・開拓8日目 倉庫増築とGOZA 2/2
ドワーフの家にゴザを敷いて、真紅の夕日の下で水浴びを済ませて帰路についた。
気温が下がってきていたので満喫とまでは言えなかったけれど、2人がプールに夢中になるのも当然のことだった。
白で覆い尽くされた大理石のプールは、ただそこにいるだけで世界が光り輝いているように感じられて、それでいて文化的で、贅沢で、気持ちがとても落ち着いた。
「おーい、帰ったよ。あれ、まさかまだ2階なのかな……」
家に戻ると軒先や1階には誰もいなかった。
そこでさっき別れた2階に上がると、2人が無防備な姿をさらしてゴザの上で眠っているのを見つけた。
「夕飯……俺が作った方がいいのかな」
「ノアちゃん……ぐー、すぴー……」
しばらく寝顔を眺めた。だけど起きる様子がないので夕飯を作りに1階に降りて、スキレットでハムを焼いた。
暖炉には大きな壷が置かれていて、中にはスープの材料が入っていた。水を加えて、石炭に火を付けて、男ドワーフたちが帰ってくるまで赤い炎を見つめた。
「お帰り。早速だけど見せたい物があるんだ」
「タダイマ、ノア!」
「ノア、無理、スルナ!」
「平気だよ。それよりこっちきて」
ドワーフたちが物資と共に帰ってきた。
それを倉庫の前に残して、彼らをドワーフの家の中へと案内する。
「ゴザってやつを敷いてみたんだ。気に入らないなら撤去するけど、どうかな?」
「ノア……」
「ノア、好キ! 大好キダ!」
「女神! ノア、女神! キニイッタ!!」
「それはよかった。そんなに喜んでくれるとこうして作ったかいがあるよ」
ゴザに寝転がるドワーフたちは、彼らにはとても言えないけれど微笑んでしまうほどにかわいかった。
続いて俺は彼らをプールに招いた。
日が沈んで空が群青色に変わっていたけれど、まあまだ入れなくもない。というより、迷わずにドワーフたちはプールに飛び込んだ。
「ノア、ノア!」
「何?」
「アンマリ、見ツメルナ……」
「オ、オレタチ、変カ……?」
「いや、変っていうか、珍しいなって……」
服を脱いだドワーフたちは毛むくじゃらだった。
それが陽気にプールの浅瀬を走り回る姿は、どうしても物珍しくて目を引いた。
「それより寒くない?」
「平気ダ! オ、オボボボボッッ……?!」
「大丈夫カ!? ゴボボボボボッッ?!」
「え、ちょっと……もしかして君ら泳げない!? ちょ、ちょっと待って、今行く!」
服を脱ぎ捨てて、飛び込んで、ドワーフたちを深いところから助け出した。
「大丈夫?」
「ノ、ノア……命、恩人……ゲホッ」
「ごめん、深いところがあるって言い忘れてたよ」
「ノア……ノア……」
「何? どうしたの?」
「オ、オマエ……オ……男ノ子、ダッタノカーッ?!」
「ウ……。ショック、ダ……」
「君らね……。あっ、ちょっ、変なところ見るなよっ!?」
「デモ……デモ……。ノア、ナラ、男デモ、俺、イイ……」
「ノア、男ダケド、俺タチノ、女神!」
「いや、なんでだよ……。男の女神って何さ、メチャクチャ矛盾してるでしょ……」
ちなみにドワーフたちが入ったプールは、まるで長毛の犬を洗ったかのように毛まみれだった。
これでは明日、ピオニーたちが毛まみれになってしまう。
そこで俺はズボンだけはくと、彼らが自ら上がるのを待ってツルハシを水面に振り下ろした。
ビルド&クラフトの力を使って、水と不純物を分離できないかと試してみた。
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【インベントリ】
荒野の土 ×445 /9999999
大理石 ×27 /9999999
プールの残り水×10 /9999999 new!
ミミズ ×58 /9999
芋(野生種) ×33 /9999
??????の魂 ×1 /?
体毛 ×1 /9999 new!
汗 ×1 /9999 new!
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「うっ……」
どうやらこの力を使えば成分の分離ができるようだ。
ただ……やっておいて俺は激しく後悔することになった……。
手から人の汗とか体毛をたれ流すのは嫌だ……ミミズよりも嫌だ……。
明日は畑と、ゴミ捨て場を作ろう……。
「か、帰ろうか……」
「ノア、オレタチノ、採集! 見テクレ!」
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【ドワーフたちの採集物(2日分)】
木材 ×7
繊維 ×6
草 ×17
天然ガラス
×3
採集地・砂漠地帯を発見!
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【倉庫・石の倉庫】容量:177キューブ
木材 ×5 /9999999
→ ×12
繊維 ×17 /9999999
→ ×23
石炭 ×23 /9999999
アイアンインゴット ×81 /9999
木綿生地 ×45 /9999
天然ガラス ×3 /9999 new!
ハム ×45 /9999
干し魚 ×48 /9999
小麦粉 ×200/9999
砂糖 ×50 /9999
精製塩 ×49 /9999
オリーブ油 ×22 /9999
草 ×28 /9999
→ ×45
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すぐに倉庫へと運んで整理をした。
「採集、止メテ、溶鉱炉作ル。イイカ?」
「ガラス、ガラス作ロウ!」
「溶鉱炉って、そんな簡単に作れるの……?」
「難シイ……デモ、任セロ!」
「オレタチ、モット、ノアヲ、助ケタイ!」
それが本当ならばガラス窓を作れる。
家が一気に明るくなるってことだ。断る理由はなかった。
「わかった、必要な物があったら言って。明日からは採集を中断して、溶鉱炉造りをお願い」
「任セテクレ!」
「オレ、砂漠、砂、取ッテクル。石炭、モウ、アル!」
家に戻るとピオニーとクラウジヤが起き出してきた。
みんなが集まって、同じ食卓を囲んで、ピオニーがカットしたからか変にカクカクした野菜を具にしたスープを飲んで、塩辛いハムでお腹を満たした。
「今日はノアちゃんが真ん中ですよー。おやすみです、ノアちゃん」
「いや、何を勝手に決めてるし……」
「ワ、ワシが真ん中で寝よう……」
やがて寝る時間になった。
この時間になると、少し気持ちが浮ついてくる。
「そうしてくれると助かるよ」
「うむ……」
特に今日は遠くからとはいえ無防備な2人の姿を見てしまったせいで、いつも以上に意識してしまう。
「おやすみ、ノア」
「おやすみなさいです、ノアちゃん、クラウちゃんっ」
「おやすみ。明日もまたよろしくね」
けれど興奮よりも眠気の方が勝っていた。
ピオニーとクラウジヤのお喋りを子守歌に、重くなったまぶたを閉じると既に夢の中だった。
……そこで俺は底無しの飢餓の夢をまた見た。




