紋章の担い手
「そこの彼が、私の旅の同行者さ。」
━━━━えっ?
今なんて言った?この女剣士。
俺が同行者?
「ちょ、ちょっと待ってくれよ! 俺が同行者? 何言ってるんだアンタ?」
「? 待ても何もその手に浮かんでいるそれを見れば分かるだろう?
それが伝承でも伝えられている勇者の供をしていた5人にそれぞれ現れていた紋章だと…」
「ハァ…? そんなの聞いたことないぞ。そもそも勇者が本当にいることすら俺はついこの間まで信じられなかったし……。」
「その話の方が私としては信じられないぞ。
小さい頃から周りの人間の中では当たり前のように私の役目やそれについて伝承のことは認知されていた。」
俺と勇者が互いに(何を言ってるんだコイツは?)という顔をしているとギルド長のおっさんが口を挟んだ。
「あーーお二人さんよ。ひとまずその話は後でいいか? まずこの事態の後始末や他に魔物が入り込んでねぇかの方が先決だ。勇者様は俺についてきて手伝ってくれや。アクセルは先に避難してろ。
色々含めて今日の夕の7刻ごろにはギルド内で呼び出すからよ。」
「むっ そうだな。よし、じゃあそこのアクセル君とやら! また後でギルドで会おう!」
そう言うと勇者様とやらは先ほどの会話の澱みもなかったかのように勇ましくも軽い足取りで走って行ってしまった。
……俺も早く避難するか…
━━━━
「なぁ勇者様よ、本当にアイツが伝承通りのお供なのか?」
「あぁ、あの紋章は間違いないよ。「荷物持ち」の紋章だ。」
「……「荷物持ち」…ねぇ…。
こう言っちゃ何だがよ、いくら伝承で聞く紋章のお供の中で一番しょぼそうな紋章だとはいえアイツに宿るとは思えねぇぜ俺は…」
「ん? それは何故だ?」
「アイツは農民だ。さっきの勇者に関しての諸々を全然知らなかったのはそれが理由だよ。
アンタみたいな箱入り娘にゃあ勇者に関しての諸々は貴族とかの地位の人間位しか普通は聞いて育たないって知らなかったんだろうがよ。
…伝承通りなら邪竜討伐の使命を受けた勇者の供をした者たちが今の五代貴族の祖らしいじゃねえか? 普通に考えりゃこの手の物は血筋なんかで引き継がれるってもんだろう。貴族の中からなら遠縁だ何だで分かるが農民からってなるとどうにもしっくり来ねえぞ?」
「ならば君の推測が間違っているのだろう。
血筋は関係なく、天からのギフトのような形式で素質あるものに発現するものかもしれないじゃないか。
あと、箱入り娘というのは控えてほしいな。」
「…まあアンタがそういう考えならとやかく言わねえがよ、本当に連れてくのか?」
「あぁ、連れてく。」
「(…アイツも不幸体質だな……)」
━━━━
さて、避難した後に色々とまた雑用をさせられてるうちにそろそろ7の刻になるのでギルドにやってきたが…
「おーい!ここだよ!早くー!」
透き通るが妙に堂々とした女性の声が耳に届く。
勇者とやらの声だ。
ハイハイ…今行きますよっと……
「うし、来たな。そんじゃあ話を始めるぞ。」
「おっと、その前にいいかい? まだ名前を名乗っていなかったのでね…
私はイグニス。イグニス・フェリシアさ。」
…名は体を表すじゃないが何とも奇麗系な感じの名前だな…
「あー、そこのオッサンが呼んでたから知ってるだろうが正式にな。俺はアクセル。
農民の出なもんで姓はない。」
「よし、アクセル。いきなりだけど改めて言わせてもらうよ。
勇者である私の邪竜討伐の旅についてきてほしい。
…その紋章の担い手として。」
「そのことなんだが… まあ俺は細かく勇者に関しての伝承は知らないけど、まず言わせてもらうが俺は俺は何もできないぞ?
アンタみたく剣や槍を振るうことは無理だし、岩も割るような怪力や魔法もない。特別優れた特技もない凡人だ。アンタの求めてるようなことは何もできないぜ?」
「ふっ、問題ない! 君に目覚めた紋章が象徴することはそのどれでもないからね!」
「へぇ? じゃあ俺に求められてるのってのは?」
「ふっふっふ。
それは、だね! 『荷物持ち』さ!」
「……へ?」
今この女、何と言った?
聞き間違いでなければ『荷物持ち』と言わなかったか?
それも妙に自信満々に。
「いやいやいや、え? 荷物持ち?
そんなパシリみたいな役目があるわけないだろ? 勇者の供だぞ?」
「残念だが勇者の言ってることは本当だぞ。諦めろアクセル。」
そんな! ギルド長まで!?
「…なぁそもそも紋章には何があるんだ?それから教えてくれよ。」
「ん、まずそこからか。
まず紋章は私の勇者紋を含めて6個あるんだ。
魔道に優れ心優しき者に発現する『魔道紋』。 鍛え抜かれた信念と肉体を持つ者に発現する『武道紋』。
困難を切り拓き敵を斬り伏せる者に発現する『騎士紋』。大切な物を守り弱き者の盾となれる者に発現する『守護紋』……」
「ちょっといいか?」
「なんだい?」
「聞いてる限りますます『荷物持ち』の存在が信じられないんだが?」
「むぅ、とりあえず続きを聞きたまえよ。」
「……わかった。」
「そして最後の紹介になるが…人々の想いを運び勇者の支えとなる者に発現する者に発現する紋章……。
それが 『運手紋』…… 通称『荷物持ち』さ。」