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暴動風

ロサンゼルス駐屯地にて



「DLFAの基本戦術は一撃離脱だ。路肩爆弾からの一斉攻撃、相手が体勢を建て直してきたら逃げる」


井内曹長からレクチャーを受けるのは、219歩兵連隊第1大隊1中隊1小隊1分隊の働き蟻だった。


1が4つ並んでて縁起が悪いだのなんだの言われてるが、自分は覚えやすくて好きだった。


小隊長が田口であることを除けば…


「DLFAの構成員は都市部に潜伏していて地元住民と協力関係性にあることが多い」


「我々は地元住民との良好な関係を築き、彼らの協力体制を切り崩さねばならない」


西アメリカでの軍の活動は、さしずめ支那事変頃のような複雑な事情が絡んだものだった。


国民党軍を1年足らずで壊滅に追い込んだものの、その残党や共産党軍が占領地でゲリラ攻撃を仕掛ける日々が続いていた。


当時対米戦を見越していた大日本帝国は、中国大陸での戦闘が長引き米大陸攻略に影響することを危惧した。


日本は国民党軍と対立していた共産党軍と交渉を行い、満州国境まで撤退する代わりに停戦条約を結ぶことで合意がなされた。


結果、大陸は南北に分かれて分断されたまま停戦状態にある。


今の西アメリカは、停戦出来ずに戦争が長引いてる中国大陸の姿だ。


「装甲車で家に乗り付けたり、玄関を蹴り飛ばして突入したりするなよ」


「住民感情を逆撫ですれば、子供から石を投げつけられ、大人からは手榴弾を投げられる羽目になる」


曹長は満州での治安維持任務に就いていた経験から、治安戦の心得があった。


この分隊に配属されたことを幸運に思うと同時に、あの小隊長の下で勤務することが何よりも苦痛だった。


「じゃあ全員、交代の時間まで休むように」


1時間後……


「こちら1小隊、敵の攻撃を受けている!支援はまだか!?」


「早くしろと言え!もうすぐ軽機の弾が切れる」


89式軽機関銃を高機のボンネットに置き、制圧射撃を行う橋立は無線手の坂場に怒鳴った。


次々と吐き出される弾と共に、ベルトの繋ぎが足元に溢れて行く。


この日、DLFAは大規模な攻撃を市街地で展開していた。


在米日本軍撤退を訴えていた活動家を、現地当局がスピード違反で逮捕したのが発端だった。


活動家はSNSで弁護士を通じて違法逮捕だと訴え、一夜のうちに大炎上し、情報の真偽も分からぬまま拡散されこの始末だ。


DLFAは逮捕をした警察官を突き止め、警察署に迫撃砲弾を撃ち込んだ。


混乱に乗じて暴動を起こした市民は店舗からカートごと商品を盗んで行き、それを止めようと出動した警察の暴動鎮圧部隊がRPGで吹っ飛ばされた。


現在の警察力では対処が困難と判断した西アメリカ政府は軍への治安出動を命じた。


突発的で準備されていない攻撃だった為、軍の対応が遅れているのが今苦戦している理由だった。


「石原これ弾抜けてるよ!」


盾代わりにしている高機の装甲板が銃弾に堪えきれず、貫通して光を通している。


82mm迫撃砲弾が車列の近くに着弾し、第3分隊が吹き飛んだ。


それを見ていた陸軍の爆撃誘導員は、直ちに航空支援を要請した。


「スズメバチ01からアシガル1-1へ、これより近接航空支援を行う 武装は対戦車ミサイル8発、滑空Sマインを12発、30mm機関砲を1200発」


「スズメバチ01へミサイルによる市街地に配置された敵迫撃砲の破壊を要請、道路上に友軍が点在、誤射に注意」


「了解、西側から作戦域に侵入」


萱場製の84式戦闘ヘリ、通称オニヤンマは目視では確認出来ない距離から戦場を見渡す。


ガンカメラに取り付けられたサーマル装置で迫撃砲の位置を把握すると、対戦車ミサイルを放った。


迫撃砲を撃ち込んでいた敵は、白い画面の中で起きた爆発の中に消え、黒い肉片が飛び散り舞い上がった。


「目標破壊」


