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特殊部隊

ここに家を更地にされた男が居た。


5歳の妹が呆然と立ち尽くす私の人差し指を握っていた。


焼き払われ倒壊した家屋の下には、人の形さえも残っていなかった。


日本軍の戦闘爆撃機が山岳に潜む抗日ゲリラを一掃する為に、農村ごと焼き払ったのだ。


男はその後、復讐の為に反乱者となった。


ここまではよくある話だ。


爆撃の巻き添えを食らった人間が、復讐に走るのもよくある話だ。


しかし日本軍は遥か上空から爆弾を落とすだけで、いつも戦う相手はビルマ軍だ。


討つべき相手は空に、地を這い殺し合うのは同族同士、アホらしくなる。


ここまでもよくある話だ。


復讐に燃えるこの男が、ビルマの抗日ゲリラでは妹を食わせて行けなくなると、より高い給料と敵を求めた。


男は隣国のタイ王国へ赴くと、中部米国の情報機関OSSとコンタクトを取った。


本土での戦闘が激化し、経験豊富な戦闘員を欲していたOSSは男を雇用した。


タイからインド洋へ、インド洋から南太平洋へと貨物船に紛れて南米へ上陸を果たした。


その後はメキシコ経由で西米へ密入国し、念願の日本軍との戦いを遂に始めることが叶った。


ここでの最初の仕事は、RPGを使って道路に立ち往生している車列を吹っ飛ばすことだった。


同じ部隊に配置されたパキスタン人に弾薬を担がせて、市街地を走った。


「そして滑空Sマインに穴だらけにされた。良くある話だ」


「まぁポンポン話をでっち上げられるよな」


死体のポケットに入っていたレシートには、ビルマの店の名前が記されていた。


「記録したらさっさと片付けるぞ」


2人の警察官は死体を軽トラックの荷台に放り込み、靴底で踏みつけた。


「旧米のクソ野郎め、こいつの仲間も全員吊るしてやる」


この警察官も復讐の連鎖に組み込まれつつあった。




サンディエゴ海軍基地にて



カルフォルニアの沿岸に構えられたこの基地には、西米海軍並びに日本海軍の太平洋連合艦隊所属の艦艇が多数停泊している。


「ご覧下さい、あそこに見えるのが日本海軍の最新鋭巡洋艦です」


テレビカメラは入港するフルタカ型巡洋艦を映し出していた。


「本日西アメリカに配備された巡洋艦フルタカは、アマテラスシステムを搭載しており、旧米から飛来する弾道ミサイル防衛に向けた動きを……」


その黒人キャスターが身振り手振りでカメラに向かって説明しているのを、指令部の屋上から眺めている人間が居た。


「またジャンクか?」


ハンバーガーをもしゃもしゃと食らうその人物は、子供のようなあどけなさと悲哀を秘めた見た目をしていた。


「俺は今から掃討作戦だ、予定通り頼むぞナスタチウム」


ハンバーガーを持ったまま頷き返すと、また食い始めた。




ロサンゼルスにて



「止まれ!あーストップ?ふりーず!」


酷い発音で話す岡田は、手を挙げて車へ制止を促す。


気温は40度を超え、どこもかしこも蒸れて痒かった。


ヘルメットで頭が茹でダコになりそうだったが、被らないとうるさく言われる。


「身分証を」


スーツ姿の男は財布ごと投げ渡し、見るなら見ろよという態度を取る。


「Hurry up Japs」


「今のは……」


「通訳しなくても分かるぞ」


「You yellow monkeys don't even know English」


まるで世間話をするかのように岡田の目を見て話すそいつは、我々に英語が分からないと思っているようだった。


「融和政策の弊害だな、こっちが撃たないと思ってる」


鏡で車の下を覗き、危険物を隠していないか調べるが、特に異常は見当たらない。


隠し持っててくれたなら、車から引きずり下ろして檻に叩き込めたのにな、なんて考えていると岡田が突然車内へ手を伸ばした。


「おや、これはなんだろな?」


岡田は白人の男から携帯を取り上げ、これはなんだとわざとらしく叫んだ。


「携帯だぞ、携帯は爆弾の材料になる。これは危険物だ」


銃をチラつかせ、車から出ろと日本語で命令する。


「お前ゲリラの仲間だろ?ええ!どうなんだ?ほら!なんか言ってみろよ!ジャ◯プって言ってみろよ!」


「もう脅すのはそのくらいにしとけ」


男を岡田から引き離すと、車に押し込んだ。


「Some Japanese soldiers understand English.Change your attitude or you'll die」


「わかったならとっとと行け」


男は怯えきり、震える手でハンドルを握って車を発進させようとしたがエンジンが止まった。


レバーやクラッチを慌てて動かすその姿は、まるで教習所の初心者みたいだった。


こいつを見てると、入部最初に先輩に怒られた新入部員を思い出す。


確か俺は東郷平八郎の子孫だとかほざいて、部内の左右両方の学生に叩きのめされてた。


多分精神疾患か何か抱えていたのだろう。


「見たか?あいつビビり過ぎてエンストしてたぜ、AT車でも運転してりゃいいのによ」


「こういうのはもう辞めろよ、今時は誰でもSNSに投稿したがる。それと俺はAT限定だ」


「知ったことかよ、次あの野郎を見かけたらカメラの前だろうと撃ち殺してやる」


ここ数日は岡田に限らず、みんな反抗期の愛娘みたく気が立っている。


大の男達が小娘みたいに神経質になってる姿を想像すれば、西米の治安が如何に不安定なものかが分かるだろう。


米大陸の治安は、内陸に行けば行くほど悪くなっていく。


民間人が渡航出来る地域は、ラスベガス辺りが限度でそれ以上行くのは外務省が禁止している。


「ストッププリーズ!」


「プリーズじゃなくてフリーズな」


次にやってきたタクシーを停めさせ、ボンネットを叩きながらIDを見せろと威圧的な態度で対応する。


冷や汗を流す運転手は、岡田に怯えているのか不安げな顔をしていた。


(ここからは日本語訳でお楽しみ下さい)

