表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

50/64

・開拓8日目 大理石のプール - 完成 -

 開拓地に戻ると時刻は夕方前、暖色の日差しが南西の太陽から降り注いでいた。

 ワニ皮とワニ肉という臨時収入に驚いて、今日の晩ご飯が肉に決まったところで、俺たちは待ちに待ったプール工事に入った。


「見ていていいか?」

「いいにきまってるですよーっ。すぐに作っちゃますから見てて下さいね、クラウちゃんっ」


「うむ、本当にすぐに完成してしまうのだから見応えがある。はぁ、仲間に加わりたいのぅ……。ワシにも同じ力があればのぅ……」

「へへへー、いいでしょいいでしょー?」


「いいなぁいいなぁ……」

「クラウジヤ、君って……」


 ピオニーを前にすると幼児退行するところがあるよね。


「なんじゃ?」

「やっぱりなんでもないよ。じゃ、掘るね」


 まずは足下を18×9×3の容積分だけ掘る。

 目指すは縦14.4m、横7.2mのプールだ。その舗装には262個の大理石が必要となる。


「見て下さい、ドワーフさんが見つけてくれた大理石、こんなにピカピカなのですよーっ」

「おぉ……透けるような純白じゃな。これを道楽のために敷き詰めるなど……わははっ、なんという酔狂じゃ!」


「ノアちゃーんっ、まだですかーっ?」

「あと450回くらいつるはしを振ったら終わるよ」

「大仕事じゃの……。ノア、ワシらは夕飯の仕込みをしておく」


「今日は焼き肉とスープですよ、スープ! 綺麗なお水で美味しいスープを作るです!」


 合計486回。荒野の土をかき集め終わった頃には空が夕焼けに染まっていた。



 ・



「ホントに、ホントにホントにいいですかー?」

「いいよ……後は君に任せるよ……」


 病み上がりだというのに、今日は800回近くもつるはしを振ることになった。

 武門の生まれの俺だってさすがに身体が悲鳴を上げて、残りの作業をピオニーに任せることになった。


「お、おい……なぜわざわざ隣に」

「この方が話しやすいから」


 クラウジヤはさっきピオニーが出した大理石がよっぽど気に入ったのか、その上にちょこんと腰掛けていた。

 だから俺もその隣に大理石を1個配置して、彼女の隣に座った。


「ノアちゃんはー、そういう人なのですよー。ふふふー……」


 ピオニーは楽しそうだ。俺が掘ったプールの底に降りて、彼女は自由気ままに大理石でそこを舗装していった。

 分業でやるときは計画性が必要となるけれど、今はそうではない。


 彼女は本当に自由気ままに、置きたいところに大理石を配置していった。


「そこに敷くのか?」

「そうですよー。深いと、ドワーフさんたちが大変なことになるですよー」


「ああ……そっちのことを忘れてた……」

「みんな、ノアちゃんのためにお薬の材料を集めてくれたですよ。みんな、私たちの恩人ですよー」

「ノアはワシらの恩人じゃ、気にするな。それに……あの病気は、ワシらが原因かもしれん……」


 後半はピオニーには届かない声だ。

 クラウジヤは自分が原因だといまだに疑っているようだ。うつむくその横顔はやるせなそうに唇を噛んでいた。そんなクラウジヤの手を取ると、彼女が戸惑いに震えた。


「気にしないでよ。何かあったらまたピオニーが治してくれるんだから」

「さ、触るな……また、悪い病気が伝染ったらどうする……」


「嫌だ。それよりもあの白い輝きを見なよ」

「お、おぉ……」

「へへへー、どうですか、クラウちゃん!」


「美しい……。こんな美しいプールで泳いで、罰が当たったりしないものじゃろうか……」

「俺が考えていた設計よりこっちの方がいいね。君に任せて正解だったよ、ピオニー」


「そうでしょそうでしょ! 真ん中のここ、上って休めるようにしたのですよーっ」


 俺だあれだけ苦労したのに、舗装工事はあっという間だ。

 薄黄色の大地に白い輝きが広がっていって、やがて全てが白に埋め尽くされた。

 白く輝く大理石のプールの完成だった。



 ・



 最後は井戸からの取水だ。井戸の片方はクラウジヤ、もう片方が俺が担当して、ピオニーがプールサイドで水がそこにたまってゆく光景に目を輝かせていた。


「これ、結構重労働だな……」

「じゃが1度水を張ってしまえば、しばらくは使い回せよう。……臭くもなくなる」


「もしかしてさっきの根に持ってる……?」

「当然じゃ」


 ジト目を向けられた。


「でも臭いとは言っていないよ。そんなに嫌な匂いじゃない」

「か、嗅ぐなバカッ!!」


 作業の方はというと彼女の優勢だ。せめてこれくらいは手伝いたいと、凄い勢いでレバーを引き上げしていた。


「白くてピカピカのプールが夕日が射し込んでキラキラなのです。お、おぉ……冷たいのです……っ」

「今から軽く入るなら満水にしない方がいいかもね」

「そうじゃの。そろそろワシも我慢できんっ、早く入りたい!」


「え、ちょっと待って」

「なんじゃ?」


「何自分たちが真っ先に入ろうとしてるの?」


 人間がちっちゃいと言われるかもしれないけど、今回一番苦労したのは俺だ。

 ただでさえ今は夕方、一番風呂ならぬ一番プールを逃したらこの後はきっと寒い。


「ノアちゃんこそ、何いってるですかー?」

「うむ、そなたはワシらの恩人じゃ。じゃが、このプールにはワシらが先に入る」

「ははは、何を言っているのかな、君たちは? 俺がこの輝きを譲るわけないでしょ?」


 この問題は水着なりその代用品さえあればどうにかなっただろう。

 だがそんなものはどこにもなかった。


「あ、いいこと思い付いたですよー。ノアちゃんが、目隠しをして入ればいいですよー」

「それ、俺だけ裸で?」


「はい、そうですけどー?」

「そうですけどー、じゃないよ。遠慮する」


「そうですか。じゃあお言葉に甘えて、私たちが先に入るですねー」

「……うん、もうそれでいいよ」


 不毛なやり取りだ。長引けば長引くとほど後で入る方が寒くなる。

 俺はそろそろいいだろうとレバーから手を離した。ところでクラウジヤが妙に静かなような……。


「クラウジヤ、どうかした?」

「はっ?! な、なんでもないぞっ、何もワシは考えておらんっ、母に誓って何も不純なことは思い描いてなどおらんっ!!」


「そう」


 ……盛大な自爆にやさしい微笑みを送って、俺は自宅に引き返した。

 クラウジヤ。初めて出会った頃はどうかと思ったけど、彼女は勇ましいようで女性らしさを持った人だった。


――――――――――――――――――――――

【インベントリ】

 荒野の土   ×47  /9999999

      → ×533(プール造りの残土として入手)

 石材     ×3   /9999999

 大理石    ×300 /9999999

      → ×27(大理石のプールに)

 石炭     ×23  /9999999

 ミミズ        ×40 /9999

          → ×58(荒野と土と一緒に)

 芋(野生種)     ×14 /9999

          → ×33(荒野と土と一緒に)

 木綿生地       ×45 /9999

 ハム         ×45 /9999

 干し魚        ×48 /9999

 ??????の魂   ×1  /?

――――――――――――――――――――――


ストックが尽きました……。

もう少し先のクライマックスまで毎日投稿を続けていきたいところですが、もしかしたら投稿が間に合わない日があるかもしれません。



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