「新たに複数の目標を確認、友軍との距離が近い、滑空Sマインによる超精密爆撃に切り換える」


屋上で布を被って陣取る狙撃手、RPGを担いで住宅の隙間を通る2人組、窓際から携帯を持って何かを指示している男、この4人組をロックオンする。


「照準固定完了、コンテナ開放、Sマイン射出」


ドイツ製の滑空Sマインは寸分の狂いもなくミシンのように正確無比に人体を捉え、標的との距離が5mに差し掛かった瞬間、400発の小さな鉄球が飛び出した。


狙われた4人は散弾銃に何度も撃たれたみたいに、ズタボロになってしまった。


巻き添え被害を減らす為に極限まで加害範囲を抑えた代物だが、その精度は10km先のカップにホールインワンを決められる精密性だと言われている。


「全目標に命中、30mmに切り換えて掃討する」


空薬莢を落としながら上空を旋回し、市街地に潜むゲリラの掃討に移行する。


「11から12へ、そっちに行くから撃つなよ」


1分隊は狙われ放題の路上から2分隊が占拠した2階建てのボロモーテルに移動する。


「ここの分隊長は?」


「自分です」


「桑原軍曹はどうした?」


「撃たれました」


「酷いのか?」


「耳たぶが取れました、敵に腕のいい狙撃手がいます」


戦友の負傷にも曹長は顔色一つを変えず、擲弾発射機に弾を込める。


曹長が愛用している50mm×46の12式擲弾発射器は、機関銃以上の火力を有する武器だ。


日本陸軍の分隊火力が高い理由はこの武器にある。


「小隊長からです、1小隊は警察署まで前進し、防御陣を構築せよとのことです」


「件の警察署か?増援も寄越さない癖に働かせやがる。石原!2分隊からパンツァーファウスト借りてこい」


石原は立て掛けてあるLAMを担ぎ、穴だらけの車に乗り込んだ。


「これやっぱり貫通してるよな」


岡田は不安げに貫通した装甲板を見ていた。


7.62mm弾までは防げると聞かされているが、どう見ても弾が抜けている。


「なんで焼き討ちされた警察署を守る必要があるんですかね?」


「警察署ってのは治安の象徴みたいなもんだ、そこに誰もいないのは不都合なんだろ」


「分隊長………あれ」


岡田がハンドルを握りながら片手で指差す先には、5人ほどの警官が吊るされていた。


「てるてる坊主みたいだ」


「不謹慎だぞ岡田」


暴徒が警察署を包囲したその日、百程度の警察官が駐在していた。


だが千という数の暴力には無力だった。


包囲されていたので増援も呼べず、内勤の警官に暴動鎮圧の真似事をさせるまでひっ迫した状況に陥った。


陥落に長くは掛からなかった。


警官達は嬲り殺しにされ、活動家は開放された。


「ゾッとするよ、こんな死に方」


吊るされた死体の殆どは顔がパンのように膨れ上がり、紫色に変色していた。


靴底の跡と折れ曲がった鉄パイプからして、楽には死ねなかった筈だ。


「誰もいないとは思うが、一応警戒しろ」


89式を構え署内に踏み込むと、外とあまり変わらない凄惨たる光景が続いていた。


壁にある弾痕が少ない。


警官が抵抗すら出来ずに、こうも容易く殺される事態は非常に危うい状況だ。


昔見た映画で、未来からやって来た殺人ロボットが警察署を襲撃するシーンを見たことがある。


警察があっという間に倒されたことを恐ろしく感じると同時に、その殺人ロボットがもっと恐ろしくなる。


暴徒が警察恐るに足らずと認識してしまったら最後、無法の元に生まれた自由を謳歌すべく邪魔立てする奴らは皆殺しだ。


「武器が全部盗まれてる」


強引にこじ開けられた金属扉の隙間から、真鍮製の光が見える。


「何丁だ?」


「書類上ではAR18が7丁、散弾銃10丁、金熊が3丁それと……」


「それと?」


「M16がはちじゅう……」


「その80って、カタカナのハを内股にした八と十字の十か?」


(変な例え方するなこの人)