「検問を実施しています、トランクの中を見ても?」


「ど、ど、どうぞ」


完全に怯えられてる。


16式機動戦闘車に砲を向けられていては、こういう反応になるのは当然か。


ついこの間までは、威圧的で住民感情を逆撫ですると言われ機動戦闘車を走らせるのは戦闘が起きてからが原則だった。


先の暴動で初期対応が遅れた為、各中隊に16式を随伴配備する運用に切り替えた。


「トランクには何も無い、もう行かせていい」


「いや駄目だ」


「何が駄目なんだ?」


岡田はボンネットを銃身で叩くと、運転手に開けろと指示する。


まずい、岡田の目がやけに血走ってる。


民間人の犠牲がコラテラルダメージの一言で済ませられた時代と違って、1人でも死ねば大騒ぎになるのがこのご時世だ。


「撃つな撃つな!駄目だぞ!」


「どうした?」


騒ぎに気付いた井内曹長が、何事かと問う。


「この運転手がボンネットを開けようとしないんです」


 ガコッそんな音が聞こえた瞬間、エンジンルームから人が飛び出した。


意図しない場所から、意図しないものが出てくる状況に呆気に取られた。


「バカ!捕まえろよ!」


後ろから体当たりを食らわせ転倒させるが、錯乱しているのかジタバタ暴れて一人ではとても押さえ付けられそうになかった。


「放せよ放せ!」「腕を押さえろ!胸を押さえんな!」


タクシーの運転手が慌てて車をバックさせ、逃げようとしたところを岡田が銃撃した。


タクシーは車止めの黄色いポールに尻から突っ込んで止まった。


「畜生めちゃくちゃだ」


「気道だけは確保しろ、それと憲兵に引き渡すから無線で呼べ」


今思えば、こいつを逃がしておくべきだったのかも知れない。


あの男と最初に会ったのも丁度この日だった。


「何故逃げた、理由を言ってみろ!」


兵員装甲車を尋問室代わりに問い詰める憲兵は、暑さもあってか普段よりも余計に苛立っていた。


エンジンルームに隠れていた男は、憲兵の怒鳴り声に怯えながらも頑なに沈黙を貫いている。


「答えんか!」


壁を叩いて威圧してみるが、案外口が固く目線を反らして恐怖に耐え抜こうとしていた。


「思ったよりしぶとい奴だ、ポロッと言いそうで言わない」


「一発ぶん殴ってみたらどうです?」


「貴様俺を神田上等兵にさせたいのか?取り敢えず連行するから紙くれ」


神田上等兵の事件は、自分が小学生の頃に起きた事なのであまり記憶にない。


確かドイツ大使館員を暴行死させた挙げ句、隠蔽の為に自殺に偽装した憲兵隊のスキャンダルだった筈だ。


ナチスドイツから日本は野蛮な人権侵害国家だと批判を受けたのは、憲兵隊員にとって記憶に新しいようだ。


「今引き取りました。……はい、はい………あっいや2人じゃなくて1人です」


「待てですって?」


憲兵の声色が疑念を含んだものに変わった時、1機のヘリが道路脇に着陸した。


「79式クマバチ改三?特殊作戦用のヘリがどうして」


M手具社製の手袋を嵌め、その手に20式小銃を握るのは明らかに一般部隊ではなかった。


ヘリ側面の海軍旗から察するに、海軍の部隊だろう。


「拘束した人間は?」


挨拶も説明も無しに乗り込んで来た海軍の男は、逃げた男の首根っこ掴んで装甲車から引きずり出した。


「貴様らになんの権限があるというんだ!」


「我々は情報本部からの特命でこの男を確保しに来た。私が権限だ」


こういう強引な人間には何度も会ってきたが、もれなく全員が声がデカいだけの馬鹿だった。


「知らんな、私の本部は陸軍の憲兵本部だ」


だがこの海軍の男はどこか異質だった。


「俺の太股にM45A1が付いてるのが分かるか?」


目が据わっているだとか、雰囲気が違うだの、そんな外見的な要素から判断出来る人間なら良かったかもしれない。


天才を見たことはあるし、変人は自分の周りに沢山集まってる。


だが憲兵を脅す軍人は見たことが無かった。


「イカれてる……」


胃に冷たい鉄球が落ちたみたいな感覚だ。


あの男は自分がどれだけ恐ろしい事をしているか気付いているにも関わらず、平然と任務を遂行しようとしている。


「連中何者だ?こういうの詳しいんだろ岡田」


「情報本部ってからには裏の連中だろうよ、内調の特別行動集団……とか?」


「内調がなんで海軍のヘリに乗ってんだよ」


「じゃあ海軍陸戦隊の強襲浸透部隊だ、間違いない!」


そういや岡田の趣味専門は陸軍系だったと思い出していると、海軍の男に肩を掴まれた。


思わず悲鳴と一緒に息を飲んだ。


「英語が出来るそうだな、やって貰いたい仕事がある」


これからもっと恐ろしいことが待ち受けている。


直感がそう叫んでいた。

次回の投稿日は少し遅れるかもしれません

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