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・開拓21日目 慈愛? いいえ変態です

 あれから半月が経った。村落以下だった俺たちの開拓地はあの日から村へと姿を変えた。

 衣食住はカツカツ、食事はスープとパンばかりで、美味しいけれど物足りないその味わいが俺たちを労働に駆り立てた。


 とはいってもここは不毛の荒野だ。元農家のドワーフにはサツマイモ畑を作ってもらったけれど、土地が土地だけに収穫はあまり期待できそうもない。

 そこで俺たちはドワーフ本来の素質を活用して、工業を重視する方針を取った。


 大地が十分な実りをもたらさないのならば、潤沢な石炭を使って金属やガラスを溶かし、それを加工して売ればいい。

 探索班が鉱床を探し、採集班がそれを採掘して持ち帰り、それを職人たちが加工する。


 言うのは簡単だけれど、この循環を作り出すまでに数多くの苦労があった。



 ・



「ありがとうございます、枢機卿」

「気にしないでくれ、ノア殿。これは渡りに船――いや、天恵だと私は思っている」


 その日、俺はインベントリにありったけの商品を詰め込んでポート・ダーナに遠征した。あの酒場を尋ねてシスター・リンネに接触して、元枢機卿のリチャード・ベンとの接触を試みた。


「天恵ですか?」

「実は私の友人(・・)がこういった物を欲していてね。できれば次はこの3倍を納入してくれると助かる」


 大理石、ブロンズインゴット、スティールインゴッド、スティールソード、アーマー、シールド、矢尻、釘、鉄板、ガラスを売り込むためだ。超大口の取引だというのに、彼は快く全てを買い取ってくれた。


「そんなにモンスターの襲撃が激化しているのですか?」

「違う、独立のためだ。……と言ったら、君は私を密告するかね?」


「ああ……」

「常々私は思うのだよ、ノア殿。なぜ我々は本国に搾取されなければならん。本国向けの砂糖やタバコ、ラム酒を作るくらいならば、トウモロコシ畑を増やして民を太らせるべきだ」


 枢機卿は野心家だ。本国への報復に燃えている。独立を夢見て饒舌に語るその姿には、欲望と理想の両方が見て取れた。

 本音を言えばこんな話どうでもいい。むしろ独立されると、こちらの商品が売りにくくなるかもしれない。


「ええ、俺もそう思います。せめて本国が正当な価格で輸出品を買ってくれたら、ここも栄えるでしょうね」

「君ならわかってくれると覆っていたよ。期待しているよ、ノア殿。君たちが武器を納入すればするほど、独立が早まると思ってくれ」


 本国との戦争にこのポート・ダーナが負けることはないだろう。

 本国が新大陸を攻撃するには金がかかりすぎる。戦うより和解した方がずっと安上がりだ。


「えっと……がんばります。一応……」

「では後は任せたぞ、シスター・リンネ」

「お任せ下さい」


 枢機卿の書斎を出てホッと一息を吐くと、シスター・リンネと一緒に買い物に出かけた。


「あの、なぜ、手を……?」

「あら、迷子になったら大変よー?」


「いやなりませんよ」

「いいからいいから、後はお姉ちゃんに任せて♪ あ、それで何が必要?」


「主に食料です。それと材木と布と医薬品、酒も少々……。インベントリの枠を考えると、10種類までですかね」

「わかったわ」


「では、手を離して下さい」

「ダメよ、誘拐されたら大変よ。むしろ私が誘拐して、監禁して、一生ノアくんを愛でたいくらいだもの……。はぁっ……」


「聞かなかったことにしておきますね」


 シスターに手を引かれて、問屋さんもドン引きの超物量をインベントリの中に消して回った。

 最後に寄ったのが湾口のラム酒倉庫だ。余った金額で酒を買い込むと、取引分の金額を全て使い切った。


 倉庫から出ると海がキラキラとラム酒色に燃えていた。

 ポート・ダーナの人たちは、毎日この海を見て、彼方にある本国を思い描くのだろう。帰りの便はないというのに。


「じゃ、帰ります」

「ダメよっ、泊まっていってくれるって約束だったじゃない!」


「そんなこと言ってません、一言も」

「言ったわ! 言った……気がするわ……」


「言ってないです」

「あら、そうだったかしら……? わぁーい、僕っお姉ちゃんと一緒にお風呂入るぅーっ! って言ってなかったかしら……」


「いや、いやいや、んなこと俺が言うわけないでしょ……」

「そう……? でもぉ、もう夜になっちゃうわー。出発は朝にしましょ?」


 早くこの物資をみんなに届けて、笑顔を見たかったのだけど……。

 今回はピオニーを建築労働者としてあちらに残してきている。独りで闇夜を走るのは少し心細い。


「わかりました、泊まることにします」

「ああ、よかった! 市場に寄っていきましょ、ノアくんのために腕によりをかけて夕飯を作っちゃう!」


 きっと彼女も寂しいのだろう。亡くなった弟と俺を重ねてみているふしもある。

 せめてもの恩返しに、一晩だけでも仮初めの弟として素直になってみようか……。


「ふふふ……美少年と一緒にお風呂に入れるなんて、夢のよう……」

「入るわけないでしょ……」


「そんな……っ。あ、じゃあ、じゃあ……お風呂は私が後にするわ! ノアくんが先に入って!」

「ぅっ……いや、それは、でも……え、ええ……っ?」


 俺は選択を誤ったのかもしれない……。

 彼女の俺を見る目は、慈愛というより変態のソレだった……。


――――――――――――――――――――――

【インベントリ】

 荒野の土   ×907 /9999999

 小麦粉        ×700/9999 new!

 トウモロコシ     ×600/9999 new!

 食用油        ×200/9999 new!

 魚肉         ×500/9999 new!

 ハム         ×400/9999 new!

 砂糖         ×300/9999 new!

 塩          ×100/9999 new!

 ラム酒        ×13 /9999 new!

 綿織物        ×200/9999 new!

 木材         ×200/9999 new!

 ??????の魂   ×1  /?

――――――――――――――――――――――

先日は投稿できなくてごめんなさい。

先日、完結までのプロットが完成しました。どうか最後までお付き合い下さい。


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