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【短編】感情が天候に反映される特殊能力持ち令嬢は,婚約解消されたので不毛の大地へ嫁ぐことを思いつく

作者: かのん

「お前が俺に愛されなかったのが悪い。それだけのことだ」


 鼻で笑われてそう告げられた瞬間、私はぐっと拳に力を入れて体をこわばらせながらゆっくりと息を吐く。


 感情をあらわにしないように、顔には笑みを張り付けたまま、私は今告げられた婚約解消の理由に心の中が抉られるような、そんな思いを抱く。


 第一王子セオドア・リベラ様の婚約者に選ばれたのは三年前の私が十四歳になった時のことであった。


 公爵家令嬢であり、年もセオドア様の二つ年下と近かったこと、そして私の母の特殊能力について知っていた国王陛下の思惑によって、私シャルロッテ・マロ―はセオドア様の婚約者に決まった。


 母の能力を私が引き継いでいる可能性があったからこそ、自国へと縛り付けたいと言う思惑があったのだと思う。

 

 決まった当初は、貴族の令嬢として政略結婚は当たり前であり、王家と縁を結ぶこともあるだろうと以前から考えていたからこそ、婚約事態を嫌がったわけではない。


 セオドア様は金髪碧眼の麗しき王子様であり、素行も問題がなく、私達はきっと上手くやっていけると思っていた。


 そう、三年前の私はそう思っていたのだ。


「どうしてです……私は、私は」


 どうにか言葉を振り絞るけれど、それに対してセオドア様は面倒くさそうに大きくため息をつく。


 歯車が狂いだしたのは、去年セオドア様が視察と称して街に遊びに出かけるようになってからであった。


 しかも街に出かける日は大抵私とのお茶会や会う約束をしている日であった。


 王子たるもの勉強も忙しく遊び歩いている時間がないのは分かっていた。けれどだからこといって私との時間をうまく利用意して、私との約束をすっぽかして街にあそびにいくというのはいかがなものか。


 幾度となくお願いをしても、セオドア様は私の言うことなど聞かず、最終的に怒りだしたのである。


 王子である自分には時間がない。開いている時間がここしかない。だからいいじゃないかと。


 けれどそれをはいそうですか。いいですよとはならない。


 私自身、勉強の合間を縫ってこの時間を作っているのである。なのにも関わらずすっぽかされれば、私はその時間有効的に使うことも出来ず浪費するだけである。


 セオドア様と会えると思い準備してきたことが、無駄になるたびに、心の中が痛くなった。


 そしてセオドア様にこれ以上続くのであれば国王陛下に報告すると告げると、セオドア様は急に冷めた表情を浮かべたのちに、婚約を解消すると言い始めたのである。


 婚約解消という言葉に、私は衝撃を受けた。そんなに簡単に使っていい単語ではない。


 貴族令嬢の婚約というものはそう簡単に決められるものでも解消されるものでもない。


 私の住むリベラ王国では、貴族令嬢が婚約をするのは十三歳から十六歳の間が最も多く、成人である十八歳の年に女性がなると結婚するというのがほとんどである。


 私は今十七歳。後一年後にはセオドア様との結婚を控えておりその準備も少しずつではあるが進んでいっていた。


 意味が分からなかった。私の何がいけなかったのかもわからず、だからこそ私は、何が悪かったのか尋ねた。


 そして帰ってきた言葉が“お前が俺に愛されなかったのが悪い。それだけのことだ”。というものであった。


 自分の中に流れる血液が逆流するのではないかと思える程、心臓が煩くなる。


 それを必死に抑えるように深呼吸を繰り返す。


「お前だって、俺など愛していなかっただろう」


「え?」


 告げられた言葉の意味が分からなかった。


 愛していなかった?


 そんなわけがない。十四歳で婚約をして、一緒にでかけ、一緒に過ごし、一緒に語り合った。そんな日々があったはずだ。


 なのに、どうして何もなかったかのような顔をしているのであろうか。


 私が、私がセオドア様を愛していないとそう思っているの?


