・開拓9日目 溶鉱炉と畑 2/2
「ただいまです! あっあっ、クラフトもピオニーが押していいですかー?」
「いいよ」
「へへへー。ではでは、えーと、こうして、ああして……ぽちっとなっ!」
ピオニーがパネルを操作して、ミミズと荒野の土をスロットに入れると決定ボタンを連打した。
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・畑レベル1
材料
土 × 16
ミミズ × 20
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【インベントリ】
荒野の土 ×607 /9999999
→ ×511(クラフト・畑レベル1に)
大理石 ×27 /9999999
プールの残り水×10 /9999999
ミミズ ×123/9999
→ ×3(クラフト・畑レベル1に)
モグラ ×9 /9999
→ ×0(モグラは寂しそうに去っていった)
芋(野生種) ×47 /9999
??????の魂 ×1 /?
ミスリルソード+2 ×1 /9999
→ ×0(ピオニーに寄贈)
畑レベル1 ×5 new!
果樹レベル2 ×1 new!
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もしかしてベッドでもあったレアだろうか。『果樹レベル2』とやらが混じっていた。
「やったやった、やったですよ、ノアちゃんっ! 果樹、果樹です!」
「お手柄だね。早速設置してみようか」
「はいですっ、畑に戻りましょう!」
丘を越えて開拓の畑に戻った。
ピオニーは果樹を設置したそうだったので、そっちを彼女のインベントリに移動させた。
「果樹は……あの辺りでいいんじゃないかな」
「わかりました! それにしてもー、なんの果物でしょうかねーっ、ふんすっふんすっ!」
「きっと数日待てばわかるよ」
「そんなに待てません!」
ピオニーは果樹を、俺は畑を既にある畑の奥に設置した。
どの苗も正体がよくわからない。どれも別の種類に見えた。
「わーっ、大変大変ですノアちゃんっ、これジャガイモ、ジャガイモです! やったですっ、フライドポテト作れるですよーっ!」
「詳しいね。果樹の方はどうだった?」
「まだちっちゃくてわかんないです……」
「まあそうだろうね。樹木だから畑より生育に時間がかかるかも」
ともあれこれで、合計800平方メートルの畑と、100平方メートルの果樹畑が生まれた。
これだけあれば多くのドワーフがここにやってきても食べていけるだろう。
「何が実るか楽しみですねー」
「そうだね。じゃあ早速水をあげようか」
今こそ水汲み場の出番だ。
井戸を操作して石のマスの中に冷たい地下水を流し込むと、ピオニーが小さな壷を使ってそれを畑へと撒いた。
「ジョウロが欲しいね」
「ドワーフさんたちが作ってくれるですよー」
「そうだね」
だいぶ不便だけれど小さな壷を使って、俺たちは新しい畑に水を撒いていった。
何が実るのか、本当に楽しみだ。
・
「ノアッ、できたぞ!」
「できたって……まさか溶鉱炉のこと?」
「うむっ、早く見にきてくれっ! あの間に合わせだからこその、機能美を!」
「材料、私が言われた通りに並べたんですよーっ。全然、どうやって使うのか、よくわかんなかったですけど!」
クラウジヤが後ろ歩きで笑いながらこちらを手招くので、俺たちも早足で彼女を追った。
溶鉱炉は家から大きく離れた場所に設置してもらった。煤煙や作業の騒音を考えると距離を取っておいた方がいい。
「え、これ?」
「どうじゃ!」
「どうって……シンプルだ」
「間に合わせじゃからな。仲間が集まったらちゃんとした物を用意するから安心せよ」
溶鉱炉は中央を空洞にした塔のような作りだった。
下部の一面だけ石材が抜き取られており、たぶんそこから溶かした金属やガラスを抽出するのだと思う。
