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・開拓36日目 嵐の訪れ - 反撃の朝 -

 何回寝て、起きて、暇つぶしの棒倒しゲームや、○×ゲーム。しりとりを繰り返したかわからない。けれども確実に時は緩やかに流れゆき、長い長い恐怖と退屈の果てに地上の暴風が途絶えることになった。


 だけどモンスターの声は消えない。これから俺たちは地上に出て、日常を再開するためにやつらを殲滅しなければならなかった。


 誰もが恐怖を引きずっていた。あのクラウジヤでさえそうだ。

 そこで俺は倉庫に上がり、扉の向こうに威力偵察に出ることにした。


「ノ、ノアちゃん……もう少し待った方が……」

「待ってもモンスターは消えないし、モンスター1体1体より俺たちの方が強い。それを証明しに行くだけだよ」

「こんなときだというのに、縮み上がってしまってすまぬ……」


 獣が雷に怯えるように、そこは本能に基づくものなのだろう。


「勇気が出たらバックアップして」

「う、うむ……」

「が、がんばるです……」


 クラウジヤとピオニーの肩を叩いて、俺は陶器の扉を開いて外に出た。

 デッドマンズボーンに似た、だが黒いオーラをまとっていない怪物が防壁内部に7体ほどいた。それとずんぐりむっくりとした鬼のようなやつが1体だ。


 ピオニーがくれた銀の剣を握り締めると、俺は一斉に襲いかかってくる怪物たちを斬り伏せた。


「ノアちゃんっ!」


 俺の背に回り込んできたやつを、ピオニーがすかさず人型に変身して叩き斬ってくれた。俺たちに斬られた怪物たちは光となって消えて、小さなアメジストに変化した。


「なんじゃ、大したことないのぅ……」

「ですねっですねっ!」


 最後の雑魚をクラウジヤのブロードアックスがぶった斬ってくれた。

 残るはこの巨体の鬼だけだ。鬼は歯をむき出しにして俺たちに対してうなり威嚇をしたが、もうこの時点で敵ではなかった。


 ピオニーと俺が左右を切り抜け、クラウジヤが鬼の顔面にブロードアックスを叩きつけると、鬼は赤いルビーに変わった。倒せば倒すほどコレクションが増える。最高じゃないかと笑みが漏れた。


「よし、これで防壁を確保だ!」

「あっずるいですのノアちゃんっ、それはピオニーが造っ――ギャーッ、なんかいっぱいいるですよぉーっ!?」


 防壁を上ると、辺りはオーラを持たないデッドマンズボーンだらけだった。

 数はざっと――200体くらいだろうか。そのおびただしい群がピオニーの叫び声に引かれて、防壁に迫ってきた。


「うぬっ、ゾッとせん光景じゃの……。ちと待っておれ、仲間に槍と弓を持ってこさせよう」

「これじゃ落ち着いて畑仕事もできないね。やっぱり町を囲む防壁が必要かな……」

「あっあっ、それピオニーがやります! お城、ピオニーに任せて下さい!」


 声に引かれて地下のみんなが地上に上がってきた。

 彼らは安全地帯と美しい青空に安堵して、続けて防壁の向こうの地獄に息を飲んだ。


 それから少しして、武器を持ったドワーフたちがやってきた。

 そのうちの1人が弓を構えて、矢でデッドマンズボーンの眉間を貫くと怪物は光となって消えた。


「お見事。1体1体片付けて、この防壁を広げてゆけば元通りの日常に帰れるね」


 防壁上からの弓と槍による一方的な攻撃は、恐怖で包まれたムードを戦勝ムードへと変えた。

 売り物の武器防具がここには山ほどあったのも幸いした。


「おい見ろっ、なんかでかいのがくるぞ! んなっ、ノアッ?!」

「ノアちゃぁぁぁんっっ?!」


 一方的な殲滅により敵戦力が壊滅すると、口も鼻も目もない異形の怪物がこちらに迫ってきた。


 右手には巨大な大腿骨のような物を持っており、あれでなぎ倒されたら防壁やその上の人たちが心配だ。……だから隣のドワーフから槍を奪って突っ込んだ。


「さあこい、君は俺の獲物だ。おとなしく俺のコレクションになってくれ!」

「まさかの宝石目当てじゃとっ?!」

「あっ、怪物さん、ちょっとビビッてるのです……」


「ノアの方は狩る気でまんまんじゃからのぅ……」

「ノアちゃん、援護するですよーっ!」


 槍を持つのは久々だ。そしてこいつは歩く財宝で、今はみんなの前で本当の実力を披露するチャンスだ。怪物の大腿骨をかわし、俺は武門の世継ぎとして身体で覚えてきた技のいくつか繰り出した。


「お、おおっ、怪物どもが消えてゆくぞ!」

「はわーっ!? ノアちゃんっ、ノアちゃんって、そんなに強かったですかーっ?!」


 どんなに大きくとも、槍で急所を突いてしまえばこちらの勝ちだ。異形は光となって消え、連鎖的に残りのデッドマンズボーンたちもアメジストになっていった。


「これでも武門の世継ぎだったって言ったでしょ。これくらい倒せて当然だよ」

「なんて槍さばきじゃ……。ワシが勝てぬはずじゃの……」

「すごいすごいっ、ノアちゃんがバビューッ! ってやったらみんな消えちゃったですよーっ! これで、また熱々のご飯が食べられるですねーっ!」


「うむ、そこは極めて重要なところじゃな! よしっ、勝利じゃっ、ワシらは嵐を切り抜けたっ、この戦、ワシらの勝利じゃぞぉーっっ!!」


 勝手にクラウジヤが勝ちどきを上げると、防壁に引きこもっていたみんなが飛び出してきた。恐ろしい嵐は過ぎ去り、俺たちは日常を取り戻した。


「さあ、あまーいパンを焼くですよーっ。お肉も焼いちゃいましょう! いいですよねーっ!?」

「いい考えだね。今日は仕事は最低限にして、みんなで休むとしよう」


 異形は大粒のダイヤモンドに変化した。高い屈折率を持つこの石は、空にかざすと光をねじ曲げてキラキラと輝く。俺が倒したのだからこれは俺の物だ。


「ノア、どこへ行く……?」

「石切場」

「えーっ?! お外はまだ危険かもしれないですよーっ!?」


「だからこそだよ。土ではなく、石の防壁で砦を覆ったら……きっと楽しい」

「楽しい、じゃと……」


「うん、楽しいに決まってる」

「……遊び心優先なところがノアじゃの。わかった、ワシがそなたに護衛に付こう……」

「お願いするです。でもでも、お肉が焼けたら、帰ってきて下さいねー?」


「当然じゃ!」

「次に買い出しに行くことあったら、精肉を買い込むのもいいかもね」


 俺はもう2度と、ピオニーとクラウジヤに震えて夜を過ごしてほしくない。だからこの日から俺は、石の防壁で町を囲うことを目標に加えた。


 テラ・アウクストリスは危険な土地だ。しかしだからこそ美しく、そこに築かれた都市は頼もしく輝く。俺たちは嵐を乗り越えた。


 それから1時間ほど石を集めると、砂糖たっぷりのパンの甘い香りと、香ばしいハムの香りが石切場まで届いた。


「ノア、帰ろう! 甘いパンと肉を食いはぐれるぞ!」


 俺とクラウジヤは来た道を引き返して、みんなと一緒に勝利の宴を楽しんだ。


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