 私は震えそうになるのをどうにか堪え、個を絞り出した。


「お慕い、しております。私は、私はセオドア様を」


「あー。いい。お前のその建前などいらん。はぁぁ。お前のその能面のような顔を見る度にこちらがどう感じるか、お前には分かるか? それにその香り、いつもお間から香るその甘い香りも俺は苦手だった」


「え?」


 能面。それに香り……。


 この香水は今は亡きお母様がつけていたもので、この香りがあれば私は自分を落ち着かせて感情を抑えることが出来た。


 自分の頬に指を当て、私は顔が強張りそうになるのを堪えながら顔をあげた。


「……建前では……それにこの香りは」


「建前でないならどうしていつもそのように微笑みを携える? 俺が何をしてもその顔で、いい加減に見飽きたわ。その香りに関してもずっと嫌だった。はぁぁ。俺は……俺は俺の言葉に笑顔で楽しそうに笑ってくれる女性がいい。悲しい時には泣いてほしいし困った時には頼ってほしい。だが、そなたはどうだ? いつもその顔。いつも何を考えているのかわからん」


 何を考えているのか、分からない。


 私は貴方が眉を寄せるだけで機嫌が悪いのが分かるし、貴方が頬を指で掻くときには嘘をついている時だって、その仕草で分かるのに。


 貴方には、私のことなど何一つ伝わっておらず、貴方が私のことなどちゃんと見てなどいないのだと、そう、気づいた。


 同じ価値観を相手には求めてはいけないし、相手が気づいていないからと言って責め立てることは出来ない。


 けれど、それは興味の現れではないのか。


 私のことを愛そうとしていたならば、私のことをもっと見てくれたのではないだろうか。


「……彼女が小さくため息をついただけで、心配し、何かあったのか気づくのに……」


 小さく、私はそう呟いて、惨めで、口を閉じた。


 セオドア様には聞こえないほどの小さな声でよかった。


 街に何をしに出掛けているのか、調べないわけがない。それなのに、セオドア様は私が気づいていないとでも思っているのであろうか。


 私は惨めな嫉妬心を出さないようにしながら、口を開く。


「平民の女性と、貴方様とでは身分が違いすぎます。結婚は難しく、出来たとしても側室もしくは愛人として囲うことになるかと思いますが」


 平民と貴族とでは生活一つにしても全く違う物である。


 これまでセオドア様が何をしに街に向かっているのか私は把握していた。


 一般市民の女性の働く店に食事に行ったり、一緒に出掛けたり、触れあったりしているとの報告を受けた時には嘘だと思った。


 だからこそ忍びでその光景を直に見に行った。


 そして報告は嘘などではなく真実であった。


 私に正論を言われたセオドア様は顔を突然真っ赤にすると声を荒げた。


「そんなことは分かっている! だが俺は国王となる。結婚する相手くらいは自由にしてもいいだろう! その他全てが決められているが、愛した人との結婚くらい、自由でもいいではないか!」


