですね…… 明日はロベリア様の婚約者であるラッティベル様とのお顔合わせの日でしたのに」

 急に、現実に戻された気分だ。俺、男なんですけど……。

「その、ラッティベルって奴の解説を頼んでもいいか?」

「そうですね、私も書類だったり使用人同士の噂話で聞いただけですが、サプツァ王国の第六王子です」

 サプツァ王国は、俺やクラセチカが住んでいた国だ。お世辞にも豊かとは言えない。

「とんでもなく格好のいい少年らしいですよ。何でも、傾国という名前で知られた娼婦と王の間に産まれ、傾国の血を遺憾無く引いているそうです」

「はえー」

「はえーって、どうしちゃったんですか。私の知ってるクラセチカ様だったらそういう時ニコって笑って頷くのに!」

「全く知らない人の人生を急に生きてる感覚なんだよこっちは。許してくれ」

「そうですね、すみません。私も動揺してしまいました。ガイル様に言って、中止にした方がいいかもしれませんね」

「いや、どうせ政略結婚ってヤツなんだろ? このまま問題を先延ばしにしても意味があるとは思えねえ。ガイルには俺の方から言っとく」

「わかりました。では食堂に向かいましょう。食堂の場所は覚えてますか?」

「うんにゃ、全く」

「そうですか、でしたら案内致しますので付いてきてください」

「ところでさ、この婆さんどうする?」

 俺はベッドに横になっている使用人を指差してそう言った。

「ルーメイド長じゃないですか! あまりに驚きの連続だったから気が付かなかったです」

「一応、呼吸はあるし、大丈夫そうだな。相当LOFCに苦しまされたんだろ。寝かせとくか、業務とかはなんとかなんだろ?」

「そうですね、LOFCを抑えるために自らお嬢様の御付きのメイドになりましたからね。お嬢様が許されるのなら特にはありません」

「じゃあ、飯だ飯。案内よろしく」

「わかりました」

 アルはゆっくりとしたペースで後ろに続く俺をチラチラ見ながら歩いていく。

「どうした?」

「うーん、お嬢様を見ているとやはり心配になるんですよ。突然、ふっといなくなってしまうような」

 階段を降りていくと、女性の肖像画があった。今の俺、ロベリアに髪色以外そっくりだ。この絵を見ると、何故か寂しさが滲むような感覚になる。

「この肖像画って誰だ?」

「そうですか、ミゼル様のこともお忘れになってしまわれましたか」

「ミゼル、それがこの姉ちゃんの名前か」

「ロベリア様のお母様です。五年前、突然いなくなってしまわれました。ガイル様も捜索隊を出して懸命に探されたのですが見つからず……」

「そうか、確かにそっくりだもんな。アルが俺にふっといなくなりそうって言った理由がよくわかる」

「では、ここが食堂なので失礼します」

「案内ありがとな」

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