「どう使うの、これ?」
「中に石炭と材料を入れて、火を付けるだけじゃ。融け出してきた物がここから外に出る」
「ほへー……」
「へー……」
「全然わかっておらんな、そなたら……?」
「へへへー、わかりません!」
「専門外だ。とにかく使えるならそれでいいと思うよ」
「ならば見せてやる」
ドワーフ男とクラウジヤの手で、倉庫から石炭が上部の空洞から内部へと投入された。
ちなみにピオニーはキューブをハーフサイズにできないので、細かい部分に俺が手に入れいった。
炉上部への階段を作り、下部の穴をハーフサイズの石材で小さくした。
炉に火と、倉庫付近に放置していた銅鉱石が入れられると、後はしばらく待つだけだそうだ。
そこで俺は作業場からさらに外に離れた辺りに深さ×2の穴を掘って、そこをゴミ捨て場に設定した。
一仕事終えたので溶鉱炉に引き返すと、クラウジヤが大きな胸を揺らして飛び込んできた。
「見よっ、ノア! あの銅色の輝きを! あれがブロンズインゴッドじゃ!」
「おお……」
「わぁーっ、本当に銅なのです! 石ころが銅になったですよ!?」
「これでジョウロとか作れる?」
「うむ、銅の大鍋だって作れるぞ! 武器としては今一つじゃが、純銅は加工しやすいからな!」
クラウジヤが誇らしげに胸を張った。
爽やかな笑顔だ。今日まで俺たちに頼りっぱなしだった分だけ、彼女たちはこの仕事が誇らしいのだろう。
「仲間が砂漠に珪砂を取りに行っておる。ガラスの精錬もワシらに任せよ」
「凄い凄いっ、銅のお鍋欲しいのです! 作って下さい、クラウちゃん!」
「うむっ、なんでも言うがよいぞ!」
「なら鍋とジョウロ、肉を焼くための大きな鉄板も欲しい」
「もしかしてオーブンとかも、できるですか……?」
「もちろんじゃ! 全部ワシらが作って今日までの借りを返してやるわっ、わはははーっ!」
「男ノ女神、ノア、銅像、作ル!」
「だから男なのに女神って矛盾してるだろ……。頼むからその呼び方は止めてくれ……」
こうしてこの日、開拓地に溶鉱炉と広大な畑、それに果樹が生まれた。
荒れ果てた大地に緑が生まれ、白と青色のプールが築かれ、煙を上げる溶鉱炉が設置された。
ならば次はドワーフの家を増設しよう。
いずれ多くのドワーフがここにやってくるなら、荒野の土も余っていることなので建てておいて損はない。
不平等がないように同じ構造の建物をもう2つ築くと、空に夕日が浮かんでいた。
「ノアちゃん、なんかくるですよ?」
「くるって何が?」
今日はがっつり働いた。水浴びを済ませて1階の屋上でゆっくりしていると、2階屋上にいたピオニーが彼方を指さした。
立て続けにクラウジヤが飛び上がった。
「あれは、あれはワシの仲間じゃ!!」
「はぐれた仲間か。見つかってよか――んなぁっ?!」
その日、はぐれたドワーフたちが開拓地に合流した。
その数57名。黒い群れとなって彼方を埋め尽くしたその人影たちは、物不足、住居不足、仕事不足を運んできた。
だがこの苦境を乗り越えれば、その先には超文化的な未来が待っている。
申し訳なさそうに視線を落とすクラウジヤを慰めて、俺とピオニーは彼女に笑った。
「そんな顔しないでよ」
「そうですよー。困ってるときはお互い様なのです。がんばりましょう、クラウちゃん!」
「ノア、ピオニー……ワシはそなたらになんだって捧げる……。だから頼む、あやつらの面倒をしばらくだけ見てくれ、頼む!」
「はい、任せて下さい。ふふふーっ、これだけいっぱい人がいれば、もう寂しくないですねー♪」
「それで君の気が済むなら好きにしたらいいよ」
その日から俺たちは食料を切り詰め、家を建て、それぞれができる精一杯の仕事で少しずつ状況を改善していった。
ああ、倉庫の食料が凄まじい勢いで消えてゆく……。
これから俺たちは一丸となって、人口増の帳尻を合わせていかなければならなかった。




