・開拓1日目 宝石と石材
・開拓1日目 宝石と石材
黙々と、黙々と石材を採掘した。ただ黙々と、無心になって、いつまでも。
「おっと……。この手応えは……」
「どうかしたですか、ノアちゃん?」
ところがまるでバネでも叩いたかのように、前触れもなくクワが岩盤から弾き返されて俺は手を止めた。
我に返れば辺りは既に宵闇の世界だ。
西の空を見上げればそこに緋色に燃えていた太陽はなく、わずかな残り火が山の彼方を妖しく染め上げている。
「インベントリがいっぱいになったみたいだ」
「じゃあ、ピオニーが持ってあげます。実は! 1枠だけならピオニーもインベントリがあるのです!」
「え、マジで?」
「ふんすふんすっ、マジなのです!」
「そういやさっき、普通に俺のインベントリから荒野の土を取り出してたもんな……」
これは嬉しい誤算だ。ピオニーで所持枠が1枠増えるだけでも恩恵は途方もなく大きい。
俺は自分のインベントリを開き、何を彼女に持ってもらうかと検討した。
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石材 ×10
→ ×133 /9999999
木材 ×2 /9999999
石炭 ×18 /9999999 new!
砂利石 ×14 /9999999
錆鉄 ×10 /9999999
銅鉱石 ×8 /9999999
武具の破片×41 /9999999
モグラ ×4 /9999
??????の魂 ×1 /?
ジェード(宝石) ×1 /9999 new!
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「おお……っ!」
「じぇいど? わおっ、宝石って書いてありますよっ、ノアちゃんっ!?」
「石炭もある。これで夜はどうにかなりそうだね」
確認に石炭をインベントリから1つ取り出してみると、黒々とした石炭が80cm四方のキューブとなって現れた。暗くてまだ断言はできないけれど、かなり質がよさそうだ。
「はわっ、よく見たらモグラさんが! モグラさんはピオニーがもらっとくです!」
「モグラは持って帰ってもしょうがないから駆除しよう」
「えーーーーっっ?!」
「そんな悪者を見るような目で見ないでよ。じゃあピオニーが焼いて食べる?」
「ギャーッッ、なんでそうなるですかーっ?! ダメですっ、そんな怖いこと言うノアちゃん嫌いですっ、大嫌いです!!」
「めんどくさいやつだな……。それよりこっちの木材を持ってくれる?」
「ピオニーは、モグラさんがいいです……」
「気持ちはわからないでもないけど、せっかく開拓しても、作物をモグラさんに食べられたら意味がないでしょ……?」
「それでもモグラさんがいいです!!」
「……わかった。じゃあもう少しここで掘ってるから、ピオニーはモグラさんを遠くに放してきてくれ」
そう言うとピオニーは俺のインベントリを操作して、画面からモグラの個数をゼロにした。
光が俺から彼女へと移ったということは、モグラちゃんの受け渡しが済んだということだろう。
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モグラ ×4 /9999
→ ×0(村人:ピオニーに譲渡)
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「あの、飼っちゃダメですか……?」
「可哀想だけど、モグラはダメ」
「しゅん……」
ピオニーがどこかでモグラちゃんと涙の別れを済ませるまで、俺は宵闇の世界でクワを振った。
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石材 ×133
→ ×179 /9999999
木材 ×2 /9999999
石炭 ×23 /9999999
砂利石 ×14 /9999999
錆鉄 ×10 /9999999
銅鉱石 ×8 /9999999
武具の破片 ×41 /9999
??????の魂 ×1 /?
ジェード(宝石) ×1 /9999
ブルーベリル(宝石) ×1 /9999 new!
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そうそう、さっき弾き返された部分を崩してみればそこにブルーベリルが眠っていた。
帰って明かりの前で見るのが楽しみだ。
「ただいま……お別れ、してきました……」
「お疲れ。しょげてないでさあ帰ろう」
ピオニーの手を引いて、暗闇の荒野を歩き出した。
視界に映るのは漆黒に浮かび上がる山陰と、船でも幾度となく見上げた満天の星空だ。新大陸は故郷よりもずっと空が近かった。
「ノアちゃんの手、やわらかいです……」
気取った言い方を止めれば、ぶっちゃけ何も見えない。
俺たちは星を頼りにこの真っ暗闇の荒野を歩いて、どうにかして自分の家まで戻らなくてはならなかった。
「ピオニーって、動物が好きなの?」
「はい……もふもふした、かわいい子が好きです……」
「じゃあいつか、そういう子を飼おう」
「えーーーっ、い、いいんですかーっ!?」
「余裕ができたらね。……犬と猫、どっちがいいかな?」
「ワンコがいいです!!」
少し進むと荒野が陥没していた。どうやら家の前まで戻ってこれたみたいだ。
一度ここ一帯の全てを掘り返して、キューブ化した土をそこにしいてゆけば広大な平地だって作れるだろう。さらに芋も手に入って一石二鳥だ。
……クラフトで使えるミミズはともかく、モグラはもういらないけれど。
「俺はどっちかというと猫かな。犬は元気過ぎて疲れるし」
「えーっ、わかってないですね、ノアちゃんは! ワンコもニャンコもかわいいに決まってます!」
「知ってるよ、これでも実家には犬がいたし」
「本当ですか!? どんな子ですかっ、大きいですか小さいですか、ワンコのお名前は!?」
「エド。凶暴なドーベルマンだよ」
「ピィッ……?!」
騒ぎながら家の前まで戻ってくるとちょっとホッとした。
荒削りにもほどがある家だけれど、ピオニーと一緒に中へと入ってみると、壁と天井の存在に心がとても落ち着いた。
「お疲れ、今日はたくさん手伝ってくれてありがとう」
「へへへー、ありがたく思うですよ、ノアちゃん」
「思っているよ。昼間の自分が想像していたより、荒野の夜は寂しいみたいだし。こうして一緒に居てくれるだけでありがたいよ」
「私はノアちゃんがいれば、全然怖くないですよー」
外の物資のところまで戻って、そこから火打ち石と燃焼材である藁を取り出して、もう1度この土蔵の家に戻った。
外から見ると大きいけれど、中はあのキューブ換算で4×4×3の広さしかない。
……石炭にようやく炎が灯った。
【恐縮なお願い】
もし少しでも
「楽しい!」
「続きはよ!」
「マイクラやってみたい!」
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