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・開拓36日目 嵐の訪れ - デッドマン -

 少し前まで夕日を遮っていた西の丘は、今では見渡す限りの広大な農地に変わった。黒土の畑にはサツマイモの若葉がちらほらと芽吹いていて、輸入依存のこの開拓地に少しずつ自給の兆しを見せている。


 あれから毎日こつこつと荒野の土を採集した。それを材料にクラフトで『大規模農園』を作り、平坦にした土地に設置した。

 それはやったのは俺だけれど、丘が消え畑が生まれてゆくその情景は、どうにも不可思議で首を傾げずにはいられないものだった。


 あれから約2週間が経った。食いはぐれた開拓民たちに農園の管理を任せ、商売が得意な者には前線基地との交易の仕事を任せた。


 ハサミや針、ツルハシ、クワや鍬、皮のコート。そういったインベントリ枠を圧迫するような商品は、俺が持ち運びするよりもキャラバンを作って売却を任せた方が売りやすかった。


 家と家、施設と施設の間に道が造られ、全てが中央の広場と公園に繋げられると、ここはもう寂しい村ではなく小さな町だ。


 見晴らしのいい自宅の屋上から、朝や夕方の往来に人々が行き交う姿を見つけると胸が躍る。ハズレ加護だと俺をあざ笑った父と弟に、これを見せてやりたくてたまらなくなった。


 しかしこうも思う。俺のこの力は既に拓かれているあちらの大陸ではなく、こちらの大陸でこそ輝く力だったのだろうと。


 食糧事情が解決したらここをもっともっと文化的にしたい。

 大理石でコンサートホールを作って、そこで歌や演奏を楽しめたらこれ以上なく文化的だ。さらに資金に余裕ができたら、本を買い込んで図書館も作りたかった。



 ・



 ところがその日、俺たちの前にターニングポイントそのものが現れた。


 ソイツの名前は『デッドマンズボーン』。このテラ・アウクストリスのモンスターだ。それは骨と皮とボロ着だけのミイラみたいな怪物で、黒いオーラのようなものをまとった不気味な存在だった。


 ドワーフの採集班が開拓地を出発してまもなくしてこの群れに遭遇し、急報を運んできた。俺はすぐに戦闘員を集めて開拓地から出陣して、デッドマンズボーンを迎え撃った。


「なんか弱かったな……」

「弱いです、見かけ倒しだったのです。これならー、ワニさんの方がずっと恐いのですよー」


 50体近い群れだと言うので、こちらは男手を全てを動員して迎え撃った。すると戦いは2分足らずの被害ゼロで終わっていた。


「同感。だけどクラウジヤたちドワーフはそういう雰囲気じゃないみたいだね。ねぇ、何か気になることでもあるの?」


 けれどドワーフたちの様子が穏やかじゃない。

 輪を作ってニョゴニョゴとしきりに話し合っていたので、クラウジヤに通訳を願った。


「うむ。こやつらの恐ろしさは戦闘力ではないのじゃ。問題は、この後じゃ……」

「えと……もしかして、ミイラだから蘇るですかー……?」

「怖……っ。なら今のうちに焼いておくべきか」


「違う。ほれあれを見よ、西の彼方に雲があるじゃろ」

「あ、ホントだ。昼過ぎからは久々の雨かな……」

「雨降ったら畑のミミズさんたちも喜ぶですねーっ!」


 クラウジヤたちドワーフの表情は険しい。笑えない事態が起きているって顔だった。


「雨ではない、アレは嵐じゃ。魔物の群れをもたらす暴風雨じゃ!! 今すぐ籠城の準備をせんと、大変なことになるぞ!!」


 デッドマンズボーン。それは嵐の目前に現れると伝えられる不吉な怪物だった。


「それ、どれくらい危険なの……?」

「人を吹き飛ばすほどの嵐になる。地上の物は根こそぎ薙ぎ倒されるぞ」


「は……? それマジで?」

「畑っ、畑はどうなるですかーっ!?」

「全て吹き飛ばされるじゃろうな。それとヒューマンの家は縦長じゃ、避難させた方がいい」


 クラウジヤの話を聞いて、人々はショックに声を上げ、膝を突き、頭を抱えた。


「嘘だろ……せっかく安住の地が見つかったのに、今度は嵐だななんて……っ」

「そんな、だから私は新大陸になんてきたくなかったのよ!」

「おお神よ……こんな運命はあんまりです……」


 西の彼方にはある暗雲は、少しずつ大きくなってこちらに近付いてきている。

 夕方と言わず、昼過ぎにはやってきてしまいそうだった。


「急いだ方がいい。急ぎ町に向かった者を呼び戻し、嵐を迎え撃つ準備をするべきじゃ! 何をやっておるノアッ、指示を出す気がないならワシが代わるぞ!」

「嵐が通り過ぎた後、モンスターはどうなるの?」


「消えずに残るに決まっておろう! そこら中がモンスターだらけになるぞ!」

「えーーーっっ?!」

「それ、ヤバ過ぎじゃん……」


 ならばやるべきことは避難。そして嵐をやり過ごした後のモンスター掃討の準備だ。


「クラウジヤ、ここは君に指揮を任せることにするよ。俺とピオニーは倉庫の地下にシェルターを作る。物資を倉庫に集めつつ、支援をしてくれ」

「おお、地下シェルターかっ、それはなんだかワクワクするのぅ! よしわかった、細かい仕事は任せよ!」


 そう決まったので、俺はピオニーをツルハシで叩いてインベントに収めると、自宅付近の倉庫へと引き返した。人口と必要物資の増加に、倉庫は度重なる増築を受けて20×20×4の巨大倉庫になっている。


 なんとその容積はキューブ900分を超える。これから俺たちはその地下にシェルターを築く。最悪の事態に備えて、安全な空間に作り出すことにした。


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