 それが本音だろうなと私はそう思いながら、あくまでも冷静に提案をする。


「……では、私を正妻に、側室に迎えるのはいかがですか?」


 時期国王の妻が平民であると納得する貴族はいない。国王には国王の役割があるのである。だからこそそう提案したのだけれど、セオドア様はそれが許せなかったのだろう。


 立ち上がると、私にめがけて水をかけた。


 頭からしたたり落ちていく水滴が、ゆっくりと膝上へと落ちていく。


 現在この部屋には私とセオドア様の二人きりである。扉は少し開けられており外には騎士と侍女が待機している。


 だからこそ、水滴が落ちていくのを私は静かに感じていた。


「……セオドア様。この国の時期国王になりたいのであれば、我が家の後ろ盾は必要ははずです」


 好きな人に、水を駆けられるなどと誰が想像できるだろう。私も今、起こったことに対して衝撃を受けなかったわけではない。


 ただ、それでも自分を押し殺すしか私には出来ないのだ。


 私とセオドア様が婚約したのは三年前。


一緒に過ごした三年間、悪い思い出ばかりだったわけではない。出会った当初は良い思い出ばかりで、表情のコロコロと変わるセオドア様に私は惹かれた。


 私はセオドア様を愛している。


 だから、愛しい人の為にと胸が張り裂けそうに思いながらもそう提案をした。


 セオドア様には一つ下に弟君がいて、弟君の婚約者は侯爵令嬢である。つまり平民の女性と結婚したいセオドア様よりも後ろ盾のある家である。


 我が公爵家がセオドア様の後ろ盾であれば、王位は揺るがないだろう。けれど、平民の女性を妻にすると言い出したセオドア様を、国王に皆が押すだろうか。


 けれど、私の想いはセオドア様には届かないらしい。


「煩い! 婚約は解消だ」


 そう言い、セオドア様は用意していたのか婚約解消証明書に自分の名前を記載した物を私に渡すと言った。


「こんな時ですら泣きもしない女など、願い下げだ」


 冷たい言葉であった。


 私は立ち上がると、前髪にかかる水を指で払い、そしてその場で美しく一礼をする。


「……セオドア様。お慕いしておりました。ですが、貴方様からの婚約解消、お受けいたします。こちらはすぐに記入を済ませ、神殿へ提出させていただきます……これまで、ありがとうございました」


 壁をいらだった様子で強くセオドア様は叩き、私はその背を少しの間だけ見つめる。


 セオドア様は太陽のような人だ。


 良く笑い、元気よく溌溂としていて、何事にも全力で。だからこそ、近くにいて惹かれないわけがなかった。


 どうして私を愛してくれなかったのだろうか。私はこんなにも愛しているのに。


 けれど仕方がないのだろう。私が感情を出せずにいるから、セオドア様にとって私は能面のような女でしかないのだ。


 そして、私とは正反対の、表情のくるくると変わる明るい少女を愛したのだ。


 胸の痛みを無視するように、私は瞼を閉じてその場を後にする。


 外に出た途端、侍女達は私の姿に悲鳴をあげ、慌てた様子でタオルを用意するが、私はそれを断るとそのまま馬車へと向かった。


 空が一瞬曇り、雷鳴が轟く。


 馬車の中で、私は大きく深呼吸を何度も繰り返し、そっと空を見上げる。


 先ほど荒れたのが嘘のように美しく晴れ渡った空は、どこまでも続くような澄んだ青をしていて、私は言いようのない気持ちを抱くけれど、深呼吸を繰り返す。


「ダメよ。だめ。大丈夫。私は、大丈夫」


 自分に言い聞かせるように私は何度もそう呟く。


 遠ざかっていく城を見つめながら、もうあの場へと行きたくはないなとそう思いながら、これからどうしたらいいのか、静かに考えた。


「あぁ……そうだわ。不毛の大地へ嫁ぎましょう」


 不毛の大地ならば、私がどんなに感情を露にしようと、元々不毛の大地なのだから問題がないはずである。


「帰ったらさっそくお父様に相談しましょう」


 空が晴れ渡っており、私は小さく息を吐く。


 憎たらしい空を見上げながら、私は何の感情も抱かないように、呼吸を無心に繰り返したのであった。



 シャルロッテ・マロ―公爵令嬢。

 この令嬢、実のところ母の能力を引き継ぎ、感情によって天候が変わると言う特殊能力を生まれながらに持ち、その能力は年々強くなっている。

 そんな彼女が、不毛の大地の国王陛下に溺愛されることによって、不毛を肥沃へと変えてしまうなど、この時はまだ誰も知らないのであった。



感情によって天候を左右してしまうという能力を持った令嬢。

そういう物語を書いてみたくて、短編としてあげてみました。

よければ評価やブクマをつけていただけると、今後の励みになります。よろしくお願いいたします。

(*´ω`*)

たくさんの方に読んでいただけて嬉しかったので、連載版始めます!3/25(土)夜7時より連載開始します!こちらもよければよろしくお願いいたします!


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