「そうです、80丁丸ごと全部綺麗さっぱり」


何処に消えたかは直ぐに分かった。


「分隊長!周辺に敵兵、規模は2個小隊」


「石原と岡田は屋上に上がれ!亮平の援護をしろ」


LAMを担ぎながら梯子を登り、第3匍匐で塀まで這いながら前進すると、亮平の肩を叩く。


「あ゛~お前らかよ」


選抜射手である亮平は2人が来るなりため息を溢した。


「援護に来てやったんだからさ、喜べよ」


「連帯責任で腕立て500回の恨みまだ忘れてねえぞ」


亮平が根に持っている腕立て500回は演習中にやらされた。


3日目連続で走り回ったせいもあってか疲れていたんだろう。


自分と岡田が84mm無反動砲を何処かに置き忘れ、それに気付いた亮平が一緒に探してくれたのだ。


菊花紋章が刻まれた物を無くせばどうなるか、日本人なら分かっていたので死ぬ気で探した。


お陰で集合時間に間に合わず、道に迷ったと3人で嘘を付いた。


「飯を奢ったじゃないか、あれでチャラだ」


「石原は許してるよ、だが岡田お前は許さない」


純平にはお詫びにカシオの5万ぐらいする時計を買った。


それのお陰で扱いは雲泥の差だ。


「俺の腕立ては780円のねぎ塩牛丼の価値しかないのかよ」


「唐揚げも頼んだ癖に」


そんな記憶に新しい話をしている最中にも、建物からチラチラと顔を出すゲリラの姿が目に写る。


「数はそこまで多くないが、ここを包囲しようとしてる」


純平がライフルのスコープで敵の動きを監視していると、岡田がまた口を開く。


「その銃、G28じゃん新しいの配備されてていいなぁ」


岡田が目を付けたのは、日本軍内ではへ式7.62mm半自動狙撃銃とか言われてるやつだ。


「64狙撃銃と比べてどうだ?」


純平は狙い済ました一撃で敵のRPG射手を狙撃した。


「狙いやすいよ」


それを合図に戦闘が始まった。


パンパカと爆竹のように撃ちまくる敵は、統率の取れていない攻撃を繰り返す。


フルオートで有効射程圏外から雨を降らせるように銃撃を浴びせてくるが、そんな弾が有効打になる訳がない。


小銃射撃で簡単に粉砕出来る、陸軍教導団との演習に比べればぬるい攻撃だった。


発砲炎に向けて銃撃を行うが、倍率2倍の照準器では300m先の標的に当たったかどうかはわからない。


「機関銃がやられた!」


重機関銃で制圧射撃を行っていた2分隊の機関銃手が、いつの間にか死んでいた。


「狙撃手がいるぞ!」


動揺して一瞬撃つのを止めた瞬間、頭に衝撃が走る。


「石原!」


撃たれたということは直ぐに分かった。


塀に身を隠しながら鉄帽を脱ぐと、被せてある迷彩柄の布が破け繊維が飛び出していた。


「大丈夫か?」


「あぁ……なんともない。88様々だ」


「狙撃手の位置はわかるか?」


「発砲炎も銃声も聞こえなかった。腕のいい奴が居やがる」


ヘリは戻ってくるまでおよそ40分、その前に血染めの認識票が増えそうだ。


「モタ付いてたら死体が増える俺達で何とかすべきだ」


戦闘意欲旺盛な亮平は、何か成し遂げてやろうという顔をしていた。


「お前と岡田で撃ちまくれ、向こうも撃ち返してくるから俺がそれを狙う」


「囮になれってことか?面白くねぇ、牛丼10杯分の働きだぞ」


岡田と一緒に色んな所に向けて撃ちまくった。


ヒュンと音がして次に塀に弾が当たる音がした。


色んな音が手元から、周りから、内側から聞こえて来る。


銃をぶっぱなしている間だけ、弾が避けていくかのような気がした。


とにかく叫びながら撃った。


弾倉内の弾を全て撃ち尽くし、息を切らしながら弾倉を交換する。


「見えたか!」


「多分緑色の屋根の家に居る」


「多分ってなんだよ!」


「何も見えなかったんだ!減音器かなんかで発砲炎が見えないようにしてる!」


手詰まり感が漂って来るが、それでもこの状況を打開する策がないのか考えた。


「LAMで緑の家を吹っ飛ばす」


パンツァーファウスト3は訓練で数回撃った経験しか無かったが、当てなきゃならなかった。


「距離450、有効射程圏外だ」


「なら上を狙え」


「簡単に言うよな」


意を決して塀から顔を出した瞬間、家は爆発した。


「あぁ?」


力強いエンジン音を響かせながら接近してくる車両は、師団に配備されてる16式機動戦闘車だった。


装輪式の16式は市街地での戦闘を想定していた35師団にとって、戦車よりも早く動けて迅速に火力を叩き込める頼もしい存在だった。


「大隊のキドセンだ」


16式は同軸機銃を連射しながら警察署前へ陣取り、搭載弾薬を撃ち尽くすまで攻撃を続けた。


活動家の逮捕によって起きた混乱は、17時間で収束した。


DLFAは暴動に便乗して一斉攻撃を始めたが、突発的で無計画な攻撃はおびただしい損害を出すことになった。


オニヤンマは一晩中市街地を旋回してS爆弾と機関砲でゲリラを掃討し続け、街の至る場所を戦闘車両が塞いで検問を敷いた。


地元メディアは軍政時代に逆戻りと批判し、本土の連中は街を戦略爆撃しろと言っているらしい。


保守系メディアは同じ言葉を繰り返す。


連中が大好きな言葉は、「皇軍」「愛国」「戦略爆撃」この三つだ。


インターネット覚えたての中学生のように、いつの時代も似たような言葉をスラングみたく使う。


「なあ石原、お前誰か殺したか?」


「わからない、良く見えなかった」


「さっき髪の毛がツンツンしてるやつを撃った。そしたらそいつの頭からウニが飛び出したんだ、割れたウニがさ」


岡田は真顔で話していたが、冗談を話すかのような雰囲気でもあった。

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