・開拓22日目 人口100から始まるメガクラフト 2/2
「なるほどね、こうなるんだね」
「よ、よくわからんが凄いのじゃ……」
「よくわかんないけどやったですよーっ!」
いや、よくわかってないのに決定ボタンを押すなよ……。
インベントリからその家を取り出して、既にある家の隣に配置してみた。ドスンッと大地が揺れた。
「おわぁーっっ?!」
「う、うぉっ……?! おいノアッ、やるならやると言えっ。ぁ……っ、す、すまぬ……」
「ごめん、よくよく考えたらこれ危ないな」
クラウジヤは飛びついてきたり飛び離れたりと忙しい人だった。
一方で移民希望者たちは、魔法どころじゃない奇跡の力で同じ家がもう1つそこに現れたことに、驚きのあまりに腰を抜かす者すらいた。
しかしやってみると、これがなかなかに気持ちがいい。
簡単操作でパッと家が完成して、ドスンッと大地が揺れてみんなが驚くのだから。
これなら元から余りがちな荒野の土も一気に消費できてインベントリもスッキリだ。
「ノアちゃん次はピオニーがやるですよっ!」
「はいはい、どうぞ。もう6つ作って配置してくれる?」
ヒューマンはドワーフと異なり、男女の世帯を作る。
1階と2階で別の世帯が暮らせるのも、この家の構造ならではだろう。
ドスンドスンドスンッと大地が6回揺れて、同じ構造の家が8つ大地に築かれていた。
どういう遊び心なのか、こんな配置だ。
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家家家
家 家
家家家
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「おおっ、なるほど! 真ん中に井戸や共用の設備を設置するのじゃな!?」
「ほへ……? え、そうだったですかー!?」
「クラウジヤ、ピオニーがそこまで考えているわけがないでしょ……」
「へへへー、なーんも考えてなかったですよー♪」
「うむ……そこでそうやって笑えるところが、ピオニーの魅力じゃな……」
こうして移民者全員分の家が20分足らずで建った。
ならば次は『大規模農園』だ。コレクションである宝石を消費するのが残念だけど、食糧事情を考えればわがままを言っていられない。
スロットに材料を投入して作成してみた。
インベントリに『大規模農園』が追加された。
土の消費量が256という点からして、これはきっとめちゃくちゃにでかい。
そこで少し離れて場所にゆとりを持って設置してみると、ズドンッと大地が激しく揺れた。
「ギャーーッッ?!」
「やっややややるならやると言えっ、ビックリするじゃろがっ!!」
「お、おしっこ、ちびりかけたですよ……。わぁぁぁ……ビックリしたですよぉぉ……っ」
「サイズがサイズだから揺れも凄かったみたいだね。でもこれを見てよ、ふかふかの土だ」
そこにあるのは潤いのある黒土だ。これまでの畑と異なりなんの苗も植えられていなかったけれど、荒れ果てた土地に芋を埋めるよりもずっといい。
面積は30m×30mはありそうだ。おまけに小さな納屋まで付いている。
「お芋を植えましょう!」
「それが手っ取り早いだろうね」
「早速植えるとしよう!」
ピオニーとクラウジヤが倉庫に駆けていって、帰ってくると移民希望者たちと一緒に芋を植え始めた。
なら俺は次のクラフトを試そう。
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・醸造所
石材 × 150
木材 × 10
小麦 × 20
砂糖 × 10
ガラス × 10
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倉庫と精錬所から必要素材を取り出して、石切場にで石材を155個採集した。素材が全て集まると、畑と家から少し離したところに『醸造所』をこっそりと設置した。
ズドンッと大地が揺れて、すぐにみんなが集まってきた。
「ビックリするから先に言ってくれと言っとるじゃろがっ!」
「ごめん」
「おしっこちびりかけたですよっ!!」
「それはさっきも聞いたような。……何回チビるの?」
「ちびってないですよーっ!」
材料からしてそうだけれど、醸造所は石造りの建物だった。
中に入ってみるとタルが並んでいて、どことなく香しい匂いがした。下り階段があって、地下にもタルが敷き詰められている。
「お、おい……今ワシは、大変なことに気付いてしまったぞ……」
「何を大げさな。どうかしたの?」
「このタル……ほらっ!」
「わっわっ、中にもう入ってるですよーっ!?」
クラウジヤがタルを叩くと、トプンと水音がした。
別のタルを俺も叩いてみると、こっちの方は空っぽだ。中身が入っているやつとそうでないやつに分かれているみたいだ。
「これは、ラム酒の香りじゃ……!」
「よくわかるね。なら開けてみようか」
剣の切っ先でタルのふたをこじ開けると、強烈な酒気が立ちこめた。
黒い蜜のようなものが沈殿していて、上の方には琥珀色の液体がたまっている。
