・開拓46日目 新大陸テラ・アウクストリスの危機
あの日を境に、難民がひっきりなしに俺たちの開拓地を訪れるようになった。
その誰もが口々に家と畑を嵐に吹き飛ばされたと訴え、自分たちの土地にモンスターが徘徊していて暮らせないから助けてくれと涙ながらに懇願してきた。
「貴族の家に生まれたことを、最近は毎日のように後悔しているよ……」
「ノアちゃん偉い! 偉いのですっ、もっともっといっぱい人を集めちゃいましょう!」
「ピオニーは前向きだね……」
「ノアちゃんなら絶対大丈夫なのです! 成し遂げられる男なのですよ!」
この10日間で難民が300人もきた……。
俺たちはその全てを受け入れて、その場しのぎの家を建てて、畑を広げて仕事を割り振っていった。
それと同時に土蔵の防壁も築いた。住宅地を壁で囲い込み、畑をその外に再配置して見張り塔を建てた。こうして嵐が去っても、嵐が各地もたらしたモンスターたちは決して消えなかったからだ。
「ノア、プレゼントがあるぞ! ほれっ、そなたに全部やろう!」
「お、おおっ……! エメラルドにルビー、ジルコンまである! でもいいのっ?」
「こんなもの化け物どもを刈り続ければ嫌でも集まる。それにじゃな……ノアあってのワシらじゃっ! ワシもがんばるから、ノアも堪えしのいでくれ!」
「ありがとう、クラウジヤ」
「構わぬ。ノア、これはチャンスじゃぞ! 見事彼ら守り抜き、信頼を手に入れたその先には、そなたの飛躍が待っておるぞ!」
「そんな野心はないんだけどな……」
「じゃがこうなっては開き直るしかあるまい!」
「まあ、そこは確かに……」
この力を手に入れて新大陸送りになったその時に、俺の運命は既に決まっていたのかもしれない。
難民を受け入れ、家を建て、防壁を築く。そんな生活が続いていった。
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開拓49日目――
ポート・ダーナからの支援物資が届いた。
それは枢機卿たちが今日まで独立のためにため込んでいた物だ。彼は惜しげもなく俺たちにそれを分け与えてくれた。
開拓51日目――
掃討に出たクラウジヤたちが妙な場所を見つけた。
それは古い伝承に伝わる『迷宮』と呼ばれるものに酷似していて、彼女たちはその迷宮からモンスターがはい出てくるところを見たという。
それが本当ならば朗報だ。明日、精鋭を揃えて調査と討伐を行うことになった。
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開拓52日目――
その日、俺たちは正体不明の迷宮を下った。
現在は地下4階。モンスターと空の宝箱、時々襲い来る罠にへきえきとしてきたところだった。
「何してるですかー、ノアちゃん?」
「ん、いやちょっと……」
「その壁がどうかしたですか……?」
ピオニー譲りの銀の剣で壁を叩くと、向こう側にもフロアがあることが音でわかった。
「よくよく考えたら、これって壁を壊していった方が早くない……?」
「えっえっ、でもでも、なんかここ古そうですよーっ!? 壊して、いいんでしょうか……」
「いいのいいの。おっ、やっぱり向こう側があった」
壁を壊すと下り階段のあるフロアがその先に現れた。
キューブもう1つ分を破壊して向こうに抜けると、ちょうど右手の扉が開いて先行していたクラウジヤと戦士たちが現れた。
「な、なぜ領主様がここに!?」
「はて、ワシら道を間違えたか……?」
「いや合ってるよ。それと俺は領主なんかじゃないってば」
「みんな、そうノアちゃんを呼びたいから、呼んでるだけなのですよー」
「な……っ、なんじゃその穴はっっ?!! ええいっ、そういうことができるなら最初から言えっ、中ボスを倒してしまったではないかっ!!」
その中ボスとやらが宝石をドロップしたらしく、クラウジヤが煌めくトパーズをこちらに投げつけてきた。それを俺はキャッチして、じっくりと眺めてから懐に入れた。
満足した頃には地下5階の1つ目のフロアだった。
「ノア、ここの壁、抜けそうじゃぞ」
「えーっ、またズルするですかーっ!?」
「当たり前じゃろ。何が悲しくてモンスターと延々とどつき合わなけばならぬ」
「歴史的価値がありそうって部分は認めるよ。けど、何かあるならこういうのって一番奥でしょ。普通にやったら1日では調査が終わらないかも」
そういうわけで俺は壁をビルド&クラフトの加護でキューブ化して、こちらと向こうのフロアを繋げた。
デットマンズボーンに似た黒いオーラをまとったモンスターがこの迷宮の特徴だ。ちょうどオーラをまとったゴブリンが数体いたので、クラウジヤと手柄を取り合うように殲滅した。
「わははっ、ワシの勝ちじゃ!」
「負けた。迷宮じゃなかったら槍が使えたんだけどな……」
「さすがはご領主様です!」
負けたのに称えられると皮肉に聞こえるぞ……。
絶賛する彼は元兵士で、俺よりも5つ年上で身長も20cm以上大きい長身の男だ。
「このフロアはボス無しか。む……じゃが、何かあるな。これは、石碑……?」
石碑と聞いて俺はクラウジヤと肩を並べてそれを見上げた。
すぐに妙だと感じた。なぜならばその石碑はドワーフたちの文字ではなく、ヒューマンの貴族階級が使う上級文字だったからだ。
「ここなるは封印の地。災厄の眠りし墓所。決して近付くべからず。不死の王は人間には殺せない。引き返せ、引き返せ、死が地上にあふれる前に、引き返せ」
要点を音読してみんなに伝えた。
「はっはわっ?! こ、怖いのです……」
「うむむ、どうもおかしいのぅ……。なんでヒューマンの言葉で書かれておるのじゃ?」
「あっ、言われてみればそうなのですよっ! ノアちゃんたちは入植者なのに、なんでなのですっ!?」
ここは封印の地だ。その封印の地から今、モンスターが地上にあふれ出している。
碑文は帰れと俺たちに要求しているけれど、こうなると戻るわけにはいかなかった。
「進もう」
「えーーっっ?! な、なんでっ、なんでなのですーっ?!」
「ここが本当に封印の地なら、封印はもう壊れていることになる。引き返しても何も解決しないよ」
俺たちは進んだ。壁を破壊すれば『迷宮』とやらがインベントリに増えるので、後でこれは開拓地の防壁として再利用もできてお得だと思った。