蒸留前の原液だろうか。
「う、美味い……。酒、久々の、酒じゃ……プハァァーッッ♪ 酒じゃ、酒じゃっ、みんなを呼んでくるっ! 今夜は酒盛りじゃーっ!!」
「うっ……甘く、ないです……」
「俺は精製した砂糖の方がいいな」
「私もです……。お酒はあんまり……うぷっ?!」
「ならなぜ飲むし……」
この後はちょっとしたお祭り騒ぎだった。
盛り上がるドワーフたちを醸造所に残して外に出て、プールの水を採集した。それから最後のメガクラフトである『大公園』を作った。
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・大公園
草 × 100
水 × 10
木材 × 10
石材 × 5
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たぶん、これを設置すれば『草』が供給されるはずなので、備蓄分を投入することにした。
「場所はどこにするですかー?」
「真ん中かな。みんながアクセスしやすい場所がいいと思う」
「じゃあ……あそこらへん?」
「いいね。ちょうど沼の隣なのもいい。じゃあ、置くよ。オムツの準備はいい?」
「何言ってるですかー? 漏らさないですよー? ……ピェッッ?!!」
大地がまた揺れた。ピオニーが飛び上がって、くっついてきて、ドット絵なのにふんわりとやわらかな身体を犬みたいに擦り付けた。
生まれたのは万緑の緑だ。沼さえ飲み込んで、辺り一帯を美しい草地に変えていた。
「わぁぁぁ……っ」
「綺麗だね。こんな荒れ地だからこそ、かけがえのない輝きに見えるよ」
「あそこ見て下さいっ、お花! お花がいっぱいですよーっ、ほらあそこーっ」
ちょっとした花園を見つけると、ピオニーは俺をそこへと引っ張っていった。
草地の上に座ると気持ちが落ち着いた。
笑顔いっぱいのピオニーを見ていると、なぜだかドキドキとした。
そんな俺を見て、どういう判断でそういう行動に出たのかわからないけれど、ピオニーは姿を変えた。
「とうっ! これでどうですか、ノアちゃん?」
「さあね」
花園で踊るピオニーは綺麗だった。
彼女の狙い通りに魅了されて、天真爛漫に笑うその姿をずっと見つめた。
「もっともっと、畑を広げて、公園作って、ドカーンッと世界を変えちゃいましょう!」
「うん、そうしよう。ん、んんっ……」
急に眠くなってきた。昨日今日と走り回って、おまけに昨晩は大変だった。
具体的には触れたくないくらい、大変な夜だった。
「お膝、貸してあげますよ。おやすみです、ノアちゃん」
「これ、目覚めたらドット絵ボディに戻ってるやつだ……」
「へへへー、そればかりはどうにもならないのですよー」
素直に彼女の膝に後頭部を預けて、まぶたを閉じた。
夢のようだ。あの日、絶望に膝を突いた大地に緑が生まれ、そこで安らかに眠れるなんて。
なんて凄い力なのだろう。これからもっと凄いことだってできてしまうのだろう。
俺は期待と達成感に満たされながら、やさしい眠りへと落ちていった。
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【インベントリ】
荒野の土 ×907 /9999999
→ ×139(『頑丈な2階建ての家』×8に)
小麦粉 ×700/9999
→ ×0(倉庫へ)
トウモロコシ ×600/9999
食用油 ×200/9999
→ ×0(倉庫へ)
魚肉 ×500/9999
ハム ×400/9999
→ ×0(倉庫へ)
砂糖 ×300/9999
→ ×0(倉庫へ)
塩 ×100/9999
→ ×0(倉庫へ)
ラム酒 ×13 /9999
→ ×0(各家に寄贈)
綿織物 ×200/9999
→ ×0(倉庫と各家に)
木材 ×200/9999
??????の魂 ×1 /?
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【倉庫・石の倉庫】容量:177キューブ
木材 ×25 /9999999
→ ×5(醸造所と大公園に)
繊維 ×52 /9999999
石炭 ×0 /9999999
→ ×0(だいぶ前にドワーフの精錬所に移した)
アイアンインゴット ×81 /9999
→ ×0(同上)
綿生地 ×45 /9999
→ ×126(インベントリから)
天然ガラス ×3 /9999
→ ×0(売却)
ハム ×411/9999
魚肉 ×48 /9999
→ ×6(これまでの消費)
小麦粉 ×200/9999
→ ×710(消費+インベントリから)
砂糖 ×50 /9999
→ ×281(同上)
塩 ×49 /9999
→ ×114(同上)
オリーブ油 ×22 /9999
→ ×0(消費)
食用油 → ×200(インベントリから) new!
草 ×151/9999
→ ×51(大公園に)
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